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マーケットインとは?学会規格の定義と顧客ニーズを仕様に変える手順

マーケットインとは?学会規格の定義と顧客ニーズを仕様に変える手順

マーケットインは、顧客や社会のニーズを先に把握し、それを満たす製品・サービスを提供することを優先する考え方です。日本品質管理学会の規格「品質管理用語」に見出し語として定義が置かれており、同規格の付録Cでは、対応するJIS・ISO規格の定義が「なし」と記載されています。この記事では、その定義文を規格と辞典の原文で確認したうえで、プロダクトアウトとの違い、ニーズの3区分、顧客の声を製品仕様に変換する具体的な手順までを整理します。

まとめ:マーケットインの要点

  • 定義:日本品質管理学会規格「品質管理用語」(2023年改正版)の1.4は、マーケットインを「顧客・社会のニーズを把握し,これらを満たす製品・サービスを提供していくことを優先するという考え方」と定めています。
  • 対応英語:同規格の付録Aは、マーケットインに対応する英語を market-in としています。marketing や customer-oriented ではありません。
  • 学会規格の対照表では対応定義が「なし」:付録Cで、1.4 マーケットインに対応するJIS Q 9000系の定義は「なし」と記載されています。ただしTQM固有の用語には同じ記載が多く並び、この一行だけで用語の由来までは判断できません。
  • プロダクトアウトとの関係:規格は両者を対の言葉として並べていますが、優劣は付けていません。新製品開発管理の目的をニーズの充足とシーズの活用の「同時達成」と定めており、二者択一の枠組みではありません。
  • ニーズは3つに分かれる:明示されるもの、安全や安心のように明示されない暗黙のもの、顧客自身も認識していない潜在しているもの。明示されたニーズを満たすだけでは、高い顧客満足が得られるとは限りません。
  • 実装の手段:顧客の声を製品仕様へ変換する道具が品質機能展開(QFD)と品質表です。要求品質と品質特性を二元表で関連づけ、必要な特性・仕様・管理基準を決めます。

マーケットインの意味:学会規格と辞典の定義文

ここでは、日本品質管理学会の規格が示す定義と、辞典に掲載された定義を並べて確認します。

日本品質管理学会規格が定める定義と対応英語

一般社団法人日本品質管理学会が発行する学会規格「品質管理用語」(2023年改正版・PDF)は、第1章「品質管理と品質保証」の1.4にマーケットインを置いています。定義文は次のとおりです。

「顧客(2.2)・社会のニーズ(2.6)を把握し,これらを満たす製品・サービス(2.1)を提供していくことを優先するという考え方.」

読み落としやすいのは「優先する」という語です。規格は「顧客のニーズだけで決める」とも「技術を使わない」とも書いていません。ここでいう優先は、意思決定で何を重視するかを示します。実務では、誰のどの必要性を満たすかを判断の軸に置く、と捉えられます。

定義に続く注記では、対になる言葉としてプロダクトアウトが挙げられ、「提供側の保有技術や都合を優先して製品・サービスを提供しようとする考え方」と説明されています。ここでも語られているのは優先順位であって、善悪ではありません。プロダクトアウト側の定義や成功例はプロダクトアウトとは?意味とマーケットインとの違い、成功例と失敗する条件で扱っています。

同規格の付録A「対応する英語」は、1.4 マーケットインに対応する英語を market-in と記載しています。付録Aには「日本語と英語で厳密な意味で定義が異なるものも含まれている」という断りが付いているため、英語圏の文献で market-in を検索しても同じ用法に当たるとは限りません。関連する英語の研究概念には market orientation(市場志向)があります。市場情報の生成・組織内共有・対応を含む概念で、マーケットインの単純な訳語とは区別して参照してください。詳しくはマーケットオリエンテッドとは?市場志向の意味と3要素、マーケットインとの違いを参照してください。

辞典での扱いと学会規格の対照表の記載

国語辞典では、デジタル大辞泉が「マーケット‐イン(market in)」を立項し、「商品の企画開発や生産において消費者のニーズを重視する方法。」と定義しています(コトバンク掲載分、2026年9月20日取得)。学会規格が「顧客・社会」と広く取るのに対し、大辞泉は「消費者」と限定しているのが違いです。規格の定義では、部品を受け取る後工程の部門も顧客に含まれます。

百科事典側の扱いはさらに対照的です。ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典は「マーケット・イン」で独立した項を立てず、「プロダクト・アウト」の項へ読者を送ります。定義はその項の中にあり、「消費者のニーズに合わせて企業が製品を開発・供給する市場ニーズ先行型のスタイルをマーケット・イン market-inと呼ぶ。」と記されています。学会規格が「提供を優先する考え方」と姿勢の話をしているのに対し、ブリタニカは「市場ニーズ先行型のスタイル」と開発・供給の型として説明しているのが違いです。

同じ項には時期の記述もあります。「1975年以降特に消費者の欲求の個性化・感性化が喧伝されるようになるにつれ,マーケット・イン型の重要性が認識され始めてきた」という一文です。なお、プロダクトアウトとの関係や歴史的な説明はプロダクトアウトとは?意味とマーケットインとの違い、成功例と失敗する条件で整理しています。

整理すると、百科事典ではプロダクトアウトが見出し語でマーケットインが従、学会規格ではマーケットインが見出し語でプロダクトアウトが注記という、逆の主従関係になっています。ただし、見出し語や注記の配置だけでは、どちらを基本概念としているかまでは判断できません。社内資料で引用するときは、定義文と出典を併記してください。

もう一点、同規格の付録C(他規格との対照表)では、1.4 マーケットインの行に対応するJIS Q 9000系の定義が「なし」と記載されています。品質保証にはJIS Q 9000:2015、全員参加にはJIS Q 9028:2021の対応定義が並ぶ一方で、マーケットインには対応先がありません。ただし「なし」はこの用語に限った扱いではなく、魅力的品質・当り前品質・源流管理・三現主義など、TQM固有の語には同じ記載が並びます。この表が示すのは同規格が比較対象とした規格に対応定義があるかどうかであって、用語の成立や翻訳の経緯ではない点には注意してください。英語で伝えるときは market-in という語だけを出すより、顧客・社会のニーズを満たすことを優先する考え方だと補うほうが、意味を共有しやすくなります。

プロダクトアウトとの違い:企画の起点と、失敗したときの形

両者の差は「顧客を大事にするかどうか」ではありません。企画の出発点をどちらに置くか、そして外したときに何が起きるかが違います。

観点 マーケットイン プロダクトアウト
優先するもの 顧客・社会のニーズ 提供側の保有技術・都合
企画の起点 市場調査・顧客の声 自社の技術・アイデア
規格での扱い 見出し語(1.4) 1.4の注記
外したときの形 どこにでもある製品 誰も欲しがらない製品
対応英語(付録A) market-in 記載なし

外したときの見え方も違います。マーケットインで外すと、競合と同じ要望に同じように応えた結果として製品が似通い、独自の価値を示せないまま価格競争に陥るおそれがあります。プロダクトアウトで外すと、技術的には優れているのに買い手が付かない製品ができます。後者は売れないことがすぐ分かる一方、前者は販売数量だけでは判断しにくいため、値引き率や粗利益率も併せて確認する必要があります。

なお、自社の技術やアイデアを起点にする発想は「シーズ志向」とも呼ばれます。規格の2.6の注記も、ニーズと対で用いられる語としてシーズを挙げ、「アイデア,技術,材料,サービス,システムなど,ニーズを満たし,価値を生む手段の元となるもの」と説明しています。シーズ側の整理はシーズとは?ビジネスでの意味とニーズとの違いを公的データで解説にまとめています。

ニーズの3区分:明示・暗黙・潜在

マーケットインを「顧客が口にした要望を集めること」に限定すると、暗黙のニーズや潜在ニーズを見落とすおそれがあります。規格が定めるニーズは、聞けば出てくるものだけではありません。

規格が定めるニーズの内訳

同規格の2.6は、ニーズを「生活又は活動を行う中で,顧客又は社会が抱く必要性.」と定義したうえで、注記1で内訳を3つ挙げています。要求事項などとして明示されるもの、安全や安心など当然のものとして明示されない暗黙のもの、そして顧客・社会自身も認識していない潜在しているものです。

検索でよく使われる「顕在ニーズ」は1つ目に、「潜在ニーズ」は3つ目におおむね対応します。ただし規格は2つではなく3つに割っている点に注意してください。抜け落ちやすいのは2つ目の暗黙のニーズです。顧客が安全性や個人情報の扱いを当然のこととみなし、要望として口にしない場合があります。自由記述やインタビューで自発的に語られなければ、集まった声を並べるだけの工程では、この層は拾われません。

顧客の不満から出発して課題を特定する進め方は、ペインポイントの考え方と重なります。定義と見つけ方はペインポイントとは?意味・ゲインポイントとの違いと見つけ方を原典の定義から解説で扱っています。

当り前品質と魅力的品質:充足・不充足に対する顧客の反応

規格は品質要素を、充足したとき・しなかったときの顧客の反応で分けています。3.12 当り前品質は「充足されても当り前と受け取られるが,不充足であれば不満を引き起こす品質要素」、3.11 魅力的品質は「充足されれば満足を与えるが,不充足であっても仕方がないと受け取られる品質要素」です。

ここで注意したいのは、この区分がニーズの3区分と1対1で対応するわけではない点です。規格は両者の対応関係を定めていません。要望として明示されたものが魅力的品質に当たることもあり、その逆もあります。ある品質要素がどちらに当たるかは、充足した場合と不充足の場合の顧客の反応を確かめて判断します。

一方で、潜在しているニーズと高い満足の結び付きは規格に明記があります。2.5 顧客満足の注記3は「顧客の期待を超え,しかも顧客の潜在ニーズに合った製品・サービスが提供されると,非常に高い満足が得られる」としています。潜在ニーズの探索は、魅力的品質の候補を見つけるための着眼点になります。

顧客満足度調査のスコアが改善施策を積んでも動かないときは、改善している対象が満足につながる品質要素かどうかを先に確認します。併せて、設問の立て方や回答者構成など調査条件も点検します。

顧客の声を仕様に変える手順:品質機能展開と品質表

把握したニーズを製品・サービスに反映するには、設計で判断できる要求品質や品質特性へ整理する工程が必要です。規格はここに具体的な道具を用意しています。

17.13 品質機能展開/QFDは、「製品・サービスに対する顧客・社会のニーズを実現するために,要求品質,品質特性などをそれぞれ系統的に展開し,それらを二元表により相互に関連づけることによって必要とする特性・仕様・管理基準を定めるためのツールの集合体」と定義されています。注記1によれば、品質展開・技術展開・コスト展開・信頼性展開・業務機能展開の総称です。

その中核が17.14 品質表で、「製品・サービスに対する顧客・社会のニーズとその実現に関わる品質特性との対応を表した二元表」と定義されます。注記には構造も書かれており、顧客の声を言語表現に基づいて階層構造で表した要求品質展開表と、品質特性を階層構造で表した品質特性展開表を関連づけたもの、とされています。

実務に引き直すと、手順は次の4段階になります。

  • 顧客の声を言語のまま集める:要望を解釈せず、発言に近い形で記録します。「軽くしてほしい」を勝手に「500g以下」と書き換えない段階です。
  • 要求品質に整理して階層化する:集めた声を重複統合し、大項目から小項目へ階層構造にします。ここで初めて言葉が整理されます。
  • 品質特性に変換する:測れる特性へ置き換えます。「軽い」は質量、「すぐ届く」はリードタイム、というように、検証できる形にします。
  • 二元表で対応づけ、仕様と管理基準を決める:どの要求品質がどの品質特性で実現されるかを行と列で対応づけ、目標値と管理基準を確定します。

3段階目で評価方法を決められない要求が残ったら、まずニーズの言語化が足りているかを見直します。そのうえで、定性的な評価や代用特性で扱えないかも検討してください。規格の3.8は品質特性の性質に定量的・定性的の両方があるとし、3.9 代用特性は「要求される品質特性を直接測定することが困難な場合,同等又は近似の評価として用いる他の品質特性」と定義されています。言語のまま設計へ渡すと、後工程で解釈が分かれます。規格が「ねらいの品質」(3.13)を「顧客・社会のニーズと,それを満たすことを目指して計画した製品・サービスの品質要素,品質特性及び品質水準との合致の程度」と定義しているのは、この変換の精度そのものが品質だという立場だからです。

「マーケットインかプロダクトアウトか」という問いが成立しない理由

検索でも会議でも繰り返される問いですが、規格の立場は明確に二者択一ではありません。8.1 新製品・新サービス開発管理の注記1は、その目的を「顧客・社会のニーズの充足と組織の持っているシーズ(技術など)の開発・活用を同時に達成すること」と定めています。ニーズとシーズは、どちらかを選ぶ対象ではなく、両方を同時に成立させる条件として書かれています。

この記述を実務に当てはめると、ニーズとシーズをどう結び付けるかが検討課題になります。問うべきは「顧客の声を聞くか、技術を信じるか」ではなく、「自社が持っているシーズで満たせるニーズはどれか」という交差点の特定です。満たせないニーズを掴んでも開発は進まず、誰も必要としていない技術を磨いても売れません。マーケットインは技術を捨てる宣言ではなく、技術の使い道を決める順番の宣言だと理解するほうが、規格の記述と整合します。

既存顧客の声を丁寧に聞いた結果として新しい技術への転換が遅れる、という現象は経営学でも扱われています。その構造はイノベーションのジレンマとは?わかりやすく解説|原論文の実証データと事例、「破壊的」の見分け方で詳しく整理しています。

マーケットインが機能しない条件

マーケットインは「時代遅れ」と言われることがありますが、考え方が古びたというより、運用が特定の形に固まると機能しなくなります。うまくいかないのは主に次の場合です。

  • 集めた要望の背景を掘らずに並べている:問題は調査手段そのものではありません。規格の17.9 商品企画七つ道具は、潜在ニーズの発見を含む4ステップの道具立てとして、インタビュー調査・アンケート調査・ポジショニング分析・アイデア発想法・アイデア選択法・コンジョイント分析・品質表の7つを挙げています。アンケートも潜在ニーズを探る道具の一つに数えられており、使い方のほうが分かれ目です。
  • 声の大きい既存顧客に最適化している:規格の2.2は顧客を「製品・サービスを受け取る又はその可能性のある個人又は組織」と定め、注記1で潜在的な購入者やターゲットとしている購入者を含むと明記しています。既存の契約先だけを顧客と読むのは、定義より狭い運用です。
  • ニーズを品質特性に変換せずに設計へ渡している:言語のままの要望が仕様書に転記されると、解釈の幅が後工程で発散します。品質表を使う意味はここにあります。
  • 自社のシーズで満たせない領域を狙っている:市場の需要は正しくても、実現手段が無ければ企画は止まります。8.1の注記1が言う「同時達成」が崩れている状態です。
  • 調査と開発の部門が分断されている:顧客の声を集める部門と品質特性を決める部門が別で、二元表を誰も引き受けていないと、把握したニーズは報告書で終わります。

市場ニーズを把握する社内部門と新事業展開の成否との関連は、公的な調査でも取り上げられています。2017年版中小企業白書は、市場ニーズの把握を社内のどの部門が担っているかを新事業展開の成否別に比べ、新事業展開に成功した企業の51.7%、成功していない企業の39.2%が、市場ニーズを把握している社内部門として「社内の経営企画部門・担当者」を挙げたと報告しています。営業部門が把握している傾向は成否によらず共通で、回答割合に差が付いたのは経営企画が関与しているかどうかでした(出典:2017年版中小企業白書 第2-3-25図)。顧客の声を集める窓口があるかどうかより、集めた声を事業の意思決定へ接続する部門が関与しているかに差が出ている、と読めます。

逆に言えば、潜在しているニーズまで取りに行き、品質特性へ変換し、自社のシーズと突き合わせる、という3点が回っていれば、マーケットインという枠組み自体に古さはありません。改善対象を見極めるには、明示された要望だけを集める運用になっていないかをまず確認してください。

よくある質問

プロダクトアウトとマーケットインの違いは何ですか?

優先するものが違います。日本品質管理学会規格「品質管理用語」(2023年改正版)の1.4は、マーケットインを顧客・社会のニーズを把握して満たすことを優先する考え方、プロダクトアウトを提供側の保有技術や都合を優先する考え方としています。企画の起点が市場側か自社側かの差であり、規格はどちらが正しいとも書いていません。

マーケットインのデメリットは?

競合と同じ明示的な要望に同じ方法で応えるだけでは、製品が似通い、価格競争に陥るおそれがあります。規格の3.12が定める当り前品質の充足は不満を消しますが、満足を増やしません。調査結果を仕様に変えるときに、自社の技術や提供方法で競合と異なる価値を出せるかまで検討しないと、この形になりやすくなります。

マーケットインの例は?

顧客の声を品質特性へ変換する過程そのものが例になります。仮に配送サービスで「到着予定が分からず困る」という声が集まったとすると、要求品質は「受取の予定を立てられる」となり、品質特性は配送予定を通知する時点と到着時間帯の幅に置き換わります。ここまで落として初めて、通知を何時間前に出すか、時間帯の幅を何時間にするかという仕様と管理基準が決められます。規格の17.13と17.14が示すのは、この変換の枠組みです。

「マーケットイン」の言い換えは?

日本語では顧客起点、市場起点、ニーズ志向などが近い表現です。英語は日本品質管理学会規格「品質管理用語」(2023年改正版)の付録Aが market-in を対応語としていますが、付録Aには日本語と英語で定義が異なるものを含むという断りがあります。英語圏の文献に当たるなら market orientation(市場志向)のほうが対応する研究が見つかります。

マーケットインは時代遅れですか?

顧客・社会のニーズを優先する考え方を、時代遅れとして退ける必要はありません。ただし、明示的な要望だけに応える運用では、暗黙のニーズや潜在ニーズへの対応が抜けます。規格の2.6は、ニーズに明示・暗黙・潜在の3区分があると明記しています。3区分のうち1つだけを情報源にしている運用を、考え方そのものの寿命と取り違えないようにしたいところです。

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