AMTUL(アムツール)は、Awareness(認知)・Memory(記憶)・Trial(試用)・Usage(本格使用)・Loyalty(ブランド固定)の頭文字を取った購買行動モデルです。読み方は「アムツール」で、グロービス経営大学院のMBA用語集をはじめ国内の解説はこの表記でほぼ統一されています。AIDMAが1回の購買に至るまでを説明するのに対し、AMTULは購入後の使用と愛用までを段階に分け、各段階をアンケートの指標で数値化できる点に特徴があります。
この記事では、5段階の定義と調査指標、段階間の転換率からボトルネックを見つける計算手順、AIDMAとの違い、AMTULが合わない商材までを順に整理します。
まとめ:AMTULの5段階と使いどころの要点
- AMTULは「知っている」から「使い続ける」までを5段階に分けたモデルで、購入以降を試用(Trial)・本格使用(Usage)・ブランド固定(Loyalty)の3段階で扱う
- 各段階は再認知名率・再生知名率・使用経験率・主使用率・今後の購買意向率という調査指標に対応し、定量で追える
- 見るべきは各段階の率そのものより、段階から段階への転換率。競合と並べて差が最も大きい段階が予算の向け先になる
- 転換率は全体の率どうしを割るのではなく、同じ回答者のクロス集計で出す(試用者の中には純粋想起できない人もいる)
- 日用品・食品・医療用医薬品・サブスクなど反復購買の商材向き。住宅や自動車のような買い替え周期の長い商材、組織で購買するBtoBにはそのままでは合わない
- 「1970年代に水口健次氏が提唱」という説明が広く出回っているが、初出文献は公開資料で確認できない
以下、定義から測り方、使い分けの判断までを根拠とあわせて説明します。
AMTULの5段階:定義と対応する調査指標
グロービス経営大学院のMBA用語集は、AMTULを「認知(aware)、記憶(memory)、試用(trial)、本格的使用(usage)、ブランド固定(loyalty)」の略と説明し、各段階を「再認知名率」「再生知名率」「使用経験率」「主使用率」「今後の購買意向率」という指標で調査すれば、コミュニケーション目標の達成度を定量的に捉えられるとしています。段階と指標の対応は次のとおりです。
| 段階 | 消費者の状態 | 調査指標 | 質問の形 | 主な施策 |
|---|---|---|---|---|
| Awareness(認知) | 名前を見れば分かる | 再認知名率 | 「〇〇を知っていますか」 | 認知広告・PR |
| Memory(記憶) | 手がかりなしで名前が出る | 再生知名率 | 「△△といえば何を思い浮かべますか」 | 反復接触・カテゴリー想起の訴求 |
| Trial(試用) | 一度は買った・使った | 使用経験率 | 「〇〇を使ったことがありますか」 | サンプル・初回価格 |
| Usage(本格使用) | 主に使っている | 主使用率 | 「△△で主に使っているのはどれですか」 | 定期便・詰め替え |
| Loyalty(ブランド固定) | 今後も選ぶつもりがある | 今後の購買意向率 | 「次も〇〇を買いたいですか」 | 会員制度・継続特典 |
解説によってはUsageを「日常利用」、Loyaltyを「愛用」と訳しますが、指す段階は同じです。表の「質問の形」は指標の意味を示すための例で、実際の設問文は調査会社や目的によって変わります。設問の言い回しが変わると数値も動くため、前回調査や競合との比較は同じ設問で取った数値どうしに限ります。
AwarenessとMemoryを分ける理由:再認と再生の違い
AMTULは「認知」を2段階に分けているため、名前を見せれば分かる状態(再認)と、手がかりなしで名前が出てくる状態(再生)の、購買への近さの違いを測り分けられます。店頭で棚を見て選ぶ商品なら再認で足りますが、検索窓に入力したり家族に「買ってきて」と頼んだりする場面では、名前が頭に浮かばないブランドは候補に入りません。
マーケティング調査では、再認を助成想起、再生を純粋想起と呼ぶことが一般的です。算出式や設問の順序は純粋想起の定義と純粋想起率の計算方法、助成想起率の求め方と質問例で詳しく扱っています。純粋想起を先に聞くのは、先に選択肢リストを見せると回答者がその名前を覚えてしまい、再生知名率が水増しされるためです。
Trial・Usage・Loyaltyの違い:「買った」「使っている」「次も選ぶ」
グロービスの用語集が「試用、本格使用、ブランド固定というように購買後の段階分けをしている」点を特徴に挙げるとおり、購入以降を3段階に分けている点が、AMTULを他の購買行動モデルと分ける部分です。Trial(トライアル)は「試しに使う」という意味で、サンプル配布や初回限定価格で一度使った状態を指します。Usageはそのカテゴリーで主に使うブランドになった状態、Loyaltyは今後も同じブランドを選ぶ意向がある状態です。
試用から本格使用への移行率が低ければ、問題は広告ではなく製品体験か価格にあります。逆に主使用率は高いのに購買意向率が下がっているなら、競合への乗り換えが始まっている兆候です。購買意向は「次も買いたい」という態度の指標なので、実際の継続率や解約率と組み合わせて確かめます。態度と行動の両面からロイヤルティを測る方法は顧客ロイヤルティのNPS・JCSIでの測り方で整理しています。
段階間の転換率でボトルネックを見つける計算手順
AMTULの数値は、各段階の率を並べるだけでは判断に使えません。認知率80%と聞いても、それが高いのか低いのかは次の段階へどれだけ進んでいるかと比べて初めて分かります。そこで「ある段階に達した人のうち、次の段階に進んだ人の割合」=段階間の転換率を計算し、同じカテゴリーの競合と並べます。
2ブランドを比べた計算例(仮の数値)
同じ調査(回答者1,000人)で、ブランドAとブランドBの5指標が次のように出たとします。数値は手順を説明するための仮のもので、計算を簡単にするため全体の率どうしで割っています(実務での正しい出し方は次の節で説明します)。
| 指標 | ブランドA | ブランドB | 段階間 | Aの転換率 | Bの転換率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 再認知名率 | 80% | 50% | - | - | - |
| 再生知名率 | 30% | 25% | 認知→記憶 | 37.5% | 50.0% |
| 使用経験率 | 24% | 20% | 記憶→試用 | 80.0% | 80.0% |
| 主使用率 | 6% | 10% | 試用→本格使用 | 25.0% | 50.0% |
| 今後の購買意向率 | 4% | 8% | 本格使用→固定 | 66.7% | 80.0% |
右の3列は、下の段階の率を上の段階の率で割った値です(例:Aの試用→本格使用=6÷24=25.0%)。ブランドAは認知でBを30ポイント上回りながら、主使用率ではBの6割にとどまっています。差が最も大きいのは試用→本格使用(25.0%対50.0%)で、Aは一度使った人の4人に3人を定着させられていません。
この場合、Aが認知広告を積み増しても主使用率はほとんど伸びません。試用者が離れる理由(使用感、価格、詰め替えの入手しやすさなど)を調べる定性調査と、製品・価格の手直しに予算を回すのが筋です。ブランドBは反対に、転換率はどの段階でもA以上で、弱いのは入口の再認知名率だけです。Bにとっては認知の拡大がそのまま主使用者の増加につながります。
全体の率どうしを割ってはいけない理由
上の例は計算を簡単にするため全体の率どうしを割りましたが、実務ではこの近道は誤差の元になります。AMTULの段階は一方通行ではなく、純粋想起できないまま店頭で見かけて試した人、景品やサンプルで先に使った人が試用者の中に含まれるからです。全体の率で割ると、こうした「段階を飛ばした人」が分子に入り、転換率が実態より高く出ます。
正しくは、同じ回答者を段階ごとにクロス集計し、「再生知名あり」の回答者を分母にして、その中の使用経験者の割合を求めます。調査票の段階で5指標を同一回答者から取っておけば、集計は表計算ソフトの条件付き集計で済みます。段階を飛ばした人の割合そのものも、サンプリングや店頭施策の効き目を表す数値として別に記録しておくと次の施策判断に使えます。
提唱者と成り立ち:「1970年代・水口健次氏」説の確認状況
国内の解説記事の多くは、AMTULを「1970年代に経済評論家の水口健次氏が提唱した」と紹介しています。ただし、この説明に初出の書籍名や論文名を添えた資料は見当たりません。解説記事の間でも氏名の表記が「健次」と「健治」に割れており(国立国会図書館の書誌では「健次」)、同じ説明が出典を示さないまま転載されている可能性があります。
国立国会図書館の書誌データでは、水口健次氏(1932〜2008年)は『セールス・キャンペーン』(ダイヤモンド社、1972年)、『現代マーケティングの知識』(日本実業出版社、1976年)などのマーケティング書を著しています。1970年代に活動していたことは「1970年代に提唱」という説明と矛盾しませんが、どの著書でAMTULの名称と5段階を示したのかは、書誌情報からは特定できません。グロービスの用語集にも提唱者の記載はない状態です。この記事では「水口氏が提唱したと紹介されることが多い」までにとどめ、提唱年は断定しません。
海外にも、購入後を重く見る同じ発想のモデルがあります。英国のマーケティング研究者アンドリュー・エーレンバーグは1974年の論文「Repetitive Advertising and the Consumer」(Journal of Advertising Research 14巻2号)で、広告の作用を説得による購買ではなく「awareness/trial/reinforcement(認知・試用・強化)」の順序で説明しました。広告の主な役割は、すでに買ったブランドへの満足を強化することだという結論です。AMTULのUsage・Loyaltyに相当する段階を、広告効果の本体と見ている点で通じています。
出自は確かめられませんが、構造を並べると、AMTULはAIDMAと同じ「Memory」を持ち、購入(Action)にあたる部分を試用・本格使用・ブランド固定の3段階に分けた形をしています。広告が購買のきっかけを作る段階だけでなく、使い続けてもらう段階まで計測の対象を広げたのが、このモデルの設計上の要点です。
AIDMA・AISASとの違いと使い分け
AIDMAとの違い:購入で終わるか、購入後を3段階に分けるか
AIDMA(Attention・Interest・Desire・Memory・Action)は、広告に気づいてから購買に至るまでの心理を5段階で説明するモデルで、米国の広告実務家サミュエル・ローランド・ホールの著書『Retail Advertising and Selling』(1924年)に由来すると紹介されることが多いモデルです。段階の役割で並べると、両モデルの違いは購入の前後のどこを細かく見るかにあります。
| 役割 | AIDMA | AMTUL |
|---|---|---|
| 知る | Attention(注意) | Awareness(認知) |
| 関心・欲求 | Interest・Desire | 段階なし |
| 覚える | Memory(記憶) | Memory(記憶) |
| 買う | Action(行動) | Trial(試用) |
| 使い続ける | 段階なし | Usage(本格使用) |
| 選び続ける | 段階なし | Loyalty(ブランド固定) |
AIDMAは関心・欲求の心理を細かく分け、購入でモデルが終わります。AMTULは関心・欲求を独立した段階にせず、その分を購入後に回しています。新商品の発売広告のように「初回購入までの心理の動き」を設計したいならAIDMA、既存ブランドのシェアを維持・拡大するために「使い続けてもらえているか」を測りたいならAMTULが合います。
AISASなどネット時代のモデルとの関係
電通が2004年に提唱したAISAS(Attention・Interest・Search・Action・Share)は、検索と共有という行動を段階に加えたモデルです。AMTULとは目的が違い、AISASが「情報がどう探され、どう広がるか」を設計するのに対し、AMTULは「ブランドとの関係がどこまで深まったか」を測ります。両者は競合するものではなく、検索・共有の導線設計にAISAS、ブランド健康度の定点観測にAMTULと役割を分けて併用できます。
AIDMAとAISASの段階の対応はAIDMAとAISASの違いと5段階の対応関係、SIPS・ULSSAS・DECAXなどを含む購買行動モデル全体の選び分けは購買プロセスと購買行動フレームワークの使い分けで比較しています。
AMTULが向く商材・向かない商材の判断基準
向く商材:短い周期で同じカテゴリーを買い直すもの
グロービスの用語集はAMTULを「消費者のより長期的な態度の移り変わりに着目したモデル」と説明しています。AMTULの指標が意味を持つのは、消費者が数日〜数か月の周期で同じカテゴリーを買い直し、そのたびにブランドを選び直す商材です。シャンプーや洗剤などの日用品、飲料・菓子などの食品、化粧品、月額課金のサブスクリプションがこれにあたります。買い直しの機会が多いほど「試用はしたが主使用にならない」「主使用だが意向が落ちている」といった段階の差が売上に直結し、指標を追う意味が大きくなります。
医療用医薬品のマーケティングでも、医師の初回処方を試用、継続処方を本格使用に置き換えてAMTULで整理する解説があります(Medinew、インターフェックスWeekの解説など)。処方を決めるのが医師個人で、その継続が売上を左右するため、組織購買のBtoBとは違って反復購買の商材と同じ構造で扱えます。
向かない商材:買い替え周期が長いもの、組織で買うもの
住宅、自動車、大型家電のように買い替えが数年〜十数年に一度の商材では、AMTULは指標として機能しにくくなります。主使用率は「今持っているもの」をほぼそのまま映すだけで、購買意向率は次の購買機会が遠すぎて施策の効果を測れません。こうした商材では、情報収集から比較検討までを細かく分ける購買プロセスのモデル(購買プロセスの解説)のほうが施策に結びつきます。
法人向けの商材も、そのままでは当てはめません。BtoBでは利用者・決裁者・購買部門が別人であることが多く、「使っている人」と「次も選ぶ人」が一致しないからです。組織購買の段階は購買プロセスの解説の購買センターの章で扱っています。検討期間が長く計測できない情報収集が多いBtoBの扱いは、マーケティングファネルの4つの型のダークファネルの考え方が参考になります。
よくある質問
AMTULの読み方は?
「アムツール」と読むのが一般的です。グロービス経営大学院の用語集も「AMTUL(アムツール)」と表記しています。英字の頭文字を並べた略語で、綴りから「アムチュール」と読まれることもありますが、用語集や解説記事の表記は「アムツール」です。
マーケティングでいうトライアル(Trial)とはどういう意味?
トライアルは「試しに使うこと」、つまり初回の購入や試用を指します。AMTULでは3番目の段階で、調査では「使ったことがある」と答えた人の割合=使用経験率で測ります。サンプル配布、初回限定価格、無料体験期間はトライアルを増やすための施策です。ただしトライアルを増やしても、その後の本格使用への移行率が低ければ売上は積み上がりません。トライアル施策の効果は、使用経験率と主使用率の両方で確かめます。
AMTULとAIDMAの一番の違いは何ですか?
AIDMAは購入(Action)でモデルが終わるのに対し、AMTULは購入後を試用・本格使用・ブランド固定の3段階に分けている点です。AIDMAは初回購入までの心理の動きを設計するのに向き、AMTULは既存ブランドが使い続けられているかを測るのに向きます。AMTULは関心・欲求の段階を持たないため、広告表現の設計にはAIDMAのほうが細かく使えます。
AMTULは誰が提唱したモデルですか?
国内の解説では「1970年代に水口健次氏が提唱した」と紹介されることが多いものの、初出となる書籍や論文の名前を示した資料は確認できません。解説記事の間で氏名の表記(健次・健治)も割れています。社内資料や講義資料で提唱者を書く場合は、出典を確かめられるまで「〜と紹介されることが多い」と表現を留めておくのが安全です。
AMTULの数値はどうやって集めればよいですか?
消費者アンケートで、純粋想起(再生)→助成想起(再認)→使用経験→主使用→今後の購買意向の順に同じ回答者へ質問するのが基本です。純粋想起を先に聞くのは、選択肢を見せた後だと名前を思い出しやすくなり、再生知名率が高く出るためです。同じ回答者から5指標を取っておけば、段階間の転換率をクロス集計で正確に出せます。サブスクのように購買データがある商材では、使用経験と主使用を行動ログで置き換えることもできます。