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プロダクトアウトとは?意味とマーケットインとの違い、成功例と失敗する条件

プロダクトアウトとは?意味とマーケットインとの違い、成功例と失敗する条件

プロダクトアウトは、作り手が持つ技術やアイデアを起点に製品を企画し、市場へ出していく考え方です。対になる言葉はマーケットインで、こちらは顧客のニーズを起点にします。

この記事では、日本品質管理学会の規格と辞書の定義を比較し、本記事での用語の範囲を示したうえで、マーケットインとの違い、ソニーとダイソンの一次資料から読み取れる成功の条件、そして失敗しやすい場面を整理します。

まとめ:プロダクトアウトの要点

  • プロダクトアウトは「提供側の保有技術や都合を優先して製品・サービスを提供しようとする考え方」(日本品質管理学会の規格「品質管理用語」)です。
  • 反対語はマーケットインです。違いは企画の起点が自社の技術か、顧客のニーズかにあります。
  • 「プロダクトアウトからマーケットインへ移った」という時代の説明は、辞典によって転換点が1975年以降とも1990年代とも書かれ、一致していません。古い考え方と決めつける根拠にはなりません。
  • ウォークマンもダイソンの掃除機も、社内や既存メーカーの反対を受けながら作り手の確信で製品化された例です。一方で、ダイソンは試作を5,127台重ねています。確信だけで出したわけではありません。
  • 「顧客に聞いたら速い馬と答えただろう」というフォードの言葉は、本人の発言として確認されていません。顧客調査を省く理由には使えません。

以下、定義から順に根拠を示します。

プロダクトアウトの意味と規格・辞書の定義文

日本品質管理学会の規格と2つの辞典の定義

本記事では、日本品質管理学会の規格「品質管理用語」の2023年改正版を定義の基準にします。この改正は2023年9月20日の理事会で承認されました。この規格は見出し語としてマーケットインを立て、「顧客・社会のニーズを把握し,これらを満たす製品・サービスを提供していくことを優先するという考え方」と定義しています。プロダクトアウトはその注記に置かれ、「提供側の保有技術や都合を優先して製品・サービスを提供しようとする考え方」と説明されています。

辞書の定義も方向は同じです。コトバンクに収録されたデジタル大辞泉はプロダクトアウトを「商品の企画開発や生産において作り手の論理や計画を優先させる方法」とし、ブリタニカ国際大百科事典(小項目事典)は「企業が開発・生産した製品を販売促進の強化によって,消費者へ売り込む技術先行型のスタイル」と書いています。

3つを比べると、ブリタニカだけが「販売促進の強化によって売り込む」という売り方まで定義に含めています。規格と大辞泉は売り方には触れず、提供側の技術や都合、作り手の論理を優先するという点だけを定義しています。この記事では規格の定義に合わせ、プロダクトアウトを「企画の起点が提供側にある状態」として扱います。

「プロダクト」の意味と英語での表記

プロダクト(product)は、精選版日本国語大辞典で「生産物。製品。」とされ、1914年の外来語辞典に用例がある古い外来語です。プロダクトアウトは「製品を外(市場)へ出す」という発想を表す組み合わせで、ブリタニカは英語表記を product-out、マーケットインを market-in と併記しています。日本品質管理学会の規格も、マーケットインの対応英語を market-in としています。

自社の技術や研究成果は「シーズ」とも呼ばれ、プロダクトアウトはシーズを起点にした企画と言い換えられます。シーズとニーズの関係はシーズの解説記事で扱っています。組織全体が技術を拠り所に動く姿勢を指す言葉は技術オリエンテッドで、こちらは技術オリエンテッドの解説にまとめています。

マーケットインとの違い:企画の起点と失敗の形

両者は「製品をどちらの起点から企画するか」の対比です。起点が違うと、判断に使う材料も、失敗したときの症状も変わります。

比較軸 プロダクトアウト マーケットイン
企画の起点 自社の技術・アイデア 顧客・社会のニーズ
主な判断材料 技術的に実現できるか 調査で確認した要望
当たったときの成果 競合のいない新市場 一定の需要を確保
典型的な失敗 誰も欲しがらない製品 他社と似た製品で価格競争
販売上の課題 新しい価値を伝えるマーケティング費 画期的な製品が生まれにくい

成果・失敗・販売上の課題の行は、JMR生活総合研究所のマーケティング用語集の整理に沿っています。同用語集は、マーケットインのデメリットを「画期的なものが生まれにくくなる」「製品やサービスの同質化が進みます」とし、プロダクトアウトのデメリットを、新しい価値を伝えて購買まで結びつける必要があるため「マーケティングのコスト負担が大きくなります」と説明しています。

つまり、プロダクトアウトの弱点は作る段階より売る段階に出やすいということです。技術が優れていても、顧客がその価値を理解する手段を用意しなければ売れません。マーケットイン側の進め方や事例はマーケットインの解説記事にまとめています。また、両者と「マーケットオリエンテッド(市場志向)」は対比の単位が違い、後者は組織全体の姿勢を指します。この違いはマーケットオリエンテッドの記事で詳しく説明しています。

「作れば売れた時代」という説明の食い違い

プロダクトアウトの解説には「高度経済成長期は作れば売れたが、その後マーケットインの時代になった」という歴史の説明がよく添えられます。ところが、この転換がいつ起きたかは出典によって違います。

ブリタニカ国際大百科事典は、第2次世界大戦後から高度成長期までは外国企業の技術を改良すればそのまま市場が広がったためプロダクト・アウト型が主流だったとし、「1975年以降特に消費者の欲求の個性化・感性化が喧伝されるようになるにつれ」マーケット・イン型の重要性が認識され始めたと書いています。

JMR生活総合研究所の用語集は、1973年の第一次オイルショックと1974年の実質経済成長率のマイナス転落を挙げながらも、「転機はバブル経済が崩壊した1990年代の平成不況期です」と述べています。ブリタニカが「重要性が認識され始めた」時期として挙げる1975年以降と、JMRが「転機」とする1990年代には、15年以上の開きがあります。

さらに、生産志向から販売志向、マーケティング志向へと段階的に移ったという欧米の歴史観にも、1890年代の資料から反証した研究があります(マーケットオリエンテッドの記事で紹介しています)。「今はマーケットインの時代だからプロダクトアウトは古い」という理屈で企画を退けるのは、根拠として弱すぎます。JMRの用語集自身も、プロダクトアウトが古くて駄目な概念だとは一概に言えないと結論しています。

プロダクトアウトの成功例:ウォークマンとダイソンの一次資料

ソニー ウォークマン TPS-L2(1979年7月1日発売)

ソニーの社史によると、ウォークマンの原型は、井深大が「『プレスマン』に、再生だけでいいからステレオ回路を入れたのを作ってくれないかな」と頼んで作らせた改造機でした。再生だけの機械を求めたのは井深自身で、顧客の要望から出た発想ではありません。

商品化にあたっては「営業部から反対意見が出たが、盛田は自分の直感を信じていた」と社史は記しています。初代のTPS-L2は1979年7月1日に発売されました。社内の販売部門ですら需要を読めなかった製品を、経営者の確信で出したという点で、プロダクトアウトの典型です。

ダイソンのサイクロン掃除機(試作5,127台)

Dyson公式の創業者紹介によると、ジェームズ・ダイソンは段ボールで作った簡易なサイクロンを手持ちの掃除機に取り付けて着想を確かめ、「four years and 5,127 prototypes later」、つまり4年間で5,127台の試作を経て量産できる設計にたどり着きました。

ところがその設計は、主要な掃除機メーカーすべてに採用を断られています。当時、紙パックの市場は欧州だけで5億ドルを超えていたと同ページは書いています。大手が買わなかった理由を、Dysonの採用サイトは「selling vacuum bags was far too profitable」、つまり紙パックの販売があまりに儲かっていたためと説明しています。既存事業の収益を守る判断が、新技術の採用を妨げた例です。

ウォークマンとダイソンに共通する使用動機と試作

共通点は2つあります。1つ目は、作り手自身が最初の強いユーザーだったことです。井深は再生専用のステレオ機を自ら求め、ダイソンは自分の掃除機に段ボールのサイクロンを取り付けて試しました。「作り手の論理」といっても、作り手の中に具体的な使用場面があります。

2つ目は、製品化の前に試作で着想を確かめていたことです。両社の資料には、製品化に先立って試作機を作り、作り手自身が使った経緯が記されています。ダイソンの5,127台の試作は、作り手の着想を繰り返し検証した事実を示します。ただし、試作による技術の検証が、顧客の需要を調べる代わりになるとは限りません。

フォードの「速い馬」の引用と出典の確認状況

プロダクトアウトを擁護する文脈で、ヘンリー・フォードの「顧客に何が欲しいかと聞いていたら、もっと速い馬が欲しいと答えただろう」という言葉がよく引かれます。

フォードの資料を所蔵するThe Henry Ford(ベンソン・フォード研究センター)は、この言葉を「has never been satisfactorily traced to Henry Ford」、つまりフォード本人までたどれていないと説明しています。同ページによれば、この引用が現れ始めるのは21世紀初頭で、現代のビジネス論者が教訓として使ったものです。

実務への影響ははっきりしています。この引用を根拠に「顧客調査は不要」と社内を説得するのはやめるべきです。ウォークマンもダイソンも、試作機を作って作り手自身が使った経緯は確認できますが、顧客調査を一切しなかったとまでは資料から判断できません。成功例から学べるのは「聞かなくてよい」ではなく「着想を試作で確かめる」ことです。

プロダクトアウトが失敗しやすい条件

ハーバード・ビジネス・レビュー1960年7〜8月号に載ったセオドア・レビットの「Marketing Myopia(マーケティング近視眼)」は、成長が止まる理由は市場の飽和ではなく「a failure of management」、つまり経営の失敗だと主張しました。技術で勝っていても、顧客が何のために買うのかを見失えば成長は止まります。企画の起点を提供側に置くプロダクトアウトは、構造的にこの落とし穴に近い位置にあります。

次の条件に当てはまる場合、プロダクトアウトは採らないほうが安全です。

  • 顧客が要件を仕様書で明示できる市場(受託開発、部品の納入など)。合意済みの仕様への適合が求められる案件では、自社の作りたいものを優先して要件を変更すべきではありません。
  • 技術の差が、顧客の使う場面での違いに換算できない場合。性能値の向上を、作業時間の短縮や運用費の削減など顧客が評価できる便益で説明できなければ、価格への納得を得にくくなります。
  • 価値の説明に必要な販促費を確保できない場合。JMRの用語集が指摘するとおり、新しい価値を伝えるコストはプロダクトアウトの側に重くかかります。
  • 想定する利用者の使用場面を具体化できず、試作を評価してもらう相手も確保できない場合。技術的に作れても、誰にどんな価値があるかを検証できないまま製品化すべきではありません。

逆に、顧客自身がまだ体験したことのない製品で、社内に強い使用動機があり、試作で価値を確かめられるなら、プロダクトアウトは成果を出しやすい条件がそろっています。

プロダクトアウトで企画を進める手順

プロダクトアウトを「思いつきで作る」ことにしないためには、作り手の確信を小さく検証する工程を最初から組み込みます。

  1. 使用場面を1文で書く:誰が、どの場面で、今の手段の何に不満を持っているかを書き出します。書けない場合は、想定する利用者や解決したい不満を、まだ具体化できていない状態です。
  2. 試作で価値を確かめる:説明資料ではなく動く試作機で確認します。試作の種類と使い分けはプロトタイプの記事で解説しています。
  3. 最小限の製品で需要を測る:機能を絞った製品を限られた顧客に出し、実際に使われるか、お金を払うかを見ます。機能の範囲の決め方はMVP開発の進め方で解説しています。
  4. 撤退の基準を先に決める:利用継続率や受注件数など、何の数字がいくらを下回ったら中止するかを着手前に決めます。社内の反対を押し切って進める案件ほど、止める基準が曖昧になりがちです。

技術を起点にしながら、試作と最小限の製品の段階で顧客の反応を取り込む進め方は、プロダクトアウトとマーケットインのどちらか一方を選ぶ議論より実務に即しています。

よくある質問

プロダクトアウトの反対語(対義語)は何ですか?

マーケットインです。日本品質管理学会の規格「品質管理用語」は、マーケットインを見出し語として定義し、その注記で「マーケットインと対になる言葉として,プロダクトアウトがある」と書いています。デジタル大辞泉でも、プロダクトアウトの項からマーケットインが参照されています。企画の起点を自社の技術に置くのがプロダクトアウト、顧客・社会のニーズに置くのがマーケットインです。

「プロダクトイン」という言葉はありますか?

日本品質管理学会の規格「品質管理用語」とデジタル大辞泉で確認できる対の言葉は、プロダクトアウトとマーケットインです。規格の本文には「プロダクトイン」という語は出てきません。「プロダクトイン」を見かけた場合は、その資料での定義を確認してください。ここで参照した規格に記載がないことだけでは、言い間違いとは判断できません。

プロダクトアウトの代表例は何ですか?

一次資料で経緯を確認できる例として、ソニーのウォークマンとダイソンのサイクロン掃除機があります。ウォークマンは営業部の反対を受けながら1979年7月1日に初代TPS-L2が発売されました。ダイソンは4年間で5,127台を試作し、主要な掃除機メーカーすべてに断られたあとで製品化にこぎつけています。どちらも作り手自身の使用動機が起点でした。

プロダクトアウトは古い考え方ですか?

古いとは言えません。「プロダクトアウトからマーケットインへ」という転換の時期は、ブリタニカ国際大百科事典では1975年以降、JMR生活総合研究所の用語集では1990年代の平成不況期と、出典によって食い違っています。JMRの用語集も、プロダクトアウトが古くて駄目な概念だとは一概に言えないとしています。起点をどちらに置くかは時代ではなく、製品と市場の条件で決まります。

ビジネスで「プロダクト」とはどういう意味ですか?

プロダクト(product)は生産物・製品のことで、精選版日本国語大辞典は「生産物。製品。」と定義しています。ビジネスでは有形の製品に限らず、ソフトウェアやサービスを含めて「顧客に提供するもの」を指すのが一般的です。日本品質管理学会の規格も「製品・サービス」をまとめて扱い、ハードウェア、素材、ソフトウェア、サービス、エネルギー、情報など、あらゆる形態のものを含むとしています。

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