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アンダーマイニング効果とは?具体例と報酬でやる気が下がる条件、エンハンシング効果との違い

アンダーマイニング効果とは?具体例と報酬でやる気が下がる条件、エンハンシング効果との違い

アンダーマイニング効果とは、好きで続けていた活動に報酬を約束すると、報酬が止まったあとに自発的な取り組みが以前より減る現象です。ただし報酬であれば何でも下がるわけではありません。128の実験研究を集めたメタ分析では、事前に約束された物質的な報酬で低下が出る一方、予期しない報酬では有意な低下が確認されず、言葉による肯定的フィードバックは平均として向上側に出ています。この記事では、身近な具体例から入り、デシ(1971年)とレッパーら(1973年)の原典、メタ分析の効果量、脳の研究と実験室の外で行われた現場実験の結果をもとに、起きる条件と防ぎ方を整理します。

まとめ:報酬の種類・提示のしかた・課題の面白さで結果が変わる

  • アンダーマイニング効果は、それ自体が面白くて続けていた活動に外発的な報酬を結び付けた結果、報酬がなくなった場面での自発的な取り組みが減る現象です。逆の現象はエンハンシング効果と呼ばれます。
  • 低下が出やすいのは、行動の前に約束された物質的な報酬です。128研究のメタ分析では、作業への従事に対する報酬で d=マイナス0.40(中程度の低下)でした。予期しない報酬と、課題に連動しない報酬では有意な低下が確認されていません。
  • 言葉による肯定的フィードバックは平均では向上側に出ますが、「そうすべきだ」と統制的に伝えると低下に転じます。
  • 低下が出たのは、もともと面白い課題でした。退屈な課題では有意な効果が出ておらず、単調な作業へのインセンティブはこの研究群からは否定されていません。
  • 成果連動の報酬を外したあとに脳の線条体の反応が有意でなくなったことが fMRI で確かめられ、献血や保育園の罰金といった実験室の外の現場実験でも、お金が加わると行動の意味が変わる例が報告されています。

アンダーマイニング効果の意味と身近な具体例

定義:好きで続けていた活動が、報酬の約束で続かなくなる現象

内発的動機づけとは、活動そのものの面白さや好奇心から行動が起きている状態を指します。アンダーマイニング効果は、この状態にある人へ物質的な報酬を約束して取り組ませたあと、報酬が止まった段階で以前より活動への関与が減る現象です。測り方は主に2つで、興味・楽しさを尋ねる自己報告尺度と、デシが導入した自由選択法が併用されています。自由選択法は、実験者が退室し、報酬も指示もない時間に、対象の活動へ何秒使うかを記録する方法です。「やる気があると答えた」かではなく、「外からの要求がない場面で手を出したか」を見る点が、この研究群の要になります。

身近な具体例:お手伝いのお小遣い・社内勉強会・ボランティアの謝礼

典型は家庭の例です。自分から食器を片付けていた子どもに「片付けたら100円」と約束すると、しばらくは片付けが続きますが、お小遣いをやめた時点で、約束の前より片付けなくなることがあります。家事の手伝いを直接測った研究があるわけではなく、研究知見を家庭に当てはめた例です。職場なら、有志で続いていた勉強会に参加手当を付け、手当を止めた四半期に参加者が当初より減る、という形で現れます。手当の期間は参加が増えるため、その時点の数字では施策は成功に見えます。

ボランティアや献血のような、善意で続いている活動への謝礼も同じ構図に入ります。後述する献血の現場実験では、謝礼を出す条件で献血者になる女性がほぼ半減しています。共通するのは、報酬の前から自発的に続いていたこと、報酬が行動の前に条件として示されたこと、報酬が止まる局面があることの3点で、このうち1つでも欠けると研究知見とは別の話になります。

内発的動機づけと外発的動機づけの違い

外発的動機づけは、報酬・評価・罰則など活動の外側にある結果を目的として行動が起きている状態です。両者は「良い/悪い」の対ではなく、同じ読書でも面白いから読むのか報奨金が出るから読むのかで動機の種類が変わるだけです。問題になりうるのは、すでに内発的に動いている行動へ外発的な理由を後から結び付けたときで、報酬が止まると行動を支える理由が両方とも弱くなる可能性があります。

過剰正当化効果との違いは、説明する理論の系統

英語圏の学術文献でこの現象を指す名称は overjustification effect(過剰正当化効果)で、undermining effect(アンダーマイニング効果)も同じ現象を指します。ただし説明の枠組みは同一ではありません。過剰正当化効果はベムの自己知覚理論を土台に、レッパーらが「人は自分の行動の原因を後から推論するため、報酬という目立つ理由があると、興味という理由を割り引いて考える」と説明したものです。一方デシとライアンの系統は認知的評価理論を立て、報酬が自律性(行動の原因が自分にあるという感覚)と有能さの感覚をどう変えるかで説明します。前者は原因の推論、後者は欲求の充足を軸にしており、対策の立て方も変わります。

原典2件の切り分け:デシ1971年の3実験とレッパーら1973年の園児実験

デシ(1971年)のソマパズル実験は大学生24人の室内実験

デシは1971年、Journal of Personality and Social Psychology 誌18巻105ページから115ページに3つの実験を報告しました(DOI 10.1037/h0030644)。第1実験で使われたのがソマパズル(示された図形を立体ブロックで再現する課題)です。参加者は2群に分かれて3回のセッションに参加し、各回の途中で実験者が退室した時間に、雑誌なども置かれた部屋で何をするかが記録されました。第2セッションのみ実験群に1問解くごとに1ドルが支払われ、第3セッションでは両群とも無報酬に戻します。報酬を受け取った群のほうが、初回から3回目にかけてパズルに費やす時間の減り方が大きくなりました。手続きの細部は、自己決定理論の公式サイトが公開するRyan, Ryan & Di Domenico の解説論文に基づいて記述しています。

押さえておきたいのは、この第1実験の参加者が24人にとどまり、効果が有意傾向どまりだった点です。同解説論文も、この研究を「with only 24 participants, the effects of this first study were only marginally significant」と記述しています。単独の実験として決定的だったわけではなく、後述するメタ分析まで含めて読むのが正しい扱い方です。

残る2実験は大学新聞社の現場実験と、言語的報酬の実験

第2実験は大学新聞社で行われました。見出しを書く4人編成の2チームのうち一方だけに、基準期間のあと見出し1本につき0.50ドルを支払い、その後支払いを止めて、翌学期の初めまで1本あたりの所要時間を記録しています。支払いを止めたあと、統制群は所要時間の短縮を続けた一方で、報酬群はほとんど短縮しなくなり、欠勤が増える傾向も見られました。

第3実験は第1実験とほぼ同じ設計で、報酬を金銭から言葉に変えたものです。実験群には「あなたはこの課題を非常によく仕上げました。完成できない参加者も多いのです」といった声かけが行われました。結果は低下ではなく維持で、統制群の内発的動機づけが回を追って下がる中、言語的報酬を受けた群は下がりませんでした。ただし同解説論文は、標本の小ささや群間の初期差などから、この結果も条件次第で変わりうる(信頼性に欠ける可能性もある)と留保しています。「報酬は危険」という要約では、原典の3分の1にあたるこの結果が抜け落ちます。

レッパー, グリーン, ニスベット(1973年)の園児お絵かき実験と3条件の比較

園児を対象にした「よくできました賞」の実験は、レッパー, グリーン, ニスベットが1973年に同誌28巻129ページから137ページで報告したものです(DOI 10.1037/h0035519)。お絵かきに自発的に取り組んでいた子どもを3群に分け、賞を予告してから描かせる群、何も言わずに描かせたあとで賞を渡す群、賞に一切触れない群を比べています。分析対象は51人(男児19人・女児32人)で、内訳は予告あり18人、予告なしで事後に授与18人、賞なし15人でした。

実験の1週間から2週間あと、教材が自由に使える遊び時間に描画へ費やした時間の割合は、賞を予告された群が8.59%、賞なし群が16.73%、事後に賞を渡された群が18.09%でした。下がったのは事前に賞を約束された群だけで、同じ賞を予告なしに受け取った群は賞なし群を下回っていません。報酬そのものではなく「報酬のために描く」という枠組みが効いた、と読める結果です。研修教材に引くときは、1971年と1973年の研究を分けて出典表記してください。

報酬がやる気を下げる条件と、下げない条件

128研究のメタ分析が示した報酬タイプ別の効果量

デシ, ケストナー, ライアンは1999年、Psychological Bulletin 誌125巻6号627ページから668ページで、128の実験研究を対象としたメタ分析を発表しました(DOI 10.1037/0033-2909.125.6.627)。報酬を与え方で分類すると、低下の大きさははっきり分かれます。

報酬の与え方 自由選択行動の効果量 d 自己報告の興味 d
作業に従事すれば支払う マイナス0.40 マイナス0.15
作業を完了すれば支払う マイナス0.36 マイナス0.17(外れ値2件除外後の13研究)
成果の水準に応じて支払う マイナス0.28 有意差なし
成果連動で満額未達(6研究・下記注参照) マイナス0.88 該当集計なし
予期しない報酬 有意差なし 有意差なし
課題と連動しない報酬 有意差なし 有意差なし
肯定的フィードバック(言葉) 0.33 0.31(外れ値3件除外後)

※「有意差なし」の行は研究数が少なく(予期しない報酬は自由選択行動の9研究で d=0.01、課題非連動の報酬は7研究で d=マイナス0.14)、効果が無いと確かめられたという意味ではありません。マイナス0.88の行は、成果連動報酬で満額に届かなかった条件を、報酬も成績フィードバックも与えない統制群と比べた集計です。該当7研究のうち効果が不均質だったため外れ値1件を除いた6研究の値で、満額未達の人に一般に生じる効果量ではありませんが、同論文が検討した報酬条件の中で最も大きい低下でした。基準に届かなかった人は統制されたうえに、できていないという評価も受け取る形になるためと考えられます(同論文は、この型が応用場面でよく使われる与え方だと指摘しています)。社内表彰やインセンティブ制度を評価するときは、受賞者の反応だけでなく、基準に届かなかった人の翌四半期の行動まで見てください。

d は標準化平均差(2群の平均差を標準偏差で割った値)で、割合や発生率ではありません。マイナス側に離れるほど内発的動機づけの低下が大きく、プラス側は向上を示します。同論文は、予期しない報酬と課題非連動の報酬で有意な低下が出なかった理由を「参加者はその報酬を得るために課題をやっていたわけではないので、報酬によって統制されていると感じなかったため」と説明しています。報酬そのものではなく、報酬と行動が事前に結び付けられて提示されたかどうかが分かれ目です。

年齢による差と、具体的報酬・象徴的報酬の比較

同論文は、物質的な報酬が大学生より子どもに対して有害に働きやすいこと、逆に言葉による報酬は大学生では自由選択行動を高めた(14研究で d=0.43)一方、子どもでは有意な向上が見られなかった(7研究で d=0.11)ことを報告しています。さらに、子どもを対象にした研究に限った比較(同論文の注7)では、おもちゃやお菓子のような具体的な報酬(自由選択行動28研究で d=マイナス0.44)と、「よくできました賞」のような象徴的な報酬(15研究で d=マイナス0.42)のあいだに有意差は見られませんでした。大人の職場で金銭と表彰を比べた結果ではありませんが、事前に約束する形のままでは、報酬を賞状やバッジに置き換えても低下を避けられるとは言えません。変えるべきは報酬の中身より、行動と報酬を事前に結び付けるかどうかです。

課題の面白さによる差:面白い課題と退屈な課題の比較

同じメタ分析には、同一研究の中で面白い課題と退屈な課題を比較した13研究の追加分析が含まれています。自由選択行動を測った11研究では、面白い課題での低下が d=マイナス0.68(信頼区間マイナス0.89からマイナス0.47)だった一方、退屈な課題では d=0.18(信頼区間マイナス0.03から0.39)で有意な効果がありませんでした。自己報告を測った5研究でも、面白い課題はマイナス0.37、退屈な課題は0.10で同じ傾向です。いずれも実験室で用意された課題での比較であり、職場の単調業務で低下が起きないことを実証した結果ではありません。

したがって「インセンティブは一律に有害だ」と結論するのは、データから外れた拡張です。データ入力、定型処理、繁忙期の応援作業のように、もともと内発的な面白さで駆動されていない業務にインセンティブを設けることを、この研究群は否定していません。警戒すべき対象は、放っておいても取り組まれている仕事です。勉強会の運営、改善提案、若手のフォロー、技術ブログの執筆のように、誰も指示していないのに続いている活動に金銭的な条件を付けるときが、最も研究知見に近い構図です。制度を点検するときは、報酬の額ではなく「その活動は報酬がなくても行われているか」から確認してください。

実験室の外と脳で確かめられた証拠

脳の研究:成果連動の報酬を外すと線条体の反応が有意でなくなった(村山ら・2010年)

村山航らは2010年、米国科学アカデミー紀要(PNAS)107巻49号で、アンダーマイニング効果の神経基盤を fMRI で調べた研究を報告しました(DOI 10.1073/pnas.1013305107)。課題は、自動で動き出すストップウォッチを5秒ちょうど(前後50ミリ秒以内)で止めるゲームです。参加者28人を無作為に2群に分け、報酬群には「1回成功するごとに200円」と事前に伝えて実際に支払い、統制群には成果連動の報酬について何も伝えず、報酬群の同性の参加者が受け取った額と同じ金額を参加の謝礼として渡しました。金額をそろえたうえで、成果に連動させたかどうかだけを変えた設計です。

その後、参加者は「もう観察されていない」と思える部屋に3分間残され、ゲームを続けても冊子を読んでもよい状態に置かれました。この自由選択期間にゲームを自発的に遊んだ回数は、報酬群のほうが統制群より有意に少なく、2回目のスキャン後の自由選択期間でも差は続きました(いずれも群間の比較で、各群内の増減は有意ではありません)。報酬のない2回目のスキャンでは、統制群では成功のフィードバックに対する前部線条体の活動が保たれていたのに対し、報酬群では活動が大きく下がり、統計的に有意でなくなっています。論文は、前部線条体と前頭前野の活動低下が行動上のアンダーマイニング効果と並行して起きたと結論しています。課題そのものから得ていた「成功の手応え」への脳の反応が、報酬を外したあとに弱まったことを示した研究です。

献血の現場実験:謝礼で献血者になる女性が減り、寄付の選択肢で戻った

善意で続いている行動に謝礼を出すと供給が減る、という指摘は、社会政策学者ティトマスが1970年の著書『The Gift Relationship』で示したものです。メルストロームとヨハネソンはこれを現場実験で確かめ、2008年に Journal of the European Economic Association 誌6巻4号で報告しました(改訂原稿の要旨)。スウェーデンで献血者になる機会を示す際に、無報酬の条件、50クローナ(約7ドル)を支払う条件、50クローナを受け取るか慈善団体へ寄付するかを選べる条件の3つを比べています。

男性では3条件の間に有意な差がありませんでした。女性では、支払いを導入すると献血者になる人がほぼ半減し、謝礼を寄付に回す選択肢を加えると、この減少は完全に打ち消されています。「善意の行為」が「お金で引き受ける仕事」に見えるかどうかが効いたと読める結果で、社内の有志活動やボランティアに謝礼を出すなら、寄付や活動費に回せる選択肢を付けるのがこの結果に沿った設計です。

保育園の罰金実験:罰金を導入すると迎えの遅刻が増えた

報酬ではなく罰金で同じ構図が出た例が、グニージーとルスティチーニが2000年に Journal of Legal Studies 誌29巻で報告した保育園の現場実験です(論文PDF)。イスラエル・ハイファの私立保育園10園で1998年1月から6月までの20週間、閉園時刻に遅れて迎えに来る親の数を記録しました。最初の4週間は観察だけを行い、5週目から無作為に選んだ6園で「10分以上の遅刻は子ども1人につき10シェケルの罰金」を導入し、残る4園は統制群としています。

結果は抑止とは逆でした。罰金を導入した園では遅刻が導入後3〜4週間にわたって増え続け、導入前のほぼ2倍の水準で落ち着いています。17週目に理由を説明せず罰金を撤廃しても、その後の4週間は遅刻が高い水準のまま戻りませんでした。著者らは、罰金が遅刻を「料金を払えば買えるサービス」に変えたと解釈し、論文の題名を「罰金は価格である」としています。内発的動機づけを測った実験ではありませんが、お金の条件が行動の意味づけを変え、条件を外しても元に戻らないという点で、職場の罰則や減給ルールを設計するときに参照すべき結果です。

職場でアンダーマイニング効果が起きやすい場面

自発的だった活動の制度化

有志の勉強会に参加手当を付ける、自主的に書かれていた社内ナレッジ記事に本数ノルマと報奨金を設定する、後輩指導に評価点を紐づける。メタ分析の分類に当てはめると、参加すれば支払う手当は従事連動型、本数に応じた報奨金は完了連動型、評価点への反映は成果連動型に近く、いずれも低下側の効果量が報告されている区分です(ただし従事連動型は、子どもの39研究で d=マイナス0.43、大学生の12研究で d=マイナス0.21と、大人のほうが小さく出ています)。手当を止めた四半期に何人残るかが、制度の実際の効果です。

評価と報酬の連動強化

目標管理を運用していると、評価の納得感を高めるために報酬との連動を強める方向へ進みがちです。連動が強いほど、期首に置いた目標が「自分が選んだ挑戦」から「達成しないと減額される条件」に変わります。目標管理の運用はMBO(目標管理制度)とは?目標例・評価への反映とOKRとの違いで扱っていますが、アンダーマイニング効果の観点では、目標の難度を本人が選べる余地を残すかどうかが分かれ目になります。評価と報酬の連動を人事・労務管理システムで運用する場合も、評価点から賞与を自動で計算する前に、どの活動まで連動の対象に含めるかを先に決めてください。

ランキング・相対評価による競争

コンテストや順位表は、上位に入れなかった人に「統制」と「能力が足りないという情報」を同時に与え、前述の満額未達条件に近い構図になりえます。デシらの1999年論文も、競争は相手に勝つことを強く強調するなど統制的に運用されると内発的動機づけを下げると述べています(リーブとデシの1996年の研究を引用)。社内表彰を続けるのであれば、受賞枠を成果の絶対水準で決める、対象期間ごとに評価軸を変える、といった形で、非受賞が固定化しない設計にしてください。

アンダーマイニング効果の防止策

事前の条件としての報酬提示の回避

メタ分析で低下が確認されたのは、いずれも行動の前に報酬が提示された区分でした。同じ金額でも、仕事が終わったあとに予告なく渡す形では有意な低下が確認されていません。同論文は予期しない報酬を「感謝を伝える手段として使える」としつつ、「頻繁に与えると人はその予期しない報酬を予期するようになる」と注意しています。定例化した表彰が予期されるものになっていないかは、運用しながら確認してください。

具体的な事実に触れる言語的承認と、統制的な言い回しの排除

肯定的フィードバックは、自由選択行動で d=0.33、自己報告の興味で d=0.31(外れ値3件を除いた21研究)と、数少ない「上げる」介入です。デシの第3実験で用いられた声かけも、人格や態度を褒めるものではなく、完成できない人も多い中で仕上げた、という課題の遂行内容に触れたものでした。

ただし言葉なら安全、とは言えません。同メタ分析は、情報として伝えた肯定的フィードバックと統制的に伝えたものを同じ研究内で比べた研究を別立てで集計しており、フィードバックなしの統制群も置いた3研究では、情報的に伝えた場合が d=0.66(信頼区間0.28から1.03)、統制的に伝えた場合が d=マイナス0.44(信頼区間マイナス0.82からマイナス0.07)でした。統制的な操作の一例として同論文が挙げるのは Ryan ら(1983年)の実験で、よくできたと伝えたあとに「あなたがそうすべきとおりに」(just as you should)という一言を足したものです。「さすが、いつもそうあるべきだよね」「その調子で次も頼む」は、褒め言葉の形をした要求になりえます。事実の指摘で止め、次への要求を接続しないでください。

制度より先に点検する自律性・有能さ・関係性

自己決定理論は、内発的動機づけを支える基本的心理欲求として、有能さ(自分の働きかけが効いているという感覚)、自律性(自分の行動の起点が自分にあるという認識)、関係性(他者とつながり、互いに気にかけ合っているという感覚)の3つを挙げています。仕事の進め方や範囲を本人が組み替える余地は自律性の具体策にあたり、ジョブクラフティングとは?3つの種類・やり方と、日本の研修研究が示す効果と限界で扱う手法と重なります。発言しても不利益がないと感じられるかどうかは関係性の前提で、心理的安全性とは?エドモンドソンの定義と7つの質問、ぬるま湯組織との違いの論点です。

課題と連動する報酬と、連動しない給与の区別

有意な低下が確認されなかった「課題非連動の報酬」は、実験上は参加そのものに一律に支払われる条件で、同論文は実務での用途を職に就いていることへの給与などに限られるとしています。実際の給与制度は決め方が多様なので、そのまま「給与は動機づけを損なわない」と読み替えることはできません。給与と動機づけを別の軸で扱う考え方はハーズバーグの二要因理論とは?動機づけ要因・衛生要因16項目と原典の数字、批判までで整理しています。

エンハンシング効果との違い:逆の現象が起きる条件

アンダーマイニング効果の逆にあたるのがエンハンシング効果で、外発的な働きかけによって内発的動機づけがむしろ高まる現象を指します。両者は別の法則ではなく、報酬が「行動を統制するもの」として受け取られたか「有能さを伝える情報」として受け取られたかの違いで説明されます。メタ分析で言葉の報酬が平均 d=0.33 のプラスを示し、事前約束の物質的報酬がマイナスを示したのは、この受け取られ方の差です。具体的な褒め方や事例はエンハンシング効果とは?褒め言葉でやる気が高まる条件と具体例、アンダーマイニング効果との違いで扱っています。

やる気が上がらない原因が、努力と成果、成果と報酬のつながりが見えていないことにある場合は、期待理論とは?ブルームの公式(期待×道具性×誘意性)と誘意性・道具性の意味、77研究の検証結果の枠組みで切り分けます。頑張れば届くと思えていない状態に報酬を積んでも効かず、届くと思えている内発的な仕事に報酬を積めば本稿の低下が起きうる、という順序で点検してください。

研究上の論争と、結果の適用範囲

キャメロン・ピアス(1994年)とデシら(1999年・2001年)の応酬

キャメロンとピアスは1994年に96の実験研究を対象としたメタ分析を Review of Educational Research 誌で発表し(DOI 10.3102/00346543064003363)、報酬全体では自由選択行動への効果が認められないこと(低下は、課題に取り組むだけで渡す予期された物質的報酬に限った小さなものとしています)、自己報告の態度ではむしろ向上(d=0.14)が見られることを報告しました。彼らはこの結果から、教育場面を中心に報酬システムを使わない理由はないと結論し、認知的評価理論の放棄を求めています。1999年のデシらのメタ分析は、この主張への反論を含み、それまでの4本のメタ分析と方法・結果がどう違うかを詳しく検討したものです。デシらは、キャメロンらが面白い課題と退屈な課題を区別せずに集計していたこと、報酬なしの統制群を欠く比較など不適切な統制群を使っていたことを指摘し、条件を分けて集計し直した結果として前掲の効果量を示しました。2001年にも同誌71巻1号で(DOI 10.3102/00346543071001001)、物質的な報酬には実質的な低下効果があると重ねて主張しています。

業績との関係:インセンティブは量、内発的動機づけは質

ここまでの研究は「報酬のあとに自発的に続けるか」を測ったもので、「報酬で成果が上がるか」は別の問いです。この点を扱ったのが、セラソリ, ニクリン, フォードが2014年に Psychological Bulletin 誌140巻4号で発表したメタ分析です(PubMed 要旨)。学校・職場・運動の3領域から183の独立したサンプル(参加者の合計21万2,468人)を集計し、内発的動機づけは業績を中程度から強く予測する(相関 ρ=0.21から0.45)と報告しました。インセンティブがある条件でも、この関係は残っています。

同時に分析すると、内発的動機づけは業績の「質」をより説明し、インセンティブは業績の「量」をより説明していました。また、インセンティブが業績に直接結び付いている場合は内発的動機づけと業績の関係が弱まり、間接的な結び付きの場合は強まる、というクラウディングアウト型の傾向も確認されています。著者らの結論は、インセンティブと内発的動機づけは必ずしも対立せず、両方を同時に考えるべきだ、というものです。件数をこなす業務の成果給と、品質や工夫が問われる業務の動機づけは、分けて設計するのが研究に沿った判断です。研修や社内提案で「報酬はやる気を奪う」と単純化して語ると、こうした条件が落ち、制度改定の根拠としては弱くなります。

よくある質問

アンダーマイニング効果は誰が提唱しましたか?

内発的動機づけの低下を実験で示したのはエドワード・デシで、1971年に Journal of Personality and Social Psychology 誌18巻に3つの実験を報告しました。一方、過剰正当化効果という名称と自己知覚理論による説明は、レッパー, グリーン, ニスベットの1973年の研究に由来します。「デシとレッパーの1971年の実験」という説明は年も研究も取り違えています。

アンダーマイニング効果の逆は何ですか?

エンハンシング効果です。外発的な働きかけで内発的動機づけが下がるのがアンダーマイニング効果、上がるのがエンハンシング効果で、分かれ目は報酬の種類と提示の仕方です。128研究のメタ分析では、事前に約束された物質的な報酬が低下側(作業への従事に対する報酬で d=マイナス0.40)、言葉による肯定的フィードバックが平均で向上側(d=0.33)に出ています。

褒めることでもアンダーマイニング効果は起きますか?

平均では起きにくく、大学生を対象にした研究では向上側に出ます(子どもでは自由選択行動の向上が有意ではありませんでした)。ただし「そうすべきだ」のような統制的な一言を添えた条件では、統制群と比べて d=マイナス0.44の低下が報告されています。褒めるときは、何をどう進めたかという事実に触れ、次への要求をつなげないことが条件です。

罰則や罰金でも同じことが起きますか?

罰金でも、お金の条件が行動の意味を変える例があります。イスラエルの保育園で迎えの遅刻に罰金を導入した現場実験では、遅刻が導入前のほぼ2倍に増え、罰金を撤廃しても戻りませんでした。ただし内発的動機づけを測った実験ではないため、罰則一般で同じ効果が出るとまでは言えません。

成果主義の評価制度はやめたほうがよいですか?

一律にやめる必要はありません。メタ分析で成果連動報酬の自由選択行動への効果は、4つの条件をまとめた全体(32研究)で d=マイナス0.28、全員が満額を受け取った条件(18研究)では d=マイナス0.15でした。業績との関係を見たメタ分析(183サンプル)でも、インセンティブは業績の量をよく説明し、内発的動機づけは質をよく説明しており、両者は必ずしも対立しないと結論されています。判断すべきは制度の有無ではなく、基準に届かない層が固定化する設計になっていないか、目標の難度を本人が選べる余地があるか、という運用面です。

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