決算書とは、1年間の決算の結果をまとめた書類一式の通称です。中小企業の場合、税理士から受け取る「決算報告書」の冊子と、法人税の申告書に添付する勘定科目内訳明細書・法人事業概況説明書までを含めて決算書と呼ぶのが実務の感覚に近いでしょう。この記事では、決算書一式に何が綴じられているかを法令の根拠とあわせて整理し、初めて読むときに見る3つの数字と、金融機関が内訳明細書で確かめる科目を示します。試算表から申告までの作成の流れと、会計ソフトやe-Taxのデータで出せる書類・出せない書類の違いまで扱います。
まとめ:決算書は計算書類と申告添付書類の一式、読む順番と作り方の結論
中小企業の決算書は、会社法が作成を求める計算書類(貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書・個別注記表)と、法人税の申告で添付する勘定科目内訳明細書・法人事業概況説明書からなります。前者は株主と債権者向け、後者は税務署向けの書類です。
初めて読むなら、純資産がプラスか、現預金が月商の何か月分あるか、営業利益が黒字か、の3点から見てください。融資の場面では、内訳明細書に載る役員への貸付金や仮払金の中身まで確かめられます。
会計ソフトは貸借対照表と損益計算書を仕訳から自動で作れます。一方、内訳明細書は取引先名や所在地が要るため、補助科目を設計していない帳簿では手で転記する作業が残る書類です。決算書づくりの手間を減らす鍵は、ソフトの乗り換えより先に、日々の仕訳にどこまで情報を持たせるかの設計にあります。
決算書とは何か、中小企業が税理士から受け取る決算書一式に綴じられる書類
決算書という言葉が指す範囲は、話し手によって少しずつ違います。まず法令上の書類との対応を確かめ、冊子の中身を順に見ていきます。
決算書は法令上の用語ではない、会社法の計算書類と法人税の添付書類の重なり
決算書は法律に定義のある言葉ではありません。対応する正式な書類は2系統あります。1つは会社法第435条2項が株式会社に作成を義務づける計算書類で、中身は会社計算規則第59条1項により貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書・個別注記表の4つと決まっています。
もう1つは法人税の確定申告書に添付する書類です。法人税法施行規則第35条は、貸借対照表と損益計算書(1号)、株主資本等変動計算書(2号)、勘定科目内訳明細書(3号)、事業等の概況に関する書類(5号)を挙げています。
| 書類 | 会社法の計算書類 | 法人税の添付書類 |
|---|---|---|
| 貸借対照表 | 含む | 含む |
| 損益計算書 | 含む | 含む |
| 株主資本等変動計算書 | 含む | 含む |
| 個別注記表 | 含む | 規定なし |
| 勘定科目内訳明細書 | 規定なし | 含む |
| 法人事業概況説明書 | 規定なし | 含む |
上場会社が金融商品取引法に基づいて作る財務諸表は、ここにキャッシュフロー計算書が加わった別の体系です。財務諸表の範囲と作成義務の違いは財務諸表の4つの計算書と作成義務を整理した記事で扱っています。
決算報告書の冊子に綴じられる書類、表紙から個別注記表までの一般的な並び
税理士事務所や会計ソフトが出力する「決算報告書」は、計算書類を1冊にまとめたものです。綴じ方に決まりはありませんが、次の並びが一般的です。
- 表紙(会社名・事業年度・「第◯期 決算報告書」の表題)
- 貸借対照表
- 損益計算書
- 販売費及び一般管理費内訳書
- 製造原価報告書(製造業や、原価計算をしている建設業・ソフトウェア業など)
- 株主資本等変動計算書
- 個別注記表
4番目の販管費内訳書は、損益計算書で1行にまとまった販売費及び一般管理費を、役員報酬・給料手当・地代家賃などの科目ごとに分けた明細です。法令上の計算書類ではありませんが、人件費や家賃の水準を知る手がかりになるため、金融機関はここをよく見ます。
個別注記表は数字の表ではなく、採用した会計方針や重要な後発事象を文章で記す書類です。中小企業では「重要な会計方針に係る事項」と「株主資本等変動計算書に関する注記」程度の1枚で済むことがほとんどでしょう。会計の処理方法を選ぶ拠り所として、中小企業庁は中小企業の会計に関する基本要領を公開しています。
申告書に添付する勘定科目内訳明細書16種類と法人事業概況説明書の役割
勘定科目内訳明細書は、貸借対照表と損益計算書の主な科目について、相手先・所在地・金額などの内訳を記す書類です。国税庁がe-Taxで公開している標準フォームは、令和6年3月1日以後に終わる事業年度分で16種類あります。
- 資産側:預貯金等、受取手形、売掛金(未収入金)、仮払金(前渡金)・貸付金及び受取利息、棚卸資産、有価証券、固定資産(土地・建物など)
- 負債側:支払手形、買掛金(未払金・未払費用)、仮受金(前受金・預り金)・源泉所得税預り金、借入金及び支払利子
- 損益側:土地の売上高等、売上高等の事業所別内訳、役員報酬手当等及び人件費、地代家賃等・工業所有権等の使用料、雑益・雑損失等
法人事業概況説明書は、事業内容・従業員数・月別の売上高・経理の状況などを1枚にまとめる書類です。金額は千円単位で書きます。令和6年3月1日以後終了事業年度分からの様式では、電子帳簿保存法の適用状況を示す欄が新設され、使っている会計ソフトの名称欄と並んで、経理のデジタル化の状況まで税務署に伝わる形になりました。
決算書の読み方、中小企業の決算書を貸借対照表と内訳明細書から読む順番
決算書は数十ページになることもありますが、最初から全部を読む必要はありません。見る順番を決めておくと、数分で会社の状態の見当がつきます。
最初に見る3つの数字、純資産の符号と現預金の月商倍率と営業利益
最初に見るのは次の3つの数字です。優先順位もこの順です。
- 貸借対照表の純資産合計:マイナスなら債務超過で、資産を全部売っても負債を返しきれない状態です。
- 貸借対照表の現金及び預金:損益計算書の売上高を12で割った月商と比べ、何か月分あるかを見ます。
- 損益計算書の営業利益:本業で稼げているかを示します。経常利益が黒字でも、営業利益が赤字なら本業以外の収入で埋めている状態です。
純資産を最初に置くのは、1期の赤字より、過去の赤字が積み上がった結果のほうが融資や取引の判断に響くからです。現預金が月商の1か月分を切っていれば、売上の入金が1回遅れるだけで支払いに困ります。
この3点で気になる数字が見つかったら、自己資本比率や流動比率などの指標で深掘りします。指標の計算と業種平均との比べ方は財務分析の5つの視点とやり方を中小企業の統計で解説した記事にまとめています。
金融機関が内訳明細書で確かめる、役員への貸付金と仮払金の中身
金融機関は、貸借対照表の数字だけでなく勘定科目内訳明細書まで読みます。資産に計上されていても、実際には回収できない、あるいは費用として処理すべきものが紛れやすい科目があるためです。
代表例は、役員や関係会社への貸付金と仮払金です。貸付金の内訳書に代表者の名前が載り、残高が毎期増えていれば、会社の資金が個人の支出に回っていると読まれます。仮払金が期末に残っている場合も、精算されていない経費や使途不明金の疑いがかかる科目です。金融機関の査定では、こうした科目を資産から差し引いて実質的な純資産を計算することが多く、帳簿上は黒字でも実質は債務超過と判断される場合があります。
売掛金の内訳書も同じです。同じ相手先の残高が何期も変わらないなら、回収できない債権が残っている疑いがあります。
他社の決算書を入手する方法、決算公告の貸借対照表と取引先への依頼
取引先の決算書を見たいとき、最初の入口は決算公告です。会社法第440条1項は、株式会社に定時株主総会の後遅滞なく貸借対照表を公告するよう求めています。大会社は損益計算書も対象です。
ただし公告方法が官報か日刊新聞の会社は、同条2項により貸借対照表の要旨で足ります。要旨では科目がまとめられているため、読めるのは総資産・負債・純資産の規模と利益剰余金程度です。自社サイトなどに載せる電子公告を選んだ会社は、全文を5年間掲載し続けます。
損益計算書や内訳明細書まで確かめたい場合は、取引開始の条件として直近2〜3期分の決算書の写しを依頼するのが一般的です。信用調査会社の企業情報を買う方法もありますが、中身は相手の申告内容に依存します。
決算書の作成フロー、決算日から申告と株主総会までの5工程と担当の分担
決算書は決算日の翌日から作り始め、法人税の申告期限までに仕上げます。工程を分けると、どこを自社で持ちどこを税理士に任せるかが決めやすくなります。
試算表の確定から申告書の提出まで、中小企業の決算書作成の5工程
中小企業の決算書は、おおむね次の5工程で作ります。
- 期中の記帳を締め、預金残高・売掛金・買掛金を証拠資料と突き合わせて残高試算表を確定する
- 棚卸・減価償却・引当金・未払や前払の経過勘定などの決算整理仕訳を入れる
- 決算整理後の試算表から貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書・個別注記表を作る
- 法人税・消費税の申告書と、勘定科目内訳明細書・法人事業概況説明書を作る
- 株主総会で計算書類の承認を受け、申告書を提出して納税し、決算公告を出す
期限の起点は決算日です。法人税の申告は決算日の翌日から2か月以内が原則で、3月決算なら5月末が締め切りになります。延長特例の条件や年間の日程は決算の種類と期限、流れを法律別に整理した記事で扱っています。
2番目の決算整理仕訳で入れる項目と仕訳の形は、決算整理仕訳の一覧と期末商品棚卸高の設例を解説した記事で確かめられます。
時間がかかるのは1番目と4番目です。1番目は証拠資料との照合、4番目は内訳明細書への転記が、どちらも帳簿の外の情報を必要とするためです。
自社で作る範囲と税理士に頼む範囲、決算書作成を分担するときの線引き
中小企業で多いのは、1番目の試算表の確定までを自社で行い、2番目から先を税理士に任せる分担です。決算整理には減価償却の方法や引当金の計上要件など税法の判断が絡み、申告書の作成は税理士の独占業務に当たる部分があるためです。
分担の線は、自社の経理がどこまで正確に締められるかで決めてください。預金残高と試算表の数字が月次で一致していない会社が決算整理まで抱えると、誤りの発見が遅れ、申告期限に追われます。反対に、毎月の試算表を5営業日前後で締められている会社は、決算整理仕訳の起票まで自社で持つと、税理士への依頼が確認中心になり、決算の日程も読みやすくなります。
会計ソフトから出せる決算書と出せない書類、e-Tax提出データまでの流れ
会計ソフトを入れれば決算書がすべて自動で出る、というわけではありません。書類ごとに、仕訳から直接作れるか、別の情報が要るかが分かれます。
会計ソフトが仕訳から出せる書類、貸借対照表・損益計算書・販管費内訳書
貸借対照表・損益計算書・販売費及び一般管理費内訳書は、勘定科目の残高と発生額を区分ごとに並べるだけで作れます。仕訳が正しく、科目の区分設定が合っていれば、決算整理後の試算表からそのまま出力できる書類です。
株主資本等変動計算書も、配当や増資のない中小企業なら当期純利益を足すだけなので、ほとんどの会計ソフトで自動作成できます。個別注記表は文章が中心のため、ひな形を選んで会社ごとに書き換える作業が残ります。
会計ソフトが財務諸表を作る仕組みの全体像は財務データを一元管理して財務諸表を作る財務会計システムの概要を解説した記事で説明しています。
内訳明細書は取引先名が要る、補助科目を設計すると転記作業が消える仕組み
勘定科目内訳明細書は、会計ソフトだけでは作りきれないことが多い書類です。売掛金の内訳書なら相手先の名称と所在地、借入金の内訳書なら借入先・期末残高・期中の支払利子と利率が要ります。仕訳が「売掛金」という科目だけで記録されていると、決算のたびに請求書や通帳を見ながら相手先別の残高を集計し直すことになります。
この転記は、補助科目の設計でほぼなくせます。売掛金・買掛金・借入金・預金に取引先や口座ごとの補助科目を設け、取引先マスタに所在地を持たせておけば、補助科目別の残高一覧がそのまま内訳書の元データになります。販売管理や請求のシステムから仕訳を取り込んでいる会社は、取り込み時に取引先コードを落とさないことが条件です。
e-Taxに出す財務諸表のCSV、勘定科目コードとファイル名の決まり
決算書は紙でなくデータでも税務署に出せます。資本金1億円を超える法人は、令和2年4月1日以後に開始する事業年度からe-Taxでの申告が義務で、添付書類もすべて電子で出す必要があります。
財務諸表をCSVで出す場合は、国税庁が定めるレコード内容に合わせます。ファイル名は様式ID・バージョン・財務諸表名をつないだ形で、文字コードはSHIFT-JISです。
- 貸借対照表:
HOT010_3.0_BS.csv - 損益計算書:
HOT010_3.0_PL.csv - 株主資本等変動計算書:
HOT010_3.0_SS.csv
各行の勘定科目は、国税庁が公開する勘定科目コードに対応づける決まりです。自社の科目体系がe-Taxの科目コードと1対1で対応していない場合、決算のたびに手で読み替えることになるため、科目マスタにe-Tax用のコードを持たせておくと出力が安定します。資本金1億円以下の会社は義務ではありませんが、同じ仕組みで電子提出できます。
会計ソフトの標準機能で足りる会社と、決算書の出力を作り込む3つの条件
単体の決算だけで、取引先の数が数十社程度、申告を税理士に任せている会社なら、市販の会計ソフトの標準機能で十分です。この段階で決算書の出力を独自に作り込むのは過剰で、勧めません。先に補助科目の設計と、月次で試算表を締める運用を整えるほうが効果は大きいでしょう。
作り込みを検討すべきなのは、次のいずれかに当たるときです。
- 販売管理・請求・給与など複数のシステムから仕訳を取り込んでおり、内訳明細書の元データを毎期手で集計し直している。
- 資本金1億円を超えてe-Taxでの電子申告が義務になり、自社の科目体系とe-Taxの科目コードの読み替えを毎期手作業で行っている。
- 子会社や拠点ごとに別の会計ソフトを使っており、グループ全体の決算書を表計算で合算している。
どの条件でも、作業量を決めるのは会計ソフトの機能より、周辺システムとの連携と科目・取引先マスタの設計です。既存の会計ソフトを残して連携部分だけを作るのか、基盤ごと入れ替えるのかを含めて、会計・経理システム開発のように要件の整理から相談できる開発会社に見積もりを取ると、次の決算に間に合う計画が立てられます。
よくある質問
決算書について、よく挙がる質問に答えます。
決算書と決算報告書は同じものですか?
ほぼ同じものを指しますが、範囲が少し違います。決算報告書は、貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書・個別注記表などの計算書類を1冊に綴じた冊子の呼び名で、税理士事務所や会計ソフトの出力でよく使われます。決算書はそれを含む広い通称で、金融機関が「決算書一式」と言うときは、法人税申告書と勘定科目内訳明細書まで含めて求めていることがほとんどです。提出を頼まれたら、どこまで必要かを先方に確かめてください。
決算書はいつまでに作ればよいですか?
実務上の締め切りは法人税の申告期限で、決算日の翌日から2か月以内です。3月決算なら、決算書と申告書の期限は5月末です。会社法上は定時株主総会で計算書類の承認を受ける必要があり、その総会の招集通知に計算書類を添える会社では、総会の1〜2週間前には完成させておく必要があります。定款で総会の時期を決算日から3か月以内としている会社が、申告期限の延長特例を使う例もあります。
赤字や債務超過の決算書でも融資は受けられますか?
赤字の決算書でも、融資が一律に断られるわけではありません。金融機関が見るのは、赤字の理由が一時的なものか、翌期に回復する見込みがあるかです。債務超過の場合は審査が厳しくなりますが、代表者からの借入金を資本とみなす扱いや、信用保証協会の制度を使える場合があります。銀行が実質的な純資産をどう見積もるか、資本性ローンを含む打ち手は債務超過でも融資を受けるための銀行の判断基準を解説した記事にまとめています。
個人事業主の決算書は法人と何が違いますか?
個人事業主が作る決算書は、青色申告なら青色申告決算書、白色申告なら収支内訳書で、所得税の確定申告書に添付します。法人と違い、株主資本等変動計算書や個別注記表、勘定科目内訳明細書はありません。青色申告決算書は損益計算書と貸借対照表が4ページにまとまった国税庁の様式で、65万円の青色申告特別控除を受けるには貸借対照表まで作る必要があります。申告の手順は個人事業主の確定申告のやり方と期限を解説した記事で扱っています。
決算書を税理士に頼まず自社で作ることはできますか?
できます。会社法にも法人税法にも、決算書の作成を税理士に依頼する義務はありません。会計ソフトで記帳から申告書の作成まで自社で行い、e-Taxで提出している中小企業もあります。ただし、減価償却や引当金、消費税の処理を誤ると追徴課税の原因になり、税務調査での説明も自社で担うことになります。取引が単純な設立初期なら自社で作り、取引先や従業員が増えた段階で税理士の確認を入れる、という段階的な判断が現実的でしょう。
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