受容性調査は、発売前の商品案をターゲットに見せて「受け入れられるか」を数値で確かめる調査です。何を見せるかで中身が変わり、コンセプト文を見せるならコンセプト受容性調査、試作品を使ってもらうなら試作品受容性調査、価格を聞くなら価格受容性調査になります。
この記事では3種類の違いと進め方・設問例を整理したうえで、調査会社が公開している料金と期間、トップバリュが公表している合格基準と改良事例、価格受容性調査で使うPSM分析の計算方法を、一次情報と実際に動かしたコードで解説します。調査を依頼する側が、見積りの前に決めておくことも具体的に挙げます。
まとめ:受容性調査の要点
- 受容性調査は、何を検証するかでコンセプト・試作品・価格の3種類に分かれ、開発の進み具合に合わせて主にこの順で使います。
- 進め方は「目的と合格ライン→提示物→対象者→手法→調査票→実査・集計・報告」の順です。期間はWeb定量で約1.5か月、HUT・CLTで約2か月かかります(クロス・マーケティングの標準スケジュール)。
- 費用は、クロス・マーケティングの標準料金でWeb定量150万円〜(1,000サンプル)、CLT200万円〜(100サンプル)、HUT150万円〜(100サンプル)です(いずれも税別・報告書込み)。報告書を含まない実査中心のHUTなら50万円台の例もあります。
- 合否の基準は調査の前に数値で決めます。トップバリュは、ブラインド試食で80%以上が「良い」「やや良い」と答えることと、価格を見せたうえでの購入意向が比較品を上回ることを合格条件として公表しています。
- 価格受容性調査の中心はPSM分析です。受容価格帯の両端はどの曲線の交点を使うかで定義が2つあり、同じデータでも価格帯の上限が650円変わりました(架空300人の計算)。
受容性調査の定義と需要性調査との違い
受容性調査は、商品・サービスの案(コンセプト、試作品、価格)をターゲット顧客に提示し、魅力度や購入意向などを聞いて「市場に受け入れられるか」を発売前に判断する調査です。コンセプトテスト(コンセプト受容性調査)と同じ意味で使われることもありますが、調査会社のサービス体系では、試作品や価格まで含めた総称として「受容性調査」が使われています。
調査会社のサービス体系を見ると、受容性調査がどの段階で使われるかが分かります。クロス・マーケティングは調査を「市場機会の発見→アイデア創出→戦略策定(STP)→マーケティング戦略→ライフサイクル管理」の工程で分類しており、マーケティング戦略の工程に、デザイン評価調査と並んでコンセプト受容性調査・試作品受容性調査・価格受容性調査の3つを置いています。狙う市場と顧客が決まった後に、具体的な案を評価するための調査という位置づけです。
同社は目的を、評価の点数を得ることだけでなく、なぜその評価になったのか(どの要素が魅力的か・不十分か)と、どんな属性の人が高く評価したのかまで把握することとしています。点数だけで案を選ぶと、改良の方向と売り込む相手が分からないまま発売することになります。
「受容性」の意味
「受容」はデジタル大辞泉で「受け入れて、とりこむこと」と説明される語で、「受容性」は受け入れられる度合いを指します。マーケティングで「受容性が高い」と言うときは、商品やサービスの案をターゲット顧客が抵抗なく受け入れ、買いたい・使いたいと評価する度合いが高いことを意味します。
なお、FFS理論(性格診断)の5因子にも「受容性」がありますが、こちらは人の思考・行動の特性を表す用語で、マーケティングの受容性調査とは関係ありません。FFSの受容性についてはFFS診断(FFS理論)とは?無料の可否・受け方と費用、5因子の意味を公式情報で解説で扱っています。
需要を測る調査と受容性調査の違い
「需要性調査」と「受容性調査」は混同されやすい言葉です。ここでは、需要を測る調査と受容性調査を、聞いている問いで比べます。
| 比較軸 | 需要を測る調査 | 受容性調査 |
|---|---|---|
| 問い | その種類の商品を求める人がどれだけいるか | この案が受け入れられるか |
| 提示物 | なし(カテゴリの利用実態を聞く) | コンセプト文・試作品・価格 |
| 代表的な調査 | U&A調査・市場規模推計 | コンセプト・試作品・価格受容性調査 |
| 実施時期 | 企画の前 | 案ができた後・発売前 |
需要があっても、自社の案が受け入れられるとは限りません。たとえば「時短の夕食」の需要が大きくても、出したコンセプトが競合品より弱ければ選ばれません。需要の大きさを確かめた後で、受容性調査で自社の案を評価する、という順番になります。
検証対象で分かれる受容性調査の3種類
| 種類 | 提示するもの | 主な手法 | 主に分かること |
|---|---|---|---|
| コンセプト受容性調査 | コンセプト文・イメージ | Web定量・CLT・グループインタビュー | どの案が支持されるか、誰に支持されるか |
| 試作品受容性調査 | 試作品(競合品と比較) | HUT・CLT | 競合品との優劣、コンセプトとの合致度 |
| 価格受容性調査 | 商品説明(+試作品) | Web定量(PSM・CVM・コンジョイント) | 受け入れられる価格帯、価格を変えたときの購入率 |
コンセプト受容性調査:候補案の絞り込み
複数のコンセプト案を提示し、魅力度・理解度・購入意向などを比べて有力案を選びます。クロス・マーケティングの標準設計は、Web定量で1,000サンプル、スクリーニング10問・本調査30問です。現物を見せたり試したりしたうえで評価してほしい場合はCLTを使い、1サンプルあたりの費用はWeb定量より上がります。コンセプト文の書き方と質問票の詳しい作り方はコンセプト調査(コンセプトテスト)とは?手法・進め方・費用と質問票の作り方で解説しています。
試作品受容性調査:競合比較とコンセプト合致度の確認
試作品を使ってもらい、競合品と比べた優劣と、使用感がコンセプトの約束どおりかを確かめます。クロス・マーケティングの試作品受容性調査は、確認することとして「競合品と比較した製品力」「試作品とコンセプトの合致度」「最適な価格設定」の3つを挙げ、試作品を使った後でPSM分析を行う設計も紹介しています。比較のための競合品(ベンチマーク品)と、銘柄を隠すブラインドにするかどうかは、調査設計の段階で決めます。
手法は、自宅で数日〜1週間使ってもらうHUT(ホームユーステスト)と、会場に集めて試してもらうCLT(会場調査)のどちらかです。調理や数日間の使用で評価が変わる商品はHUT、味や見た目、食品の温度などの条件を揃えて比べたい商品はCLTが向きます。それぞれの費用の内訳はホームユーステスト(HUT)とは?費用相場・進め方と調査会社の選び方と会場調査(CLT)とは?セントラルロケーションテストの費用内訳・進め方とHUTとの違いで扱っています。複数の試作品を1人に順番に試してもらうか、1人1品にするかといった提示の仕方はモナディックテストとは?シークエンシャル・プロトの違いと使い分けを参照してください。
価格受容性調査:受容価格帯と価格別の購入意向
商品を説明したうえで価格の感じ方を聞き、受け入れられる価格帯や、価格を変えたときの購入率を推定します。使う分析は知りたいことで決まります。
| 分析 | 知りたいこと | 聞き方 |
|---|---|---|
| PSM分析 | 受け入れられる価格帯・最適価格 | 4つの価格を金額で答えてもらう |
| CVM分析(仮想評価法) | 価格ごとの購入率 | 提示価格を変えて購入意向を聞く |
| コンジョイント分析 | 仕様と価格の最適な組み合わせ | 仕様と価格の組み合わせを評価 |
| 流出危険価格 | 競合品へ客が流れ始める価格 | 何円になったら競合品を買うか |
CVMは同じ人に価格を変えて繰り返し聞くと回答の精度が落ちるため、日本インフォメーションのコラムは回答者を複数の群に分け、群ごとに1つの価格を見せる方法を勧めています。同コラムは流出危険価格の例として、固定層では1,625円、併売層では1,475円で10%以上が競合品へ流れるという出力イメージを示しており、客が少しずつではなく、ある価格から一気に流れる点を確認できます。値上げを検討するときはPSMよりこちらが直接役に立ちます。コンジョイント分析の設計はコンジョイント分析とは?効用値の仕組み・手法の種類・進め方とツールを実務解説、値上げで売上と利益がどう動くかの計算は価格弾力性とは?計算式・中点法の求め方と高い商品・低い商品の例、値下げで利益が出る条件で扱っています。
クロス・マーケティングの価格受容性調査の標準設計は、Web定量で1,000サンプル、スクリーニング10問・本調査30問です。提示する価格のパターンが増えるほど必要なサンプル数が増え、金額を数値で入力してもらう必要があるため、Web定量で行うことが多いとしています。納品物には、ローデータ・集計表・報告書に加えて、CVMのシミュレーションツールが含まれます。
受容性調査の進め方と期間
調査を組み立てる6つの手順
- 目的と合格ラインを決める:調査結果で何を決めるのか(案の絞り込み・改良点の発見・発売の可否・価格)と、「何%以上なら合格」という基準を先に書き出します。基準の決め方は後述します。
- 提示物を確定する:コンセプト文とイメージ、試作品とベンチマーク品、価格を見せる範囲を決めます。試作品は必要な数量と保管・温度管理まで準備します。
- 対象者の条件を決める:商品のターゲットとなる性・年齢層に加え、競合からの乗り換えを見たいなら一定期間内の競合商品ユーザーを入れます。クロス・マーケティングは、記憶が新しい人ほど現状を反映するので利用期間を条件に入れるとしています。ターゲットが想定しにくい場合は、幅広い層に聞いて調査から見つける方法もあります。
- 手法を選ぶ:コンセプトと価格はWeb定量、試作品はHUTかCLTが基本です。評価理由を深く聞きたいときはグループインタビューを組み合わせます。
- 調査票を作る:対象者を絞るスクリーニングと、本調査の設問を作ります(設問例は次の章)。
- 実査・集計・報告:回答を集め、属性別のクロス集計で「誰に受け入れられたか」まで見ます。
手法別の標準スケジュール
クロス・マーケティングが公開している標準スケジュールを工程ごとに並べると、次のとおりです。
| 工程 | Web定量 | HUT | CLT |
|---|---|---|---|
| 調査企画・設計 | 1週間〜 | 2週間〜 | 1週間〜 |
| リクルート・調査票作成 | 1週間〜(調査票) | 2週間〜 | 3週間〜 |
| 実査 | 1週間〜(画面作成含む) | 発送1週間〜+試用1週間〜 | 1週間〜(準備含む) |
| 集計 | 3日〜 | 1週間〜 | 1週間〜 |
| 報告書作成 | 10日〜 | 10日〜 | 2週間〜 |
| 合計の目安 | 約1.5か月 | 約2か月 | 約2か月 |
HUTとCLTが長いのは、条件に合う対象者を集めるリクルートと、試作品の発送・試用に時間がかかるためです。試作品受容性調査は1回で合格するとは限らず、後で紹介するトップバリュの肉うどんは4回目のテストで合格しています。発売日から逆算するときは、試作品が揃う日から2か月に、改良後の再テスト分を足して計画してください。
受容性調査の設問例と回答形式
クロス・マーケティングが3種類それぞれのページで挙げている代表的な設問を、測る指標ごとに並べました。点数を聞く設問と、その理由を聞く設問を必ず組にするのが共通点です。
| 種類 | 指標 | 聞き方(要旨) | 回答形式 |
|---|---|---|---|
| コンセプト | 理解度 | 内容をどの程度理解できたか | 単一選択(段階評価) |
| コンセプト | 魅力度・好意度 | どの程度魅力を感じるか | 単一選択(段階評価) |
| コンセプト | 評価ポイント | 特に良いと感じた点はどこか | 複数選択(要素を分解したリスト) |
| コンセプト | 評価理由・改善点 | さらに良くするための改善点 | 自由記述 |
| 試作品 | 試用後満足度 | 全体としてどの程度満足したか | 単一選択(段階評価) |
| 試作品 | 購入意向 | 〇〇円程度で販売されたら買いたいか | 段階評価 |
| 試作品 | コンセプト合致度 | 使用感がコンセプトどおりか | 段階評価 |
| 試作品 | スイッチ意向 | 今使っている商品から乗り換えるか | 段階評価 |
| 価格 | PSMの4問 | 高い・安い・高すぎる・安すぎる価格 | 金額の数値入力 |
| 価格 | 支払意思(CVM) | 複数の金額パターンで買うか | 段階評価 |
コンセプトの理解度を先に聞くのは、評価の質を確かめる前提条件だからです。理解度が低い案の魅力度が低くても、案そのものが弱いのか、伝え方が悪いのかを区別できません。試作品の購入意向は、価格を見せたうえで聞く点に注意してください。価格を伏せた満足度が高くても、価格を見せると選ばれないことがあり、後述のトップバリュはこの2つを別の基準で判定しています。
価格受容性調査で使うPSM分析の手順
PSM(Price Sensitivity Meter。国内ではPrice Sensitivity Measurementとも表記)分析は、オランダの経済学者ピーター・ファン・ヴェステンドルプが1976年のESOMAR(欧州で発足した市場調査の国際業界団体)の大会で発表した価格測定の手法です。総務省統計局「なるほど統計学園」も、新商品の価格を決める方法としてPSM分析を紹介しています。
4つの質問と累積曲線
商品を提示して特徴を説明し、次の4つの価格を金額で答えてもらいます(質問文は総務省統計局の例)。
- 商品が高いと感じ始める価格は?
- 商品が安いと感じ始める価格は?
- 商品が高すぎて買わないと感じる価格は?
- 商品が安すぎて品質に不安を感じ始める価格は?
回答を価格ごとの累積割合にすると、「高い」「高すぎる」は価格が上がるほど増える右上がりの曲線、「安い」「安すぎる」は右下がりの曲線になります。総務省統計局の架空例では、商品Aを「高い」と感じる人は2,500円で10%、3,000円で22%、3,500円で50%と増えていきます。
4つの交点と受容価格帯
4本の曲線の交点から、次の4つの価格を読み取ります。上限価格と下限価格の間が受容価格帯です。
| 価格 | 交点(国内調査会社の一般的な定義) | 意味 |
|---|---|---|
| 最適価格 | 高すぎる × 安すぎる | 「高すぎる」と「安すぎる」の割合が等しい価格 |
| 妥協価格 | 高い × 安い | 高い・安いの評価が分かれる価格 |
| 上限価格 | 高すぎる × 安い | これより高いと「高すぎる」が「安い」を上回る価格 |
| 下限価格 | 高い × 安すぎる | これより安いと「安すぎる」が「高い」を上回る価格 |
クロス・マーケティングのPSM解説も、上限価格を「高すぎる」と「安いと思う」の交点、下限価格を「高いと思う」と「安すぎる」の交点としています。同社は、妥協価格はトップシェアの商品の価格に近くなり、最適価格は妥協価格より少し安くなるケースが多いと説明しています。
定義で変わる受容価格帯の両端
上の表の上限・下限は、実は原典とは別の定義です。RのPSM分析パッケージ pricesensitivitymeter(CRAN版1.3.3)のマニュアルは、受容価格帯の定義を2つ用意し、次のように説明しています。
- 原典(original・既定値):下限は「安すぎる」と「安くない(=安いの反転)」の交点、上限は「高すぎる」と「高くない(=高いの反転)」の交点。ファン・ヴェステンドルプの論文の定義としている。
- 狭い定義(narrower):下限は「高い」と「安すぎる」の交点、上限は「高すぎる」と「安い」の交点。マニュアルは「一部の市場調査会社が使う」定義で、受容価格帯が狭くなると説明している。
クロス・マーケティングやCREXの解説など、国内の調査会社が一般に使っているのは後者の狭い定義です。どれくらい差が出るかを確かめるため、架空の回答データ300人分で両方を計算しました(Python 3.9で実行)。価格を10円刻みで走査し、右上がりの曲線が右下がりの曲線に初めて追いついた価格を交点としているため、補間で求める値やRパッケージの出力とは数十円ずれることがあります。
# PSM(Van Westendorp)の4交点を2つの定義で計算する(架空データ)
import random
random.seed(10516)
n = 300
rows = []
for _ in range(n):
base = random.gauss(2400, 450) # 回答者ごとの「ふつう」と感じる価格
too_cheap = round(base * random.uniform(0.40, 0.60), -1)
cheap = round(base * random.uniform(0.70, 0.90), -1)
expensive = round(base * random.uniform(1.10, 1.35), -1)
too_exp = round(base * random.uniform(1.45, 1.90), -1)
rows.append((too_cheap, cheap, expensive, too_exp))
def share(values, pred):
return sum(1 for v in values if pred(v)) / len(values)
tc, ch, ex, te = (list(c) for c in zip(*rows))
grid = range(500, 6001, 10) # 10円刻みで走査
curve = {}
for p in grid:
curve[p] = {
"too_cheap": share(tc, lambda v: v > p), # pでは安すぎると感じる人
"cheap": share(ch, lambda v: v > p), # pでは安いと感じる人
"expensive": share(ex, lambda v: v <= p), # pでは高いと感じる人
"too_exp": share(te, lambda v: v <= p), # pでは高すぎると感じる人
}
curve[p]["not_cheap"] = 1 - curve[p]["cheap"]
curve[p]["not_expensive"] = 1 - curve[p]["expensive"]
def cross(rising, falling):
"""rising(右上がり)の曲線が falling(右下がり)以上になる最初の価格"""
for p in grid:
if curve[p][rising] >= curve[p][falling]:
return p
print("OPP 最適価格 (高すぎる×安すぎる):", cross("too_exp", "too_cheap"))
print("IPP 妥協価格 (高い×安い) :", cross("expensive", "cheap"))
print("[原典] 下限 PMC (安くない×安すぎる):", cross("not_cheap", "too_cheap"))
print("[原典] 上限 PME (高すぎる×高くない):", cross("too_exp", "not_expensive"))
print("[狭義] 下限 (高い×安すぎる) :", cross("expensive", "too_cheap"))
print("[狭義] 上限 (高すぎる×安い) :", cross("too_exp", "cheap"))
OPP 最適価格 (高すぎる×安すぎる): 1950
IPP 妥協価格 (高い×安い) : 2290
[原典] 下限 PMC (安くない×安すぎる): 1480
[原典] 上限 PME (高すぎる×高くない): 3300
[狭義] 下限 (高い×安すぎる) : 1810
[狭義] 上限 (高すぎる×安い) : 2650
最適価格と妥協価格はどちらの定義でも同じですが、受容価格帯は原典の定義で1,480〜3,300円、狭い定義で1,810〜2,650円になりました。上限が650円も違うので、たとえば3,000円が受容価格帯に含まれるかどうかが定義次第で逆になります。受容価格帯に含まれても売れるとは限らないので、販売できるかどうかは別に確かめます(後述)。調査会社が変わったときや、過去の調査と比べるときは、報告書の受容価格帯がどの交点で計算されたかを必ず確認してください。
上のコードの架空データは、生成の時点で「安すぎる<安い<高い<高すぎる」の順になるように作っているので除外処理を省いていますが、実際のデータではこの順になっていない矛盾した回答が混ざります。pricesensitivitymeter は既定で(validate = TRUE)この矛盾した回答者を除いて計算するので、自分で集計するときも先に除外してください。
PSM分析が向かない商品
総務省統計局は、PSM分析は新しいコンセプトの商品の受容価格帯を知るための手法なので、価格の認識が固まっている既存のタイプの商品にはあまり適さないと注記しています。また、日本インフォメーションのコラムは、家のように仕様によって価格が大きく変わり、回答者が価格を思い浮かべにくい商品もPSMに向かないとしています。こうした商品では、価格を提示して購入意向を聞くCVMや、仕様と価格を組み合わせて聞くコンジョイント分析が候補になります。
PSMで出るのは消費者が感じる値ごろ感で、原価は考慮されていません。受容価格帯が原価割れになる場合は、価格ではなく仕様やコンセプトを見直すことになります。受容価格帯をそのまま売価にせず、CVMで価格ごとの購入率を出すか、テスト販売で実際の売れ行きを確かめてから決めてください。テスト販売の進め方はテストマーケティングとは?手法の選び方と撤退基準・検証環境の作り方で解説しています。
受容したと判断する基準の決め方
受容性調査は「評価が高かった」で終わらせず、調査の前に合格ラインを数値で決めておくことが大切です。結果を見てから基準を決めると、どの案でも通す理由が作れてしまいます。
基準の参考になるのが、トップバリュ(イオンのプライベートブランド)が公開しているモニターテストの判定方法です。同社は年間1,200件以上のモニターテストを外部の調査会場で行い、商品をA〜Dで判定しています。対象者は、イオンを月1回以上利用し、プライベートブランド商品を購入していて、かつ当該カテゴリの商品を月1回以上買う人(基本は20〜50代の女性)です。テスト品と比較品には「P」「Q」の記号だけを付けて試食してもらいます。評価の軸は2つです。
| 評価軸 | 提示条件 | 合格条件 |
|---|---|---|
| 絶対品質 | ブラインド(ブランド名・価格を見せない) | 試食者の80%以上が「良い」「やや良い」 |
| 知覚品質 | ブランド名・価格・容量を見せる | 購入意向が比較対象の商品を上回る |
同社は2022年にこの基準を70%から80%へ引き上げています。中身の評価(ブラインド)と、価格を含めた評価(オープン)を分けて判定している点が参考になります。中身は良いのに、ブランド名・価格・容量を見せると比較品に負ける場合は、課題が中身ではなくそれらの提示情報の側にあると分かります。どれが原因かまでは、提示する情報を1つずつ変えて確かめる必要があります。
自社で基準を決めるときは、上位2つの選択肢の合計(トップ2ボックス)を過去の調査の平均値(ノーム値)と比べる方法がよく使われます。ノーム値の作り方と必要なデータ数はノーム値(ノルム値)とは?計算例とExcelでの出し方、必要なデータ数で解説しています。比べる案の差が誤差の範囲かどうかは、サンプル数のほか評価の割合や、同じ人が複数案を評価したかどうかでも変わるので、何サンプル必要かは定量調査とは?定性調査との違い・手法とサンプルサイズの決め方を参考にしてください。
受容性調査の費用相場と依頼先の選び方
調査会社が公開している料金
クロス・マーケティングは、受容性調査の3種類それぞれの標準料金を公開しています。
| 種類・手法 | 標準料金(税別) | 前提 | 期間の目安 |
|---|---|---|---|
| コンセプト受容性(Web定量) | 150万円〜 | 1,000s・SC10問・本調査30問 | 約1.5か月 |
| コンセプト受容性(CLT) | 200万円〜 | 100s・SC10問・本調査20問 | 記載なし |
| 試作品受容性(HUT) | 150万円〜 | 100s・1商品・SC15問・本調査25問 | 約2か月 |
| 試作品受容性(CLT) | 200万円〜 | 100s・SC10問・本調査20問 | 約2か月 |
| 価格受容性(Web定量) | 150万円〜 | 1,000s・SC10問・本調査30問 | 約1.5か月 |
※sはサンプル(回答者数)、SCはスクリーニング(対象者を絞り込む事前質問)。納品物はローデータ・集計表・報告書です(コンセプト受容性のCLTは納品物の記載なし)。
これらは調査設計から報告書作成までを含む料金です。実査とデータ納品だけなら金額は大きく下がります。アスマークのHUT料金例は、2製品・108サンプル・試用3日間・20問・ローデータ納品で537,786円(税別)です。クロス・マーケティングの料金表でも、HUTは50サンプル+予備5サンプルで550,000円〜、CLTは同じく55サンプルで800,000円〜(いずれも税別・単純集計表までの納品)です。アスマークが公開しているCLTの見積例は、110名(予備10名を含む)・紙のアンケート20問・リクルートから報告書作成までで合計2,011,350円(各費目に消費税率10%が付く税抜の合計)で、このうち報告書作成費は200,000円と総額の約1割です。複数社の見積りは、対応範囲と納品物を揃えてから比べます。
見積りを依頼する前に決めておく項目
見積り額を大きく動かすのは、次の4つです。依頼前に社内で決めておくと、見積りの比較がしやすくなります。
- 対象者の条件と出現率:条件が厳しく該当者が少ないほど、スクリーニングの配信数とリクルート費が増えます。アスマークのCLT見積例では、リクルート費用が1名4,800円×110名=528,000円で、総額2,011,350円の約4分の1を占めています。
- サンプル数:案を比べるなら、案ごと・比較したい属性ごとに必要な数を見積もります。
- 提示物:コンセプト文だけか、試作品の発送・回収があるか。HUTでは発送・回収・ブラインド作業の費用が加わります。
- 納品物:ローデータのみか、集計表・報告書・シミュレーションツールまで含むか。
依頼先の選び方
依頼先は、検証したいものに合わせて選びます。コンセプトや価格のWeb定量なら、自社パネルの規模とターゲットの出現率に強い会社を選びます。試作品の評価なら、自社会場の有無やHUTの発送・回収の体制を確認します。たとえばクロス・マーケティングは、調理が必要な味覚テストにも対応する自社会場を持ち、アンケートパネルは約1,446万人(2026年1月時点)と公表しています。設計例と料金を公開している会社は、見積り前に費用の感覚をつかむのに役立ちます。
予算が限られる場合は、セルフ型のアンケートツールで自社が設計・集計する方法もあります。その場合は、PSMの交点の定義や矛盾回答の除外、属性別のクロス集計を自分で行うことになります。自社の顧客や会員に繰り返し調査をかけるなら、アンケートシステムとは?機能・料金相場と選び方、Excel集計から切り替える判断で既製ツールと自社構築の違いを整理しています。会員データと連携した調査の仕組みを自社で持ちたい場合は、アンケート管理システム開発の相談先として当社も対応しています。
公開されている受容性調査の事例
試作品の評価と改良:トップバリュのモニターテストとHUT
トップバリュは、モニターテストとHUTで評価が低かった商品を改良した経緯を公開しています。
- 肉うどん:初回のモニターテストは「C判定」。麺のコシが弱い、つゆの肉のうまみや甘みが弱い、という声を受けて、麺と、濃口・薄口の2種の醤油を使ったつゆを見直し、具材を19%増量。4回目のテストでA判定を取得しました。
- 1/3日分の野菜が摂れるタンメン:初回は「B判定」。「コンセプトとは違い、生姜、胡椒、ごま油の風味を感じられない」という声があり、コンセプトと中身のずれが課題でした。スープの味を見直し、インタビュー調査も行ったうえで2回目のテストでA判定を取得しています。
- キムチ鍋つゆ:発売後の売上は好調でしたが、その後のホームユーステストで「沢山野菜を入れたら、キムチの風味も味も薄くなってしまった」という声が出ました。3〜4口食べたときの「先味」の印象では分からず、家庭で1食を食べ切ったときの評価で見つかった課題です。みその増量や、だしをポークオイルからチキンオイルに変えるなどのリニューアル後、モニターテストで再びA判定を取得しています。
3つ目の事例は、試作品受容性調査の手法の選び方を示しています。会場での試食は最初の数口の味を同じ条件で比べるのには向いていますが、家庭で具材を入れて1食を食べ切ったときの評価は分かりません。使い方によって評価が変わる商品は、CLTに合格してもHUTで確かめる価値があります。
価格受容性調査:PSMとCVMの公開結果
価格受容性調査は、調査会社が自主調査として結果を公開しています。
- ネオマーケティング(2021年1月・全国20歳以上1,500名をA〜Gの7群に分けて実施):架空の商品「完全栄養パン」の同じコンセプトを見せ、手法ごとに結果を比べました。CVMでは200円を提示したときの購入意向率が54.8%、300円では39.5%、PSMの適正価格帯は205〜208円でした。同社は、PSMの受容価格帯が半数以上に受け入れられていると仮定すれば両手法の差は小さく、どちらも誤りとは言い切れないとしたうえで、CVMの利点を「価格ごとの購入意向率を出せる」こと、PSMの利点を「回答者視点の適正価格が出る」ことと整理しています。
- クロス・マーケティング(2024年7月・全国20〜69歳1,100サンプル):セルフ型アンケートツールでPSMを行い、最適価格を500mlペットボトル飲料130円、たまご10個199円、食パン1袋180円、カップラーメン149円、ハンバーガー299円と公表しました。2023年5月の調査と比べてハンバーガーの上限価格は約200円下がり、500円になっています。同じ設問を時期を変えて繰り返すと、受容価格帯の変化を追えることが分かります。
発売判断の前に確認する5項目
受容性調査で判断を誤るのは、調査の結果ではなく、確かめていない項目が残っているときです。発売を決める前に、次の5つが埋まっているかを確認します。
- コンセプトと使用感の一致:コンセプト合致度を聞いたか(タンメンの事例)。
- 理解度:魅力度が低い案を落とす前に、伝わっていたかを確かめたか。伝わっていなければ、案を捨てずにコンセプト文を直して再評価します。
- 家庭での使用時の評価:調理や数日間の使用で評価が変わる商品を、会場の試食だけで合格にしていないか(キムチ鍋つゆの事例)。
- 採算:受容価格帯が原価を割っていないか。
- 事前の合格基準:結果を見る前に「何%以上で合格」と決めてあったか。
よくある質問
受容性調査とコンセプトテストは同じですか?
コンセプトテストは、受容性調査のうちコンセプト受容性調査を指すことが多い用語です。受容性調査は、試作品受容性調査や価格受容性調査まで含めた総称として使われます。
受容性調査の費用はいくらですか?
クロス・マーケティングの標準料金では、Web定量(1,000サンプル)が150万円〜、HUT(100サンプル)が150万円〜、CLT(100サンプル)が200万円〜(いずれも税別・報告書込み)です。調査設計や報告書を含まない実査中心のHUTなら、50万円台の例もあります(アスマーク:2製品・108サンプル・ローデータ納品で537,786円、クロス・マーケティング:50サンプル+予備5サンプルで550,000円〜、いずれも税別)。
受容性調査の期間はどれくらいですか?
クロス・マーケティングの標準スケジュールでは、Web定量のコンセプト・価格受容性調査が約1.5か月、HUT・CLTの試作品受容性調査が約2か月です。試作品の改良後に再テストする場合は、その分を足して計画します。
価格受容性調査ではどの分析を使いますか?
新しいカテゴリの価格の目安を決めるならPSM分析、価格を変えたときの購入率を試算するならCVM分析、仕様と価格を同時に決めるならコンジョイント分析を使います。値上げで競合品へ客が流れる価格を知りたいときは、流出危険価格を聞きます。
試作品受容性調査はCLTとHUTのどちらで行いますか?
味や見た目を同じ条件で比べたいならCLT、調理や数日間の使用で評価が変わる商品ならHUTが向きます。CLTで合格した後にHUTで実際の使い方を確かめる組み合わせもあります。