Bassモデル(バスモデル)は、新製品がどの速さで、どこまで普及するかを「自分の判断で買う人」と「周りを見て買う人」の2つの力で表す数理モデルです。1969年にフランク・バスが耐久消費財の販売予測のために発表し、新製品の需要予測に使われる代表的な普及モデルです。この記事では基本式と3つのパラメータの読み方、海外と日本で推定されたp・qの目安、総務省のスマートフォン保有率に当てはめたPythonコードを示し、データが増えるたびに上限の推定値がどう動くかまで実測します。
まとめ:Bassモデルで分かることと分からないこと
- 何を表すか:普及の速さを、外部からの影響を表す革新係数p、口コミなど採用者からの影響を表す模倣係数q、最終的な採用者数である市場規模mの3つで表します。
- 分かること:販売のピークが来る時期 t* = ln(q/p)/(p+q) と、そのときの普及率 (q−p)/(2q)。p=0.03、q=0.38なら発売から約6.2年後、市場規模の約46%が採用した時点がピークです。
- 目安値:海外のメタ分析(Sultanら1990年)が平均的な値としてp=0.03、q=0.38を挙げ、日本の新製品24事例を推定した研究(中山2016年)の平均はp=0.054、q=0.438でした。どちらもqがpの約8〜13倍です。
- 分からないこと:データが短いうちは市場規模mの推定が不安定で、低く出ることがあります。スマホ世帯保有率では、2013年までのデータで推定すると上限68.2%、2014年までで一度66.0%に下がった後はデータを1年足すごとに上がり続け、2025年までで89.6%でした(実測91.8%)。
- 使いどころ:発売前は類似製品のp・qを借りて形を描き、mは市場調査で決めます。発売後は推定し直すたびにmが上がり続けるなら、まだ上限は見えていないと判断します。
Bassモデルの基本式と3つのパラメータ
Bassモデルは「まだ採用していない人のうち、いま採用する人の割合」を次の式で置きます。F(t)は潜在採用者全体に対する時点tまでの累積採用割合、f(t)=dF(t)/dtはその瞬間の採用速度です。
f(t) / (1 - F(t)) = p + q * F(t)
右辺のpは普及率と無関係に一定なので、広告や店頭など外部からの影響で採用する力を表します。q・F(t)は採用者が増えるほど大きくなるので、口コミや周囲の利用を見て採用する力を表します。Bassは原論文でpを「革新の係数(coefficient of innovation)」、qを「模倣の係数(coefficient of imitation)」と呼びました。人数で扱うときは、F(t)に市場規模mを掛けます。qが表す口コミの施策側の考え方はWOM(ワム)とは?意味と口コミマーケティングの手法、ステマ規制の線引きで扱っています。
累積普及率の式とピーク時期の求め方
上の微分方程式を F(0)=0 で解くと、累積普及率は次の閉じた式になります。
F(t) = (1 - exp(-(p + q) * t)) / (1 + (q / p) * exp(-(p + q) * t))
連続時間での新規採用速度f(t)が最大になる時点と、そのときの累積普及率は次のとおりです。
t* = ln(q / p) / (p + q)
F(t*) = (q - p) / (2 * q)
q>pのときだけピークは発売後に来て、累積のグラフはS字になります。q≦pなら新規採用は発売直後が最大で、あとは減る一方です。q/pの比が、S字に伸びるか、発売直後に売れて尻すぼみになるかを分けます。S字曲線そのものの読み方は技術のSカーブ(S字曲線)とは?4段階と過去問17回の出題・正解一覧で扱っています。
p・q・mが曲線に与える影響
| パラメータ | 大きくすると | 主に効く時期 |
|---|---|---|
| p(革新係数) | 立ち上がりが早くなる | 発売直後 |
| q(模倣係数) | 中盤の伸びが急になる | 口コミの項は普及率50%で最大 |
| m(市場規模) | 曲線全体が上に伸びる | 終盤の頭打ちの高さ |
p・qの目安値:海外メタ分析と日本の推定例
メタ分析の平均 p≈0.03・q≈0.38
Sultan、Farley、Lehmannの1990年のメタ分析(Journal of Marketing Research 27巻1号)は、1957〜1987年に発表された15本の論文にある213件の拡散モデルの推定を、製品の種類・国・モデルの形・推定方法と関連づけて分析しました。広く引用される「p=0.03、q=0.38」は、この論文の74ページで平均的な値として挙げられた組み合わせです。同じ論文の表2にある分散分析の総平均は、p=0.040(pを含む161件)、q=0.302(213件)でした。
論文はp=0.03、q=0.38のピークを5.3年後としていますが、前の章の式 ln(q/p)/(p+q) で計算すると約6.2年です。引用するときは自分で計算し直すほうが確実です。
| 条件(表2・総平均からの差) | p | q |
|---|---|---|
| 欧州のデータ(米国比) | +0.018(米国は−0.018) | 有意差なし |
| 産業財・医療の製品 | +0.008 | +0.283 |
| OLSで推定 | +0.022 | +0.062 |
| 最尤法で推定 | −0.009 | −0.022 |
欧州でpが高く出る理由として、論文は「多くの製品が米国で先に発売され、欧州では導入時点でリスクの低い製品になっていた可能性」を挙げています。Van den BulteとStremerschの2004年のメタ分析(Marketing Science 23巻4号)は、q/pが所得格差の大きい国ほど高く、国民文化の次元や競合規格の有無でも変わると報告しました。平均値は多数の推定を均した値なので、国と製品の種類が近い推定値を探して使います。
日本の24事例の平均 p=0.054・q=0.438
日本の製品で推定された値としては、中山智浩氏の「イノベーションの将来予測のための新製品普及モデルと4タイプの研究」(VENTURE REVIEW 28号、2016年)があります。主に日本の新製品・サービス24事例(15社・9産業)にBassモデルを当てはめ、p・qの平均値(p=0.054、q=0.438)を境界線にして事例を4つの型に分けました。
| 型(論文の呼び名) | p(幅) | q(口コミ) | 論文が挙げる例 |
|---|---|---|---|
| ゲリラ豪雨型 | 平均未満 | 平均以上 | レアジョブ、AirWeave社 |
| 風見鶏型 | 平均未満 | 平均未満 | mixi、ライフネット生命 |
| 同時多発型 | 平均以上 | 平均未満 | グリー、便秘薬 |
| 大ヒット型 | 平均以上 | 平均以上 | 任天堂DS、Wii、IY社のネットスーパー |
個別の推定値では、任天堂DSがp=0.06・q=0.84、任天堂Wiiがp=0.15・q=0.62でした(論文の図表5-4)。論文はWiiのpが高いことを、テレビCMで新しい遊び方を広く伝えたことと結びつけています。
ただし、この研究のデータの一部は、企業が数値を公開せずグラフだけを示していた場合に棒グラフの高さを測って推計したものだと、論文自身が書いています。p・qを予測の入力に借りるなら、出典のデータの取り方まで確かめてから使います。
Bassの革新者とロジャーズのイノベーター2.5%の違い
名前が似ているため混同されやすいのですが、Bassモデルの革新者は「発売初期に買う2.5%の人」ではありません。p・(1−F(t)) の項は普及の終盤でも0にならないので、Bassの革新者は、周囲の影響を受けずに採用した人がどの時期にいても数えます。ロジャーズの採用者5分類は採用時期を標準偏差で区切った分類で、Bassの2分類とは切り口が違います。
この点はBass自身が共著者に入ったレビュー論文(Mahajan、Muller、Bass、Journal of Marketing 1990年1月号)でも指摘されており、Bassモデルで革新者と呼ぶ人は必ずしも最初の採用者ではないため、p・qはそれぞれ外部影響・内部影響の係数と呼ぶほうが正確だとしています。ロジャーズの5分類と割合の根拠はイノベーター理論とは?ロジャーズの5分類と割合の根拠、普及を左右する5つの属性にまとめています。
Pythonでの推定:スマホ世帯保有率への当てはめ
ここからは公開統計にBassモデルを当てはめます。データは総務省「通信利用動向調査」の、スマートフォンを保有する世帯の割合です。2016〜2025年は令和7年調査の報道資料(2026年5月29日公表・令和7年8月末時点)のPDF4ページ目の表、2010〜2015年は平成28年調査の報道資料の「情報通信機器の保有状況の推移(世帯)」から取りました。調査時点は年によって異なる場合があるため、年次の等間隔データとして扱います。
| 年 | 2010 | 2011 | 2012 | 2013 | 2015 | 2018 | 2021 | 2025 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 保有世帯の割合(%) | 9.7 | 29.3 | 49.5 | 62.6 | 72.0 | 79.2 | 88.6 | 91.8 |
推定コード(scipyの非線形最小二乗)
推定方法には、Bassが原論文で使った回帰(OLS)、SchmittleinとMahajanが1982年に示した最尤法、SrinivasanとMasonが1986年に示した非線形最小二乗法(NLS)の3系統があります。ここではNLSを使い、国内でiPhone 3Gが発売された2008年をt=0として、累積普及率の式をそのまま当てはめます。保有率は%なので、mも%で推定します。tは年単位で、p・qの単位は年の逆数です。月単位で同じ連続時間モデルを使う場合は、年単位のp・qをそれぞれ12で割ります。
import numpy as np
from scipy.optimize import curve_fit
# 総務省「通信利用動向調査」世帯のスマートフォン保有割合(%)
years = np.arange(2010, 2026)
share = np.array([9.7, 29.3, 49.5, 62.6, 64.2, 72.0, 71.8, 75.1,
79.2, 83.4, 86.8, 88.6, 90.1, 90.6, 90.5, 91.8])
def bass_cum(t, p, q, m):
"""Bassモデルの累積普及率 m*F(t)。t は発売からの経過年数"""
e = np.exp(-(p + q) * t)
return m * (1 - e) / (1 + (q / p) * e)
t = years - 2008 # 国内でiPhone 3Gが発売された2008年を t=0 とする
(p, q, m), _ = curve_fit(bass_cum, t, share, p0=[0.03, 0.4, 95],
bounds=([1e-4, 1e-3, 50], [1, 3, 100]))
print(f"p={p:.4f} q={q:.4f} m={m:.1f} q/p={q/p:.1f}")
t_peak = np.log(q / p) / (p + q)
print(f"ピーク: 発売から{t_peak:.2f}年後({2008 + t_peak:.1f}年)")
rmse = np.sqrt(np.mean((bass_cum(t, p, q, m) - share) ** 2))
print(f"RMSE={rmse:.2f}ポイント")
Python 3.9.6、scipy 1.13.1、numpy 2.0.2で実行した出力です。
p=0.0940 q=0.3143 m=89.6 q/p=3.3
ピーク: 発売から2.96年後(2011.0年)
RMSE=4.40ポイント
スマホ保有率の推定値と実測値のずれ
q/pは3.3で、メタ分析の組み合わせ(約13)や日本の24事例の平均(約8)より小さくなりました。これは今回のモデルと推定条件の下での係数比であり、外部要因の寄与を測定した結果ではありません。ピークは2011年と出ており、前年からの増加幅は2012年(+20.2ポイント)が最大、2011年(+19.6ポイント)も大きく、時期はおおむね合っています。
当てはまりは良くありません。2010年の推定値は20.2%で実測9.7%の倍以上、2025年は89.2%で実測91.8%を下回り、上限mも実測より低い89.6%になりました。世帯の保有率は「調査時点で世帯に1台でもあれば保有」と数えます。現在の保有世帯率は、一度でも採用した世帯の累積割合とは異なる(手放した世帯は数えられない)ため、Bassモデルの累積採用割合とそのまま同一視できません。
推定し直すたびに上限mが上がる問題
Bassモデルを予測に使うときは、少ないデータから推定した上限mの不安定さに注意します。スマホ保有率では、短い期間で推定すると上限が低く出ました。上のコードの curve_fit に渡す t と share を、先頭から4点、5点…と1年ずつ増やして推定し直すと、次のようになります(初期値と境界は同じ)。
| 使ったデータ | p | q | m(上限) |
|---|---|---|---|
| 2010〜2013年(4点) | 0.018 | 1.318 | 68.2% |
| 2010〜2015年(6点) | 0.021 | 1.220 | 69.8% |
| 2010〜2017年(8点) | 0.026 | 1.085 | 72.4% |
| 2010〜2019年(10点) | 0.041 | 0.826 | 77.3% |
| 2010〜2021年(12点) | 0.067 | 0.540 | 83.2% |
| 2010〜2023年(14点) | 0.086 | 0.377 | 87.5% |
| 2010〜2025年(16点) | 0.094 | 0.314 | 89.6% |
4点から16点まで、1年足すごとのmは5点目(66.0%)で一度下がった以外は毎回上がり、最後まで頭打ちになりませんでした。2015年に推定していたら「スマホは7割の世帯で頭打ち」と結論し、2025年の実測(91.8%)より20ポイント以上低い計画を立てていたことになります。新規採用の増加幅は2012年が最大なので、2015年までの6点はピークを過ぎたデータを含んでいます。それでも過小でした。
同じ向きの偏りは他の製品でも報告されています。Van den BulteとLilienの1997年の論文(Marketing Science 16巻4号)は、12の製品で推定をやり直し、観測した累積普及率が10%増えるごとに、推定したmは約5%増え、qは約10%減り、pは約15%増えると報告しています。上の表もmが増え、qが減り、pが増える同じ向きに動いています。
実務での判断基準はこうです。推定し直すたびにmが上がり続けている間は、mの推定値を計画の上限に使わない。mの増え方が止まるまでは、市場調査で決めた上限を複数のシナリオで持ち、推定値と並べて見ます。推定値が真の市場規模の下限になる保証はありません。
スマホ保有率における3曲線の上限推定比較
曲線の形が合っていないから過小になるのか、を確かめるため、同じデータにロジスティック曲線 m/(1+exp(−k(t−t0))) とゴンペルツ曲線 m・exp(−b・exp(−ct)) も当てはめました。
| 曲線 | 16点の上限m | 16点のRMSE | 6点の上限m | 6点で推定した曲線の16点RMSE |
|---|---|---|---|---|
| Bass | 89.6% | 4.40 | 69.8% | 13.03 |
| ロジスティック | 87.5% | 5.11 | 69.6% | 13.20 |
| ゴンペルツ | 88.6% | 4.10 | 72.6% | 11.11 |
比較では、ロジスティックの初期値を(k,t0,m)=(0.5,4,90)、下限を(0.01,−10,50)、上限を(5,20,100)、ゴンペルツの初期値を(b,c,m)=(2,0.3,90)、下限を(0.01,0.01,50)、上限を(50,5,100)として、同じcurve_fitで推定しました。
16点ではゴンペルツが最もよく当てはまりましたが、6点で推定した上限はどの曲線も70%前後で、2025年の実測から19〜22ポイント低いままでした。少なくともこのデータでは、上限の過小推定はBassモデルを別のS字曲線に取り替えても解消しませんでした。曲線の選び方より、mを市場調査など別の情報で押さえるほうが効くと考えられます。
なお、Bassモデルの微分方程式でp=0とするとロジスティック型になりますが、成長には正の初期採用割合が必要です。前述のF(0)=0のままでは普及は始まりません。また、ロジスティックは累積が上限の50%、ゴンペルツは上限の1/e(約37%)の時点で伸びが最大になります。
発売前予測における類似製品のp・qの利用
発売前や発売直後にBassモデルを使うなら、p・qを自社データから推定せず、似た製品で推定された値を借りて曲線の形を決め、mだけを市場調査(購入意向調査や対象人口)で決める使い方があります。Sultanらのメタ分析も、発売初期の少ないデータでは推定値が不安定になるという先行研究を挙げたうえで、メタ分析の結果を事前分布として新しいデータと組み合わせるベイズ的な推定手順を示しています。
- mは推定させず、調査で決めた値を固定する。
- p・qは類似製品の推定値を複数借りて、幅のある予測として出す(海外平均と日本の24事例平均の両方で描くなど)。
- 販売データが増えたら、mも推定する比較モデルを別に回し、上の表のようにmが上がり続けていないかを見る。
需要予測の手法全体の中でのBassモデルの位置は需要予測とは?AI・機械学習による手法とシステム導入の進め方を解説で整理しています。自社の販売データで普及予測や需要予測の仕組みを作る場合は、AI予測分析開発・需要予測開発で要件の整理から支援しています。
Excelのソルバーで推定する手順
Pythonを使わなくても、Excelのソルバーで同じ最小二乗問題を解けます。前出の中山(2016年)もExcelのソルバーで誤差を最小にするm・p・qを求めており、推定する値が3つなので最低4期のデータがあれば計算できるとしています。スマホ保有率の例なら、次の配置にします。
| セル | 入れるもの |
|---|---|
| A2:A17 | 年(2010〜2025) |
| B2:B17 | 経過年数t(=A2-2008) |
| C2:C17 | 保有率の実測値(%) |
| H1・H2・H3 | p・q・mの初期値(0.03・0.4・95) |
| D2:D17 | モデルの予測値(下の式) |
| E2:E17 | 二乗誤差 =(C2-D2)^2 |
| H5 | 誤差の合計 =SUM(E2:E17) |
D2: =$H$3*(1-EXP(-($H$1+$H$2)*B2))/(1+($H$2/$H$1)*EXP(-($H$1+$H$2)*B2))
- D2の式をD17まで、E2の式をE17までコピーする。
- [データ]タブの[ソルバー]を開き、目的セルにH5、目標値に「最小値」、変数セルにH1:H3を指定する(ソルバーが無ければ[ファイル]→[オプション]→[アドイン]で有効にする)。
- 制約条件に H1>=0.0001、H1<=1、H2>=0.001、H2<=3、H3>=50、H3<=100 を足し、解決方法に「GRG非線形」を選んで解く。
- 初期値を変えて数回解き、H5が最も小さくなった解を採る。非線形の最適化は初期値によって別の解で止まることがあるため。
販売台数のように各期の新規採用数で当てはめるときは、D列を累積ではなく m×(F(t)−F(t−1)) にします。
価格・広告・世代交代を入れる拡張モデル
基本形のBassモデルには価格や広告といった企業が動かせる変数が入っていません。Bass、Krishnan、Jainの1994年の論文(Marketing Science 13巻3号)は、価格と広告の比例変化率を係数付きで足し合わせた調整項を、基本形の採用速度に掛ける一般化Bassモデル(Generalized Bass Model)を示しました。価格や広告の変化率が一定なら基本形に戻るため、「なぜ意思決定変数を入れなくてもBassモデルがよく当たるのか」の説明にもなっています。
後継製品が前の世代を置き換える場合には、NortonとBassの1987年の論文(Management Science 33巻9号)が、拡散と世代間の代替を同時に扱うモデルを示しています。従来型の携帯電話からスマートフォンへのように、乗り換えが普及の中心になる製品では世代モデルも検討します。
Bassモデルを使うべきでない場面
Bassモデルは「1人1回の採用」を前提にしています。この前提から外れる製品に当てはめると、推定値は計算できても意味を持ちません。
- 解約がある月額サービス:基本形には採用をやめる人の項がありません。現在の契約者数は「累計の新規契約数−解約数」なので、Bassモデルの累積採用とは別物です。当てはめるなら、再契約や複数契約を重複計上しない初回採用者数の累計を使い、解約・再加入・競合間の乗り換えは別に扱います。Libai、Muller、Peresの2009年の論文(Journal of Marketing Research 46巻2号)は、利用中止を組み込んだサービスの普及モデルを示し、利用中止を無視するとパラメータ、特に市場規模の推定が偏ると述べています。
- 繰り返し購入が売上の中心の商品:食品や日用品は、初回の試用と再購入を分けないと、再購入分を普及と取り違えます。
- 供給制約で売れ方が決まった製品:品切れが続いた期間の販売数は需要ではなく供給量なので、p・qが歪みます。
- 立ち上がり期のデータが欠けている製品:スマホのデータで発売年t0も未知数に加えて(t0は2000〜2010年の範囲)推定すると、t0は2009.5年、p=0.28、m=91.2%、RMSEは2.79ポイントと当てはまりは良くなった一方、qは下限の0.001に張り付きました。当てはまりが良くてもパラメータが境界に張り付くときは、データがpとqを見分けられていない兆候です。
- 市場規模が大きく動く市場:人口や対象層が増減する市場では、固定したmでは表せません。
普及の転換点とされる普及率16%の考え方はクリティカルマスとは?普及率16%の出典と10〜20%説・ジェンダー30%・臨界質量の違いで、普及が途中で止まった製品の実例はキャズムを超えた製品・超えられなかった製品の事例で扱っています。
Bassモデルの歴史と評価
原論文は Management Science 15巻5号(1969年1月)の215〜227ページに掲載されました。掲載時の題名は “A New Product Growth for Model Consumer Durables” で、語順が崩れたまま登録されているため、引用では “A New Product Growth Model for Consumer Durables” と直して書かれることもあります。Bass自身が2004年に同誌へ寄せたコメントによると、この論文はINFORMS会員の投票で同誌50年の歴史の「最も影響力のある10本の論文」の1本に選ばれました。
よくある質問
普及率とは何ですか?
対象となる世帯や人のうち、その製品を持っている、または使っている割合です。BassモデルのF(t)は「最終的な潜在採用者のうち何割が採用したか」で、全世帯を分母にする保有率とは分母が異なります。この記事のコードでは全世帯に対する割合をmF(t)で近似しています。
普及曲線とBassモデルの関係は?
普及曲線は、累積の普及率を時間に沿って描いた線で、多くの製品でS字になります。Bassモデルはこの曲線を式で表す方法の1つで、q>pのときにS字になります。同じS字を描く式にはロジスティック曲線やゴンペルツ曲線もあり、スマホ保有率ではゴンペルツの当てはまりが最も良くなりました。
ARモデルとBassモデルは何が違いますか?
AR(自己回帰)モデルは過去の値の組み合わせで次の値を予測する時系列モデルで、上限や普及の仕組みを前提にしません。Bassモデルは上限mに向かって普及する仕組みを式に組み込んでいるため、データが少ない新製品でも曲線の形を描けます。定常的に売れている既存製品の予測にはAR系のほうが向いています。時系列モデルの使い分けは時系列とは?意味と分析手法の使い分け|ARIMAからPython実装までで扱っています。
イノベーション普及理論とBassモデルはどう違いますか?
ロジャーズのイノベーション普及理論は、人がなぜ・どの順で新しいものを採用するかを説明する理論で、採用者を5つに分類します。Bassモデルは普及の量と時期を数値で予測するための数理モデルで、採用者を外部影響と内部影響の2つの経路で分けます。理論で採用者像を考え、Bassモデルで数量を見積もる、という使い分けになります。
回帰分析だけで推定できますか?
できます。Bassが原論文で使ったのは、各期の新規採用数を前期までの累積採用数とその2乗で回帰する方法で、回帰係数からp・q・mを逆算します。ただしこの方法は累積採用数の誤差を引きずり、係数によってはmが求まらないこともあるため、データが揃ったら上のExcelソルバーやPythonの非線形最小二乗で確かめます。