価格弾力性(価格の弾力性)は、価格を1%動かしたときに需要量が何%動くかを表す数値です。値下げで売上が増えるのか、値上げで客が離れるのかを、事前に見積もる材料になります。
ただ、「弾力性が1を超えるなら値下げ」という教科書の結論は売上高についての話です。利益で判断するなら粗利率も掛け合わせなければなりません。この記事では、3つの求め方を数値例で確認したあと、弾力性が高い商品・低い商品を分ける条件、粗利率から逆算する値下げ・値上げの損益分岐、米・たばこ・Uberの実データ、自社データで推定するときの落とし穴を扱います。
まとめ:価格弾力性の意味・求め方・値決めでの使い方の要点
- 需要の価格弾力性は「需要量の変化率÷価格の変化率」です。符号はほぼ常にマイナスになるため、絶対値で読むのが一般的です。
- 絶対値が1より大きければ弾力的(価格に敏感)、1なら単位弾力的、1より小さければ非弾力的です。弾力性が「高い」「大きい」は、価格に対して数量がよく反応するという意味です。
- 弾力性が高くなりやすいのは、代わりの商品がすぐ見つかる、乗り換えの手間が小さい、家計に占める割合が大きい商品です。米や電気のような必需品は低くなります。
- パーセンテージ法は値上げと値下げで答えが変わります。2時点の実績から向きに依存しない値を出したいときは中点法(弧弾力性)を使います。
- 弾力的なら値下げで売上高は増えますが、利益まで増えるとは限りません。粗利率30%の商品を10%値下げして粗利の総額を保つには、販売数量が50%増える必要があります(パーセンテージ法の弾力性で5.0相当)。
- 2点の価格と数量を割るだけでは弾力性を測れないことがあります。家計調査では2023年から2025年に米の平均価格が1.94倍になる一方、購入数量は8.2%増えました。
価格弾力性の意味と弾力的・非弾力的の判定基準
需要の価格弾力性の定義と「価格の弾力性」「価格弾性値」との呼び方の違い
米ライス大学のオープン教科書OpenStax『Principles of Economics 3e』5.1節は、需要の価格弾力性を「需要量の変化率を価格の変化率で割ったもの」と定義しています。英語では price elasticity of demand です。
日本語では「価格弾力性」「価格の弾力性」「需要の価格弾力性」「価格弾性値」が同じ指標を指して使われます。単に「価格弾力性」と書かれていれば、ほぼ需要側の話です。供給側を扱うときは「供給の価格弾力性」と明記されます。
価格が上がれば需要量は減るので、計算結果は通常マイナスです。実務の資料では絶対値で「弾力性2.0」と書くことが多く、この記事でも判定は絶対値で行います。マイナスの符号が付いた値と付いていない値を比べるときは、先に表記を揃えてください。
弾力的・単位弾力的・非弾力的を分ける「1」の境界と総売上の向き
OpenStaxの区分では、絶対値が1より大きいと弾力的(elastic)、1で単位弾力的(unitary)、1より小さいと非弾力的(inelastic)です。この境界は、価格を変えたときに総売上(価格×数量)がどちらへ動くかと対応しています。
| 弾力性の絶対値 | 区分 | 値下げ時の総売上 | 値上げ時の総売上 |
|---|---|---|---|
| 1より大きい | 弾力的 | 増える | 減る |
| ちょうど1 | 単位弾力的 | 変わらない | 変わらない |
| 1より小さい | 非弾力的 | 減る | 増える |
この対応が厳密に成り立つのは、中点法で計算した弾力性です。価格変更の前後の売上差は「平均価格×平均数量×(数量の変化率+価格の変化率)」に等しく、変化率を中点基準で取れば、弾力性が1を超えるかどうかで売上の増減が決まります。変化前を基準にするパーセンテージ法では、1,000円・500個から900円・555個への値下げは弾力性1.1でも、売上は50万円から49万9,500円へ減ります。
両端の極端なケースもあります。OpenStax 5.2節によると、価格がどれだけ変わっても数量が変わらない場合は弾力性ゼロ(完全非弾力的)で、需要曲線は垂直になります。同節は、近い代替品がない必需品の例として救命薬とガソリンを挙げ、需要がかなり非弾力的になりやすいとしています。反対に、わずかな価格の変化で数量が無限に動く場合は弾力性が無限大(完全弾力的)で、曲線は水平です。
価格弾力性が高い商品・低い商品の例と、両者を分ける条件
価格弾力性を左右する代替品・乗り換え費用・支出割合・時間軸
弾力性の大小を最も強く左右するのは、代わりになる商品がどれだけ手近にあるかです。同じ飲料でも「特定ブランドの缶コーヒー」は他ブランドへ簡単に移れるので弾力的になり、「飲み物全体」まで広げると乗り換え先がなくなり非弾力的になります。市場をどこで区切るかで数値が変わるため、他社や業界のデータと比べるときは区切り方を揃えてください。
代替品があっても、乗り換えに手間がかかれば弾力性は下がります。操作を覚え直す必要がある業務ソフトや、データ移行と契約変更が要るクラウドサービスは、価格差が小さいうちは利用者が動きません。このスイッチングコストがあるため、既存顧客への小幅な値上げは新規顧客への同じ値上げより数量が減りにくくなります。
ほかに効くのは、生活に欠かせないかどうか、家計に占める割合、時間の3つです。値上げ直後は代わりの商品を探す時間がなくても、数か月たつと代替品へ移る人が増えます。そのため、同じ商品でも長期の弾力性は大きくなりやすいです。同じ商品でも、出張で飛行機を使う人と旅行で使う人のように、買う人や場面によっても反応は変わります。
価格が上がるほど需要が増える例外もあります。見せびらかしのための高級品(ヴェブレン財)や、所得効果が代替効果を上回る劣等財(ギッフェン財)では、弾力性がプラスになり得ます。2つの違いはヴェブレン効果とヴェブレン財・ギッフェン財の違いで整理しています。
高い商品・低い商品の例と、家計調査の「支出弾力性」で必需品を見分ける方法
実際の推定値の例として、OpenStax 5.3節の表5.2「Some Selected Elasticities of Demand」から一部を抜き出します(絶対値で掲載)。教科書が例示として集めた値で、日本の市場で測った値ではありません。
| 商品・サービス | 価格弾力性 | 区分 |
|---|---|---|
| 住宅 | 0.12 | 非弾力的 |
| 鉄道(ラッシュ時) | 0.15 | 非弾力的 |
| 電力 | 0.20 | 非弾力的 |
| ガソリン | 0.35 | 非弾力的 |
| ワイン | 0.55 | 非弾力的 |
| 清涼飲料 | 0.70 | 非弾力的 |
| 新車 | 0.87 | 非弾力的 |
| 鉄道(オフピーク) | 1.00 | 単位弾力的 |
| コンピューター | 1.44 | 弾力的 |
| レストランでの食事 | 2.27 | 弾力的 |
同じ鉄道でも、通勤で代わりの手段がないラッシュ時は0.15、時間を選べるオフピークは1.00です。上で挙げた「時間」と「場面」の条件が、数字の差としてそのまま出ています。表の値は品目全体についてのもので、特定ブランドに絞ると代替先が増えるため、自社商品が直面する弾力性はこれより大きくなるのが普通です。
必需品かどうかの公的な物差しとしては、総務省統計局の家計調査が使う支出弾力性があります。消費支出総額が1%変化したときに各項目の支出が何%変化するかを示す指標です。2025年1月以降は、1以上を選択的支出、0より大きく1未満を基礎的支出に分類しています。統計局は基礎的支出の例に米・野菜・家賃・電気代を、選択的支出の例にワイン・ケーキ・宿泊料を挙げています。
ただし、支出弾力性が測っているのは消費支出の総額に対する反応で、価格に対する反応ではありません。必需品かどうかの見当をつけるのには使えますが、この統計から価格弾力性の大きさを読み取ることはできません。
価格弾力性の計算式と求め方(パーセンテージ法・中点法・点弾力性)
パーセンテージ法の計算例と、値上げ率・値下げ率の求め方
最も基本の求め方は、変化前の値を基準に変化率を出して割る方法です。
価格弾力性=需要量の変化率÷価格の変化率
需要量の変化率=(変化後の数量−変化前の数量)÷変化前の数量×100
価格の変化率=(変化後の価格−変化前の価格)÷変化前の価格×100
価格の変化率は、値上げならそのまま値上げ率、値下げならマイナスの値下げ率です。1,000円の商品を1,080円にすれば値上げ率は(1,080−1,000)÷1,000×100=8%、900円にすれば−10%です。
1,000円の商品を900円に下げ、月の販売数が500個から600個になったとします。数量は+20%、価格は−10%なので、弾力性は20÷(−10)=−2.0、絶対値2.0で弾力的です。
この方法には弱点があります。同じデータを逆向きに読み、900円・600個から1,000円・500個へ値上げしたと考えると、値上げ率は11.1%、数量は−16.7%で、絶対値は1.5になります。900円から1,000円に戻すときの値上げ率が、1,000円から900円への値下げ率10%と一致しないためです。基準をどちらに置くかで2.0と1.5に割れるので、変化幅が大きいほど解釈を誤りやすくなります。
中点法(弧弾力性・アーク法)で向きによるズレを消す計算
中点法は、変化前と変化後の平均を基準に変化率を取る方法で、弧弾力性やアーク法とも呼ばれます。OpenStax 5.1節が採用している公式は次のとおりです。
数量の変化率=(Q2−Q1)÷{(Q2+Q1)÷2}×100
価格の変化率=(P2−P1)÷{(P2+P1)÷2}×100
先ほどの例に当てはめると、数量の変化率は100÷550=18.2%、価格の変化率は−100÷950=−10.5%です。弾力性は約−1.73になり、値下げと読んでも値上げと読んでも同じ値が出ます。
2時点の実績から弾力性を1つだけ報告するなら中点法を選んでください。社内資料で値上げ案と値下げ案を並べるとき、計算方法の違いで結論が逆転する事故を防げます。
点弾力性と傾きの違い:直線の需要曲線でも位置で弾力性が変わる理由
価格の変化がごく小さい場合は、需要曲線上の1点で弾力性を定義します。これが点弾力性(ポイント法)です。
点弾力性=(dQ÷dP)×(P÷Q)
dQ÷dPは、価格Pを横軸、数量Qを縦軸に置いた場合の傾きです。経済学の図のように数量を横軸、価格を縦軸に置く場合、図の傾きはdP÷dQになります。傾きは「価格1円あたり何個」という単位付きの量で、弾力性は単位のない比率です。ここが混同されやすい点で、傾きが一定の直線でも弾力性は一定になりません。需要がQ=2,000−1.5Pで表される商品なら、次のように変わります。
| 価格P | 数量Q | 傾きdQ/dP | 点弾力性 | 総売上 |
|---|---|---|---|---|
| 400円 | 1,400個 | −1.5 | −0.43 | 56万円 |
| 約667円 | 約1,000個 | −1.5 | −1.00 | 約66.7万円(最大) |
| 1,000円 | 500個 | −1.5 | −3.00 | 50万円 |
価格が高く数量が少ない位置ほどP÷Qが大きいので、弾力性の絶対値は大きくなります。総売上が最大になるのは、弾力性がちょうど1になる価格です。グラフの傾きが急だから非弾力的、と見た目で判断するとこの違いを見落とします。
価格弾力性と売上・利益の関係:値下げで利益が出る条件
粗利率で決まる値下げ・値上げの損益分岐弾力性
OpenStax 5.3節は、需要が弾力的な価格帯では値下げ率を上回る数量増が起きるため総売上が増える、と説明しています。これは売上高の話で、原価を差し引いた利益まで保証するものではありません。
ここでは、売上原価がすべて変動費で、ほかに変動費がないと仮定し、粗利率と限界利益率が一致するものとします。変更前価格をP、粗利率をm、値下げ率をdとし、単位変動費と固定費が変わらなければ、1個あたりの粗利はPmからP(m−d)に減ります。値下げの式は0<d<mが対象で、d≧mでは数量をいくら増やしても変更前の粗利総額を維持できません。粗利の総額を保つのに必要な数量の増加率はd÷(m−d)、パーセンテージ法に換算した損益分岐の弾力性は1÷(m−d)です。値上げ率uの場合は、許容できる数量の減少率がu÷(m+u)、損益分岐の弾力性は1÷(m+u)になります。
| 粗利率 | 10%値下げで必要な数量増 | 損益分岐の弾力性 | 10%値上げで許容できる数量減 | 損益分岐の弾力性 |
|---|---|---|---|---|
| 20% | +100% | 10.0 | −33.3% | 3.33 |
| 30% | +50% | 5.0 | −25.0% | 2.50 |
| 40% | +33.3% | 3.33 | −20.0% | 2.00 |
| 50% | +25% | 2.5 | −16.7% | 1.67 |
粗利率30%の商品で弾力性が2.0と推定できても、10%値下げは利益を減らします。必要な弾力性は5.0で、2.0では数量が20%しか増えないからです。反対に同じ商品を10%値上げする場合は、弾力性が2.50未満なら粗利の総額は増えます。弾力的だから値下げ、という判断は粗利率が低い商品ほど外れます。
粗利は売上高から売上原価を引いた額、限界利益は売上高から変動費を引いた額です。両者が一致しない事業では、式のmに変更前の限界利益率を使ってください。単位変動費や固定費も増える場合は、その増分を含めて利益を計算し直します。固定費まで含めた値下げの試算は損益分岐点分析(CVP分析)の手順と値下げ判断の試算で、粗利率が投資判断の合格ラインをどう動かすかはユニットエコノミクスとLTV/CACの合格ラインで扱っています。
利益最大化のラーナー条件と、非弾力的な価格帯が示す値上げ余地
単一商品の需要と費用が微分可能で、価格規制や生産能力などの制約の境界ではなく内点で利潤が最大になる場合、次の関係が成り立ちます。MITの産業組織論の講義資料が示すラーナー指数です。
(価格−限界費用)÷価格=1÷弾力性の絶対値
弾力性の絶対値が2なら価格の50%、4なら25%を限界費用に上乗せする水準が最適です。弾力性が1未満の位置では右辺が1を超え、限界費用がマイナスでない限り成り立ちません。MITの演習解答は、非弾力的な位置では限界収入がマイナスなので、生産量を減らす(値上げする)ほど収入が増え費用も減る、と説明しています。
実務に置き換えると、自社商品の弾力性の絶対値が1未満と推定でき、競合の価格などほかの条件が変わらないなら、値上げで売上も利益も増える余地があります。新製品を高めの価格で出して段階的に下げる判断はスキミングプライスの根拠と日本での実例で扱っています。
この式は、単一の商品で価格決定力を持つ企業を前提にしています。市場全体では非弾力的でも、他社と同じ商品を売っている1社にとっては乗り換えが簡単なので、自社が直面する弾力性ははるかに大きくなります。業界統計の弾力性を自社の値上げ判断にそのまま使ってはいけません。
実データで見る価格弾力性の大きさ(米・たばこ・Uber)
2023〜2025年の米:価格が1.94倍でも購入数量が増えた家計調査の数字
必需品の代表である米の数字を、家計調査(家計収支編)第4-1表の二人以上の世帯・全国で並べると次のとおりです(1世帯当たり年間)。
| 年 | 支出金額 | 購入数量 | 平均価格(1kg) |
|---|---|---|---|
| 2023年 | 20,397円 | 56.65kg | 360.03円 |
| 2024年 | 27,196円 | 60.20kg | 451.76円 |
| 2025年 | 42,739円 | 61.31kg | 697.12円 |
2023年から2025年で平均価格は93.6%上がり、購入数量は8.2%増えました。この2点で中点法の弾力性を計算すると+0.12、2024年から2025年だけでも+0.04です。符号がプラスなので、値上がりしたのに買う量が増えたことになります。
この数字から、米が価格の上がるほど売れる財になったと読むのは誤りです。弾力性の計算が意味を持つのは、価格以外の条件が同じまま需要曲線の上を動いたときだけです。2024年から2025年は米の価格が大きく動いた時期で、買い置きのような需要そのものの変化が価格の上昇と同時に起きていた可能性があります。家計調査は世帯が買った量を集計するので、こうした変化と価格による減少を区別できません。この比較から言えるのは、平均価格と購入数量がともに増えたという事実までで、価格に対する需要の反応の大きさは判断できません。支出金額は約2.1倍ですが、この増加を価格変更だけの効果や、非弾力的な需要の証拠として解釈することはできません。
2010年10月のたばこ増税と2009〜2011年度の販売数量比較
2010年10月の税制改正で、紙巻たばこの税率は1,000本当たり3,500円(1本当たり3.5円)引き上げられました(JTの2018年3月27日の発表資料)。JTのファクトシートでは、代表銘柄MILD SEVEN(現MEVIUS)の1箱価格が300円から410円へ、36.7%上がっています。
日本たばこ協会の年度別販売実績では、紙巻たばこの販売数量は2009年度2,339億本、2010年度2,102億本、2011年度1,975億本でした。2009年度から2011年度の減少は15.6%です。同じ表の金額は3兆5,460億円から4兆1,080億円へ15.8%増えており、数量が減る一方で販売代金は増えていますが、この年度比較だけでは、非弾力的な需要による価格効果とは断定できません。
パーセンテージ法で計算すると15.6÷36.7で約0.42、中点法では約0.54で、どちらでも非弾力的です。ただし目安にとどめてください。2009年度もすでに前年度比4.9%減っており、値上げがなくても続いていた減少が含まれています。年度は4月始まりなので、2010年度には増税前の買いだめも混ざります。代表銘柄の価格と市場全体の数量を組み合わせ、ほかの要因も除いていないため、約0.42や約0.54を需要の価格弾力性の推定値としては扱えません。
UberXの変動料金と短期需要の価格弾力性
Cohenらが2016年に公開したNBERワーキングペーパー22627は、Uberの米国4大市場(サンフランシスコ、ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルス)における2015年の最初の24週、乗車を依頼しなかった場合も含む約5,000万件のUberXの利用セッションを使い、UberXの料金倍率が切り替わる境目の前後を比べて需要の価格弾力性を推定しました。全標本の加重平均は−0.55(標準誤差0.02)、50通りの推定値の中央値は−0.51、平均は−0.57です。
料金倍率の境目の前後では、利用者の条件は倍率以外ほぼ同じです。米の例のように需要の変化が混ざる問題を、比較の設計で避けています。結果は調査対象の条件下で短期の需要が非弾力的だったことを示しますが、同じ利用者でも事前に手段を選べる通勤のような場面では弾力性が変わり得ます。この値をほかのサービスに当てはめるのは避けてください。
交差価格弾力性・所得弾力性・供給の価格弾力性との違い
「弾力性」は、ある変数が1%動いたときに別の変数が何%動くかを表す考え方で、価格と需要量以外の組み合わせにも使われます。よく出てくるものを並べると次のとおりです。
| 名称 | 分子(何が動くか) | 分母(何を動かすか) | 符号の読み方 |
|---|---|---|---|
| 需要の価格弾力性 | 需要量 | 自社商品の価格 | 通常マイナス |
| 交差価格弾力性 | 商品Aの需要量 | 商品Bの価格 | 代替財はプラス・補完財はマイナス |
| 所得弾力性 | 需要量 | 所得 | 正常財はプラス・劣等財はマイナス |
| 供給の価格弾力性 | 供給量 | 価格 | 通常プラス |
交差価格弾力性の符号で代替財・補完財を見分ける方法
交差価格弾力性は、商品Bの価格の変化率に対する商品Aの需要量の変化率です。OpenStax 5.4節は、代替財ではプラス、補完財ではマイナスになると説明しています。値が0に近ければ、測定した条件の下では、商品Bの価格変化に対する商品Aの需要量の反応は小さいと読めます。
自社の商品構成を見るときに役立ちます。プリンター本体を値下げしてインクの販売数が増えるなら補完関係(マイナス)で、本体の値下げをインクの利益で回収する設計が成り立ちます。ほかの条件を一定にして既存の廉価プランを値下げした結果、上位プランの契約数が減るなら、交差価格弾力性はプラスで、自社商品同士が代替関係にあります。食い合いの見極め方と回避策はカニバリゼーションの意味・原因と回避策にまとめています。
所得弾力性で正常財・劣等財を分ける考え方
所得弾力性は、需要量の変化率を所得の変化率で割った値です。OpenStax 5.4節によると、ほとんどの商品では所得が増えると需要量も増えるのでプラスになり、これを正常財と呼びます。所得が増えると買う量が減る、つまり所得弾力性がマイナスの商品が劣等財で、同節は所得の高い人ほどハンバーガーを減らしてステーキを増やす例を挙げています。
前に触れた家計調査の支出弾力性は、分母が所得ではなく消費支出の総額ですが、考え方は所得弾力性に近い指標です。価格弾力性が「値札を変えたらどうなるか」を見るのに対し、所得弾力性は「景気や賃金が変わったら需要がどう動くか」を見る指標です。値決めには前者、需要予測の前提には後者を使います。
供給の価格弾力性の求め方と、短期に小さく長期に大きい理由
供給の価格弾力性は、供給量の変化率を価格の変化率で割った値です。式の形は需要側と同じですが、価格が上がると供給量は増えるため、符号はプラスになります。たとえば卸値が200円から220円(+10%)に上がり、生産者の出荷量が1,000個から1,050個(+5%)に増えたなら、供給の価格弾力性は5÷10=0.5で非弾力的です。向きによるズレを消したい場合は、需要側と同じく中点法を使います。
OpenStax 5.3節によれば、供給の弾力性は一般に短期より長期で大きくなります。数か月では工場の建設や採用、出店が難しく、数年あればそれらを調整できるためです。農産物のように作付けから出荷まで時間がかかる商品や、熟練者の育成が必要なサービスは、需要が急に伸びても短期には供給が追いつかず、価格が先に上がります。値下げキャンペーンを組む前に、増えた注文に応えられる在庫と人員があるかを確認する理由でもあります。
自社の価格弾力性を推定する手順と、推定値を使ってはいけない場面
販売データと価格テストから弾力性を推定する手順
- 商品と集計単位を揃える:同一SKU・同一販路について、1週間単位の実売単価、販売数量、広告費、在庫切れの有無を記録し、価格が異なる週を集めます。
- 価格以外の要因を記録する:季節、曜日、広告出稿、競合の価格、在庫切れの日を同じ表に並べます。
- 対数を取って回帰する:販売数量の対数を価格の対数で回帰し、手順2の要因を説明変数に加えます。価格の係数はモデル上の弾力性を表しますが、価格が未観測の需要要因と連動している場合(売れそうな週に値上げしていた等)、その係数を価格変更の因果効果とは解釈できません。
- 価格テストで確かめる:比較可能な地域や時間帯に価格条件を無作為に割り当て、広告・在庫などの条件を揃えて数量を比較します。単なる地域差や変更前後の差を価格の効果とは扱いません。
対数同士の回帰を使うのは、係数を「価格1%あたりの数量の変化率」としてそのまま読めるからです。その係数を値決めに使うのは、手順4の無作為な価格テストで向きと大きさを確かめてからにしてください。回帰の当てはまりの読み方は決定係数(R2)の意味と回帰モデルの当てはまりの読み方を、価格テストの必要サンプル数はABテストの必要サンプル数と判定を誤らせる条件を参照してください。販売実績が乏しい新商品では、PSM分析のようなアンケートで許容される価格帯を先に調べる方法もあり、受容性調査の3種類とPSM分析の計算方法で手順を説明しています。EC上で通常価格と値引き価格を並べて表示する場合は、比較対照価格の根拠が問われるため、景品表示法の有利誤認とECの価格表示設計でルールを確認してから実施します。
弾力性の推定を週次の需要予測や価格の見直しに組み込む場合は、回帰の説明変数、再学習の頻度、予測誤差の監視方法、価格変更を承認する担当者を決めておくと、更新と判断の手順を揃えられます。販売データからの予測モデルの設計はAI予測分析開発・需要予測開発で支援しています。
推定した弾力性を価格決定に使うべきでない4つの場面
推定値が役に立たないのは、データが測っているものが需要の反応ではない場合です。次の場面では、その推定値を価格決定に使わないでください。
- 検討中の価格が、過去に試した価格の範囲の外にある(2割の値上げを、5%しか価格が動いていない期間のデータで判断する)。
- 在庫切れや生産上限で売れ数が頭打ちになっていた(数量は需要ではなく供給能力を示しています)。
- セール期間の急増をそのまま使っている(まとめ買いで前後の週の需要を先取りしているだけのことがあります。たばこ増税前の買いだめと同じ構造です)。
- 競合がすぐに追随値下げする市場で、自社だけが値下げした前提の数値を使っている。
これらは、推定範囲外への外挿、供給制約、購入時期の移動、競合反応という別々の問題です。セール期間のデータは、セール前後の週も含めて商品の通常の購入間隔に合わせて集計範囲を広げ、数量増が前倒し購入によるものかを確かめてから使います。
よくある質問
価格弾力性が1より大きいとどうなりますか?
中点法で求めた弾力性の絶対値が1より大きい区間では、値下げすると総売上が増え、値上げすると総売上が減ります。これを弾力的な需要と呼びます。ただし、利益が増えるかどうかは粗利率で決まります。粗利率30%の商品を10%値下げする場合、数量が50%増えないと粗利の総額は元に戻りません。この損益分岐は、パーセンテージ法の絶対値で5.0、中点法では3.8です。1を少し上回る程度では、値下げで売上は増えても利益は減ることが多いと考えてください。
価格弾力性が高い商品と低い商品の例は?
高いのは、代わりの商品が手近にあるもの、乗り換えの手間が小さいもの、家計に占める割合が大きいものです。特定ブランドの飲料や菓子、外食、旅行の宿泊、家具・家電などが当てはまります。低いのは、米・電気・ガソリンのように生活に欠かせないもの、救命薬のように代替が効かないもの、使い慣れた業務ソフトのように乗り換えに手間がかかるものです。OpenStaxの表5.2では、レストランでの食事が2.27、コンピューターが1.44と弾力的で、電力は0.20、住宅は0.12と非弾力的です。UberXを分析した論文の推定値は−0.55でした。
価格弾力性がマイナスになるのはなぜですか?
価格が上がると需要量は減り、価格が下がると需要量は増えるので、2つの変化率の符号が逆になり、割り算の結果はマイナスになります。教科書や分析ツールでは符号付きで表示されることがあり、実務の資料では絶対値で書くことが多いです。比べるときは表記を揃えてから大小を判断してください。ヴェブレン財やギッフェン財のような例外では、価格の上昇で需要が増えるためプラスになり得ます。
弧弾力性と点弾力性はどう使い分けますか?
弧弾力性(中点法)は、2つの時点の価格と数量の実績から1つの値を出すときに使います。変化前と変化後の平均を基準にするので、値上げと読んでも値下げと読んでも同じ結果です。点弾力性は、需要曲線の式が分かっているときに特定の価格での値を微分で求める方法で、ごく小さな価格変化への反応を表します。実績が2点しかない社内分析では弧弾力性、回帰で需要曲線を推定した後は点弾力性、と分けると扱いやすいです。
価格弾力性は英語で何と言いますか?
需要の価格弾力性は price elasticity of demand で、PEDと略されることがあります。供給の価格弾力性は price elasticity of supply、交差価格弾力性は cross-price elasticity of demand、所得弾力性は income elasticity of demand です。中点法は midpoint method、弧弾力性は arc elasticity、点弾力性は point elasticity と呼ばれます。