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原価割れとは?意味・言い換えと計算例、不当廉売として違法になる基準

原価割れとは?意味・言い換えと計算例、不当廉売として違法になる基準

原価割れとは、販売価格が商品の原価を下回ることです。取引1件ごとに原価との差額だけ損をする状態を指す言葉で、それ自体は違法を意味しません。ただし「どの原価を割っているか」で意味が変わります。仕入値を割るのか、販売費や本社経費まで含めた総額を割るのかで、経営上の評価も独占禁止法上の扱いも別物になるからです。この記事では、言い換え表現、計算例、会計処理、そして不当廉売として違法になる基準を、公正取引委員会と国税庁の一次資料で整理します。

まとめ:原価割れの意味と違法になる条件

  • 原価割れ=販売価格が原価を下回ること。言い換えは採算割れ、赤字販売、投げ売り、出血販売など。廉売は「安く売る」だけで、原価割れを含意しません。
  • 割っている原価は3段階ある。仕入原価(または製造原価)、総販売原価(仕入原価に販売費及び一般管理費を足したもの)、可変的性質を持つ費用です。仕入原価を上回っていても、総販売原価を割れば赤字販売です。
  • 原価割れは原則として違法ではない。公正取引委員会のガイドラインは、総販売原価を下回っても供給を続けた方が損失が小さくなるなら、その価格は合理的だとしています。
  • 違法の分水嶺は可変的性質を持つ費用。この費用以上の価格は法定不当廉売に該当しません。下回り、かつ継続性、他社の事業活動を困難にさせるおそれ、正当な理由の欠如がそろうと違法になり得ます。
  • 実際の行政対応は「注意」が中心。令和7年度の不当廉売は注意159件(うち石油製品124件)に対し、警告は1件でした。酒類には国税庁の別基準があり、総販売原価割れの継続販売が対象です。

原価割れの意味と言い換え表現

原価割れは「原価」と「割れ」の複合語です。デジタル大辞泉は「割れ」に「ある数量以下になること」という意味を挙げ、用例に「額面割れ」「定員割れ」を載せています。原価割れも同じ構造で、販売価格が原価という基準額を下回ることを指します。

どの原価を割っているかで変わる3段階

小売なら仕入値、製造業なら製造原価を基準に原価割れと言うのが典型です。一方、会計や法律で問題にする原価は1つではありません。

基準にする原価 中身 割ったときの意味
仕入原価・製造原価 仕入価格+運送費等、または製造費用 粗利がマイナス
可変的性質を持つ費用 その商品を売らなければ発生しない費用 売るほど損失が拡大する
総販売原価 仕入原価・製造原価+販売費及び一般管理費 その商品の配賦後損益が赤字

総販売原価と可変的性質を持つ費用は、公正取引委員会の不当廉売に関する独占禁止法上の考え方(以下、ガイドライン)が使う概念です。ガイドラインの注2は総販売原価を、製造業なら製造原価に販売費及び一般管理費を加えたもの、販売業なら仕入原価に販売費及び一般管理費を加えたものと定義しています。ここでの製造原価は、製造原価報告書の当期製品製造原価ではなく「当該廉売によって販売された製品の製造に要した費用の合計額」です。決算書の数字をそのまま当てはめると基準がずれます。

原価割れの言い換えと使い分け

言い換え表現は、状態を表す語と行為を表す語、法的評価を含む語に分かれます。語義はコトバンク収録の小学館デジタル大辞泉と精選版日本国語大辞典によります。最も近い同義語はコスト割れで、精選版日本国語大辞典は「商品の販売価格が、生産価格または仕入れ価格よりも安くなること」と説明しています。

表現 辞書・用語集の語義 原価割れとの違い
コスト割れ 売り値が原価を下回ること 同義。最も置き換えやすい
採算割れ 市価が原価以下に下落し採算がとれなくなること ほぼ同義。市況が原因の含み
赤字販売 (複合語) 総販売原価割れを指すことが多い
出血販売・出血サービス 出血=損害をこうむること 損を承知で行う意図を含む
投げ売り 損を承知で、安値で売ること 在庫処分などの行為を指す
捨て値 損得を無視した安い値段 価格そのものを指す
廉売 商品を安い値段で売ること。安売り 原価を割るとは限らない
逆ざや(逆鞘) 本来あるべき差が逆転していること 相場・金利・保険で使う語
ダンピング 採算を無視した低い価格で投げ売りすること。不当廉売 一般語だが不当廉売の意味を含む
不当廉売 独占禁止法上の不公正な取引方法の一類型 違法との評価を含む法律用語

社内の報告や会議資料なら「採算割れ」「原価割れ」が無難です。「不当廉売」は違法との評価を含む法律用語で、「ダンピング」も辞書の語義に不当廉売を含みます。取引先や競合の価格を指して使うと違法の疑いを示唆する表現として受け取られることがあるため、事実を伝える文書では「原価割れ」「採算割れ」のように状態を表す語を選ぶ方が誤解を生みません。英語では selling below cost、sell at a loss が対応し、プログレッシブ和英中辞典も「出血販売する」の訳に sell below cost を挙げています。小売の「見切り販売」は期限や季節を過ぎた商品の値下げで、原価を割る場合も割らない場合もあります(不当廉売の正当な理由との関係は後述)。

単価割れ・廉売との違い

単価割れは、基準をどこに置くかで意味が変わる語です。単価は商品などの1個当たり、または1単位当たりの値段で、字義どおりには単価が何らかの基準を下回ることを指します。基準が1個当たりの原価なら原価割れと同じですが、例えば契約単価や前年の単価を下回っただけなら、原価割れとは限りません。文書で使うときは「仕入単価割れ」「契約単価割れ」のように基準を書き添えると誤解がありません。数量割引で1個当たりの売価が下がっても、原価を上回っていれば原価割れではありません。

廉売も同じで、安く売ることを指すだけです。ガイドラインは「価格の安さ自体を不当視するものではないことは当然であるが、逆に価格の安さを常に正当視するものでもない」と書き、規制対象を「採算を度外視した低価格によって顧客を獲得しようとする」場合に絞っています。

原価割れの計算例と3つの原価での判定

原価割れかどうかは、売価をどの原価と比べるかで答えが変わります。次の設例で、1つの商品の売価を3通りに変えて判定します。

設例:仕入原価88円・可変費90円・総販売原価110円の商品

小売店が仕入価格80円の商品を継続して仕入れ、運送費と検収費が1個当たり8円かかるとします。仕入原価は88円です。販売1個ごとにカード決済手数料や配送資材などが2円かかり、売らなければ発生しない費用(可変的性質を持つ費用)は90円になります。人件費、店舗家賃、本社経費などは販売数量で増減しない費用とし、売上高比で配賦すると1個当たり20円、総販売原価は110円です(比較のため配賦額は固定します)。配賦の考え方は配賦とは?読み方・按分との違いと配賦基準の選び方、階梯式配賦法の計算例で詳しく扱っています。

売価 粗利(売価−仕入原価) 可変費との差 総販売原価との差 判定
120円 +32円 +30円 +10円 原価割れではない
100円 +12円 +10円 −10円 総販売原価割れ(赤字販売)
85円 −3円 −5円 −25円 仕入原価割れ・可変費割れ

1個当たりの原価割れ額は「原価−売価」、原価率は「原価÷売価×100」で求めます。売価100円なら総販売原価に対して10円の原価割れで、原価率は110パーセントです。売価85円なら仕入原価だけで原価率は約103.5パーセントになります。原価率の計算式を表計算で組む方法はエクセルで原価計算する方法|原価率・売上原価の計算式と崩れない表の設計にまとめています。

売価100円と85円の違い:可変費との差額と損失への影響

売価100円は総販売原価を割っていますが、1個売るごとに可変的性質を持つ費用を10円上回ります。この設例の配賦20円は売っても売らなくても発生する費用なので、販売をやめると10円の回収もなくなります。ガイドラインはこの状況を想定し、「総販売原価を下回っていても、供給を継続した方が当該商品の供給に係る損失が小さくなるときは、当該価格で供給することは合理的である」と書いています。

売価85円は事情が逆です。1個売るごとに5円の損失が増え、売れば売るほど赤字が拡大します。ガイドラインは「商品の供給が増大するにつれ損失が拡大するような価格設定行動は、特段の事情がない限り、経済合理性のないもの」としています。法定不当廉売の価格・費用基準で問題になるのは、この線を割ったときです。ただし市場シェアの高い事業者の大量の廉売などは、この線より上の価格でも不公正な取引方法第6項で問われることがあります(後述)。

原価割れが起きる原因と、続けてよい条件

原価割れは、意図して起きる場合と結果として起きる場合に分かれます。意図的なものは目玉商品で集客するロスリーダー、新規顧客の獲得、市場シェアの拡大です。結果として起きるものは、原材料や仕入価格の高騰に価格改定が追いつかない場合、需要予測を外して在庫が積み上がった場合、季節や期限を過ぎた商品を処分する場合です。

損益面の判断は、原因よりも上の設例のどちらに当たるかで分かれます。売価100円のように、仕入原価に販売のたびに増える費用(決済手数料、配送費、倉庫費など)を足した可変費90円を上回る原価割れは、固定費の一部を回収しているので短期的には合理的です。適法かどうかは損益とは別に、後述の要件で判断します。ただし長く続ければ総販売原価を回収できず、利益が出ない構造が固定化します。値下げで販売数量がどれだけ増えれば利益が増えるかは価格弾力性とは?計算式・中点法の求め方と高い商品・低い商品の例、値下げで利益が出る目安で計算できます。売価85円のように可変費まで割る価格は、期限の接近や瑕疵など明確な理由があり、期間を区切れる場合に限るのが原則です。

原価割れで販売するとどうなるか:在庫の評価損

原価割れで売ると、その取引で売上総利益または営業利益がマイナスになります。影響は売った時点だけではありません。通常の販売目的で保有する在庫が期末に残り、正味売却価額が取得原価を下回る場合は、原則として決算で帳簿価額を切り下げます。比べるのは取得原価なので、総販売原価を割る売価でも、正味売却価額が取得原価以上なら評価損は出ません。

企業会計基準委員会の企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」第7項は、通常の販売目的で保有する棚卸資産について「期末における正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とする。この場合において、取得原価と当該正味売却価額との差額は当期の費用として処理する」と定めます。正味売却価額は、売価から見積追加製造原価と見積販売直接経費を控除した額です(第5項)。営業循環過程から外れた滞留在庫や処分見込みの在庫で合理的な価額の算定が困難な場合は、処分見込価額まで切り下げる方法や、一定の回転期間を超えたら規則的に切り下げる方法も認められています(第9項)。

切り下げた額は、第17項により原則として売上原価に含めます。棚卸資産の製造に関連し不可避的に発生すると認められるときは製造原価とし、臨時の事象に起因し、かつ多額であるときは特別損失に計上します。原価割れの値下げを決めた商品が期末に残る場合は、値下げ後の売価から正味売却価額を見積もり、取得原価と比べて評価損の要否を判定します。評価損の仕訳と税務上の扱いは正味売却価額とは?計算式と見積販売直接経費の範囲、商品評価損の仕訳・税務の扱いを基準の条文で解説で扱っています。

原価割れが違法になる条件:法定不当廉売と不公正な取引方法第6項

原価割れという言葉は独占禁止法の条文に出てきません。条文が使うのは「供給に要する費用」で、違反類型は2つあります。

独占禁止法第2条第9項第3号と一般指定第6項の二層構造

法定不当廉売は独占禁止法第2条第9項第3号が定めます。条文は「正当な理由がないのに、商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給することであつて、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの」です。不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)第6項は、これに該当する行為のほか「不当に商品又は役務を低い対価で供給し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること」を定めています。両者は重ねて適用されず、第6項が働くのは、法定不当廉売の価格・費用基準か継続性を満たさない場合です。

可変的性質を持つ費用の判定

可変的性質を持つ費用は「廉売対象商品を供給しなければ発生しない費用」です。ガイドラインは、これを下回る価格は「供給に要する費用を著しく下回る対価であると推定される」とし、これ以上の価格での供給は「法定不当廉売に該当することはない」と明記しています。判定の観点は、供給量の変化に応じて増減する費用か、供給と密接な関連性を有する費用かの2つで、費用項目ごとに断定と推定が書き分けられています。

費用項目 可変的性質を持つ費用か
製造直接費(直接材料費・直接労務費・直接経費)、仕入価格 該当する
製造原価の全体、仕入原価(仕入価格+運送費・検収費等) 該当すると推定
倉庫費・運送費・掛売販売集金費 該当する
広告費・市場調査費・接待費 該当しないと推定
本社人事部・経理部の人件費・交通費・通信費 該当しない

広告費でも、発売前に集中的に支出した宣伝広告費のように供給の開始や継続に不可避なものは該当します。仕入価格は名目額でなく、値引き、リベート、現品添付を考慮した実質的な仕入価格で判断されます。上の設例では90円がこの線に当たり、売価85円はこれを下回ります。製品別の費用を集める方法は製造業の原価管理とは?標準原価と差異分析・BOM連携で製品別原価を掴む進め方で扱っています。

第6項で問題になる価格帯

不公正な取引方法第6項で判断する場合、ガイドラインは「廉売対象商品の供給と関連のある費用(製造原価又は仕入原価及び販売費)を下回っているかどうかを考慮する」としています。一般管理費を除いた費用です。第6項は可変的性質を持つ費用を下回る単発の供給も対象になり得るため、中間の価格帯だけの規制ではありません。例として挙がるのは、市場シェアの高い事業者が継続して大量に廉売する場合と、他の事業者にとって経営上重要な商品を集中的に廉売する場合です。シェアの大きい事業者は、可変的性質を持つ費用を上回る価格でも安全圏とは言えません。

継続性・事業活動を困難にさせるおそれ・正当な理由

価格・費用基準を割っても、残りの要件で違法性は変わります。

週末限定の廉売と継続性の判断

「継続して」は「相当期間にわたって繰り返して廉売を行い、又は廉売を行っている事業者の営業方針等から客観的にそれが予測されること」です。ガイドラインは毎日続くことを必ずしも要せず、「毎週末等の日を定めて行う廉売であっても、需要者の購買状況によっては継続して供給しているとみることができる場合がある」としています。特売日に限れば安全という理解は成り立ちません。

事業活動を困難にさせるおそれの判断材料

現に他社の事業が困難になっている必要はなく、そうなる具体的な可能性が認められれば足ります。判断材料は、他の事業者の実際の状況、廉売行為者の事業の規模と態様、廉売対象商品の数量、廉売期間、広告宣伝の状況、商品の特性、廉売行為者の意図・目的です。意図・目的は判断材料の1つであり、「他社を排除する目的」が無ければ不当廉売にならないという要件ではありません。

正当な理由と、公取委の相談事例

ガイドラインは正当な理由の例として、需給関係から販売価格が低落している場合や、原材料の再調達価格が取得原価より低くなっている場合に市況へ対応して低い価格を設定したときを挙げます。注10は、生鮮食料品や季節商品の見切り販売、きず物・はんぱ物など瑕疵のある商品の相応の低価格も正当な理由に当たるとしています。

具体例として、公正取引委員会の相談事例集に大量の在庫品の原価割れ販売があります。日用品を扱う大規模小売業者が、使用期限約2年の季節商品を需要予測の誤りで大量に抱え、約3か月の需要期に仕入原価を大幅に下回る価格で売ることを検討した事案です。公正取引委員会は「供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給」に当たると認めたうえで、同程度の価格で売る事業者が多数現れていること、通常の販売方法では使用期限内に売れる見込みがないことから正当な理由があるとし、問題ないと回答しました。在庫処分なら何でも許されるのではなく、期限と市況という客観的な事情が理由として認められている点が重要です。

違反した場合の措置と行政対応の実態

課徴金は10年以内の再違反が要件

行政上の措置は排除措置命令(第20条)と課徴金納付命令(第20条の4)です。課徴金は違反行為期間の売上額の3パーセントですが、調査開始日から遡り10年以内に、自社または命令の日において完全子会社であった会社が法定不当廉売に係る命令を受け、それが確定していることが要件で、算定額が100万円未満なら納付を命じられません。自社と完全子会社のいずれにもこの処分歴がなければ、初回の違反では課徴金が出ない構造です。これに対し優越的地位の濫用は、第20条の6により「継続してするもの」であれば初回から売上額等の1パーセントの課徴金対象になります。

被害を受けた事業者は、第24条の差止請求(「著しい損害」が要件)と第25条の損害賠償(無過失責任)を使えます。ただし第26条により、第25条の請求は排除措置命令等の確定後でなければ裁判上主張できず、確定日から3年で時効により消滅します。注意で終わった事案では使えません。

令和7年度は注意159件、警告1件

公正取引委員会が令和8年6月8日に公表した令和7年度における独占禁止法違反事件の処理状況によると、酒類、石油製品、家庭用電気製品等の小売業に係る不当廉売の申告に対し、迅速処理(原則2か月以内)で159件の注意が行われました。

区分 酒類 石油製品 家電製品 その他 合計
令和7年度の注意件数 7 124 0 28 159

不当廉売の警告は1件で、京都府福知山市の給油所が令和7年7月1日から8月31日までのうちの一定期間、レギュラーガソリンを供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給した疑いにより、令和8年2月19日に警告を受けています。公表文は2か月間のうちの「一定期間」とだけ書いており、短い期間の廉売でも継続性が問題にされ得ます。公正取引委員会は繰り返し注意を受けた事業者への対応も強め、複数の給油所を運営する場合は本社の責任者に注意し、注意後の販売価格や仕入価格の報告を求めるフォローアップ調査を行っています。

業種別の指針と、酒類に適用される国税庁の基準

一般のガイドラインに加え、酒類、ガソリン等(令和4年11月11日)、家庭用電気製品の3本の業種別指針があります。ガソリン等の指針はクレジットカード決済手数料を可変的性質を持つ費用と推定し、本社人事部や経理部の人件費などは「総販売原価には含まれる」と明示します。年度末等に事後的に額が判明するリベートは、酒類・ガソリン等とも実質的仕入価格から差し引けません。

酒類の総販売原価基準と賞味期限の扱い

酒類には、国税庁の酒類の公正な取引に関する基準(平成29年3月31日国税庁告示第2号、最終改正令和4年3月31日)があります。正当な理由なく「売上原価の額と販売費及び一般管理費の額との合計額」(総販売原価)を下回る価格で継続して販売し、かつ自己または他の酒類業者の酒類事業に相当程度の影響を及ぼすおそれがある取引を禁じています。基準の水準が可変的性質を持つ費用でなく総販売原価なので、設例の売価100円のように法定不当廉売には該当しない価格でも、酒類では基準に触れ得ます。違反には国税庁長官の指示や命令があります。

国税庁の基準に関するQ&A問16は、賞味期限までの期間が短くなった商品は「賞味期限までの期間等に応じて相応の値引き率を設定するなど、合理的な見切り販売と認められるときに限り」正当な理由に当たるとします。問17は、在庫管理の観点からの旧商品の売りつくし、商品の入れ替えに伴う余剰在庫の販売、新商品発売前の旧商品の販売、店舗改装による一時閉鎖を理由とする売りつくしを、正当な理由に該当しない例として挙げています。法令解釈通達1の(4)は、週末などに銘柄を変えて販売しても一連の販売行為として継続性に当たり得るとしています。

価格設定の根拠を記録する方法と、買う側の原価割れ規制

配賦基準と値下げ理由の記録

ガイドラインは、販売費及び一般管理費のように複数の事業に共通する費用について、実情に即して合理的に選択した配賦基準を用いていれば、その基準で総販売原価を算定するとしています。酒類の通達は合理的な配賦方法の例に売上高比、仕入高比、売場面積比、作業従事時間数比を挙げます。配賦基準の選択理由と計算過程を残し、値下げの起案には対象商品、理由の区分(市況の低落、原材料価格の変動、期限の接近、瑕疵)、値引き率の根拠、実施期間を書く欄を設けてください。国税庁のQ&A問16も、値下げの条件や引下げ幅を事前に内規で定めておくことが正当な理由の客観性を確保する手段だとしています。製品別・案件別の原価を日常的に集計する仕組みが無い場合は、原価管理システム開発で費用の集計と配賦をシステム化する方法があります。

建設業法・取適法による低価格取引の規制

買う側が原価を下回る価格を押し付ける場面には、別の法律が働きます。建設工事では建設業法第19条の3第1項が、注文者が取引上の地位を不当に利用して通常必要と認められる原価に満たない請負代金で契約することを禁じ、2025年12月12日施行の同条第2項は、国土交通省令で定める正当な理由がある場合を除き、受注する建設業者自身にも、通常必要と認められる原価に満たない金額での請負契約を禁じています。詳細は建設業法の改正で何が変わったか|見積・契約・原価システムの改修項目に翻訳で扱っています。取適法の対象となる製造委託などでは、2026年1月1日施行の中小受託取引適正化法(取適法)が、買いたたきや、中小受託事業者から協議を求められても応じずに一方的に代金を決定することを禁じます。委託側の義務は下請法とは?システム開発の委託で押さえる4義務・11禁止行為と2026年改正(取適法)で整理しました。加えて、取引上の地位が優越する事業者が低価格での納入を強要する行為は、独占禁止法の優越的地位の濫用(第2条第9項第5号)に該当するおそれがあると、ガイドライン自身が書いています。売る側の価格設定は不当廉売、買う側の圧力は優越的地位の濫用とこれらの法律、と立場で切り分けて検討してください。

よくある質問

原価割れは違法ですか?

原価割れそのものは違法ではありません。独占禁止法の法定不当廉売に当たるのは、可変的性質を持つ費用(その商品を売らなければ発生しない費用)を下回る価格での継続的な供給で、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあり、正当な理由がない場合です。可変的性質を持つ費用以上で総販売原価を下回る程度の原価割れは、法定不当廉売には該当しません。ただし市場シェアの高い事業者の大量の廉売は、不公正な取引方法第6項に当たることがあります。

原価割れで販売するとどうなりますか?

その取引の利益がマイナスになります。通常の販売目的で保有する在庫が期末に残り、正味売却価額が取得原価を下回る場合は、原則として正味売却価額まで帳簿価額を切り下げ、差額を当期の費用として処理します(企業会計基準第9号第7項)。法的には、正当な理由なく可変的性質を持つ費用を下回る価格で継続し、他社の事業活動を困難にさせるおそれがあれば、公正取引委員会の注意や警告の対象になり得ます。

賞味期限が近い酒を原価割れで売るのは問題ありませんか?

酒類には国税庁の取引基準があり、正当な理由なく総販売原価を下回る価格で継続して販売し、自己または他の酒類業者の酒類事業に相当程度の影響を及ぼすおそれがある取引が対象です。国税庁のQ&A問16は、賞味期限までの期間等に応じて相応の値引き率を設定するなど、合理的な見切り販売と認められるときに限り正当な理由に当たるとしています。在庫整理や店舗改装を理由とする売りつくしは正当な理由に当たりません(問17)。

不当廉売とダンピングは同じものですか?

日本語のダンピングは文脈で指すものが違います。独占禁止法の不当廉売は国内市場での価格設定の規制です。輸入品に課される不当廉売関税(アンチダンピング関税)は関税定率法第8条および第8条の2に基づく別制度です。建設工事のダンピング受注は、建設業法第19条の3が定める原価に満たない請負契約の問題です。

競合他社の不当廉売はどこへ申告すればよいですか?

公正取引委員会が申告の窓口です。酒類、石油製品、家庭用電気製品等の小売業に係る不当廉売は迅速処理の対象で、原則2か月以内に処理されます。相手の費用は外部から分からないため、対象商品、販売価格、廉売の期間と頻度、自社の売上高や販売数量への影響を日付付きで記録して申告するのが実務的です。

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