勤怠・給与

給与計算システムの導入事例:手計算の廃止と勤怠との二重入力解消を業種・規模別に整理

給与計算システムの導入事例:手計算の廃止と勤怠との二重入力解消を業種・規模別に整理

給与計算システムの導入事例を探すと、製品ページの「工数〇割削減」は多く見つかる一方で、導入前に何人で何時間かけていたのかまで分かる事例は限られます。本記事では、経済産業省とIT導入補助金の事務局が公開した事例2件を起点に、効果が出た理由を「手計算の廃止」と「勤怠との二重入力解消」の2つの型に分けて整理しました。業種と従業員規模による当てはめ方、事例どおりにならない失敗パターン、既製品で足りる会社と個別開発に進む会社の分岐まで扱います。

まとめ:給与計算システムの事例から読み取れる効果の出る型と出ない型

公開事例で削減された時間は、どちらも「計算」そのものではなく、タイムカードからの転記と勤怠データの集計に集中していました。12名の製造業では経営者が1人で抱えていた毎月半日の手入力がゼロになり、正社員74名・パート28名を抱える7拠点の小売業では、締日直前の作業が約10時間減っています。

自社に当てはめるときは、従業員数よりも「勤怠の記録がどこにあり、誰が何回入力し直しているか」を先に数えてください。転記の回数が多い会社ほど事例に近い効果が出ます。反対に、独自手当や例外処理をExcelに残したまま導入すると、作業は減らず二重管理が増えます。勤怠システムや基幹システムとの接続が既製品の設定範囲を超える場合は、連携部分だけを個別開発する判断が現実的です。

公開されている導入事例2件に見る導入前の課題と削減された作業時間

実名と数値が確認できる事例として、官公庁と補助金事務局が公開している2件を取り上げます。どちらも導入前の作業手順が具体的に書かれているため、自社の業務と照らし合わせやすい資料です。

染色整理業12名:毎月半日の手入力による給与計算がゼロになった経緯

経済産業省が公開した勤怠管理のIT導入事例(伴染工株式会社)は、創業1961年・従業員12名の染色整理業です(2024年3月時点)。導入前はタイムカードの打刻時刻を経営者が1人で転記し、雇用形態ごとに異なる計算方法に苦労しながら、毎月半日程度を手入力の給与計算に充てていました。

導入したのはクラウド型の勤怠管理システムと打刻用タブレット1台です。打刻は顔写真をタップして出退勤ボタンを押す2ステップで、勤怠データに紐づけて給与計算もPC上で行う形に変えています。従業員規模に合う無料プランの範囲で運用しており、導入費は無料でした。

注目したいのは導入時の工夫です。60代以上の従業員が多く、個人でスマホを持たない人もいたため、アプリの配布やICカードの新規発行を避け、社内にタブレットを1台置く方式を選んでいます。打刻手段を現場に合わせたことが、手入力ゼロを実現した前提条件でした。

自動車販売104名・7拠点:勤怠集計の連動で締日前の約10時間を短縮

IT導入補助金の事務局が公開した株式会社フジカーランド上田の事例は、長野県東信地域で自動車の販売と整備を行う小売業です。従業員は正社員74名、派遣2名、パート28名で、7拠点の勤怠をタイムカードで管理していました。

課題は2つありました。Excelで管理していた勤怠データは入力と修正を何度も繰り返す必要があり、従業員の増加に伴って締日前の作業が残業になっていたこと。さらに月締めのたびに7拠点分の勤怠集計が発生していたことです。

同社は人事管理と給与管理の連携パッケージを導入し、タイムカードと給与管理システムを連動させました。勤怠データの入力と集計が自動化され、締日直前の作業は約10時間(2時間×5日)短縮されています。なお同じ資料では、平成28年度補正のIT導入支援事業で給与・会計ソフトを導入した卸・小売業全体の勤務時間短縮が2.8%と示されています。個社の10時間と業種平均の2.8%は、分けて読む必要がある数値です。

給与計算システムの効果が出た事例に共通する2つの型と業務フロー上の位置

2件の事例は業種も規模も違いますが、時間が減った工程は共通しています。給与計算の流れを「勤怠の記録」「勤怠の集計」「支給・控除の計算」「確認と明細配付」に分けると、効果が出たのは前半の2工程でした。

型1 手計算の廃止:転記と計算を1人で抱える10名前後の企業で効く理由

従業員が10名前後の会社では、経営者や経理担当1人がタイムカードの転記から計算、明細作成までを兼ねている例が多く見られます。この形では、転記の誤りに気づく人がいません。伴染工の事例で「毎月半日」が丸ごと消えたのは、転記と計算を1人で抱えていた工程が、打刻データからの自動計算に置き換わったためです。

この型の効果は、担当者の時間の削減に加えて、業務の引き継ぎがしやすくなる点に表れます。同事例でも、社内経理業務の承継がスムーズになることが効果として挙げられていました。担当者が1人で、その人の退職や休職が経営リスクになっている会社ほど、手計算の廃止は優先度が高い施策です。

型2 勤怠との二重入力解消:拠点数と雇用区分が多い企業で効く理由

拠点が増えると、各拠点のタイムカードを本社で集め、Excelに入力し、給与ソフトへ再入力するという二重入力が発生します。フジカーランド上田の事例で減ったのは、この集計と再入力の工程でした。拠点数と雇用区分の数を掛け合わせた分だけ集計の手間が増えるため、7拠点・3つの雇用区分という条件では、連動の効果が大きく出ます。

この型では、給与計算システムを単体で入れても効果は限定的です。勤怠側のデータがどの形式で、どの頻度で給与側に渡るかで、残る作業量が変わります。勤怠システムの選び方そのものは勤怠管理システムの機能と選び方で整理しています。

業種と従業員規模の組み合わせで見る、事例を自社に当てはめる読み方

公開事例は業種が限られるため、そのまま自社の効果見込みにはできません。業種と規模ごとに、どちらの型が効きやすく、何が障害になりやすいかを整理しておくと、他社事例を読むときの物差しになります。

製造・小売・派遣・介護で効きやすい型と障害になる勤務形態の違い

下表は、公開事例と給与実務の論点から当社が整理した目安です。数値の効果を示すものではなく、どの型から検討するかの判断材料として使ってください。

業種と規模 効きやすい型 障害になりやすい条件
製造業・30名未満 型1 手計算の廃止 交替勤務の割増と、打刻端末の設置場所
小売・飲食・多拠点 型2 二重入力の解消 拠点ごとに異なるシフトと締め日
派遣元事業者 型2 二重入力の解消 派遣先ごとの単価・締め日と請求との連動
介護・福祉 型2 二重入力の解消 夜勤の日またぎと、資格・処遇改善の手当
建設業 型1と型2の両方 現場ごとの直行直帰と日給月給の混在

派遣元のように勤怠データが給与と派遣先請求の両方に使われる業種では、給与計算システムだけで完結しません。派遣特有の論点は派遣の給与計算で複数派遣先の単価・締め日を回す設計で詳しく扱っています。

事例の削減時間を自社の月次工数に換算するときの拠点数など3つの補正

他社の「約10時間短縮」を自社に置き換えるときは、次の3点で補正します。1つ目は拠点数です。集計の手間は拠点の数にほぼ比例するため、拠点が1つの会社では型2の効果は小さくなります。2つ目は雇用区分の数で、時給・日給・月給が混在するほど転記と計算の手間が増えます。

3つ目は、現在の勤怠記録がすでにデジタルかどうかです。フジカーランド上田は導入前からExcelで勤怠を管理していましたが、それでも再入力が残っていました。紙のタイムカードから始める会社は、打刻手段の切り替えという作業が1つ増える代わりに、削減できる工程も増えます。

導入事例の数字を鵜呑みにしないための自社での効果測定と比較の手順

事例の数字は、測定の前提が書かれていて初めて比較できます。自社で導入を検討する段階では、導入前の工数を自分で測っておくことが、ベンダー事例を読み解く唯一の基準になります。

導入前に勤怠集計・計算・確認・明細配付の4工程を分単位で測る手順

測定は1回の締め処理で十分です。次の順で、担当者ごとの作業時間を記録してください。

  1. 勤怠の回収と集計:タイムカードや申請書を集め、1人分の労働時間を確定させるまで
  2. 支給と控除の計算:手当・割増・社会保険料・源泉所得税を算出するまで
  3. 確認と修正:前月比較や差し戻しによる再計算を含めた検算
  4. 明細の作成と配付:印刷・封入・手渡し、またはWeb配信の作業

工程ごとの分数が分かると、どの型の効果を期待するかが決まります。1と3が大きければ型2、2が大きければ型1の対象です。業務の流れ全体は給与計算業務の流れと年間スケジュールで確認できます。

ベンダー事例の「〇割削減」を読み解くときに確認する導入前の前提条件

ベンダーが公開する事例には、導入企業の従業員数、削減の対象工程、測定期間のいずれかが欠けていることがあります。「月40時間が10時間に」という表現でも、年末調整の月を含むのか、通常月だけなのかで意味が変わります。

確認したいのは、削減の対象が「計算」なのか「集計と転記」なのか、という点です。本記事で取り上げた2件はどちらも集計と転記の削減でした。計算工程だけの削減をうたう事例は、勤怠データの準備が導入前と変わらず人手で残っている可能性があります。候補製品の絞り込み方は給与計算システムを4軸で比較する手順にまとめています。

事例どおりの効果が出ない失敗パターンと、導入前に潰しておく条件

公開事例は成功例なので、効果が出なかった条件は書かれていません。給与計算システムの導入で作業が減らない典型例を2つ挙げます。

自己申告の勤怠をそのまま取り込み、締め後の修正で再計算が止まる例

勤怠を自己申告やExcelの手入力のまま給与計算システムに取り込むと、締め後に修正が見つかるたびに再計算が発生します。厚生労働省の労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドラインは、始業・終業時刻の記録の原則を、使用者の現認か、タイムカード・ICカード・パソコンの使用時間などの客観的な記録としています。

自己申告制を続ける場合、ガイドラインは入退場記録などと著しい乖離があるときの実態調査と補正を求めています。給与計算システムだけを先に入れても、この確認作業は残ります。客観的な記録に切り替えるか、少なくとも乖離を自動で検出する仕組みを勤怠側に持たせてから給与側をつなぐ順序が安全です。

独自手当と例外処理をExcelに残したまま並走し、二重管理が増える例

資格手当や歩合給など、既製品の設定で表現しにくい項目をExcelで計算し、結果だけを給与計算システムに手入力する運用はよく見られます。この形では、システムとExcelの両方を更新し続けることになり、導入前より作業が増える場合もあります。

労働基準法第108条は賃金台帳の調製を、第109条は賃金台帳や出勤簿などの記録の保存を使用者に義務づけています(e-Gov法令検索の労働基準法)。Excelに計算根拠が分散すると、台帳の記載と計算の根拠を突き合わせる作業も複雑になります。保存期間や電子保存の設計は給与明細の保管期間と賃金台帳の保存義務で解説しています。導入前に例外処理を棚卸しし、システムに載せるか、手当体系自体を見直すかを決めてください。

パッケージ導入で足りる事例と個別開発・連携開発に進むべき事例の分岐

公開事例2件は、どちらも既製品の導入で効果を出しています。多くの会社にとって最初の選択肢は既製品であり、個別開発が割に合うのは条件が限られます。

既製品だけで足りる条件:雇用区分2つ以下・拠点1つ・勤怠が同一ベンダー

雇用区分が正社員とパートの2つ程度、拠点が1つ、勤怠と給与を同じベンダーの製品でそろえられる会社は、既製品の設定だけで事例に近い効果が見込めます。伴染工のように無料プランの範囲で始められる規模であれば、個別開発を検討する理由はありません。

この条件の会社が個別開発を選ぶのは過剰です。初期費用と保守費用が、削減できる作業時間に見合いません。まずはクラウド型の製品で1か月分の実データを並走させ、残った手作業を確認してください。

連携開発に進む条件:独自の勤怠や基幹システムとの接続が残る場合

自社開発の勤怠システムや、生産管理・販売管理などの基幹システムに勤務実績が入っている会社では、既製品の給与計算システムに取り込むためのCSV加工が毎月残ります。派遣先請求やシフト管理と勤怠データを共有している場合も同じです。

この場合、給与計算そのものは既製品に任せ、勤怠データの受け渡し部分だけを開発する構成が費用対効果の高い選択になります。拠点や雇用区分ごとの変換ルールをプログラムに置くことで、型2の二重入力を根元から解消できる仕組みです。当社の勤怠管理システム開発では、既存の打刻端末や基幹システムを生かしたまま給与側へデータを渡す連携の設計から対応しています。給与計算システム全体を個別開発するかどうかの判断基準は、給与計算システムの機能・種類と個別開発の判断で詳しく扱っています。

費用面の事例:デジタル化・AI導入補助金の通常枠で補助される範囲

フジカーランド上田の事例はIT導入補助金を使った導入でした。この補助金は2026年度から「中小企業デジタル化・AI導入支援事業」に名称が変わっています。通常枠の公式ページでは、補助額は1プロセス以上で5万円以上150万円未満、4プロセス以上で150万円以上450万円以下、補助率は1/2以内(条件を満たす場合は2/3以内)とされています(2026年10月時点)。

給与計算は業務プロセスの区分「総務・人事・給与・教育訓練・法務・情シス・統合業務」に該当し、ソフトウェア購入費やクラウド利用料(最大2年分)が必須の対象経費です。公式ページでは6次締切が2026年10月30日17時と掲載されています。締切や要件は回ごとに変わるため、申請前に最新の公募要領を確認してください。

よくある質問

給与計算システムの導入事例を調べる担当者から寄せられやすい質問をまとめました。

給与計算システムの導入でどれくらい作業時間が減りますか?

公開事例では、12名の製造業で毎月半日程度の手入力がゼロになり、7拠点・104名の小売業で締日直前の作業が約10時間減っています。ただし削減幅を大きく左右するのは、拠点数、雇用区分の数、勤怠記録がすでにデジタルかどうかという条件です。導入前に勤怠集計・計算・確認・明細配付の4工程を分単位で測っておくと、自社でどの程度減るかを見積もれます。

従業員10名程度の小さな会社でも導入の効果はありますか?

あります。経済産業省が公開した事例は従業員12名の会社で、経営者が1人で抱えていた転記と計算の作業がなくなりました。小規模な会社ほど担当者が1人に集中しやすく、その人が不在になると給与が払えなくなるリスクがあります。無料プランや低価格のクラウド製品で始められる規模なので、費用面の負担も小さく抑えられます。

導入事例を探すときは、どこの情報を見ればよいですか?

導入前の作業時間と削減後の数値が両方書かれている資料を選んでください。官公庁や補助金事務局が公開する事例集は、企業規模や導入前の手順が具体的に書かれている傾向があります。ベンダーの導入事例を読む場合は、従業員数、対象工程、測定期間がそろっているかを確認し、欠けている事例は参考程度にとどめるのが無難です。

勤怠管理システムと給与計算システムは同時に導入すべきですか?

拠点が複数ある会社や、勤怠を紙やExcelで集計している会社では、同時に検討した方が効果が出ます。二重入力が発生するのは勤怠と給与の間であり、片方だけを入れると集計と再入力の工程が残るためです。すでに勤怠システムを使っている場合は、給与側へのデータの渡し方(API連携かCSVか)を先に確認してください。

給与計算をアウトソーシングするのとシステム導入はどちらがよいですか?

社内に給与担当者を置き続けられるか、で分かれます。担当者が確保できない、または退職リスクが高い場合は、委託が適した選択肢です。担当者がいて、勤怠の集計と転記に時間がかかっている場合は、システム導入で事例に近い削減が見込めます。委託範囲と料金の考え方は給与計算アウトソーシングの委託範囲と内製化の判断基準で比較しています。

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