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マーケットオリエンテッドとは?市場志向の意味と3要素、マーケットインとの違い

マーケットオリエンテッドとは?市場志向の意味と3要素、マーケットインとの違い

マーケットオリエンテッドとは、顧客と競合を含む市場の情報を起点に、組織全体で何を作りどう売るかを決める考え方です。英語では market-oriented、経営学では market orientation(市場志向)と呼ばれ、1990年に定義と測定の土台となる論文が相次いで発表されました。この記事では、言葉の意味、学術上の2つの定義、マーケットインやプロダクトアウトとの違いを押さえたうえで、市場志向が業績につながる条件と、自社の市場志向を測る手順を原典の論文に沿って整理します。

まとめ:マーケットオリエンテッドの要点

  • マーケットオリエンテッド=市場志向。顧客ニーズだけでなく競合の動きも含めた市場の情報を、意思決定の出発点に置く姿勢を指します。
  • 学術上の定義は2系統あります。Kohli と Jaworski は「市場情報の生成・普及・反応」という組織の行動として、Narver と Slater は「顧客志向・競合志向・部門間調整」を生む組織文化として捉えました。どちらも1990年の Journal of Marketing 誌に掲載されています。
  • マーケットインやプロダクトアウトが製品企画の起点を表す対比語であるのに対し、マーケットオリエンテッドは部門をまたいだ組織全体の志向性を指します。
  • 2005年のメタ分析では、市場志向と業績の関係は製造業のサンプルで強く、主観的な業績指標を使った研究でも強く出ると報告されています。業種と測り方によって効果の見え方が変わります。
  • 顧客が口にした要望に応えるだけの「反応型」では新製品の成功に不十分で、潜在ニーズを探る「先行型」の市場志向が要ると2004年の研究は結論づけています。
  • 自社の現状は、マーケティング部門と他部門の双方に同じ質問で回答してもらい、差を見るところから始めます。

マーケットオリエンテッドの意味と「市場志向」という訳語

マーケットオリエンテッドは英語 market-oriented のカタカナ表記です。マーケットオリエンティッド、マーケット・オリエンテーション(名詞形の market orientation)とも書かれ、日本語の論文では「市場志向」の訳語が定着しています。語尾の「オリエンテッド」が持つ語義と、技術オリエンテッド・カスタマーオリエンテッドといった同じ作りの言葉の一覧は、技術オリエンテッドの解説記事で扱っています。

意味の核は「市場」という語の範囲にあります。市場には、自社の顧客だけでなく、同じ顧客を奪い合う競合も含まれます。市場志向の企業は、顧客が何を求めているかと同時に、競合がそれにどう応えているかを見て、自社の打ち手を決めます。英語圏では market-driven という言い方も使われ、George S. Day が1994年に Journal of Marketing 誌58巻4号へ寄せた論文は「market-driven organizations(市場主導型組織)」の能力を論じています。

経営学における市場志向の2つの定義

市場志向の定義と測定を体系化したのは、1990年に同じ Journal of Marketing 誌へ載った2本の論文です。それ以前にもマーケティング・コンセプトをめぐる議論はありましたが、Kohli と Jaworski は過去35年の文献を見渡しても、それを実行に移す枠組みの研究はほとんど無いと指摘しています。九州大学の岩下仁氏は2019年のレビュー論文で、この2本を「萌芽的研究」として、そこから約30年にわたり研究が続いてきたと整理しています。2本は同じ言葉を別の角度から定義しています。

Kohli と Jaworski の定義:市場情報の生成・普及・反応

Ajay K. Kohli と Bernard J. Jaworski は、同誌54巻2号(1990年、1〜18ページ)で、マーケティング・コンセプトを実際にどう実行するかという観点から市場志向を捉えました。論文の抄録によると、既存研究に加えて、さまざまな職能・組織の管理職62人への現場インタビューをもとに概念の範囲と先行要因・結果を整理しています。

1993年に Ajith Kumar を加えた3人が発表した測定尺度 MARKOR の論文では、市場志向を次の3つの行動の組み合わせとして定義しています。

  • 情報の生成:顧客の現在と将来のニーズに関する市場情報を、組織全体で集めること
  • 情報の普及:集めた情報を、部門間(横)と階層間(縦)に行き渡らせること
  • 反応:その情報に基づいて、組織全体で行動を起こすこと

この定義の特徴は、情報を集めるだけでは市場志向とみなさない点です。調査部門が顧客データを抱えていても、製造や営業がそれを受け取って動かなければ、3つ目の「反応」が欠けていることになります。

Narver と Slater の定義:顧客志向・競合志向・部門間調整

John C. Narver と Stanley F. Slater は、同誌54巻4号(1990年、20〜35ページ)で、市場志向を「買い手にとって優れた価値を生み出すのに必要な行動を最も効果的かつ効率的に生み出し、その結果として事業の優れた業績を持続させる組織文化」と定義しました。構成要素は次のとおりです。

  • 顧客志向:標的とする買い手を理解し、継続的に高い価値を提供できるようにすること
  • 競合志向:競合の短期的な強み・弱みと、長期的な能力・戦略を把握すること
  • 部門間調整:標的顧客に優れた価値を届けるために、社内の資源を部門横断で使い、調整すること

この3つの行動要素に加えて、「長期的視点」と「収益性」の2つを判断基準に置いています。同論文は、コモディティ型と非コモディティ型を含む140の事業単位を対象に測定し、どちらの型でも市場志向が収益性に大きなプラスの効果を持つと報告しました。

観点 Kohli と Jaworski Narver と Slater
掲載 JM 54巻2号(1990年) JM 54巻4号(1990年)
捉え方 組織の行動 組織の文化
構成要素 情報の生成・普及・反応 顧客志向・競合志向・部門間調整
測定尺度 MARKOR(1993年・20項目) 同論文で開発した尺度
実務での使いどころ 情報の流れの詰まりを探す 競合を見ているかを点検する

自社に当てはめるなら、情報が部門間で止まっているのが悩みなら Kohli と Jaworski の3行動、顧客満足ばかり見て競合との比較が抜けているのが悩みなら Narver と Slater の3要素を物差しにするとよいでしょう。競合の把握を体系立てるには、顧客・競合・自社の3視点で整理する3C分析が手元の道具になります。

マーケットインやプロダクトアウトとの違い

マーケットオリエンテッドは、似た言葉と対比の単位が違います。マーケットインとプロダクトアウトは「製品をどちらの起点から企画するか」の対比で、マーケットオリエンテッドは「組織全体が何を拠り所に動くか」を表します。

用語 対比の単位 起点 対になる語
マーケットオリエンテッド 組織全体の志向性 顧客と競合を含む市場 技術志向・製品志向
マーケットイン 製品企画の進め方 顧客のニーズ プロダクトアウト
プロダクトアウト 製品企画の進め方 自社の技術・作れるもの マーケットイン
技術オリエンテッド 組織全体の志向性 自社の技術 マーケットオリエンテッド

マーケットインとの違い

本記事では、マーケットインを「顧客の要望を起点に製品を企画する進め方」として扱います。マーケットオリエンテッドの定義には、Kohli らの「組織全体での情報生成と反応」、Narver らの「部門間調整」が組み込まれており、営業・製造・財務まで含めた全社の姿勢を問います。マーケットインの手法を採っていても、競合を見ていない、あるいは他部門が顧客情報を受け取っていない企業は、学術上の意味では市場志向が弱いと判定されます。

マーケティングオリエンテッドとの違い

マーケティングオリエンテッド(マーケティング志向)とマーケットオリエンテッドは、学術上は同じ概念を指す2つの呼び名です。Kohli と Jaworski の1990年論文は、先行文献で marketing orientation という呼び名も使われてきたとしたうえで、market orientation のほうが望ましい理由を3つ挙げています。その1つ目は、この概念がマーケティング部門だけの関心事ではなく、さまざまな部門が市場情報の生成・普及・反応に加わるという点です。同論文は、marketing orientation と呼ぶのは範囲を狭め、誤解を招くと述べています。

つまり「マーケティング部門が主導する会社」という意味に受け取ると、原典が避けようとした誤解そのものになります。1993年の MARKOR 論文でも、マーケティング部門と非マーケティング部門の幹部を回答者にした再検証が行われています。

「生産志向から販売志向、マーケティング志向へ」という歴史観と異論

市場志向の説明では「作れば売れた時代から、売り込む時代を経て、市場に合わせる時代へ移った」という段階論がよく添えられます。この見方の出所としてよく挙げられるのが、Pillsbury 社の Robert J. Keith が Journal of Marketing 誌24巻3号(1960年)に書いた「The Marketing Revolution」です。岩下氏のレビューは、同論文が「企業は時代の変遷とともに、製品志向から販売志向へと移行し、最終的にマーケティング志向へと至る」と示したとまとめています。

この段階論には実証面からの異論があります。D.G. Brian Jones と Alan J. Richardson は2007年の Journal of Macromarketing 誌27巻1号で、1890年代の資料を内容分析し、「生産の時代」とされる時期にも販売志向やマーケティング志向の強い証拠があるとして、マーケティング革命は無かったと結論づけました。

実務への示唆ははっきりしています。「今は市場志向の時代だから」という時代論で社内を説得するのは根拠が弱く、どの志向を主軸に置くかは企業ごとの選択です。岩下氏のレビューは、市場志向と同じ次元にある志向性として製品志向・販売志向・技術志向・ブランド志向・デザイン志向など10種を整理しています。販売志向はその中で「長期的な関係性構築よりも、短期的な売上の最大化を目指す志向性」と定義されており、市場志向の判断基準である長期的視点と正反対に位置します。

市場志向と業績の関係:実証研究が示す条件

Narver と Slater の1990年論文以降、市場志向が業績を高めるかどうかは数多く検証されてきました。Ahmet H. Kirca、Satish Jayachandran、William O. Bearden は、それらの実証結果を集約したメタ分析を Journal of Marketing 誌69巻2号(2005年、24〜41ページ)に発表しています。抄録が挙げる主な知見は次の3点です。

  • 市場志向と業績の関係は、製造業のサンプルで強く出る。コスト面・売上面のどちらの業績指標でも、サービス業より製造業で相関が強い
  • 権力格差や不確実性回避の傾向が弱い国(Hofstede の国別文化指標で分類)のサンプルで、関係が強く出る
  • 業績を主観的な指標(回答者の自己評価)で測った研究で、関係が強く出る

3点目は自社で効果を測るときに効いてきます。「市場志向を強めてから業績が上がった気がする」という管理職アンケートは、関係を実態より強く見せやすい測り方です。施策の効果を判断するなら、売上総利益率や新製品の売上比率など、会計データで確かめられる指標を並べて見てください。また2点目が示すとおり、関係の強さは国の文化によって変わります。分析対象には日本を含む20か国以上の研究が入っていますが、米国の研究が多数を占めるため、海外で得られた関係の強さを日本企業にそのまま当てはめるのは避けるべきです。

反応型と先行型の市場志向:顧客の声だけに従う危険

市場志向を「顧客に聞いて、言われたとおりに作る」と理解すると、落とし穴にはまります。Narver、Slater、Douglas L. MacLachlan は Journal of Product Innovation Management 誌21巻5号(2004年、334〜347ページ)で、市場志向を2種類に分けました。

  • 反応型の市場志向(responsive):顧客が表明したニーズに応える
  • 先行型の市場志向(proactive):顧客自身が気づいていない潜在ニーズ、つまり顧客にとっての価値の機会を探る

同論文は、それまでの市場志向の測定尺度がほぼ反応型の行動だけを測っていたと指摘し、先行型の尺度を新たに開発しました。技術分野の異なる事業を対象にした分析の結論は、新製品の成功を生み続けるには反応型だけでは不十分で、先行型が重要なプラスの役割を果たすというものです。顧客が口にした要望だけで新製品を作る企業は、競合も同じ要望に応えて並ぶため価格競争に巻き込まれやすく、顧客の忠誠の土台も築けないと述べています。

既存顧客の要望に応え続けた企業が新しい技術への移行に遅れる現象は、イノベーションのジレンマとして知られています。反応型に偏った市場志向はこの罠と同じ構造を持つため、顧客の声を集める仕組みとは別に、技術のシーズや顧客の使用現場の観察から潜在ニーズを探る担当を置いておくことが要ります。

自社の市場志向を測り、組織に根づかせる手順

MARKOR の知見に沿った現状把握

Kohli、Jaworski、Kumar が Journal of Marketing Research 誌30巻4号(1993年、467〜477ページ)で発表した MARKOR は20項目の尺度です。1993年の論文は、1人の回答者による評価に加え、マーケティング部門と非マーケティング部門の幹部を回答者にした再検証を行いました。その結果、全体の市場志向の因子、情報生成の因子、普及と反応をまとめた因子に加え、マーケティング側の回答者と非マーケティング側の回答者それぞれに固有の因子が現れています。同じ組織でも、どの部門の人に聞くかで答えが系統的にずれるということです。

この知見を踏まえ、社内で簡易に点検する進め方を示します。以下の問いは MARKOR の20項目そのものではなく、3つの行動に沿った確認の観点の例で、尺度として検証されたものではありません。

  • 情報の生成:直近1年で、顧客の将来の要望について営業以外の部門が直接顧客と話した機会はあったか
  • 情報の普及:競合の新製品や価格変更の情報が、何日以内に開発・製造の担当者に届いているか
  • 反応:顧客の不満や競合の動きを受けて、計画を変更した事例を具体的に挙げられるか

同じ問いをマーケティング部門と、製造・開発・管理部門の双方に答えてもらい、回答の差が大きい行動から手を付けます。マーケティング部門だけが高く評価している項目は、情報が部門の外へ出ていない可能性と、部門ごとに職務や評価の基準が違う可能性の両方を確かめます。

Day が示す6段階の変革プログラム

測った結果を組織の変化につなげる手順として、Day は1994年の論文で、市場志向の組織を特徴づける能力を「市場を感知する能力(market sensing)」と「顧客と結びつく能力(customer linking)」とし、それを高める変革プログラムを6段階で示しました。

  1. 現在の能力を診断する
  2. 将来必要になる能力を予測する
  3. 土台となる業務プロセスを現場から設計し直す
  4. 経営陣が方向を示し、関与を明言する
  5. 情報技術を工夫して使う
  6. 進捗を継続的に監視する

現場からの設計(3)と経営陣の関与(4)が並んでいる点がこのプログラムの要です。市場志向を掲げる方針だけを経営陣が出しても、顧客情報を部門間で渡す業務の流れが変わらなければ定着しません。全社の戦略に落とし込む段階では、マーケティング戦略の立案手順とあわせて設計してください。

マーケットオリエンテッドの導入でつまずくパターン

市場志向は多くの研究で業績とのプラスの関係が確認されています。ただし取り入れ方を誤ると、効果が出ないまま「市場志向は役に立たない」という結論に流れがちです。つまずきやすいのは次の場面です。

第一に、顧客がまだ要望を言語化できない新しい市場に、反応型の市場志向だけで臨む場合です。前述の2004年の研究が示すとおり、表明されたニーズへの反応だけでは新製品の成功には足りません。こうした領域では先行型の市場志向を組み込み、自社技術を起点にする技術オリエンテッドとの併用も前提に組み立てるほうが合理的です。

第二に、他部門を巻き込めないままマーケティング部門の標語として掲げる場合です。Kohli らの定義も Narver らの定義も、組織全体の行動や部門間調整を中核に置いています。マーケティング部門の中だけで顧客調査を増やしても、学術上の意味での市場志向は高まりません。この状態で「市場志向を導入した」と評価すると、成果が出ない原因を概念そのものに求めてしまいます。

第三に、サービス業で製造業並みの業績効果を見込んで投資計画を立てる場合です。2005年のメタ分析では、市場志向と業績の相関はサービス業より製造業で強く出ています。サービス業で取り組むなら、効果の見込みを控えめに置き、客観指標で小さく検証してから範囲を広げる順番が安全です。

よくある質問

マーケットオリエンテッドとは簡単にいうと何ですか?

顧客と競合を含む市場の情報をもとに、会社全体で意思決定する姿勢のことです。日本語では市場志向と訳されます。学術上は、市場情報を集め、社内に広め、それに基づいて動くという3つの行動の組み合わせとして定義されています。

マーケットオリエンテッドとマーケットインの違いは何ですか?

対比の単位が違います。マーケットインは顧客ニーズを起点に製品を企画する進め方で、主に企画・開発の場面で使われる言葉です。マーケットオリエンテッドは営業や製造も含めた組織全体の志向性を指し、顧客だけでなく競合の把握と部門間の連携までを含みます。

マーケティングオリエンテッドとマーケットオリエンテッドは違いますか?

学術上は同じ概念の呼び名の違いです。Kohli と Jaworski は1990年の論文で、この概念はマーケティング部門だけでなく複数の部門が担うものだとして、範囲を狭く誤解させる marketing orientation より market orientation の呼び名が望ましいと述べています。マーケティング部門主導という意味で使うと、原典の意図とずれます。

ニーズオリエンテッドやカスタマーオリエンテッドとの違いは何ですか?

カスタマーオリエンテッド(顧客志向)とニーズオリエンテッドは、顧客の要求を起点に置く姿勢です。Narver と Slater の定義では、顧客志向は市場志向を構成する3要素の1つにあたり、市場志向はこれに競合志向と部門間調整を加えた、より広い概念として扱われています。

マーケットオリエンテッドの反対は何ですか?

決まった1語の対義語はありませんが、対比されることが多いのは、自社の技術を起点にする技術オリエンテッドと、作れるものを作って売るプロダクトアウトです。学術研究では、製品志向や短期的な売上の最大化を目指す販売志向も、市場志向と同じ次元に並ぶ別の志向性として研究されています。

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