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ユーザージャーニーとは?ユーザーフロー・カスタマージャーニーとの違いと5要素・CUJでの計測

ユーザージャーニーとは?ユーザーフロー・カスタマージャーニーとの違いと5要素・CUJでの計測

ユーザージャーニーは、ユーザーが複数のチャネルをまたぎながら1つの目標に到達するまでの道のりを、時間軸で記述したものです。ところが実務でつまずくのは定義そのものではなく、隣り合う用語との線引きです。ユーザーフロー、カスタマージャーニー、ユーザーシナリオ、ユーザーストーリーは、それぞれ粒度も使う場面も違います。ここではNielsen Norman Group(NN/g)の定義を基準に4つの用語を判別し、ジャーニーマップの5要素、そしてGoogleのSREが使うクリティカルユーザージャーニー(CUJ)まで、設計から計測までを一本の線でつなぎます。

まとめ:ユーザージャーニーの要点

NN/gはユーザージャーニーを「ある企業や製品について、ユーザーが、通常、チャネルを横断し、時間をかけて、包括的な目標を達成するために取る、1つのシナリオに基づいた一連のステップ」と定義しています。焦点はマクロで、対象は体験全体です。1つの製品内の操作手順に絞ったものはユーザーフローであり、別物として扱います。

一方、カスタマージャーニーとの「違い」は、NN/gの原典には存在しません。NN/gは両語を交換可能な同義語として扱っており、日本語のWebメディアが説明する範囲の差は、原典由来ではなく実務上の使い分けの慣習です。用語の勝敗を決めるより、そのマップが誰の・どのシナリオの・どこまでの範囲を描いているかを社内で合わせるほうが実利があります。

ジャーニーを絵で終わらせないための出口が、Googleの「The Site Reliability Workbook」が示すクリティカルユーザージャーニー(CUJ)です。ジャーニーの中核タスクを列挙し、それが成功したかどうかを計測できる形にした瞬間、ジャーニーは運用可能なSLIへ変わります。以降で、判別基準、5要素、CUJの落とし込み、そして空振りしやすい設計パターンを順に見ていきます。

ユーザージャーニーの定義と、混同されやすい4用語の判別基準

NN/gによる定義:チャネルを横断して包括的な目標に至る一連のステップ

NN/gのKate Kaplanは、2023年4月16日公開の「User Journeys vs. User Flows」(日本語版はu-site.jpに2023年9月21日掲載)で、ユーザージャーニーを次のように定義しています。「ある企業や製品について、ユーザーが、通常、チャネルを横断し、時間をかけて、包括的な目標を達成するために取る、1つのシナリオに基づいた一連のステップ」。

この定義で効いているのは「チャネルを横断し」と「時間をかけて」の2語です。同記事が挙げる新規患者の例では、医師を探す人は数日から数か月にわたって、診療所のWebサイトでの情報収集、電話での予約、Eメールでの連絡といった複数のタッチポイントを経ます。自社サイト内の行動ログだけを眺めていても、この道のりは見えません。ジャーニーを描くという作業は、実質的に「自社の計測範囲の外で何が起きているかを埋める」作業です。

ユーザーフローとの違い:マクロの体験か、ミクロの操作か

同記事はユーザーフローを「ある製品を使ってよく行われるタスクを達成するために必要な、典型的または理想的なステップを表す一連のインタラクション」と定義し、ジャーニーとの違いを焦点のレベルで整理しています。ジャーニーは「マクロ:広範で包括的」、フローは「ミクロ:具体的で詳細」です。対象範囲も、ジャーニーが「体験全体にズームアウトして、さまざまなタッチポイントやチャネルを検討する」のに対し、フローは「ある1つの製品内のインタラクションにズームインして、理解する」と対比されます。

この違いは、成果物と調査手法の違いにも直結します。ジャーニーで把握できるのは「ユーザーの行動、感情、思考、およびチャネル」で、最適なアーティファクトはジャーニーマップです。フローで把握できるのは「製品ベースのインタラクション(主要なユーザーアクションとシステムの応答)」で、アーティファクトはワイヤーフロー、フローチャート、タスクダイアグラムになります。NN/gは調査手法についても、ジャーニーにはフィールド調査や日記調査といったコンテキスト手法、フローにはユーザビリティテストが適するとしています。両者は排他ではなく、フローはジャーニーの特定区間を深掘りしたものとして入れ子に組めます。

カスタマージャーニーとの違い:NN/g原典における両語の同一視

日本語圏の解説記事の多くは、ユーザージャーニーを「製品内のタスク」、カスタマージャーニーを「認知から購入・ファン化までの全体」と説明します。ところが原典にあたると、この区別は見当たりません。NN/gのSarah Gibbonsによる「Journey Mapping 101」(2018年12月9日公開)は、「The terms ‘user journey map’ and ‘customer journey map’ can be used interchangeably.」と明記しています。前掲のKaplanの記事も、本文の定義文を「定義:ユーザージャーニー(カスタマージャーニー)とは」と書き起こし、両語を併記しています。

ここは立場を明確にします。「ユーザージャーニーとカスタマージャーニーは違う」と断言する社内資料をつくるのは、避けたほうがよいと考えます。定義の出所を問われたときに一次情報で支えられず、部署ごとに違う「正しい定義」が並立するだけだからです。実務で意味があるのは語の選択ではなく、そのマップの前提を明示することです。誰(Actor)の、どのシナリオの、どこからどこまでの範囲を描いているのか。この3点さえ合意できていれば、呼び名はどちらでも運用に支障はありません。購買プロセス全体を対象にした施策設計そのものは、カスタマージャーニーを活用したマーケティング戦略で扱っています。

ユーザーシナリオ・ユーザーストーリーとの違い:前提条件と要求仕様

残る2語は、そもそもジャーニーと同じレイヤーのものではありません。ユーザーシナリオは、ジャーニーを描くときの前提条件です。NN/gがジャーニーマップの必須要素に「Scenario + Expectations」を挙げているとおり、シナリオはマップの構成部品であって、マップと並列に比較する対象ではありません。「初めて来店する30代の共働き世帯が、週末に家族向けの保険を検討する」といった状況設定がこれにあたります。

ユーザーストーリーは、アジャイル開発における要求の記述形式です。Agile Allianceの用語集は、最も一般的なテンプレートとして「As a…(達成したい人)/ I want to…(達成したいこと)/ So that…(その理由)」の3要素を挙げ、例として「As a bank customer / I want to withdraw money from an ATM / So that I’m not constrained by opening hours or lines at the teller’s」を示しています。ジャーニーが「現状こうなっている」という記述であるのに対し、ユーザーストーリーは「こう作る」という要求です。ジャーニーマップ上で見つかった課題を、次のスプリントに渡す形式に変換したもの、と捉えると位置づけが安定します。

用語 粒度 時間軸 主な成果物 使う場面
ユーザージャーニー マクロ(体験全体) 数日〜数か月 ジャーニーマップ チャネル横断の課題発見
ユーザーフロー ミクロ(製品内) 1セッション フローチャート 画面遷移・操作設計
カスタマージャーニー NN/gでは同義 同左 同左 語の使い分けは社内合意
ユーザーシナリオ ジャーニーの前提 設定値 シナリオ文 マップの範囲を定める
ユーザーストーリー 要求1件 1スプリント バックログ項目 課題を開発要求に変換

この表は、社内で用語がぶつかったときの一次判断に使えます。判断に迷ったら「それは何を成果物として出すのか」を問うのが最短で、成果物が違えば別の道具だと切り分けられます。

ジャーニーマップの5要素と、段階の切り方

NN/gが挙げる5つの必須要素

「Journey Mapping 101」は、ジャーニーマップを「A journey map is a visualization of the process that a person goes through in order to accomplish a goal.」と定義したうえで、形式が違っても共通する必須要素として次の5つを挙げています。Actor(誰の視点か)、Scenario + Expectations(どの状況で何を期待しているか)、Journey Phases(道のりの段階)、Actions, Mindsets, and Emotions(各段階の行動・思考・感情)、Opportunities(見つかった改善機会)です。

この5要素は、マップの完成度を測るチェックリストとして使えます。特に抜けやすいのがActorとOpportunitiesです。Actorが曖昧なマップは「みんなの平均像」を描いてしまい、どの段階の課題も他人事になります。Opportunitiesが空のマップは、現状記述で終わっていて次の意思決定につながりません。作成手順そのものはジャーニーマップの定義と目的を明確に理解するための基本知識で扱っているため、ここでは要素の充足だけを判定基準として押さえます。

段階(Journey Phases)の切り方:既定モデルではなく検証対象の仮説

認知・検討・購入・利用・推奨といった段階分けは、あくまで一般的な出発点であって、どの製品にも当てはまる正解ではありません。BtoBのシステム導入なら、社内稟議や情報システム部門のセキュリティ審査という、購買モデルに登場しない段階が体験の大半を占めることもあります。段階は自社の実データで検証すべき仮説として置き、後述する定量・定性の突き合わせで修正します。

段階を切ったら、各段階に紐づくタッチポイントを、自社が制御できるもの(サイト、アプリ、メール、コールセンター)と制御できないもの(比較サイト、SNSの口コミ、知人からの紹介)に分けて並べます。この分類をしておくと、改善施策の打ち手が「直せるもの」と「情報提供で影響を与えるしかないもの」に自動的に整理されます。ユーザー体験そのものの考え方はUX(ユーザーエクスペリエンス)とは?定義とUI・CXの違いで整理しています。

クリティカルユーザージャーニー(CUJ)のSLOへの落とし込み

CUJの定義とSREでの位置づけ

ジャーニーはマーケティングやUXの道具として語られがちですが、Googleは信頼性エンジニアリングの文脈でも同じ概念を使っています。「The Site Reliability Workbook」第2章 Implementing SLOs の Modeling User Journeys 節は、クリティカルユーザージャーニー(CUJ)を「A critical user journey is a sequence of tasks that is a core part of a given user’s experience and an essential aspect of the service.」と定義しています。オンラインショッピングの例として挙げられているのは、商品を検索する、商品をカートに追加する、購入を完了する、の3つです。

同節が置かれている理由は明快で、SLOはサーバーの都合ではなくユーザー体験の改善に向けるべきだから、SLOはユーザー中心の行動の言葉で書けというものです。CPU使用率が99.9%正常でも、購入完了がエラーで止まっていれば、そのサービスは壊れています。CUJは、ジャーニーマップの「重要な区間」だけを抜き出して、稼働品質の測定単位に据える考え方です。

既存SLIへの写像不能という前提

ここで同書は都合の悪い事実も書いています。CUJは「These tasks will almost certainly not map well to your existing SLIs」、つまり既存のSLIにはまず対応しません。1つのタスクが複数の複雑なステップから成り、どこででも失敗しうるため、ログから成功・失敗を推定するのが極めて難しいからです。同書は「ユーザーが3つ目のステップで失敗したのか、それとも別タブの猫の動画に気を取られただけなのかを、どう判別するのか」という例まで挙げています。

解決策として示されているのは、別々のログイベントを結合する、JavaScriptによる高度なプロービングを行う、クライアントサイドの計装を入れる、といった手段です。そして計測できるようになった時点で「it becomes just another SLI」、すなわち既存のSLIと横並びで追跡できる普通の指標になり、精度を犠牲にせず検出漏れ(recall)を改善できるとしています。

CUJを立てるべき場面と、立てるべきでない場面

CUJの導入コストは、上記のとおり計装そのものにあります。したがって、全ジャーニーをCUJ化しようとする計画は失敗します。判断基準は「そのタスクが数分止まったときに、ビジネス上の損失が即座に発生するか」の一点に絞るのが現実的です。決済完了、ログイン、予約確定、申込フォーム送信は該当します。マイページのプロフィール画像更新は該当しません。

逆に、CUJを立てるべきでないのは、まだ体験の輪郭が定まっていない立ち上げ期のプロダクトです。CUJは「中核であること」が前提の概念なので、中核が週単位で入れ替わる段階では、計装を作った翌週に計測対象が消えます。この段階でやるべきは定性調査によるジャーニーの輪郭確定であり、SLO化はその後です。ジャーニーマップの上でどの区間をCUJに昇格させるかを決めておくと、UXチームとSREチームが同じ図を見ながら優先順位を議論できます。

ジャーニーの検証:定量データと定性調査の役割分担

定量データでわかる離脱地点

アクセス解析やプロダクト内のイベントログが答えられるのは、離脱がどの段階で、どれだけの規模で起きているかです。段階ごとの到達率を並べ、想定より落ち込む区間を特定するところまでが定量の守備範囲になります。数字の大小そのものより、仮説として置いた段階分けが実際の行動と合っているかの検証に使うのが本筋です。到達率の分布が段階の境目とずれるなら、段階の切り方を直す必要があります。なお前掲のNN/gの記事は、クリックヒートマップのようなアナリティクスを捕捉するツールを「知見の有用な二次情報源になる」と位置づけています。定量データは一次情報ではなく裏取りの材料だという前提で扱ってください。調査設計の基礎は定量調査とは何か?その基本概念と実施する意義について解説にまとめています。

定性調査でわかる離脱理由

離脱の理由は、ログには残りません。NN/gがジャーニーマップの調査手法としてフィールド調査や日記調査といったコンテキスト手法を推し、ユーザーインタビューと組み合わせることで直接の不満やニーズが明らかになるとしているのは、この非対称性のためです。定量で見つけた区間に的を絞ってインタビューを設計すると、少ない対象者数でも判断に足る情報が得られます。5要素のうちActions, Mindsets, and Emotionsを埋められるのは定性側だけで、ここが空欄のマップは行動ログの棒グラフと変わりません。手法の選び方は定性調査とは何か?基本概念と重要性をわかりやすく解説で解説しています。

ユーザージャーニー設計が空振りする3つの型

ジャーニーマップを作ったのに何も変わらなかった、という結果には共通の型があります。1つ目は理想像を描いてしまう型です。「こう動いてほしい」順路を清書したマップは、実データと突き合わせる手がかりを持たないため、検証も反証もできません。マップは現状の記述であり、理想の設計図ではありません。

2つ目はActorを最大公約数にする型です。全ユーザーの平均像を1本のマップに載せると、どの段階の感情も薄まり、改善機会が「わかりやすくする」といった一般論に落ちます。NN/gが5要素の筆頭にActorを置いているのは、ここが決まらないと残り4要素が定まらないからです。仮説となる人物像を素早く用意したい場合は、Insight Journey(インサイトジャーニー)とは?無料ペルソナ生成AIツールの使い方と出力9項目のようなツールで叩き台を作り、定性調査で検証する進め方も取れます。

3つ目は作って終わる型です。Opportunitiesが埋まっていても、担当と期限が付かなければ壁の装飾になります。ここを閉じる方法が、前述のユーザーストーリーへの変換と、中核区間のCUJ化です。改善機会をバックログ項目に落とすか、SLOとして常時監視するか。この2つの出口のどちらかに接続しないジャーニーマップは、作らないほうが工数を節約できます。なお、同じ考え方は社外の顧客に限りません。従業員の入社から退職までを対象にしたエンプロイージャーニーとは何か?従業員の入社から退職までの体験プロセスと重要性をカスタマージャーニーの観点から解説でも、構造は共通です。

よくある質問

ユーザージャーニーとカスタマージャーニーの違いは何ですか?

NN/gの原典では区別されていません。「Journey Mapping 101」は両語を交換可能(interchangeably)と明記し、「User Journeys vs. User Flows」も定義部分で両語を併記しています。日本語圏で説明される「ユーザージャーニーは製品内、カスタマージャーニーは購買全体」という区分は実務上の慣習であり、一次情報に基づく定義の差ではありません。社内で使い分ける場合は、語ではなく対象範囲を明示して合意してください。

ユーザージャーニーとユーザーフローはどう使い分けますか?

複数のチャネルや複数の製品にまたがる体験を扱うならユーザージャーニー、1つの製品内で完結する操作手順を扱うならユーザーフローです。NN/gは前者を「マクロ:広範で包括的」、後者を「ミクロ:具体的で詳細」と位置づけています。両者は併用でき、フローはジャーニーの特定区間を深掘りしたものとして入れ子に組めます。

ユーザーシナリオとカスタマージャーニーの違いは何ですか?

ユーザーシナリオはジャーニーマップの構成部品であり、比較対象ではありません。NN/gが挙げるマップの5要素の2番目が「Scenario + Expectations」で、どの状況で何を期待しているかという前提設定にあたります。シナリオを固定しないままマップを描くと、対象範囲が途中で膨らんで検証できないマップになります。

クリティカルユーザージャーニー(CUJ)とは何ですか?

Googleの「The Site Reliability Workbook」が定義する、サービスの中核をなす一連のタスクのことです。同書は「a sequence of tasks that is a core part of a given user’s experience and an essential aspect of the service」と定義し、商品検索・カート追加・購入完了を例に挙げています。既存のSLIには対応しないため計装が必要ですが、計測できるようになれば通常のSLIとして扱えます。

ユーザージャーニー分析は何から始めればよいですか?

Actorとシナリオの確定から始めます。対象者と状況が決まらないと、集めるべきデータの範囲も決まりません。次に段階を仮に切り、既存の行動ログで到達率を出して仮説を検証します。落ち込みの大きい区間に絞ってインタビューを行う順序が、最も手戻りを減らせます。

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