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ブランドポートフォリオとは?4つのブランド体系と役割分類、統廃合の判断基準

ブランドポートフォリオとは?4つのブランド体系と役割分類、統廃合の判断基準

ブランドポートフォリオとは、1つの企業が持つすべてのブランドの集合と、その間の役割分担・関係のことです。単にブランドを一覧にした表ではありません。どのブランドに投資を集め、どのブランドが別のブランドを支え、どれを畳むかを決める設計図にあたります。この記事では、デービッド・アーカーの枠組み(ブランド関係スペクトルと役割分類)を軸に、ユニリーバとP&Gがブランド数を削ったときの公表数値と、顧客の頭の中でポートフォリオを測る方法までを整理します。

まとめ:ブランドポートフォリオの要点

ブランドポートフォリオを設計するときの問いは2つに集約できます。1つは「ブランド同士をどれだけ結び付けるか」です。アーカーとヨアヒムスターラーは2000年の論文で、親ブランドを全面に出す「ブランデッド・ハウス」から、ブランド同士を切り離す「ハウス・オブ・ブランズ」までを、サブブランドと保証ブランドを挟んだ4類型の連続体(ブランド関係スペクトル)として示しました。もう1つは「どのブランドが何の役を担うか」で、アーカーは戦略ブランド・リンチピン・ブランド・シルバー・ブレット・キャッシュ・カウの役割を区別しています。

実務で効くのは足し算より引き算です。ユニリーバは2000年2月に発表した「Path to Growth」で、約1,600あったブランドを400のリーディング・ブランドへ集約する計画を進めました。2003年の年次報告では、計画どおり進んでいるとしたうえで、400ブランドが売上の93%を占める(1999年は75%)と開示しています。P&Gも2014年から約12カテゴリー・70〜80ブランドへの集約を進め、2016年10月には「10カテゴリー・約65ブランド」に到達したと発表しました。ブランドを増やす前に、売上の大半を生んでいないブランドへ資源が分散していないかを確かめるのが先です。

ブランドポートフォリオの定義とPPM・ブランド体系との違い

アーカーは2004年の著書『Brand Portfolio Strategy』(日本語版は阿久津聡訳『ブランド・ポートフォリオ戦略』ダイヤモンド社、2005年7月)で、ブランドポートフォリオ戦略を6つの次元で記述しています。ポートフォリオ(どのブランドを持つか)、製品定義上の役割、ポートフォリオ上の役割、ブランドの適用範囲、ポートフォリオ構造、ポートフォリオのグラフィックス(ロゴや表示の統一)です。つまり「何ブランドあるか」だけでなく、ブランドがどこまで製品を覆い、互いにどう見えるかまでが対象に入ります。

PPM(事業ポートフォリオ)との違い

名前が似ているため混同されやすいのがPPM(プロダクトポートフォリオマネジメント)です。PPMは市場成長率と相対的市場シェアで事業や製品を区分し、資金をどこからどこへ回すかを決める財務寄りの道具です。ブランドポートフォリオは、顧客が各ブランドをどう認識し、ブランド間でイメージがどう移るかを扱います。同じ事業を両方で見ると結論がずれることがあります。たとえばPPMでは撤退候補の製品でも、そのブランドが看板ブランドの品質イメージを支えているなら残す理由があります。

ブランド体系(ブランドアーキテクチャ)との関係

日本語では「ブランド体系」「ブランドアーキテクチャ」も同じ文脈で使われます。ブランド体系はポートフォリオの「構造」の部分、つまり親ブランドと子ブランドの階層や名前の付け方を指すことが多く、ブランドポートフォリオはそれに各ブランドの役割と資源配分の判断を加えた、より広い概念です。アーカーの日本語版も副題を「事業の相乗効果を生み出すブランド体系」としており、体系はポートフォリオ戦略の中に含まれる位置づけです。

ブランド関係スペクトルの4類型と9つの下位区分

アーカーとヨアヒムスターラーの論文「The Brand Relationship Spectrum」(California Management Review 第42巻第4号、2000年、8〜23頁)は、ブランド同士の結び付きの強さを4類型と9つの下位区分で並べました。下の表では、上の行ほど親ブランドが前に出て、下の行ほど個々のブランドが独立します。

類型 下位区分 親ブランドの見え方
ブランデッド・ハウス 同一アイデンティティ/別アイデンティティ 全面に出る
サブブランド マスターブランドが主導/共同主導 主役か共同主役
保証ブランド 強い保証/名称連結/象徴的な保証 脇から品質を保証
ハウス・オブ・ブランズ シャドー・エンドーサー/無関係 表に出ない

ブランデッド・ハウスとサブブランドの違い:購入理由を担うブランド

ブランデッド・ハウスは、1つの親ブランド名で複数の事業や製品を覆い、個々の製品には説明的な名前しか付けない形です。論文は2000年時点の例として、キャタピラー、ヴァージン、ソニー、ナイキ、コダックを挙げています。広告投資が1つの名前に積み上がるため、新製品を出すたびに認知を一から作らずに済みます。サブブランドは、親ブランドに固有名を足して特徴を加える形で、論文はソニーのウォークマンを「画期的な新しさ」を示すサブブランドの例にしています。「マスターブランドが主導」なら購入理由は親ブランドの側にあり、「共同主導」なら親子の両方が購入理由になります。どちらも親ブランドの評判に頼るため、1つの製品の問題が親ブランドを通じて他の製品の評価にも及ぶリスクを抱えます。

保証ブランドとハウス・オブ・ブランズの違い:親ブランドを表に出す度合い

保証ブランドは、独立した製品ブランドの脇に企業名などを添えて品質を裏書きする形です。論文はマリオットがコートヤードを保証する例を挙げ、保証は「コートヤードがそのブランドの約束を果たす」ことを組織として請け負う意味だと説明しています。保証の強さで3つに分かれ、マクドナルドのエッグマックマフィンやマックナゲットのように共通要素で一族を作る「名称連結」もここに入ります。ハウス・オブ・ブランズは、ブランドごとに名前も顧客も切り離す形で、論文はP&Gを「80を超える主要ブランドを、P&Gとも互いともほとんど結び付けずに運営している」例としています。親会社の存在を表示しないものの、関係が多くの消費者に知られている状態を論文は「シャドー・エンドーサー」と呼び、完全に無関係なものと区別しています。

論文はシャドー・エンドーサーの例としてトヨタのレクサスを挙げ、高級車を別の名前で出したことが、それまでのトヨタ車との違いを示したと説明しています。レクサスは1989年9月に米国でLS 400とES 250の販売を始め、日本では2005年8月30日に開業しました。

ポートフォリオ上の役割:戦略ブランドからキャッシュ・カウまで

類型が「ブランド同士の距離」を決めるのに対し、役割は「どのブランドに資源を割くか」を決めます。アーカーが挙げる役割のうち、資源配分の判断に直結する3つを抜き出すと次のとおりです。1つのブランドが複数の役割を兼ねることもあります。

役割 担うこと 投資の考え方
戦略ブランド 現在・将来の主力、リンチピン等 成功に必要な資源を優先配分
シルバー・ブレット 他ブランドのイメージを支える 波及効果で評価
キャッシュ・カウ 安定収益で他を支える 投資を抑えて利益を回収

アーカー自身がプロフェット社のブログに書いた「What Are Your Strategic Brands?」(2014年7月28日)は、戦略ブランドを「組織にとって戦略的に重要なもの」とし、評判・差別化・ロイヤルティ・売上・キャッシュフローの源泉だと説明しています。同じ記事は戦略ブランドを、現在の主力、将来の主力、リンチピン、ニッチの4種に分けています。リンチピン・ブランドは、売上を直接生むというより、将来の売上と市場地位に間接的に影響するブランドで、ヒルトンの会員プログラム「Hilton Rewards」が例に挙がっています。売上規模だけで並べると、リンチピンやシルバー・ブレットは真っ先に削減候補に見えるため、役割を先に決めてから数字を見るのが順序です。

ブランドを足す・残す・削る判断基準

役割を割り振ると、どの役にも当てはまらないブランドが残ります。それが統廃合の候補です。ここでは、大手2社が実際に開示した数値から判断の目安を読み取ります。

ユニリーバとP&Gが開示したブランド削減の数値

企業 時期 開示内容 出典
ユニリーバ 2000年2月発表 約1,600→400ブランドの集約計画 2003年 Form 20-F
ユニリーバ 2003年報告 計画どおり進行・400ブランドが売上の93% 同上
P&G 2014年〜 約12カテゴリー・70〜80ブランド 2015年1月 8-K
P&G 2016年10月 10カテゴリー・約65ブランド 2016年10月 8-K

ユニリーバの開示で注目すべきは、400のリーディング・ブランド以外は合わせても売上の7%にとどまっていた点です。同社は同じ報告で、残すブランドへの投資を大きく増やしたこと、売上10億ユーロ超のブランドが戦略開始時の4つから12に増えたことも報告しています(Unilever Annual Report & Accounts and Form 20-F 2003)。削減で浮いた資源がそのまま大型化を生んだとまでは書かれていませんが、投資先を絞った時期と大型ブランドが増えた時期は重なっています。P&Gは2016年10月、美容事業の一部をコティへ移管し終えた際に、2年前に始めた製品ポートフォリオの整理がこれで実質的に完了したと説明しています(2015年1月の8-K、2016年10月の8-K)。

新ブランドを独立させる5つの理由と事業の支え

アーカーとヨアヒムスターラーの論文は、親ブランドに寄せるか独立させるかの判断項目を図にまとめています。独立ブランドに寄せる理由として挙げているのは、独自の連想を作り所有する、新しい別物の提供物であることを示す、避けたい連想から切り離す、顧客とブランドの結び付きを保つ・獲得する、販売チャネルの競合に対処する、の5つです。チャネルの例では、ロレアルが百貨店や専門店向けにランコムを取っておき、ドラッグストアやディスカウント店で売るブランドとは分けていると説明しています。そのうえで論文は、新しいブランド名を事業が支えられるかを別の問いとして立てています。5つの理由のどれかに当てはまっても、認知をゼロから作る投資を続けられないなら、サブブランドか保証ブランドで既存の認知を借りる案と、必要な投資額を並べて比べるべきです。投資の見通しが立たないまま独立ブランドを増やすことはしません。

カニバリゼーションの見分け方

同じ顧客の同じ購買場面を自社の複数ブランドが取り合っている状態が、ブランド間のカニバリゼーションです。見分けるときは、売上の合計ではなくブランド間の顧客の重なりを見ます。たとえばブランドAの購入者がBに乗り換えているだけなら、販売数量の合計は増えません。その場合は、数量・単価・利益の変化と、2ブランドを維持するための追加の広告・販促費を分けて比べます。競合への顧客流出を防ぐための意図的な重なり(いわゆる対抗ブランド)なのか、設計なしに生じた重なりなのかを区別し、後者なら統合の候補にします。

顧客の目でポートフォリオを測る2つの方法

社内の組織図や売上表でポートフォリオを描くと、顧客がブランド同士をどう結び付けているかが抜け落ちます。これを補う手法が、学術側から2つ提案されています。

購買に関わる全ブランドを描く分子モデル(Lederer & Hill, 2001)

クリス・レデラーとサム・ヒルは、Harvard Business Review 2001年6月号(第79巻第6号)の論文「See Your Brands Through Your Customers’ Eyes」で、ブランドポートフォリオを分子のように描く方法を示しました(日本語版はDIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2002年3月号「分子モデルのブランド・ポートフォリオ」)。特徴は、自社が所有しているかどうかに関係なく、顧客の購買判断に関わるブランドをすべて地図に入れる点です。提携先のブランドや、自社製品に組み込まれた部品ブランドも対象になります。

各ブランドは5つの問いで位置づけます。購買判断にとってどれだけ重要か、影響はプラスかマイナスか、ポートフォリオ内でどの市場ポジションにあるか、他のブランドとどう結び付いているか、自社がどれだけ管理できるか、の5つです。最後の「管理できるか」が独自の視点で、影響は大きいのに自社で管理できない外部ブランドが、リスクとして浮かび上がります。

想起データによるブランド間の影響方向の測定(桝山・阿部, 2007)

東京大学大学院経済学研究科のディスカッションペーパー「顧客ベースのブランド・ポートフォリオ分析」(桝山純・阿部誠、CIRJE-J-175、2007年4月)は、ブランド想起とブランドイメージの調査データから、ポートフォリオ内の影響関係を数値化する尺度を提案しています。想起データからは、あるブランドが他から影響を受けやすい度合い(受信力)と他へ影響を与える度合い(発信力)、ポートフォリオ内での重要度(関連性)を求めます。イメージデータからは、ブランドの組ごとの類似度(統一性)を求めます。論文はこの枠組みをソニーのポートフォリオに当て、どのプロダクトブランドがコーポレートブランドのイメージにどう影響しているかを分析しました。

この論文では、ブランドiの名前を手掛かりとして示し、回答者が自由に連想したブランドを集計します。ブランドiを聞いてブランドjを想起した場合、影響の向きは「jがiに影響を与えている」と解釈されます。想起されやすいブランドほど影響力が大きい、という考え方です。売上表では同じ規模に見える2ブランドでも、他のブランドを手掛かりにしたときに想起されやすい方が、影響を与える側にあたります。ただし、想起の強さだけでリンチピンやシルバー・ブレットと決めることはできず、事業上の貢献やイメージの移り方を合わせて確かめる必要があります。こうした測定はブランドの資産価値を測るブランドエクイティの調査と同じ設問設計で組めるため、既存のブランド調査に設問を足す形で始められます。

ブランドポートフォリオ管理が失敗する典型パターン

類型と役割を決めても、運用で崩れることがあります。よく起きるのは次の状態です。

  • 事業部ごとにブランドを作り、全社で役割を決めていない:広告予算が限られていると、ブランドの数だけ予算が割れ、1ブランドあたりの投資が認知を維持できる水準を下回るおそれがあります。全社でブランドの新設を承認する仕組みが無いと起こりやすくなります。
  • 売上だけで削減候補を選ぶ:小さくても看板ブランドのイメージを支えるシルバー・ブレットを削ると、看板ブランドの評価が下がることがあります。削る前に、どのブランドの想起やイメージに影響しているかを確認します。
  • 企業名を全製品に出したまま品質管理が追いつかない:ブランデッド・ハウスでは、すべての製品が同じ名前を背負うため、1製品の事故が企業名を通じて他の製品の評価にも及ぶリスクがあります。企業名を前面に出すコーポレートブランディングを選ぶなら、品質管理と危機対応も全社で統一する必要があります。

逆に、ブランドが1つで、当面は2つ目を出す予定も無い段階では、ポートフォリオ戦略の議論はまだ早いと言えます。その段階では、1つのブランドのプロダクトブランディングと、名前・ロゴなどのブランドエレメントを固める方が先です。2つ目のブランドや、価格帯・チャネルの違う製品ラインを検討し始めた時点で、上のスペクトルのどこに置くかを決めます。

よくある質問

4つのブランド戦略とは何ですか?

ブランド体系の文脈では、アーカーとヨアヒムスターラーが2000年に示したブランデッド・ハウス、サブブランド、保証ブランド、ハウス・オブ・ブランズの4類型を指すことが多いです。親ブランドを前面に出すか、個々のブランドを独立させるかの度合いで並んでいます。

ブランドポートフォリオとPPMの違いは何ですか?

PPMは市場成長率と相対的市場シェアで事業を区分し、資金の配分を決める手法です。ブランドポートフォリオは、顧客の認識の中でブランド同士がどう結び付き、どのブランドが他を支えているかを扱います。PPMで撤退候補でも、他ブランドのイメージを支えているなら残す判断があり得ます。

ブランド体系とブランドポートフォリオは同じ意味ですか?

重なりますが同じではありません。ブランド体系(ブランドアーキテクチャ)は親子関係や名前の付け方といった構造を指し、ブランドポートフォリオはそこに各ブランドの役割と投資配分の判断を加えた、より広い概念です。

ポートフォリオとはどういう意味ですか?

もとは書類入れを意味する言葉で、金融では保有資産の組み合わせ、デザインでは作品集を指します。ブランドポートフォリオでは、企業が保有するブランドの組み合わせを1つの全体として管理する考え方を表します。

ブランドはいくつ持つのが適正ですか?

一律の適正数はありません。判断の材料になるのは、各ブランドに固有の役割があるか、顧客がブランド同士の違いを区別できているか、各ブランドを維持する広告・品質管理の資源を確保できるか、の3点です。参考までに、ユニリーバの2003年の開示では、400のリーディング・ブランドが売上の93%を占めていました。

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