ROICとROE・ROA・ROIの違い|計算例でわかる使い分け

ROIC(ロイック)・ROE・ROA・ROIは、いずれも「投じたお金がどれだけ利益を生んだか」を測る指標ですが、分母に何を置くかが違うため、同じ決算数値でも別の結論を指します。とくにROEは借入を増やすだけで上がり、ROICはほとんど動きません。この記事では4指標の違いを分母・分子の比較表で整理し、同一の決算数値を使った計算例で食い違いが起きる場所を示したうえで、目安の読み方と実務での使い分けまでをまとめます。

まとめ:4指標の違いと使い分けの結論

  • 分母が違う。ROEは自己資本、ROAは総資産、ROICは事業に投じた資本(有利子負債+自己資本−非事業資産)、ROIは個別の投資額。
  • ROEは資本構成で動く。借入で自社株買いをすればROEは上がるが、ROICは変わらない。株主視点の指標か、事業の実力の指標かの差がここに出る。
  • 目安の立て方も違う。ROEは8%(伊藤レポート)、ROAは5〜10%が良好という帯の目安があるが、ROICは絶対値でなく自社のWACC(資本コスト)を上回るかで判断する。
  • ROICは他社比較に向かない。投下資本とNOPATの定義が企業ごとに違い、同じ「ROIC」でも税引前ベースと税引後ベースで3割ほどずれる。
  • 使い分けは「誰に説明するか」で決まる。株主・投資家への開示はROEとROA、事業ポートフォリオの社内管理はROIC、個別施策の採否はROI。

ROIC・ROE・ROA・ROIの違いを一覧比較

4指標の定義を、分子・分母・測っている対象で並べると違いが明確になります。

指標 分子 分母 測る対象 主な使い手
ROIC NOPAT(税引後営業利益) 投下資本 本業に投じた資本の効率 経営企画・事業部門
ROE 当期純利益 自己資本 株主資本に対する収益性 株主・投資家
ROA 当期純利益(または経常利益) 総資産 資産全体の使い方の巧拙 金融機関・経営者
ROI 投資による利益 その投資に投じた額 個別案件・施策の採算 事業担当・マーケティング

ROICの投下資本は「有利子負債+自己資本−非事業資産」で求めます。分母の広さはROE(自己資本)<ROIC<ROA(総資産)の順で、ROICだけが分母から現金・遊休資産などの非事業資産を差し引き、分子も営業利益ベースに揃えます。そのぶん財務活動や余剰資金の影響を除いた「事業そのものの採算」に近づきます。ROICの計算式や投下資本の内訳はROIC(投下資本利益率)とは?意味と基本の考え方を初心者にも丁寧に徹底解説で詳しく扱っています。

同じ決算数値で試算:3指標が食い違う場所

営業利益100億円、実効税率30%(NOPAT=70億円)、総資産1,000億円、うち現金200億円という会社を基準に、資本構成だけを変えて比較します。

借入+自社株買いによるROE上昇とROIC不動

まず無借金(自己資本1,000億円)の状態と、有利子負債500億円を調達して同額の自社株買いをした状態(自己資本500億円・借入金利2%)を並べます。

項目 無借金 借入500億円+自社株買い
当期純利益 70億円 63億円
ROE 7.0% 12.6%
ROA 7.0% 6.3%
ROIC 8.75% 8.75%

支払利息10億円が乗るため純利益は70億円から63億円へ減りますが、分母の自己資本が半減するのでROEは7.0%から12.6%へ跳ね上がります。ROAは純利益が減った分だけ下がり、ROICは営業利益も投下資本(500+500−200=800億円)も変わらないため8.75%のままです。事業の稼ぐ力は1円も変わっていないのに、ROEだけが倍近くになる。これがROEを単独で見てはいけない理由であり、資本構成に左右されないROICが社内管理に選ばれる理由でもあります。ROEをこの3要素に切り分ける手順はデュポン分解(デュポンシステム)とは?ROEを3要素に分解する計算式と分析事例で解説しています。

余剰現金の積み増しによるROE・ROAの低下

次に、数年分の利益を配当せず内部留保し、現金が200億円から400億円へ積み上がった場合(総資産1,200億円・自己資本1,200億円)を見ます。ROEとROAはともに70÷1,200=5.8%へ下がりますが、ROICは投下資本が1,200−400=800億円のままなので8.75%で動きません。使っていない現金を分母から外すかどうかが、そのまま指標の性格の差になっています。ただし、この「非事業資産を控除する」処理を採らない企業も多く、その場合のROICは70÷1,200=5.8%と計算され、同じ会社が2つのROICを持つことになります。次章で扱う他社比較の難しさはここに起因します。

ROICとROIの違い:評価する単位と期間

ROICとROIは名前が似ていますが、測る単位が違います。ROICは企業や事業部といった継続する組織の資本効率を年単位で見る指標で、分母は決算書から積み上げた投下資本です。対してROIは「この広告に500万円を投じて利益が150万円出たからROI 30%」のように、特定の投資案件や施策ごとに、その期間だけを切って測ります。

したがって、設備投資の可否や広告予算の配分といった個別判断にはROIが向き、事業ポートフォリオ全体の優先順位づけにはROICが向きます。両者を混同して「事業部のROI」を投下資本ベースで計算すると、案件単位の採算と組織単位の資本効率が混ざって判断を誤ります。ROIの計算方法と目安はROI(投資利益率)とは?計算式・目安・改善方法をわかりやすく解説にまとめています。

目安の考え方:ROEは8%、ROAは5〜10%、ROICはWACC超

3指標は目安の立て方そのものが違います。ROEには経済産業省の伊藤レポート(2014年8月)が示した8%という広く共有された水準があります。ROAは5〜10%が良好、3〜5%が平均的という帯で語られ、財務省・法人企業統計(2024年度、金融業・保険業を除く)の総資本経常利益率は全産業5.1%=ちょうど平均的な水準にあたります。なお法人企業統計のROAは経常利益を分子にした総資本経常利益率で、当期純利益ベースのROAとは分子が異なります。ROAの目安と業種別の実データは業種で大きく分かれるため、同業比較が前提です。

一方、ROICには「何%以上なら良い」という共通の絶対水準がありません。判断基準は自社のWACC(加重平均資本コスト)を上回っているかどうかで、ROICがWACCを下回れば、利益が出ていても資本コストを回収できず企業価値を毀損している状態と評価されます。同じ8%のROICでも、WACCが5%の会社では価値創出、WACCが10%の会社では価値毀損になります。WACCの求め方とROICとの関係はROIC(投下資本利益率)の解説記事で扱っています。

業種別ROICの実データ(EDINET DB集計3,477社)

絶対水準の目安がないとはいえ、分布を知っておくと自社の位置は把握できます。財務データベース「EDINET DB」がEDINETの有価証券報告書から自動抽出した集計(銀行・保険・証券を除く3,477社)では、ROICの中央値は10.67%、下位四分位(P25)が5.10%、上位四分位(P75)が21.44%でした。業種別の中央値は情報・通信業25.10%(538社)、サービス業17.73%(517社)、建設業14.51%(146社)と、資本集約度の低い業種ほど高く出ます。

ここで注意が必要なのは、この集計のROICが「営業利益÷(自己資本+有利子負債−現金同等物)」、つまり税引前の営業利益ベースだという点です。教科書どおりNOPAT(税引後営業利益)を分子に使うと、実効税率30%なら数値はおよそ0.7倍になり、中央値10.67%は7%台に相当します。公表されているROICの平均値・中央値を自社の値と比べる前に、必ず分子が税引前か税引後かを確認してください。

ROICを他社比較にそのまま使えない理由

ROE・ROAの分母は貸借対照表にそのまま載っている自己資本・総資産なので、企業をまたいでも数値の定義はほぼ揃います。ROICはそうではありません。分母の投下資本には「有利子負債+自己資本」で済ませる流儀と、そこから現金同等物や遊休資産などの非事業資産を控除する流儀があり、控除の範囲も企業ごとに判断が分かれます。分子のNOPATも、法定実効税率を使うか実績税率を使うかで変わります(NOPATと投下資本の算出手順)。

先の計算例で見たとおり、現金を控除するかどうかだけでROICは5.8%にも8.75%にもなりました。差は3ポイント近く、業種平均との優劣が入れ替わる幅です。したがってROICの他社比較は、各社が開示する定義を突き合わせられる場合に限るべきで、開示IR資料の数値をそのまま横並びにするのは避けたほうが賢明です。自社の時系列比較や事業部間比較のように、定義を統一できる場面でこそROICは力を発揮します。

使い分けの実務:社外開示はROE、社内管理はROIC

指標の優劣を議論するより、用途で割り切るほうが実務は進みます。株主・投資家に対する説明はROEとROA、事業ポートフォリオの資源配分や撤退判断はROIC、個別施策の採否はROI、という分担が現実的です。

この分担は制度の側からも後押しされています。東京証券取引所は2023年3月にプライム市場・スタンダード市場の全上場会社へ「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請し、2026年2月末時点でプライム市場の93%(1,472社)、スタンダード市場の51%(807社)が何らかの開示を実施しています。初回開示の後に内容を更新した企業もプライム市場で71%(1,129社)に達しました。開示の中身は資本コストとROE・PBRを軸に語られる一方、社内で事業単位に落とし込む段階ではROICが共通言語になります。数値は時点で動くため、最新の集計は東証の公表資料で確認してください。

非上場企業でも考え方は同じです。金融機関との対話ではROAと自己資本比率が見られ、事業の絞り込みを議論する場ではROICのほうが説明力を持ちます。ROICを全社の単一目標に置くのは勧めません。ROICは分母を小さくすれば上がるため、必要な設備投資や在庫を削って短期的に数値を作る動きを誘発します。指標は「事業の優先順位を議論するための共通言語」として使い、投資判断そのものは将来キャッシュフローで行うのが安全です。

よくある質問

ROICとROEの違いは何ですか?

分母と分子が違います。ROEは当期純利益÷自己資本で株主資本に対する収益性を、ROICはNOPAT÷投下資本(有利子負債+自己資本−非事業資産)で事業に投じた資本の効率を測ります。ROEは借入を増やして自社株買いをするだけで上昇しますが、ROICは資本構成を変えても動きません。

ROICとROAの違いは何ですか?

分母の範囲が違います。ROAの分母は総資産で、事業に使っていない現金や遊休資産も含みます。ROICの分母は投下資本で、非事業資産を控除するのが一般的です。このため余剰現金を積み増すとROAは下がりますが、ROICはほとんど変わりません。分子もROAは当期純利益(または経常利益)、ROICはNOPATと異なります。

ROICとROIの違いは何ですか?

評価する単位と期間が違います。ROICは企業や事業部の資本効率を年単位で継続的に測る指標、ROIは個別の投資案件や施策について投じた額に対する利益を測る指標です。広告や設備の採否判断にはROI、事業ポートフォリオの優先順位づけにはROICを使います。

ROICの目安は何%ですか?

共通の絶対水準はなく、自社のWACC(資本コスト)を上回るかで判断します。分布の参考としては、EDINET DBの集計(銀行・保険・証券を除く3,477社)で中央値10.67%、P25が5.10%、P75が21.44%です。ただしこの集計は営業利益ベース(税引前)のため、税引後のNOPATベースならおよそ0.7倍で読み替えてください。

ROICの読み方は?

「ロイック」と読みます。Return On Invested Capital の略で、日本語では投下資本利益率です。ROE(アールオーイー)、ROA(アールオーエー)がアルファベット読みなのに対し、ROICは一語として読む慣行が定着しています。

ROE・ROA・ROICのどれを重視すべきですか?

用途で選びます。株主への説明や上場企業の開示ではROE、金融機関対応や資産効率の点検ではROA、事業部ごとの資源配分や撤退判断ではROICが適します。1つに絞ると、ROEなら借入依存、ROICなら投資抑制という歪みが出るため、社外向けと社内管理で分けて併用するのが実務的です。

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