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コーズマーケティングとは?自由の女神修復キャンペーンと成功事例、寄付設計の注意点

コーズマーケティングとは?自由の女神修復キャンペーンと成功事例、寄付設計の注意点

コーズマーケティングは、商品が1つ売れるごと、カードが1回使われるごとに、企業が決まった額を社会課題(コーズ)の支援に回すと約束する販売促進の手法です。英語では cause-related marketing と呼ばれ、日本語でもコーズ・リレーテッド・マーケティングと表記されます。この記事では、定義と似た概念との違い、1983年のアメリカン・エキスプレスの事例、日本で続いている事例と終了した事例、そして寄付額の決め方・表示・税務・効果測定まで、企画担当者が設計段階で決めておくべき点を一次資料で整理します。

まとめ:コーズマーケティングの要点

  • 購入や利用という取引を条件に、企業が特定のコーズへ一定額を拠出する仕組み。取引と無関係に行う寄付(フィランソロピー)とは、売上に連動する点で異なります。
  • 広く知られる事例は1983年のアメリカン・エキスプレスによる自由の女神修復キャンペーンで、カード利用1回ごとに1セントを寄付し、利用は前年同期比28%増、寄付は170万ドルでした。販促費は600万ドルで、寄付額を大きく上回っています。
  • 日本では森永製菓「1チョコ for 1スマイル」が2008年から続き、集まった金額は359,268,854円。ボルヴィック「1L for 10L」は2007年から10年続き、支援金額約3億200万円で終了しました。
  • 消費者庁の2025年10月調査では、エシカル消費を実践する条件の1位が「同種の商品・サービスと価格が同程度であったら」(40.6%)。寄付分を値上げで転嫁する設計は選ばれにくくなります。
  • 寄付先・算定方法(1個◯円か売上の◯%か)・対象期間・上限額・実績の報告方法の5点を、企画段階で決めて表示します。
  • 法人の寄付は、税務上の区分と寄付先によって損金算入の扱いが異なります。税務上の寄附金は、原則として現実に支払った事業年度に損金算入を判定します。キャンペーン終了と支払時期の関係を経理と事前に詰めておきます。

コーズマーケティングの定義と近い概念との違い

学術的な定義としてよく参照されるのは、Varadarajan と Menon が1988年に Journal of Marketing(第52巻第3号、58〜74頁)に発表した論文です。同論文はコーズ・リレーテッド・マーケティングを、顧客が企業の売上につながる取引をしたときに、企業が指定したコーズへ特定の額を拠出すると申し出ることを特徴とするマーケティング活動、として整理しました。ポイントは「取引が条件」「拠出額が事前に決まっている」「拠出先が指定されている」の3つです。

この3条件で見ると、売上に関係なく決まった額を寄付する活動は含まれません。逆に、寄付を伴わない社会啓発の広告もコーズマーケティングとは呼びにくくなります。日本語の記事では「社会貢献を訴求するマーケティング全般」まで広げて説明されることがありますが、企画書で使う場合は、取引連動の寄付があるかどうかで線を引くと議論がぶれません。

CSR・ソーシャルマーケティング・ソサイエタルマーケティングとの違い

名前の似た概念が多いため、目的と主体で比べると区別しやすくなります。

概念 主な目的 典型的な主体 売上との連動
コーズマーケティング 販売促進と社会課題支援の両立 企業と非営利団体 あり(取引ごとに拠出)
CSR(企業の社会的責任) 事業全体での社会への責任 企業 なし(経営全体の姿勢)
フィランソロピー 見返りを求めない社会貢献 企業・個人 なし
ソーシャルマーケティング 人々の行動変容(禁煙・献血等) 行政・非営利団体 なし
ソサイエタルマーケティング 顧客満足と社会の長期的利益の両立 企業 経営の考え方として

ソーシャルマーケティングは、Kotler と Zaltman が1971年の Journal of Marketing(第35巻第3号)の論文で、マーケティングの手法を社会的な考え方の普及に応用するものとして示した概念です。主眼は社会的な考え方や行動を受け入れてもらうことにあり、取引に支援を結び付けるコーズマーケティングとは軸が異なります。ただし両者は対立するものではなく、組み合わせて使うこともできます。CSR全体の考え方はCSRとは?企業の社会的責任の意味・4つの責任・活動事例をわかりやすく解説、見返りを求めない寄付はフィランソロピーとは?意味と語源、メセナ・CSRとの違いと企業事例、寄付の税制優遇で詳しく扱っています。

社会課題の解決そのものを事業の中心に置く場合は、コーズマーケティングよりもソーシャルビジネスやCSVの枠組みが合います。違いはソーシャルグッドとは?CSR・CSVとの違いと企業事例、事業として続ける条件で整理しています。

1983年アメリカン・エキスプレスの自由の女神修復キャンペーン

コーズ・リレーテッド・マーケティングの代表例としてよく引かれるのが、アメリカン・エキスプレスが1983年に行った自由の女神修復の支援キャンペーンです。前述の Varadarajan と Menon の論文は、この事例を次のように記録しています。

  • 期間と対象:1983年の第4四半期、米国内でのカード利用と新規発行
  • 寄付の条件:カード利用1回につき1セント、新規カード1枚の発行につき1ドル
  • 結果:カード利用が前年同期比28%増、新規発行も大きく増加
  • 寄付額:自由の女神・エリス島財団へ170万ドル。キャンペーン全体の販促費は600万ドル

見落とされがちなのは最後の点です。論文はこの事例を、企業が販促に使う金額は約束した寄付額を大きく上回る傾向がある、という指摘の例として挙げています。寄付額と販促費は別の費目であり、社会支援への拠出と販売促進への投資を分けて評価する必要があります。企画書で予算を組むときも、寄付額と告知費は別枠で見積もり、寄付額だけで施策の規模を語らないほうが社内外の誤解を避けられます。

コーズマーケティングの成功事例と終了事例

事例を見るときは「何が1単位で、いくら寄付されるのか」「いつまで続いたのか」の2点に注目すると、設計の違いが見えてきます。

森永製菓「1チョコ for 1スマイル」:2008年から続く1個1円の寄付

森永製菓は2008年から、カカオ産地の子どもたちを支援する「1チョコ for 1スマイル」を続けています。年間を通じた寄付に加え、年1回の特別期間(2026年は1月5日〜2月14日)に、対象商品の売上1個につき1円を、国際NGOプラン・インターナショナルとNGO ACEを通じてガーナやエクアドルの子どもたちの教育環境の改善や児童労働問題への取り組みに充てています。同社の特設サイト「数字で知る」では、これまでに集まった金額が359,268,854円、2025年度に集まった金額が20,701,408円と示されています。

この事例の強みは、寄付額が「1個1円」と小さく、誰でも計算できることです。カカオ産地の課題はチョコレートの原料と直結しているため、原料調達から支援活動までの関係を具体的に説明できます。成果の開示も具体的で、特設サイトは支援した子ども17,617人、児童労働から解放された子ども676人、支援した学校92校(2026年3月時点)を公表しています。2024年からは法人向けのオリジナルデザイン菓子サービス「おかしプリント」にも対象を広げ、ノベルティ需要も寄付の入り口にしています。

ボルヴィック「1L for 10L」:10年間の寄付実績と終了

キリンビバレッジは2007年から、ボルヴィックの出荷量1リットルにつき10リットルの清潔で安全な水がアフリカのマリ共和国に供給される「1L for 10L」プログラムを日本ユニセフ協会と実施し、10年目の2016年に終了しました。キリンの最終結果報告によると、2007〜2016年の支援金額は約3億200万円、供給される水の総量は5,036,817,768リットル、井戸の新設・修復による支援対象村の人口は290,351人です。ただし、このうち5,600人は報告時点の支援予定人数です。

「1リットル買うと10リットル届く」という表現は、寄付額を金額ではなく成果の単位で示した点が特徴です。最終報告の数字から逆算すると、寄付は出荷1リットルあたり約0.6円にあたります(支援金額302,280,057円÷出荷量約5.04億リットル)。消費者に直感的に伝わる一方で、拠出額そのものは表示からは分かりません。なお、このプログラムは2005年にドイツで始まり、2006年にフランス、2007年に日本へ広がったグローバル施策でした。

海外の事例:(PRODUCT)RED と TOMS のモデル変更

(PRODUCT)RED は、ボノとボビー・シュライバーが2006年にエイズ対策のために設立した取り組みで、提携ブランドが「RED」を冠した商品の売上の一部を世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)に拠出します。(RED) の2025年のホリデー向け発表では、グローバルファンドへの累計拠出は8億ドル超とされています。1社ではなく複数のブランドが同じコーズの旗の下に集まる形で、ブランド横断のプラットフォームとして機能している点が特徴です。

TOMS は2006年から、靴を1足買うと1足を必要な人に届ける「One for One」を掲げてきました。2019年11月20日のインパクトレポートの発表では、約1億足を寄付してきたとしたうえで、今後は「稼いだ3ドルごとに1ドルを寄付する」方針を示しています。現物を1対1で届ける方式から、利益の一部を支援団体への助成に回す方式に移った例で、寄付の算定方法は事業の状況に合わせて見直されうることが分かります。

事例 開始 寄付の単位 実績 現状
アメリカン・エキスプレス 自由の女神 1983年 利用1回1セント 170万ドル 1983年第4四半期のみ
ボルヴィック 1L for 10L(日本) 2007年 出荷1Lあたり水10L 約3億200万円 2016年終了
森永製菓 1チョコ for 1スマイル 2008年 特別期間は1個1円 359,268,854円 継続中
(PRODUCT)RED 2006年 提携商品の売上の一部 8億ドル超 継続中
TOMS 2006年 1足につき1足から利益3ドルにつき1ドルへ 約1億足 2019年に方式変更

寄付の仕組みの設計:算定方法・上限・表示する項目

寄付の算定方法と開示範囲は、購入者への説明と寄付実績の検証に直結する設計項目です。算定方法は大きく3つです。

  • 1単位あたり定額:1個1円、1回1セントのように固定額を寄付する。計算が明快で、消費者が自分の購入の寄与を把握しやすい。
  • 売上・利益の一定割合:売上の1%などを寄付する。価格帯の広い商品群に向くが、利益基準にすると赤字時に寄付がゼロになる点を説明しにくい。
  • 成果単位への換算:「1Lで水10L」のように支援の成果で示す。伝わりやすい反面、拠出額そのものは見えにくい。

どの方式でも、表示に入れる項目は次の5つです。寄付先の団体名、算定方法、対象期間と対象商品、上限額の有無、実績をいつどこで報告するか。上限を設けるのに表示しないと、上限到達後に買った人は寄付されると思ったまま購入することになります。景品表示法は商品や取引条件について実際より著しく優良・有利だと誤認させる表示を禁じており、寄付の条件も消費者の選択に影響する以上、実態と表示を一致させる前提で扱うのが安全です。表示規制の全体像は景品表示法とは?優良誤認・有利誤認と景品規制をECの価格表示設計に落とす判断軸を参照してください。

価格の決め方にも根拠となるデータがあります。消費者庁の令和7年度第2回消費生活意識調査(2025年10月、全国15歳以上5,000人)では、エシカル消費を実践したい条件の1位が「同種の商品・サービスと価格が同程度であったら」で40.6%でした。未実践者3,696人への複数回答では、「特に理由はない」(40.5%)を除く具体的な理由で最も多かったのが「どれがエシカル消費につながる商品やサービスか分からない」(24.9%)です。寄付分を上乗せして高く売るより、通常価格のまま寄付付きであることを店頭とパッケージで分かるようにするほうが、この調査結果に合います。エシカル消費の背景は企業のCSR担当者が語るエシカル消費とは何か?その定義・背景から持続可能な社会への意義まで詳しく徹底解説で解説しています。

失敗パターンと法務・税務の確認点

商品とコーズの関連が薄く、短期で終わるキャンペーン

Varadarajan と Menon は、コーズマーケティングを戦略的に使っているかどうかの目安として、経営トップが主要な判断に関わっていること、長期で取り組む約束があること、相応の資源を投じていることを挙げています。これらは戦略的な取り組みを検討する観点であり、単発の施策の成否を直接判定する基準ではありません。

よくある失敗は、話題性のあるコーズを選んだものの自社の商品と結び付かず、数か月で終わってしまうケースです。商品と支援活動の関係や寄付の実績を説明できなければ、消費者の疑問に答えられません。森永製菓のカカオ産地支援とボルヴィックの水支援には、原料や商品そのものとコーズが直結しているという共通点があります。企画の時点で寄付の履行と実績報告に必要な予算・体制を確保できないなら、取引連動のキャンペーンは見送る判断が必要です。

寄附金の損金算入限度と支出のタイミング

国税庁のタックスアンサー No.5281 によると、社会事業団体などへの金銭の贈与は原則として法人税法上の寄附金として扱われ、一般の寄附金は損金算入限度額の範囲でしか損金になりません。資本または出資を有する普通法人の一般寄附金の限度額は「(期末の資本金の額および資本準備金の額の合計額または出資金の額×当期の月数÷12×1,000分の2.5+所得の金額×100分の2.5)×4分の1」です。寄付先が特定公益増進法人や認定NPO法人であれば、一般の寄附金とは別枠の特別損金算入限度額が使えるため、提携先の法人格は税務面でも確認する価値があります。

見落としやすいのが計上時期です。同じタックスアンサーは、寄附金は経理処理にかかわらず現実に支払ったときに支出があったと認識し、未払寄附金は含まれないとしています。年末商戦で寄付額を積み上げ、翌期に支払う設計だと、損金に入る事業年度がキャンペーンの年とずれます。個人と法人それぞれの寄付税制は、上記のフィランソロピーの記事で詳しく扱っています。

効果測定の指標設計

コーズマーケティングは販促と社会貢献の両面を持つため、片方だけを測ると評価を誤ります。最低限、次の3層で指標を分けておきます。

  • 販売:対象商品と非対象商品、または実施期間と前年同期間の販売数を比べたリフト。購入後アンケートでは、寄付への認知や申告された購入理由を把握できます。寄付訴求の上乗せ効果を推定するには、価格や広告などの条件をそろえた比較群を設けます。
  • ブランド:認知度・好意度・購入意向を実施前後で測る。単発の数値ではなく、毎年同じ時期に同じ質問で測ると変化が読めます。
  • 社会側の成果:寄付総額だけでなく、井戸の数や支援した子どもの人数など、提携先と合意した成果の単位で報告する。ボルヴィックが支援対象村の人口290,351人(報告時点の支援予定5,600人を含む)、森永製菓が支援した子ども17,617人と学校92校を公表しているのが実例です。

社会側の成果は提携先の報告に依存するため、契約の時点で報告の頻度と形式を決めておきます。寄付総額しか報告できない状態で続けると、数年後に「何が変わったのか」に答えられなくなります。

よくある質問

コーズマーケティングとは簡単に言うと何ですか?

商品の購入やサービスの利用1回ごとに、企業が決まった額を社会課題の支援に寄付すると約束して販売する手法です。購入者は買い物を通じて寄付に参加でき、企業は販売促進と社会貢献を同時に行えます。

コーズマーケティングとコーズ・リレーテッド・マーケティングは違うものですか?

同じものを指します。英語の cause-related marketing を略してコーズマーケティングと呼ぶのが一般的で、1988年の Varadarajan と Menon の論文も cause-related marketing の語を使っています。

CSRとコーズマーケティングの違いは何ですか?

CSRは事業全体で社会に対して負う責任の考え方で、取引に連動した寄付を必須としません。コーズマーケティングはその実践手段の1つで、購入や利用という取引を条件に寄付が発生します。

企業の利益を確保すると同時に社会貢献を実現するマーケティングは何と呼びますか?

売上に連動して寄付する手法を指すならコーズマーケティング、顧客満足と社会の長期的利益の両立を経営の考え方として指すならソサイエタルマーケティングです。用語を区別するときは、特定の商品やサービスの取引に寄付が連動する仕組みかを確認します。

日本のコーズマーケティングの成功事例にはどのようなものがありますか?

森永製菓の「1チョコ for 1スマイル」(2008年〜、集まった金額359,268,854円)と、キリンビバレッジのボルヴィック「1L for 10L」(2007〜2016年、支援金額約3億200万円)が代表例です。どちらも商品の原料や用途とコーズが直結しています。

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