トライアルリピート分析は、商品を初めて買った人(トライアル)と、もう一度買った人(リピート)を分けて数える分析です。新商品が「試されていない」のか「試されたが続かない」のかを切り分けられます。ただし、トライアル率は資料によって分母が違い、リピート率も観測期間の取り方で数字が動きます。この記事では計算式を出典つきで整理し、期間を揃えて集計するSQLと、数字を読み違える典型パターンまで扱います。
まとめ:トライアルリピート分析の計算式と読み方の要点
- トライアル率は「対象者のうち1回以上買った人の割合」、リピート率は「1回以上買った人のうち2回以上買った人の割合」です。
- トライアル率の分母は、全顧客・分析対象者・認知者のどれを取るかで意味が変わります。比較するときは分母を揃えます。
- リピート率は、初回購入日を起点に「初回から何日以内に2回目があったか」で揃えて数えます。期間全体で数えると、発売直後に買った人と締め日直前に買った人が同じ扱いになります。
- 個人を識別できない店舗POSでは測れません。ID-POSか消費者パネルが必要で、ID-POSではチェーンの外で買い直した人をリピートとして数えられません。
- 高トライアル・低リピートなら、欠品や配荷縮小、観測期間の不足を確認したうえで商品評価を調べます。低トライアル・高リピートなら認知や配荷を先に疑います。
以下で、データの前提、計算式、SQLでの集計、マトリックスの読み方、需要予測での使われ方の順に説明します。
トライアルリピート分析の定義と測定に使うデータ
インテージの用語集は、トライアル・リピート分析を「消費者が新商品や新サービスを初めて購入(トライアル)し、その後再度購入する(リピート)かどうかを分析する手法」と定義し、分析には消費者パネル調査やID-POSデータを用いるとしています。売上合計だけを見ると、新しく買った人の増加と、同じ人の買い増しが区別できません。この2つを分けることが分析の出発点です。
店舗POS・ID-POS・消費者パネルで測れる範囲の違い
同じ人が2回買ったと判定するには、購入者を識別できるデータが要ります。マクロミルの解説では、小売店のPOSデータは「何が」「いくつ」「いくらで」売れたかを把握できる一方、「誰が」買ったのかはわからないとされています。
| データ | 購入者の識別 | チェーンをまたぐ購入 | トライアルリピート分析 |
|---|---|---|---|
| 店舗POS | できない | 見えない | 不可 |
| ID-POS(会員カード等) | チェーン内のみ | 見えない | チェーン内で可 |
| 消費者パネル | モニター単位 | 見える | 可(標本ベース) |
ID-POSについてマクロミルは、チェーンをまたいだIDの統合はされず、1人が複数チェーンで買った場合は同一購買者の購買と判定できないと説明しています。自社チェーンのID-POSで出したリピート率は、他店で買い直した人を含まない数字です。インテージのSCI(全国消費者パネル調査)は全国15歳から79歳の男女70,000人の日々の買い物を継続収集しており、こうしたパネルなら店をまたいだ再購入も追えます。EC事業者なら会員IDで購入者を識別できるので、自社サイト内のリピートは測れます。
トライアル率とリピート率の計算式と分母の違い
計算式そのものは単純です。つまずくのは分母で、同じ「トライアル率」という名前でも出典によって何で割るかが違います。
トライアル率(累積トライアル率)の計算式
ID-POS分析サービスを提供するデータコムの解説は「トライアル率 = トライアル件数 ÷ 全顧客数」としています。マクロミルは購買データ分析講座で、トライアル率(累積購入率)を「分析期間内に商品を1回以上購入した人の割合」と定義しています。どちらも、同じ人が何回買っても1人として数え、発売からの累積で見るのが基本です。
| 分母の取り方 | 出典の例 | 数字が表すもの |
|---|---|---|
| 全顧客数(店舗の購入客) | データコム | 来店客への浸透 |
| 分析対象者 | マクロミル | 対象母集団への浸透 |
| 認知者数 | インテージ(調査集計例) | 知った人の試用率 |
インテージはアンケート集計の例で、飲用経験者数を認知者数で割った比率を「認知者のうちの累積トライアル率」と解釈しています。分子が同じなら、認知者ベースの値は全体ベースの値を下回りません。社内資料と調査会社のレポートを並べるときは、数値より先に分母を確認してください。
リピート率の計算式
リピート率は、どの出典でもほぼ同じ形です。データコムは「商品を2回以上購入した顧客数 ÷ 商品を1回以上購入した顧客数」、コスモシステム研究所は「リピート率 = リピート数 ÷ トライアル数」、マクロミルは「トライアル層のうち2回以上購入した人の割合」としています。分母はトライアルした人で、全顧客ではありません。
残る論点は「いつまでに2回目を買えばリピートとするか」です。式には期間が書かれていないため、ここを決めないまま集計すると、月ごとや商品ごとの比較が崩れます。
SQLでトライアル率とリピート率を集計する手順(観測期間の揃え方)
購買明細(顧客ID・購入日・商品)から2通りのリピート率を出し、定義の違いで数字がどれだけ動くかを確認します。架空の商品「NEW」が2026年4月1日に発売され、集計の締め日を6月30日とした例です。receiptsにはこの期間の購入だけを入れ、1行を1回の購入とします。同一顧客による同一商品の同日複数購入はない前提です。SQL自体には集計期間の絞り込みがないため、実データは事前に抽出してください。以下はSQLite 3.51.0で実行した例です。
CREATE TABLE receipts (customer_id TEXT, purchased_on TEXT, sku TEXT);
INSERT INTO receipts VALUES
('A','2026-04-03','NEW'),('A','2026-04-20','NEW'),('A','2026-05-15','NEW'),
('B','2026-04-10','NEW'),('B','2026-05-01','OTHER'),
('C','2026-04-15','NEW'),('C','2026-05-30','NEW'),
('D','2026-05-10','NEW'),('D','2026-05-25','NEW'),
('E','2026-06-20','NEW'),
('F','2026-06-25','NEW'),('F','2026-06-28','NEW'),
('G','2026-04-05','OTHER'),('H','2026-05-20','OTHER'),
('I','2026-06-02','OTHER'),('J','2026-06-11','OTHER');
-- 顧客ごとの対象商品の初回購入日と購入回数
WITH buyer AS (
SELECT customer_id,
MIN(purchased_on) AS first_on,
COUNT(*) AS n
FROM receipts
WHERE sku = 'NEW'
GROUP BY customer_id
),
-- 初回購入から30日以内に2回目があるか
repeat30 AS (
SELECT b.customer_id, b.first_on,
EXISTS (
SELECT 1 FROM receipts r
WHERE r.customer_id = b.customer_id AND r.sku = 'NEW'
AND r.purchased_on > b.first_on
AND julianday(r.purchased_on) - julianday(b.first_on) <= 30
) AS repeated
FROM buyer b
)
SELECT
(SELECT COUNT(DISTINCT customer_id) FROM receipts) AS all_customers,
(SELECT COUNT(*) FROM buyer) AS triers,
ROUND(100.0 * (SELECT COUNT(*) FROM buyer)
/ (SELECT COUNT(DISTINCT customer_id) FROM receipts), 1) AS trial_rate,
ROUND(100.0 * (SELECT COUNT(*) FROM buyer WHERE n >= 2)
/ (SELECT COUNT(*) FROM buyer), 1) AS repeat_rate_period,
(SELECT COUNT(*) FROM repeat30 WHERE first_on <= '2026-05-31') AS cohort_triers,
ROUND(100.0 * (SELECT SUM(repeated) FROM repeat30 WHERE first_on <= '2026-05-31')
/ (SELECT COUNT(*) FROM repeat30 WHERE first_on <= '2026-05-31'), 1) AS repeat_rate_30d;
sqlite3 -header :memory: にこのSQLを渡して実行した結果です。
all_customers|triers|trial_rate|repeat_rate_period|cohort_triers|repeat_rate_30d
10|6|60.0|66.7|4|50.0
全顧客10人のうちNEWを買ったのは6人で、トライアル率は60.0%です。期間全体で2回以上買った人を数えるとリピート率は66.7%(6人中4人)ですが、「初回から30日以内」に揃えると50.0%(4人中2人)に下がります。集計上の扱いが変わるのはC・E・Fの3人です。Cは2回目が初回の45日後で、30日基準ではリピートに入りません。Eは初回購入が6月20日で観測期間が30日に満たず、分母から外れます。Fも初回が6月25日で分母から外れるため、期間全体の集計でリピートに数えられていた1人分がなくなります(締め日から30日を引いた5月31日までの初回購入者だけを数えています)。
実務では、初回購入月ごとに行を分けて「初回から30日・60日・90日以内」のリピート率を並べます。これは顧客のコホート分析と同じ形です。GA4やAmplitudeでの作り方はコホート分析ツールの比較記事で扱っています。観測期間は商品の購入周期より長く取ってください。日用品で30日、化粧品で90日といった一律の目安ではなく、十分な追跡期間がある過去の初回購入者について、未再購入者数も確認しながら2回目までの日数分布を調べ、比較に使う観測期間を事前に決めます。観測途中のデータだけで決めると、早く再購入した人に偏ります。
トライアル×リピートのマトリックスで読む4つの状態と最初の打ち手
商品ごとにトライアル率を横軸、リピート率を縦軸に置くと、課題が「試してもらう前」と「試した後」のどちらにありそうかを整理できます。高低の基準には、同じカテゴリーで分母・発売後の経過期間・観測条件を揃えた競合品や過去商品の値を使い、各商品の購入者数も併記します。コスモシステム研究所の解説でも、トライアル数が多くリピート率が低い商品は認知度は高いが商品力が低く、トライアル数が少なくリピート率が高い商品は商品力が高い、という読み方が示されています。
| 状態 | 最初に疑う点 | 先に動かす施策 |
|---|---|---|
| 高トライアル・高リピート | 欠品・配荷の上限 | 配荷拡大・増産 |
| 高トライアル・低リピート | 品質・価格・配架率の急落 | 商品改良(販促追加は後) |
| 低トライアル・高リピート | 認知・棚の露出 | サンプリング・広告 |
| 低トライアル・低リピート | コンセプト自体 | 改廃の検討 |
判断を誤りやすいのは高トライアル・低リピートの象限です。値引きやキャンペーンでトライアルを積み増しても、2回目が起きない商品では売上が発売直後の山で終わります。この象限では、販促費を足す前に、1回だけで離れた人がなぜ離れたかを受容性調査やレビューで確かめるほうが先です。調査設計は受容性調査の解説を参照してください。
新商品の需要予測でトライアルとリピートを分けて推計する考え方
トライアルとリピートを分ける発想は、新商品の売上予測研究から来ています。Louis A. FourtとJoseph W. Woodlockは1960年の論文「Early Prediction of Market Success for New Grocery Products」(Journal of Marketing 第25巻第2号)で、消費者パネルの統計を使い、反復購入の連続した波と購入間隔に注目して新しい食品の成否を早期に予測する方法を示しました。J. H. ParfittとB. J. K. Collinsは1968年の「Use of Consumer Panels for Brand-Share Prediction」(Journal of Marketing Research 第5巻第2号)で、消費者パネルの連続購買データから新発売ブランドの市場シェアを予測する方法を扱っています。
現在の実務も同じ分け方です。インテージのデータサイエンス解説では、新商品需要予測で「トライアルによる購入量」と「リピートによる購入量」をそれぞれ推計し、合算しています。トライアル側のモデルには、カテゴリー購入率、認知率、GRP、トライアル購入意向率、販売店率、山積み率、トライアル時購入量が入ります。発売後は、観測期間を揃えたリピート率に加えて購入回数や1回当たり購入量も確認し、需要予測の前提を見直します。
トライアルリピート分析の数字を読み違える5つのパターン
計算式だけでなく、観測期間・分母・購入者の識別範囲を確認します。以下に、集計や解釈で確認したい5つのパターンを挙げます。
- 観測期間が揃っていない:期間全体で2回以上を数えると、発売直後の購入者ほど有利になります。前章のSQLのように初回購入日から一定日数で揃えます。
- 分母の違う数字を並べている:全顧客ベースと認知者ベースのトライアル率は比較できません。業種別の目安として出回る数字も、分母と観測期間が書かれていなければ自社の数字と比べる材料になりません。
- ID-POSの外で起きたリピートを数えていない:自社チェーンのID-POSでは、他店で買い直した人は「リピートしなかった人」に入ります。リピート率は実態より低く出る方向にずれます。
- 同一人物が複数IDに分かれている:カードの再発行やアプリ会員とカード会員の未統合があると、2回目の購入が別人の初回として数えられます。集計前にID統合の状況を確認します。
- 購入周期の長い商品に使っている:家電や家具のように買い替えが数年単位の商品では、観測期間内に2回目がほとんど発生しません。この場合はトライアルリピート分析を使わず、購入後の満足度や紹介意向で評価します。
定期便のように自動で次回が届く商品も、2回目の購入が本人の再選択とは限りません。継続率や解約率で見るほうが実態に合います。解約率を使った計算はLTVの計算方法で説明しています。
トライアル率・リピート率の計算とデータに関するよくある質問
トライアル率とは何ですか?
対象者のうち、その商品を1回以上買った人の割合です。マクロミルは「分析期間内に商品を1回以上購入した人の割合」と定義し、累積購入率とも呼んでいます。同じ人が何回買っても1人として数えるので、新規購入者の広がりを表します。分母は全顧客、分析対象者、認知者など出典によって違うため、他の資料の数字と比べるときは分母を揃えてください。
リピート率の計算式は?
「2回以上購入した人数 ÷ 1回以上購入した人数」です。分母は全顧客ではなくトライアルした人です。式には期間が含まれないので、「初回購入から30日以内に2回目があったか」のように観測期間を決め、その期間を確保できた初回購入者だけで計算します。同じデータでも、期間全体で数えるか初回から日数で揃えるかで数値は変わり、本文の例では66.7%と50.0%に分かれました。
トライアルリピート分析にはどんなデータが必要ですか?
購入者を識別できる購買明細が必要です。顧客ID・購入日・商品コードに加えて、同じ会計の複数明細を1回の購入にまとめるためのレシートIDや注文IDを用意します。店舗POSは誰が買ったかを記録しないので使えません。小売チェーンならID-POS、ECなら会員IDつきの注文データ、メーカーが店をまたいで見たい場合は消費者パネルを使います。ID-POSはチェーン内の購入しか追えない点に注意してください。
リピート通販(単品通販)の分析にも使えますか?
使えます。通販は会員IDで購入者を識別できるので、初回購入者のうち何割が2回目を買ったかをそのまま計算できます。初回購入月ごとに初回から30日・60日・90日以内の2回目購入率を並べると、広告の出稿時期や初回オファーの違いによる差が見えます。定期便に自動移行する商品は、2回目が本人の再選択でないため、継続率や解約率で別に見てください。
LTVとトライアルリピート分析はどう関係しますか?
LTV(顧客生涯価値)は、顧客が取引を続ける間にもたらす利益の見込みです。リピート率はLTVに関係する指標の一つで、購入単価や利益率などの条件が同じなら、2回目・3回目に進む人の割合が高いほどLTVの向上につながります。トライアルリピート分析で2回目の壁がどこにあるかを把握し、LTVの計算で投資できる獲得費用の上限を決める、という順で組み合わせます。考え方はLTVの解説記事にまとめています。