ポートフォリオ分析は、評価項目を「重要度」と「満足度」の2軸に置いて、どこから手を付けるべきかを決める手法です。顧客満足度調査の文脈ではCSポートフォリオ分析と呼ばれ、アンケートの平均点を並べただけでは決まらない改善の優先順位を、1枚の散布図で示します。ここでは4象限の読み方、重要度をどう数値化するかという最大の分岐点、Excelでの具体的な作り方、そして事業ポートフォリオや投資のポートフォリオとの違いまでを扱います。
まとめ:重要度と満足度の2軸で優先順位を決める
ポートフォリオ分析の要点は3つです。第一に、優先度が最も高いのは「重要度が高いのに満足度が低い」領域であり、満足度が最も低い項目ではありません。第二に、結果を左右するのは重要度をどう測るかで、回答者に直接聞く方法と満足度データから統計的に推定する方法では順位が変わります。第三に、軸の原点(平均線)をどこに引くかで象限が入れ替わるため、原点の決め方は分析前に固定しておく必要があります。
Excelなら追加ソフトなしで作れます。相関係数はCORREL関数、布置図は散布図で足ります。以下、4象限の読み方から順に見ていきます。
重要度×満足度の4象限の読み方
4つの領域と打ち手の対応
横軸に重要度、縦軸に満足度をとり、それぞれの平均値で十字に区切ると4つの領域ができます。名称は調査会社ごとに揺れがありますが、リサーチ会社のアスマークは重点改善項目・重点維持項目・維持項目・改善項目という呼び分けを用いています。呼び名より、各領域で取るべき行動のほうが重要です。
| 領域 | 重要度 | 満足度 | 取るべき行動 |
|---|---|---|---|
| 重点改善項目 | 高 | 低 | 最優先で予算と人を投じる |
| 重点維持項目 | 高 | 高 | 水準を落とさない(強みの維持) |
| 維持項目 | 低 | 高 | 投資を増やさない(過剰品質の候補) |
| 改善項目 | 低 | 低 | 余力があれば着手する |
この表で実務上いちばん誤解が多いのが右下の「維持項目」です。満足度が高いので成果に見えますが、顧客が重視していない領域に資源を割いている状態でもあります。ここに手厚いコストがかかっているなら、重点改善項目へ振り替える候補になります。
満足度最下位の項目と改善優先度のずれ
アンケートの平均点だけを見ると、点数が最も低い項目から直したくなります。しかしその項目の重要度が低ければ、直しても総合満足度はほとんど動きません。ポートフォリオ分析が平均点の一覧表より優れているのは、この「直しても効かない不満」と「直せば効く不満」を分離できる点にあります。後述するExcelの計算例では、満足度が最下位(平均2.10)だった項目が重要度では平均を下回り、優先度が2番手に落ちます。
重要度の2つの求め方と使い分けの基準
ここがポートフォリオ分析の分岐点です。建築研究所の小島隆矢氏は、公共施設のCS調査手法をまとめた講演テキストで、重要度軸の数値の求め方には「回答者に重要度を評価させる方法」と「満足度評価のデータをもとに統計的に求める方法」の大きく2つの流儀があると整理し、前者は回答者の負担が大きく、後者はある程度のデータ規模を必要とするという制約をそれぞれ挙げています。
判断基準は回答数で切ってよいと考えます。統計的推定は総合満足度との関係から重要度を割り出すため、項目数に対して回答が少ないと係数が安定しません。相関係数の標準誤差は回答数の平方根に反比例して縮むため、数十件では項目間の差が誤差に埋もれます。回答が数十件規模にとどまるなら直接質問法を採り、数百件以上を確保できるなら統計的推定に切り替えるのが現実的です。ただし直接質問法には固有の弱点があります。「どの項目を重視しますか」と聞くと、回答者はどれも重要だと答えがちで、項目間の差が付きにくくなります。設問を「最も重視するもの3つ」のように制限して差を出す設計が要ります。
統計的推定の実装にも幅があります。もっとも手軽なのは各項目と総合満足度の相関係数を重要度とみなす方法で、Excelだけで完結します。国土交通省の官庁施設CS調査では、これより踏み込んで重回帰分析を用い、直接効果に間接効果を加算した「総合効果」を重要度として算出しています。項目間に因果の階層がある(個別の設問がカテゴリ総合満足度を経由して総合満足度に効く)と考えられる場合は、単純相関では影響を過小評価する可能性があります。
Excelでポートフォリオ分析を作る手順
必要な関数はAVERAGEとCORRELの2つだけです。アンケート結果を1行1回答者、1列1項目の形に整えたうえで、次を計算します。
[前提]B2:B11=各回答者の「受付対応」への5段階評価
G2:G11=各回答者の「総合満足度」への5段階評価
満足度(縦軸) =AVERAGE(B2:B11)
重要度(横軸) =CORREL(B2:B11,$G$2:$G$11)
[平均線=象限を分ける原点]B13:F13に各項目の満足度、B14:F14に各項目の重要度が並ぶ場合
満足度の原点 =AVERAGE(B13:F13)
重要度の原点 =AVERAGE(B14:F14)
総合満足度の範囲を $G$2:$G$11 と絶対参照にしておくのが要点です。ここを相対参照のままオートフィルすると参照が右へずれ、データのない列を参照して#DIV/0!などのエラーになったり、意図しない列との相関を返したりします。CORRELはピアソンの積率相関係数を返すため、値は-1から1の範囲に収まります。項目と総合満足度の数値の向きを揃えておかないと(片方が5=満足、片方が5=不満のような設計)符号が反転するので、集計前に尺度の向きを統一してください。
算出後は、重要度の列と満足度の列を選択して「挿入」タブから散布図を作り、平均線を目安に4つの領域を読み取ります。5項目・10回答の小さな例で実際に計算すると、次のようになります。
| 項目 | 満足度(平均) | 重要度(相関) | 領域 |
|---|---|---|---|
| 設備の清潔さ | 4.70 | 0.218 | 維持 |
| 受付対応 | 4.30 | 0.781 | 重点維持 |
| 料金の明確さ | 3.60 | 0.408 | 維持 |
| 説明の分かりやすさ | 2.50 | 0.600 | 重点改善 |
| 待ち時間 | 2.10 | 0.429 | 改善 |
原点は満足度3.44、重要度0.487です。平均点だけで判断すれば最下位の「待ち時間」から着手することになりますが、重要度は0.429で原点を下回り、優先すべきは「説明の分かりやすさ」(満足度2.50・重要度0.600)に変わります。一方「設備の清潔さ」は満足度4.70と最高でも重要度は0.218しかなく、これ以上磨いても総合満足度は動きにくい領域です。
平均点だけの満足度軸が見落とす評価の割れ
ポートフォリオ分析の弱点は、1項目を1点に潰してしまうことです。前掲の小島氏のテキストは、各項目の満足度を平均点や満足率といった1つの数字で評価したくなるとしたうえで、平均点が同じく中程度でも、多くの人が中程度の評価なのと、満足と不満に評価が分かれているのでは大違いだと指摘しています。平均3.0の項目が、全員が3をつけた結果なのか、5と1が半々なのかは、散布図の1点からは判別できません。
同テキストはこの対策として、縦軸に満足率(満足+やや満足)、横軸に不満率(不満+やや不満)をとって評価項目を布置する「美点欠点ポートフォリオ」を提案しています(命名は同氏独自のもの)。満足率も不満率も高い項目は、評価が割れている項目です。
実務では、重要度×満足度の散布図を作る前に、この満足率×不満率の図を先に描くことを勧めます。評価が割れている項目が見つかったら、その項目については全体の平均で議論せず、属性別のクロス集計で「誰が不満なのか」を特定してから優先順位に載せてください。割れている項目を平均点のまま扱うと、どのセグメントにも刺さらない中途半端な改善策になります。
国交省CS調査77施設に見るセグメント別の重要度差
重要度を一度算出したら使い回せる、とは限りません。国土交通省が平成16〜20年度に実施した官庁施設の顧客満足度調査は、77施設・職員44項目/一般利用者29項目・職員8,054データ/一般利用者6,675データという規模で、重要度を重回帰分析により算出しています。特徴的なのは、施設を合同庁舎と一般庁舎のグループに分け、それぞれ別に重要度を出している点です。
| 設問項目 | 合同庁舎等(n=2,331) | 一般庁舎(n=2,979) |
|---|---|---|
| 建物外観印象 | 1位 0.1500 | 2位 0.1361 |
| 玄関雰囲気 | 2位 0.1369 | 4位 0.0911 |
| 待合・窓口雰囲気 | 3位 0.1081 | 1位 0.1372 |
| 施設までのアクセス | 4位 0.0728 | 7位 0.0434 |
| 玄関不満 | 8位 0.0564 | 3位 0.0991 |
同じ設問でも、複数官署が入居する合同庁舎では「施設までのアクセス」が4位(0.0728)なのに対し、一般庁舎では7位(0.0434)まで下がります。逆に「玄関不満」は8位から3位へ上がります。建築研究所のテキストも、施設の用途が違えば重要度も異なるはずだとして、用途別に重要度を求める必要があると述べています。
自社に置き換えるなら、法人顧客と個人顧客、新規と既存、価格帯の異なる商品群を1つの散布図に混ぜた時点で、重要度は「平均的な誰か」のものになり、どのセグメントの実態とも一致しなくなります。回答数が確保できるならセグメントごとに分けて算出し、確保できないなら重要度は直接質問法で取ってセグメント別に集計するほうが、混ぜて統計推定するより実態に近づきます。
PPM・投資のポートフォリオとの違い
ポートフォリオという語は3つの文脈で使われ、軸も判断対象も別物です。混同すると、事業判断の場に顧客アンケートの軸を持ち込むような食い違いが起きます。
| 種類 | 評価対象 | 2軸 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| CSポートフォリオ分析 | アンケートの評価項目 | 重要度×満足度 | 改善の優先順位付け |
| PPM(BCGマトリクス) | 製品・事業 | 市場成長率×相対的市場シェア | 資源配分・撤退判断 |
| 投資のポートフォリオ | 金融資産 | リスク×リターン | 資産配分の最適化 |
投資の文脈が原点で、Harry Markowitzが1952年3月のThe Journal of Finance誌(Vol.7, No.1, pp.77-91)に発表した論文「Portfolio Selection」が、期待収益の最大化ではなく分散を考慮した資産の組み合わせという考え方を示しました。これを製品・事業に応用したのが、ボストン・コンサルティング・グループが1970年に提示したPPMです。
PPMを使うときは、4象限のラベルを額面どおりに受け取らないことです。BCGの原典は花形について「利益は計上されるが、自らの資金をすべて生み出すとは限らない」という趣旨を述べており、花形=儲かる象限という理解は原典と食い違います。象限ごとの戦略や、経済産業省が事業再編実務指針で示した資本収益性×成長性の4象限フレームワークとの違いは、PPM(プロダクトポートフォリオマネジメント)の解説記事で扱っています。
よくある質問
ポートフォリオ分析はExcelでどう作るの?
AVERAGEで各項目の満足度平均を、CORRELで各項目と総合満足度の相関係数(重要度)を求め、その2列を選択して散布図を挿入します。追加ソフトは不要です。分析ツールアドインの「相関」機能を使えば全項目の相関行列を一度に出せますが、必要なのは総合満足度の列だけなのでCORRELで十分です。
ポートフォリオ分析ツールで無料のものは?
専用ツールを導入しなくても、ExcelまたはGoogleスプレッドシートで完結します。スプレッドシートもCORRELとAVERAGEを同じ書式で使えます。有償のアンケートツールにはポートフォリオ図の自動出力機能を持つものがありますが、重要度の算出方法(直接質問か相関か)が製品ごとに違うため、導入前にどちらで計算しているかを確認してください。
マーケティングにおけるポートフォリオ分析とは?
顧客満足度調査の項目を対象にする場合はCSポートフォリオ分析、製品ラインや事業を対象にする場合はPPMを指すことが多く、同じ言葉で別の分析を指します。会議で認識がずれる原因になるので、資料の冒頭で「重要度×満足度」なのか「市場成長率×市場占有率」なのか、軸を明示しておくと安全です。
重要度は必ず相関係数で計算しないといけませんか?
いいえ。回答者に重要度を直接聞く方法も正式な流儀の1つです。回答数が数十件にとどまる場合は相関係数が安定しないため、直接質問法のほうが妥当です。ただしその場合は「最も重視するもの3つ」のように選択数を制限し、項目間に差が出る設問設計にしてください。
NPSやCSATのスコアも同じように使えますか?
使えます。総合満足度の代わりにNPSの推奨度スコアを置けば、推奨につながりやすい項目を重要度として抽出できます。指標そのものの定義と計算方法はNPSとCSATの解説記事にまとめています。どちらを総合指標に据えるかで、重要度の上位に来る項目は変わります。