純粋想起とは、商品カテゴリーだけを示して「◯◯といえば?」と尋ね、回答者がヒントなしで挙げたブランド名を数える測り方です。選択肢を見せて「知っているものを選んでください」と聞く助成想起とは、回答形式が違うだけでなく、記憶に課している作業そのものが違います。ここでは純粋想起の定義と読み方、助成想起・第一想起との線引き、純粋想起率の計算方法、そして助成想起率から純粋想起率を単純換算できない理由までを、調査会社の用語定義と学術論文にあたって整理します。
まとめ:純粋想起の要点
- 純粋想起は自由回答方式でブランド認知を聞く技法で、日経リサーチの用語集では「再生」、選択肢方式の助成想起は「再認」と対応づけられている。
- 記憶研究でいう想起(retrieval)は再生と再認の両方を含む上位の過程で、純粋想起と助成想起はどちらもその下位にある。
- 純粋想起率は「ブランド名を挙げた人数÷回答者数」、第一想起率は「最初に挙げた人数÷回答者数」で求める。
- 助成想起・純粋想起・第一想起の3スコアは、同一カテゴリー内のブランドを横に並べると密接だが強く非線形に関係する(Laurent, Kapferer & Roussel, 1995)。片方から片方を一定の係数で換算することはできない。
- Google広告のブランドリフト調査の「広告想起」は広告を見聞きした記憶を問う指標で、カテゴリーからブランド名が出るかを問う純粋想起とは対象が異なる。
純粋想起の意味と「想起」の語義
純粋想起の定義:カテゴリーだけを示して自発的に挙がるブランド名
日経リサーチの調査・統計用語集「純粋想起」は、純粋想起を調査票設計の技法として次のように定義しています。「構造化された質問紙調査における回答方法は大きく分類すると、自由回答と選択回答という2方式がある。ブランド・商品の認知や派生イメージを質問する際には、自由回答方式を純粋想起(再生)といい、選択肢方式を助成想起(再認)と呼んでいる」(出典は日経リサーチ編(2011)『進化する企業ブランド』日経事業出版センター)。
つまり純粋想起は「認知度が高い状態」を指す言葉ではなく、聞き方の名前です。「炭酸飲料といえば、思いつくブランド名をすべてお答えください」と自由記述欄を置けば純粋想起、ブランド名を20個並べて「知っているものをすべて選んでください」と聞けば助成想起になります。同じ回答者に同じ日に聞いても、この2つは別の数字になります。
「想起」の読み方と記憶研究での位置づけ
想起は「そうき」と読みます。脳科学辞典「想起・誤想起(記憶)」は英語名を retrieval とし、「記憶は大きく分けて記銘・保持・想起の3つの過程から構成されていると考えられており、想起は保持されている情報を適切なタイミングと場所で『思い出す』(取り出す)過程のことを指す」と説明しています。記銘で覚え、保持でためておき、想起で取り出す、という3段階の最後にあたります。
同辞典は想起の課題を2種類に分けており、再生は「保持されていた情報を、口頭や筆記、あるいは行為によって生成する課題」、再認は「提示された情報が記憶として保持されているものかどうかを参照する課題」と定義されています。日経リサーチの用語定義と重ねると、純粋想起は再生課題、助成想起は再認課題にあたります。マーケティングの現場では「想起=ヒントなし」という使い方をしがちですが、記憶研究の用語としての想起はヒントの有無を問わない上位概念で、助成想起も想起の一種です。この違いを押さえておくと、心理学の教科書と調査会社の資料を並べて読んだときに混乱せずに済みます。
英語表記:unaided recall・spontaneous awareness・top of mind
純粋想起の英語表記は文脈によって揺れます。調査票の技法として書くときは unaided recall、ブランド認知の指標として書くときは unaided awareness や spontaneous awareness が使われます。Laurent, Kapferer & Roussel の論文(Marketing Science, 1995)は「There are three classical measures of brand awareness: aided, spontaneous, and top-of-mind.」として、助成(aided)、自発(spontaneous)、第一想起(top-of-mind)の3つを並べています。学術文献を読むときは spontaneous awareness が純粋想起にあたる、と覚えておくと対応がつきます。
なお unaided は「援助なしの」という意味の形容詞で、aided(助成された)の対義語です。日本語の「純粋」をそのまま pure と訳すより、英語の資料は unaided recall や spontaneous awareness で検索すると探しやすくなります。
助成想起・第一想起との違い
助成想起との違い:再生課題か再認課題か
助成想起は選択肢やロゴを提示して「知っているか」を確かめる聞き方です。同じ対象者・ブランドを同じ条件で測る場合、手がかりのある助成想起率は、一般に純粋想起率より高くなる傾向があります。広く知られてはいるが購買場面で名前が出てこないブランドは、助成想起率が高く純粋想起率が低い、という形で現れます。
| 指標 | 質問形式 | 記憶課題 | 英語表記 |
|---|---|---|---|
| 純粋想起 | 自由回答 | 再生(recall) | unaided recall |
| 助成想起 | 選択肢提示 | 再認(recognition) | aided recall |
| 第一想起 | 自由回答の1番目 | 再生(recall) | top of mind |
助成想起率の計算方法や、選択肢リストの作り方・設問の並べ方といった調査票側の論点は、助成想起とは?純粋想起・第一想起との違いと助成想起率の求め方・質問例で扱っています。
第一想起(トップ・オブ・マインド)の定義と回答順序
第一想起は、純粋想起で挙がったブランドのうち最初に書かれたものを指します。別の調査で測る独立した指標ではなく、純粋想起の自由回答の順序を見れば同じデータから取り出せます。英語では top of mind、調査票では「最初に思い浮かんだブランド名を1つだけお答えください」と1問目に置き、続けて「ほかに思いつくものをすべて」と聞く二段構えが一般的です。
純粋想起で挙がるブランドの集合と、実際に購入を検討する候補集合は区別します。購買場面ではカテゴリー名以外の手がかりも働くため、純粋想起だけで検討候補を特定することはできません。この候補集合の考え方はマーケティング戦略で知っておきたい重要な概念:エボークトセットとは何か?意味と定義をわかりやすく徹底解説で整理しています。また、ブランドがどれだけ目立って思い出されやすいかを表す概念はセイリエンスとは?顕著性という意味と、ブランド・PMBOK突出モデル・脳科学での使い分けで解説しています。
純粋想起率・第一想起率の計算方法
純粋想起率・第一想起率の算出式と計算例
純粋想起率は、そのブランド名を挙げた人数を回答者数で割った割合です。第一想起率は、そのブランド名を最初に挙げた人数を回答者数で割ります。
- 純粋想起率(%)= ブランド名を挙げた人数 ÷ 回答者数 × 100
- 第一想起率(%)= ブランド名を最初に挙げた人数 ÷ 回答者数 × 100
回答者500人のうち、あるブランド名を挙げた人が90人、そのうち1番目に挙げた人が35人なら、純粋想起率は18.0%、第一想起率は7.0%になります。分母は「カテゴリーの購入者」に絞るのか「調査対象者全員」にするのかで数字が変わるため、時系列で追うなら分母の定義を固定しておきます。
分母より厄介なのが、自由回答の表記ゆれをどう束ねるかです。同じブランドでも正式社名・略称・商品名・カタカナと英字の混在で書かれるため、集計前に名寄せのルールを決めておかないと、担当者が変わるたびに数字が動きます。日経リサーチは純粋想起データについて「自由回答のテキストデータ、定性データであるため、分析手法を確立することが問題になる」と指摘し、再生率の高いブランドに限ってイメージを質問する、といった次の調査への橋渡しとして使う設計を挙げています。純粋想起は取るだけなら簡単ですが、使える数字にするには集計設計の手当てが要る指標です。
広告想起(ad recall)との取り違え
「想起を測る」と言うとき、純粋想起ではなく広告想起を指している場合があります。Google広告のブランドリフト調査のうち「広告想起」は、広告を見聞きした記憶を測る指標で、カテゴリーからブランド名が自発的に出るかどうかを測るものではありません。同ヘルプは測定できる指標として広告想起、認知度、関連付け、比較検討、好意度、購入意向、カスタム指標を挙げ、1回の調査で選べるのは最大3つとしています。
設問文を見ると違いがはっきりします。英語版ヘルプに載っている広告想起の設問は「Which of these brands have you seen online video advertising for recently?」、認知度の設問は「Which of these brands have you heard of?」で、どちらもブランド名の候補を並べて選ばせる形式です。つまりブランドリフト調査の「認知度」は、日経リサーチの分類でいえば選択肢方式=助成想起にあたります。広告接触の効果は測れますが、この設問からは純粋想起率は求められません。
費用も軽くはありません。Google広告ヘルプ「ブランドリフト調査を設定する」の「10日間の最小予算額の要件」では、設問1問あたりの最小予算が国区分ごとに定められており、日本はオーストラリアやカナダと同じ区分で15,000米ドルです。ブランドリフト調査の指標と実施手順はブランドリフト調査とは?指標・調査方法・媒体別の費用と実施手順を解説にまとめています。
助成想起率から純粋想起率への単純換算の限界
助成想起・純粋想起・第一想起の非線形な関係
助成想起率しか手元にないとき、経験則の係数をかけて純粋想起率を見積もりたくなります。これは成り立ちません。Laurent, Kapferer & Roussel の「The Underlying Structure of Brand Awareness Scores」(Marketing Science, 14(3_supplement), G170-G179)は、助成・自発・第一想起の3指標について「The relationships between these measures, across a set of brands in the same product category, are close, but highly nonlinear.」と述べています。関係は密接だが、強く非線形だという指摘です。
ここでいう非線形とは、同一カテゴリー内のブランドを比較したとき、助成想起率と純粋想起率の関係を一本の直線では表せないということです。このブランド間の関係だけでは、あるブランドの助成想起率が1ポイント上がったときに、純粋想起率がどれだけ変わるかは判断できません。したがって「助成想起率が60%なので純粋想起率は20%前後だろう」といった推定は、根拠のある換算ではありません。純粋想起率の実測値が必要なら、純粋想起の設問で直接測定します。モデルによる推定値を使う場合は、対象カテゴリーへの適合性と予測誤差を別途検証する必要があります。
ロジスティック変換とRaschモデルが示す読み方
同論文は、各指標にロジスティック変換をかければ、すべての製品クラスでこの関係を線形化できるとしています。そのうえで、回答者が認知設問に答える過程を、もともと学生が試験問題に正答する様子を記述するために提案されたRaschモデルで記述できると説明しています。論文はこのモデルの対応関係として、ブランドのセイリエンス(目立ちやすさ)は学生の学力に、認知設問の難しさは試験問題の難易度にあたると述べています。第一想起がいちばん難しい問題、助成想起がいちばんやさしい問題ということになります。
ここで注意したいのは、この関係が「同一製品カテゴリー内の複数ブランドを横に並べたとき」のものとして示されている点です。1つのブランドの数字が半年でどう動くかという時系列の予測に、同じ関係をそのまま持ち込んでよいとは述べられていません。自社の助成想起率の推移から純粋想起率の推移を逆算する、といった使い方は論文の射程外です。
論文は経営上の含意として、「閉じた(locked)」カテゴリーと「開いた(open)」カテゴリーの診断を挙げています。上位ブランドが第一想起を占めて動かないカテゴリーなのか、まだ入れ替わる余地があるカテゴリーなのかで、純粋想起率を上げる取り組みの費用対効果は変わります。ただし、上位ブランドの第一想起率が長期間変わらないことだけで、「閉じた」カテゴリーと判定することは避けます。
純粋想起を高める打ち手と、追わなくてよい場面
純粋想起を上げるとは、カテゴリーを思い浮かべた瞬間に自社名が出る状態をつくることです。そのための整理として、Ehrenberg-Bass Instituteのカテゴリーエントリーポイント(CEP)の考え方があります。同研究所の解説はCEPを「the cues that category buyers use to access their memories when faced with a buying situation」(購買場面に直面したカテゴリー購買者が、自分の記憶にアクセスするために使う手がかり)と定義し、あわせて「Mental Availability is about being easily thought of in buying situations, while Physical Availability is about being easy to buy.」として、思い出されやすさ(メンタルアベイラビリティ)と買いやすさ(フィジカルアベイラビリティ)を分けています。「ジムのあとにすぐ飲みたいとき」「経理担当者なしで請求書を出したいとき」といった、購買を考え始める具体的な場面を洗い出し、その場面と自社ブランドの結びつきを増やすという発想です。露出量を増やすより、どの場面と結びつけるかを決めるほうが先に来ます。
一方で、純粋想起率を単独のKPIに据えるべきでない場面もはっきりしています。第一に、純粋想起のデータは自由回答のテキストで、日経リサーチが指摘するとおり分析手法の確立自体が課題になる定性データです。名寄せルールが固まっていない段階で目標値だけ設定すると、集計の揺れを施策の成果と読み違えます。第二に、前章のとおり助成想起率と一対一で動かないため、純粋想起率だけを見て認知施策全体の良し悪しを判断すると、カテゴリー構造の違いを無視した評価になります。第三に、広告接触の効果を測りたいのであれば広告想起のほうが目的に合っており、広告想起を純粋想起率の代用として扱うことはできません。
純粋想起率を継続測定する際は、分母と名寄せルールを固定します。四半期や半期は測定間隔の例であり、施策の実施時期や購買周期に合わせて設定します。短期の施策評価には助成想起や広告想起を使い、純粋想起率は「カテゴリー内での自社の位置がどう動いたか」を見る物差しとして置くのが現実的です。市場での位置そのものを数字で押さえたい場合は、マーケットシェア(市場シェア)とは?計算式と相対的市場シェアの求め方・調べ方で扱っているシェア指標と並べて見ると判断しやすくなります。
よくある質問
想起の読み方と意味は?
「そうき」と読みます。脳科学辞典は英語名を retrieval とし、記銘・保持・想起という記憶の3過程のうち、保持されている情報を適切なタイミングと場所で思い出す過程と定義しています。マーケティングで使う純粋想起・助成想起は、いずれもこの想起の下位にある測り方です。
純粋想起の英語表記は?
調査票の技法としては unaided recall、ブランド認知の指標としては unaided awareness または spontaneous awareness が使われます。Marketing Science誌の論文では spontaneous が用いられています。pure recall という表記は一般的ではないため、英語で文献を探すときは unaided か spontaneous で引きます。
単純想起は純粋想起と同じ意味ですか?
日経リサーチの調査・統計用語集には「純粋想起」「助成想起」の項目はありますが、「単純想起」という項目は立っていません。「単純想起」という表記だけでは質問形式を確定できないため、調査票や報告書では用語集にある「純粋想起」に揃えておくと解釈のぶれが起きません。
認知度と純粋想起はどう違いますか?
ブランド認知度は、助成想起や純粋想起などで測定します。日経リサーチも、ブランド認知を質問する方法として選択回答と自由回答を区別しています。純粋想起はブランド名の候補を示さずに名前が出てくるかを測るため、同じ条件で測った助成想起率より低くなる傾向があります。知られてはいるが思い出してもらえない状態を見つけられるのが、純粋想起を別に測る理由です。
連想と想起はどう違いますか?
想起は保持していた情報を思い出す過程を指します。連想はある対象から別の事柄が引き出される結びつきを指し、調査ではブランド名を提示して「どんなイメージが浮かぶか」を聞く形で測ります。このブランド連想の設問では、純粋想起がカテゴリーからブランド名を引き出すのに対し、ブランド名からイメージを引き出します。日経リサーチは、トヨタ自動車から連想された言葉を分類する例を示しています。