ソリューションブランドとは、「この会社はどんな問題を解決してくれるのか」が伝わっている状態を指すブランドのことです。製品の機能ではなく、顧客側の困りごとを名前と結び付ける考え方で、社名そのものに重ねる形と、日立製作所のLumadaや富士通のFujitsu Uvanceのように製品群の上位に別の名前を立てる形の両方があります。一方でこの言葉には教科書的に確立した定義がなく、出所をたどると特定の用語集に行き着きます。この記事では定義の出どころと学術的な調査を確認したうえで、企業ブランド・製品ブランドとの違い、各社の公式発表から読み取れる名前の付け方、そして立ち上げが空振りになる条件を整理します。
まとめ:ソリューションブランドの要点
- 定義は「その会社がどういう問題を解決してくれるのか」というブランド。日本語ではシンフォニーマーケティングの用語集の定義がよく引かれますが、学術的に確立した用語ではありません。
- 売り手は解決策を「製品とサービスの組み合わせ」と考えがちですが、買い手は要件定義から導入後の支援までの一連のプロセスとして見ています。この見方のずれが、名前だけ立派なソリューションブランドが刺さらない主因です。
- 企業ブランドは「誰から買うか」、製品ブランドは「何を買うか」、ソリューションブランドは「何が解決されるか」を担います。役割が違うので併用できます。
- 三菱電機のe-F@ctory(2003年)のように、コンセプトと名称を先に公表し、製品とサービスを後から詰めた例もあります。完成を待たずに名前を置く進め方は現実に機能しています。
- 立ち上げ前に確認すべきは、解決領域を一文で言えるか、既存の企業ブランド・製品ブランドと想起が重なっていないか、その名前で語り続ける部門が決まっているかの3点です。
ソリューションブランドとは「何を解決する会社か」が伝わっている状態
日本語で定義としてよく引かれるのは、シンフォニーマーケティングが運営するマーケティング情報サイト「Marketing Campus」の用語集にある次の説明です。
「ソリューション・ブランドとは、『その会社がどういう問題を解決してくれるのか』というブランドのこと。『企業名=○○を解決してくれる会社』というブランドを確立することで、○○に困ったらあの会社に相談しようという潜在的な需要を創出することができる」(Marketing Campus 用語集「ソリューションブランド Solution Brand」、運営はシンフォニーマーケティング株式会社)
ポイントは、名前が指しているのが製品でも企業の規模でもなく、顧客側の困りごとだという点です。「電子帳簿保存法への対応で困ったらあの会社」と想起される状態を作れれば、まだ案件になっていない段階の需要を先に押さえられます。
この定義は社名そのものに解決領域を重ねる形を想定していますが、実務では日立製作所のLumadaのように、複数の製品・サービスをまとめる別名を製品群の上位に立てる形も取られます。どちらも「何が解決されるか」を名前で示す点は同じです。この記事では両方を扱います。
定義の出どころは一社の用語集
注意したいのは、この言葉が学術的に定義の固まった用語ではないことです。同じページの「ノヤンのつぶやき」欄(同社マスコットの語り口による注釈)には「セミナーの集客やWebへのアクセスを目的変数とした説明変数に『ソリューション・ブランド』を使うのはシンフォニーマーケティングのオリジナルなんじゃよ」という一文が添えられています。オリジナルだと述べられているのは、この語を分析の説明変数として使う枠組みであって、語そのものの初出ではありません。
同じ定義は他のマーケティング用語集にも載っていますが、いずれも文面がほぼ同じで、別系統の定義が並立しているわけではありません。つまり社内で「ソリューションブランドを作ろう」と言うときは、言葉の定義を先に合わせておく必要があります。定義が共有されないまま進むと、社名の話をしている人と新しい事業名の話をしている人が同じ会議に並びます。
もう1点、この語そのものの検索需要は小さく、Webサイトの集客キーワードとしては期待しにくいことも押さえておいてください。集客に使うのは、顧客が実際に打ち込む課題の言葉(「棚卸 差異 原因」「受発注 FAX 脱却」など)です。
売り手と買い手で食い違う「ソリューション」の範囲
ソリューションという語の中身については、学術的な調査があります。Tuli、Kohli、Bharadwajが2007年にJournal of Marketing誌へ発表した論文「Rethinking Customer Solutions: From Product Bundles to Relational Processes」は、顧客企業の管理者49名と供給企業の管理者55名への深層インタビュー、および2つのフォーカスグループでの21名との議論に基づき、両者の認識の差を示しました。
論文の要旨によれば、既存研究と供給側は解決策を「顧客のビジネスニーズを満たす、カスタマイズされ統合された財やサービスの組み合わせ(a customized and integrated combination of goods and services)」と見ています。これに対し顧客側は、解決策を「(1)顧客要件の定義、(2)財やサービスのカスタマイズと統合、(3)その展開、(4)展開後の顧客支援」からなる、顧客と供給者の関係プロセスの集合として捉えていました。
つまり売り手が「良い組み合わせを作ること」を解決策だと思っている間に、買い手は要件を一緒に定義する段階と、導入後に面倒を見てもらえるかを含めて評価しているわけです。ソリューションブランドを名乗るなら、名前が約束する範囲もこの4段階に届いている必要があります。製品を束ねただけの名前が空振りするのは、4段階のうち(2)カスタマイズと統合しか担っていないからです。
企業ブランド・製品ブランドとの違い(答える問い・受け手・名前の寿命)
3つのブランドは競合するものではなく、顧客の頭の中で答える問いが違います。併用を前提に、どの問いを誰に担わせるかを決めるのが設計です。
| 観点 | 企業ブランド | 製品ブランド | ソリューションブランド |
|---|---|---|---|
| 答える問い | 誰から買うか | 何を買うか | 何が解決されるか |
| 名前が指す対象 | 会社そのもの | 個別の製品・型番 | 解決する課題の領域 |
| 主な受け手 | 経営層・株主・求職者 | 現場の利用者・購買 | 課題を抱える事業部門 |
| 名前の寿命 | 長い(数十年) | 製品の寿命に連動 | 課題が残る限り継続 |
| 変更のコスト | 大きい | 中程度 | 比較的小さい |
| 主な評価指標 | 想起・信頼・採用応募 | 販売数・シェア | 指名相談・商談化率 |
プロダクト(製品)とソリューションは何が違うのか
製品とソリューションの境目は、前掲のTuliらの4段階で切ると迷いません。製品は(2)カスタマイズと統合に投入される部品であり、ソリューションは(1)要件定義から(4)展開後支援までのプロセス全体を指します。したがって「複数の製品をセットにして割引した」だけでは、買い手から見てソリューションにはなっていません。要件をどう引き出すか、導入後に誰が面倒を見るかまで決めて、初めて言葉が実態に追いつきます。
なお、マーケティングの4Pを買い手視点に置き換えた枠組みでは、製品(Product)に対応する要素がSolutionとされています。売り手の都合で組んだ製品群ではなく、買い手の課題に対する解として組み直すという発想は、SAVEの4要素の考え方と共通します。企業ブランドの考え方そのものはコーポレートブランディングの領域で、ロゴや名称といった構成要素の作り方はブランドエレメントの議論に整理されています。
公式発表から読む、解決領域への名前の付け方
「ソリューションブランド」という語を自ら使っている企業は多くありません。ただし、製品より上の階層に名前を付ける実践は各社が公式に発表しています。名称の位置づけは各社で違い、そこに設計上の判断が表れています。
| 名称 | 企業 | 公式発表 | 発表時の位置づけ(公式表現) |
|---|---|---|---|
| e-F@ctory | 三菱電機 | 2003年 | 基本コンセプト |
| Lumada | 日立製作所 | 2016年5月10日 | IoTプラットフォーム |
| Fujitsu Uvance | 富士通 | 2021年10月7日 | 新事業ブランド |
| BluStellar | NEC | 2024年5月30日 | 価値創造モデル |
三菱電機e-F@ctory:先に名前、後から中身
三菱電機のe-F@ctoryは2003年に、「FAとITをつなぎ、開発・生産・保守の全般にわたるトータルコストの削減」を実現するという基本コンセプトとして公式発表されました。同社が2017年3月に公開した開発経緯の記事は、第1回の見出し自体が「まずは言葉ありきで始まった」です。FAシステム事業本部e-F@ctory戦略プロジェクトグループ主席研究員の渡部裕二氏は、名称の提案が先にあった当時を「具体的なものは見えてこなかった」と振り返っています。
コンセプトが先行し、中身は後から現場のヒアリングで詰めていったわけです。現在のe-F@ctoryは1000社を超えるパートナーとの協創エコシステム(e-F@ctory Alliance)を持つ規模になりました。完成してから名付けるのではなく、名前を置いてから中身を集める進め方も現実的な選択肢だと分かります。
日立Lumada:基盤の名前から協創の枠組みへ
Lumadaは2016年5月10日のプレスリリース「日立がIoTプラットフォーム『Lumada』の提供を開始」で世に出ました。当時の説明は技術寄りで、「データの統合、分析やシミュレーションから知見を得るソフトウェア技術などで構成されるオープンで汎用性の高いプラットフォーム」とされています。出発点はソリューションを作るための基盤の名前でした。
現在の日立のLumada紹介ページは、顧客のビジネス創出プロセスに伴走する考え方を「Lumadaによる顧客協創フレームワーク」と呼び、顧客体験のデザインから商品開発、データ収集や分析までを一連でとらえる枠組みとして説明しています。同サイトには「Lumada10周年」の導線も置かれています。発表当時の説明と現在の説明を並べると、基盤の名前として始まったものが、協創の進め方そのものを指す言葉として使われるようになったことが読み取れます。名前が指す範囲は後から広げられるということです。
富士通Uvance・NEC BluStellar:名前が担うのは約束
富士通は2021年10月7日、「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていく」というパーパスの実現を目指す新事業ブランドとしてFujitsu Uvanceを発表しました。対象は7つのKey Focus Areas(重点注力分野)で、公式発表では「社会課題を解決するクロスインダストリーの4分野(Vertical Areas)と、それらを支える3つのテクノロジー基盤(Horizontal Areas)の合計7分野」と明記されています。名称は「あらゆる(Universal)ものをサステナブルな方向に前進(Advance)させる」という2語を重ねたもので、決定にあたってはグローバルで社員投票が実施されました。
NECは2024年5月30日、DX事業の核である「NEC Digital Platform」を、価値創造モデル「BluStellar」へ進化させて展開を開始しました。公式発表の注記では、業種横断の知見と最先端テクノロジーにより「ビジネスモデルの変革を実現し、社会課題とお客様の経営課題を解決に導き、お客様を未来へ導く価値創造モデル」と説明されています。名称の由来もイタリア語の青(Blu)と星(Stella)だと公表されており、意味を社内外で共有できるよう設計されています。
両社に共通するのは、「何ができるか」ではなく「何を約束するか」を名前に載せている点、そして名称の由来まで公表して社内で語れるようにしている点です。ソリューションブランドを名乗る以上、機能一覧ではなく約束を書くのが定石だといえます。
ソリューションブランドの作り方(4ステップ)
設計の指針は、前掲のTuliらが示した顧客側の4段階です。ここではステップ1・2を名前を付ける側の準備として補い、ステップ3・4を論文の4段階に直接対応させています。
- 解決する課題を一文に絞る:「製造業のDX」では広すぎます。「多品種少量生産の工程間の在庫を見えるようにする」程度まで絞り、その一文を名前とタグラインの根拠にしてください。顧客が自分の言葉で言い換えられるかが判定基準です。
- 束ねる対象を決める:既存の製品・サービス・保守・コンサルのうち、どこまでをこの名前の下に入れるかを決めます。1製品しか入らないなら、それは製品ブランドの改名であってソリューションブランドではありません。
- 導入までの進め方を商品にする:論文の(1)要件定義から(3)展開に対応する部分です。要件定義の進め方、標準の導入期間、初期に確認する項目といったプロセス自体を公開しましょう。買い手が見ているのはここです。
- 導入後の支援を明記する:論文の(4)展開後支援にあたります。保守窓口、稼働後の改善サイクル、追加開発の受け方まで含めて約束してください。ここが空白だと、4段階のうち最後が欠けた名前になります。
名称・ロゴ・商標の実務は、既存のブランド要素の作り方と同じ手順で進められます。既存ブランドの位置づけを変える場合はリブランディングの判断も併せて必要になります。
期待できる効果
効果は主に3つです。第一に、まだ案件になっていない段階の相談が増えます。課題で想起されるということは、比較検討が始まる前に声がかかるということだからです。第二に、価格以外の比較軸が立ちます。要件定義の進め方と導入後支援まで約束に含めているため、同じ機能の製品と単価で並べられにくくなります。第三に、社内の説明が揃います。営業資料とWebサイトとセミナーで同じ約束を語れるようになると、提案の準備時間も短くなります。
ソリューションブランドがうまくいかない3つの条件
立ち上げ自体は難しくありません。機能しないケースには共通点があるので、着手前に次の3点を確認してください。
解決領域が広すぎる
「DXソリューション」「課題解決パートナー」といった名前は、何も約束していないのと同じです。顧客が検索する語も、社内で議論する対象も定まりません。狭く定義したほうが、指名での相談は増えます。
既存の企業ブランド・製品ブランドと想起が重なる
社名だけで十分に「この分野の会社」と認識されている場合、別名を作ると認知が二分されます。まず企業ブランドが何を想起させているかを確認し、その空白地帯にだけ新しい名前を置くのが安全な進め方です。
語り続ける部門が決まっていない
ソリューションブランドは、営業資料・Webサイト・セミナー・導入事例のすべてで同じ約束を繰り返して初めて成立します。発表したきり更新されない名前は、半年で社内からも使われなくなります。運用担当と更新頻度を先に決めておきましょう。
よくある質問
ソリューションブランドと製品ブランドは併用できますか?
併用が前提です。答える問いが「何が解決されるか」と「何を買うか」で異なるため、役割が衝突しません。日立のLumadaも、発表時のプレスリリースでPentahoやHitachi Streaming Data Platformといった既存製品名を挙げながら、それらを含む上位の名前として説明されています。注意点は階層を明示することで、どの製品がどのソリューションブランドの下にあるのかを一覧で示していないと、顧客も営業担当も使い分けられません。
ソリューションカンパニーとソリューションブランドは何が違いますか?
指しているものが違います。ソリューションカンパニーは、製品の販売ではなく課題解決を事業の軸に置いた会社の在り方を指す言い方です。これに対しソリューションブランドは、その会社が顧客の頭の中でどの課題と結び付いているかという想起の状態を指します。事業の中身を変えても想起は自動的には変わらないので、両者は別に設計する必要があります。どちらも定義の定まった用語ではないため、社内で使う際は意味をそろえてください。
中小企業でもソリューションブランドは必要ですか?
必須ではありません。社名と提供内容が1対1で結びついている規模であれば、企業ブランドを磨くほうが費用対効果は高くなります。検討する価値が出るのは、複数の製品・サービスを抱えていて、それらをまたぐ課題で相談されたい場合です。判断の目安は、自社の提供物が2つ以上あり、かつ顧客の課題がその両方にまたがっているかどうかです。
ソリューションブランドの効果はどう測りますか?
売上より手前の指標を見ます。具体的には、その名称を含む指名での問い合わせ件数、課題キーワードからの流入と資料請求、商談化率、そして案件の初回接触から受注までの期間です。名前が効いていれば、要件が固まる前の相談が増え、比較検討の期間が短くなります。単月では動かないため、四半期単位で前年同期と比べてください。
「ソリューション」と名前に付ければソリューションブランドになりますか?
なりません。Tuliらの調査が示したとおり、買い手は要件定義から導入後支援までのプロセス全体を見ています。名称に語を足しても、要件定義の進め方や導入後の支援が公開されていなければ、買い手の評価対象は増えません。名前を変える前に、進め方と支援内容を書き出せるかを確認してください。