介護保険法の次の改正は、「社会福祉法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第51号)として令和8年6月19日に成立し、6月25日に公布されました。施行は原則令和9年4月1日ですが、ケアマネジャーの更新制廃止、有料老人ホームの登録制、登録施設介護支援の新設はそれぞれ別の日付で動きます。この記事では厚生労働省の法律案要綱をもとに、改正項目ごとの施行区分を一覧にし、電子資格確認・特定地域居宅サービス・夜間対応型訪問介護の廃止が介護ソフトの請求・記録・人事データのどこを変えるかを整理しました。法改正に入らなかった2割負担の扱いと、改修を自社で作り込むかどうかの判断基準も扱います。
まとめ:介護保険法改正で介護システム側が令和9年4月より前に決める事項
令和8年の介護保険法改正は、単独の「介護保険法改正法」ではありません。社会福祉法・老人福祉法・障害者総合支援法などと束ねた一括法の一部です。介護事業者のシステムに直接響くのは、電子資格確認の導入、夜間対応型訪問介護の廃止、人口減少地域向けの特定地域居宅サービスの新設、ケアマネジャーの更新制廃止、登録有料老人ホームと登録施設介護支援の創設の5つ。
施行日は4段階に分かれます。令和9年4月1日、公布から1年6月以内、2年以内、3年以内です。報酬単位やサービスコードは政省令・告示で決まるため、2026年10月時点ではまだ改修仕様を確定できません。
いま決めておくべきなのは、どの改正項目が自法人に関係するかの棚卸しと、介護ソフトのベンダー改修で吸収できる範囲の確認です。複数の介護ソフトをつないでいる法人や有料老人ホームを併設する法人ほど、ベンダー改修の外側に残る作業が増えます。
令和8年6月成立の社会福祉法等改正法に含まれる介護保険法改正の全体像と施行日
まず、今回の改正がどの法律で、いつ何が動くのかを確定させます。
令和8年4月提出・6月19日成立・6月25日公布に至った改正法の位置づけ
政府は令和8年4月3日に「社会福祉法等の一部を改正する法律案」を国会へ提出しました。厚生労働省の第221回国会提出法律案のページには、概要・要綱・案文・新旧対照条文が並んでいます。参議院の議案情報によれば、衆議院可決が5月26日、参議院可決による成立が6月19日、公布が6月25日で、法律番号は令和8年法律第51号です。
改正対象は介護保険法だけではありません。法律案の概要は、改正の柱を「地域の実情に応じた包括的な支援体制の拡充」「福祉人材の安定的な確保及び定着支援」「支援基盤の強化等」の3つに整理しています。介護保険法の改正はこのうち前の2つにまたがり、第10期介護保険事業計画(令和9年度から)の開始に合わせた制度改正という位置づけです。
令和9年4月1日を原則に公布後1年6月・2年・3年で分かれる施行区分
法律案要綱の第10は、施行期日を項目ごとに書き分けています。介護事業者のシステムに関係する項目だけを抜き出すと、次のとおりです。
| 施行日 | 主な改正項目(要綱の番号) |
|---|---|
| 令和9年4月1日 | 電子資格確認の導入(第2の2) |
| 令和9年4月1日 | 夜間対応型訪問介護の廃止(第2の4) |
| 令和9年4月1日 | 特定地域居宅サービスの新設(第2の6) |
| 公布から1年6月以内 | ケアマネ更新制の廃止(第2の8) |
| 公布から2年以内 | 有料老人ホームの登録制(第6の3・4) |
| 公布から3年以内 | 登録施設介護支援の創設(第2の16) |
電子資格確認は、定義と利用の規定が令和9年4月1日に施行される一方で、被保険者証の添付・記載・返付に関する規定(第2の2(3))は公布から3年以内と遅れます。紙の被保険者証がすぐ消えるわけではない、という読み方が妥当です。政令で定める日は2026年10月時点で未確定なので、遅いほうの期限は令和11年6月と押さえておくと計画が立ちます。
令和5年改正で先行した介護情報基盤と経営情報報告義務の施行状況と期限
今回の改正の前に、令和5年法律第31号による改正がまだ施行の途中にあります。令和5年改正法の概要では、介護サービス事業者の経営情報の報告義務が令和6年4月1日施行、医療・介護情報の収集・提供事業(介護情報基盤)が公布後4年以内の政令で定める日とされていました。
厚生労働省の介護情報基盤のページによると、令和8年4月1日以降、標準仕様書第4.0版への対応を終えた市町村から順次情報共有が始まり、令和10年4月1日までに全市町村での開始を目指しています。事業所はクライアント証明書を入れた端末とカードリーダーで「介護WEBサービス」に接続する方式です。令和8年改正の電子資格確認も個人番号カードの電子証明書を送る方式なので、カードを読む端末の配備は先行させても無駄になりにくい投資です。介護ソフト側の対応状況は介護情報基盤への対応を含めた介護ソフトの選び方で整理しています。
介護保険法改正の主要項目を請求・記録・人事のシステムへ落とした改修点
条文の変更は、システムのどこかのマスタ・画面・帳票の変更として現れます。項目ごとに対応先を割り当てます。
電子資格確認の導入で受付と被保険者証管理の画面・マスタに生じる変更
要綱第2の2は、電子資格確認を「個人番号カードに記録された利用者証明用電子証明書を送信して市町村に資格情報を照会し、回答を事業所に提供して確認を受ける方法」と定義しました(第7条第10項関係)。指定居宅サービスは「被保険者証の提示等」で受けるものとされ、提示の手段に電子資格確認が加わります。
介護ソフト側では、利用者台帳の被保険者番号・要介護度・認定有効期間・負担割合を、紙の証から転記する運用から、照会結果を取り込む運用へ切り替える改修になります。転記ミスで起きていた返戻が減る一方、照会結果と台帳の値が食い違ったときにどちらを正とするかのルールが新たに要ります。資格喪失時の被保険者証返還(第12条第4項関係)も省令で手段が定まるため、退所・死亡時の処理フローに確認の工程を足すことになるでしょう。
特定地域居宅サービスと夜間対応型訪問介護の廃止で動くサービス種類マスタ
令和9年4月1日に夜間対応型訪問介護が廃止されます(改正前第8条第16項関係)。同日に、人口減少などの基準に該当する地域として都道府県が定める「特定地域」で、条例の緩和基準を満たす事業所が提供する特定地域居宅サービスが新設され、特例居宅介護サービス費の対象になります。費用の額は平均的な費用を勘案した基準額の100分の90を基準に、市町村が定める仕組みです。
請求の側から見ると、廃止されるサービス種類の請求停止と、新しい給付類型の追加が同時に起きます。特例居宅介護サービス費は市町村が額を定めるため、保険者ごとに単価が違う前提でマスタを持つ必要が出てくる可能性があります。国保連への請求データを生成する介護請求ソフトのサービスコード改定が告示待ちになる点は、通常の報酬改定と同じです。市町村が地域支援事業として訪問介護・訪問入浴介護・通所介護・短期入所生活介護を委託する「特定地域居宅サービス等事業」も新設され、受託事業者は利用料を請求できます。
登録有料老人ホームと登録施設介護支援の創設で増える計画・給付管理の帳票
老人福祉法の改正で、中重度の要介護者などを入居させる有料老人ホームは都道府県への登録制に移ります(公布から2年以内)。続いて介護保険法側では、登録有料老人ホームの入居者を対象とする「登録施設介護支援」が新設されます(公布から3年以内)。入居者の心身の状況をホームの設置者から聴取し、登録施設サービス計画を作成して、居宅サービス事業者などとの連絡調整を行う支援です。費用は登録施設介護サービス計画費として支給されます。
システムへの影響は、居宅介護支援とは別の計画書様式と給付管理が増えることです。同じ利用者が登録有料老人ホームに入居した時点で計画の種類が切り替わるため、入居日を境に計画と請求の区分を分ける処理が要ります。ケアプランの受け渡しをケアプランデータ連携システムで行っている事業所は、新しい計画種別が連携の標準仕様に載るかどうかを確認しておく必要があります。
ケアマネ更新制の廃止で事業者に課される氏名報告と研修受講機会の記録
公布から1年6月以内に、介護支援専門員証の有効期間と更新研修が廃止されます。ケアマネジャー個人の負担は軽くなりますが、事業者側の義務は逆に増えます。要綱第2の8によれば、条例でケアマネジャーを置く義務がある事業者・施設は、ケアマネジャーを業務に従事させたとき、また従事しなくなったときに氏名などを都道府県知事へ報告しなければなりません(第69条の40第1項関係)。研修の受講機会を確保する措置も求められ、怠れば勧告・公表・命令の対象になります。
これは人事システムの入退職・異動のイベントに、都道府県への報告を紐づける要件です。研修を正当な理由なく受けないケアマネジャーには知事が受講を命じ、従わなければ1年以内の業務禁止もあり得ます。誰がいつどの研修を受けたかの記録を、資格情報と同じ台帳で持てるかが分かれ目です。資格と等級を連動させる医療・介護向けの人事評価システムを入れている法人は、その資格マスタに研修履歴と報告日を足すのが近道です。
2割負担の判断基準と居宅介護支援の利用者負担で法改正に入らなかった論点
報道で目立った論点のうち、2つは今回の法律に入っていません。改修の対象から外して考えます。
一定以上所得の判断基準は第10期開始前に結論を出すとされた継続検討事項
社会保障審議会介護保険部会の意見書(令和7年12月25日)は、2割負担の対象となる「一定以上所得」の判断基準について、負担増の上限を月7,000円とする案と、預貯金等が一定額以下なら申請で1割に戻す案を併記しました。そのうえで、第10期介護保険事業計画期間の開始(令和9年度から)の前までに結論を得るとしています。令和7年3月時点で2割負担に該当する利用者は約4.3%(234,062人)です。
判断基準は政令事項なので、法律改正がなくても変わり得ます。ただし負担割合を判定するのは保険者である市町村で、事業所の介護ソフトは負担割合証の値を受け取って請求に反映する立場です。結論が出たときに必要なのは、負担割合の値と適用開始日を正しく取り込めるかの確認で、判定ロジックを自前で組む必要はありません。
一般の居宅介護支援は無料のまま・登録施設介護支援だけに入る利用者負担
意見書では、ケアマネジメントに利用者負担を求めるかどうかも議論されました。結果として法律に入ったのは、登録有料老人ホームの入居者に対する登録施設介護支援について利用者負担を求める部分だけです。概要も「登録施設介護支援等を新設し利用者負担を求める」と書くにとどまり、一般の居宅介護支援は従来どおり利用者負担のない給付のままです。
居宅介護支援事業所の請求システムで、全利用者に自己負担を計上する改修は要りません。改修が要るのは登録施設介護支援を行う事業所に限られ、施行は公布から3年以内です。
介護保険法改正への対応を受託開発で作り込む事業者と見送る事業者の条件
ここまでの改修点を全部自前で作る必要はありません。大半はベンダーの改修で吸収されます。
介護ソフトのベンダー改修で足りる単一法人・標準サービスだけの事業所
1つのクラウド型介護ソフトで記録から請求までを完結させている事業所は、独自開発を検討する段階にありません。電子資格確認の取り込み、サービス種類マスタの更新、計画書様式の追加は、いずれも全国の事業所に共通する改修です。ベンダーが告示に合わせて提供します。
この規模で先にやることは2つだけです。契約中のベンダーが令和9年4月改正への対応予定を公表しているか確かめること。そしてカードリーダーと端末の台数を、介護情報基盤の接続要件に照らして数えておくことです。
複数サービス・有料老人ホーム併設法人が独自連携を作り込む判断の条件
作り込みの判断が立つのは、次の条件が2つ以上重なる法人です。サービスごとに別々の介護ソフトを使っていて、利用者台帳を独自の仕組みで突き合わせている。有料老人ホームを運営していて、登録制への移行対象になる。ケアマネジャーを複数の事業所に置き、資格と研修の管理を表計算で行っている。
この場合、ベンダー改修は各ソフトの内側で完結し、ソフトとソフトの間、介護ソフトと人事システムの間は誰も直しません。電子資格確認の照会結果を全ソフトの台帳へ配る処理、入居日で計画種別を切り替える処理、ケアマネの従事開始・終了を報告用の一覧に落とす処理が、法人ごとの開発範囲として残ります。こうした介護・医療領域の連携部分は医療機関向けシステム開発として相談を受けていますので、政省令の公表に合わせて範囲を確定させる進め方を推奨します。
政省令が出る前に改修を発注して手戻りになる失敗パターンと着手時期
避けたいのは、法律の成立を見てすぐに改修を発注するパターンです。特例居宅介護サービス費の基準額、登録施設介護サービス計画費の単位、電子資格確認の照会方法は、いずれも厚生労働省令や告示で決まります。法律の文言だけで画面と帳票を作ると、政省令が出た段階で作り直しになります。
令和8年度に処遇改善加算が4月・5月と6月以降で区分の入れ替わる期中改定を経験した事業者なら、告示から施行までの期間の短さは体感しているはずです。着手の目安は、関係する政省令案のパブリックコメントが出た時点で要件定義を始め、告示の公表で詳細設計を固める順番です。それまでの間は、影響する業務フローとデータ項目の棚卸しに時間を使ってください。
よくある質問
介護保険法改正について検索されることの多い疑問を、令和8年法律第51号の要綱と厚生労働省の公表資料に沿って5つ挙げます。
介護保険法の改正はいつから施行されますか?
令和8年6月25日に公布された社会福祉法等の一部を改正する法律(令和8年法律第51号)は、原則として令和9年4月1日に施行されます。ただし例外があり、ケアマネジャーの更新制廃止は公布から1年6月以内、有料老人ホームの登録制は2年以内、登録施設介護支援の創設は3年以内に、それぞれ政令で定める日から施行されます。具体的な施行日を確認できるのは、それぞれの政令が公布された段階です。
2027年の介護保険制度改正で2割負担の対象は広がりますか?
令和8年法律第51号には、2割負担の対象を広げる規定は入っていません。2割負担の「一定以上所得」の判断基準は政令事項で、社会保障審議会介護保険部会の意見書(令和7年12月25日)は、第10期介護保険事業計画期間の開始(令和9年度から)の前までに結論を得るとしています。2026年10月時点で結論の公表は確認できていません。
介護保険証はマイナンバーカードに切り替わりますか?
改正法で、マイナンバーカードの利用者証明用電子証明書を使って市町村に資格を照会する電子資格確認が導入されます。電子資格確認の規定は令和9年4月1日施行ですが、被保険者証の添付・記載・返付に関する規定の整備は公布から3年以内と遅れて施行されます。紙の被保険者証の扱いや経過措置は、厚生労働省令などで今後示される事項です。
ケアマネジャーの更新制廃止で事業所は何をする必要がありますか?
介護支援専門員証の有効期間と更新研修は廃止されますが、ケアマネジャーには省令で定める研修の受講義務が残ります。ケアマネジャーを置く義務のある事業所・施設は、業務に従事させたときと従事しなくなったときに氏名などを都道府県知事へ報告し、研修の受講機会を確保する措置をとる必要があります。怠ると勧告・公表・命令の対象です。
夜間対応型訪問介護が廃止されると利用者はどうなりますか?
要綱は令和9年4月1日に夜間対応型訪問介護を廃止するとしています。利用者の移行先や経過措置は要綱からは読み取れず、2026年10月時点で政省令による具体的な内容は確認できていません。事業所としては、該当サービスの利用者数と請求額を把握し、移行先のサービスと請求停止の時期を早めに確認しておくのが現実的な備えです。
関連記事
- ケアプランデータ連携システムの義務化|任意のまま実質必須になる境界【2026年8月時点】:法律上の義務と加算要件の境界の整理です。
- 介護DXとは?着手順序と投資回収を制度対応から逆算する進め方【2026年度版】:制度改正の施行日から着手順序を決める考え方です。
- 介護記録システムとは|電子化する範囲と入力端末・LIFE提出の設計【2026年版】:電子資格確認の端末と兼ねる入力端末の選び方です。
- 介護請求ソフトとは|国保連伝送ソフトとの違いと返戻対応・連携開発の判断【2026年版】:サービスコード改定を受ける請求側の仕組みです。
- 介護ソフトとは?機能・種類とクラウド/オンプレの選び方|介護情報基盤対応【2026年版】:介護情報基盤に対応したソフトの選定基準です。