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リレーションシップマーケティングとは?定義と事例、CRMとの違い・向かない条件

リレーションシップマーケティングとは?定義と事例、CRMとの違い・向かない条件

リレーションシップマーケティング(関係性マーケティング)は、1回ごとの販売ではなく、顧客との関係を獲得・維持・強化する単位でマーケティングを組み立てる考え方です。言葉の出どころは1983年の Leonard L. Berry の論文で、1994年の Morgan と Hunt の論文が「信頼」と「コミットメント」を中心に理論化しました。この記事では、原典の定義、取引型マーケティングやCRMとの違い、スターバックス リワードの事例、手法と進め方を順に整理します。長く付き合う顧客が必ずしも利益を生まないことを示した研究も取り上げ、どんな商材なら向かないかの判断材料にします。

まとめ:リレーションシップマーケティングの定義と判断の要点

  • 定義:顧客関係の獲得・維持・強化(Berry 1983)。Morgan & Hunt(1994)は「成功する関係的交換の確立・発展・維持」と定義し、取引先や社内も対象に含めました。
  • 取引型との違い:評価の単位が「1回の取引の売上」から「関係が続く期間の価値(LTV)」に変わります。
  • CRMとの違い:リレーションシップマーケティングは関係づくりの考え方です。CRMは顧客関係を管理する戦略や仕組みも含みますが、以下の比較では顧客情報を管理するCRMシステムを指します。
  • 事例:スターバックス リワードは米国の90日アクティブ会員が3,580万人で、米国直営店の売上の59%を会員の支払いが占めます(2026年6月28日時点の公式ダッシュボード)。
  • 向かない条件:再購入や紹介から見込める追加利益が関係維持費用を下回る顧客層には、継続的な特典や個別対応への投資を見送ります。顧客が望まない接触も控えます。

以下では、定義の原典から入り、手法・事例・向かない条件・進め方と指標の順に説明します。

リレーションシップマーケティングの定義と提唱者

Berry(1983)の定義:獲得・維持・関係の強化

「relationship marketing」という語を最初に使ったのは、サービス・マーケティング研究者の Leonard L. Berry とされています。初出は、米国マーケティング協会(AMA)が1983年に刊行した論文集『Emerging Perspectives on Services Marketing』(Berry、G. Lynn Shostack、Gregory D. Upah 編)に収めた論文「Relationship Marketing」です。後続の論文で繰り返し引用される Berry の定義は、顧客関係を「引きつけ、維持し、(複数のサービスを提供する組織では)強化すること」です。

この定義の要点は、新規顧客の獲得をマーケティングの最終目的ではなく途中段階と見なしたことにあります。サービス・マーケティングの論文集から出てきた概念で、同じ顧客との取引が何年も続くサービス業を想定しています。「複数のサービスを提供する組織では強化」という但し書きは、同じ顧客に別のサービスも使ってもらうことを指します。

Morgan & Hunt(1994)のコミットメント・信頼理論

Robert M. Morgan と Shelby D. Hunt の「The Commitment-Trust Theory of Relationship Marketing」(Journal of Marketing 58巻3号、1994年、20〜38ページ)は、要旨の冒頭でリレーションシップマーケティングを「成功する関係的交換の確立・発展・維持」(establishing, developing, and maintaining successful relational exchanges)と定義し、マーケティングの理論と実務の大きな転換だと位置づけました。

この論文は関係の相手を顧客に限らず、仕入先、競合や行政との提携、社内の部門や従業員まで含む10の形態に整理しています。そのうえで、関係がうまくいくかを左右する媒介変数として「関係へのコミットメント(続けたいという意志)」と「信頼」を置き、自動車タイヤ販売店のデータで検証しました。実務に引き直すと、ポイントや値引きで引き止めるより、約束を守ることと相手が続けたいと思える理由を作ることが先、という順序になります。

「リレーションシップ」「リレーション」のビジネス上の意味

英語の relationship は「関係」「つながり」を指します。ビジネスで「リレーションを築く」「リレーション構築」と言うときは、取引相手と継続的に連絡を取り合い、相談される間柄になることを指すのが一般的です。カスタマーリレーションシップ(customer relationship)は顧客との関係そのもの、それを管理する仕組みがカスタマーリレーションシップマネジメント(CRM)です。日本語の「関係性マーケティング」はリレーションシップマーケティングの訳語で、同じものを指します。

神戸大学MBAのビジネス・キーワード「リレーションシップ・マーケティング」(髙嶋克義、1999年配信)は、ワン・トゥー・ワン・マーケティングやセグメント・ワン戦略を類語に挙げ、「個々の顧客との双方向コミュニケーション活動を重視したマーケティング」と説明しています。

取引型マーケティング・CRM・One to Oneマーケティングとの違い

比較軸 取引型マーケティング リレーションシップマーケティング CRM
位置づけ 考え方 考え方 管理の仕組み・システム
評価の単位 1回の取引 関係が続く期間 顧客ごとの記録
主な指標 売上・獲得数・CPA 継続率・LTV・推奨意向 (両方を計測する基盤)
コミュニケーション マス・一方向 個別・双方向 履歴を共有して実行
主な対象 新規顧客 既存顧客+取引先・社内 既存顧客・見込み客

青山学院大学の久保田研究室の解説は、取引型を「いま売り切る」、関係型を「長くつき合う」と対比し、純粋な取引型も純粋な関係型も現実にはほとんど無い「理念型」だとしています。実務では、新規獲得の施策と既存顧客の施策の配分をどちらへ寄せるかという程度の差として扱うのが現実的です。

CRMは考え方を実行する道具の位置づけです。顧客データベースを入れただけでは関係は深まらず、データを使ってどの顧客にいつ何を届けるかの設計が先に要ります。CRMの機能やSFA・MAとの違いはCRM(顧客関係管理)の機能とSFA/MAとの違いで扱っています。One to Oneマーケティング(Peppers & Rogers、1993年)は顧客一人ひとりに合わせて対応を変える手法で、リレーションシップマーケティングを実行する方法の一つです。メールでの具体的な配信方式はOne to Oneメールの配信方式と到達要件にまとめています。

注目された背景と「顧客維持は儲かる」という主張の出典

前出の髙嶋(1999年)は、関係性が強調されるようになった要因として、消費の多様化、メーカーから小売企業へのパワーシフト、情報処理・通信技術の進歩の3つを挙げています。多数の顧客との双方向のやり取りを、情報技術で管理できるようになったことが実行面の前提でした。

「関係を保てば利益が上がる」という主張を広めたのは、Frederick F. Reichheld と W. Earl Sasser Jr. の「Zero Defections: Quality Comes to Services」(Harvard Business Review、1990年9-10月号)です。本文は、離反率を5ポイント下げた場合の顧客価値の増加を、銀行の支店網で85%、保険ブローカーで50%、自動車整備チェーンで30%と紹介しています。ここでの顧客価値は、顧客との取引期間に得られる利益の現在価値であり、企業の単年度利益の実績増加率ではありません。また、図表には「Reducing Defections 5% Boosts Profits 25% to 85%」という見出しを付けています。クレジットカード会社の MBNA America では、離反率を5ポイント改善した場合、顧客1人あたりの平均価値が125%を超えて増加するとも紹介しています。数字は業種で25%から85%まで開いており、「5%の改善で利益が25%増える」と一律の定数のように扱うのは原典の読み方として誤りです。自社の数字は自社の顧客データで出す必要があります。

「新規獲得は既存維持の5倍のコストがかかる」という1:5の法則も同じ文脈で引かれますが、出典と数値の幅には注意が要ります。原典の検証は1:5の法則と5:25の法則の原典データで行っています。

リレーションシップマーケティングの代表的な手法

会員・ロイヤルティプログラムによる購買履歴の個人単位での蓄積

スターバックス リワードのように、ポイントや特典で継続利用に報いる仕組みです。後述の公式ダッシュボードでは、会員の利用規模と支払額比率を確認できます。値引きの効果よりも、会員IDで購買履歴が個人単位にたまり、次の打ち手を顧客ごとに変えられるようになる点に価値があります。ポイントの付与率だけを競うと、特典目当ての利用者が増えるだけで関係は深まりません。

購買データに基づく個別コミュニケーション:メール・LINE・アプリ通知

購入した商品、来店頻度、最終購入日などで顧客を分け、内容と頻度を変えて届けます。データの持ち方とRFM分析の手順はデータベースマーケティングの顧客データの持ち方とRFM分析を参照してください。広告宣伝メールは特定電子メール法で受信者の事前同意(オプトイン)が原則とされるため、会員登録の時点で配信の同意を取っておく設計が前提になります。

顧客の声の収集と双方向の接点:アンケート・NPS・コミュニティ

アンケートや NPS(Net Promoter Score:0〜10点の推奨意向の回答から、推奨者の割合と批判者の割合の差を求める指標)で関係の状態を測り、不満の理由に手を打ちます。ユーザー会やオンラインコミュニティは、顧客同士がつながる場を企業が用意するやり方で、製品改善の意見も集まります。NPSなどロイヤルティ指標の測り方は顧客ロイヤルティの測り方(NPS・JCSI)で解説しています。

BtoBの関係構築:担当者の固定とカスタマーサクセス

法人取引では、顧客企業ごとに担当営業や担当のカスタマーサクセスを固定し、導入後の活用支援と定例のレビューで関係を保ちます。Morgan & Hunt の理論が想定した「取引先との関係」に最も近い領域で、解約(チャーン)の兆候を利用状況のデータから早めに拾うことが中心の業務になります。

リレーションシップマーケティングの事例:スターバックス リワード

スターバックスが投資家向けに公開している「Starbucks Card, Loyalty & Mobile Dashboard」(2026年6月28日時点のデータ、2026年7月7日更新)によると、米国のスターバックス リワードの90日アクティブ会員は3,580万人です。米国の直営店の売上(支払額ベース)のうち59%を会員の支払いが占め、モバイルオーダーは取引件数の33%にあたります。2024年度第3四半期の会員数は3,380万人、会員の支払い比率は60%でした。2年で会員数は200万人増えた一方、売上に占める比率は58〜60%の範囲で横ばいです。

この数字から読めるのは、会員プログラムが売上の過半を「誰が買ったか分かる取引」に変えているという点です。会員IDにひもづく購買履歴があるので、来店が途切れた会員への特典や、よく買う商品に合わせたおすすめをアプリで出し分けられます。リレーションシップマーケティングの手法のうち、会員プログラムと個別コミュニケーションを、モバイルオーダーという日常の注文手段と一体にした例です。一方で、会員の支払額比率がこの期間に58〜60%で推移したことだけでは、会員化の上限や成長余地の所在は判断できません。判断には、非会員からの転換率や会員1人あたりの来店頻度・購入額も必要です。

事例を読むときは、会員数と売上比率のように会社が公表した数値と、記事の書き手による解釈を分けてください。「ある企業がアプリで顧客満足度を大幅に高めた」といった出所の書かれていない成功談は、数値の定義も期間も確かめられません。

リレーションシップマーケティングが向かない条件と失敗パターン

長期顧客の収益性:Reinartz & Kumar(2002)の検証

Reinartz と Kumar が Harvard Business Review(2002年7月号)に書いた「The Mismanagement of Customer Loyalty」は、米国の法人向けハイテクサービス企業、米国の通販会社、フランスの食品小売、ドイツのダイレクト証券の4社で、1万6,000を超える個人・法人顧客を4年間追跡しました。取引期間の長さと利益の相関係数は、食品小売0.45、法人サービス0.30、証券0.29、通販0.20で、弱いか中程度にとどまっています。長く買い続ける顧客ほど対応コストが安い、価格に鈍感、新しい顧客を連れてくる、という通説を支える証拠はほとんど見つからなかった、というのが結論です。

法人サービス企業では上位250社の顧客ごとに専用サイトまで作っていましたが、取引量の多い顧客ほど自分の価値を知っていて、値引きや手厚い対応を求めました。著者らは顧客を利益と継続性の2軸で分け、利益が低いのに長く付き合う顧客を barnacles(船底のフジツボ)、利益は高いが短期間で去る顧客を butterflies(蝶)と呼んでいます。どちらも低い strangers には投資しない、butterflies には短い購買期間に集中して売る、というように、関係づくりにかける費用を層ごとに変えるべきだというのが提言です。継続期間だけで「良い顧客」を選ぶと、この barnacles に特典を配り続けることになります。

顧客が望まない関係構築:Fournier, Dobscha & Mick(1998)の批判

Fournier、Dobscha、Mick の「Preventing the Premature Death of Relationship Marketing」(Harvard Business Review、1998年1-2月号)は、企業が一対一の関係を求めすぎて、消費者がうんざりしている状況を指摘しました。関係づくりには双方が自ら望んで参加すること、与えるものと受け取るもののつり合い(互恵性)が欠かせないのに、多くの企業は顧客から情報を取るだけで見返りを返していない、という批判です。

論文は、宿泊客に個人情報を求めながら個別のサービスは返さないホテルや、レンタカーのクラブ会員だけを車の前まで送り、その特別扱いを見た非会員の常連客が、自分は大切にされていないと感じた例を挙げています。会員登録やアンケートで情報を集めても、その情報で顧客の手間が減る、提案が的確になる、といった見返りが無ければ、顧客にとっては一方通行の囲い込みに映ります。集めたデータの使い道を顧客に説明できない施策は、始める前に止めるべきです。

低頻度・低関与商材の関係維持費用と回収条件

住宅の仲介や引っ越し、葬儀のように同じ顧客が短期間に再購入しない商材や、価格で選ばれやすい日用品では、再購入頻度だけでなく、紹介や関連サービスから得る利益も含めて、関係維持費用を回収できるか検討します。Reinartz & Kumar(2002)が利益と継続性を分けて評価したように、施策ごとの収支を比較します。再購入促進の収支が合わず、紹介施策の期待利益が費用を上回るなら、紹介と口コミの経路づくりを優先します。関係づくりを始める前に、自社の顧客が1年に何回買うのか、上位2割の顧客が売上の何割を占めるのかを数字で確かめてください。

リレーションシップマーケティングの進め方と測る指標

  1. 対象顧客を決める:購買頻度と粗利で顧客を分け、関係づくりの費用をかける層を絞ります。全員を同じように扱わないことが出発点です。
  2. 顧客IDで履歴をつなぐ:店舗・EC・問い合わせの履歴を同じ顧客IDに紐づけます。ここができないと個別対応ができません。
  3. 接点ごとの打ち手を決める:初回購入後、2回目購入の前、離反の兆候が出たとき、の3つの時点で何を届けるかを先に決めます。
  4. 指標を1つに絞って測る:最初は継続率か2回目購入率を主要指標に選び、対象顧客と観測期間をそろえて比較します。可能なら施策を実施しない比較群も設け、季節性や顧客構成の変化を施策効果と混同しないようにします。
  5. 費用と回収を見直す:特典・人件費・ツール費用の合計と、継続で増えた粗利を四半期ごとに比べ、合わない層からは撤退します。

指標の定義と計算は記事ごとに分けています。

指標 何がわかるか 計算方法の解説
リテンションレート 顧客が残った割合 リテンションレートの計算式2種類
チャーンレート 顧客が離れた割合 チャーンレートの計算方法
LTV 1顧客が生む累計の価値 LTVの計算方法
NPS 推奨意向 顧客ロイヤルティの測り方

リテンション施策の具体例と、解約の引き止めがどこから違法になるかはリテンションマーケティングの施策と解約引き止めの法的な線引きで扱っています。

よくある質問

リレーションシップマーケティングの例にはどんなものがありますか?

代表例は会員プログラムです。スターバックス リワードのように、会員IDで購買履歴を集め、特典と個別の案内で再来店を促します。ほかに、購入履歴に応じたメール・LINEの出し分け、ユーザー会やオンラインコミュニティ、法人向けの担当制カスタマーサクセスもリレーションシップマーケティングの手法です。共通点は、1回の販売ではなく関係が続く期間の価値で施策を評価することです。

関係性マーケティングとリレーションシップマーケティングは違うものですか?

同じものです。関係性マーケティングは relationship marketing の日本語訳で、本記事では、どちらの表記も同じ概念を指す言葉として扱います。One to Oneマーケティングは顧客ごとに対応を変える手法を指す言葉で、リレーションシップマーケティングを実行する方法の一つという位置づけです。

リレーションシップマーケティングとCRMの違いは何ですか?

リレーションシップマーケティングは顧客との関係を軸に施策を組み立てる考え方で、CRM(顧客関係管理)はそれを実行するために顧客情報を一元管理する仕組みやシステムです。CRMを導入しても、どの顧客にどの時点で何を届けるかの設計が無ければ関係は深まりません。考え方が先、道具が後という順序で検討します。

ビジネスで使う「リレーション」「リレーションシップ」の意味は?

「リレーション」は英語の relation、「リレーションシップ」は relationship に対応し、いずれも関係やつながりを表します。ビジネスでは取引先や顧客との関係を指して使われます。「リレーションを築く」は、定期的に連絡を取り、相談される間柄になることです。顧客との関係を管理する仕組みをカスタマーリレーションシップマネジメント(CRM)、投資家との関係づくりをインベスターリレーションズ(IR)と呼ぶように、相手を表す語と組み合わせて使われます。

リレーションシップマーケティングを提唱したのは誰ですか?

「relationship marketing」という語を初めて使ったのは、米国のサービス・マーケティング研究者 Leonard L. Berry の1983年の論文とされます。その後、1994年に Robert M. Morgan と Shelby D. Hunt が Journal of Marketing の論文で「コミットメント・信頼理論」を示し、取引先や社内まで含む枠組みに広げました。北欧学派の Christian Grönroos も、マーケティング・ミックスから関係性への転換を論じた研究者として知られています。

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