クープマンの目標値は、市場シェアを73.9%から2.8%までの7つの水準に区切り、その企業がいま市場でどんな立場にあるかを判断するための基準です。シェア何%を取れば首位が安定するのか、何%を割ると存在を忘れられるのかを、業種を問わない一本の物差しで示します。ここでは7つの数値の意味、数字が出てきた経緯、自社シェアの計算方法、そしてこの基準が通用しない市場の条件までを整理します。
まとめ:クープマンの目標値の要点
| シェア | 名称 | 別名 | 意味 |
|---|---|---|---|
| 73.9% | 独占的市場シェア | 上限目標値 | 独占状態 |
| 41.7% | 相対的安定シェア | 安定目標値 | 首位が安定 |
| 26.1% | 市場影響シェア | 下限目標値 | 影響力の下限 |
| 19.3% | 並列的上位シェア | 上位目標値 | 上位で拮抗 |
| 10.9% | 市場認知シェア | 影響目標値 | 認知される |
| 6.8% | 市場存在シェア | 存在目標値 | 存続の下限 |
| 2.8% | 市場橋頭堡シェア | 拠点目標値 | 参入の足がかり |
判断の軸になるのは上の3つ、73.9%・41.7%・26.1%です。特に41.7%は首位を名乗れるかの分岐点で、ここを超えているかどうかで取るべき戦い方が変わります。数値を導いたのはコンサルタントの田岡信夫氏と社会統計学者の斧田太公望氏で、クープマン本人が7つの目標値を発表したわけではありません。以下では各数値の意味と、自社の数字を当てはめる手順を順に見ていきます。
クープマンの目標値の定義:市場シェアを7段階で評価する基準
クープマンの目標値は、市場占有率(マーケットシェア)を連続した数値としてではなく、意味の異なる7つの段階として扱う考え方です。シェア12%と18%はどちらも1割台ですが、この基準では10.9%を超えた企業と19.3%に届かない企業として区別されます。段階に名前が付いていることで、社内で「うちは認知シェアには乗ったが、まだ上位目標値には届かない」といった共通認識を作りやすくなります。
なお6段階と7段階の2通りの数え方が流通していますが、これは最下段の市場橋頭堡シェア(2.8%)を含めるかどうかの違いです。参入直後の企業を扱うなら7段階、既に事業として立ち上がっている企業を比べるなら上の6段階で足ります。
三大目標値(73.9%・41.7%・26.1%)が判断の軸
73.9%は上限目標値と呼ばれ、短期間では首位が覆らない独占状態を指します。1社ではなく上位2社の合計が73.9%以上になる状態を「二大寡占市場」と呼ぶ使い方も定着しています。2社で市場の4分の3を押さえている以上、3位以下が正面から順位を動かすのは難しい、という読み方です。
41.7%は安定目標値で、実質3社以上が競う市場でここを超えれば首位の地位が安定するとされる水準です。三大目標値の中では経営目標として最も掲げられやすく、覚えやすさから「およそ40%」と丸めて語られることも多い数字です。
26.1%は下限目標値で、市場に対して影響力を持つための最低ラインを示します。逆に言えば、26.1%に届かない企業がいくら首位を狙っても、市場のルールを自社に有利な方向へ動かす力までは持てません。
残る4つ(19.3%・10.9%・6.8%・2.8%)は下位企業の到達段階
19.3%の並列的上位シェア(上位目標値)は、上位数社が横並びで抜け出せない競争状態を表します。ここは長く居座るには不安定な位置で、26.1%へ抜けるか下位に押し戻されるかのどちらかに向かいやすい水準です。
10.9%の市場認知シェア(影響目標値)は、市場で存在が認知され競合他社からも注目され始める段階です。6.8%の市場存在シェア(存在目標値)は事業として存続が許される最低ライン、2.8%の市場橋頭堡シェア(拠点目標値)は参入の足がかりを確保した段階を指します。この2.8%は戦略の切り替え点としても扱われ、届くまでは市場参入戦略、超えてからは競争戦略の領域とされます。下位企業にとってこの4つは次にどこを目指すかを決める階段で、5%の企業がいきなり41.7%を掲げるより、まず10.9%を通過点に置くほうが計画として現実的でしょう。
数値の出どころ:クープマンと田岡信夫・斧田太公望の役割
名前の由来となったB.O.クープマン(Bernard Osgood Koopman、1900年から1981年)は、ハーバード大学で1926年に数学の博士号を取得した数学者です(指導教員はジョージ・デビッド・バーコフ)。その後はコロンビア大学の教員として研究生活の大半を過ごしました。1943年に米海軍のオペレーションズ・リサーチ部門へ加わり、Uボートをどう捜索すれば発見確率が上がるかという問題の分析に従事します。この一連の研究が、のちに探索理論と呼ばれる分野の基礎になりました。米国のオペレーションズ・リサーチ学会(ORSA)では創設メンバーの一人であり、第6代会長も務めています。
ここで押さえておきたいのは、7つのシェア数値を算出したのはクープマン本人ではないという点です。国内の用語解説の多くは、クープマンによる「ランチェスター戦略モデル式」をコンサルタントの田岡信夫氏と社会統計学者の斧田太公望氏が解析し、そこから三大目標値を導き出したと説明しています。残る4つの目標値は、その後に田岡氏が三大目標値へ至る途中段階として設定し、あわせて7つに整理されたものです。クープマン自身が市場シェアの目標値を定めたと書く解説も一部にありますが、7つの具体値の出所としては田岡・斧田による解析とする記述のほうが優勢です。「クープマンの法則」「クープマンモデル」という言い回しを見かけたときも、指しているのは同じ一連の理論だと考えて差し支えありません。
この経緯を知っておくと、数値の性格も理解しやすくなります。7つの値は特定の業界の実データを集計した統計値ではなく、戦闘モデルの数式から導かれた理論値です。だからこそ業種を問わず共通の物差しとして使える一方、後述するように市場構造によっては当てはまりが悪くなります。
ランチェスターの法則との関係:シェア差が競争力の差を広げる理由
クープマンの目標値の背景にあるのが、ランチェスター戦略とは?弱者が強者に勝つ法則をわかりやすく解説で扱っている第二法則です。この法則では、戦力が広い範囲でぶつかり合う状況において、戦闘力は兵力の二乗に比例するとされます。市場競争に置き換えると、シェアの差は見た目の数字以上に競争力の差として現れることになります。
具体的に計算すると差が実感できます。シェア40%の企業と20%の企業の比は2倍ですが、二乗すると0.16対0.04で4倍の開きです。10%の企業が40%の企業に挑む場合は0.01対0.16、実に16倍になります。この比率が、41.7%を境に戦い方を変えるべきという判断の根拠です。16倍の相手と同じ土俵で広告費や販路を競っても、投下量の差がそのまま結果に出てしまいます。
二乗の効果は防御側にも働きます。首位が41.7%を維持できていれば、2位が下限目標値の26.1%まで伸びてきても競争力では2.5倍以上の開きが残る計算です。首位が本当に危うくなるのは、自社が安定目標値の41.7%を割り込み、そこへ2位が26.1%を超えて迫ってきたときです。シェアを守る投資をどの水準で厚くするかを決めるときは、シェアの差ではなく二乗した差で見るほうが実態に合います。
自社シェアの計算と、次に狙う目標値の決め方
クープマンの目標値を使う前提として、自社のシェアを正しく出す必要があります。使う指標は2つあり、それぞれ答える問いが違います。
絶対的市場シェアと相対的市場シェアの2つの計算式
絶対的市場シェアは「自社売上高 ÷ 市場全体の売上高」で求めます。クープマンの目標値に直接当てはめるのはこちらの数値です。相対的市場シェアは「自社シェア ÷ 首位企業のシェア」で、自社が首位の何割の規模かを示します。首位企業自身について計算する場合は、2位のシェアで割って何倍の差があるかを見ます。相対的市場シェアはPPM(プロダクトポートフォリオマネジメント)とは?4象限の意味とやり方・経産省4象限フレームワークとの違いで縦横の軸の一方に使われる指標でもあり、事業ごとの投資判断とつなげやすい数字です。
2つを使い分ける理由は、市場全体の大きさが分からないケースがあるためです。統計の整っていないニッチ市場では母数の推計が難しく、絶対シェアの精度が落ちます。その場合でも上位数社の売上規模が分かれば相対シェアは計算でき、強者と弱者のどちらの立場かは判断できます。
注意したいのが市場の定義です。同じ企業でも「国内市場」で見るか「特定業種向け」で見るかでシェアは大きく変わります。母数を広く取れば数字は小さくなり、狭く取れば大きくなるため、定義を先に固定してから計算してください。
競合の構成から決まる次のハードル
自社と競合のシェアを並べると、狙うべき数値が自動的に決まります。たとえば自社20%、A社25%、B社15%という構成なら、次のハードルは26.1%です。A社を抜いて下限目標値を超えれば、市場に対する影響力を持つ側に回れます。自社が5%であれば、当面の目標は10.9%です。順位を一気に動かすのではなく、階段を1段ずつ上がる形で目標を置くのがこの指標の使い方になります。
KPIに落とし込むときは、シェアの数値だけを掲げても現場は動きません。「次年度に市場認知シェアの10.9%を超える」という目標に対し、必要な売上増加額を市場規模から逆算し、それを地域別や商品別の積み上げに分解するところまでやって、はじめて施策の議論ができます。他の分析手法との組み合わせ方はマーケティングフレームワークとは?目的別の種類一覧と使い分け・使う順番で整理しています。
強者と弱者の使い分け:41.7%を境に変わる戦い方
ランチェスター戦略では、市場での立場によって取るべき戦い方が正反対になります。クープマンの目標値はその線引きに使われ、41.7%以上を持つ首位企業が強者、それ以外が弱者という区分が基本です。
強者側の基本は、下位企業が仕掛けてきた差別化を打ち消して同じ土俵に引き戻すことです。この考え方はミート戦略とは?ランチェスター戦略における強者の同質化戦略をわかりやすく解説で詳しく扱っています。あわせて、26.1%前後の有力な2位がいる市場では警戒を緩めないことです。自社が41.7%を割り込むと、二乗で効いていた優位が急速に薄まります。
弱者側は、市場全体でのシェアを追うのではなく戦う範囲を絞ります。全国で5%の企業でも、特定地域や特定用途に絞れば、その範囲内では41.7%や73.9%に達することがある。クープマンの目標値は市場の定義を変えれば当てはめ直せるため、どの範囲で首位を取るかを決める道具としても機能します。絞り込む軸を何にするかを考える際は、自社の何が模倣されにくいのかを整理したコアコンピタンスとは?意味・3つの条件・見極め方と企業事例をわかりやすく解説の視点が使えます。
クープマンの目標値が当てはまらない市場と、使うときの条件
この指標は理論値であり、すべての市場にそのまま適用できるわけではありません。次の条件に当てはまる市場では、数値を額面どおりに当てはめないでください。
- 実質2社しかいない市場:41.7%は首位安定の条件になりません。2社で51%対49%という構成は数字の上では首位でも、実態は互角です。この構成で地位が固まるのは、上限目標値の73.9%に近づいたときです。
- 収益構造が特殊な市場:シェア10%未満でも高い利益率を確保できるニッチ領域では、目標値を追う意味が薄くなります。
- 市場そのものが縮小している場合:シェアが上がっても売上が減ることがあります。シェアは順位の指標であって、事業の将来性を示すものではありません。
- 母数の推計精度が低い市場:統計が整っていない領域では絶対シェアの誤差が数ポイント動くため、26.1%を超えたかどうかの議論自体が成立しません。
使い方の面でも、注意すべき誤解があります。よくあるのが「目標値に届かない事業は撤退すべき」という読み方ですが、これは踏み込みすぎでしょう。7つの数値はあくまで現在地を測る物差しであり、撤退の可否は投資回収の見込みや他事業との関連まで含めて判断するものです。目標値が示すのは、なぜ届いていないのかを問うべき状態にあることだけです。
避けたいのが、シェアの数値を単独のKPIにしてしまう運用です。値下げと販促を積み増せばシェアは動きますが、利益を削って買った数字に持続性はありません。シェアを目標に置く場合は、利益率や顧客あたり単価を同時に見る指標として並べておくのが現実的です。
よくある質問
市場シェアの目標値はいくつを目指せばよいですか?
現在のシェアによって変わります。5%前後であれば10.9%の市場認知シェア、20%前後であれば26.1%の市場影響シェアというように、7つの段階のうち一つ上の水準を置くのが基本です。いきなり41.7%を掲げるのではなく、次の1段を目標にしてください。
シェア率40%とはどのような状態ですか?
安定目標値である41.7%の手前に位置し、実質3社以上が競う市場であれば首位に立てる可能性が高い水準です。ただし41.7%を超えるまでは地位が安定したとは言えず、2位が26.1%を超えている構成では順位が入れ替わる余地が残ります。
クープマン目標値とクープマンの法則は同じものですか?
ほぼ同じ対象を指して使われています。「クープマンの法則」「クープマンモデル」はランチェスターの法則を応用した理論全体を、「クープマン目標値」はそこから導かれた7つのシェア数値を指すのが一般的な使い分けです。
シェア率はどのように計算しますか?
絶対的市場シェアは「自社売上高 ÷ 市場全体の売上高」、相対的市場シェアは「自社シェア ÷ 首位企業のシェア」で求めます。クープマンの目標値に当てはめるのは前者です。計算する前に、どの範囲を市場とみなすかを固定してください。
なぜ73.9%や41.7%という半端な数値なのですか?
実データの集計値ではなく、ランチェスターの戦闘モデルの数式から導かれた理論値だからです。実務では覚えやすさを優先して「およそ70%」「およそ40%」「およそ25%」と丸めて扱われることも多く、判断に使う分にはその粒度で足ります。