HubSpot Marketing Hubは、無料のHubSpot CRMの上に、メールの自動配信・セグメント・リードスコア・広告連携といったMA(マーケティングオートメーション)の機能を足す有料製品です。エディションはStarter・Professional・Enterpriseの3つで、料金は利用者の席数だけでなく「マーケティングコンタクト」の件数でも変わります。本記事では2026年10月時点の公式製品カタログをもとに、エディションごとのMA機能の境界、マーケティングコンタクト課金の仕組みと切り替えの反映時期、初年度費用の目安、採用を見送るべき組織の条件を整理します。MAという仕組みの一般論や他製品との比較は別記事に譲り、ここでの解説対象はMarketing Hubという製品で何ができるかという点です。
まとめ:Marketing Hubのエディション選びとコンタクト課金で決まる判断基準
結論から書くと、Marketing HubはProfessionalからMAとして機能します。Starterで自動化できるのはフォーム送信後やメール配信の「最大10アクション」までで、条件分岐を重ねたナーチャリングのシナリオは組めません。シナリオを書いて見込み客を育てる目的なら、最初からProfessionalを前提に予算を組むべきです。
費用を左右するのはシートよりマーケティングコンタクトの件数です。メールや広告の対象にするコンタクトだけを課金対象にし、それ以外は非マーケティングとして無料で保持できます。ただし対象から外す変更は翌月以降にしか反映されず、ティアは契約更新日まで下げられません。名刺や展示会リストを一括でマーケティングコンタクトにする運用は、そのまま年額の上振れにつながります。BtoCの大量配信や、配信リストの大半が商談につながらない組織では、この課金単位が合わない場面が出てきます。
無料CRMとMarketing Hubの関係、マーケティングコンタクトという課金単位の意味
Marketing Hubを理解する前提は、フォームや一斉メールの基本機能が無料CRMの側にもあるという点です。MAという製品分類そのものの仕組みと運用体制はマーケティングオートメーション(MA)とは?仕組み・機能・料金と運用体制で解説しています。
無料ツールとStarterの違いはフォーム後の自動化10アクションの有無
無料のHubSpot CRMでも、フォーム作成、ランディングページ、メール配信、ライブチャットまでは使えます。Starterで加わるのは、HubSpotロゴの非表示、複数ステップのフォーム、そしてフォーム送信後やメール配信の自動化です。HubSpotの製品・サービスカタログでは、Starterのフォーム自動化とメール自動化はいずれも「最大10アクション」と書かれています。
10アクションで足りるのは「資料請求したらお礼メールを送り、担当者に通知する」程度の処理です。開封した人と開封しなかった人で次のメールを分ける、といった分岐はProfessionalのワークフローの領域になります。Starterは「無料版のブランド表示を外し、配信の手作業を少し減らす版」と捉えると、期待とのずれが起きません。
マーケティングコンタクトと非マーケティングコンタクトの区別と上限
2020年10月21日以降の契約では、Marketing Hubの料金はマーケティングコンタクトの件数で決まります。カタログの定義では、マーケティングコンタクトはマーケティングメールの送信と広告のターゲティングができる相手、非マーケティングコンタクトはどちらもできない相手です。
非マーケティングコンタクトは無料で、マーケティングと合わせた総数で1,500万件まで保持できます。含まれるマーケティングコンタクトはStarter 1,000件、Professional 2,000件、Enterprise 10,000件。営業が個別にやり取りするだけの取引先や、サポート窓口に問い合わせてきた顧客は非マーケティングのままでよく、課金対象はメルマガやナーチャリングを送る相手だけに絞れます。
非マーケティングへの変更は翌月反映、超過分は即時請求という仕様
この区別には時間差があります。マーケティングコンタクトへの変更は即時に反映される一方、非マーケティングへ戻す変更は「翌月の初めか契約更新日の早いほう」まで反映されません。さらに、契約したコンタクトのティアは更新日まで引き下げられず、ティアを超えた時点で超過分が即時に請求されます。
実務で起きやすいのは、展示会で集めた5,000件のリストをインポート時にまとめてマーケティングコンタクトにしてしまう事故です。HubSpotのナレッジベースによると、インポート時にチェックを入れるとその全件が対象になり、マーケティングフォームの送信者も既定で自動的にマーケティングコンタクトになります。気づいて戻しても、その月と契約期間のティアは上がったままです。
エディション別のMA機能境界と上限値(2026年10月時点)
ここからはStarter・Professional・Enterpriseのエディション別に、MA機能の境界と上限値を比較します。数値はすべて2026年10月4日に取得した製品カタログのMarketing Hub表の記載で、HubSpotは上限を随時見直すため、契約前に最新版で確認してください。
Professionalで解禁されるワークフロー300件・リードスコア・ABMの範囲
MAとしての運用を変える機能を、エディション別に表にまとめました。
| 機能 | Starter | Professional | Enterprise |
|---|---|---|---|
| フォーム・メールの自動化 | 10アクションまで | 無制限 | 無制限 |
| オムニチャネルのワークフロー | なし | 300件・10チーム | 1,000件・300チーム |
| アクティブなCRMセグメント | 50個 | 1,200個 | 2,000個 |
| リードスコア | なし | 5個 | 50個 |
| カスタムレポート | なし | 100件 | 500件 |
| 接続できる広告アカウント | 3個 | 無制限 | 無制限 |
| 広告へ同期するリスト | 2個 | 5個 | 15個 |
重みは均等ではありません。もっとも差が大きいのはワークフローで、メール・広告・チャットをまたいで「この行動をした人に次はこれを送る」という分岐を組めるのはProfessionalからです。次がセグメントの条件で、Starterは条件にフォーム送信・コンタクトの項目・メールの反応しか使えず、Webサイトの閲覧ページで絞り込むことができません。ABM(アカウントベースドマーケティング)用の会社単位のプロパティとテンプレート、Salesforceとの標準連携もProfessional以上の記載です。
メール送信上限はコンタクト枠の5倍・10倍・20倍という月間の天井
一斉メールの月間送信数には、契約したマーケティングコンタクトのティアに連動した上限があります。暦月あたりでStarterはティアの5倍、Professionalは10倍、Enterpriseは20倍です。Professionalで2,000件の契約なら月20,000通が天井になります。
週1回のメルマガを全件に送るだけなら、2,000件×4回で8,000通と枠に収まります。ナーチャリングのワークフローから送るメールもマーケティングメールとして数えられるため、配信の設計とティアの見積もりは同時に行ってください。A/Bテストとスマートコンテンツ(受信者の属性で本文を出し分ける機能)はProfessional以上、承認フローと受信者ごとの送信頻度上限はEnterpriseだけの機能です。
Enterpriseでしか使えない行動イベント起点の自動化と統制の機能
Enterpriseだけに載っている機能は、配信の量より、データの扱いと統制にかかわるものが中心です。
- 行動イベントとリードスコアを起点にしたワークフロー:Webやアプリでの特定の操作をきっかけに自動化を走らせる
- カスタムオブジェクト:10定義・合計1,000,000レコードまで。契約・購入履歴・イベント参加など、コンタクト以外のデータを配信条件に使える
- 収益ベースのマルチタッチアトリビューション:受注金額にどの施策が効いたかを7つのモデルで配分する
- メールの承認フローと送信頻度上限:配信前に上長の承認を挟み、同じ人へ送りすぎない
- 標準サンドボックス1つ:本番と切り離してワークフローの変更を試せる
コンタクト作成までのアトリビューションはProfessionalにもあります。Enterpriseとの差は、評価の軸が「リードを何件生んだか」か「売上にいくら効いたか」かという点です。
AIエージェントとHubSpotクレジットで変わるエディションごとの差
カタログには、ブログやランディングページを作るコンテンツエージェント、ナーチャリングメールを1通ずつ個別化するナーチャーエージェントなど、ベータ版を含むAI機能が並んでいます。これらの多くは「HubSpotクレジットを消費する」と書かれた機能です。Marketing Hubの公式価格表では、毎月の付与クレジットはStarter 500・Professional 3,000・Enterprise 5,000と定められています。ベータ版の機能は提供範囲が変わりやすく、エディション選びの根拠にはしないほうが安全です。
マーケティングコンタクト数で試算するMarketing Hubの初年度費用
料金の決まり方の詳細はHubSpotの料金|7つのHubの構造とシート・コンタクト二層課金の決まり方に譲ります。ここではエディション選びの判断材料として、含まれるコンタクト数の範囲で使う場合の初年度費用だけを示します。
年額前払いと必須オンボーディング費用で比べた初年度総額の目安
2026年10月4日時点の公式価格表の表示額(税抜)で計算しました。Starterは1シートあたり、Professional・Enterpriseはアカウントあたりの月額です。
| エディション | 月額(年額前払い) | 含まれる範囲 | オンボーディング | 初年度合計 |
|---|---|---|---|---|
| Starter(3シート) | 840円/シート | コンタクト1,000件 | 不要 | 30,240円 |
| Professional | 96,000円 | コアシート3・コンタクト2,000件 | 360,000円 | 1,512,000円 |
| Enterprise | 432,000円 | コアシート5・コンタクト10,000件 | 840,000円 | 6,024,000円 |
StarterとProfessionalの差は約50倍です。この差を正当化できるのは、ワークフローによる分岐とリードスコアで、営業に渡すリードの質と量が変わる組織に限られます。Starterは月次契約にすると1シート2,400円に上がります。Enterpriseは年額契約が前提の提示で、432,000円は最低額です。
コンタクト追加が5,000件・10,000件単位で増える価格表の読み方
含まれる件数を超えると、コンタクトを単位ごとに追加購入します。カタログのドル建て表では、Professionalは5,000件ごと、Enterpriseは10,000件ごとの価格で、件数が増えるほど単価が下がる段階制です。Professionalなら2,001〜22,000件の帯で5,000件あたり月250ドル、Enterpriseなら10,001〜50,000件の帯で10,000件あたり月100ドルとなっています。
円建ての追加単価は日本語の価格表に明記がなく、見積もりで確認する必要があります。ここで押さえるべきは単位の粗さです。Professionalで2,001件目に達した時点で5,000件分の追加が発生するため、2,100件のリストでも7,000件分の料金になります。
受託開発の視点で見るMarketing Hubを採用する条件と見送るべき組織
ここからは、MAの導入と連携開発を受ける立場から見た判断です。機能表だけでは見えない、契約後に効いてくる条件を言い切ります。
Professionalで足りる組織と、Enterpriseへ上げるべき4つの兆候
BtoBで、配信対象が数千件規模、ナーチャリングを担当者1〜2名で回す組織はProfessionalで足ります。Enterpriseへ上げるべきなのは、次の兆候が1つでも出た場合です。
- サイト内やアプリ内の特定の操作をきっかけに、即時に配信やスコア加算を走らせたい
- 契約や購入履歴など、コンタクトと別の単位のデータを配信条件に使いたい
- どの施策が受注金額に効いたかを経営に説明する必要がある
- 事業部ごとに配信担当が分かれ、配信前の承認と送りすぎの抑止が要る
2番目をProfessionalのままカスタムプロパティで代用すると、購入のたびにコンタクトの項目を上書きすることになり、2回目以降の履歴が消えます。購入履歴で出し分けたい組織は、この時点でEnterpriseにするか、基幹側でセグメントを作って同期するかを決めてください。
Marketing Hubを採用しないほうがよい組織の条件と代替の考え方
次の条件に当てはまるなら、Marketing Hubは選びません。
1つ目は、BtoCで数万〜数十万件に配信する組織です。課金がマーケティングコンタクトの件数に比例するため、会員数が伸びるほど年額が膨らみ、メール配信専用のサービスと比べて割高になります。BtoBとBtoCでツールの課金体系がどう効くかはMAツールのBtoBとBtoCの違いで整理しています。
2つ目は、商談管理にSalesforceを使い続け、Marketing Hubとの連携範囲がカスタムオブジェクトに及ぶ組織です。カタログ上、Salesforceのカスタムオブジェクトを同期できるのはEnterpriseだけで、向きもSalesforceからHubSpotへの一方向に限られます。この構成ならSalesforce側のMA製品を並べて比較するのが筋で、製品構成はSalesforce Marketing Cloudとは?3系統の製品構成と料金で解説しています。
3つ目は、ブログやホワイトペーパーを作る体制が無い組織です。配信するコンテンツが月に1本も増えないなら、ワークフローを組んでも送るものがありません。人員と配信量の目安はMAツールは中小企業でも回るのか?リード数と人員で見る導入条件にまとめています。
Marketing Hub導入前に決めるコンタクト区分とワークフロー設計の手順
エディションが決まったら、設定に入る前に決めておくことがあります。ここを飛ばすと、マーケティングコンタクトの件数だけが増え、ワークフローは動かないまま更新を迎えます。
マーケティングコンタクトに設定する経路を4つに絞る運用ルール
マーケティングコンタクトになる経路は、手動作成、インポート、フォーム送信、ワークフローの4つです。導入時にそれぞれの扱いを決めておくと、ティアの上振れを防げます。
- 手動作成:営業が登録する取引先は原則として非マーケティングにする
- インポート:配信の同意が確認できたリストだけにチェックを入れる
- フォーム送信:問い合わせフォームなど配信目的でないフォームは自動設定を切る
- ワークフロー:スコアが一定を超えた人だけをマーケティングに切り替える(Professional以上)
4番目の運用にすると、課金対象を「反応がある見込み客」に限定できます。同時に、マーケティングコンタクトを変更できる権限を持つユーザーを管理者側で絞っておくと、現場の判断で件数が増える事態を避けられます。
最初のワークフローは資料請求後の追客と休眠の掘り起こしの2本から
Professionalの300件という上限は、導入初期には関係ありません。最初に作るのは、資料請求や問い合わせの直後から数週間かけて事例と料金の情報を送る追客のワークフローと、半年以上反応のないコンタクトに再接触する掘り起こしのワークフローの2本で十分です。前者で営業に渡す条件(スコアや特定ページの閲覧)を決め、後者で配信停止とマーケティングコンタクトからの除外までを自動化します。
営業側がSales Hubを使う場合は、営業に渡した後の追客をシーケンスで受け持つ分担になり、境界はHubSpot Sales Hubとは?エディション別の機能境界と営業シートの選び方で扱っています。コンタクト区分の設計からワークフローの初期設定、基幹システムやSalesforceとの連携までを一括で相談したい場合は、HubSpot導入支援サービスで要件整理から対応しています。
よくある質問
HubSpot Marketing Hubの検討段階でよく寄せられる質問に、2026年10月時点の公式カタログの内容をもとに回答します。
Marketing HubとHubSpot CRMは何が違いますか?
HubSpot CRMは無料で使える顧客データベースで、コンタクト・会社・取引の管理に加え、フォーム、ランディングページ、メール配信の基本機能も含まれます。Marketing Hubはその上に載る有料製品で、フォーム送信後の自動化、セグメント、Professional以上ではワークフローやリードスコア、カスタムレポートを加えます。顧客データはどのHubからも共通で参照されるため、Marketing Hubを契約してもデータを移し替える必要はありません。
HubSpotのMA機能は無料版やStarterでも使えますか?
無料版とStarterでも、フォームとメール配信、それに続く簡単な自動化は使えます。ただしカタログ上、Starterの自動化はフォーム後とメール配信のそれぞれ最大10アクションまでです。メール・広告・チャットをまたいで分岐するワークフローとリードスコアはProfessional以上の機能のため、見込み客の行動に応じてシナリオを組み、育成するMAの使い方をするならProfessionalが前提になります。
マーケティングコンタクトは何件で契約すればよいですか?
メールを送るか広告の対象にする相手だけを数えます。非マーケティングコンタクトは総数1,500万件まで無料で保持できるため、顧客データの全件を数える必要はありません。過去1年にメールを開封した件数や、配信同意を確認できた件数を基準にすると見積もりが外れにくくなります。非マーケティングへ戻す変更は翌月以降の反映で、ティアは契約更新日まで下げられないため、少なめに始めて必要に応じて追加するほうが安全です。
Marketing HubとSales Hubは両方契約する必要がありますか?
必須ではなく、Marketing Hub単体で契約できます。営業が少人数で、マーケティングから渡したリードの状況を取引レコードで確認できれば足りる場合は、Marketing Hubに含まれるコアシートと無料CRMの取引管理で運用できます。営業担当者ごとにメールの自動追客や売上予測を使いたくなった時点で、Sales Hubの追加を検討してください。
Marketing HubとSalesforceは併用できますか?
Professional以上には標準のSalesforce連携があり、オブジェクトあたり最大500項目をマッピングして同期できます。連携できるSalesforce組織は同時に1つまでで、Salesforceのカスタムオブジェクトの同期はEnterpriseのみ、それもSalesforceからHubSpotへの一方向です。マーケティングはHubSpot、商談管理はSalesforceという分担はよくある構成ですが、どちらを顧客データの正とするかを先に決めないと、重複と上書きが起きます。
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