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定性調査とは?手法の種類・進め方・分析方法をデータで解説

定性調査とは?手法の種類・進め方・分析方法をデータで解説

定性調査(ていせいちょうさ)は、人が語った言葉や実際の行動を分析対象にして、購買や利用の背後にある「なぜ」を明らかにする調査です。質的調査とも呼ばれ、英語では qualitative research にあたります。日本マーケティング・リサーチ協会(JMRA)の第50回経営業務実態調査によれば、アドホック調査の売上のうち23.0%が質的調査で、その内訳の47.4%をデプスインタビューが占めます。この記事では、定義と定量調査との使い分け、実務で実際に使われている手法の比率、対象者数の決め方、逐語録からの分析手順までを一次データにもとづいて整理します。

まとめ:定性調査の要点

  • 定性調査は言葉・行動・自由記述といった数値化されていないデータから、意思決定の理由や過程を読み取る調査手法。
  • 仮説がまだ立っていない段階は定性調査が先、規模や比率を確かめる段階は定量調査という順序で使い分ける。
  • 手法別の売上構成比はデプスインタビュー47.4%、グループインタビュー29.2%、エスノグラフィ1.4%(JMRA第50回・2024年度)。入門記事の印象に反して主役はデプスインタビュー。
  • 対象者数は「12本で飽和、6本で主要テーマの骨格」という実験結果(Guest et al. 2006)が目安。ただし対象セグメントの数だけ本数を積む。
  • 分析はコード化を経て構成概念へ積み上げる。手続きを明示できるSCATやM-GTAを使うと、少数事例でも第三者が追跡できる形になる。
  • 少人数の結果を比率として語らないこと。規模の裏づけは定量調査に渡す。

定性調査の定義と定量調査との使い分け

言葉と行動を分析対象にする調査

定性調査が扱うのは、インタビューの逐語録、観察記録、写真や動画、アンケートの自由記述といった、そのままでは集計できないデータです。「何人が買ったか」ではなく「その人がなぜその選択に至ったか」を、本人の語りと行動の順序から再構成します。人数が少なくても成立するのは、統計的な代表性ではなく、意思決定の筋道そのものを取り出すことが目的だからです。少人数で仮説の材料が手に入る点が、定性調査の最大のメリットです。

逆に言えば、定性調査は比率や規模を推定する道具ではありません。ここを取り違えると、5人中4人という結果を市場の80%と読み替える誤りが起きます。

定量調査と使い分ける判断基準

観点 定性調査 定量調査
答える問い なぜ・どのように どれくらい・何%
主なデータ 発言・行動・自由記述 選択肢への回答・数値
対象者数 数名〜数十名 数百名〜数千名
結果の扱い 仮説の生成・構造の記述 仮説の検証・規模の推定
向く場面 課題が言語化できていない段階 選択肢が絞れた段階

判断の基準は単純で、検証すべき仮説を持っているかどうかです。新規カテゴリの参入検討やサービス改善の初期など、何を聞けばよいかがまだ決まっていない段階では定性調査を先に置き、そこで得た仮説を定量調査とは?定性調査との違い・手法とサンプルサイズの決め方で扱う手順に渡して規模を測る流れが基本形になります。逆に離脱率の原因が数値で特定できている場合は、該当セグメントに絞った定性調査を後に置くほうが効率的です。

手法別の実勢:質的調査の売上の47.4%はデプスインタビュー

質的調査の売上構成比とオンライン化率

JMRAが2025年6月26日に公表した第50回経営業務実態調査(正会員104社中88社が回答、2024年度実績)は、アドホック調査の売上を量的調査74.8%、質的調査23.0%、デスクリサーチ等2.3%に分解しています。さらにその質的調査23.0%の内訳が、次の表です(質的調査を100%とした場合、回答71社)。

手法 質的調査に占める売上構成比 うちオンライン割合
デプスインタビュー 47.4% 68.9%
グループインタビュー・FGI 29.2% 29.9%
オンライン・コミュニティパネル、MROC 2.1% 集計なし
エスノグラフィ 1.4% 14.0%
その他 19.9% 集計なし

この数字は売上構成比であって実施件数の比率ではなく、JMRA正会員社に発注された調査が母体である点に注意が必要です。それでも読み取れることははっきりしています。定性調査の入門記事はグループインタビューを筆頭に置くことが多いのですが、金額ベースで見た主役はデプスインタビューであり、しかも約7割が既にオンラインで実施されています。会場と対象者の所在地を合わせる制約が外れたことが、この手法の比重を押し上げていると読むのが自然です。

もう一方の極がエスノグラフィで、1.4%にとどまります。生活文脈まで踏み込める手法として紹介されがちですが、拘束時間と分析工数が大きく、実際の発注は限定的だと考えたほうがよいでしょう。予算計画の段階でエスノグラフィを前提に置くと、見積もりの現実と噛み合わなくなります。

深さと相互作用による手法の選び分け

手法は「深さ」と「相互作用」のどちらが要るかで決まります。

定性調査の進め方

調査課題の言語化から実施まで

  1. 調査課題を問いの形に直す。「若年層の反応を知りたい」ではなく「初回購入後3か月で解約する人は、どの時点で何を理由に見切りをつけるのか」まで具体化する。
  2. 対象者要件を決める。性年代だけでなく、利用状況や購買時期といった調査課題に直結する条件をスクリーニング設問に落とす。
  3. 手法を選ぶ。前章の判断軸で、深さ重視ならデプス、発想の広がり重視ならグループインタビューを選ぶ。
  4. インタビューフローまたは観察項目を作る。聞く順序は事実から解釈へ。冒頭で結論を尋ねると、以降の発言が対象者自身の後付けの説明に引きずられる。
  5. 実施と記録。録音・録画の同意を取り、逐語録を残す。要約メモだけでは後の分析で発言の文脈が失われる。

対象者数の決め方

何人に聞けば足りるかについては、実験的な根拠があります。Guest, Bunce, Johnson の研究(Field Methods 第18巻1号 59〜82ページ)は、西アフリカ2か国で実施した60本のインタビューを本数順に分析し、飽和(新しいテーマが出てこなくなる時点)が最初の12本以内に起きたこと、メタテーマの基本要素は6本の時点で既に現れていたことを報告しています。

ただしこれは単一のトピックを、事前知識のある訓練された調査者が扱った条件下での結果です。実務に移すときは、対象を分けるセグメントの数だけ本数を積むのが安全です。既存顧客と離反顧客を比べたいなら、それぞれに10本前後を確保する設計になります。全体で12本という数字を、セグメントをまたいだ合計として使うと、どのセグメントも飽和に届きません。

定性調査の分析方法とまとめ方

逐語録からコードへ積み上げる手順

分析の骨格は、逐語録を意味のまとまりで切り分け、そこにコード(短いラベル)を付け、コードをカテゴリへ束ね、カテゴリ間の関係を記述するという積み上げです。たとえば「解約する前の月に、他社の料金ページを何度も見ていた」という発言には、要約文ではなく「他社比較の起点」のような短いラベルを付け、同種のラベルが何件集まるかでカテゴリを立てます。印象に残った発言をそのまま結論として抜き出す進め方は、調査者が最初に持っていた仮説を確認しただけの結果になりやすく、避けるべきです。

報告書では、カテゴリごとに根拠となる発言を原文のまま引用して添えます。要約した文だけを載せると、読み手は解釈の妥当性を検証できません。少人数を扱う調査で説得力を担保するのは、サンプル数ではなく解釈の追跡可能性です。

SCAT・M-GTA・KJ法の使い分け

手続きを明示できる分析手法を選ぶと、社内レビューでも学術論文でも解釈の根拠を示せます。代表的な3つは対象データの性質で使い分けます。

手法 提唱者 向くデータ
SCAT 大谷尚(2008年) 1ケース分の逐語録、自由記述欄
M-GTA 木下康仁 過程・変化を伴う複数事例
KJ法 川喜田二郎(1967年) 断片化した多数の観察メモ

SCATは、大谷尚が名古屋大学大学院教育発達科学研究科紀要(第54巻2号、27〜44ページ)で提案した4ステップコーディングです。データの中の着目すべき語句、それを言いかえるためのデータ外の語句、それを説明するための語句、そこから浮き上がるテーマ・構成概念という順に列を埋めていく形式で、公式の解説でも「一つだけのケースのデータやアンケートの自由記述欄などの比較的小さな質的データの分析にも有効」とされています。定性調査を初めて分析する場合や、既存アンケートの自由記述を活かしたい場合の第一候補になります。

M-GTA(Modified-Grounded Theory Approach、修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ)は、木下康仁がオリジナル版GTAの方法論的課題を克服するために考案した手法です。利用開始から定着までのように、時間軸のある現象を概念として組み立てる分析に向きます。

KJ法は、文化人類学者の川喜田二郎が『発想法 創造性開発のために』(中公新書、1967年)で示した方法で、断片をカードに書き出して近いもの同士を束ねながら構造を見つけます。観察メモが大量に出る調査の整理に有効ですが、束ね方の根拠が記録に残りにくいため、論文で手続きを説明する用途にはSCATやM-GTAのほうが適しています。

定性調査で結果を誤読しやすい3つの落とし穴

定性調査が失敗するのは、多くの場合データの取り方ではなく読み方です。次の3つは定性調査のデメリットが表面化する典型でもあり、報告書のレビュー段階で必ず確認すべき点です。

第一に、少人数の結果を比率として語ることです。「8人中6人が価格に不満」という記述は、そのまま75%という数字として社内で一人歩きします。定性調査の報告書には比率を書かず、不満の内容と発生条件を書きます。規模の確認は定量調査に渡す仕事です。

第二に、モデレーターの誘導です。「この機能は便利だと思いませんか」と尋ねれば、多くの対象者は同意します。誘導の有無は逐語録を読めば検出できるので、分析前に質問文そのものを点検してください。

第三に、発言と行動の乖離です。人は自分の行動を、後から筋の通る理由で説明します。購入理由として語られた内容が、実際の選択の決め手とは限りません。インタビューで得た理由を重要な意思決定の根拠にするなら、行動観察やログデータで裏を取るべきです。この乖離を前提にしていない調査設計は、対象者の自己申告を事実として扱ってしまいます。

よくある質問

定性調査の読み方は?

「ていせいちょうさ」と読みます。質的調査、質的研究とほぼ同義で使われ、英語では qualitative research にあたります。対義語は定量調査(ていりょうちょうさ)です。

定性調査と定量調査はどちらを先に実施しますか?

検証すべき仮説がまだない段階では定性調査が先です。仮説を作り、それを定量調査で規模と比率の面から検証します。逆に、数値で問題箇所が特定できている場合は、その箇所に絞って定性調査を後から実施するほうが対象者要件を精密にできます。

アンケートの自由記述は定性調査として分析できますか?

できます。SCATは公式の説明でも自由記述欄のような比較的小さな質的データへの適用が想定されており、既に手元にある回答を分析対象にできます。ただし自由記述は文脈を追加で尋ねられないため、記述内容の解釈に幅が出る点は前提として扱ってください。

定性調査を論文で使うときに書くべきことは?

対象者の選定基準、人数とその根拠、データ収集の方法と期間、分析手法の名称と手続き、倫理的配慮(同意取得と匿名化)です。分析手法は名称を挙げるだけでなく、コードからカテゴリへの過程を第三者が追える形で示す必要があります。手続きが明文化されているSCATやM-GTAが選ばれるのはこのためです。

定性調査の具体的な事例にはどのようなものがありますか?

新商品のコンセプト受容性をグループインタビューで確かめる、解約者へのデプスインタビューで離反の分岐点を特定する、店頭での商品選択を行動観察で記録して陳列を見直す、といった使われ方が典型です。いずれも数値では「どこで落ちているか」までしか分からない問題に対して、その理由を補う位置づけになります。

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