マーケティングリサーチとは、消費者や市場について情報を集めて分析し、商品開発・価格・広告などのマーケティング判断に使う調査活動のことです。米国マーケティング協会(AMA)が2017年に承認した定義があり、日本では一般社団法人 日本マーケティング・リサーチ協会(JMRA)が業界の市場規模と倫理綱領を公表しています。この記事では、定義と市場調査との違い、調査の種類と手法の選び方、6ステップの進め方を整理したうえで、2025年度の国内市場規模と、調査を実施する側が守るべきルールまで一次情報をもとに解説します。
まとめ:マーケティングリサーチの要点
- AMAの定義では、マーケティングリサーチは「消費者・顧客・公衆とマーケターを情報で結び付ける機能」。機会と問題の発見、施策の立案と評価、成果のモニタリングに使う。
- 市場調査との間に公式の線引きはない。JMRAも業界統計を「市場調査(MR)業界」と呼んでおり、実務ではほぼ同じ意味で使われる。
- 種類は「定量か定性か」「一次データか二次データか」「単発か継続か」の組み合わせで決まる。手法は、答えを出したい問いから逆算して選ぶ。
- 進め方は、調査課題の定義→設計→調査票作成→実査→集計・分析→報告の6段階。最初に、調査結果で何を決めるのかを明確にする。
- 国内の市場規模は2025年度に2,775億円(前年比101.8%・JMRA第51回経営業務実態調査)。従来型調査のアドホック調査1,555億円のうち861億円をインターネット調査が占める。
- 調査を名目にした販売・勧誘は、JMRAのマーケティング・リサーチ綱領(2025年9月26日改訂)第5条が禁じている。
調査を企画するときは、まず「何を決めるための情報か」を確認します。
マーケティングリサーチの定義と市場調査との違い
AMAの公式定義(2017年承認)が示す4つの用途
AMAは公式サイトの定義ページで、マーケティングリサーチを「the function that links the consumer, customer, and public to the marketer through information」と定めています。その情報の用途として挙げられているのは、マーケティング上の機会と問題を見つけて定義すること、施策を生み出し磨き込み評価すること、成果をモニタリングすること、プロセスとしてのマーケティングの理解を深めることの4つです。
同じ定義は、リサーチの仕事を「必要な情報を特定し、収集方法を設計し、データ収集を管理・実施し、結果を分析し、発見と示唆を伝えること」とも書いています。アンケートの配布と集計は、この定義に含まれる業務の一部です。何を決めるための情報かを先に特定する工程まで含めて、マーケティングリサーチです。
市場調査(マーケットリサーチ)との違い
解説記事では「市場調査=市場の規模や構造など現状の把握」「マーケティングリサーチ=製品・価格・流通・販促の判断まで含む広い調査」と区別されることが多くあります。ただし、これは慣用的な整理で、規格や法令で定まった区別ではありません。
実際、JMRAの第51回経営業務実態調査は、業界全体を「日本の市場調査(MR)業界」と表記しています。MRはMarketing Researchの略で、業界団体自身が2つの語を同じものとして扱っている形です。社内で言葉を使い分けるなら、「市場の現状を測る調査」と「施策の判断に使う調査」のどちらを依頼しているのかを、言葉ではなく調査目的の文章で共有したほうが行き違いは起きません。
マーケティングリサーチの種類:データの性質・入手元・実施頻度
調査の種類は、次の3つの軸の組み合わせで表すと整理しやすくなります。手法の名前(ネットリサーチ、グループインタビューなど)は、この組み合わせの具体例にすぎません。
| 軸 | 分類 | 得られるもの |
|---|---|---|
| データの性質 | 定量調査 | 割合・平均など数値で比べられる結果 |
| データの性質 | 定性調査 | 理由・文脈・言葉にされていない動機 |
| データの入手元 | 一次データ | 自社の目的のために新たに集めたデータ |
| データの入手元 | 二次データ | 公的統計や業界レポートなど既存の資料 |
| 実施頻度 | アドホック調査 | 特定の課題に答える単発の結果 |
| 実施頻度 | パネル調査 | 同じ対象者を追った時系列の変化 |
定量と定性の違い、サンプルサイズの決め方は定量調査の解説と定性調査の解説で詳しく扱っています。二次データだけで答えが出るなら一次調査は要りません。その調べ方はデスクリサーチ(机上調査)の記事を、単発と継続の使い分けはアドホック調査とパネル調査の記事を参照してください。
主な調査手法と向いている問い
手法は「何を知りたいか」で選びます。同じ新商品の調査でも、受容度を数字で測りたいのか、使われ方の不満を見つけたいのかで、適した手法は変わります。
| 手法 | 種類 | 向いている問い | 向かない問い |
|---|---|---|---|
| インターネット調査 | 定量 | 認知率・購入意向の比較 | ネットを使わない層の実態 |
| 郵送調査 | 定量 | 高齢層を含む地域住民の意識 | 数日で結果が必要な判断 |
| 会場調査(CLT) | 定量 | 試食・試用した直後の評価 | 家庭で長く使ったときの評価 |
| ホームユーステスト(HUT) | 定量 | 自宅で一定期間使った評価 | 情報漏えいを避けたい試作品 |
| デプスインタビュー | 定性 | 購買に至った理由と経緯 | 割合や市場全体の推計 |
| グループインタビュー | 定性 | コンセプトへの反応の幅 | 他人の前で話しにくい話題 |
| 観察調査・エスノグラフィ | 定性 | 本人が自覚していない行動 | 短期間での大量比較 |
| MROC | 定性 | 数週間にわたる意見の変化 | 1回きりの単純な質問 |
郵送調査の回収率の実測値は郵送調査の記事、会場調査の費用内訳は会場調査(CLT)の記事、オンラインコミュニティを使う手法はMROCの記事、行動の観察は観察法の記事にまとめています。
マーケティングリサーチの進め方6ステップ
- 調査課題の定義:調査結果を使って何を決めるのかを書き出す
- 調査設計:対象者の条件、サンプル数、手法、予算、日程を決める
- 調査票・インタビューガイドの作成:質問文と選択肢、聞く順番を決める
- 実査:配信・面接・観察を行い、回答を回収する
- 集計・分析:単純集計からクロス集計、必要に応じて多変量解析へ進む
- 報告と意思決定:結果と解釈を分けて伝え、判断につなげる
ここでは、調査課題の具体化、質問による偏りの防止、分析手法の選択を取り上げます。
調査課題の定義:意思決定の明文化
「若者のニーズを知りたい」は調査課題になりません。「20代向けの新フレーバーをA案とB案のどちらで発売するか決める」のように、調査の後に下す判断を1文で書きます。この例ではA案とB案の比較データが必要です。試飲直後の味を比べるなら会場調査が候補になりますが、対象者を既存購入者に限るか、見込み客も含めるかは発売方針に合わせて決めます。逆にこの1文が書けない段階なら、まず定性調査で論点を探すのが順番です。
調査票の設計:質問順序と選択肢による回答への影響
調査票は、聞き方そのものが結果を変えます。前の質問が後の回答に影響するキャリーオーバー効果はキャリーオーバー効果の記事、選択肢の並び順による偏りを防ぐ設定はランダマイズの記事で扱っています。対象者を絞り込む事前の設問はスクリーニング調査の記事に設問例があります。
集計と分析:単純集計・クロス集計・多変量解析の使い分け
最初は設問ごとの回答分布を見る単純集計で、回答の偏りや入力ミスを確認します。次に、年代や購入経験といった属性で回答を分けるクロス集計で、差のある層を探します。設問同士の背後にある共通の要因を探るときは因子分析などの多変量解析を使います。手順は単純集計(GT集計)、クロス集計、因子分析の順に読むと、つながりがつかめます。
国内の市場規模と主なリサーチ会社
JMRAが2026年6月24日に公表した第51回経営業務実態調査によると、2025年度の日本の市場調査業界の市場規模(推計)は2,775億円で、前年比101.8%でした。このうち、従来型の調査事業は2,439億円と推計されており、内訳は次のとおりです。
| 従来型調査の区分(2025年度) | 売上高(推計) |
|---|---|
| アドホック調査 | 1,555億円 |
| うちインターネット調査 | 861億円 |
| うち既存手法(郵送・訪問・会場など) | 693億円 |
| パネル調査 | 789億円 |
| その他 | 95億円 |
アドホック調査のおよそ55%をインターネット調査が占めています。JMRAサイトに掲載された調査結果解説(Esomar GMR日本アンバサダー 一ノ瀬裕幸氏の署名記事)は、同年の消費者物価上昇率3.2%を差し引くと実質では1.4%減だったと指摘しています。
大手企業としては、インテージホールディングスとマクロミルがよく挙がります。インテージホールディングスの2026年6月期の連結売上高は670.9億円で、同社は「ESOMAR Global Top Insights Companies 2025」にもとづきグループ連結売上高でアジア1位と表示しています。マクロミルの連結売上収益は2025年6月期で449.8億円です。ただし両社の売上には海外事業やデジタルマーケティング支援も含まれ、ここで示した売上の対象年度も異なるため、国内市場規模2,775億円に対するシェアとしては読めません。
調査倫理と個人情報:JMRA綱領とICC/ESOMARコード
マーケティングリサーチは、調査対象者の協力があって成り立ちます。そのため業界団体が行動規範を定めており、日本ではJMRAの「マーケティング・リサーチ綱領」が基準です。綱領は1986年7月1日に制定され、直近では2025年9月26日に改訂されました。国際的には、ICCとESOMARが共同で定める「ICC/ESOMAR International Code on Market, Opinion and Social Research and Data Analytics」が2025年に改訂されています。
JMRA綱領は、適法・公正・透明性・誠実さ、調査対象者の保護、個人情報の保護、倫理的行動、調査に対する責任の5つを基本原則としています。自社で調査を企画する担当者が特に押さえるべき条文は次の3つです。
- 第5条:調査は広告・販売促進・ダイレクト販売などの商業的活動と明確に区別し、「調査以外の活動を調査と誤認させてはならない」。営業目的の名簿収集を調査と説明し、回答者に商業的活動であることを認識させない運用は、これに当たる。
- 第4条:個人データを第三者(クライアントを含む)に渡すときは、事前の同意か適切な法的根拠が必要。利用目的が達成され、その目的との関係で保有する合理的な理由がなくなった個人情報は、遅滞なく消去または匿名化するよう努める。
- 第3条:収集データや結果を恣意的に改ざん・捏造・削除してはならない。品質確保のために加工・削除するなら、目的と手順を記録して、求めがあれば開示する。
綱領は子供(目安として中学生以下または15歳以下)や若年者(目安として中学卒業から高校生以下、または16歳から18歳未満)を調査する際の配慮も定めています。学生向け商品の調査を企画するなら、対象者の年齢条件を設計段階で確認してください。
マーケティングリサーチを実施しないほうがよい場面
調査は判断の精度を上げる手段であって、実施すること自体に価値はありません。次の条件に当てはまるなら、調査費をかける前に立ち止まるべきです。
- 結果がどう出ても判断が変わらない:発売の可否だけでなく、仕様・価格・訴求も変更する余地がなく、結果を使う判断が残っていないなら、受容性確認を行う目的を見直す。
- 二次データで答えが出る:人口・世帯・消費支出の規模感は、公的統計で足りることが多い。
- 回答者が母集団を代表しない:自社会員だけに聞いた満足度を市場全体の評価として扱うと、判断を誤る。標本の考え方は標本調査の記事、回答しなかった人の偏りは無回答バイアスの記事で扱っている。
- 購入意向をそのまま売上予測に使う:「買いたい」という回答は実際の購買とは別物で、需要予測には実購買データや過去の実績との照合が要る。
判断が分かれる場面では、調査によって判断を改善できる見込みと、費用・期間を比較して実施を決めます。
よくある質問
マーケティングリサーチャーはどんな仕事ですか?
クライアントや社内の担当者から課題を聞き取り、調査を設計し、調査票を作り、実査を管理し、集計・分析した結果を報告書にまとめて施策を提案する仕事です。調査会社に所属する人と、事業会社のマーケティング部門で調査を担当する人がいます。
マーケティングリサーチャーの平均年収はいくらですか?
厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)は、マーケティング・リサーチャーの賃金(年収)を全国736.8万円と掲載しています(令和7年賃金構造基本統計調査を加工)。ただしjob tagの統計データは職業分類に対応づけて集計したもので、736.8万円はマーケティング・リサーチャーだけを抜き出した平均年収ではありません。目安として扱ってください。
マーケティングリサーチは自社だけで実施できますか?
できます。セルフ型のアンケートツールを使えば、設計から配信・集計まで社内で完結します。ただし調査票の設計ミスや回答者の偏りは後から補正しにくいため、意思決定の影響が大きい調査ほど、設計段階だけでも専門家の確認を受けたほうが安全です。
アンケートは何人に聞けばよいですか?
割合の推定では、許容誤差に加え、信頼水準、想定する割合、抽出方法などで必要人数が変わります。層別に比較する場合は各層の人数も設計します。全体の割合を見るだけなら数百人で足りる場合もありますが、年代別・性別に分けて比べるなら、各層に必要な人数を確保した合計数が必要です。計算方法は定量調査の記事のサンプルサイズの章で解説しています。
マーケティングインテリジェンスとは何が違いますか?
マーケティングリサーチが特定の課題に答えるために調査を設計して情報を集めるのに対し、マーケティングインテリジェンスは競合や市場の動きを日常的に集め続ける活動を指します。違いと合法な収集源はマーケティングインテリジェンスの記事で整理しています。