ジョブクラフティング(ジョブ・クラフティング)は、働く本人が仕事のやり方・人との関わり方・仕事の捉え方を自分で変え、与えられた職務を手作りし直すことです。2001年に米国の組織行動学者エイミー・レズネスキー(Amy Wrzesniewski)とジェーン・ダットン(Jane E. Dutton)が提唱し、日本では厚生労働省の『令和元年版 労働経済の分析』がワーク・エンゲイジメントを高める取組の一つとして紹介しました。この記事では、定義と3つの種類、個人で始める手順、企業研修の組み立て方を一次情報で整理します。研究で効果が確認された範囲と、消耗や低いワーク・エンゲイジメントに関連する行動も扱います。
まとめ:ジョブクラフティングの要点
- 定義の出典はWrzesniewski & Dutton(2001)のAcademy of Management Review論文。従業員が仕事の「課業」「関係」「認知」の境界を自分で変えることを指す。
- 種類は作業(タスク)クラフティング、人間関係クラフティング、認知クラフティングの3つ。上司が職務を割り当てるジョブデザイン(職務設計)とは、変える主体が逆になる。
- 研究ではもう一つ、仕事の資源と要求度の増減で測る4次元の系統(Tims & Bakker)がある。メタ分析では、資源や挑戦を「増やす」工夫がワーク・エンゲイジメントと結びつく一方、負担を「減らす」工夫だけは関連がほぼゼロか逆向きだった。
- 日本のランダム化比較試験(281人)では、120分の研修2回の効果は参加者全体では有意でなく、事前計画のない追加分析では、クラフティング得点が低い層の3か月後に改善が見られた。ただし、対象を絞る研修の優位性を直接検証した結果ではない。
- 個人で始めるなら、主な業務を3つ挙げ、作業・人間関係・認知の工夫を1つずつ「何を・いつ・どこで」まで書いて1か月試す。
ジョブクラフティングの定義と提唱者
原論文が示した「3つの境界」を変える行動
原論文は「Crafting a Job: Revisioning Employees as Active Crafters of Their Work」(Academy of Management Review 第26巻第2号、2001年、179〜201頁)です。抄録には、従業員は仕事の認知的境界・課業の境界・関係の境界を変えることで仕事を形づくる、とあります。課業の境界は仕事の数・範囲・やり方、関係の境界は誰とどれだけ関わるか、認知の境界は仕事をどういうものと捉えるかです。
厚生労働省の白書はこの定義を「課題や対人関係における従業員個人の物理的又は認知的変化」と訳し、「仕事のやりがいや満足度を高めるために、自分の働き方に工夫を加える手法」と言い換えています。ポイントは、変化を起こすのが組織ではなく本人である点です。
ジョブデザイン(職務設計)との違い
従来のトップダウン型ジョブデザインは、組織や管理者が職務の内容・権限・手順を設計し、従業員に割り当てる考え方です。ジョブクラフティングは同じ職務の枠の中で、本人が自分に合う形へ調整します。部署や職務そのものを組織が入れ替えるジョブローテーションとも違い、配置は変わりません。会社が研修の枠組みを示しても、具体的に何を変えるかを本人が考えて実行するなら、ジョブクラフティングを支援できます。変更内容まで会社が一方的に決める場合とは区別します。
ジョブクラフティングの3つの種類
原論文の3つの境界に対応して、厚生労働省の白書では作業・人間関係・認知の3種類に整理しています。白書と厚生労働科学研究の実施マニュアルが挙げる例は次のとおりです。
| 種類 | 変えるもの | 公的資料の例 |
|---|---|---|
| 作業クラフティング | 仕事の量・範囲・やり方 | 優先順位をつけたスケジュール管理 |
| 人間関係クラフティング | 関わる相手と関わり方 | 先輩に自分からアドバイスを求める |
| 認知クラフティング | 仕事の目的・意味の捉え方 | 自分の仕事が将来に与える意義を考える |
作業(タスク)クラフティングによる量・範囲・手順の調整
作業クラフティング(タスククラフティング)は、仕事の中身が充実するように量・範囲・手順を変える工夫です。白書は、目標達成に照らして必要性の乏しい仕事を断り、量や範囲を調整することも例に含めています。To Doリストの立て方を変える、得意な作業を増やす、新しい道具を試すといった行動がここに入ります。
人間関係クラフティングによる接点・支援の調整
仕事で関わる人との接点を調整し、サポートや前向きなフィードバックを得やすくする工夫です。厚生労働省『令和元年版 労働経済の分析』は、職場の先輩に自分から仕事のアドバイスを求める工夫を例示しています。同僚との情報交換や、上司にフィードバックを求める場を設けることも、この観点で検討できます。
認知クラフティングによる仕事の目的・意味の捉え直し
仕事の目的や意味を捉え直し、自分の興味や将来と結びつける工夫です。作業手順や関わる相手をすぐに変えられない場合でも、まず「この仕事は誰にどう役立つか」を書き出すところから始められます。「仕事を楽しくしたい」「やらされ感を減らしたい」という悩みに直接対応するのもこの種類です。白書は、日本の介入研究がこの認知クラフティングを研修に組み込んだ点を重視しています。
研究で使われるもう一つの型:資源と要求度の4次元
3種類とは別に、研究、特に効果測定では、オランダのTims・Bakker・Derksが2012年に発表したJob Crafting Scale(Journal of Vocational Behavior 第80巻第1号、173〜186頁)がよく使われます。仕事の要求度-資源モデル(JD-Rモデル)に基づき、ジョブクラフティングを4つの行動として測る尺度で、全21項目です。
| 次元 | 項目数 | ワーク・エンゲイジメントとの相関 |
|---|---|---|
| 構造的な仕事の資源の向上 | 5 | rc=0.591 |
| 挑戦的な仕事の要求度の向上 | 5 | rc=0.454 |
| 社会的な仕事の資源の向上 | 5 | rc=0.352 |
| 妨害的な仕事の要求度の低減 | 6 | rc=-0.090 |
相関の列は、Rudolphらが2017年に発表したメタ分析(Journal of Vocational Behavior 第102巻、112〜138頁、122標本・35,670人)のTable 4にある信頼性補正後の値です。構造的資源は裁量や学ぶ機会、社会的資源は上司や同僚からの支援・フィードバック、挑戦的要求は新しい仕事や役割を自分から引き受けることを指します。ジョブクラフティング全体とワーク・エンゲイジメントの相関はrc=0.450でした。ワーク・エンゲイジメントそのものの意味や他分野での用法は、エンゲージメントとは?ビジネスでの意味を人事・マーケ・会計の分野別に整理で整理しています。
日本語版尺度JCS-Jで測れること
日本語版はEguchi・Shimazuらが検証し、Journal of Occupational Health 第58巻第3号(2016年、231〜240頁)に掲載されています。国内製造業の従業員972人に実施し、原版と同じ4次元・21項目で、各次元の信頼性係数αは0.76〜0.90でした。ただし探索的因子分析では「妨害的な要求度の低減」が2つに分かれ、5因子構造の方が当てはまりました。この次元には異なる性質の項目が含まれるため、4次元それぞれの得点を区別し、「妨害的な要求度の低減」は項目ごとの内容も確認します。なお、検証論文は4因子モデルの適合も許容範囲とし、原版との比較可能性を保つため4次元で扱っています。
「減らす」クラフティングと消耗の関連・因果解釈の限界
ジョブクラフティングは、どの形でも前向きな取り組みとして紹介されがちです。研究結果は違います。負担を減らす方向の工夫は、増やす方向の工夫と逆の関連を示しています。
Rudolphらのメタ分析では、妨害的な要求度の低減は、ワーク・エンゲイジメントとの相関がrc=-0.090、仕事上の緊張とはrc=0.150、離職意向とはrc=0.235でした。離職意向の値は3研究に基づくので幅を持って読む必要がありますが、他の3次元と向きが逆である点は一貫しています。LichtenthalerとFischbachの2019年のメタ分析(European Journal of Work and Organizational Psychology 第28巻第1号、30〜50頁)も、資源や挑戦を増やす「促進焦点型」はワーク・エンゲイジメントと正、バーンアウトと負に関連し、負担を避ける「予防焦点型」はその逆だったと報告しています。縦断データでは、予防焦点型とバーンアウトが互いを強め合う関係も示されました。日本の製造業894人の横断調査(Sakurayaら、BioPsychoSocial Medicine、2017年)でも、増やす3次元はワーク・エンゲイジメントと正に関連し、妨害的要求の低減は負(β=-0.19)、心理的ストレス反応とは正(β=0.23)に関連しました。同じ論文の追加分析では関係が逆U字で、減らす工夫が中程度の人のワーク・エンゲイジメントが最も高く、極端に多い人と少ない人は低くなっていました。
ZhangとParker(Journal of Organizational Behavior 第40巻第2号、2019年、126〜146頁)は、ジョブクラフティングを「接近か回避か」「行動か認知か」「資源か要求度か」の3階層で整理し、最上位の接近と回避の区別が見落とされてきたと指摘しています。
実務では次のように扱います。目標に照らして不要な仕事を断る調整は、白書が挙げる作業クラフティングの一例ですが、つらい仕事や人を避けることが中心になっているなら、それは消耗のサインとして扱うべきです。面談でクラフティングの計画を聞くときは、増やすものと減らすものの両方を書いてもらい、減らすものしか出てこない部下には業務量や関係の問題を先に確認します。ただし相関研究なので因果の向きは確定しておらず、Sakurayaらも、もともとワーク・エンゲイジメントが低い人ほど負担を減らそうとする逆の因果の可能性を挙げています。中程度の削減で最も高かったという結果もあるため、この相関だけを理由に負担を減らす工夫そのものを禁じる必要はありません。見るべきは、不要な業務の削減なのか、消耗に伴う回避なのかの区別です。
個人でジョブクラフティングを始める手順
厚生労働科学研究の「ジョブ・クラフティング介入プログラム実施マニュアル」(研究代表者 島津明人)の計画づくりは、そのまま個人でも使えます。
- 今の主な業務を3つ程度挙げる(3つより多ければ、思い入れがある仕事や注目したい仕事を選ぶ)。
- それぞれの業務で、どの程度クラフティングできているかを○(よくできている)・△(あまりしていない)・×(全くしていない)で評価する。
- ×や△の業務について、作業・人間関係・認知の工夫を1つずつ考える。
- 3つの工夫を「何を・いつ・どこでするか」まで具体化して書き出す。
- 約1か月実行し、うまくいった工夫と続かなかった工夫を振り返って計画を作り直す。
マニュアルは考えるための問いとして、作業では「今の職場でできる新しいチャレンジは何か」「疲れすぎないための工夫は何か」、人間関係では「周りの人からのサポートを上手く集める方法は何か」、認知では「この仕事の意義や目的は何か」を挙げています。挑戦を1つ入れるのは、前章の結果とも合っています。上司から挑戦的な仕事を任される側の視点はストレッチアサインメントとは?意味・タフアサインメントとの違いと任せ方が参考になります。
企業がジョブクラフティング研修を導入するときの設計
厚生労働科学研究の研修プログラムの構成
実施マニュアルの研修は、120分の集合研修2回と研修後のメールフォローで構成され、研修の間を約1か月空けた全6週間のプログラムです。1回目は、講義20分、行き詰まった架空事例でクラフティングを考えるワーク40分、自分の計画づくり45分、計画カードの記入10分という配分です。2回目は計画の振り返りと改善版の計画づくりに充てます。
運営面の指定も具体的です。約4人で1グループにし、同じ職位の人を同じグループにすると進めやすく、特に管理職と非管理職はグループを分けるのが望ましいとしています。上司が同じテーブルにいると「減らしたい仕事」を口にしにくいので、部署単位で開くときも上下関係のある人を同じグループに入れないようにします。
効果検証の結果と対象者の絞り方
日本の効果検証には2段階あります。最初のパイロット研究(Sakurayaら、BMC Psychology、2016年)は、製造会社と民間精神科病院の管理職50人に2回の研修を行い、ワーク・エンゲイジメントの有意な向上(効果量d=0.33)と心理的ストレス反応の低下を報告しました。白書が紹介したのはこの研究です。ただし対照群のない前後比較で、論文自身も自然な変化と区別できないことを限界に挙げています。
その後のランダム化比較試験(Sakurayaら、Frontiers in Psychology 第11巻、2020年)では、6事業所の281人を研修群138人と対照群143人に分けました。参加者全体では、3か月後・6か月後ともワーク・エンゲイジメントにもジョブクラフティング得点にも有意な効果は出ませんでした。2023年の訂正論文で示されたワーク・エンゲイジメントの効果量は、3か月後d=0.15、6か月後d=0.03です。事前計画のない追加分析では、開始時のクラフティング得点が低い層の3か月後に有意な介入効果が見られました。ただし、効果量d=0.33の95%信頼区間は-0.004〜0.67とゼロを含み、6か月後の効果も有意ではありませんでした。
この試験から言えるのは、研修2回とメールフォローを含むプログラムでも、参加者全体の平均的な改善効果は確認されなかったということです。社内で導入するなら、研修前と3か月後に同じ尺度で測り、研修を受けていない部署と比べて投資の当否を判断します。尺度は研修内容に合わせて選びます。このRCTでジョブクラフティングの測定に使われたのは、作業・人間関係・認知を4項目ずつ測るSekiguchiらの12項目尺度で、資源と要求度の4次元を測るJCS-Jとは別物です。得点の低い層を優先するやり方は、上の追加分析を手がかりに試す価値はありますが、確立した方法ではないので、自社のデータで確かめながら進めます。研修の満足度アンケートだけで効果を語らないことも重要です。報酬で動機づけを補おうとすると逆効果になる場面があることは、アンダーマイニング効果とは?報酬でやる気が下がる条件を原典と128研究のメタ分析で整理で扱っています。
導入を見送るべき職場の条件
次のどちらかに当てはまる職場では、研修に先立って職務設計や人員配置を見直します。1つは、手順や品質基準が規程で固定され、個人が変えられる範囲がほとんど無い職場です。この場合は作業クラフティングの余地が小さいため、本人が変えられる範囲を先に確認し、負担の原因を残したまま認知面の捉え直しだけを求めない設計にします。もう1つは、慢性的な人手不足で、参加者の計画が「減らしたい仕事」ばかりになる職場です。負担を減らす方向のクラフティングはバーンアウトと正の関連が報告されており、人員の問題を個人の工夫に委ねる構図になります。チームで分担する業務では、個人の工夫が他のメンバーの負担を増やしていないかを、計画の共有時に確認する運用も必要です。
よくある質問
ジョブクラフティングの提唱者は誰ですか?
米国の組織行動学者エイミー・レズネスキー(Amy Wrzesniewski)とジェーン・E・ダットン(Jane E. Dutton)です。2001年にAcademy of Management Review誌で発表した論文「Crafting a Job: Revisioning Employees as Active Crafters of Their Work」が出典です。
タスククラフティングとは何ですか?
作業クラフティングの別名で、仕事の量・範囲・手順を自分で変える工夫を指します。優先順位をつけたスケジュール管理や、目標に照らして必要性の低い仕事を断ることが例です。ジョブクラフティングの3種類のうちの1つです。
ジョブ・クラフティング研修とは何をするのですか?
ジョブクラフティングを学び、自分の業務で試す計画を立てる集合研修です。厚生労働科学研究のマニュアルでは、120分の研修を約1か月空けて2回行い、1回目で計画を立て、2回目で振り返りと計画の改善をします。日本のランダム化比較試験では全体の効果は有意ではなく、事前計画のない追加分析で、クラフティング得点が低い層の3か月後に改善が見られました。対象者を絞る効果は今後の検証が必要です。
ジョブクラフティングとジョブローテーションの違いは何ですか?
ジョブローテーションは、組織が計画的に部署や職務を異動させる人事施策です。ジョブクラフティングは配置を変えず、今の職務の中で本人がやり方・関わり方・捉え方を変えます。変える主体が組織か本人か、変えるのが配置か職務の中身か、の2点で区別できます。
ジョブクラフティングの効果はどう測ればよいですか?
クラフティングの程度は研修内容に対応する尺度で測ります。資源・要求度の4次元にはJCS-J(21項目)が使えますが、紹介した日本のRCTでは作業・人間関係・認知を測るSekiguchiらの12項目尺度を使用しました。成果はUWESなどのワーク・エンゲイジメント尺度で測るのが研究と同じやり方です。実施前と3か月後に同じ尺度で測り、可能なら研修を受けない比較群も置きます。紹介した前後比較研究とRCTでは結果が異なりますが、対象者なども異なるため、対照群の有無だけで差を説明することはできません。