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技術のSカーブ(S字曲線)とは?4段階と過去問17回の出題・正解一覧

技術のSカーブ(S字曲線)とは?4段階と過去問17回の出題・正解一覧

技術のSカーブ(S字曲線)とは、ひとつの技術の進歩が「最初はゆるやか、途中で急加速、やがて頭打ち」という順にアルファベットの「S」を描いて進むことを示した成長モデルです。情報処理技術者試験では、応用情報技術者試験・基本情報技術者試験・基本情報の修了試験(科目A試験免除制度)で、平成22年から令和7年までに計17回出題されています。この記事では、定義と4つの段階、CPUで起きた実例、試験の3つの出題型と全17回の正解、誤答肢の見分け方、そして名前の似た「シグモイド曲線」「工程管理のSカーブ」との違いまでを整理します。

まとめ:Sカーブは「限界に達する前に次の曲線へ移る」ための地図

  • 技術のSカーブは、縦軸に技術進歩の度合い、横軸に投じた費用や期間をとると曲線が「S」字を描くことに由来する成長モデル。導入期・成長期・成熟期・停滞期(衰退期)の4段階をたどります。
  • 試験では「技術の進歩の過程を表すもの」が正解。全17回のうち、説明を選ぶ型と誤答肢入替型の正解はイ、用語を選ぶ型の正解はアです。最新の出題は令和7年6月の修了試験で、今も出続けています。
  • ラーニングカーブ(学習曲線)もS字を描くことがあります。「S字だからSカーブ」と覚えると誤答するため、形ではなく軸の組み合わせで判別してください。
  • 実例はCPUのクロック周波数。Intelは2001年8月に2GHzへ達したあと4GHz品の計画を2004年秋に断念し、性能向上の軸をマルチコアという次の曲線へ移しました。
  • 経営に持ち込んだのはマッキンゼーのリチャード・N・フォスターで、1986年の著書『Innovation: The Attacker’s Advantage』が出典。『イノベーションのジレンマ』はクレイトン・クリステンセンが1997年に著した別の本です。
  • 技術のSカーブは、数学のシグモイド曲線(ロジスティック関数)や工程管理で累積出来高を描くSカーブとは別の概念。ただしロジスティック関数は、技術の成長を近似する数式として使われることがあります。

技術のSカーブの定義と2つの軸

技術のSカーブは、ひとつの技術がたどる進歩の過程を1本の曲線で表したものです。投資を始めた直後は試行錯誤が続いて成果が出にくく、原理が固まると投じた資源に対して性能が跳ね上がり、物理的・理論的な限界に近づくと再び伸びが鈍ります。この3局面をつなぐと「S」に似た形になります。

技術のSカーブの縦軸・横軸と評価指標

過去問解説サイト「応用情報技術者試験ドットコム」の平成22年春期 問69の解説は、縦軸に技術進歩の度合、横軸に投資した費用や期間をとってグラフにすると曲線が「S」に似た形になる、と説明しています。IT用語辞典 e-Words も横軸を「経過時間や投入資源の累積」としており、横軸は時間でも投じた資源でもかまいません。試験の設問文自体に軸の指定はなく、IPAは科目A(旧・午前)問題の解説を公開していないため、この軸の説明は解説サイトや用語辞典によるものです。

どちらで取るかは、何を判断したいかで決まります。横軸を投資額にすると、曲線の傾きがそのまま投資1単位あたりのリターンになります。傾きが寝てきたということは、同じ額を追加投入しても性能がもう伸びない状態。停滞期に予算を積み増しても成果が返ってこない理由は、この構造にあります。

シグモイド曲線(ロジスティック関数)との関係

「S字曲線」で検索すると、数学のシグモイド曲線が並びます。こちらは1838年にベルギーの数学者フェルフルスト(Verhulst)が人口増加のモデルとして発表したロジスティック方程式に由来する関数で、標準形は σ(x) = 1/(1 + e^-x)(eは自然対数の底、^はべき乗)。出力が0から1の範囲に収まるため、ロジスティック回帰やニューラルネットワークの活性化関数として使われます。

両者は「S字を描く」という形状は共通しますが、成り立ちが違います。ロジスティック関数は微分方程式から導かれる数式で、パラメータを与えれば値が一意に決まります。技術のSカーブは経営判断のために現象を単純化した記述的なモデルで、特定の数式は定められていません。技術のSカーブを数式で近似して将来の性能を予測する研究もあります。ただし、曲線の形だけから性能の上限や到達時期を確定することはできません。

4つの段階と段階ごとの打ち手

Sカーブは導入期・成長期・成熟期・停滞期(衰退期)の4段階に分けて読みます。試験でも「導入期,成長期,成熟期,衰退期,そして次の技術フェーズに移行する」という表現で10回出題されました。段階の判定に使うのは売上や普及率ではなく、曲線の傾き=投資に対する性能の伸びです。

段階 曲線の傾き 投資1単位あたりの成果 打ち手
導入期 ゆるやか 小さい 原理の確立・用途の検証
成長期 最大 最大 量産・シェア獲得へ集中投資
成熟期 鈍り始める 低下 次のSカーブへ投資を振り分け開始
停滞期(衰退期) ほぼ水平 ほとんど無い 追加投資を止め、次の曲線へ移行

実務でむずかしいのは成熟期の判断です。成長期と成熟期は売上だけを見ていると区別がつきません。技術の性能向上と売上の推移は異なる指標であり、技術の伸びが鈍った後にも売上が増える場合があるからです。売上だけで段階を判定すると、技術の改善余地を見誤るおそれがあります。

CPUのクロック周波数に見るSカーブの実例

Sカーブの説明は抽象的になりがちなので、記録が残っている実例で確かめます。C++の専門家ハーブ・サッター(Herb Sutter)が2005年3月に Dr. Dobb’s Journal に寄稿した「The Free Lunch Is Over」は、Intel製CPUの発売時期とクロック周波数を並べ、2003年初め頃から伸びが急に寝たことを示しています。

2003年頃のクロック周波数の伸びの鈍化

サッターの記述によると、Intelのチップは2001年8月に2GHzへ達し、それまでの伸び方が続けば2005年初めには10GHzのPentiumが出ているはずでした。実際には3GHz台で止まり、Intelは4GHz品の投入をまず2005年へ延期し、2004年秋には計画そのものを取りやめています。止まった理由として挙げられているのは、発熱(多すぎて逃がせない)、消費電力、リーク電流という物理的な制約です。投資を続けても周波数が伸びない、つまり曲線が停滞期に入った状態です。

一方で、同じ記事はトランジスタ数は伸び続けているとも書いています。限界に達したのは「クロック周波数で性能を上げる」という技術の曲線であって、半導体の集積そのものではありません。Sカーブを描くときに縦軸を何にするかで、同じ時期でも成熟期にも成長期にも見えるということです。

マルチコアへの移行と並列化による性能向上

サッターは、主要なプロセッサメーカーがクロック周波数を上げる道をあきらめ、ハイパースレッディングとマルチコアへ一斉に向かっていると書きました。マルチコアは当時すでにPowerPCとSPARC IVで製品化されており、IntelとAMDは2005年に投入予定でした。これがフォスターの言う「次のSカーブ」への乗り換えにあたります。

この例から読み取れるのは、コア数を増やしても、アプリケーションの処理性能が同じ倍率で向上するとは限らない点です。サッターは「Myths and Realities」という節で、3GHzのコアを2つ積んでも6GHz相当にはならず、マルチスレッドのアプリケーションの多くもデュアルコアで2倍速くはならないと書いています。しかも当時のアプリケーションの大半はシングルスレッドでした。新しい曲線の性能は、旧技術と同じ指標(ここではシングルスレッドの処理速度)で比べると伸びが小さく見えることがあり、評価の物差しを旧技術のまま据え置くと乗り換えの判断が遅れます。サッターが記事の主題にしたのも、ソフトウェア側が並行処理へ書き換えなければ、ハードウェアの乗り換えの恩恵を受けられないという点でした。

情報処理技術者試験に出る「技術のSカーブ」

「技術のSカーブ」は情報処理技術者試験のストラテジ系で繰り返し問われる用語で、検索結果の上位も過去問解説サイトが占めています。出題は応用情報技術者試験で7回、基本情報技術者試験の本試験で2回、基本情報の修了試験で8回の計17回。出題は3つの型に分かれ、正解はどの型でも「技術の進歩の過程」を表す選択肢です。

修了試験は、IPAの科目A試験免除制度で行われる試験です。IPAは制度を「IPAに認定された講座を受講し、修了試験に合格する(修了認定の基準を満たす)ことによって、基本情報技術者試験の科目A試験が免除される制度」と説明しており、修了試験の問題と解答も同じページで公開しています。本試験と同じ問題が繰り返し使われるため、本試験の受験者にとっても出題傾向を測る材料になります。

出題型1:説明選択型(Sカーブの説明として適切なものはどれか)

応用情報技術者試験の平成22年春期 問69・平成23年秋期 問70・平成26年春期 問71・令和3年春期 問71の4回は、設問文も選択肢も同一です。設問文は「“技術のSカーブ”の説明として,適切なものはどれか。」で、正解はイです。

  • ア(ハイプ・サイクル)技術の期待感の推移を表すものであり,黎明期,流行期,反動期,回復期,安定期に分類される。
  • イ(正解・技術のSカーブ) 技術の進歩の過程を表すものであり,当初は緩やかに進歩するが,やがて急激に進歩し,成熟期を迎えると進歩は停滞気味になる。
  • ウ(経験曲線)工業製品において生産量と生産性の関係を表すものであり,生産量の累積数が増加するほど生産性は向上する傾向にある。
  • エ(バスタブ曲線)工業製品の故障発生の傾向を表すものであり,初期故障期間では故障率は高くなるが,その後の偶発故障期間での故障率は低くなり,製品寿命に近づく摩耗故障期間では故障率は高くなる。

出題型2:用語選択型(技術進化過程を表すものはどれか)

最も多いのは逆向きの出題で、17回中10回がこの型です。「技術は,理想とする技術を目指す過程において,導入期,成長期,成熟期,衰退期,そして次の技術フェーズに移行するという進化の過程をたどる。」という文に続けて、その技術進化過程を表す用語を選ばせます。選択肢はア 技術のSカーブ/イ 需要曲線/ウ バスタブ曲線/エ ラーニングカーブで、正解はアです。

設問文の末尾は回によって少し違います。応用情報の3回(平成23年特別 問69・平成24年秋期 問70・平成28年春期 問70)と修了試験の平成26年6月 問70は「この技術進化過程を表すものとして,適切なものはどれか。」、基本情報の平成30年秋期 問70と令和2年6月以降の修了試験は「この技術進化過程を表すものはどれか。」です。選択肢と正解は同じなので、解き方は変わりません。

出題型3:誤答肢が入れ替わる型(基本情報系の3回)

基本情報技術者試験の平成28年秋期 問70と、修了試験の平成30年6月 問70・令和元年12月 問69は、設問文こそ型1と同じ「“技術のSカーブ”の説明として,適切なものはどれか。」ですが、誤答肢が丸ごと別物です。正解はイ。ハイプ・サイクルも経験曲線も別の言い回しで登場するため、型1の選択肢を丸暗記していると足をすくわれます。

  • ア 新しい技術の普及過程を示すものであり,その技術を応用した製品が市場に浸透すると,普及率の伸びが徐々に減少していくことを度数分布曲線で示す。(基本情報技術者試験ドットコムの解説では成長曲線・ロジスティック曲線の説明とされています)
  • イ(正解・技術のSカーブ) 技術の進歩の過程を示すものであり,当初は緩やかに進歩するが,やがて急激に進歩し,その後,緩やかに停滞していく過程を示す。
  • ウ(ハイプ曲線)技術の成熟過程を示すものであり,新技術が実際に普及するまでの間,時間経過とともに変化する認知度の推移を示す。
  • エ(経験曲線)生産量と単位コストの関係を示すものであり,累積生産量が増加するに従い,単位コストが減少する過程を示す。

誤答肢に登場する曲線の縦軸・横軸の比較

誤答肢に並ぶ曲線は、縦軸と横軸の組み合わせで判別します。形だけで見分けようとすると失敗します。ラーニングカーブもS字を描くことがあるからです。

曲線 縦軸 横軸 グラフの形
技術のSカーブ 技術進歩の度合い 投資した費用・期間 S字
ラーニングカーブ(学習曲線) 習熟度 学習・練習に費やした労力 指標・課題によって異なる(S字の場合もある)
ハイプ・サイクル(ハイプ曲線) 期待度・認知度 時間 急峰の後に谷、再上昇
経験曲線 単位あたりコスト/生産性 累積生産量 コストは右下がり、生産性は右上がり
バスタブ曲線(故障率曲線) 故障率 使用時間 U字(浴槽型)
需要曲線 販売価格 需要数量 右下がり

特に注意すべきはラーニングカーブです。基本情報技術者試験ドットコムの平成30年秋期 問70の解説は「初期はあまり習熟度が上がらず、ある時点を過ぎると急激に伸び、やがて習熟の限界近くに達してあまり伸びなくなるのでS字になります」と説明しています。S字を描くのはSカーブだけ、という覚え方は出題型2でそのまま誤答につながります。分けるのは「何が伸びるか」で、技術の性能ならSカーブ、人の習熟度ならラーニングカーブです。

経験曲線にも言い換えがあります。型1のウは「生産量が増えるほど生産性が向上する」(右上がり)、型3のエは「累積生産量が増えるほど単位コストが減少する」(右下がり)と、同じ曲線を逆向きの指標で書いています。どちらも経験曲線です。

ハイプ・サイクルは、試験の選択肢とガートナーの公式資料で段階名が異なります。試験の選択肢は「黎明期,流行期,反動期,回復期,安定期」ですが、提唱元であるガートナー社の日本語表記は「黎明期」「『過度な期待』のピーク期」「幻滅期」「啓発期」「生産性の安定期」です。一致するのは第1段階の「黎明期」だけです。試験の選択肢を覚えたまま実務の資料を読むと語が噛み合いません。

全17回の出題一覧と正解

確認できた出題は次の17回です。平成22年から令和7年まで、複数の年度・試験区分で繰り返し問われています。修了試験の回は実施年月で示しました。修了試験は、IPAが公開している問題PDF(平成21年6月から令和8年7月までの71回分)をすべて照合した結果です。最新の出題は令和7年6月8日実施の修了試験の問52です。その後に公開された令和7年7月から令和8年7月までの5回には出ていません。

試験区分 実施回 問番号 出題型 正解
応用情報 平成22年春期 問69 型1 イ
応用情報 平成23年特別 問69 型2 ア
応用情報 平成23年秋期 問70 型1 イ
応用情報 平成24年秋期 問70 型2 ア
基本情報 修了試験 平成26年6月 問70 型2 ア
応用情報 平成26年春期 問71 型1 イ
応用情報 平成28年春期 問70 型2 ア
基本情報 平成28年秋期 問70 型3 イ
基本情報 修了試験 平成30年6月 問70 型3 イ
基本情報 平成30年秋期 問70 型2 ア
基本情報 修了試験 令和元年12月 問69 型3 イ
基本情報 修了試験 令和2年6月 問69 型2 ア
応用情報 令和3年春期 問71 型1 イ
基本情報 修了試験 令和3年12月 問69 型2 ア
基本情報 修了試験 令和5年7月 問52 型2 ア
基本情報 修了試験 令和6年7月 問52 型2 ア
基本情報 修了試験 令和7年6月 問52 型2 ア

令和5年以降の修了試験で問番号が52に下がったのは、基本情報技術者試験が2023年4月から科目A(60問)・科目B(20問)の構成に変わり、修了試験も科目Aに合わせた問題数になったためです。応用情報で最後に出たのは令和3年春期ですが、基本情報系では令和7年まで出題が続いており、「古い用語なのでもう出ない」とは言えません。

科目A・科目Bへの移行と過去問の読み替え

過去問に付いている「午前」という表記は、現行制度には残りません。基本情報技術者試験は2023年4月から通年のCBT方式へ移行し、出題区分が科目A(90分・60問)と科目B(100分・20問)に変わりました。平成30年秋期の問題は旧制度の午前問題であり、現在の科目Aに相当します。

応用情報技術者試験も同じ流れにあります。令和8年度(2026年度)からCBT方式へ移行し、春期・秋期の年2回は「前期試験」「後期試験」の実施期間制に変わります。IPAの令和8年度の申込受付期間及び試験実施期間(2026年9月17日更新)によれば、応用情報の前期試験は科目Aが2026年10月28日〜11月10日、科目Bが11月24日〜12月6日、後期試験は科目Aが2027年2月6日〜19日、科目Bが3月3日〜15日の実施です。応用情報の午前試験・午後試験は、それぞれ科目A試験・科目B試験になります。高度試験と情報処理安全確保支援士試験の午前Ⅰ・午前Ⅱは、科目A-1・科目A-2になります。

リチャード・フォスターの理論と限界の見極め

この曲線を経営の意思決定に持ち込んだのが、マッキンゼー・アンド・カンパニーのシニアパートナーだったリチャード・N・フォスターです。1986年の著書『Innovation: The Attacker’s Advantage』で、既存技術が限界に達してから動くのでは遅く、限界に近づく前に次のSカーブへ資源を移すべきだと論じました。既存技術に最適化した企業ほど乗り換えが遅れ、後発の攻め手に抜かれるという主張です。

クリステンセンとの区別

フォスターの著書として『イノベーションのジレンマ』を挙げる説明を見かけますが、これは誤りです。『イノベーションのジレンマ』(原題 The Innovator’s Dilemma)はクレイトン・クリステンセンが1997年に著した別の本。フォスター自身の2冊目の主著は2001年の『Creative Destruction』(邦訳『創造的破壊』)で、こちらはサラ・カプランとの共著です。

両者は主張の向きも違います。フォスターは「技術には限界があるので次の曲線へ移れ」と説き、クリステンセンは「優良企業ほど既存顧客の声に忠実であるがゆえに、性能で劣る破壊的技術を合理的に見送ってしまう」と論じました。前者の主題は技術の限界、後者は組織と顧客の構造。詳しくはイノベーションのジレンマとは?わかりやすく解説|原論文の実証データと事例、「破壊的」の見分け方で扱っています。

技術の限界を疑う指標と投資対効果の測定

限界の判定に使えるのは、性能の絶対値ではなく投資対効果です。研究開発費を増やしても性能向上の幅が縮む状態は、限界を疑う手掛かりになります。ただし、研究成果が出るまでの時間差や開発方針の変更も確認が必要です。売上・シェア・利益だけでは技術の限界を判定できないため、性能向上と研究開発への投入量を直接確認します。

Sカーブを投資判断に使う場合、現状の段階を説明するだけでは判断材料が足りません。停滞期に入ったことは誰の目にも明らかになってから分かるからです。性能の改善余地と、代替技術へ移る費用を併せて比較します。運用例として、投資額あたりの性能向上を継続的に記録し、低下が続いた時点で代替技術との比較を始める方法があります。低下だけを理由に、既存技術への投資を打ち切るべきではありません。比較を始める閾値(「2期連続」など)は自社の開発サイクルに合わせて決め、判断基準を数字で先に固定しておきます。

グラフの読み方と変曲点

Sカーブのグラフで実務家が見るのは、曲線そのものではなく傾きの変化です。傾きが増加から減少へ転じる点を変曲点(インフレクションポイント)と呼びます。滑らかな典型的S字曲線では、2階微分の符号が正から負へ変わる点にあたり、横軸1単位あたりの増分、つまり傾きが最大になります。

直感に反しますが、変曲点は好調のピークではありません。ここを過ぎた瞬間から成長の勢いは落ち続けます。売上や利用者数はその後もしばらく増え続けるため、社内の空気は最も強気になっている頃です。次の投資を決めるべきタイミングと、社内が最も現状維持に傾くタイミングが重なる。ここがSカーブの実務上の難所です。

複数の曲線を重ねて描く場合、次のカーブは前のカーブの停滞期ではなく成熟期の途中から立ち上がるように配置します。新技術が既存技術の性能を追い越すまでには時間がかかるため、既存が完全に頭打ちになってから着手すると空白期間が生まれるからです。CPUの例でも、マルチコアの製品化はクロック周波数の伸びが止まる前から進んでいました。

工程管理のSカーブと累積出来高・コストの比較

建設やシステム開発の進捗管理でもSカーブという語が使われますが、これは技術のSカーブとは無関係です。工程管理のSカーブは累積の出来高や累積コストを縦軸、工期を横軸にとったもので、着手直後と終盤は進みが遅く中盤で加速するため、結果的にS字になります。

用途も違います。技術のSカーブが「次の技術へ移るタイミング」を判断する道具であるのに対し、工程管理のSカーブは計画線と実績線の乖離を見るための道具。累積出来高を比較する場合、実績が計画を下回れば進捗の遅れ、上回れば進捗の先行を示します。実コストの上下だけでは、進捗の遅速は判断できません。EVM(アーンドバリューマネジメント)で計画値・出来高・実コストの3本を重ねるのも同じ考え方で、システム開発での使い方はシステム開発のプロジェクト管理とは?進め方・QCDと工程/品質/リスク管理と発注側の役割【2026年版】で扱っています。同じ「Sカーブ」でも、片方は技術戦略、もう片方は進捗統制の用語だと切り分けてください。

普及曲線・プロダクトライフサイクルとの違い

S字を描くモデルは複数あり、試験でも実務でも取り違えが起きます。区別の鍵は、縦軸に何が積み上がっているかです。

モデル 曲線が示すもの 主な関心事
技術のSカーブ 技術の性能 技術の限界と乗り換え時期
イノベーター理論(普及曲線) 採用者の累積比率 誰がいつ採用するか
プロダクトライフサイクル 製品の売上 製品ごとの投資と撤退
キャズム理論 採用者比率(初期市場と主流市場の断絶) 普及が止まる地点の突破

特に混同しやすいのがイノベーター理論とは?ロジャーズの5分類と割合の根拠、普及を左右する5つの属性で扱う普及曲線です。普及曲線の縦軸は採用者の累積比率であり、技術の性能ではありません。技術が限界に達していても普及はまだ進行中、という状態はふつうに起こります。型3で誤答肢アに置かれた「普及率の伸びが徐々に減少していくことを度数分布曲線で示す」も、技術の性能ではなく普及を扱う曲線として区別されたものです。

売上の推移で段階を区切るプロダクトライフサイクルとも、指標が異なるため段階の切れ目がずれます。普及が一定比率を超えると自律的に広がり始める点はクリティカルマスとは?普及率16%の出典と10〜20%説・ジェンダー30%・臨界質量の違いで、初期市場と主流市場の断絶を実際に超えた製品の例はキャズムを超えた製品の事例とは?超え方と超えられなかった失敗例を解説で整理しています。

よくある質問

技術のSカーブとは何ですか?

ひとつの技術の進歩の過程を表した曲線です。当初は緩やかに進歩し、やがて急激に進歩し、成熟期を迎えると進歩は停滞気味になります。縦軸に技術進歩の度合い、横軸に投資した費用や期間をとると曲線が「S」に似た形になることが名前の由来です。

S字カーブの4つの段階とは何ですか?

導入期・成長期・成熟期・停滞期(衰退期)の4段階です。導入期は傾きがゆるやかで投資対効果が小さく、成長期に傾きが最大となり、成熟期で鈍り始め、停滞期にはほぼ水平になります。段階の判定は売上ではなく、投資に対する性能の伸びで行ってください。

技術のSカーブの具体例はありますか?

CPUのクロック周波数が代表例です。Intelのチップは2001年8月に2GHzへ達しましたが、2003年頃から伸びが止まり、Intelは2004年秋に4GHz品の計画を取りやめました。発熱・消費電力・リーク電流という物理的な制約が限界となり、性能向上の軸はマルチコアという次の曲線へ移っています。

技術のSカーブは誰が提唱したのですか?

経営理論として広めたのは、マッキンゼー・アンド・カンパニーのシニアパートナーだったリチャード・N・フォスターです。1986年の著書『Innovation: The Attacker’s Advantage』で、既存技術が限界に達する前に次のSカーブへ移るべきだと論じました。『イノベーションのジレンマ』はクリステンセンの著書で、フォスターの本ではありません。

シグモイド曲線と技術のSカーブは違うものですか?

別物です。シグモイド曲線は1838年のフェルフルストのロジスティック方程式に由来する数学の関数で、数式で定義されます。技術のSカーブは経営判断のために現象を単純化した記述的モデルで、特定の数式は定められていません。数式で近似して性能を予測することはできますが、観測データへの適合と、性能上限などの仮定の検証が必要です。

情報処理技術者試験ではどう出題されますか?

平成22年から令和7年までに計17回出ています。内訳は応用情報7回・基本情報の本試験2回・基本情報の修了試験8回です。Sカーブの説明を選ばせる型(4回・正解イ)、導入期から衰退期への技術進化過程を表す用語を選ばせる型(10回・正解ア)、設問文は同じでも誤答肢が入れ替わる型(3回・正解イ)の3つに分かれます。

S字を描く曲線はSカーブだけですか?

いいえ。ラーニングカーブ(学習曲線)もS字を描くことがあります。横軸に学習や練習に費やした労力、縦軸に習熟度をとると、初期は伸びず、ある時点から急に伸び、習熟の限界近くで鈍る形になる場合です(指標や課題によっては右下がりのべき関数などで表されます)。工程管理の累積出来高曲線やシグモイド曲線もS字になります。形ではなく、縦軸に何を取っているかで見分けてください。

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