財務諸表は、貸借対照表で「会社が持ちこたえられるか」、損益計算書で「本業で稼げているか」、キャッシュフロー計算書で「稼いだ利益が現金になったか」を順に確かめると読めます。この記事では、売上高5億円の部品卸を例に三表を2期分つないで読み、増収増益なのに現預金が2,500万円減った原因を売掛金まで辿りました。初心者がまず見る数字、三表をまたいで初めて見える6つの警告サイン、キャッシュフロー計算書の無い中小企業の決算書を読む方法、月次で三表を読む仕組みまで扱います。
まとめ:財務諸表は貸借対照表から読み始め、三表の数字のずれで経営の異変をつかむ
初めて読む会社の財務諸表は、貸借対照表の純資産と現預金から見ます。債務超過や手元資金の不足は、利益がいくら出ていても先に手を打つべき問題だからです。次に損益計算書で営業利益と売上総利益率を2期で比べ、最後にキャッシュフロー計算書で営業活動の現金が利益と同じ向きに動いているかを確かめます。
読み方の勘所は、1表の良し悪しではなく三表のずれにあります。売上が1割増えたのに売掛金が7割増えた、利益は黒字なのに営業キャッシュフローは赤字、という組み合わせは単表では見えません。設例の会社はこの形で、借入を3,500万円増やして資金を埋めていました。
自社の数字を毎月この順で読むなら、試算表から三表と指標が同じ定義で出てくる状態を先に作ります。年1回の決算書を読むだけなら表計算で足ります。
財務諸表の読み方の前提、三表がそれぞれ答える問いと数字がつながる接点
読む順番を決める前に、三表が別々の問いに答えていることと、数字がどこでつながっているかを押さえます。
三表が答える問いと最初に見る1行、貸借対照表・損益計算書・CF計算書の早見表
財務諸表等規則第1条は、財務諸表を貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書・キャッシュ・フロー計算書と附属明細表と定めています(e-Gov 財務諸表等規則)。読むときに主に使うのは、このうち三表です。
| 表 | 答える問い | 最初に見る1行 | 時点か期間か |
|---|---|---|---|
| 貸借対照表 | 持ちこたえられるか | 純資産合計と現金預金 | 期末の1日 |
| 損益計算書 | 本業で稼げているか | 営業利益 | 1年間 |
| キャッシュフロー計算書 | 利益が現金になったか | 営業活動によるキャッシュフロー | 1年間 |
三表の接点は2つです。損益計算書の当期純利益は配当などを差し引いて貸借対照表の純資産に積み上がり、キャッシュフロー計算書の期末残高は貸借対照表の現金預金と対応します。読み方の多くは、この接点の前後で数字の動きが合っているかを確かめる作業です。各表の定義と4つの計算書の一致点は財務諸表の種類と財務三表のつながりを解説した記事で詳しく扱っています。
中小企業の決算書にCF計算書が無い理由と、2期の貸借対照表で代わりに読む方法
会社法が株式会社に作成を求める計算書類は、貸借対照表と損益計算書に、会社計算規則第59条第1項が定める株主資本等変動計算書と個別注記表を加えた4つです。キャッシュフロー計算書は入っていません。税理士から受け取る中小企業の決算書に綴じられていないのは、このためです。
代わりに、2期分の貸借対照表と当期の損益計算書から営業活動の現金の動きを概算できます。式は「当期純利益+減価償却費-売掛金の増加-棚卸資産の増加+買掛金の増加」です。金融庁の連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準が定める間接法の考え方を、主要な科目だけで当てはめたもので、未払法人税等や前受金が大きく動いた期はその増減も足し引きします。精算表で正式に作る手順は関連記事に回し、読むための概算ならこの5項目で足ります。
財務諸表を読む順番、貸借対照表から損益計算書・CF計算書へ進む5つの手順
手順は5つです。貸借対照表で2つ、損益計算書で1つ、キャッシュフロー計算書で2つの数字を確かめます。すべて前期と並べて見ます。
手順1と手順2 純資産の符号と現預金の月商倍率で、存続の不安を先に消す
手順1は純資産合計の符号です。マイナスなら債務超過で、資産をすべて売っても負債を返しきれないという状態です。損益計算書の分析より先に、増資や役員借入金の資本組み入れなど、資本の手当てが必要な段階かを判断します。プラスなら、純資産を総資産で割った自己資本比率を前期と比べます。
手順2は現金預金を月商で割った月商倍率です。売上高を12で割った月商の何か月分の現金があるかを示します。本稿では1か月を下回ったら資金繰りの点検を優先する目安にしています。仕入代金や給与の支払いが売掛金の回収より先に来る業種では、1か月分の現金が払い終えた時点で底をつくためです。
手順3 損益計算書で営業利益と売上総利益率を見て、本業の稼ぐ力を2期で比べる
損益計算書では、まず営業利益の符号と前期差を見ます。営業利益は売上総利益から販売費及び一般管理費を引いた本業の利益で、営業外の受取利息や特別利益に左右されません。次に売上総利益率を2期で比べ、利益の増減が売上の量によるものか、値入れの厚さによるものかを切り分けます。
三表を横断して読む段階では、損益計算書はこの2点に絞ってかまいません。売上高・原価率・販管費率の3要因に分けて減益の原因を金額で突き止める手順は、損益計算書を5つの利益の順に読む手順を解説した記事にまとめています。
手順4と手順5 営業CFと当期純利益の差を見て、3区分の符号の組み合わせを読む
手順4は、営業活動によるキャッシュフローと当期純利益の比較です。作成基準は営業活動を「営業損益計算の対象となった取引のほか、投資活動及び財務活動以外の取引」と定めており、本業の現金収支にあたります。利益が黒字なのに営業キャッシュフローが赤字なら、利益が売掛金や在庫に姿を変えて現金になっていません。
手順5は、営業・投資・財務の3区分の符号の組み合わせです。営業がプラスで投資と財務がマイナスなら、本業の現金で設備投資と借入返済をまかなえている形です。営業がマイナスで財務がプラスなら、本業の不足を借入で埋めています。符号の組み合わせ8通りの読み方はキャッシュフロー3区分の意味と利益とのズレを解説した記事で一覧にしています。
読む目的で起点を変える、取引先の与信は貸借対照表、自社の改善は損益計算書から
上の順番は、初めて見る会社を判断するときの読み方です。取引先の与信、融資の審査、出資先の確認では、相手が来年も存在するかが最初の問いになるので、貸借対照表から入ります。
自社の業績改善が目的なら、損益計算書から入ってかまいません。自社の現預金や純資産は経営者が日々把握しており、知りたいのは「どこで利益が削られたか」だからです。ただし、どちらの起点でも最後はキャッシュフロー計算書で裏を取ります。利益の改善策が売掛金や在庫を膨らませていないかは、損益計算書だけでは確かめられません。
設例で読む財務諸表、売上高5億円の部品卸の三表を2期分つないで読んだ結果
産業用部品を卸す架空の会社で、前期の売上高は4億5,000万円、当期は5億円です。金額の単位はすべて万円です。
設例の会社の貸借対照表と損益計算書、2期分の要約と5つの指標の変化
2期分の損益計算書と期末の貸借対照表を要約しました。
| 項目 | 前期 | 当期 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 45,000 | 50,000 | +5,000(+11.1%) |
| 営業利益 | 1,800 | 2,500 | +700(+38.9%) |
| 当期純利益 | 1,155 | 1,575 | +420 |
| 現金預金 | 6,000 | 3,500 | -2,500 |
| 売掛金 | 7,500 | 12,500 | +5,000(+66.7%) |
| 棚卸資産 | 4,500 | 6,500 | +2,000 |
| 有形固定資産 | 6,000 | 7,000 | +1,000 |
| 買掛金 | 4,500 | 5,000 | +500 |
| 借入金(短期+長期) | 7,000 | 10,500 | +3,500 |
| 純資産 | 12,000 | 13,500 | +1,500 |
| 総資産 | 24,500 | 30,000 | +5,500 |
手順に沿って読むと、純資産はプラスで、自己資本比率は49.0%から45.0%へ下がりました。現預金の月商倍率は1.6か月から0.8か月に半減し、手順2の目安を割っています。損益計算書は増収増益で、売上総利益率は25.0%のまま、営業利益率は4.0%から5.0%に上がりました。損益計算書だけを見れば、好調な1年です。
当期のキャッシュフロー計算書、営業CFが4,325万円のマイナスになった内訳
当期のキャッシュフロー計算書を間接法で作ると次のとおりです。税引前当期純利益2,250万円から出発します。
| 区分 | 項目 | 金額 |
|---|---|---|
| 営業活動 | 税引前当期純利益 | 2,250 |
| 営業活動 | 減価償却費 | 600 |
| 営業活動 | 売上債権の増加 | -5,000 |
| 営業活動 | 棚卸資産の増加 | -2,000 |
| 営業活動 | 仕入債務の増加 | 500 |
| 営業活動 | 法人税等の支払額 | -675 |
| 営業活動 | 小計 | -4,325 |
| 投資活動 | 有形固定資産の取得 | -1,600 |
| 財務活動 | 借入金の増加(純額) | 3,500 |
| 財務活動 | 配当金の支払 | -75 |
| 合計 | 現金預金の増減 | -2,500 |
営業がマイナス、投資がマイナス、財務がプラスの組み合わせです。本業で現金が4,325万円出ていき、さらに設備に1,600万円を使い、不足を借入3,500万円と手元の現預金2,500万円で埋めた1年でした。当期純利益1,575万円が黒字なのに、営業キャッシュフローは赤字です。手順4で止まるべき形にあたります。
増収増益なのに現預金が減った原因を、売掛金回転期間3.0か月まで辿る
営業キャッシュフローを押し下げた最大の項目は、売上債権の増加5,000万円です。売掛金を月商で割った売掛金回転期間は、前期の2.0か月から当期は3.0か月に延びました。売上が11.1%増えたのに売掛金は66.7%増えており、売上の伸びでは説明できません。
回転期間が前期と同じ2.0か月なら、当期の売掛金は約8,333万円で済み、約4,167万円の現金が手元に残っていた計算です。借入の増加3,500万円をほぼ不要にする金額になります。棚卸資産も売上原価の月平均で割ると1.6か月から2.1か月に延びていて、2,000万円の増加のうち約1,500万円は売上の伸びを超えた積み増しです。
ここまで辿れば、確かめるべきことは決まります。大口の取引先に支払サイトの延長を認めたのか、回収が遅れている先があるのか、期末に売上を押し込んだのか。原因の切り分けと取引先別の監視の方法は、売掛金回転期間の計算式と悪化要因の分解を解説した記事で扱っています。
三表をまたいで読む経営判断のチェック点、単表では見えない6つの警告サイン
設例の異変は、損益計算書と貸借対照表とキャッシュフロー計算書を並べて初めて見えました。同じように、2つ以上の表を組み合わせて読むと見つかる警告サインを6つ挙げます。
6つの警告サインの早見表、組み合わせる数字と疑う事態・最初に開く資料
上から順に、見落としたときの影響が大きいものを並べています。実務でまず押さえるのは上の3つです。
| 警告サイン | 組み合わせる数字 | 疑う事態 |
|---|---|---|
| 1. 利益は黒字、営業CFは赤字 | PLの当期純利益とCFの営業区分 | 回収遅れ・在庫の滞留 |
| 2. 売掛金の伸びが売上の伸びを超える | PLの売上高とBSの売掛金 | 支払サイト延長・押し込み販売 |
| 3. 営業CFの不足を借入で埋める | CFの営業区分と財務区分 | 運転資金の慢性的な不足 |
| 4. 在庫の伸びが売上原価の伸びを超える | PLの売上原価とBSの棚卸資産 | 売れ残り・評価損の先送り |
| 5. 設備投資が減価償却費を大きく上回る | CFの投資区分とPLの減価償却費 | 拡大投資の回収見込み |
| 6. 純資産の増加と当期純利益が合わない | BSの純資産とPLの当期純利益 | 配当・自己株式・評価差額 |
1と2が同時に出ている場合、架空売上や循環取引でも同じ形になります。社内の数字なら取引先別の売掛金残高で、他社の数字なら翌期に売掛金が回収されて縮んだかで確かめます。設例は1から5まで該当し、6は配当75万円で説明がつきました。
警告サインが出たときに開く資料、勘定科目内訳明細書と月次推移で原因を確かめる
三表で異変を見つけても、原因は三表の中には書かれていません。次に開くのは2つです。
1つは法人税の申告書に添付する勘定科目内訳明細書です。売掛金と棚卸資産の内訳が取引先別・品目別に載っているので、増えた売掛金が特定の1社に偏っているかを確かめられます。決算書一式のどこに綴じられているかは中小企業の決算書一式の中身と読む順番を解説した記事を参照してください。
もう1つは月次の試算表です。期末の貸借対照表は1日の断面なので、売掛金が期末だけ膨らんだのか、期中ずっと高かったのかは分かりません。月末残高を12か月並べ、期末月だけ突出していれば押し込み、緩やかに増え続けていれば回収条件の変化を疑います。
財務諸表の読み方で起きる失敗、1期だけ・単表だけ・期末の断面だけで判断する例
よくある失敗は3つあり、影響が大きい順に並べます。
最も多いのは損益計算書だけで判断する失敗です。設例の会社を損益計算書だけで評価すると、営業利益39%増の優良な取引先に見えます。与信枠を広げた翌年に回収が止まる、という順序で損失が出ます。
次は1期だけを見る失敗です。自己資本比率45%は単独なら厚く見えますが、前期の49%から下がっている事実は2期並べないと分かりません。3期あれば傾向として判断できます。
3つ目は、季節変動の大きい業種で期末の貸借対照表を通年の姿とみなす失敗です。決算月が繁忙期の直後なら現預金が多く、直前なら在庫が多く見えます。この3つを避けるだけで、財務諸表の読み違いの大半は防げます。
財務諸表を月次で読む仕組み、試算表から三表をダッシュボードにまとめる設計と判断
年1回の決算書で異変に気づいた時点では、すでに1年分の現金が出ていった後です。設例の売掛金の悪化も、月次で回転期間を見ていれば数か月早く気づけました。
月次で三表を出す前提、締めの日程と試算表から簡易CFを毎月作る手順
月次で三表を読むには、月末から決まった日数で試算表を締めることが前提です。締めの日がぶれると、前月との比較が崩れます。
- 月末から5営業日前後で試算表を確定する
- 減価償却費と賞与を月割りで計上し、月ごとの利益のぶれを抑える
- 前月末と当月末の貸借対照表の差から、前章の5項目で営業キャッシュフローを概算する
- 売掛金回転期間・在庫回転期間・現預金の月商倍率を、直近3か月の月商で計算する
4つ目で直近3か月の月商を使うのは、単月の売上で割ると季節変動で指標が跳ねるためです。毎月同じ手順を回すと、6つの警告サインのうち1から4が月次で追えるようになります。
表計算で足りる会社と、三表の月次ダッシュボードをシステムで作り込む条件
年に1〜2回、決算書と中間の試算表を読む程度なら、会計ソフトから試算表を書き出して表計算で5つの指標を計算すれば足ります。勘定科目の使い方が担当者ごとにばらついている段階でシステム化を急ぐのは見送ってください。定義の揃わない数字を自動で集めても、推移は読めません。
作り込む価値が出るのは、拠点や部門ごとに三表と指標を毎月出し、取引先別の売掛金や品目別の在庫まで掘り下げて見たい場合です。会計データと販売・在庫のデータをつなぐ必要があり、表計算の転記が月10時間を超えた段階が仕組み化を考える目安です。表示側の設計は経営ダッシュボードの指標の決め方とデータ連携を解説した記事で整理しています。データ側では、会計・経理システム開発のように、勘定科目と補助科目の設計、販売・在庫システムとの連携、月次の簡易キャッシュフローの自動計算までまとめて相談できる先を選ぶと、三表と警告サインを同じ定義で毎月出せます。
よくある質問
財務諸表の読み方について、初心者からよく挙がる質問に答えます。
財務諸表の読み方を初心者が身につけるには、何から始めればよいですか?
自社か、関心のある会社の財務諸表を2期分用意し、本稿の5つの手順で純資産・現預金の月商倍率・営業利益・営業キャッシュフロー・3区分の符号の5つだけを書き出すところから始めます。科目をすべて理解してから読もうとすると挫折しやすく、数字を5つに絞って前期と比べる練習を3社ほど繰り返すほうが早く身につきます。簿記の仕訳の知識が必要になるのは、読み違いの原因を調べる段階です。
財務諸表の作り方を知らなくても、読むことはできますか?
読めます。ただし、貸借対照表と損益計算書が同じ仕訳から同時に作られる仕組みを知っておくと、警告サインの原因を推定しやすくなります。たとえば掛けで売上を計上すると、損益計算書の売上高と貸借対照表の売掛金が同時に増え、現金はまだ動きません。作り方そのものは会計ソフトが仕訳から自動で行い、キャッシュフロー計算書だけは精算表で組み替える作業が残ります。
財務諸表で一つだけ数字を見るなら、どれを見ればよいですか?
他社を判断するなら、営業活動によるキャッシュフローを見ます。利益は会計方針や見積りで動きますが、現金の出入りは動かしにくく、本業が実際に現金を生んでいるかが分かります。キャッシュフロー計算書が無い中小企業の決算書なら、2期分の貸借対照表から本稿の5項目で概算してください。自社の月次管理なら、営業利益と現預金の月商倍率の2つを組で見ます。
上場企業の財務諸表はどこで読めますか?
金融庁のEDINETで、有価証券報告書を無料で閲覧できます。財務諸表は「経理の状況」の章に載っており、連結財務諸表と、親会社単体の財務諸表の2組に分かれた構成です。グループ全体の実力を見るなら連結を読みます。各社のIRサイトの決算短信は有価証券報告書より早く出るので、速報値の確認に向いています。
財務諸表と決算書の読み方は同じですか?
三表を読む手順は同じです。違いは綴じられている書類で、上場企業の財務諸表にはキャッシュフロー計算書が含まれますが、中小企業の決算書には通常含まれません。代わりに中小企業の決算書には勘定科目内訳明細書が付いており、売掛金や借入金の相手先まで確かめられます。三表の横断は2期分の貸借対照表で補い、原因の確認は内訳明細書で行うのが中小企業の決算書の読み方です。
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