タックマンモデルは、心理学者ブルース・W・タックマンが1965年に発表した、小集団が形成期・混乱期・統一期・機能期を経て成熟するという発達段階モデルです。1977年に散会期が加わり、現在は5段階で紹介されます。半世紀以上前の理論なので「今のチームにも当てはまるのか」という疑問が生じます。実際、後続研究からは「段階どおりに進まないチームがある」という反証も出ています。
この記事では、5段階それぞれの特徴とリーダーの打ち手を整理したうえで、原典論文が何を根拠にしていたか、どんな批判があるか、メンバーが頻繁に入れ替わる今のチームでどう使えばよいかまで解説します。
まとめ:タックマンモデルの限界と対話への使い方
- タックマンモデルは、Tuckman(1965)が50文献をレビューして提唱した4段階(forming・storming・norming・performing)に、1977年の再検討で5段階目(adjourning)を加えたものです。
- 原典は療法集団の研究に偏っており、タックマン自身が「一般化には注意が必要」と書いています。1977年の再検討でも、仮説を直接検証した研究は22件中1件だけでした。
- Gersick(1988)は、期限のある8チームがどれも初回会合と期限のちょうど中間点で大きく転換することを示し、段階を順に進むモデルへの反証になりました。
- このため「全チームが必ずこの順に進む」という法則として扱うのは誤りです。一方で、チームがいまどんな状態かをメンバーで話し合う共通言語としては今も役に立ちます。
- 期限の短いプロジェクトやメンバーの入れ替わりが多いチームでは、中間点の見直しやDynamic Reteamingの考え方と組み合わせて使います。
タックマンモデルの5段階と各段階の特徴
5段階の日本語訳は定まっておらず、「形成期・混乱期・統一期・機能期・散会期」のほか、「激動期」「規範形成期(規範期)」「実現期」「終了期」とも訳されます。英語名で覚えておくと資料ごとの表記ゆれに迷いません。
| 段階 | 英語名 | 別の訳語 | チームの状態 |
|---|---|---|---|
| 形成期 | Forming | — | 様子見・リーダーへの依存 |
| 混乱期 | Storming | 激動期 | 意見の対立・役割への反発 |
| 統一期 | Norming | 規範形成期・規範期 | ルールと一体感ができる |
| 機能期 | Performing | 実現期 | 役割が噛み合い成果が出る |
| 散会期 | Adjourning | 終了期 | 目的を終えて解散する |
形成期:メンバーが様子を見てリーダーに頼る段階
1965年論文は、この段階を「testing and dependence(試しと依存)」と呼びました。メンバーはどんな振る舞いが許されるかを、リーダーや他のメンバーの反応を見ながら探っています。発言は少なく、判断をリーダーに委ねがちです。
リーダーがすべきことは、チームの目的と期限、各自の役割、意思決定の方法を最初に言葉にすることです。ここを曖昧にしたまま進めると、次の混乱期で「そもそも何のためのチームか」から揉めることになります。
混乱期:対立を避けずに乗り越える段階
1965年論文では「intragroup conflict(集団内の葛藤)」にあたり、レビューした療法集団の研究26件のうち13件がこの段階を確認しています。メンバーが遠慮をやめて意見を出し始め、進め方や役割分担への不満が表に出ます。
混乱期の対立には、本音が表に出る場合も、関係の悪化や協働の破綻につながる場合もあります。リーダーは対立を抑え込まず、論点を「人」ではなく「目的に照らしてどちらが良いか」に移します。反対意見を言っても不利益を受けない状態が前提になるため、心理的安全性の考え方がこの段階で効いてきます。
統一期:ルールと一体感ができる段階
原典の表現は「development of group cohesion(集団凝集性の発達)」です。メンバーがチームを受け入れ、互いの癖も許容するようになり、チーム独自の規範が生まれます。
リーダーは決まったルールを明文化し、役割を少しずつメンバーに委ねます。注意したいのは、一体感を守ろうとして反対意見が出にくくなることです。集団が同調へ傾く力学はグループダイナミクスの研究で扱われてきました。
機能期:柔軟な役割分担による課題遂行
機能期は、原典では「functional role-relatedness(機能的な役割関係)」と呼ばれ、メンバーが課題に合わせて役割を柔軟に切り替えられる状態です。リーダーは細かな指示をやめ、外部との調整や障害の除去に回ります。
散会期:活動終了と知見の引き継ぎ
散会期は1977年に追加された段階で、プロジェクト完了や組織変更でチームが解散する時期を指します。成果の振り返り、学んだことの記録、メンバーの次の配置の相談までを「終わらせ方」として計画しておくと、次のチームに知見を持ち越せます。
原典論文で見るタックマンモデルの成り立ち
原典は、4段階を提唱した1965年論文と、散会期を追加した1977年論文です。研修資料で紹介される5段階の図は、この2本の論文を簡略化したものです。
1965年論文:50文献のレビューと「集団構造」「課題活動」の2系統
原典は Tuckman, B. W. (1965) “Developmental Sequence in Small Groups”, Psychological Bulletin, 63(6), 384-399 です(DOI: 10.1037/h0022100)。タックマンは実験を行ったのではなく、集団の発達段階を扱った50文献を「療法集団」「Tグループ(人間関係の訓練集団)」「自然集団・実験室集団」の3系統に分けてレビューしました。
見落とされがちなのは、段階を2つの系統で並行して記述している点です。
| 段階 | 集団構造(人間関係) | 課題活動(仕事の中身) |
|---|---|---|
| 1 Forming | 試しと依存 | 課題への方向づけ |
| 2 Storming | 集団内の葛藤 | 課題要求への感情的反応 |
| 3 Norming | 凝集性の発達 | 関連する意見の交換 |
| 4 Performing | 機能的な役割関係 | 解決策の出現 |
つまり混乱期の対立は、人間関係の摩擦だけでなく「課題の要求が重い」という反応としても現れます。チームが揉めているときは、人間関係に加えて、課題の要求と各メンバーの考えが食い違っていないかも確認します。
語呂のよいforming・storming・norming・performingの名称はタックマン本人が付けたもので、本人も1984年のCitation Classicへの回顧文で、この名称が論文の人気につながったのだろうと述べています。
1977年の再検討:22研究から散会期を追加
Tuckman, B. W. & Jensen, M. A. C. (1977) “Stages of Small-Group Development Revisited”, Group & Organization Studies, 2(4), 419-427(DOI: 10.1177/105960117700200404)で、1965年以降の22研究が再検討されました。その結果として5段階目のadjourningが仮説に加わりました。タックマンは後に、韻を踏む名称が見つからなかったのでadjourningと呼んだと振り返っています。
同じ論文は、22研究のうち1965年の仮説を直接検証しようとした研究は1件だけだったと報告し、さらなる実証研究が必要だと結論しています。5段階モデルは、検証済みの法則ではなく仮説として提示されたものです。
タックマンモデルは古いのか:批判と後続研究
結論から言うと、タックマンモデルを「どのチームもこの順番で進む」という法則として使うのは古い使い方です。根拠は次の3点です。
原典が認めるサンプルの偏り
タックマン自身が1965年論文で、レビュー対象では療法集団が過大に、自然集団と実験室集団が過小に代表されているため、一般化には注意が必要だと書いています。また、療法集団・訓練集団・自然集団の研究の多くは単一の集団を観察したもので、観察も数量ではなく質的な記述でした。観察者はたいていセラピストかトレーナー本人で、その偏りを受けるとも指摘しています。
職場のプロジェクトチームは、治療や自己成長のために集まった集団とは目的が違います。原典の段階がそのまま当てはまる保証はありません。
Gersick(1988):期限の中間点で転換するチーム
Connie Gersickは “Time and Transition in Work Teams: Toward a New Model of Group Development”(Academy of Management Journal, 31(1), 9-41, 1988/DOI: 10.5465/256496)で、期限のある8つの実際のチームを観察しました。どのチームも、従来の発達モデルが予測するように普遍的な段階を少しずつ進むことはありませんでした。
代わりに見られたのは、初期に決めた進め方を続ける停滞の時期と、急激な変化が交互に来るパターン(punctuated equilibrium:断続平衡)です。しかも各チームは、与えられた期間の長さが違っても、初回会合から公式の期限までのちょうど中間点で大きな転換を経験しました。
実務への応用案として、期限の決まったプロジェクトでは期間の中間点に進め方を見直す場を設けられます。ただし、Gersick自身も中間点の転換は前進の「機会」であって「保証」ではないと述べており、見直しの場を設けても成果が約束されるわけではありません。
メンバーが入れ替わるチーム:Dynamic Reteamingの5パターン
タックマンモデルの段階だけでは、加入・離脱やチーム再編の進め方までは判断できません。一方、実際の開発組織では、採用・異動・組織再編でメンバー構成が変わり続けます。
Heidi Helfandの『Dynamic Reteaming』第2版(O’Reilly Media、2020年6月)は、チームの組み替えを避けるべき事故ではなく前提として扱い、次の5つのパターンに整理しています。邦訳は『ダイナミックリチーミング 第2版』(オライリー・ジャパン、2025年3月26日発行)です。
- One by one:1人ずつ加入・離脱する
- Grow and split:大きくなったチームを分ける
- Isolation:一部のメンバーを切り出して別の課題に当てる
- Merging:複数のチームを統合する
- Switching:メンバーがチーム間を移る
メンバーの加入を毎回「チーム全体の振り出し」と捉えると、既存メンバー間に残る協働関係や仕事の進め方を見落とします。組み替えを前提にするなら、段階を順に上るものではなく、組み替えのたびに一部が揺り戻されるものとして捉えるほうが実態に合います。
今のチームでタックマンモデルを使う方法
振り返りでのタックマンモデルによる認識の共有
もっとも無理のない使い方は、振り返りの場で5段階の表を見せ、「いまどの段階に近いか」「そう感じる出来事は何か」をメンバーに聞くことです。答えが割れれば、それ自体がチーム内の認識のずれを示す情報になります。リーダーが一方的に「うちは混乱期だ」と判定するより、対話のきっかけとして使うほうが原典の性格(検証途中の仮説)にも合います。
スクラムのように定期的な振り返りの場があるチームなら、スクラムチームの作り方で扱う文化づくりの手順と組み合わせると定着させやすくなります。
タックマンモデルによる判断を避ける場面
次のような場面では、タックマンモデルを判断の根拠にしないでください。
- 短期プロジェクトで段階の進行を待って対応を先延ばしにする場面:段階の判定より、期限から逆算した進捗確認と課題への対応を優先します。
- 案件ごとにメンバーが集まっては解散する体制:固定メンバーを前提にしないチーミングの考え方のほうが合います。
- メンバーの評価:「あの人がいるから混乱期を抜けない」といった個人の評価にモデルを使うのは誤用です。モデルが記述するのは集団の状態で、個人の能力ではありません。
効果的なチームの条件を段階ではなく要因で見たい場合は、Googleの社内調査であるプロジェクトアリストテレスが参考になります。
よくある質問
タックマンモデルは古いですか?
原典は1965年の論文で、療法集団に偏った文献レビューから生まれた仮説です。Gersick(1988)が段階どおりに進まないチームを示したこともあり、すべてのチームに当てはまる法則としては古いと言えます。ただし、チームの状態を話し合う共通言語としては今も使えます。
タックマンモデルの5段階とは何ですか?
形成期(Forming)、混乱期(Storming)、統一期(Norming)、機能期(Performing)、散会期(Adjourning)の5つです。1965年に4段階で提唱され、1977年に散会期が加わりました。混乱期は「激動期」、統一期は「規範形成期」と訳されることもあります。
タックマンモデルの原典論文は何ですか?
Tuckman(1965)“Developmental Sequence in Small Groups”(Psychological Bulletin, 63巻6号)と、Tuckman & Jensen(1977)“Stages of Small-Group Development Revisited”(Group & Organization Studies, 2巻4号)の2本です。
タックマンモデルについて学べる本はありますか?
タックマンモデルは論文で発表されたモデルなので、まずモデルの根拠を確認するには、本文で紹介した1965年・1977年の原典論文を参照できます。チームの組み替えまで含めて考えたい場合は、Heidi Helfand著『ダイナミックリチーミング 第2版』(オライリー・ジャパン、2025年)が、メンバーの入れ替わりを前提にしたチームの考え方を5つのパターンで解説しています。
タックマンモデルとチームビルディングの関係は?
チームビルディングは、メンバーが協力して成果を出せるチームをつくる取り組みの総称です。タックマンモデルはその過程でチームがどんな状態を通りうるかを示す枠組みで、段階ごとにどんな打ち手が要るかを考える手がかりとして使われます。