マッキンゼーの7Sは、戦略・組織構造・システム・スタイル・人材・スキル・共通の価値観という7つの要素が互いに噛み合っているかを見て、組織の不調の原因を探すフレームワークです。1980年にマッキンゼーのコンサルタント3人が論文で発表しました。
日本語の解説では「ハードの3Sとソフトの4S」「共通の価値観が中心」という説明が定番ですが、原典の論文を読むと、要素に順番はないと明記され、共通の価値観も当初は別の名前でした。この記事では原典と共同考案者の証言をもとに、7つの要素の意味、7S分析のやり方とテンプレート、原典に出てくる企業例を整理します。なお、食品工場の衛生管理でいう7S(5Sに洗浄と殺菌を足したもの)は別物で、食品工場の衛生管理と一般衛生管理14項目・7Sの設計手順で扱っています。
まとめ:7Sは7要素の整合を見る組織診断の枠組み
- 7Sの原典は Waterman・Peters・Phillips の論文「Structure Is Not Organization」(Business Horizons 1980年6月号)です。
- 7つの要素は Strategy・Structure・Systems・Style・Staff・Skills・Shared Values。共通の価値観は、原典では Superordinate Goals(上位目標)と呼ばれていました。
- 原典は図に「出発点も暗黙の階層もない」と書いています。どの要素から手を付けるかは組織ごとに違います。
- ハード(戦略・組織構造・システム)とソフト(残り4つ)の区分は共同考案者の Tom Peters が示したものです。ただし原典の結論では、システムもソフト扱いされてきた変数に数えられています。
- 7S分析の中心は、各要素を事実で書き出したあとの要素同士の矛盾探しです。7つの欄を埋めるだけでは診断になりません。
以下、成り立ち、要素の意味、ハードとソフト、順番、やり方、具体例、限界の順に説明します。
マッキンゼーの7Sの定義と成り立ち
原典は1980年の論文「Structure Is Not Organization」
7Sが初めて公表されたのは、Business Horizons 第23巻第3号(1980年6月)の14〜26ページに載った論文「Structure Is Not Organization」(PDF)です。著者はマッキンゼーのサンフランシスコ事務所に所属していた Robert H. Waterman Jr.、Thomas J. Peters、Julien R. Phillips の3人です。
論文は、マグリットの絵「これはパイプではない」を引いて「組織構造は組織ではない」と始まります。1977年初め、組織の有効性に問題意識を持った社内タスクフォースが世界中のコンサルタントや経営者に話を聞いたところ、構造の組み替えに頼る従来のやり方に誰もが不満を持っていた、というのが出発点です。論文の主張は「効果的な組織変革とは、構造、戦略、システム、スタイル、スキル、スタッフ、そして上位目標の関係である」という一文に集約されています。頭文字をSでそろえたのは覚えやすくするためだと本文に書かれています。
謝辞には、ハーバード大学の Anthony G. Athos が7Sの開発に大きく関わったと記されています。Peters は2011年の回想記事「A Brief History of the 7-S (McKinsey 7-S) Model」で、Waterman・Athos・自分と、Athos の研究仲間 Richard Pascale の4人がサンフランシスコでの2日間の会合で7Sをほぼ完成させたと振り返っています。
1980年の論文の図で中央に置かれていたのは Shared Values ではなく Superordinate Goals でした。Peters の回想によると、その会合のあとに加えた唯一の大きな変更が、Athos の気に入っていた superordinate goals を shared values に変えたことでした。日本語の解説に「上位目標」という訳語が残っているのは、この旧名称の直訳です。
7Sはその後、Pascale と Athos の『The Art of Japanese Management』(1981年、邦訳『ジャパニーズ・マネジメント』講談社・1981年7月)と、Peters と Waterman の『エクセレント・カンパニー』(原著1982年、邦訳は講談社・1983年7月)に載って広まりました。マッキンゼーは2008年3月の記事「Enduring Ideas: The 7-S Framework」で、7Sを構造ではなく調整の役割を扱う枠組みと位置づけています。
7つの要素の意味:原典の説明と日本語訳
原典は7要素すべてに同じ形式の定義を並べてはいません。下の表の右列は、論文が各要素の説明で挙げた中身を短くまとめたものです。
| 要素(英語) | よく使われる訳 | 原典が挙げた中身 |
|---|---|---|
| Strategy | 戦略 | 顧客・競合の変化に備えて計画する行動 |
| Structure | 組織構造 | 仕事を分け、調整する仕組み |
| Systems | システム(制度・手続き) | 資本予算、研修、原価計算などの手続き |
| Style | 経営スタイル・社風 | 経営陣の時間の使い方と象徴的な行動 |
| Staff | 人材 | 若手管理職の配属と育成のさせ方 |
| Skills | スキル(組織能力) | その会社が際立って得意なこと |
| Superordinate Goals(Shared Values) | 上位目標・共通の価値観 | 明文化されないことも多い指導理念 |
システム:原典が他の要素を支配しかねないとした要素
原典はシステムを「組織を日々、年々動かしている公式・非公式のすべての手続き」と定義し、「モデルの中で他を支配しかねない変数があるとすれば、それはシステムだろう」と書いています。組織が実際にどう仕事を進めているかを知りたければシステムを見よ、混乱を伴う再編をせずに組織を変えたければシステムを変えてみよ、というのが論文の助言です。日本語でシステムと書くとITシステムを思い浮かべがちですが、ここでの中心は予算の決め方や評価の手続きです。
人材(Staff)の意味と若手管理職の育成
原典は Staff に「ライン/スタッフの意味ではなく、人という意味で」と注記しています。論文が取り上げたのは人事制度の細部でも士気調査でもなく、優れた企業が若手管理職をどう育てているかでした。IBM、Texas Instruments、P&G、Hewlett-Packard、Citibank では、新人を本流から外れた部署に置かず、最初の仕事から事業の中核に関わらせ、30代前半から半ばで責任ある地位に就けていると書かれています。
スキルと共通の価値観:戦略と混同しやすい2要素
スキルを加えた理由について、原典は「会社は戦略や構造ではなく、最も得意なことで語られる」と説明しています。例として挙がっているのは IBM の顧客サービス力、Du Pont の研究力、P&G の製品管理力、ITT の財務管理です。事業環境が大きく変わると、戦略の向きを変えるだけでは足りず新しいスキルが要ります。そして新しいスキルは、古いスキルとそれを支えるシステムや構造を取り除いたときにしか根づかないことがある、と論文は指摘しています。
上位目標は「組織の目標を公式に書いた文書を超える、しばしば明文化されていない価値観と志」と定義されています。例は AT&T の「ユニバーサルサービス」、GE の「進歩こそ最も重要な製品」、3M の新製品を重んじる文化です。原典は、上位目標は他の6つと違って多くの組織には見当たらないが、優れた業績を上げる組織のほとんどにははっきり存在する、と書いています。経営理念の掲示だけで判断せず、採用・評価・投資判断に共通の価値観が表れているかを確認して、この欄に記入します。
ハードのSとソフトのSの違い
一般に、戦略・組織構造・システムをハードのS、スタイル・人材・スキル・共通の価値観をソフトのSと呼びます。この分け方は Peters が2011年の回想で示したもので、7つの間に優先順位はないと主張したとも述べています。
ただし1980年の論文自体はハードとソフトの線を引いていません。結論部では「ソフト、非公式、あるいは経営陣が関心を持つに値しないと見なされてきた変数」として、スタイル、システム、スキル、上位目標を挙げています。これは従来そう扱われてきたという記述で、著者がシステムをソフトに分類したわけではありません。ただ、のちのハード3・ソフト4の線引きとは、システムの位置が一致しません。そのうえで論文は、これらの変数は直接観察でき、測定さえできると述べ、大きな変革では戦略や構造と同じくらい重要だとしています。
変化にかかる時間についても、原典は差を書いています。システムの変更、人材の大規模な再教育、新しい上位目標への全社的な熱意づくりには何年もかかることがあり、戦略と構造の変更は表面上は早く進むかもしれない、しかし実際の変化の速さは7つすべてで決まる、という説明です。
Peters はこの考え方を「ハードはソフトで、ソフトはハードだ」とまとめています。計画や数字のほうがむしろ当てにならず、人材や共通の価値観やスキルこそが組織の土台だという意味です。同じ回想には、IBM を再建した Lou Gerstner の著書『Who Says Elephants Can’t Dance?』から「文化はゲームの一側面ではない。ゲームそのものだ」という一節が引かれています。ソフトのSを「数値化できないから後回し」にするのは、原典の主張と正反対の扱い方です。
7つの要素に順番はあるか:中心の要素と着手点
順番はありません。原典は図の形について「出発点も暗黙の階層もない」と書き、特定の組織を特定の時点で変えるときにどの要素が原動力になるかは事前には分からない、戦略のこともあればシステムや構造のこともある、としています。マッキンゼーの2008年の記事も、要素間に階層がないことを、1か所だけで大きく前進するのは難しいという意味で説明しています。
図の中央に共通の価値観(原典では上位目標)が置かれているのは事実で、マッキンゼーは2025年の記事「A new operating model for a new world」でも Shared Values を「組織が達成しようとしていること、つまり上位目標の集まり」と定義しています。中央にあるのは他の6つをつなぐ位置だからで、最初に検討する順番を示しているわけではありません。
実務で着手点を決めるなら、他の要素と最も多く矛盾している要素から見るのが筋です。一方、システムの変更、人材の再教育、価値観の浸透のように原典が何年もかかりうると書いた変更は、戦略や組織図の変更を待ってから始めると間に合いません。変える順番と始める時期は分けて考えてください。
7S分析のやり方:現状の書き出しから矛盾の特定まで
- 目的と範囲を決める:全社か事業部か、何の問題(戦略が実行されない、統合後の摩擦など)を診断するのかを先に一文で書きます。
- 7要素の現状を事実で書く:スタイルなら「経営会議の議題に顧客の話が何分あるか」のように、観察できる事実で書きます。
- 要素同士の矛盾を探す:組み合わせは7×6÷2で21通りあります。全部を同じ重さで見る必要はなく、問題に関係しそうな組み合わせから確かめます。
- あるべき姿を書く:診断の目的に照らし、戦略自体の見直しも含めて7要素が整合する状態を要素ごとに書きます。
- 変える要素と時期を決める:各変更の所要期間と依存関係を確認し、準備に時間がかかる施策から着手します。
手順2の「観察できる事実で書く」は原典の例に倣っています。論文は、市場志向を掲げながら計画会議で顧客や市場シェアの話にほとんど時間を使わない会社(International Wickets という仮名)を挙げ、この社内志向の会議というシステムが変わらない限り、構造や戦略をどれだけ変えても市場志向は実現しないと書いています。
7S分析のテンプレートと記入例
現状とあるべき姿の差を並べる形式は、As Is / To Be(あるべき姿)の分析と同じ考え方です。下は「営業部門を製品別から顧客業種別に再編したい」という架空の設例で、記入の粒度を示すためのものです。
| 要素 | 現状(事実) | あるべき姿 | 矛盾する要素 |
|---|---|---|---|
| 戦略 | 業種別の提案で単価を上げる | 変更なし | システム・人材 |
| 組織構造 | 製品別の3課 | 業種別の4課 | システム |
| システム | 評価は製品別の売上件数 | 業種別の粗利で評価 | 戦略・組織構造 |
| スタイル | 部長会議は製品の在庫の話が中心 | 顧客業種の案件を議題の先頭に | 戦略 |
| 人材 | 新人は製品研修3か月 | 業種別の同行営業から始める | スキル |
| スキル | 製品仕様は説明できるが顧客業務の工程は説明できない | 顧客業務の工程と課題を説明できる | 戦略 |
| 共通の価値観 | 「売った件数」が誇り | 「顧客の利益」で語る | システム |
この例では、組織図を業種別に変えても、評価が製品別の件数のままなら営業担当は製品を売り続けます。原典の言う「他を支配しかねない」システムが、ここでは再編の成否を決めています。
7Sの具体例:原典に出てくる企業と公開事例
原典の企業例に見るシステム・スタイル・文化の影響
- 銀行の採算管理システム:顧客別・商品別の原価が安定せず戦略が立てにくい中、ある銀行はROEツリーに基づく口座別採算システムを入れて業績を大きく改善しました。論文はこれを「この銀行にとってはシステムが戦略だ」と表現しています。
- 鉱物探査で成功する企業:探査で鉱床を見つける企業は、経営陣が現場で過ごす時間や取締役会で探査を議論する時間が長く、探査予算の年ごとの振れも小さいことが分析で分かりました。スタイルの例です。
- 文化に合わない買収:戦略面の分析では有望だった事業を買収した会社が、親会社の企業文化と合わず、2年後に損失を出して撤退しました。
- AT&T(ベルシステム):サービス志向の文化が深く根づいているため、新しい種類のマーケティングへの転換には何年もかかる、と書かれています。
日本企業の公開事例:電通総研の開発組織での目標づくり
電通総研の技術ブログ「マッキンゼーの7Sを使って組織目標づくりをした話」(2025年3月31日公開)には、開発グループのマネージャー1人とリーダー2人の計3人が、7Sを使って組織目標を作ったワークショップの記録が公開されています。進め方は6段階で、Shared Value の材料を付箋で書き出す、残る6つのSについて現状(As Is)とあるべき姿(To Be)を書き出す、Shared Value をすり合わせる、Shared Value を一文の宣言にまとめる、半年から1年の組織目標を考える、メンバー全員と共有する、という順でした。
7Sを診断ではなく目標づくりに使った例です。各活動の目標に「なぜやるか」を書かせ、それが Shared Value の宣言につながっていることを重視した点が特徴で、筆者は、その後メンバーが立てた個人目標が組織目標にしっかりリンクしていたと振り返っています。
7Sのメリットと限界:使うべきでない場面
原典の著者は、7Sが組織の不調の原因を診断する場面と改善策を作る場面の両方で役立ったと書き、最低限の使い方としてチェックリストにするだけでも、組織が実際にどう動いているかを考える手がかりになるとしています。戦略担当と人事担当が同じ7つの言葉で議論できるのも実務上の利点です。
一方で限界もはっきりしています。
- 区分そのものが絶対ではありません。原典自身が、7つへの分け方は「ある程度恣意的」だと認めています。
- 7Sには外部環境を独立して分析する欄がありません。市場や競合の分析を深める場合は3C分析やSWOT分析で先に行う必要があります。
- どの事業に資源を振り向けるかは決められません。事業の取捨選択にはPPM(プロダクトポートフォリオマネジメント)のような別の枠組みを使います。
- 数値目標を出す道具ではありません。何を達成指標にするかはKFS(重要成功要因)を整理したうえで、達成状況を測るKPI(重要業績評価指標)と目標値を別途設定します。
使うべきでないのは、原因がすでに1つの要素に特定できている局所的な課題です。たとえば経費精算の承認手順が遅いという問題に7要素すべてのヒアリングをかけても、時間がかかるだけで結論は変わりません。7Sが力を発揮するのは、戦略も組織図も変えたのに成果が出ない、というように原因が複数の要素にまたがっていそうなときです。
よくある質問
マッキンゼーの7Sに順番はありますか?
ありません。1980年の原典は図に「出発点も暗黙の階層もない」と書いています。共通の価値観が中央に描かれるのは他の要素をつなぐ位置だからで、検討する順番ではありません。
マッキンゼーの7Sは誰が考えたのですか?
論文の著者はマッキンゼーの Robert H. Waterman Jr.、Thomas J. Peters、Julien R. Phillips の3人です。論文の謝辞ではハーバード大学の Anthony G. Athos の貢献が明記され、Peters の回想では Richard Pascale も含めた4人で枠組みをまとめたとされています。
名前が違いました。1980年の論文では Superordinate Goals(上位目標)と呼ばれ、のちに Shared Values に改められました。マッキンゼーは現在も Shared Values を「上位目標の集まり」と定義しています。
マッキンゼーの7Sと食品衛生の7Sは同じものですか?
別物です。食品衛生の7Sは、整理・整頓・清掃・清潔・しつけの5Sに洗浄と殺菌を加えた現場の衛生管理の考え方です。マッキンゼーの7Sは組織を診断する経営の枠組みです。
7S分析と3C分析・SWOT分析はどう使い分けますか?
3C分析やSWOT分析は市場・競合・自社の外部と内部の状況を見て戦略を考える道具で、7Sは決めた戦略を組織が実行できる状態かを確かめる道具です。市場・競合の把握には3CやSWOT、組織内の整合性の確認には7Sを使い、戦略の立案時にも実行時にも必要に応じて組み合わせます。