半構造化インタビューは、聞く項目をあらかじめ決めておきながら、相手の答えに応じて質問の順序や掘り下げ方を変えられるインタビュー形式です。定義そのものは平易ですが、実務でつまずくのは「インタビューガイドをどう書くか」「何人に聞けば足りるか」「録音した逐語録をどうコードにするか」の3点に集中します。この記事は、その3点を方法論の一次文献と公的資料に当たって答えます。
まとめ:半構造化インタビューの要点
質問項目は事前に決め、順序と深掘りは現場で変える。これが構造化(順序も文言も固定)と非構造化(項目も決めない)の中間に位置づけられる理由です。インタビューガイドの作成には、Kallioらが方法論レビューから導いた5段階の枠組みがあり、パイロットテストを段階として明示している点が実務での分かれ目になります。対象者数は、単一の比較的均質な集団なら最初の12本以内で新しいテーマが出尽くしたというGuestらの実測があり、逆に複数サイトを横断するテーマを扱うなら20〜40本が要るという後続研究があります。分析はSCATのように4ステップのコーディング手順が明文化された手法を使うと初学者でも着手できます。論文にする場合はCOREQの32項目が報告の実質的な基準です。以下、各論点を順に見ていきます。
半構造化インタビューの定義と、構造化・非構造化との線引き
定義と、半構造化面接・半構成的面接という別の呼び方
半構造化インタビューとは、質問項目を記したインタビューガイドを用意したうえで、回答内容に応じて質問の順序を入れ替えたり、その場で追加の質問を差し込んだりする形式を指します。英語では semi-structured interview と表記します。
日本語の呼び方は分野によって揺れます。心理学・看護学・社会調査の論文では「半構造化面接」「半構成的面接」「半構造的インタビュー」が使われ、マーケティングリサーチの現場では「半構造化インタビュー」が定着しています。指す内容は同じなので、文献を探すときは複数の表記で検索してください。
構造化・非構造化との違い
| 観点 | 構造化 | 半構造化 | 非構造化 |
|---|---|---|---|
| 質問項目 | 事前に確定 | 事前に確定 | 決めない |
| 質問の文言 | 固定 | 変更可 | その場で作る |
| 質問の順序 | 固定 | 入れ替え可 | 流れ次第 |
| 追加質問 | 原則しない | する | 中心的手段 |
| 回答者間の比較 | 容易 | ガイドの範囲で可能 | 困難 |
| 聞き手の技量依存 | 低い | 高い | 非常に高い |
表のうち実務で効いてくるのは「回答者間の比較」の行です。構造化なら同じ問いに同じ順で答えてもらうので集計に近い扱いができ、非構造化は一人ひとりの語りが独立するため横断的な比較ができません。半構造化はガイドに書いた項目の範囲でだけ比較が成り立ちます。逆に言えば、ガイドに書かなかった論点は後から比較できません。ここがガイド設計の重みになります。
デプスインタビュー・グループインタビューとの関係
混同されやすいのですが、構造化・半構造化・非構造化は「質問の決め方」の軸で、デプスインタビューやグループインタビューは「同時に何人に聞くか」の軸です。軸が別なので、1対1のデプスインタビューを半構造化で行うことも、グループインタビューを半構造化で進行することもできます。それぞれの進め方はデプスインタビューとは何か?定性調査としての基本と役割を解説とフォーカスグループインタビュー(FGI)とは何かを初心者向けに解説で扱っています。
インタビューガイドの作り方(Kallioらの5段階フレームワーク)
方法論レビューから導かれた5段階
インタビューガイドの作り方は、経験則で語られることが多い領域です。Kallioらは、この点について方法論的な研究が乏しいと指摘したうえで、PubMed・CINAHL・Scopus・Web of Scienceを対象に2004年10月から2014年9月までの文献を検索し、2,703件の表題と抄録、21件の全文を経て10件を選び、内容分析によって5段階の枠組みを示しました(Journal of Advanced Nursing 72巻12号 2954-2965、doi:10.1111/jan.13031)。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 1 | 半構造化インタビューを使う前提条件の確認 |
| 2 | 先行知識の収集と利用 |
| 3 | 暫定版インタビューガイドの作成 |
| 4 | ガイドのパイロットテスト |
| 5 | 完成版インタビューガイドの提示 |
この5段階で見落とされがちなのが第1段階です。半構造化インタビューが適した問いなのかを先に判定する工程が、独立した段階として置かれている点に注意してください。「とりあえずヒアリングする」から入ると、この判定を飛ばすことになります。
パイロットテストで潰しておく問題
第4段階のパイロットテストは省略されやすい工程ですが、ここを飛ばすと本番で回収できない不備がそのまま残ります。試行で確認したいのは、質問が意図どおりに解釈されるか、専門用語が対象者に通じるか、想定した時間内に全項目を聞き終えられるか、そして答えが一言で終わってしまう問いが混ざっていないかです。同僚を相手にした1本の試行でも、これらのうち複数は表面化します。
Kallioらは、ガイドを厳密に作り込む手続きそのものが研究の客観性と信頼性に寄与し、結果の説得力を高めると結論づけました。つまりガイドは準備物ではなく、方法の記述に含めて公開すべき成果物です。
メイン質問と深掘り質問の書き分け
ガイドは、必ず全員に聞くメイン質問と、答えに応じて出す深掘り質問(プローブ)を分けて書きます。メイン質問は行動の事実を尋ねる形にしてください。「満足していますか」ではなく「直近で購入を決めたときは、何を見て決めましたか」のように、実際に起きたことを答えてもらう形です。評価や理由を先に聞くと、その場で作られた説明が返ってきます。
深掘り質問は、あらかじめ型として用意しておくと現場で迷いません。実際の出来事を具体化する「そのとき、直前には何をしていましたか」、判断の分岐点を探る「他に候補はありましたか。なぜそちらにしなかったのですか」、語られた評価の中身を開く「使いやすいというのは、具体的にどの操作のことですか」といった形です。これらはガイドの各メイン質問の下にぶら下げて書いておきます。
対象者の人数の見積もり方
単一の均質な集団なら12本以内、基本テーマは6本時点
質的調査の人数は「飽和するまで」と説明されることが多く、事前の見積もりには使えません。この点について実測したのがGuest、Bunce、Johnsonの研究です。西アフリカ2か国で行った60本のデプスインタビューを対象に、分析の進行とともに新しいテーマがどこで出尽くすかを追跡し、飽和は最初の12本以内で生じ、メタテーマの基本要素は6本の時点ですでに現れていたと報告しています(Field Methods 18巻1号 59-82、doi:10.1177/1525822X05279903)。
この数字は、比較的均質な集団に対して同じ問いを立てた場合の目安です。予算や日程を先に確定させなければならない案件では、12本を上限の見当として置き、6本を終えた時点で中間分析を挟むと、追加が要るかどうかを早い段階で判断できます。
複数のサイトや層を横断するなら20〜40本
ただし12という数字を無条件に持ち込むのは危険です。HagamanとWutichは、4つの調査地で132名に実施した異文化比較研究を分析し、比較的均質な単一サイトからの共通テーマ抽出には16本以下で足りたものの、全サイトを横断するメタテーマの飽和には20〜40本が必要だったと報告しています(Field Methods 29巻1号 23-41、doi:10.1177/1525822X16640447)。
判断の分かれ目は、対象者の多様性と、比較したい層の数です。年代別・利用歴別・地域別に結果を割って見たいなら、割った後の各セルで飽和が要るので、必要数は層の数だけ増えます。逆に、単一のペルソナに絞った探索なら二桁の前半で足ります。人数は総数ではなく、セル単位で見積もってください。
当日の進行と記録・研究倫理の準備
進行と記録の取り方
所要時間は、ガイドに載せたメイン質問の数に深掘りの時間を足して設計します。1問あたり深掘りを含めて5分から10分が目安なので、メイン質問を8問置くと、導入と締めを含めて1時間前後、深掘りが伸びればそれ以上になります。時間が足りなくなったときにどの質問から落とすかを、ガイドに優先順位として書き込んでおくと、現場で迷いません。
記録は録音を基本にします。半構造化では追加質問をその場で組み立てるため、聞き手がメモに集中すると次の問いが出てこなくなるからです。録音を前提に、手元のメモは「後で聞き返す箇所の時刻」と「表情や間などの音声に残らない情報」に絞ります。文字起こしは、分析でコードを付ける単位が発話になるため、発話者と発話の区切りが分かる逐語録の形にしてください。
研究倫理と同意の取り方
大学や医療機関の研究として実施する場合、日本では「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」(令和3年3月23日制定、令和4年3月10日・令和5年3月27日・令和8年8月27日一部改正)が適用範囲を定めています。文部科学省の公表資料によれば、令和8年8月27日の改正は令和8年12月1日施行です。研究計画の提出時期によって参照すべき版が変わるため、所属機関の倫理審査委員会に現行版を確認してください。
企業のマーケティング調査として実施する場合は倫理指針の直接の対象ではありませんが、録音データと逐語録は個人情報として扱う必要があります。同意の場面では、録音すること、記録を誰がどこまで見るか、公表時にどう匿名化するか、途中で中止できることの4点を、開始前に口頭と書面の両方で伝えます。この4点は後述するCOREQでも報告項目に含まれる論点です。
逐語録からのコード化とカテゴリー化
分析の全体手順
半構造化インタビューの分析は、逐語録の作成、意味のまとまりへの分割、コードの付与、コードのカテゴリー化、カテゴリー間の関係の記述、という順で進みます。このうち初学者が止まるのは3番目のコード付与です。質的研究では、あらかじめ用意したコード一覧から選ぶのではなく、テクストを読みながらコードを案出する方式を採るため、何をコードにすればよいか思いつかないという状態になります。手順が明文化された手法を使う理由はここにあります。
SCAT・M-GTA・質的内容分析の使い分け
名古屋大学の大谷尚氏が開発したSCAT(Steps for Coding and Theorization)は、マトリクスの各行に、データの中の着目すべき語句、それを言いかえるためのデータ外の語句、それを説明するための語句、そこから浮き上がるテーマ・構成概念、の順にコードを書き込む4ステップのコーディングと、そのテーマ・構成概念を紡いでストーリーラインを記述し、そこから理論を記述する手続きからなります(感性工学 10巻3号 155-160)。同論文は、この手法が一つだけのケースのデータやアンケートの自由記述欄などの比較的小規模な質的データにも有効だと明記しています。
手法選択の判断材料として同論文が挙げているのは、データ規模と研究期間です。Glaser と Strauss のグラウンデッド・セオリーは、データ採取から理論化までの研究デザイン全体を規定する枠組みである一方、比較的大規模なデータ採取と長い研究期間を要する大がかりな研究に適用される手法で、ごく小規模なデータやすでに採取した手持ちのデータには適用できないと整理されています。数本のインタビューを終えてから分析手法を選ぶ状況なら、SCATのように小規模データを前提にした手法が現実的です。日本語圏では、木下康仁氏が提唱したM-GTA(修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ)や、川喜田二郎氏の『発想法 創造性開発のために』(中央公論社、1967年)で示されたKJ法も広く使われています。看護研究では、GraneheimとLundmanが信頼性の確保まで含めて手続きを示した質的内容分析(Nurse Education Today 24巻2号 105-112)が参照されることが多い手法です。
コード化でつまずく箇所
コードが思いつかないときは、いきなり抽象的な概念を作ろうとしていることがほとんどです。SCATの4ステップが有効なのは、発話の語句をそのまま拾う段階と、それを言い換える段階を分けているためで、抽象化を一足飛びにしない構造になっています。まず語句を書き写し、次に言い換え、その次に説明を与える、という順を守ってください。
もう一つ多いのが、コードの粒度が回答者ごとにばらつく問題です。1本目を丁寧に細かく刻み、5本目は疲れて粗くなる、という形で起きます。対策は、最初の2本を分析した時点でコード一覧を書き出し、以降はその粒度に合わせることです。合わない発話が出てきたらコードを追加し、追加したら前の分まで遡って付け直します。
論文・看護研究で問われる報告要件(COREQ 32項目)
卒業論文や看護研究で半構造化インタビューを使う場合、方法欄に何をどこまで書くべきかが問題になります。この基準として広く参照されているのがCOREQ(Consolidated criteria for reporting qualitative research)です。TongらはCochraneやMedline、CINAHL、主要医学雑誌の投稿規定など22のチェックリストから76項目を集約し、重複や評価困難な項目を除いて32項目のチェックリストにまとめました(International Journal for Quality in Health Care 19巻6号 349-357、doi:10.1093/intqhc/mzm042)。
32項目は3領域に分かれます。第1領域は研究チームと省察性(誰がインタビューしたか、その属性や訓練、対象者との関係)、第2領域は研究デザイン(理論的枠組み、対象者の選定、場面設定、データ収集の方法)、第3領域はデータ分析と報告です。日本語の論文でこの分類が効いてくるのは第1領域で、聞き手が誰で、対象者とどんな関係にあったかを書かないまま提出される原稿が少なくありません。半構造化インタビューは聞き手の裁量が結果に入り込む手法なので、その裁量を誰がどう行使したかを開示することが、そのまま方法の妥当性の説明になります。
報告要件の観点から見ると、前述のインタビューガイドを添付資料として付けるかどうかも判断が要ります。ガイドを示せば、第2領域のデータ収集方法の記述が具体的になり、追試の可能性が上がります。
半構造化インタビューを選ぶべきでない場面
この手法を選ばないほうがよい場面は明確です。第一に、比率や発生率を数字で示したいときには使えません。12本のインタビューで「8割が不満を述べた」と書いても、それは母集団の8割ではありません。数字で示す必要があるなら定量調査とは?定性調査との違い・手法とサンプルサイズの決め方で扱う設計に切り替えてください。
第二に、参加者同士のやり取りから出てくる反応を見たい場合は、1対1の半構造化インタビューでは取れません。他人の発言に触発されて出る意見を狙うならグループ形式が適します。
第三に、本人が言語化できない習慣や身体的な手順を知りたい場合、インタビューでは取り逃します。「いつもどうしていますか」と聞いて返ってくるのは、本人が自覚している範囲の説明だけです。実際の作業手順や無意識の回避行動を捉えるなら、参与観察とは?読み方・意味と具体例、やり方をわかりやすく解説で扱う観察法を組み合わせてください。半構造化インタビューの守備範囲は、本人が語れる経験と、その理由づけまでです。
よくある質問
半構造化インタビューは英語で何といいますか?
semi-structured interview です。構造化インタビューは structured interview、非構造化インタビューは unstructured interview と表記します。海外文献を探す場合は semi-structured interview guide や semi-structured interview saturation のように、知りたい論点を足して検索すると方法論の文献に当たりやすくなります。
半構造化面接や半構成的面接と、半構造化インタビューは同じものですか?
同じ手法を指します。心理学・看護学・社会調査の論文では「半構造化面接」「半構成的面接」「半構造的インタビュー」が使われ、マーケティングリサーチでは「半構造化インタビュー」が一般的です。採用選考の文脈で「半構造化面接」と言う場合も、質問項目を決めたうえで面接官が掘り下げるという形式は変わりません。
半構造化インタビューは何人に実施すればよいですか?
比較的均質な単一集団を対象にするなら、Guestらの実測では最初の12本以内で新しいテーマが出尽くしています。ただし複数の層や地域を横断して比較したい場合は、HagamanとWutichの研究で20〜40本が必要とされています。層別に結果を出したいなら、総数ではなく層ごとに必要数を見積もってください。
半構造化インタビューのコード化はどう進めればよいですか?
逐語録を意味のまとまりに区切り、その区切りごとにコードを付けます。SCATの手順に従うなら、発話の中の着目すべき語句をそのまま書き写し、次にそれを言い換え、その言い換えを説明する語句を書き、最後にテーマ・構成概念を立てる、という4段階です。最初から抽象的な概念を作ろうとしないことが、詰まらずに進めるための要点です。
卒業論文や看護研究では、方法欄に何を書けばよいですか?
COREQの32項目が実質的な基準になります。聞き手が誰でどんな訓練を受けたか、対象者とどんな関係にあったか、対象者をどう選んだか、どこで何分間実施したか、録音したか、逐語録を作成したか、誰がコード化したか、コードの一覧をどう作ったかを記述します。インタビューガイドを付録として添付すると、データ収集方法の記述が具体的になります。