シャドーITとは何か?企業内で許可なく使われる非公認のITツールやサービスの定義と重要性を徹底解説

目次
- 1 シャドーITとは何か?企業内で許可なく使われる非公認のITツールやサービスの定義と重要性を徹底解説
- 2 シャドーITが発生する原因と背景:なぜ従業員は非公式なITツールやクラウドサービスを無断利用するのか?
- 3 シャドーITの代表的な利用シーンと具体例:業務で使われる非公認アプリやサービスの実例を詳しく紹介
- 4 シャドーITが抱えるリスク・問題点:セキュリティ侵害から生産性低下まで多岐にわたる影響を詳しく解説
- 5 シャドーITによる情報漏洩の危険性:非公式サービス利用が招くデータ流出リスクとその深刻性について解説
- 6 シャドーITが企業にもたらす影響と経営リスク:IT統制喪失によるコンプライアンス違反や業務停滞の可能性を考察
- 7 BYOD(私物端末の業務利用)との違い:シャドーITとの関連性とセキュリティ管理の相違点を解説
- 8 シャドーITへの対策・防止策:企業が取るべきセキュリティポリシー整備と従業員教育の具体策を解説
シャドーITとは何か?企業内で許可なく使われる非公認のITツールやサービスの定義と重要性を徹底解説
シャドーITとは、企業や組織が公式に許可・把握していないまま従業員によって使用されているIT機器・ソフトウェア・クラウドサービスなどを指す言葉です。要するに、会社のIT部門が認可していない「影のIT」利用がシャドーITです。近年、このシャドーITが多くの企業で存在感を増しており、その定義や重要性を理解することがビジネス上ますます重要になっています。
シャドーITの定義と範囲:企業のIT管理外で利用されるツール・サービスとは何かを徹底解説
シャドーITの定義としては、企業内でIT部門の管理外で使用されるあらゆるデバイス・アプリ・サービスが含まれます。例えば、会社が承認していない個人所有のスマートフォンやノートPCを業務に使う場合、また従業員が自分で契約したクラウドストレージやSNSツールで業務データをやり取りする場合など、これらは全てシャドーITに該当します。範囲は広く、ハードウェア(PC・スマホ・タブレット等)からソフトウェア(勝手にインストールしたアプリ)やクラウドサービス(個人アカウントのオンラインストレージ、ウェブサービス)まで多岐にわたります。「組織のIT管理下にないIT利用」がキーワードであり、そのようなツールやサービスは社内規程上許可されていなくても、現場の判断で密かに使われているのです。
「シャドーIT」という用語の由来と意味:なぜ“影”と呼ばれるのか?その背景を徹底
シャドーITという言葉は、英語の“Shadow IT”に由来します。「影のIT」という直訳の通り、公式には見えない場所で行われているIT活用を表現したものです。企業のIT部門や経営層の目が届かない「影」で従業員が独自にITを使っている状況から、このように呼ばれています。言い換えると、組織の日向(公式のITシステム)の裏側にある影の部分で動いているITだからシャドーITなのです。この用語は2000年代以降、クラウドサービスの普及とともに一般化しました。背景には、従来は会社が導入する大型システムだけがITだったのに対し、近年は個人レベルで使える優れたITツールが増え、社員が勝手にそれらを使うケースが増えたという事情があります。その結果生まれた概念がシャドーITであり、「影」と呼ぶことで非公式・非公認であるニュアンスを伝えています。
社内で密かに使われるクラウドサービスや個人端末の例:シャドーITの典型パターンを詳しく紹介
シャドーITにはどんな具体例があるのでしょうか。典型的なパターンとしては、従業員が自分の個人クラウドサービスを業務に使うケースが挙げられます。例えば会社で禁止されているにもかかわらず、個人のGoogleドライブやDropboxに社内資料をアップロードして共有するといった行為です。また、私物のUSBメモリにデータを入れて持ち帰るのもシャドーITの一例です。他にも、社員同士の連絡に社内承認されていないチャットアプリ(LINEやWhatsAppなど)を使用する、許可されていないウェブ会議ツールを勝手に利用する、といった行動もあります。ハードウェア面では、個人所有のスマホ・タブレット・ノートPCを会社ネットワークに無断で接続して業務に使うケースも代表的です。これらはいずれも公式な手続きを踏まずに「密かに」行われるため、社内では把握されにくく、シャドーITの典型例となっています。
増加するシャドーIT:クラウドサービスの普及とテレワーク環境が背景にある現状を多角的に分析
シャドーITが増加している背景には、現代のビジネス環境の変化が大きく影響しています。まずクラウドサービスの普及があります。近年は仕事に使える優れたクラウドアプリケーションやSaaS(Software as a Service)が数多く登場し、その多くはウェブサイトから簡単に利用開始できてしまいます。従業員は管理部門の許可を得ずとも、自分でアカウント登録をするだけで便利なITツールを使えてしまうため、「ちょっと試す」つもりで導入したものがそのまま業務に定着してしまうのです。またテレワークや在宅勤務の拡大もシャドーITを後押ししています。社員がオフィス外で働く機会が増える中、社内ネットワークや公式のITサポートから離れた環境で仕事をするため、自己判断で使いやすいツールを選んでしまう傾向があります。上司やIT部門の目が行き届きにくい在宅環境では、本人の裁量で非公認ツールを利用しやすく、結果としてシャドーITが発生しやすくなります。このように技術の進歩と働き方の多様化が相まって、シャドーITが広がる土壌が生まれているのです。
企業ITガバナンスの盲点となる理由:IT部門が把握できない利用の実態と課題を考察
シャドーITは企業のITガバナンス(IT統制)にとって大きな盲点です。本来、企業のIT部門は社内で使われるシステムやツールを統括し、セキュリティやサポート体制を確保する責任があります。しかし、シャドーITはIT部門の視界に入っていないため、そうした管理体制の外側に存在してしまいます。例えば部署ごとに独自に使っているツールがあっても、報告されなければIT部門は実態を把握できません。その結果、何が社内で起きているか見えない「盲点」が生じます。この盲点があると、セキュリティ上のリスクや業務効率への影響に気付きにくく、問題が表面化するまで対策が取られないという課題が生まれます。また、仮に問題が発覚しても「どこで何が使われているか」情報システム部門が把握していないため、対応に時間がかかったり見落としが発生したりします。要するに、シャドーITは企業のIT統制に穴を開け、管理不能な領域を作ってしまうため、ITガバナンス上非常に厄介な存在だと言えます。
シャドーITが発生する原因と背景:なぜ従業員は非公式なITツールやクラウドサービスを無断利用するのか?
なぜシャドーITなどというものが生まれてしまうのでしょうか。その背後には、従業員側と企業側双方の事情があります。このセクションでは、シャドーITが発生する主な原因と背景について掘り下げます。社員たちが公式ルールを破ってまで非公認のITツールを使う理由を理解することは、対策を講じる上でも重要です。
公式ITツールへの不満・不足:業務ニーズを満たさない場合に生まれる抜け道とは何か?その実態を
第一の原因は、企業が公式に提供するITツールやシステムへの不満や不足です。社員は日々業務を遂行する中で、「公式のシステムではやりたいことができない」「使い勝手が悪くて効率が上がらない」と感じる場面があります。例えばファイル共有ひとつ取っても、社内ファイルサーバーが扱いにくかったり容量制限が厳しすぎたりすると、社員は代わりに使いやすい外部ストレージを探したくなります。このように、公式ITでは業務ニーズを十分満たせない場合、従業員は「抜け道」として非公式ツールに手を伸ばします。また、新しい業務ニーズが生じても会社側の導入が追いつかない場合も、現場判断で適当なツールを使ってしまう原因になります。つまり、公式IT環境が現場の期待に応えていないとき、社員は業務効率化のために自前の解決策を探し、その結果シャドーITが発生するのです。
利便性・効率を優先する従業員心理:シャドーITが生まれる主な動機とその背景を徹底解説.
次に、従業員側の心理的な動機があります。多くの社員は日々の仕事で利便性や効率を最優先に考えています。たとえ規則で禁止されていても、「このツールを使った方が早く仕事が片付く」「公式手順を待っていたら時間がかかりすぎる」と判断すれば、つい禁止を破ってでも使ってしまうことがあります。これは必ずしも悪意があるわけではなく、「仕事を早く正確に進めたい」「顧客に迅速に対応したい」という善意から来る場合も少なくありません。しかし結果として規則違反となり、シャドーITが発生します。また、人間は便利な道具を知ってしまうとそれを使いたくなるものです。自分のプライベートで使っている優れたアプリケーションやデバイスがあれば、「仕事でもこれを使いたい」と思うのは自然な心理でしょう。このような従業員の利便性追求の心理が、シャドーITの大きな原動力となっています。さらに背景には、従業員がセキュリティリスクへの意識が希薄で、「便利だから大丈夫だろう」という楽観的な考えに傾いてしまうこともあります。こうした心理面の要因が重なり、シャドーITという現象が生まれるのです。
クラウドサービスの台頭と手軽さ:誰でも使える便利ツールが氾濫する状況とその問題点を徹底考察
技術的な背景要因としては、クラウドサービスの台頭と手軽さが挙げられます。現在、インターネット上にはビジネスに使える便利なツールやサービスが数えきれないほど公開されています。その多くは基本機能が無料で提供されていたり、個人でも簡単に契約できたりします。この「誰でも使える手軽さ」がシャドーITを誘発する土壌となっています。例えば、グループチャットツール、オンラインプロジェクト管理、デザインソフト、データ解析サービスなど、業務効率アップに役立つクラウドサービスが氾濫する状況では、社員は公式承認を待たずとも自分でこれらを利用できます。会社側から見ると管理外のIT利用ですが、本人からすると「良いツールがあるから使ってみた」という感覚です。便利な物が溢れている環境では、どうしても利用規制が後手に回りがちです。その結果、本来許可されるべきではないツールまで社員が勝手に取り入れてしまうケースが増えています。このようなクラウドサービスの氾濫と手軽さの裏には、便利さと引き換えにセキュリティや統制が置き去りにされている問題点も潜んでいます。
IT部門の承認プロセスの遅さ・煩雑さ:現場が公式導入を待ちきれない要因と背景を徹底分析
組織側の問題として、IT部門の承認プロセスや新ツール導入手続きの遅さ・煩雑さも大きな原因です。多くの企業では、新しいソフトウェアを導入する際に申請・承認フローが必要だったり、セキュリティ審査や予算確保に時間がかかったりします。現場の従業員から見ると、この公式導入プロセスは「待っていられないほど遅い」と感じることがあります。例えば「今すぐこの作業に必要なツールが欲しいのに、承認に数週間もかかる」といった場合、社員は業務を止めないために自分で勝手に代替ツールを使い始めてしまうでしょう。また手続きが煩雑で書類作成や多数の上長承認が必要となると、「そこまでして頼むくらいなら自分で探してきて使った方が早い」と考えるのも無理はありません。つまり、公式のプロセスが現場のスピード感に合っていないことが、シャドーITを誘発しています。IT部門のリソース不足で導入検討が後回しになる場合や、新しい技術へのキャッチアップが遅れがちな組織では特にこの傾向が強まります。承認の遅さ・煩雑さに業を煮やした現場が独自行動に走り、結果的にシャドーITが生まれるという構図です。
テレワークの拡大で見えづらくなった実態:在宅勤務がシャドーITを助長する背景を詳しく探る
テレワークやリモートワークの広がりもシャドーIT発生の背景にあります。在宅勤務では、社員はオフィスの物理的な制約から離れて自宅で働きます。この状況では会社の目が行き届きにくいため、何を使って仕事をしているか把握しづらくなります。例えば、オフィス内であれば私物のノートPCを机に広げていれば周囲の目に留まりますが、自宅では誰にも見られません。また在宅勤務中、社内システムにアクセスしにくい場合に「とりあえず自分のGoogleアカウントで作業しておこう」といった判断が起こりやすくなります。さらに、自宅のネットワーク環境では会社のセキュリティ対策(ファイアウォールで特定サービスへのアクセスを遮断する等)が及ばないため、社員は自由にウェブ上のサービスを利用できます。会社から支給されたPCではなく私物PCで在宅勤務をするケースも増え、これもシャドーITの一種と言えます。このようにテレワーク環境では、従業員が自己責任でITを選択する場面が増加し、その結果として非公式なIT利用=シャドーITが助長されるのです。
シャドーITの代表的な利用シーンと具体例:業務で使われる非公認アプリやサービスの実例を詳しく紹介
ここからは、実際にどのような場面でシャドーITが利用されているのか、具体例を挙げて説明します。シャドーITというと抽象的ですが、日常の業務の様々なシーンにその形跡が見られます。代表的な利用ケースを知っておくことで、自社でも同様の状況が起きていないかをチェックするヒントになるでしょう。
個人向けクラウドストレージの使用:社外のサービスに機密ファイルを保存する事例を詳しく紹介
典型的なシャドーITの例として、個人のクラウドストレージ利用があります。例えば従業員が、自分の個人アカウントで利用しているDropboxやGoogleドライブなどに社内の機密ファイルをアップロードし、保存・共有するといったケースです。本来、会社指定のファイルサーバーやクラウドストレージ(例えば企業契約のSharePointやBoxなど)があるにもかかわらず、「そちらは使い勝手が悪い」「容量が足りない」「アクセス権限の設定が面倒」といった理由で、社員が勝手に個人の外部サービスにデータを移してしまうのです。このような行為は一見すると業務を円滑にするためかもしれませんが、実際には重大なリスクを伴います。社内の機密情報が企業の管理外のクラウド上に置かれることで、情報漏洩の危険性が高まります。また、個人契約のクラウドに保存されたデータは、退職時に会社側で削除できない、第三者に共有されても追跡できない、といった問題もあります。それにもかかわらず、社員にとって手軽で身近なクラウドストレージは魅力的であるため、注意しなければこのようなシャドーIT行為が起こりがちです。
チャットアプリ・SNSの業務利用:LINEなど外部メッセージングツールで社内情報を共有する事例を詳しく紹介
次の例は、非公認のチャットアプリやSNSで業務連絡を行うケースです。社内で公式に許可されているコミュニケーション手段(例えばMicrosoft Teamsや社内メール)があるにもかかわらず、従業員同士が私的にLINEやWhatsApp、Facebookメッセンジャーといった外部のメッセージングツールで業務連絡や情報共有をしてしまうことがあります。特に若い世代の社員は普段使い慣れているLINEなどに抵抗がなく、「手っ取り早いから」とグループチャットを作成してしまいがちです。このようなシャドーITは便利ではありますが、情報漏洩やトラブルの温床になりかねません。外部チャットサービス上には、社内の会議内容や顧客情報などがやり取りされた履歴が残りますが、会社はそれを管理できません。万が一そのチャットアプリの運営企業が情報漏洩事故を起こしたり、不正アクセスを受けた場合、社内情報が一気に流出する危険性があります。また、チャット上で決定した事項が正式な記録に残らない、退職者がグループに残って情報を見続けられる、といったガバナンス上の問題も発生します。以上のように、社内規定外のチャットアプリ利用も身近なシャドーITの例として注意が必要です。
個人PC・スマホなど私物端末の業務利用:許可を得ずに会社システムへ接続する事例を詳しく紹介
ハードウェア面のシャドーITとして代表的なのが、私物端末(個人PC・スマホ・タブレット)の業務利用です。会社が「業務では会社支給のPCのみ使用可」「私物スマホを社内ネットワークに繋ぐのは禁止」と定めているにもかかわらず、社員が自分のノートパソコンで仕事をしたり、個人スマホを使って社内システムにアクセスしたりするケースがあります。特にBYOD(後述する公式な私物端末利用制度)が無い企業では、これは明確に規則違反ですが、現実には「支給PCが重くて作業しづらいから自分のMacBookで作業する」「出先で急ぎの対応をするために個人スマホから社内メールをチェックする」といった行動が起こり得ます。このような私物端末の利用は、セキュリティソフトの未導入やOSのアップデート不足などセキュリティ面で脆弱な状態になりやすく、社内ネットワークにマルウェアを持ち込むリスクがあります。また、端末紛失時のリモートワイプ(遠隔データ消去)など企業側の対策も取れないため、情報漏洩の危険があります。それでも社員にとっては自分の使い慣れた端末の方が効率的という思いから、つい許可を取らずに業務利用してしまうことがあり、これもシャドーITの代表例と言えるでしょう。
未承認のSaaSやウェブサービス利用:部署単位で勝手に導入された業務アプリの例を詳しく紹介
ソフトウェアやウェブサービスに関するシャドーITの例も数多く存在します。例えば、ある部署の判断で未承認のSaaS(クラウド型ソフトウェア)を導入して業務に使っているケースです。マーケティング部門が便利だからと社内承認を得ずにウェブ解析ツールを使い始めたり、開発チームが独自にプロジェクト管理ツール(トレロやアサナなど)を導入したりすることがあります。一見部署の裁量で業務効率化を図っているように思えますが、これらが正式な手続きを経ていない場合、IT部門はその存在を知らずサポートもセキュリティ確認もできません。また、複数の部署がそれぞれ勝手に異なるツールを導入すると、社内でデータや情報が分散してしまい、組織全体で見ると二重投資や非効率が生じることもあります。さらに、無料プランで使っていたツールがある日仕様変更で使えなくなり業務に支障が出る、といったリスクも潜みます。このように未承認SaaSの利用はシャドーITの典型例であり、部署単位の勝手な導入は最終的に企業全体のリスクとなり得るのです。
生成AI(ChatGPT等)の無断利用:AIサービスに機密データを入力してしまうリスクの実例を
最新の例としては、生成AI(ジェネレーティブAI)サービスの無断利用が挙げられます。ChatGPTをはじめとするAIチャットサービスや画像生成AIなどが一般に使えるようになり、業務でも活用したい場面が増えてきました。しかし企業によっては機密情報を含むやりとりを外部のAIサービスに入力することを禁止しています。にもかかわらず、社員が業務上の文章作成やプログラミング支援のためにChatGPT等を勝手に利用し、そこに社内の機密データや顧客情報を入力してしまうケースがあります。生成AIサービスはその入力データを外部のサーバーで処理し、一部は学習データとして保持される可能性も指摘されています。もし社員が知らずに機密内容をAIに投げかければ、意図せず第三者に情報を開示したのと同じ状況となり、情報漏洩に繋がるリスクがあります。実際、海外では従業員がソースコードをAIに入力し機密が漏れた事例も報告されています。こうしたAIの無断利用も、企業にとって新たなシャドーIT問題です。便利な最新技術であるがゆえに、社員は「試してみたい」「効率が上がる」と思って使ってしまいますが、その背後には予期せぬリスクが潜んでいることを認識しなければなりません。
シャドーITが抱えるリスク・問題点:セキュリティ侵害から生産性低下まで多岐にわたる影響を詳しく解説
シャドーITは便利さの裏で様々なリスクや問題を企業にもたらします。このセクションでは、シャドーITによって引き起こされる代表的なリスクと問題点を解説します。セキュリティ面の危険だけでなく、コンプライアンス違反、業務効率の低下、サポート体制の混乱など、その影響は多岐にわたります。シャドーITを放置することの危険性を理解しましょう。
セキュリティ攻撃の増加リスク:シャドーIT経由でウイルス感染や不正侵入が発生する可能性を詳しく
まず第一に情報セキュリティ上のリスクが挙げられます。シャドーITが存在すると、企業のシステムは守りの目が届かない「裏口」を抱えることになります。例えば、社内で許可されていない個人端末がネットワークに接続されている場合、その端末がウイルスに感染していると内部ネットワークにマルウェアが持ち込まれる恐れがあります。また、社員が勝手に導入したウェブサービスがセキュリティ的に脆弱であると、そこを狙ってハッカーに不正侵入される危険性もあります。正式に管理されているシステムであれば、定期的なセキュリティ更新や脆弱性パッチ適用が行われますが、シャドーITにはそうした措置が取られません。そのため、古いバージョンのソフトウェアを使い続けて脆弱性が放置される、簡単なパスワードでアカウントを作ってしまい外部から突破される、といったことが起こりやすくなります。さらに、IT部門が把握していないため侵入の検知も遅れ、被害が拡大するリスクもあります。つまり、シャドーITの存在は企業ネットワークに余計な攻撃経路を増やし、ウイルス感染やサイバー攻撃を許しやすい環境を作ってしまうのです。
法令・規制違反の可能性:許可外のIT利用によって生じるコンプライアンス上の問題を詳しく考察
シャドーITはコンプライアンス違反を引き起こす可能性もあります。企業は通常、個人情報保護や業種別の法規制、業務上の契約などに則ったIT利用ポリシーを定めていますが、シャドーITはそうした公式ルールから逸脱しています。例えば、個人情報を扱う業務で社員が勝手に外部クラウドにデータを保存した場合、社内規程や関連法令(個人情報保護法やGDPR等)に違反する可能性があります。またソフトウェアのライセンス契約上、企業利用が禁止されている無料版ツールを社員が無断で使えば、知的財産権の侵害や契約違反となるかもしれません。さらに金融・医療など厳しい業法のある業界では、データを暗号化せず持ち出すこと自体が規制違反となるケースもあります。シャドーIT行為によってこれらの規制が守られないと、企業は罰則や制裁を受けるリスクを負います。つまり、シャドーITは企業を法的リスクに晒す要因にもなり得るのです。また、社内規程違反として社内懲戒の問題にも発展します。社員がルールを破ってITを利用している状態はガバナンス上の問題であり、放置すれば組織全体の規律低下にも繋がります。
IT資産管理と監査の困難:隠れたシステムが多いことで適切な管理・監査ができない状況について
シャドーITが蔓延すると、企業のIT資産管理にも支障をきたします。本来、会社は使っているソフトウェアやデータ、ハードウェアを一元管理し、資産台帳に載せて監査に備える必要があります。しかし社員が独自にITツールを使い出すと、公式には存在しないシステムが社内に点在することになります。これでは、どの部署がどんなデータをどこに保管しているか、IT部門や経営陣が把握できません。例えば情報監査やセキュリティ監査で、「顧客データは全て社内システムにありますね?」と尋ねられても、実際には一部が個人のクラウドにあったりして正確な回答ができない、といった事態になりかねません。さらに、IT資産としてカウントされていないツールは更新管理もされませんから、古いバージョンのまま放置されセキュリティホールになる可能性もあります。監査対応の観点でも「どんなシステムがあるか分からない」というのは大きな問題です。結果として、組織は自社の情報資産をきちんとコントロールできていない状況(ガバナンス不全)に陥ります。シャドーITはこうした管理・監査を困難にし、企業ITの信頼性を損なう要因となります。
生産性・効率への悪影響:ツール乱立による業務の混乱や重複作業が発生する懸念を徹底
シャドーITは、導入した本人にとっては効率向上のつもりでも、組織全体で見ると生産性の低下や混乱を招く場合があります。各人や各部署がバラバラに好きなツールを使い始めると、社内で使用するITツールが乱立し、情報共有や業務フローにズレが生じます。例えば、本来全社で統一して使うべきプロジェクト管理が、部署ごとに異なるアプリで行われていたら、お互いの進捗を合わせるのに余計な手間がかかります。また、一部の社員だけが独自ツール上で作業をしていると、他の人がそのデータを参照できず作業が重複したりミスが発生したりします。さらに、公式ツールとシャドーITツールの二重管理になってしまい、同じ情報を両方に入力するといった無駄も生じがちです。このようにツールの乱立はコラボレーションを阻害し、せっかくのITが逆に非効率を生むという皮肉な結果になりかねません。また、社員が増えるにつれ「どのツールで何をするのが正式なのか」新人には分からなくなり、教育コストも増えます。シャドーITによる便利さは局所的であり、全体としては業務混乱や効率低下といった悪影響を及ぼす懸念が大いにあるのです。
サポート・障害対応の問題:非公式ツール利用によりトラブル発生時に対処が遅れるリスクを詳しく
シャドーITは、ITサポートや障害対応の面でも問題を引き起こします。社員が公式にサポート対象外のツールを使っている場合、何かトラブルが起きても社内のITサポートデスクでは対応できません。例えば、勝手に使っていたクラウドサービスでデータが消えてしまったとしても、契約情報をIT部門が持っていなければベンダーに問い合わせることもできず、問題解決に時間がかかるでしょう。また、シャドーITが原因でシステム障害が発生しても、IT部門がその存在を知らないため原因究明に手間取ることがあります。例えば、ネットワークが遅くなって調査した結果、社員が無断で設置したWi-Fiルーターが干渉していた、などというケースもあります。さらに、公式システムとの連携が取れないツールでは、データ移行やバックアップの対象にもなっておらず、障害発生時にデータ復旧が不可能という事態も起こり得ます。こうしたサポート体制外の利用は、トラブル発生時の対処を遅らせ、最悪の場合ビジネス継続に支障をきたすリスクとなります。シャドーITがある環境下では、IT部門の支援が及ばない「自己責任」の領域が生まれ、問題発生時に組織として迅速な対応ができなくなる点が大きな問題です。
シャドーITによる情報漏洩の危険性:非公式サービス利用が招くデータ流出リスクとその深刻性について解説
数あるリスクの中でも、情報漏洩の危険性はシャドーIT最大の問題と言えます。機密情報が社外に流出すれば、企業の信用や存続に関わる深刻な事態となります。ここでは、シャドーITが原因で情報漏洩が発生しうる具体的な場面と、その深刻性について詳しく見ていきます。
個人クラウドへの機密データ保存:社外サービスに情報を預けることによる漏洩リスクを徹底
シャドーITによる情報漏洩リスクとして最も典型的なのが、個人クラウドへの機密データ保存です。先述のように、社員が業務ファイルを勝手に自分のクラウドストレージ(Googleドライブ、Dropboxなど)に保存してしまうケースでは、企業の大切な情報が社外サービス上に置かれている状態になります。これがなぜ危険かというと、まず企業はそのデータを直接コントロールできず、第三者(クラウド提供企業)の管理下に委ねることになるからです。もしクラウド提供元でセキュリティ事故が起きたり、不正アクセスを受けたりすれば、その中にあった企業データが一挙に流出してしまう恐れがあります。また、社員個人のアカウントが乗っ取られることでも情報漏洩は起こり得ます。例えばフィッシング詐欺などで社員のクラウドサービスのログイン情報が盗まれた場合、攻撃者はそこに保存された機密ファイルに自由にアクセスできてしまいます。さらに厄介なのは、この種の漏洩は会社側が気付きにくい点です。社内システムの情報が漏れれば監査ログなどで発見できますが、個人クラウドからの流出はそもそも監視対象外のため、漏れて初めて事態を把握することになります。以上のように、機密データを個人クラウドに預ける行為は情報漏洩リスクを飛躍的に高めてしまうのです。
外部チャットサービスの利用:メッセージ内容が第三者に流出する危険性を詳しく考察
社員同士のやりとりに外部のチャットサービスを使うことも、情報漏洩リスクをはらみます。LINEやWhatsAppなどの外部チャットサービスでは、会話内容や送受信したファイルがサービス提供会社のサーバーに保存されています。もしその提供会社がデータ漏洩事故に遭遇すれば、社内のやりとりがそっくりそのまま第三者に流出する可能性があります。また、こうしたチャットサービスはしばしば暗号化されているとはいえ、受信者側の画面をスクリーンショット撮影すれば簡単に内容を持ち出せてしまうなど、完全な情報統制は不可能です。例えば業務連絡用に作ったLINEグループから、メンバーが勝手に会話スクリーンショットを他者に転送してしまう、といった事態も考えられます。さらに、チャット上で共有された機密資料がサービス上に長期間残り続け、退会したはずのメンバーにも閲覧可能な状態だった、といった管理漏れも懸念されます。つまり、外部チャットサービスの無断利用によって、企業は自らの重要情報を外部に預けている状態となり、それが漏洩する危険性を常に抱えることになるのです。このリスクは往々にして軽視されがちですが、実際にチャットアプリ経由での情報流出事件も報告されており、十分な注意が必要です。
生成AIへの社内情報入力:AIツールに機密データが保存されてしまうリスクを徹底
近年注目の生成AI(人工知能)を業務で利用する際の情報漏洩リスクも見逃せません。ChatGPTなどのAIチャットサービスは、ユーザーから与えられたプロンプト(入力文)を学習や応答生成に利用します。多くのサービスでは入力内容がサーバー側に保存・分析されるため、例えば社員が社内の機密事項や個人情報をAIに入力すると、そのデータが外部サーバー上に蓄積されることになります。これは、企業の秘密を他社に預けているのと同じ状況です。もしサービス提供側のセキュリティが破られたり、将来的にそのデータがモデルの学習結果として他のユーザーに影響を与えるようなことがあれば、機密漏洩につながります。実際、AIサービスへの機密入力が問題視された例として、海外の大手企業で従業員がソースコードをChatGPTに入力し、その内容がAIの応答に反映され外部から見えてしまったという事態も報告されています。このように、生成AIは便利ですが、入力した情報がどこまで安全か保証されないという特有のリスクがあります。シャドーITとして社員が無断でAIに会社情報を入力している場合、企業は知らぬ間に秘密を手放していることになるため、非常に危険です。
認証・アクセス管理の不備:シャドーITで使用するアカウントが乗っ取られる可能性への懸念を詳細に
シャドーIT環境ではアカウントの認証・アクセス管理が杜撰になりがちな点も漏洩リスクの一つです。社員が勝手に使っている外部サービスのアカウントは、往々にして会社の厳格なパスワードポリシーや多要素認証ルールの適用外です。そのため、簡単なパスワードを使い回していたり、二段階認証を設定していなかったりと、セキュリティ設定が不十分なまま使われているケースがあります。攻撃者から見ると、こうした管理外のアカウントは格好の標的です。フィッシングメールなどで社員のログイン情報を盗み、シャドーITのクラウドサービスに侵入できれば、会社に気付かれる前に大量のデータを抜き取ることも可能です。実際に、日本でも医療機関の医師が個人で利用していたクラウドストレージに患者情報を保存しており、そのID・パスワードが外部から窃取されて情報流出が起きた事件があります。このように、シャドーITでは認証強度が弱いアカウントが放置されることが多く、アカウント乗っ取りによる情報漏洩の懸念が常につきまといます。公式システムであればセキュリティ部門がパスワード期限を設定したりログイン監視をしたりしますが、シャドーITにはそれがないため、攻撃者からすれば狙い目となるのです。
退職・異動時に残るデータ:個人アカウントに蓄積された情報が回収不能になる問題点を詳しく指摘
シャドーITに蓄積された情報は、社員の退職や部署異動の際に回収不能になる恐れも大きな問題です。例えば、ある社員が自分の個人クラウドに大量の業務データを保存していたとして、その社員が退職した場合を考えてみましょう。会社はそのクラウドアカウントの存在を把握していないため、データ移行や削除の依頼をすることもできません。最悪、退職者がそのデータを持ち続けて別の企業に転職し、前職の機密情報を不正に利用するといった事態も起こり得ます。また、本人に悪意がなくても、単純に個人クラウド上に社内データが残存し続けるだけで情報管理上のリスクです。異動時も同様で、引き継ぎの際にシャドーIT上の情報は共有されず闇に消えてしまったり、新任者がアクセスできないところに重要データが閉じ込められてしまったりします。これらは、企業にとって資産である情報が散逸することを意味します。公式なシステム上のデータであれば、退職・異動時にアクセス権を回収したり、必要な情報を保全するといった措置が可能ですが、シャドーITではそれができません。結果、企業は知的財産やノウハウを失うリスクを負うことになります。以上のように、シャドーITによる情報蓄積は、社員の異動・退社時に情報漏洩や喪失を招く点でも重大な問題なのです。
シャドーITが企業にもたらす影響と経営リスク:IT統制喪失によるコンプライアンス違反や業務停滞の可能性を考察
シャドーITが引き起こす影響は、セキュリティ上のリスクに留まりません。企業経営の観点から見ても無視できない様々な悪影響があります。このセクションでは、シャドーITが企業経営にもたらし得るインパクトとリスクを整理します。情報漏洩による信用失墜、法的制裁による損失、IT統制の崩壊による業務混乱、隠れたコストの発生、組織内の信頼関係悪化など、経営層が直面しかねない問題を確認していきましょう。
情報漏洩による企業イメージ・信用失墜:顧客や取引先からの信頼を損ねる深刻な影響を徹底
シャドーITが原因で情報漏洩が発生すると、企業のイメージや社会的信用は大きく傷つきます。例えば、顧客の個人情報が社員の勝手なクラウド利用から流出した場合、そのニュースは瞬く間に広がり、顧客や取引先から「情報管理がずさんな会社だ」という評価を受けてしまうでしょう。一度失われた信用を取り戻すのは容易ではありません。特に昨今はSNS等で情報が拡散しやすく、企業の不祥事に対する社会の目も厳しくなっています。情報漏洩を起こした企業は、顧客離れや新規取引停止などの深刻なビジネス影響に直面する可能性があります。また、株式公開企業であれば株価の下落、ブランドイメージの毀損といった長期的なダメージも避けられません。内部要因であるシャドーITが引き金だったとしても、外部から見れば企業全体の責任です。「あの会社は社員が勝手に情報を持ち出すような杜撰な管理をしている」とレッテルを貼られれば、信頼回復のために莫大な労力と時間・コストを要するでしょう。このように、シャドーITが生む情報漏洩リスクは企業の信用基盤を揺るがすものであり、経営陣にとって非常に深刻な影響を及ぼします。
法的制裁・罰金のリスク:データ漏洩や規制違反により企業が被る経済的損失を具体例とともに徹底
情報漏洩や規制違反が発生すれば、企業は法的な制裁や罰金といった経済的損失を被る可能性もあります。例えば、個人情報が漏洩すれば個人情報保護委員会から是正勧告や罰金を科されることがありますし、顧客から損害賠償請求を受けるケースも考えられます。EU諸国との取引でGDPR(一般データ保護規則)違反となれば、売上高に対する高額な制裁金が課される可能性すらあります。さらに、業務上守秘義務のある情報(例えば金融情報や医療情報)がシャドーIT経由で外部に出た場合、所管官庁から業務停止命令など厳しい処分が下ることもあります。こうした例は実際に起きており、ある自治体では職員が私的クラウドに保存していた住民情報が漏洩し、多額の損害賠償と信用失墜に繋がったケースがあります。また、日本でも2020年の改正個人情報保護法以降、漏洩時の罰金額が引き上げられています。つまり、シャドーITは企業に予期せぬ経済的負担をもたらし得ます。罰金・賠償だけでなく、再発防止策の構築や監査対応などに要するコストも莫大です。このように、法令遵守を怠ったと見なされることで企業は大きな金銭的ダメージを受けるリスクがあり、シャドーITはその引き金となり得るのです。
IT統制の崩壊による経営混乱:管理不能なIT環境が事業運営に与える影響を具体例も交えて徹底考察
シャドーITが蔓延すると、企業のIT統制が崩壊し、経営のコントロールにも支障を来します。IT統制とは、企業のIT資源を適切に管理・活用し、戦略目標を達成するための仕組みですが、シャドーITが多い環境ではその統制が効かなくなります。例えば、経営陣が「全社で統合ERPシステムを導入して業務を一元化しよう」と決めても、各部署でシャドーITツールにデータが散逸していたら、計画通りに機能しません。その結果、IT投資が無駄になったり、データ分析も不完全になったりして、経営判断を誤る恐れがあります。また、どの部署が何のITを使っているか分からない状況では、新しいセキュリティ対策やDX(デジタルトランスフォーメーション)施策を打ち出そうにも実態把握から始めねばならず、大幅な遅延を招きます。極端な例では、IT統制の喪失により組織が経営管理不能に陥り、業務プロセスが各人任せのカオス状態になることも考えられます。これは会社全体の競争力低下に直結します。ITは本来ビジネスを強化する武器ですが、統制が取れなければ重荷となります。シャドーITは経営者からITの舵取り権限を奪い、事業運営に混乱をもたらす点で大きなリスクと言えます。
隠れたコスト増加:重複投資や非効率な作業により生じる経費の無駄が生じる要因を詳しく検証
シャドーITは見えない形でコスト増加を招く場合もあります。社員が独自に契約して使っている外部サービスの中には、会社として正式に契約すれば割安になるものも多いですが、シャドーITでは個別契約や無料版利用の寄せ集めになりがちです。その結果、実は複数部署で同じようなサービスにそれぞれ課金していて重複コストが発生している、といったことがあります。また、公式のシステムとシャドーITツールの両方にデータ入力するなど二重の手間が発生している場合、それは人件費という形の無駄なコストとなります。さらに、シャドーITによるトラブル対応や情報漏洩後の対策には多大な出費が伴います。例えば漏洩事故を起こせば顧客対応や調査に時間と人員を割かれ、本来の業務が停滞する「機会損失」も馬鹿になりません。公式に把握されていないシャドーITは、こうしたコストを「隠れコスト」として蓄積させてしまいます。経営から見ると、IT予算外のところで無駄遣いが発生している状態とも言えます。もし全てのIT利用が見える化されていれば統廃合や一括契約によるコスト削減余地も見えてきますが、シャドーIT下ではそれも叶いません。このようにシャドーITは、企業に気付かれにくい形で経費の無駄を生じさせ、利益を圧迫するリスクがあるのです。
IT部門と従業員の信頼関係悪化:シャドーITが社内コミュニケーションに及ぼす悪影響を徹底分析
シャドーITの蔓延は、社内の人間関係や組織文化にも悪影響を及ぼします。特に情報システム部門(IT部門)と現場従業員との信頼関係が悪化する懸念があります。社員がシャドーITに走る背景には「IT部門に頼んでも埒が明かない」「公式の仕組みでは使い物にならない」といった不満がある場合が多く、これは裏を返せばIT部門への信頼欠如と言えます。一方、IT部門側からすれば、勝手なことをする社員たちに手を焼き、「どうせルールを守らない」と現場への不信感を募らせるでしょう。このような溝が深まると、両者のコミュニケーションはさらに減り、現場はますます独断でITを使い、IT部門はますます現場実態から乖離していくという悪循環に陥ります。また、社内で「バレなきゃ何をしてもいい」という風潮が生まれてしまうと、情報統制のみならず企業倫理全般にも悪影響です。組織全体で見ても、共通のIT基盤が無く各自が勝手にやっている状態では、社内の一体感や連携も損なわれがちです。共通のプラットフォーム上で協働することにより培われるチームワークが、シャドーITによって阻害されてしまうとも言えます。このように、シャドーITは単なる技術的問題に留まらず、社内の信頼関係やコミュニケーションに影を落とし、組織文化を損ねるリスクもはらんでいるのです。
BYOD(私物端末の業務利用)との違い:シャドーITとの関連性とセキュリティ管理の相違点を解説
シャドーITと似た概念として「BYOD」がよく話題に上がります。BYOD(Bring Your Own Device)は、従業員が自分の私物端末を業務に利用することを指します。一見、私物端末利用という点でシャドーITと共通していますが、実際には両者は大きく異なるものです。このセクションでは、BYODの定義と、シャドーITとの違い・共通点について説明します。両者を正しく理解することで、セキュリティ管理の考え方の相違も見えてきます。
BYOD(私物端末持ち込み)の定義:企業が公式に認めた個人デバイスの業務利用とは何かを解説
BYOD(Bring Your Own Device)とは、企業が従業員による私物デバイスの業務利用を公式に許可し、その活用を認める制度や方針のことです。例えば、社員が自分のスマートフォンやノートパソコンを仕事のメールチェックや資料作成に使うことを会社が承認し、一定の条件下でそれを許容する形態です。BYODでは、企業は私物端末を業務利用することを前提にセキュリティ対策や利用ルールを整備します。具体的には、「私物端末にもモバイル管理ソフトをインストールする」「紛失時にはリモートワイプを行う権限に同意する」といった条件を社員に課しつつ、柔軟な働き方を実現するために私物端末の持ち込みを許可します。つまりBYODは、企業公式のポリシーに基づいた私物デバイス活用であり、野放しのシャドーITとは異なり会社の管理下(少なくとも把握下)に置かれた仕組みなのです。
シャドーITとの共通点と相違点:いずれも従業員発のIT利用だが管理状況が大きく異なる点を
シャドーITとBYODには、従業員が主導して業務に自前のITを持ち込むという共通点があります。どちらも現場発のIT利用であり、公式なIT以外のものが業務に使われるという意味では似た現象です。しかし、決定的な違いは管理状況の違いにあります。BYODは先述の通り企業が公式に許可しており、利用ルールや技術的なセキュリティ策が敷かれています。一方、シャドーITは企業の許可なく行われているため、管理されていない状態です。つまり、BYODは「承認されたIT利用」であり、シャドーITは「無承認のIT利用」という相違点があります。また、BYODの範囲は主に端末(デバイス)の持ち込みに関するものであるのに対し、シャドーITは端末だけでなくソフトウェアやクラウドサービスなどIT利用全般を含む広い概念です。共通しているのは従業員が公式ITにないものを利用している点ですが、その背景にはBYODは企業戦略の一環であり、シャドーITは従業員の独自行動という違いが存在します。
BYODは公式ポリシーに基づく運用:シャドーITは無許可で独自行われる点に違いがあることを
BYODとシャドーITの違いを端的に表すと、「許可されているか否か」になります。BYODは企業が策定した公式ポリシーに基づいて運用されます。例えば「私物スマホで社内メールを利用することを許可する。ただし必ずモバイル管理アプリを入れ、ロック画面の設定を義務付ける」といった具合です。利用開始前に社員と会社の間で同意書を交わす場合もあります。一方、シャドーITはこうした許可や合意が一切なく独自に行われているのが特徴です。従業員は会社に申請せず、自分の判断だけで勝手にITツールを使っています。この違いはセキュリティ事故時の対応にも現れます。BYODで問題が起きた場合、事前のルールに従って会社が端末を調査したりリモート消去したりできますが、シャドーITでは端末やサービスが会社の管理下になく手出しできません。また、BYODは許可された運用なので社員も公言できますが、シャドーITはこっそり行われるため発覚しにくいという違いもあります。総じて、BYODは「公式にコントロールされた私物利用」、シャドーITは「非公式でコントロール外のIT利用」という本質的な違いがあるのです。
セキュリティ対策の違い:BYODにはMDMなど管理策があるがシャドーITには抜け穴が多い現状を比較
BYODとシャドーITでは、取られているセキュリティ対策の手厚さにも大きな差があります。BYOD環境では、企業は私物端末や外部サービスをある程度制御するための技術を導入します。具体例として、MDM(Mobile Device Management)ソフトウェアにより私物スマホを遠隔管理したり、業務データとプライベートデータを分離するコンテナアプリを使ったりします。また、BYODポリシーでは強力なパスワード設定やデバイス暗号化、定期的なデバイスのセキュリティチェックなどを義務付けることが一般的です。さらに、BYODで接続する際にはVPNを使用させ、安全に社内ネットワークにアクセスさせるなどの措置も講じます。これに対し、シャドーITにはそうした管理策が一切ありません。社員は好き勝手に自分の端末・サービスを使っているだけなので、ウイルス対策がされているかも不明、データが暗号化されているかも保証なし、とセキュリティ上の抜け穴が多い現状です。仮に同じ「私物端末利用」でも、BYODでは企業のセキュリティポリシーに沿って一定の安全性が担保されますが、シャドーITでは安全性は社員任せで極めて脆弱です。この違いは、万が一のインシデント発生率や被害範囲にも直結します。総じて、BYODはリスクと利便性のバランスを取りながら管理された仕組みであるのに対し、シャドーITは利便性のみを優先してセキュリティが置き去りにされた状態といえます。
企業にとってのリスク比較:管理されたBYODと野放しのシャドーITでは影響度が異なることを説明
以上の点から、企業にとってBYODとシャドーITではリスクの大きさが大きく異なることが分かります。管理されたBYODは、確かに私物端末を使う分リスクはありますが、そのリスクは事前に想定・低減されコントロールされた範囲内に収められています。企業側も「ある程度の安全策を講じた上で利便性を享受する」という選択をしており、万一問題が起きても対処の計画があります。一方野放しのシャドーITは、リスクが未知数かつ潜在的に非常に高い状態です。いつどこで情報漏洩やシステム障害が起きるか予測困難で、起きてから対処しようにも手順がなく混乱する恐れがあります。また、BYODは「許可されている」という透明性があるためルール順守の文化にも繋がりますが、シャドーITは隠れて行われるため企業文化としても健全ではありません。総合的に見て、企業にとってはBYODの方がはるかにリスクコントロールが可能で、シャドーITはリスクの塊と言えます。もちろんBYODにもセキュリティ上の注意は必要ですが、少なくとも組織として認識・管理できている点で、闇雲に広がるシャドーITとは影響度がまったく異なります。このような比較からも、企業はシャドーITは排除または公式な枠組みに吸収し、必要に応じてBYODのような形でコントロール下に置くべきだとわかります。
シャドーITへの対策・防止策:企業が取るべきセキュリティポリシー整備と従業員教育の具体策を解説
最後に、シャドーITへの対策と防止策について述べます。これまで見てきたようなリスクや問題に対処するために、企業は積極的に手を打つ必要があります。効果的な対策は、一つではなく複数のアプローチを組み合わせることが重要です。技術的な対策だけでなく、ポリシーや教育といった人的・制度的な側面も含め、総合的にシャドーITを抑制・管理していきましょう。
シャドーITの実態把握:社員の利用状況を調査し可視化するための監視ツール導入による可視化を検討
対策の第一歩は、現在自社内でどの程度シャドーITが存在しているか実態を把握することです。知らないものは管理しようがありません。そこで、従業員が利用しているITツールやサービスを洗い出す調査を行います。具体的には、アンケートやヒアリングで「業務で使っている公式外のツールはありますか?」と尋ねたり、ネットワークのログを分析して社外クラウドへのアクセス状況を確認したりします。また、最近ではCASB(Cloud Access Security Broker)と呼ばれるソリューションを導入し、従業員のクラウドサービス利用をモニタリング・可視化する企業も増えています。CASBを使うと、社内ネットワークからどんなクラウドアプリにアクセスが発生しているかを一覧化でき、「どの部署で何のシャドーITが使われているか」を客観的に把握できます。こうしたツールの導入も検討すると良いでしょう。重要なのは、非難目的ではなく安全管理のために実態を調べることです。社員にも調査の趣旨を説明し、協力を仰ぐことで信頼関係を損なわないよう配慮します。まずはシャドーITの現状を見える化し、リスク評価を行った上で、次の対策に繋げることが肝心です。
明確なIT利用ポリシー策定:許可するソフトウェアやサービスと禁止事項を定め周知徹底する取り組みを紹介
シャドーIT対策の基本として、社内のIT利用ポリシーを明確化し、社員に周知徹底することが挙げられます。何が許可されて何が禁止なのか、曖昧だと社員も判断に迷います。そこで、例えば「社内データを保存してよいクラウドサービスはこのリストのみ」「業務連絡は会社支給のTeamsを使用し、LINE等は禁止」「新しいツールを使いたい場合はIT部門へ申請すること」といった具体的なルールを定めます。許可するソフトウェアやサービスのホワイトリスト、逆に絶対使ってはいけないもののブラックリストを作成して公表するのも有効です。また、私物端末利用(BYOD)についても方針を示し、条件付きで許可するのか全面禁止なのかを明らかにします。これらポリシーを単に作るだけでなく、社内ポータルや研修で周知し、違反時のペナルティなども含めて徹底することが重要です。さらに、ポリシーは定期的に見直し、新たなサービス登場にも対応できる柔軟性を持たせます。明確なルールがあれば、社員も「これはまずいかな?」と判断しやすくなり、無意識のシャドーITを減らす効果が期待できます。要は、組織としての線引きをはっきりさせることで、野放図なIT利用を防ぐ土台を作るのです。
従業員へのセキュリティ教育:シャドーITの危険性を理解させ安全なIT利用を啓発する施策を
社員一人ひとりのセキュリティ意識向上も欠かせない対策です。いくらルールを決めても、現場の理解と協力がなければ遵守されません。そこで、従業員に対してシャドーITの危険性をしっかり教育する必要があります。例えば情報セキュリティ研修の中で、シャドーITが招いた実際の事故例を紹介し、「自分たちの行動が会社にどんなリスクを与えるか」を具体的に伝えます。過去に社内でヒヤリハットがあったなら匿名事例として共有するのも効果的です。また、「なぜ会社は特定のツール利用を禁止しているのか」「どうして申請が必要なのか」といった背景も丁寧に説明し、社員が納得感を持てるようにします。単にダメと押さえつけるのではなく、対話を通じて理解を促す姿勢が重要です。さらに、日常的に困っていることや不便に感じていることをヒアリングし、それを基に公式IT環境を改善していくフィードバックループも作ります。そうすれば社員も「言えば聞いてくれる」と感じ、無理にシャドーITに走る必要がなくなります。啓発活動としてはポスターやメールマガジンで注意喚起したり、セキュリティ月間を設けて注意事項を再周知したりする方法もあります。最終目標は、社員が自発的に安全なIT利用を心掛ける文化を醸成することです。シャドーITを「自分ごと」として捉えてもらうことで、防止策の実効性が高まります。
必要なツールの提供と申請フロー整備:現場のニーズに応じた公式なサービス導入手続きを簡略化する対策を
現場がシャドーITに走らないようにするためには、社員が求めるITツールを公式に使えるようにする努力も大切です。つまり、必要なITツールを企業側で提供する、あるいは正式導入の申請フローを迅速かつ簡便に整えるといった対策です。具体的には、現場から要望が出やすいクラウドサービスについて予め利用可否を評価し、安全性が確認できたものはホワイトリストに登録しておくとよいでしょう。社員はそのリストから自由に選んで使えるようにすれば、無闇に禁止を破って別のサービスを使う必要が無くなります。また、新しいツールを導入したい場合の申請手続きを簡略化・迅速化することも効果的です。例えば承認プロセスをオンラインフォーム化して申請しやすくし、判断もIT部門と業務部門が協力してスピーディーに行う仕組みにします。期間限定のトライアル利用を認め、効果が出れば正式導入するといった柔軟な運用も検討できます。さらに、社員が便利だからと持ち込んだツールが実際によいものであれば、企業側が公式採用して皆が使えるようにするのも一つの手です。そうすることでシャドーITを取り込んで解消できます。要は、現場のニーズと公式ITのギャップを埋める努力をすることです。社員は本来、仕事をしやすくしたいからシャドーITを使うのですから、そのニーズに企業が応えればシャドーITをしなくても済む環境になります。
技術的対策の導入:アクセス制御やCASBなどで未許可のクラウドサービス利用を制限する方法を
最後に、技術的な抑止策も挙げておきます。社員の自主性に任せるだけでなく、システム面からシャドーITを難しくする環境を作ります。一つの方法は、社内ネットワークやPCから特定の外部サービスへのアクセスを制限することです。ファイアウォールやプロキシでブラックリストを設定し、「業務に不要なストレージサービスやSNSには接続できない」ようにする企業もあります。また、先に触れたCASB(Cloud Access Security Broker)は、クラウドサービス利用の可視化だけでなくブロック機能も備えており、ポリシーに反するファイルアップロードを自動遮断するといった制御が可能です。さらに、DLP(Data Loss Prevention: データ漏えい防止)製品を導入し、機密情報を含むデータが社外に持ち出されようとした際に検知・警告・遮断することも有効です。例えば、社内PC上で「機密」ラベルのついたファイルを個人メールに添付しようとすると送信をブロックする、USBメモリにコピーしようとすると管理者に通知が飛ぶ、といった機能です。モバイルやBYODに対してもMDM/MAMで業務データをコントロールし、外部アプリとのデータやり取りを禁止する設定が考えられます。これら技術対策は完璧ではないものの、シャドーITの敷居を上げ、うっかり発生する事態を減らす効果があります。社員がポリシーを破った場合にも自動で抑止が働くため、最後の防波堤として有用です。もちろん技術だけに頼るのではなく、前述のポリシー整備・教育と組み合わせて総合力でシャドーIT対策を講じることが理想です。
以上、シャドーITの概要からリスク、そして対策に至るまで包括的に解説しました。ビジネスパーソンにとって、シャドーITは身近で起こり得る問題であり、その放置は企業に大きなリスクをもたらします。自社のIT利用状況を今一度見直し、必要なルール整備や教育・技術対策を講じることで、健全で安全なIT環境を維持していきましょう。社員の利便性と企業のセキュリティを両立させ、シャドーITを生まない文化を築くことが、これからの情報化社会における重要な経営課題となるはずです。