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PPM分析とは:4象限の意味とやり方・経産省4象限フレームワークとの違い

PPM分析とは:4象限の意味とやり方・経産省4象限フレームワークとの違い

PPM分析とは、複数の製品や事業を「市場成長率」と「相対的市場シェア」の2軸で4つに区分し、どこで稼いだ資金をどこへ回すかを決めるための枠組みです。ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)が1970年に発表した考え方が原型で、日本では応用情報技術者試験でも繰り返し出題されてきました。一方、実際の日本企業の事業ポートフォリオ管理では、経済産業省が別の2軸を提示しており、PPMをそのまま持ち込むと判断を誤ります。

ここでは2軸の正確な定義、4象限それぞれの打ち手、作図までの6ステップ、経済産業省の「4象限フレームワーク」との違い、BCG自身が2014年に示した前提の変化、そして限界と使いどころまでを順に見ていきます。

まとめ:PPM分析の2軸と4象限の要点

PPMの縦軸は市場成長率、横軸は相対的市場シェア(自社シェアを最大競合のシェアで割った値)です。単なる市場シェアではありません。4象限は花形・金のなる木・問題児・負け犬に分かれ、金のなる木で生んだ資金を問題児や花形へ回すのが基本の資金循環になります。

ただし原典は「花形は儲かる象限」とは書いていません。BCGのブルース・ヘンダーソンは花形について「利益は計上されるが、自らが必要とする資金をすべて生み出すとは限らない」と述べており、応用情報技術者試験の正解肢もこれと同じ立場を取っています。また第4象限の呼称は原文では「dogs」ではなく「pets」でした。

日本企業の実務では、経済産業省が2020年7月31日に公表した「事業再編実務指針」が、資本収益性(ROIC)と成長性を軸とする「4象限フレームワーク」を標準的な仕組みとして示しています。取締役会に上げる事業評価はこちらが前提です。PPM分析は、その前段で調べる対象を絞り込む道具と位置づけると役割が整理できます。

PPM分析とは何か:市場成長率と相対的市場シェアという2本の軸

PPM(製品ポートフォリオ分析とも呼ばれます)は、多角化した企業が事業間で経営資源を再配分するための分析手法です。個々の製品を採点する道具ではなく、ポートフォリオ全体の資金の出入りを設計するための道具と考えてください。BCGのブルース・ヘンダーソンが1970年に発表した論考「The Product Portfolio」では、その前半で「Four rules determine the cash flow of a product.(製品のキャッシュフローは4つのルールで決まる)」と宣言され、利益率・成長・シェアの関係が定式化されています。

4つのルールは、利益率と創出資金が市場シェアの関数であること、成長には資産増加を賄う資金投入が要ること、高シェアは獲得するか買うかしかないこと、そしてどの製品市場も無限には成長しないこと、の4点です。この4つを組み合わせると、2軸4象限の図が自然に導かれます。BCGの沿革ページは、この枠組みが最盛期にフォーチュン500企業のおよそ半数で使われたと記しています。

横軸に置くのは単純な市場シェアではなく相対的市場シェアである

解説記事の多くは横軸を「市場シェア」とだけ書きますが、原典が置いているのは相対的市場シェアです。自社シェアが20%でも、最大競合が50%なら相対シェアは0.4で劣位、最大競合が10%なら2.0で首位という具合に、同じ20%でも位置づけが正反対になります。ヘンダーソンが「Margins and cash generated are a function of market share.(利益率と生み出される資金は市場シェアの関数である)」と書いたときのシェアは、この競合との相対関係を指しています。

経済産業省の事業再編実務指針(本文PDF)も、PPM分析について「『市場成長率』と『相対的な市場シェア』の2軸で評価することが一般的とされ」と脚注で明記しました。応用情報技術者試験の平成30年春期問67も選択肢を「相対的市場占有率」で統一しており、公的な出題・行政文書のいずれも相対シェアで揃っています。問題冊子と解答例の配布元は、IPAの平成30年度 過去問題ページです。市場全体に対する絶対シェアで作図すると、首位企業しかいない業界と激戦区が同じ位置に並んでしまい、打ち手の優先順位が崩れます。シェアと競争地位の関係をもう一段掘るなら、クープマンの目標値と市場シェア理論で目標シェアの水準を確認しておくと、境界線の引き方に根拠を持たせられます。

縦軸の市場成長率は境界線を10%で固定せず業界の水準に合わせる

縦軸の市場成長率は、対象事業が属する市場全体の年間成長率です。境界線を10%に置く解説が多く見られますが、これは業界の平均的な成長水準に応じて動かすべき相対的な線であり、どの市場にも通用する固定値ではありません。市場全体が年20%規模で伸びる局面のある領域で10%を境界にすれば、ほぼ全事業が上半分に集まって区分が機能しなくなります。自社の主要市場の成長率中央値や、資本コストを上回るために必要な成長率を境界に置き、その根拠を社内で明文化しておく方が有効です。

4象限(花形・金のなる木・問題児・負け犬)の意味と基本の打ち手

2軸の高低の組み合わせで、事業は次の4象限に分かれます。原典の英語表記と、日本の試験で使われる呼称を併記しました。

象限 成長率 相対シェア 原典の表記 資金の性格 基本の打ち手
花形 高 高 star 流入も流出も大 シェア維持へ投資継続
金のなる木 低 高 cash cows 流入超過 資金を他象限へ供給
問題児 高 低 question marks 流出超過 集中投資か撤退の二択
負け犬 低 低 pets ほぼ中立 撤退・売却を検討

資金の流れは「金のなる木 から 問題児・花形へ」が基本形です。金のなる木は市場が伸びておらず追加投資の必要が小さいため、高いシェアから安定した資金が入ります。応用情報技術者試験の平成30年春期問67は「PPMにおいて,投資用の資金源として位置付けられる事業はどれか。」と問い、正解を「市場成長率が低く,相対的市場占有率が高い事業」としました。

花形を儲かる象限と呼ぶ誤解と、資金創出効果の実際の位置づけ方

花形を最上位の象限として説明する記事は少なくありませんが、原典の記述は違います。ヘンダーソンは「The high share, high growth product is the ‘star.’ It nearly always shows reported profits, but it may or may not generate all of its own cash.(高シェア・高成長の製品が花形である。ほぼ常に会計上の利益は計上されるが、自らが必要とする資金をすべて生み出すとは限らない)」と書きました。成長市場でシェアを守るには増産設備も販促も要るため、帳簿上の黒字と手元資金の余裕は別物と考えてください。

応用情報技術者試験の平成21年秋期問69も同じ線を引いています。「プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)における”花形”を説明したものはどれか。」に対する正解肢は「市場成長率,市場占有率ともに高い製品である。成長に伴う投資も必要とするので,資金創出効果は大きいとは限らない。」でした(問題冊子はIPAの平成21年度 過去問題ページから入手できます)。原典と国家試験の正解が揃ってこの点を強調している以上、社内資料で花形を「安泰な稼ぎ頭」と説明するのは避けるべきです。花形は資金を食う象限であり、市場成長が止まったときに金のなる木へ移行できるかどうかが分岐点になります。

BCG原典の第4象限はdogsではなくpetsと書かれている

日本語では「負け犬」が定着し、英語表記も「dogs」と紹介されるのが通例です。しかしBCGが公開している1970年の原文に「dog」「dogs」という語は出てきません。dogsという呼称が誤りというより、原典の時点では使われていなかった、ということです。該当箇所は「Products with low market share and slow growth are ‘pets.’(低シェア・低成長の製品は”pets”である)」であり、続けて「The product is essentially worthless, except in liquidation.(清算する場合を除けば、その製品は本質的に無価値である)」と書かれています。BCGの沿革ページも4象限を「question marks, stars, pets (often represented by a dog), and cash cows」と並べ、犬の図像は後から添えられた表現だと分かる書き方をしました。

そして原文は次の一文で締めくくられます。「Pets are not necessary. They are evidence of failure either to obtain a leadership position during the growth phase, or to get out and cut the losses.(petsは必要ない。成長段階でリーダーの地位を取れなかったか、撤退して損失を止められなかったかの、いずれかの失敗の証拠である)」。負け犬を「調子の悪い事業」として温存する使い方は、原典の主張とは逆向きです。この象限に事業が並ぶこと自体が、過去の投資判断か撤退判断のどちらかが遅れたという診断結果だと読むのが本来の使い方になります。

PPM分析のやり方6ステップと全社の資金収支を検算する進め方

プロダクトポートフォリオ分析の作図までの手順は次の順で進めます。データ収集の段階で精度にこだわりすぎると着手できなくなるため、最初は粗い推計で全体像を描き、意思決定に効く事業だけ精緻化する進め方が現実的です。

  1. 分析単位を決める(製品単位か、事業部単位か、SBU単位か)
  2. 各単位の売上と、対象市場の規模・成長率を集める
  3. 最大競合のシェアを調べ、自社シェアを割って相対シェアを出す
  4. 縦軸・横軸の境界線を決め、その根拠を文書に残す
  5. 売上規模を円の大きさにして各単位を配置する
  6. 象限ごとの資金の出入りを合計し、全社で資金が回るか検算する

市場規模と成長率は、業界団体の統計、調査会社のレポート、上場競合の有価証券報告書のセグメント情報から拾います。競合が非上場でシェアを取れない場合も、出荷台数や店舗数など公表されている代替指標で順位を確定させれば、相対シェアが1.0を超えるかどうかの判定はできます。

見落とされやすいのが最後の検算です。配置して終わりにすると、金のなる木が生む資金より問題児と花形が必要とする資金の方が大きい状態に気づけません。全社の資金収支が合わない配置図は、分析が完了していないと考えてください。時間軸での移動を読むには、各事業が製品ライフサイクルのどの段階にいるかを重ねると精度が上がります。段階ごとの需要と利益の動きはプロダクトライフサイクルの4段階で確認できます。

経済産業省の4象限フレームワークが置く資本収益性と成長性の軸

ここが一般的なPPM解説と実務の食い違う点です。経済産業省は2020年7月31日に「事業再編実務指針 ~事業ポートフォリオと組織の変革に向けて~(事業再編ガイドライン)」を公表し、事業ポートフォリオマネジメントを適切に行うための手立てとして「資本収益性と成長性を軸として事業評価を行うための標準的な仕組みである『4象限フレームワーク』」を挙げました。市場成長率と相対シェアではなく、資本収益性と成長性が軸になります。要点だけを追うなら同指針のエグゼクティブ・サマリーが短くまとまっています。

同指針は脚注でPPMを名指しし、両者の関係を整理しています。PPM分析は市場成長率と相対的な市場シェアの2軸で評価するのが一般的で、別途その他の分析結果も用いて組織能力やコアコンピテンシー、事業間シナジー等を考慮し、自社が「ベストオーナー」になれるかどうかを判断することが想定されている、とした上で、「本ガイドラインにおける『4象限フレームワーク』は、より包括的な分析ツールとして『成長性』を評価する際の考慮要素として、自社が『ベストオーナー』かどうか(自社で当該事業を抱えておいた場合の持続的な成長の実現可能性)という観点も勘案することを想定している」。違いは軸の入れ替えではなく、成長性の評価にベストオーナーの視点を組み込んだ点にあります。なお同指針は注68で「4象限」という呼称についてX軸とY軸のプラスマイナスは特定していないと断っており、PPMのように高低が固定された図とは性格が異なります。

資本収益性の指標はROICで、成長性はオーガニックグロース基準

資本収益性の指標として指針が挙げるのはROIC(投下資本利益率)です。「資本コストとの比較可能性や事業部門レベルへのブレークダウンのしやすさ等の観点から、一般にROIC…が優れていると考えられる」とされ、事業ごとにROICと資本コストを比較する手順が示されました。成長性については、買収による増加分や事業切出しによる減少分を含まない「オーガニックグロース」ベースでの算出が望ましいとされています。買収で見かけの成長率を作った事業を、自力で伸びた事業と同じ位置に置かないための条件です。

事業別のROICを出すには事業セグメントごとの貸借対照表が要りますが、指針はここで実務的な妥協を明示しています。「制度会計レベルの正確性を求めることは必ずしも必要ではなく、あくまでも管理会計として『ざっくり』で捉えればよいという考え方で、まずは整備するという姿勢が重要である」。有利子負債と株主資本の割付けで社内調整が長引く場合は、ROIC算出に最低限必要な資産側の割付けから始める方法も併記されました。計算式や分解の考え方はROIC(投下資本利益率)の計算式とROICツリーにまとめています。

撤退の目安は単年度の赤字でなく継続的・構造的な資本コスト割れ

4象限のうち、成長性も資本収益性も低い旧来事業がDです。指針はDについて「一般に、成長が実現できる環境になく、継続的・構造的に資本コスト割れの状態となっていることが基本的な目安となると考えられる」としています。単年度の赤字ではなく、資本コストを上回る構造にあるかどうかで判定する点が肝心で、指針は「会計上赤字ではない事業であっても資本コストを上回る構造にない場合もこれに含まれる」と補足しました。黒字だから継続、という判断はここで否定されます。

残るAは足下の資本収益性は低いが成長性は高い新規の成長事業、Bは成長性も資本収益性も高い現在の主力事業です。

金のなる木に近いC事業でも黒字のうちの切出しが合理的になる場合

さらに踏み込んでいるのがCの扱いになります。Cは資本収益性は高いが成長性は低い成熟事業、つまりPPMでいえば金のなる木に近い位置にあたります。指針は「現時点ではCに位置づけられる事業であっても、中長期的な視点や事業規模の観点からは自社に抱えておくことが必ずしもベストでない場合もあり、その場合には黒字であっても早めに切り出し、(事業売却等の場合には)売却で得た資金を自社が強みを有する分野(特にA…に属する事業)への成長投資に回すのが合理的な選択となる」と述べました。金のなる木を手放さない前提のPPMとは、ここで結論が分かれます。

指針が挙げる実例がオムロンです。同社は車載電装部品事業を行うオムロンオートモーティブエレクトロニクスの株式を日本電産へ譲渡しましたが(2019年10月)、その理由について指針は「単独でのROICはハードルレートである10%を超えてはいたものの、オムロンだけでは十分な投資が行えず、単独では存続できないと判断したこと」と記しています。収益基準を満たしている事業を、投資余力の観点から手放した事例です。PPMの図の上では動かす理由がない事業でも、ベストオーナーの観点では切出しが合理的になり得ることを示しました。

開示の要請も強まっています。東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コード(2026年7月21日版)は、原則4-1の本文で、収益力・資本効率等の目標を実現するために「成長投資(設備・研究開発・人的資本・知的財産等の無形資産への投資等)や事業ポートフォリオの見直し等の経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて説明を行うべきである」と定めました。原則はコンプライ・オア・エクスプレインの対象ですから、実施しないなら理由の説明が要ります。同原則の解釈指針はさらに「取締役会において決定された事業ポートフォリオに関する基本的な方針や事業ポートフォリオの見直しの状況について分かりやすく示すべきである」としていますが、解釈指針そのものは同コードの前文9項が「コンプライ・オア・エクスプレインの対象ではない」と明記しています。なお現行版で「補充原則」という区分は廃されているため、補充原則の番号で引用している解説は改訂前の版に基づくものです(改訂の経緯は東証の公表リリースにあります)。

事業別のROICと成長率を毎期出し続けるためのデータ整備の要件

4象限フレームワークを回す難所は、軸の理屈ではなく数字の供給側にあります。事業別のROICと成長率を、同じ定義で四半期ごとに更新できないと、取締役会の議題として継続しません。指針が「ざっくり」で始めてよいと書いたのは初回の立ち上げの話であり、翌期に定義が変わってしまえば前期との比較が成り立たなくなります。

詰まりどころは主に3つです。第一に、制度会計のセグメントと管理会計の事業単位が一致せず、同じ「事業」という言葉が部署ごとに別の範囲を指してしまいます。第二に、本社費・共通費の配賦ルールが年度ごとに見直され、ROICの改善が事業の実力か配賦の変更かを切り分けられなくなる点が問題です。第三に、投下資本の割付けで運転資本・固定資産・のれんが事業間で二重計上され、分母が膨らんだ事業だけ不当に低く出ます。

対処は単純で、事業の定義・配賦ルール・投下資本の割付け方法を1枚の台帳に固定し、変更したら履歴を残すことに尽きます。そのうえで、事業別のPLとBSを同じ粒度で蓄積し、ROICと成長率を毎期同じ計算式で吐き出す置き場を用意してください。会計システムの画面の中だけで完結させようとすると、事業の切り方を変えるたびに手作業が発生します。弊社では、こうした事業別の数字を集約して四半期ごとに同じ図を再現する仕組みづくりをBIツール導入支援としてお手伝いしており、配賦ルールの変更履歴まで含めて設計すると、翌期以降の議論が「数字の作り方」から「事業の判断」へ移ります。

BCGマトリクス・GEマトリクス・プロダクトライフサイクルとの関係

PPMと近接する枠組みは呼称が紛らわしく、混同されたまま使われがちです。関係を整理します。

名称 軸 区分数 評価の性格 主な用途
PPM/BCGマトリクス 市場成長率×相対シェア 4 定量のみ 資金配分の設計
GEマトリクス 業界魅力度×事業の強み 9 定量+定性 投資優先順位づけ
4象限フレームワーク 資本収益性×成長性 4 定量+ベストオーナー 切出し・再編の判断
アンゾフの成長マトリクス 製品×市場の新旧 4 方向性の分類 成長戦略の選択
ポートフォリオ分析 重要度×満足度 4 調査データ 改善の優先度づけ
プロダクトライフサイクル 時間(市場投入からの経過) 4段階 時系列の推移 象限移動の予測

PPMとBCGマトリクスは、ほぼ同じものを指します。手法の出自を強調するときにBCGマトリクス(成長シェアマトリクス)、経営管理の枠組みを指すときにPPMと呼ぶ使い分けです。

GEマトリクスは、ゼネラル・エレクトリックがマッキンゼーと開発した3×3の9象限になります。横軸に業界魅力度、縦軸に事業の強みを取り、どちらも複数の要素を重みづけして合成します。市場成長率とシェアという2つの数字だけで決まるPPMに比べ、技術力やブランド、規制環境といった定性要因を組み込めるのが違いです。その代わり重みづけに主観が入るため、社内の力関係が結果へ反映されやすい弱点があります。ポートフォリオモデルの設計そのものを論点にした古典としては、ハーバード・ビジネス・レビュー1981年1月号のWind & Mahajan「Designing Product and Business Portfolios」があり、冒頭で「企業は既存・計画中を問わず、各製品・サービスの戦略が組織のニーズ・資源・目的と噛み合っているかを絶えず評価する」と置いています。

プロダクトライフサイクルは時間軸の理論で、PPMとは補完関係にあります。導入期は問題児、成長期に首位を取れれば花形、成熟期は金のなる木、衰退期は負け犬という移動の見取り図が、4象限とおおむね対応します。製品×市場の組み合わせで成長の方向を選ぶ枠組みは別系統で、アンゾフの成長マトリクスが扱う領域です。

重要度と満足度の2軸で描くポートフォリオ分析との用途の切り分け

紛らわしさが最も残るのが「ポートフォリオ分析」という呼び名です。顧客満足度調査や従業員調査の文脈でこの語が出てきたときは、PPMではなく重要度と満足度の2軸で設問を配置する図を指します。軸のデータ源がアンケートの回答であり、資金の出入りは扱いません。用途も「どの改善項目から手を付けるか」の優先度づけで、事業間の資金移転を設計するPPMとは目的が別です。2軸の取り方とExcelでの作図手順はポートフォリオ分析(重要度×満足度)の進め方にまとめており、社内で語が混ざったときはどちらの図かを先に確認してください。

2014年のBCG再検証が示す象限滞留期間の短縮という前提変化

PPMは1970年の枠組みですが、BCG自身が2014年に「BCG Classics Revisited: The Growth Share Matrix」で前提の変化を数字で示しました。同記事によれば、1988年から1992年の5年間と2008年から2012年の5年間を比べると、調査対象の75%の業界で企業の入れ替わりが激しくなり、各象限にとどまる平均期間は4年から2年未満へ半減しています。大手米国コングロマリット10社では、2012年時点の事業単位の平均滞留期間が2年未満でした。

資金循環の前提にも変化が出ています。上場企業の分析では、2012年のキャッシュカウが得た利益シェアは1982年比で25%低下し、象限間の流動性が高まった業界ではライフサイクル後期の期間が平均55%短くなりました。金のなる木が長く資金を供給し続ける前提そのものが弱まった、という読み方になります。同記事は対応として、問題児への投資を増やし、実験を速く安く回すことを勧め、その例としてGoogleが年間およそ10から15のプロジェクトを立ち上げては畳んでいる点を挙げました。

この数字は2014年時点の実測であり、そのまま現在の水準として引用はできません。ただ方向としては、年1回の予算編成に合わせて図を描き直す運用では象限の移動に追いつかないことを示しています。四半期で更新できるデータ整備が要る、という前章の話と結論はつながります。

PPM分析の3つの限界と、それでも1枚の図を描く価値が残る場面

PPMには構造的な弱点があります。第一に、事業間のシナジーを表現できません。単体では負け犬でも、主力製品の顧客をつなぎとめている補完部品や保守サービスは、撤退した瞬間に本体の売上を削ります。図の上では独立した円として並ぶため、この依存関係は見えません。第二に、市場の定義次第で象限が動きます。「国内市場」で見れば首位でも「グローバル市場」では下位という事業は珍しくなく、市場をどう切るかで結論を作れてしまいます。第三に、キャッシュフローの内部循環を前提としている点です。外部から機動的に資金を調達できる企業では、この前提自体が成り立ちません。

結論を言えば、PPMを撤退の判断根拠に使うべきではありません。負け犬に落ちたという事実は市場定義とシェア推計という2つの仮定の上に乗った出力にすぎず、雇用や取引関係を動かす決裁の根拠には足りないからです。撤退・切出しは経済産業省の指針が示すとおり資本コストとの比較で判断し、PPMはその前段で「どの事業を詳しく調べるか」を絞り込む道具として使うのが妥当な役割分担になります。

一方で、PPMが今も有効な場面は明確にあります。事業部ごとに自部門優先の予算要求が上がってきて、全社として資金が回るのかが誰にも見えない状態のとき、PPMは1枚の図で資金の出し手と受け手を可視化します。事業部長同士が同じ図を見て「うちが出し手だ」と認識を共有できることの価値は、分析精度とは別のところにあるでしょう。逆に製品間の資金移転が起きない事業構造では、PPMを作っても意思決定は変わりません。複数事業間で資金を移転しているかどうかが、導入の実質的な線引きです。外部環境と内部資源を突き合わせて戦略を組む場面では、SWOT分析とクロスSWOTや3C分析の進め方と組み合わせる方が実用的です。

よくある質問

PPM分析とは結局、何を決めるための手法ですか?

複数の事業や製品を抱える企業が、どこで生んだ資金をどこへ回すかを決めるための手法です。個々の事業の良し悪しを採点する道具ではありません。市場成長率と相対的市場シェアの2軸で全事業を1枚の図に並べ、資金の出し手(金のなる木)と受け手(問題児・花形)を可視化し、全社で資金が回るかを検算するところまでが役割になります。撤退や売却の最終判断は、資本コストとの比較で行う別の枠組みに委ねてください。

PPMとBCGマトリクスの違いは何ですか?

実質的に同じ枠組みを指す呼称の違いです。市場成長率と相対的市場シェアの2軸で4象限に分ける手法をBCGが1970年に発表し、その手法をBCGマトリクス(成長シェアマトリクス)、経営管理の枠組みとしてPPM(プロダクトポートフォリオマネジメント)と呼びます。呼び分けの慣習であり、分析手順や軸の定義そのものに違いはありません。

PPM分析のやり方を短く言うとどうなりますか?

分析単位を決め、各単位の市場成長率と、最大競合との比で表した相対市場シェアを算出し、2軸の平面に売上規模を円の大きさとして配置します。最後に象限ごとの資金の出入りを合計し、全社で資金が回るかを検算するところまでが1セットです。

IT業界で見かける「PPM」も同じ意味ですか?

別物です。IT分野の「PPM」は多くの場合Project Portfolio Management(プロジェクトポートフォリオ管理)を指し、複数のIT案件への予算・人員の配分を管理するツールや手法の名称として使われます。製品を対象とするProduct Portfolio Managementとは対象も手法も異なります。さらに化学や環境分野の「ppm」はparts per million(100万分の1)という濃度の単位で、経営の文脈とは無関係です。社内で「PPM」と略すときは、どの意味かを最初に確認しておくと混乱を防げます。

負け犬に分類された事業は、すぐ撤退すべきですか?

PPMの図だけで撤退を決めるのは避けてください。1970年の原典はpetsを「成長段階でリーダーを取れなかったか、撤退が遅れたかの失敗の証拠」と厳しく書いていますが、それは市場定義とシェア推計が正しい場合の話です。主力製品を支える補完部品や保守のように、単体の数字が悪くても外すと本体の売上を削る事業は珍しくありません。実務では、負け犬に落ちた事業を「詳しく調べる対象」として拾い上げ、資本コストを継続的・構造的に下回っているかどうかで判断するのが順序になります。

金のなる木で得た資金は何に回すべきですか?

問題児のうち首位を狙えると判断した事業と、シェア維持に投資が必要な花形に回すのが基本形です。応用情報技術者試験の平成30年春期問67も、投資用の資金源を「市場成長率が低く,相対的市場占有率が高い事業」=金のなる木としています。ただし経済産業省の事業再編実務指針は、成熟事業であっても自社がベストオーナーでなければ黒字のうちに切り出し、その資金を成長事業へ振り向ける選択肢を示しました。手元に残して延命に使うのが最も避けたい使い方です。

中小企業や単一事業の会社でもPPMは使えますか?

事業や製品ラインが複数あり、それらの間で資金を移転しているなら使えます。逆に単一事業の企業では、資金の出し手と受け手を分ける図を描いても意思決定が変わらないため、労力に見合いません。製品ラインが複数ある中小企業なら、業界統計が無くても主要競合との売上順位だけで簡易版の配置図を作る価値はあります。

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