期待理論は、心理学者ビクター・H・ブルーム(Victor H. Vroom、邦訳書の表記はヴルーム)が1964年の著書『Work and Motivation』で示した、仕事のやる気を説明する理論です。やる気の強さを「期待(努力すれば成果が出る見込み)」「道具性(成果が報酬につながる確かさ)」「誘意性(その報酬の魅力)」の3つで捉え、教科書では「モチベーション=期待×道具性×誘意性」という掛け算で紹介されます。この記事では、誘意性・道具性の意味、ブルームの原典の式が教科書の掛け算とどう違うか、77研究をまとめたメタ分析が示した限界、期待価値理論との違い、部下のやる気を診断する質問例までを順に整理します。
まとめ:期待理論の要点と使いどころ
期待理論の骨子は、人は「頑張れば達成できる」「達成すれば報われる」「その見返りが欲しい」がそろったときに動く、というものです。教科書の掛け算では、3つのどれかがゼロに近いと、残りが高くてもやる気はほぼ出ません。
ただし原典の式は単純な3項の掛け算ではありません。ブルームは、成果から生じる複数の結果(賞与、昇進、残業の増加など)ごとに「道具性×誘意性」を足し合わせ、そこに期待を掛ける形で考えました(成果を1つに絞った場合。原典では達成・未達など成果の候補ごとにこの計算をして期待で重みづけし、足し合わせます)。望まない結果は誘意性がマイナスになり、合計を押し下げます。
実証面では、1996年に77研究を統合したメタ分析が、3要素を組み合わせた式は要素を単独で使ったときより予測力が高くないと結論づけています。実務では式で点数を出すより、3要素のどこが詰まっているかを面談で切り分ける診断の枠組みとして使うのが妥当です。
期待理論の定義|ブルームが1964年に示した「努力・成果・報酬」の見込み
期待理論は、人がある行動を選ぶかどうかを、その行動がどんな結果をもたらしそうかという本人の見込みと、その結果の好ましさで説明します。ブルームは1985年に本人が寄せた回想で、この枠組みが「expectancy or VIE (valence, instrumentality, expectancy) theory」と呼ばれるようになったと書いています。同じ回想によると、執筆は1961年の夏に150ページの小冊子として始まり、刊行時には300ページを超える本になりました。同じページの編集部の注(SSCIの集計)によると、同書は1966年以降1,430を超える文献に引用されていました。
邦訳は坂下昭宣ほかの共訳で『仕事とモティベーション』として1982年に千倉書房から刊行されています(CiNii Books の書誌)。日本語の解説で「ブルーム」「ヴルーム」の2つの表記が混在するのはこのためです。ブルームは1932年生まれで、1972年からイェール大学で教え、2023年に亡くなりました(Yale School of Management の追悼記事)。1973年にはイェットンとの共著で、部下を意思決定にどこまで参加させるかを決める別のリーダーシップモデルも発表しています。
モチベーション理論は、何が人を動かすか(欲求の中身)を扱う内容理論と、やる気がどう生じるか(心の働き)を扱う過程理論に分けて整理されることが多く、期待理論は過程理論の代表です。
| 分類 | 問い | 主な理論 |
|---|---|---|
| 内容理論 | 何が人を動かすか | マズローの欲求段階説・ハーズバーグの二要因理論 |
| 過程理論 | やる気がどう生じるか | 期待理論・目標設定理論・公平理論 |
欲求の中身を全員に共通するものとして扱う内容理論に対し、期待理論は人によって欲しい報酬も見込みも違う前提に立ちます。職場の満足と不満足の要因を分けたいならハーズバーグの二要因理論、特定の部下がなぜ動かないかを分解したいなら期待理論、という使い分けになります。
期待理論の3要素|期待・道具性・誘意性の意味と値の範囲
3要素は、努力から報酬までのつながりを2か所で区切り、最後に報酬そのものの好ましさを置いたものです。
| 要素 | 英語 | つなぐもの | 値の範囲 |
|---|---|---|---|
| 期待 | Expectancy | 努力 → 成果 | 0〜1(主観的な確率) |
| 道具性 | Instrumentality | 成果 → 報酬などの結果 | −1〜+1(無関係なら0) |
| 誘意性 | Valence | 結果の好ましさ | 正にも負にもなる |
値の範囲はブルームの原典に沿ったものです。原典では道具性と誘意性はマイナスの値もとります(Van Eerde と Thierry も、理論上は誘意性が負になりうるのに正の目盛りの尺度で測った研究が多いと指摘しています)。
期待とは|努力が成果につながる主観的な確率
期待は「この努力をすれば、その成果を出せる」と本人が見積もる主観的な確率です。Van Eerde と Thierry のメタ分析(1996年)は、ブルームの定義を「行為や努力が成果につながる主観的確率(e→p)」と整理し、実際の研究では「努力すれば報酬が得られるか(e→o)」と聞いてしまう例があると指摘しています。後者は期待と道具性を混ぜた質問です。部下に聞くときも「この目標は達成できそうか」と「達成したら評価に反映されると思うか」は分けて聞く必要があります。
期待を左右するのは、本人のスキル、課題の難しさ、使える時間や支援です。自分はできるという感覚についてはエフィカシー(自己効力感)の研究が詳しく扱っています。
道具性とは|成果が報酬に結びつく確かさ
道具性は、ある成果が別の結果(賞与、昇進、上司の承認など)をもたらすと本人が見込む度合いです。ブルームはこれを「結果と結果の結びつき」と定義しました。成果を出すほど報酬が得られると信じていれば+1に近づき、成果と報酬が無関係なら0、成果を出すとかえって失うと感じるならマイナスになります。
マイナスの道具性は、次のような形で職場に現れます。「目標を達成したら翌期の目標が引き上げられるだけ」「仕事が速い人に仕事が集まる」と感じている部下にとって、成果は負担の増加と結びついています。道具性を支えるのは、評価基準の公開と、約束した処遇を実際に実行した実績です。評価と処遇の仕組みの全体像は人事評価制度の解説で扱っています。
誘意性とは|結果に対する好ましさで、負の値もとる
誘意性は、ある結果を本人がどれだけ好ましいと感じるかを表します。ブルームはこれを結果に対する感情的な志向全般と定義し、得たい結果は正、どちらでもよい結果は0、避けたい結果は負になります。同じ昇進でも、管理職を目指す人には正、専門職を続けたい人には負になりえます。
測り方で結果が変わる点も押さえておきます。前述のメタ分析がまとめた先行の比較研究では、結果が一貫しない場合もあるものの、一貫している範囲では、誘意性を「魅力」「望ましさ」「予想される満足」で尋ねたほうが、「重要度」で尋ねるより説明できる分散が大きいとされています。また、多くの研究が正の目盛りしかない尺度を使い、理論上は負になりうる誘意性を測れていなかったとも指摘しています。面談で聞くなら「どれくらい重要か」より「どれくらい欲しいか、避けたいか」です。
期待理論の公式|教科書の掛け算とブルーム原典の式の違い
「期待理論の関係式」として広く知られるのは次の形です。
モチベーション=期待×道具性×誘意性
掛け算なので、どれかが0なら全体も0になります。期待0.8・道具性0.9・誘意性1.0なら0.72、誘意性が0.1に下がると0.072です。足し算なら1つが欠けても残りで補えますが、掛け算では補えません。この性質が「欠けた1要素を探せ」という実務上の教訓につながります。
原典の構造|結果ごとの「道具性×誘意性」を合計する
ブルームの原典は、この3項の掛け算より一段複雑です。Van Eerde と Thierry は、ブルームのモデルが複数の結果について道具性を誘意性で重みづけして合計するものだと説明しています。手順に直すと次のとおりです。
- 成果がもたらしうる結果(賞与、昇進、残業の増加など)を挙げる
- 結果ごとに「道具性×誘意性」を求め、合計する。これが成果そのものの誘意性になる(誘意性モデル)
- その成果を達成する期待を掛ける。これが行動へ向かう力になる(力のモデル)
原典では、本人にとって無関係な結果の道具性は0で、合計に影響しません。ブルームは行動を「それぞれ向きと大きさを持つ力の場の結果」として捉え、ある人の力はその人の中のほかの力との比較で働くものと考えました。Van Eerde と Thierry はこの点から、期待理論は個人の意思決定のモデルであり、人と人を比べるのではなく同じ人の中で選択肢を比べて検証すべきだと指摘しています。つまり期待理論は、本来は「この人がどの行動を選ぶか」を比べるための理論です。
計算例|望まない結果が合計を押し下げる
ある営業担当者にとって「今期の目標を達成する」という成果を、架空の数値で計算します。
| 成果がもたらす結果 | 道具性 | 誘意性 | 積 |
|---|---|---|---|
| 賞与が増える | +0.9 | +0.8 | +0.72 |
| 昇進に近づく | +0.4 | +0.5 | +0.20 |
| 翌期の目標が上がる | +0.7 | −0.6 | −0.42 |
| 合計(成果の誘意性) | - | - | +0.50 |
期待が0.6なら、行動へ向かう力は0.6×0.50=0.30です。賞与の魅力が高くても、翌期の目標が上がることを嫌がっている分だけ力は小さくなります。教科書の3項の式で賞与だけを見ると0.6×0.9×0.8=0.43となり、この人のやる気を高く見積もってしまいます。やる気が上がらない原因が、報酬の不足ではなく成果に付いてくる負担にある場合、この計算で見えてきます。
期待理論の実証研究|77研究のメタ分析でわかった予測力と限界
期待理論は1964年以降、数多くの実証研究で検証されてきました。それらを統合したのが、Van Eerde と Thierry が Journal of Applied Psychology 81巻5号(1996年)に発表したメタ分析(doi:10.1037/0021-9010.81.5.575)です。ブルームの原モデルと3要素を扱った77研究の相関を、業績・努力・意図・選好・選択という5種類の基準ごとにまとめています。
| 基準 | VIEモデルとの平均相関 | 観測数 |
|---|---|---|
| 業績 | 0.19 | 33 |
| 努力 | 0.29 | 20 |
| 意図 | 0.42 | 7 |
| 選好 | 0.74 | 1 |
| 選択 | 0.25 | 7 |
表の値は論文の表2にある非加重平均の相関です。選好の0.74は観測1件だけに基づく値で、平均とは呼べません。結論として著者らが挙げたのは次の点です。
- 平均相関は、それ以前の叙述的レビューが報告していた水準よりやや低かった
- ブルームのモデル(要素を掛け合わせて合計した式)は、要素を単独で使ったときより高い効果量を示さなかった。著者らは式ではなく要素を使うことを勧めている
- モデルや要素と強く関係したのは、業績・努力・選択といった行動より、意図・選好といった態度のほうだった(自己報告の回答バイアスの可能性を著者らも指摘)
- 同じ人の中で選択肢を比べる個人内の相関は、75%のカテゴリーで人と人を比べる個人間の相関を上回ったが、有意に高かったのは努力と選好を基準にした場合だけだった(個人内の相関は少数で、ほぼすべてが同時に測った自己報告)
著者らはこの結果を「モデルの妥当性の乏しさを示唆する」と述べる一方、多くの研究がブルームの理論どおりに設計・分析されていなかった点も認め、実験計画による検証を求めています。期待理論の式で社員ごとに点数を出し、業績を予測したり人を比べたりする使い方には根拠が乏しい。一方で、3要素それぞれは仕事への意図や選好と関係しており、1人の部下について「どの要素が詰まっているか」を見る枠組みとして使う余地はあります(ここは編集部の見解です)。
期待理論・期待価値理論・期待効用理論の違い
名前が似た3つの理論は、分野も式も異なります。教育心理学で「期待価値理論」と呼ぶときは、主にアトキンソンやエクルズの理論を指します。
| 理論 | 分野 | 代表的な文献 | 骨子 |
|---|---|---|---|
| 期待理論 | 産業・組織心理学 | Vroom 1964 | 期待×Σ(道具性×誘意性)※成果1つの場合 |
| 期待価値理論 | 達成動機づけ・教育心理学 | Atkinson 1957・Eccles ら 1983 | 期待×価値(アトキンソンは動機×期待×誘因価) |
| 期待効用理論 | 経済学・意思決定論 | Bernoulli 1738・von Neumann と Morgenstern 1944 | 期待効用が最大の選択肢を選ぶ |
期待価値理論|アトキンソンの式と成功確率0.5の山
アトキンソンは1957年の Psychological Review 論文(doi:10.1037/h0043445)で、動機づけの強さを「動機×期待(主観的な成功確率)×誘因価」の積として定式化しました。ブルームとの大きな違いは、成功の誘因価を「1−成功確率」と置いた点です。難しい課題ほど成功したときの価値が高い、という仮定です。
この仮定から、達成への動機が失敗を避けたい動機より強い人は、成功確率0.5の中くらいの難しさの課題で動機づけが最も強くなります。達成動機の強さを1とすると、成功確率0.5なら0.5×0.5=0.25で、0.9でも0.1でも0.09まで下がります。反対に、失敗を避けたい動機のほうが強い人は、中くらいの課題を避けて、最も易しい課題か最も難しい課題を選ぶと予測しました。目標の難易度設定を考えるときに、ブルームの期待理論より直接的な示唆を持つ理論です。
この流れを受けて、エクルズらは1983年以降、価値の中身を細かく分けた現代の期待価値理論を示しました。解良・中谷(2019)の総説によると、課題価値は興味価値(課題をすることの楽しさ・面白さ)・獲得価値(取り組んで成功することが望ましい自己像の獲得につながるという認知。達成価値とも訳される)・利用価値(キャリアや日常生活での有用性)の3つで、これに努力・機会・心理の3種のコストが加わります。最初期の論文ではコストは課題価値の構成要素そのものとしては扱われていませんでした。学習意欲や研修の参加意欲を考える場面では、ブルームよりエクルズの枠組みのほうが合います。
期待効用理論|不確実な選択の経済学モデル
期待効用理論は、結果が確率的に決まる選択肢のうち、効用(満足の大きさ)を確率で重みづけした平均が最大のものを選ぶ、という意思決定の理論です。ベルヌーイが1738年の論文で原型を示し、フォン・ノイマンとモルゲンシュテルンの『Theory of Games and Economic Behavior』(1944年)以降、経済学の意思決定理論の土台になりました。やる気の強さではなく、どの選択肢が合理的かを扱う点で、動機づけ理論の2つとは目的が違います。「期待値理論」という表記を見かけたら、どれを指すかを文脈で確かめてください。
期待理論のその後|ポーター=ローラーモデルと「期待」の混同
期待理論を拡張したモデルとして知られるのが、ポーターとローラーが1968年に『Managerial Attitudes and Performance』(R.D. Irwin刊)で示したモデルです。ブルームの力のモデルが行動へ向かう力(努力)を予測するのに対し、能力や役割の認識を介して努力を業績につなぎ、さらに報酬・公平と感じる報酬・満足までを一続きにした点が特徴として紹介されることが多いモデルです(原著のモデル図は未確認で、ここは二次文献による)。成果に見合う処遇かどうかという比較の問題は、期待理論だけでは扱えない部分です。
「期待」という語を共有するピグマリオン効果とは別物です。ピグマリオン効果の「期待」は教師や上司が相手にかける期待であり、期待理論の期待は本人が自分の努力の結果について持つ見込みです。
期待理論で部下のやる気を診断する手順|3要素の質問と打ち手
期待理論の使いどころは、1人の部下について詰まっている要素を特定し、そこだけに手を打つことです。順番は期待、道具性、誘意性の順に確かめます。期待が0なら、報酬をどれだけ魅力的にしても動かないからです。
| 要素 | 面談での質問例 | 低いときの打ち手 |
|---|---|---|
| 期待 | この目標は達成できそうですか | 目標の分割・研修・時間や人員の確保 |
| 道具性 | 達成したら評価に反映されると思いますか | 評価基準の公開・約束した処遇の実行 |
| 誘意性 | 達成で得られるもののうち、欲しいもの・避けたいものは | 報酬の選択肢を増やす・負担の増加を外す |
誘意性の質問では、賞与や昇進のような会社側が用意した結果だけでなく、本人が思いつく結果を挙げてもらいます。メタ分析によると、研究者があらかじめ用意した結果の一覧を評価させる研究が多く、本人にとって無関係な結果が混じったり、本人にとって大事な結果が漏れたりする問題が指摘されています。同論文が引く Schwab らの1979年のレビューでは、努力や業績を予測した個人間の研究のうち10〜15個の結果を使ったものが、それより少ない研究や多い研究より効果量が大きかったとされています。サーベイで組織全体の傾向を見る場合の設計は組織サーベイの種類と選び方を参照してください。
道具性の手当ては評価の仕組みに行き着きます。目標と評価・処遇を結びつける制度としてはMBO(目標管理制度)が代表的です。評価結果と処遇の対応を社員が自分で確かめられるようにするには、人事・労務管理システムの開発で評価履歴と処遇の記録を一元化する方法もあります。
期待理論で考えないほうがよい場面|楽しんでいる仕事と同僚との比較
期待理論は報酬を足すほどやる気が上がる方向で読まれがちですが、当てはめないほうがよい場面が2つあります。
1つ目は、本人がすでに面白がって取り組んでいる仕事です。報酬の予告が内発的な興味を下げるアンダーマイニング効果が、Deci・Koestner・Ryan(1999)のメタ分析などで報告されており、誘意性を上げるつもりで金銭報酬を結びつけると、逆効果になりえます。言葉によるほめ方の効果はエンハンシング効果の研究が扱っています。
2つ目は、同僚と比べて不公平だと感じている部下です。期待理論は本人の中の見込みだけで組み立てられており、他人との比較は入っていません。「自分の成果は報われている。でも隣の人のほうが多くもらっている」という不満は、3要素をいくら点検しても見つかりません。この場合は公平理論の観点で処遇の差を説明できるかを確かめるほうが先です。
よくある質問
期待理論の身近な例は?
資格試験の勉強が典型です。「勉強すれば合格できそうだ」が期待、「合格すれば資格手当が出る」が道具性、「手当は欲しい」が誘意性にあたります。過去問で全く歯が立たないと期待が下がり、会社が資格を処遇に反映しないと道具性が下がり、手当が月数百円なら誘意性が下がります。どれか1つが欠けると勉強に手が伸びなくなる、というのが期待理論の説明です。
期待理論の関係式(公式)は?
教科書では「モチベーション=期待×道具性×誘意性」です。ブルームの原典では、成果がもたらす複数の結果ごとに道具性と誘意性を掛けて合計し、それに期待を掛けます(成果を1つに絞った場合)。望まない結果は誘意性がマイナスになるため、合計を押し下げます。教科書の形では、どれか1つが0なら全体が0になります。原典の形でも期待が0なら全体は0ですが、道具性や誘意性が0になったときに消えるのはその結果の項だけで、ほかの結果で補われます。
誘意性と道具性の違いは?
道具性は「成果を出せば、その結果が得られるか」という結びつきの確かさで、誘意性は「その結果がどれくらい欲しいか」という好ましさです。賞与が確実に出る制度なら道具性は高く、本人が賞与よりも休みを欲しがっていれば賞与の誘意性は低くなります。道具性は制度と運用で、誘意性は本人の価値観で決まるため、手の打ち方も異なります。
期待価値理論とブルームの期待理論は同じですか?
系譜は近いものの別の理論です。期待価値理論はアトキンソン(1957年)やエクルズら(1983年以降)による達成動機づけの理論で、学習や課題の選択を主に扱います。アトキンソンは成功の価値を「1−成功確率」と置き、中くらいの難しさで動機づけが最大になると予測しました。ブルームの期待理論は職務の場面を扱い、価値の部分を道具性と誘意性に分けている点が違います。
期待理論の欠点や批判は?
代表的なのは予測力の問題です。77研究を統合した1996年のメタ分析では、3要素を組み合わせた式は要素を単独で使ったときより予測力が高くなく、業績との平均相関は0.19にとどまりました。また、人が損得を計算して動く前提に立つため感情や習慣の影響を扱いにくく、同僚との比較による不公平感も扱いません。診断の枠組みとして使い、点数で人を比べないのが妥当です。