マトリクス形式は、複数の質問項目を行に、共通の選択肢を列に並べて、表の形で一度に答えてもらう設問形式です。1画面にまとめると所要時間が短くなるという実験結果がある一方、無回答が増える条件や、スマートフォンではPCより回答時間がかかる傾向も確認されています。この記事では、メリットとデメリット、SAマトリクスとMAマトリクスの違い、Googleフォームでの設定、行数・列数・選択肢数の決め方、回答データの集計式までを、研究結果と各ツールの公式ヘルプをもとに整理します。
まとめ:マトリクス形式を使うかどうかの判断基準
- マトリクス形式は「同じ選択肢で複数の項目を評価させる」ときだけ使います。項目ごとに選択肢が変わる設問には向きません。
- メリットは項目を同じものさしで比べられることと、条件しだいで所要時間が短くなることです。デメリットは項目無回答の増加、スマートフォンでの答えにくさ、並べた項目どうしの回答が似通うことです。
- 各行で1つだけ選ぶのがSAマトリクス、各行で複数選べるのがMAマトリクスです。集計では行を1問ずつの独立した設問として扱います。
- 規模の目安は1問あたり5行×5列以内です。行数と列数を変えた実験(Grady ほか 2019)で5行×5列が最もよい結果になり、SurveyMonkey Audienceの設計ガイドラインも同じ上限を推奨しています。9段階・11段階の尺度はマトリクスにすると1問ずつ聞いた場合と測定結果が大きくずれたため、1問ずつの形式にします。
- 回答者の大半がスマートフォンなら、マトリクスを分割するか、1問ずつの設問に置き換えます。
- 「わからない」を9などのコードで入れたまま平均や上位2段階比率を出すと数字が狂います。集計式で除外します。
以下で、構造と種類、メリット・デメリットと研究の裏づけ、具体的な作り方、集計の順に説明します。
マトリクス形式の定義と表側・表頭の役割
マトリクス形式(マトリクス回答形式、グリッド設問とも呼びます)は、表の左側(表側)に評価してほしい項目を、表の上側(表頭)に全項目で共通の選択肢を置く設問です。英語圏の調査研究では grid question や matrix question と呼ばれます。
例として、飲食店の満足度を5段階で聞く設問を表にすると次のようになります。
| 項目(表側) | 満足 | やや満足 | どちらともいえない | やや不満 | 不満 |
|---|---|---|---|---|---|
| 料理の味 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 価格 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 店員の対応 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 店内の清潔さ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
行ごとに1つの○を選ぶので、この表は4問分の回答を1画面で集めています。表側には「評価される対象」、表頭には「評価のものさし」を置くのが基本です。逆に置くと、回答者は1行ごとに対象を横断して見比べることになり、迷いが増えます。「あてはまるものはない」を設ける場合は、選択肢側(表頭)の列に置き、ほかの列と同時に選べない排他設定にします。
なお、SWOT分析や「重要度×緊急度」の4象限のように、2つの軸で情報を整理する図は「マトリクス図」「マトリックス表」と呼ばれ、検索結果でも混ざって表示されます。こちらは分析や企画のための図解で、回答者に答えてもらうアンケートのマトリクス形式とは別物です。この記事が扱うのはアンケートの設問形式です。
アンケートの回答形式の種類とマトリクス形式の位置づけ
総務省統計局の統計学習サイト「Data StaRt:選択肢の作成」は、回答形式をまず「選択肢を用意するか、自由回答にするか」で分け、選択肢を用意する場合は名義尺度か順序尺度かで分けています。名義尺度では1つだけ選ぶ単項選択と、複数を選べる多項選択があり、多項選択には上限を設ける形や優先順位を付けてもらう形も含まれます。一方、順序尺度(満足度の段階など)は「多項選択ということは論理的にあり得ず、単項選択のみ」です。
マトリクス形式は、これらと並ぶ別の回答形式ではありません。単一回答・複数回答などの形式を、複数の項目に対して表の形でまとめて出す「レイアウト」です。主な回答形式との関係は次のとおりです。
| 回答形式 | 略称 | 回答のしかた | マトリクス化 |
|---|---|---|---|
| 単一回答(シングルアンサー) | SA | 選択肢から1つ選ぶ | SAマトリクス |
| 複数回答(マルチアンサー) | MA | 当てはまるものをすべて選ぶ | MAマトリクス |
| 制限付き複数回答 | LA | 上限個数まで選ぶ | 行ごとの上限設定が必要 |
| 順位回答 | – | 選択肢に順位を付ける | 列ごとに1件の制限で作る |
| 評定尺度 | SA | 5段階などから1つ選ぶ | SAマトリクスのみ |
| SD法(両極尺度) | SA | 反対語の対の間で選ぶ | 行ごとに形容詞対を置く |
| 数値回答 | – | 数量を入力する | 対応ツールでセルに入力 |
| 自由回答 | FA | 文章を入力する | 対応ツールでセルに入力 |
評定尺度が「SAマトリクスのみ」になるのは、統計局の整理どおり順序尺度に多項選択がありえないためです。満足度の表をMAマトリクスにすると「満足」と「不満」を同時に選べてしまうので、ツールの設定で必ず単一選択にします。
選択肢を用意する形式と自由回答の使い分けはクローズドエンド型質問の記事、上限個数を決めて選ばせるLAの設計はLA(リミテッドアンサー)の解説記事、評定尺度の段階数の選び方はリッカート尺度の記事が詳しく、この記事では「表にまとめたときに何が起きるか」に絞ります。
SAマトリクスとMAマトリクスの違いと集計単位
SAマトリクス:各行で1つだけ選ぶ形式
SAマトリクスは、行ごとに選択肢を1つだけ選ぶ形式です。満足度や重要度を5段階で聞く設問を表にまとめると、この形式になります。Googleフォームでは「選択式(グリッド)」がSAマトリクスで、Googleの公式ヘルプは「回答者は 1 行につき 1 列のみ選択できます」と説明しています。
集計では、各行を独立したSA設問として扱います。4行のマトリクスなら、行ごとの度数分布表が4本できます。度数と構成比の出し方は単純集計(GT集計)の記事の手順がそのまま使えます。段階を数値に置き換えて行ごとの平均値を並べると、項目間の比較が1つの表で読めます。
MAマトリクス:各行で複数選べる形式
MAマトリクスは、行ごとに当てはまる選択肢をすべて選ぶ形式です。「ブランドA〜Dそれぞれについて、当てはまるイメージをすべて選んでください」のように、項目×イメージの組み合わせを聞くときに使います。Googleフォームでは「チェックボックス(グリッド)」が該当します。
集計では、セル1つを「選んだ=1/選ばなかった=0」の変数として扱います。ただし行全体が空欄の回答者まで0にすると選択率が下がるので、その行を無回答として分母から外すかどうかを先に決めます。1行の選択率の合計は100%を超える場合があるため、構成比ではなく「その行の回答者のうち何%が選んだか」で表示します。行数×列数の変数が生まれるため、6行×8列なら48変数です。分析段階で扱いきれないほど列を増やさないことが、MAマトリクスの設計上の制約になります。
SA・MA以外のマトリクス:両極尺度・順位・数値入力
調査ツールによっては、SAとMA以外のマトリクスも作れます。Qualtricsのマトリックス表の質問(公式ヘルプ)には、リッカートのほかに、両極、ランキング、コンスタントサム(合計値を配分する形式)、自由回答、プロファイル、MaxDiffのバリエーションがあります。
両極マトリクスは、行ごとに「古い―新しい」のような反対語の対を置く形で、SD法の調査票そのものです。形容詞対の選び方や分析はSD法の記事で扱っています。ランキングや数値入力のマトリクスは、1セルが1変数になる点でMAマトリクスと同じく変数が増えやすく、列数を絞る必要があります。
マトリクス形式のメリットとデメリット:研究で確かめられていること
マトリクス形式の解説では「回答者の負担が減り、回答率が上がる」と書かれることがありますが、Web調査の実験で確かめられているのは、それより限定的な内容です。次の表は、下の章で紹介する実験と公式ヘルプから、確認できた範囲をまとめたものです。
| 区分 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| メリット | 1画面にまとめると所要時間が短くなる場合がある | Toepoel ほか 2009 |
| メリット | 項目を同じものさしで比べられる | 設問の構造 |
| メリット | 画面数と設問の見かけの数が減る | 設問の構造 |
| デメリット | 項目無回答が増える | Toepoel ほか 2009、Liu & Cernat 2018 |
| デメリット | スマートフォンで回答時間が延びる | Revilla ほか 2017 |
| デメリット | 近くに並べた項目の回答が似通う | Tourangeau ほか 2004 |
| デメリット | 回答者のレイアウト評価が下がる | Toepoel ほか 2009 |
| デメリット | 行が多いと途中離脱が増える | Grady ほか 2019、JMRA 2020 |
| デメリット | 9段階以上の尺度で測定がずれる | Liu & Cernat 2018 |
所要時間の短縮は、どの条件でも起きるわけではありません。Liu & Cernat(2018)ではマトリクスと1問ずつの形式で回答時間は同程度で、Revilla ほか(2017)ではスマートフォンでグリッドに答えるとPCより時間が長くかかりました。
一方、まとめて並べる形式と1問ずつの形式で項目無回答を比べた2本の実験は、どちらも「まとめて並べるほうが無回答が多い」という結果でした。マトリクスで回答率が上がるという主張は、少なくとも項目単位の回答率については裏づけがありません。マトリクスを選ぶ理由は「回答を集めやすいから」ではなく、「同じものさしで比べたい項目が少数あり、回答時間を短くしたいから」に限るのが安全です。
設問の見かけの数が減っても、回答者の負担が減るわけではありません。日本マーケティング・リサーチ協会(JMRA)のインターネット調査品質ガイドライン(2020年5月・第2版)は、日本の調査会社のインターネット調査の料金は多くが質問数とサンプルサイズで算出されると書いたうえで、マトリクス設問は「あたかも1問のように見えるが、単一回答や複数回答の集合体」であり、項目数が増えるほど回答所要時間が長くなると注意しています。同ガイドラインが示す離脱の例では、SAマトリクスが表示された設問で多くの人が離脱し、PCよりスマートフォンの回答者のほうが多く脱落していました。
ツールの上限も同じ考え方です。Microsoft Formsは公式の上限説明で、リッカート内のステートメント(行)をそれぞれ1問として数えています。
マトリクス形式がデータ品質に与える影響:実験研究の結果
「マトリクスは回答が雑になる」とよく言われますが、Web調査の実験を見ると、影響が出る指標と出ない指標があります。ここでは、形式を無作為に割り付けて比べた研究を5本取り上げます(行数・列数を変えた実験は、作り方の章で扱います)。標本の集め方は研究ごとに異なります(ToepoelほかのCentERpanelは、インターネットを使わない世帯にも機器を提供して募集したオランダのパネルです)。いずれも海外の調査なので、結果を日本の調査にそのまま当てはめることはできません。
1画面の項目数と無回答・所要時間(Toepoel ほか 2009)
Toepoel、Das、van Soest(Field Methods 21(2), pp.200-213)は、40問の質問を1画面に1問・4問・10問・40問ずつ並べる4つの形式で比べました。抄録によると、回答の中身(測ろうとした指標の得点)には形式による差がなかった一方、1画面に並ぶ項目が多いほど項目無回答が増えました。複数の項目を1画面に並べると所要時間は短くなりましたが、回答者による調査票のレイアウトの評価は下がっています。
この結果が、マトリクスのメリットとデメリットの関係をよく表しています。時間は短くなるが、空欄が増え、回答者の印象も悪くなる。1画面の項目数を増やすほど、この交換条件は悪い方向に進みます。
マトリクスの項目無回答と回答端末による差(Liu & Cernat 2018)
Liu と Cernat(Social Science Computer Review 36(6), pp.690-706)は、マトリクスと1問ずつの形式を、選択肢数2・3・4・5・7・9・11段階の条件で比べました。抄録の結論は次の3点です。
- ストレートライニング(全行に同じ選択肢を付ける回答)と回答時間は、どの選択肢数でも2形式で同程度だった
- 項目無回答はマトリクスのほうが多い傾向があり、特にモバイル回答者で目立った
- 選択肢が7未満なら2形式の測定は等価だったが、9段階・11段階のマトリクスは1問ずつの形式と大きく異なった
この実験で形式は無作為に割り付けられていますが、スマートフォンかPCかは回答者自身が選んでいます。モバイルでの差は、端末そのものの影響と回答者層の違いが混ざった結果として読みます。
回答を任意にしているマトリクスでは空欄が増えるので、各行を必須にするか、無回答の扱いを集計前に決めておきます。必須にする場合は、該当しない人も答えられるよう「あてはまらない」などの列を用意します。
果物摂取の設問での欠損と同一回答(Couper ほか 2013)
Couper、Tourangeau、Conrad、Zhang(Social Science Computer Review 31(3), pp.322-345・PMCで全文公開)は、米国国立がん研究所の食事歴質問票から取った果物13品目の摂取頻度と量を、5種類のグリッドで尋ねました(実験1の完了者2,410人)。
| グリッドの版 | 頻度項目の平均欠損数 | 食べたと答えた果物数 |
|---|---|---|
| 標準のグリッド | 0.107 | 9.89 |
| 行を動的に強調 | 0.025 | 9.99 |
| 列を動的に強調 | 0.039 | 9.77 |
| 分割グリッドI | 0.029 | 10.75 |
| 分割グリッドII | 0.010 | 10.77 |
標準のグリッドは欠損が最も多く、ほかの4版はいずれも有意に減らしました。分割グリッドでは「食べた」と答える品目が約1つ増えています。追加質問が最初から見えていると、答える手間を避けて「食べていない」を選ぶ過少報告が起きるためで、分割でそれが抑えられたと著者らは解釈しています。
一方、13品目すべてに同じ回答をした人は全版を通じて1.1%、12品目以上で同じ回答をした人も2.3%にとどまり、この指標に版の差はありませんでした。ただし、これは果物の摂取という行動についての設問で、ストレートライニングの先行研究が主に扱ってきた態度(意見や評価)の設問ではない、と著者ら自身が注記しています。行動を聞くマトリクスでは、弊害は「全部同じ選択肢を付ける」ことより、空欄と、面倒な追加質問を避ける答え方に出やすいと読めます。
スマートフォンでのグリッド回答時間と1問ずつ表示の効果(Revilla ほか 2017)
Revilla、Toninelli、Ochoa(Telematics and Informatics 34(1), pp.30-42)は、スペインのNetquestパネルで2015年に2回の調査を行い、PC、スマートフォン(最適化なし)、スマートフォン(最適化あり)の3条件を比べました。最適化ありの条件では、グリッドが自動的に1問ずつの表示に分割されます。
結果は、スマートフォンでグリッドに答えると回答時間が長くなり、グリッドを1問ずつに分割すると、行ごとに答えを変えない回答(非差別化)が減るというものでした。項目どうしの相関の水準は、3つの条件で同程度でした。PCとスマートフォンの回答を並べて比べる調査では、両方を1問ずつの形式にそろえるのが比較しやすいと著者らは結論づけています。
画面上の項目配置と項目間相関の関係(Tourangeau ほか 2004)
Tourangeau、Couper、Conrad(Public Opinion Quarterly 68(3), pp.368-393)は、Web調査に組み込んだ6つの実験で、回答者が画面の見た目から質問の意味を推し量ることを示しました。最後の実験では、関連する項目群を1画面にまとめる・2画面に分ける・1問ずつ出すの3通りで比べ、1画面にまとめたときに項目間の相関が最も高くなりました。著者らは、回答者が「画面上で近くにある項目は内容も関連している」と受け取るためだと解釈しています。
マトリクスは複数の項目を1つの表に密集させる形式なので、この影響を受けやすい構造です。互いに独立して評価してほしい項目を同じ表に入れると、実際以上に似た回答パターンになるおそれがあります。前の質問が後ろの回答に影響する現象はキャリーオーバー効果の記事で詳しく扱っています。
マトリクス設問の作り方:行数・列数・選択肢数の決め方
行数・列数の目安:1問あたり5行×5列以内
行数と列数を同時に変えて比べた実験に、Grady、Greenspan、Liu(Social Science Computer Review 37(3), pp.435-445)があります。研究1(2,492人)では、20問を1ページあたり5行・10行・20行、列(選択肢)3列・5列・7列の組み合わせで出しました(スマートフォンでは1問ずつの表示に変換)。抄録によると、行が多いほど途中離脱率と回答者が感じた難しさが上がり、7列では所要時間が延び、3列では尺度の信頼性が下がりました。試した中で最もよかったのは5行×5列で、研究2(2,570人)でも5行の条件が回答者の評価で最もよい結果でした。
SurveyMonkeyのAudience向け設計ガイドラインも、マトリクス質問を「1調査あたり最大5問、1問あたり5列・5行以内」に抑えるよう推奨しています。同社の日本語記事「マトリックス形式の質問を書くための4つのヒント」も、回答選択肢と質問項目をそれぞれ5個以内に抑えるよう勧めています。
製品のハード上限はこれよりずっと大きく、SurveyMonkeyのMatrix/Rating Scaleは16列・100行まで作れます。作れることと答えてもらえることは別です。項目が6つ以上になるなら、テーマごとに、各表が原則5行以内になる数のマトリクスに分けます。Toepoel ほか(2009)でも、1画面の項目が多い形式ほど無回答が増えていました。ただし、Grady ほか(2019)が試したのは5行・10行・20行の3条件なので、6行なら問題ない、という線引きまでは示していません。
なお、Couper ほか(2013)が試した分割は、摂取頻度と摂取量のように1項目に2つの質問を付けたグリッドを分けるもので、行数を減らす効果を直接測ったものではありません。著者らは、満足度と重要度を1つのグリッドで同時に聞く設計を分けるとデータの質が上がる、と述べています。
選択肢の段階数の判断基準:9段階以上は1問ずつ
Liu & Cernat(2018)の抄録は、選択肢が7未満では2形式の測定が等価で、9段階・11段階では大きな差があったとまとめています。ただし、抄録が「等価」としているのは測定モデルの比較です。項目無回答については、段階数を限らず「マトリクスのほうが多い傾向がある」と報告しています。9段階・11段階の尺度を使いたい場合は1問ずつの形式にし、5段階のマトリクスでも無回答の扱いは別に決めておきます。
スマートフォン表示の設計:横スクロールの回避
JMRAの同ガイドラインによると、主要調査会社の回答デバイス比率の集計では、スマートフォン回答は2018年に50%を超え、2019年には約56%でした。現在の調査票は、スマートフォンで答えられることを前提に設計します。
同ガイドラインは「巨大マトリクスは使わない」という項目で、横スクロールが出るマトリクスでは初期表示で見えている範囲の選択肢が選ばれやすくなるバイアスが生じ、縦スクロールが出るほど項目が多いマトリクスでは不正な回答が多く出るおそれがある、としています。対策として、回答者に端末を横向きにしてもらう前提は取らず、項目を絞り込むか複数のマトリクスに分割するよう求めています。SurveyMonkeyのMatrix/Rating Scaleの公式ヘルプも、列の多い大きなマトリクスでは回答者が右にスクロールする必要がある場合があると注意しています。
行の順序と「あてはまるものはない」の扱い
行の並び順が回答に影響するのを避けるには、行の表示順を回答者ごとに入れ替えます。Googleフォームのグリッド設問には「行を並べ替える」設定があります。ただし「その他」や「全体として」のように最後に置くべき行がある場合は、並べ替えを使わずに固定します。並べ替えの設計と順序効果の考え方はランダマイズの記事で扱っています。
「あてはまるものはない」はMAマトリクスで必要になる選択肢です。ほかの選択肢と同時に選べない排他設定ができるツールかどうかを、作成前に確認します。
マトリクス形式を使わないほうがよい4つの場面
次の条件に当てはまる設問は、マトリクスにまとめず1問ずつ聞きます。
- 回答者の大半がスマートフォンで答える調査で、表を縦向きの画面に収められない設問(SurveyMonkeyの日本語記事は、モバイル回答が大半と見込まれる場合は個別の質問に分けるよう勧めています)
- 行によって選択肢の意味や段階が変わる設問
- 行ごとの回答で次に出す質問を分岐させたい設問(SurveyMonkeyの質問スキップロジックは、行が1つの評価尺度に限られます)
- 9段階以上の尺度を使う設問
項目数が多く、しかも項目どうしを独立に評価してほしい場合も同様です。項目をまとめて表示すると、項目間の相関が高まる場合があるためです。
ツール別のマトリクス設問の設定
| ツール | SAマトリクス | MAマトリクス | 公式ヘルプの主な仕様 |
|---|---|---|---|
| Googleフォーム | 選択式(グリッド) | チェックボックス(グリッド) | 各行必須・1列1件制限・行の並べ替え |
| Microsoft Forms | リッカート | なし | 行1つを1問として上限に計上 |
| SurveyMonkey | Matrix/Rating Scale | 同(チェックボックス設定) | 16列・100行が上限 |
| Qualtrics | マトリックス表(リッカート) | 同(複数回答) | モバイルでアコーディオン表示 |
同じ「マトリクス」でも、上限の数え方とスマートフォンでの見え方がツールごとに違います。回答画面の見え方は、作成後にスマートフォンのプレビューで必ず確かめます。
Googleフォームでマトリクス形式を作る手順
- 質問を追加し、質問の種類で「選択式(グリッド)」(SA)または「チェックボックス(グリッド)」(MA)を選ぶ
- 「行」に評価してほしい項目を、「列」に共通の選択肢を入力する
- 空欄を防ぎたい場合は「各行で 1 つの回答を必須にする」をオンにする
- 行の順序による偏りを避けたい場合は、設定メニューから「行を並べ替える」を選ぶ
「各行で 1 つの回答を必須にする」をオンにすると、どの行にも最低1つの選択が必要になります。「1 列につき 1 件の回答に制限」は、同じ列を複数の行で選べなくする設定で、項目に順位を付けさせる設問でだけ使います。満足度の設問でオンにすると、2つの項目に同じ評価を付けられなくなります。
Microsoft Forms・SurveyMonkey・Qualtricsでの注意点
Microsoft Formsではマトリクス形式を「リッカート」という質問の種類で作ります。前述のとおりリッカート内の行はそれぞれ1問として数えられるので、10行のリッカートを置くと、フォームの質問数上限を10問分使う計算です。
SurveyMonkeyのMatrix/Rating Scaleは、行ごとに複数回答を許すチェックボックス設定や、列ごとに1回答に限る強制順位付けを選べます。Qualtricsのマトリックス表は、モバイル最適化の公式ヘルプによると、「Mobile friendly」を有効にすると画面に収まらない表をスマートフォンで項目ごとに開閉するアコーディオン形式で表示します。Qualtrics自身も、この設定を全マトリクスで有効にするよう推奨し、横スクロール表示は推奨しないとしています。なお、新しい回答画面(New Survey Taking Experience)ではモバイル対応の設定が既定で有効になり、一部は編集できない場合があります。
社内の会員基盤や基幹システムと連携した調査を自前で運用する場合は、マトリクスのスマートフォン表示や行ごとの必須設定を画面仕様として決めておく必要があります。そうした要件から作り込む場合は、アンケート管理システムの開発として検討する方法もあります。
マトリクス形式の回答の集計とストレートライニングの点検
集計の基本は、行ごとの単純集計です。そのうえで、評定尺度のSAマトリクスなら行ごとの平均値や「満足+やや満足」の上位2段階の合計比率(トップ2ボックス)を並べ、項目間を比べます。属性別の差を見る段階ではクロス集計を、多数の項目の背後にある共通の軸を探すなら因子分析を使います。
回答データの出力形式:SAの項目別列とMAの列分割
マトリクスは画面上では1問に見えますが、データでは行ごとに別の列になります。Qualtricsのマトリックス表の公式ヘルプは、単一回答のリッカートマトリックス表について「マトリックス表の各記述について、データセットに1つの列が表示されます」と説明し、列の見出しは「質問テキスト – 記述文テキスト」の形式になるとしています。複数回答の場合、既定では1つの列に選んだ回答がカンマ区切りで入り、列の分割を選ぶと選択肢ごとの列に分かれます。
Googleフォームでも、Google Apps Scriptのリファレンスによると、選択式(グリッド)の回答は行ごとの値の配列として返り、答えなかった行は空文字になります。チェックボックス(グリッド)は、行ごとに選んだ値の配列がさらに入れ子になった形です。
MAマトリクスの回答が1セルにカンマ区切りで入っている場合、そのままでは選択肢ごとの選択率を数えられません。列を分割する設定でエクスポートするか、選択肢ごとに1/0の列を作ってから集計します。
Excelの集計式:「わからない」を除外した平均・上位2段階比率
5段階の回答を「満足=5〜不満=1」、「わからない=9」とした10件の検証用データで集計式を試しました。表は4項目をB〜E列、10件を2〜11行目に置いた形で、下の式は項目ごとの列に当てはめます(式はB列の例)。結果の表は「店員の対応」の列(値は5、4、4、5、9、4、2、9、3、4)で、LibreOfficeで再計算すると、9を含む列では次のように結果が変わりました。
上位2段階比率(1〜5のみ): =COUNTIFS(B2:B11,">=4",B2:B11,"<=5")/COUNTIFS(B2:B11,">=1",B2:B11,"<=5")
上位2段階比率(除外なし): =COUNTIF(B2:B11,">=4")/COUNT(B2:B11)
平均(1〜5のみ): =AVERAGEIFS(B2:B11,B2:B11,">=1",B2:B11,"<=5")
平均(除外なし): =AVERAGE(B2:B11)
行の標準偏差(B2:E2の全4項目が1〜5の場合): =IF(COUNTIFS(B2:E2,">=1",B2:E2,"<=5")=4,STDEV.P(B2:E2),"要確認")
| 「店員の対応」の列(9が2人) | 1〜5に絞った式 | 除外しない式 |
|---|---|---|
| 上位2段階比率 | 75.0%(8人中6人) | 80.0% |
| 平均 | 3.875 | 4.9 |
「>=4」だけの条件は9も数えるので、上位2段階比率が5ポイント高く出ます。平均は9が2人入るだけで1点以上ずれます。「わからない」や「あてはまらない」に数値コードを振る場合は、集計式で必ず範囲を1〜5に絞ります。9がない列では、両方の式の結果は一致しました。
ストレートライニングの点検:行の標準偏差が0の回答者
分析の前に、全行に同じ選択肢を付けた回答を点検します。Kim ほか(Social Science Computer Review 37(2), pp.214-233, 2019)は、ストレートライニングの測り方として5つの指標を比べました。
- 全行が同じ回答かどうか(simple nondifferentiation)
- 最も多く選ばれた同一回答の割合(maximum identical rating)
- 行をまたいだ回答の標準偏差(standard deviation of battery)
- 回答のペア間の差をもとにした指標(mean root of pairs)
- 使われた段階の散らばり(scale point variation)
Excelで手早く点検するなら、上の STDEV.P で回答者ごとに行をまたいだ標準偏差を出し、0の人を抜き出します。先ほどの10人では、全行4・全行5・全行3の3人が0になりました。ただし、全項目に本当に満足している回答者も標準偏差は0になります。上の式は、9や空欄を含む回答者を計算せず「要確認」と表示するので、その人たちは別に確認します。標準偏差0だけで不適切な回答と決めつけず、該当者が多ければ似た項目の混在や行の並びなど設問側を見直し、個人単位の除外は所要時間や注意確認設問と組み合わせて判断します。不適切な回答の検知方法は回答誤差の記事で扱っています。
よくある質問
マトリクス形式のメリットとデメリットは何ですか?
メリットは、複数の項目を同じものさしで比べられることと、1画面にまとめることで所要時間が短くなる場合があることです(スマートフォンではPCより時間がかかった実験もあります)。デメリットは、1問ずつ聞く形式より項目無回答が増えること、スマートフォンでは回答時間が延びること、並べた項目どうしの回答が似通いやすいことです。研究ごとの条件と結果は、本文の実験研究の章で説明しています。
SAマトリクスとMAマトリクスの違いは何ですか?
SAマトリクスは各行で選択肢を1つだけ選ぶ形式、MAマトリクスは各行で当てはまる選択肢をすべて選ぶ形式です。満足度などの段階評価はSAマトリクス、ブランドごとのイメージを複数選ばせる設問はMAマトリクスになります。集計では、SAマトリクスは行ごとに構成比を出し、MAマトリクスはセルごとに「選んだ人の割合」を出します。MAマトリクスでは、行ごとの選択率の合計が100%を超える場合があります。
Googleフォームでマトリクス形式の質問を作るには?
質問の種類で「選択式(グリッド)」を選ぶと各行1つだけ選ぶSAマトリクス、「チェックボックス(グリッド)」を選ぶと各行で複数選べるMAマトリクスになります。「行」に項目、「列」に選択肢を入力します。空欄を防ぐなら「各行で 1 つの回答を必須にする」をオンにし、行の順序による偏りを避けたい場合は「行を並べ替える」を設定します。
マトリクス設問の行数・列数はいくつまでが目安ですか?
1問あたり5行×5列以内が目安です。5・10・20行と3・5・7列を組み合わせて比べた実験(Grady ほか 2019)では、行が多いほど途中離脱が増え、5行×5列が最もよい結果でした。SurveyMonkeyのAudience向け設計ガイドラインも、マトリクス質問を1調査で最大5問、1問あたり5列・5行以内に抑えるよう推奨しています。選択肢の段階数は、Liu & Cernat(2018)の実験で9段階・11段階のマトリクスが1問ずつの形式と大きく異なる測定結果になったため、9段階以上は1問ずつ聞くのが無難です。項目が多いときはテーマごとに表を分けます。
アンケートの回答形式にはどんな種類がありますか?
主な回答形式は、1つだけ選ぶ単一回答(SA)、当てはまるものをすべて選ぶ複数回答(MA)、上限個数まで選ぶ制限付き複数回答(LA)、順位を付ける順位回答、数量を入れる数値回答、文章を書く自由回答(FA)です。5段階などの評定尺度やSD法はSAの一種です。マトリクス形式はこれらと並ぶ別形式ではなく、SAやMAの設問を複数項目ぶん表にまとめて出すレイアウトにあたります。