MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは何か?その定義と企業における意味を基本から徹底解説

目次
- 1 MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは何か?その定義と企業における意味を基本から徹底解説
- 2 ミッション・ビジョン・バリューの違いとは?それぞれの役割と特徴を具体例も踏まえてわかりやすく解説
- 3 MVV策定の重要性と意義:企業がミッション・ビジョン・バリューを持つべき理由とメリットを徹底解説
- 4 MVVが注目される背景と理由:なぜ現代ビジネスでミッション・ビジョン・バリューが重視されるのかを探る
- 5 MVVを策定する方法とポイント:効果的な理念(ミッション・ビジョン・バリュー)作成ステップを具体的に解説
- 6 MVVの企業事例から学ぶ:有名日本企業に見るミッション・ビジョン・バリューの実践例を具体的に紹介
- 7 ミッション(Mission)とは何か:企業理念としての使命の定義とその重要性をわかりやすく解説
- 8 ビジョン(Vision)とは何か:企業が描く将来像の意義と重要性を詳しく解説
- 9 バリュー(Value)とは何か:企業の価値観・行動指針の意味と役割を徹底解説
- 10 MVVを浸透させる工夫と運用方法:社内に理念を根付かせるための施策と重要なポイントを解説
MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは何か?その定義と企業における意味を基本から徹底解説
MVVとは、Mission(ミッション)・Vision(ビジョン)・Value(バリュー)の頭文字を組み合わせた言葉です。企業が掲げる使命(Mission)、将来の理想像(Vision)、そして日々の行動指針となる価値観(Value)という3つの要素を総称した概念になります。近年、多くの企業が自社の存在意義や方向性を明文化するためにMVVを策定しており、企業文化づくりや経営戦略の軸として活用しています。
MVVを構成する3つの要素はそれぞれ役割が異なりますが、いずれも企業の根幹に関わる理念です。ミッションは「我が社はなぜ存在するのか」という存在意義、ビジョンは「将来どうなりたいか」という目指す姿、バリューは「その実現のためにどのように行動するか」という価値観を示します。このようにMVVは企業の「あらゆる活動の羅針盤」として機能し、社員や関係者に企業の方向性を示すものです。
もともとMVVという考え方は、経営学者のピーター・F・ドラッカー氏が企業理念を構成する重要要素として提唱したものです。ドラッカーは企業の持つ使命やビジョン、そして価値観を明確にすることで、組織がブレない軸を持ち続けられると説きました。現在ではドラッカーの提唱を受け、国内外の多くの企業がMVVを取り入れています。
企業理念・経営理念との違いについて触れておきましょう。企業理念や経営理念も企業の指針を示すものですが、その内容や範囲に違いがあります。企業理念は創業の精神や企業としての普遍的な価値観を示すことが多く、時代が変わっても揺らがない基本哲学です。一方で経営理念は経営方針に近く、事業戦略の転換時などに見直されるケースもあります。MVVのミッションとビジョンは、企業理念や経営理念と重なる部分もありますが、ミッションが企業理念に近く、ビジョンが経営理念に近い位置付けと言えるでしょう。
総じて、MVVを定めることは企業経営にもたらす効果が大きいとされています。自社の存在目的や将来像、価値観を明確に言語化することで、社員一人ひとりが自社の目指す方向性を理解しやすくなり、意思決定や行動に一貫性が生まれます。また対外的にも、企業がどのような使命感で事業を行っているかが伝わり、顧客や取引先からの信頼醸成につながります。MVVは単なるスローガンではなく、企業の在り方を示す重要な指針であり、経営戦略や組織文化の土台となるものなのです。
MVVの基本定義:ミッション・ビジョン・バリューの概要
MVVは「Mission」「Vision」「Value」という3つの英単語の頭文字に由来します。それぞれ日本語ではミッション(使命)、ビジョン(将来像)、バリュー(価値観)という意味です。企業においてMVVは、企業が何のために存在し(ミッション)、どこへ向かい(ビジョン)、そのために何を大切にするか(バリュー)を包括的に示すものです。3つの要素は別々の意味を持ちますが、合わせて企業の理念体系を構成します。簡単に言えば、ミッション・ビジョン・バリューは企業の「魂」とも言えるでしょう。
ミッションは「Why(なぜ存在するのか)」に答える要素、ビジョンは「What(何を目指すのか)」に答える要素、バリューは「How(どのように行動するのか)」に答える要素です。この3つを明確に定義することで、企業は自社の方向性や価値基準を内外に示すことができます。MVVの基本定義として押さえておきたいのは、ミッション=存在意義、ビジョン=目指す未来像、バリュー=行動指針であり、これらが揃ってはじめて企業の理念体系が完成するという点です。
MVVを構成する3つの要素(M・V・V)の概要
MVVを構成する3要素それぞれについて、概要を整理します。まずミッションですが、これは企業の存在意義や使命を表しています。企業が「何のために存在し、社会にどう貢献するか」を端的に示すものです。例えば「世界中の人々を繋げることで豊かな社会を実現する」といったミッションであれば、その企業は社会を繋ぐことが使命だとわかります。
ビジョンは、ミッションに基づいて企業が描く将来的な理想像です。ミッションが「現在の使命」であるのに対し、ビジョンは「未来の姿」を示します。たとえば「業界No.1のイノベーション企業になる」というビジョンであれば、その企業は将来において業界トップの革新企業になることを目標としているのだと理解できます。
最後にバリューですが、これは企業や従業員が日々の活動で大切にする価値観や行動基準を指します。ミッションやビジョンを達成するために「どのような姿勢で仕事に臨むか」「何を重視して判断・行動するか」を示すのがバリューです。例えば「顧客第一主義」「挑戦と革新」「誠実さと倫理」といったバリューを掲げる企業も多く、そうした価値観が社員の行動の指針となります。
MVV誕生の背景:提唱者ドラッカーと概念の起源
MVVという枠組みが広く知られるようになった背景には、経営の大家ピーター・ドラッカーの存在があります。ドラッカーは著書『ネクスト・ソサエティ』などで、企業がその使命(Mission)、将来の方向性(Vision)、価値観(Value)を明確に定める重要性を説きました。これら3つを軸に据えることで、企業は変化の激しい社会においても一貫した意思決定ができ、社員も自分たちの行動の意味を理解できるとされたのです。
ドラッカーの提唱以降、米国をはじめ世界中の企業でMVVを明文化する動きが広がりました。日本でも2000年代以降、経営改革や組織活性化の文脈でMVV策定が注目され始めます。当初は外資系企業やベンチャー企業を中心に導入されましたが、現在では伝統的な大企業でもMVVを再定義するケースが増えています。背景には、事業環境の変化に対応して自社の存在意義を再確認する必要性が高まったことがあります。ドラッカーの時代から変わらず、MVVは企業の“羅針盤”としてその価値を認められ、現代経営に欠かせない概念となっています。
企業理念・経営理念との違いと関係性
MVVと似た言葉に「企業理念」や「経営理念」があります。これらとの違いを整理すると、企業理念は会社の根本的な存在意義や価値観を示すもので、創業者の思想や企業の哲学が反映された不変の指針であることが多いです。一方の経営理念は、経営方針やビジネス上の基本原則を示したものと捉えられ、事業戦略の転換期などに見直されるケースも見受けられます。
MVVにおけるミッションとビジョンは、企業理念・経営理念と密接に関係しています。ミッションは企業理念に通じる普遍の使命を言語化したものであり、ビジョンは経営理念に通じる将来のゴールを示すものと言えるでしょう。ただし企業によっては、MVVと別に企業理念を定めている場合もあります。その場合、企業理念が最上位概念として存在し、ミッション・ビジョンがそれを補完する関係になることもあります。いずれにせよ、MVVと企業理念・経営理念は企業の価値観や方向性を示すものとして本質的な部分で重なっており、それぞれが矛盾なく一貫していることが重要です。
MVVが企業経営にもたらす効果と役割
明確なMVVを持つことは、企業経営にさまざまなプラス効果をもたらします。まず第一に、社内の統一感や一体感が高まる効果が挙げられます。社員が「自社は何のために存在し、何を目指しているのか」を共有できれば、日々の業務に対する納得感が増し、モチベーション向上や離職防止につながります。また、採用面でも自社のMVVに共感する人材を引き寄せ、ミスマッチを防ぐ効果があります。
第二に、対外的なブランドイメージや信頼性の向上があります。明文化されたMVVは、顧客や取引先、投資家に対して企業の姿勢を示すメッセージとなります。「この企業はしっかりした使命感やビジョンを持っている」と理解されれば、ブランドへの信頼感が増し、競合との差別化にもなります。
さらに、MVVは経営判断の軸として機能します。何か重要な判断を迫られた際、「我が社のミッション・ビジョンに照らして正しい選択は何か?」と立ち戻ることで、意思決定のブレを防ぐことができます。これにより経営のスピードが上がり、迷いなく戦略遂行できるメリットがあります。
このように、MVVは企業内外に良い影響を与える重要な役割を果たします。ただし、せっかく策定したMVVも形骸化してしまっては意味がありません。後述するように、策定後の浸透や運用も含めて初めてMVVは真価を発揮します。企業経営においてMVVは「軸」であり「羅針盤」である──その効果と役割をしっかり認識した上で、有効に活用していくことが大切です。
ミッション・ビジョン・バリューの違いとは?それぞれの役割と特徴を具体例も踏まえてわかりやすく解説
ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)の3要素は一見似たようにも思えますが、それぞれ明確な役割の違いがあります。簡単に言えば、ミッションは企業の存在理由(Why)、ビジョンは将来の目標(What)、バリューは行動指針(How)です。このセクションでは、それぞれの違いと特徴について具体例を交えながら解説します。
例えば、ある企業を人間に例えると、ミッションは「その人が人生で果たしたい使命」、ビジョンは「将来こうありたいという夢や目標」、バリューは「日頃大切にしている信条や行動規範」と言えます。それぞれベクトルは異なりますが、3つが揃うことで人格や方向性が定まるように、企業もMVVが揃うことで初めて独自のアイデンティティと指針を持つことができます。
以下では、ミッション・ビジョン・バリューそれぞれの違いと特徴、および相互の関係について詳しく見ていきましょう。
ミッション:企業の存在意義を示す「Why」
ミッションは、その企業が「なぜ存在するのか」という根本的な問いに対する答えです。言い換えれば企業の存在意義・目的であり、社会における使命を表明するものです。ミッションには「我々は何のために事業を行うのか」「社会にどのような価値を提供するのか」といったメッセージが込められます。
例えば、日本の通信企業ソフトバンクグループのミッションは「情報革命で人々を幸せに」というものです。この一文から、ソフトバンクは情報技術を通じて人々の幸福に貢献することが存在意義だとわかります。同様に、企業のミッションは短いフレーズであることが多いですが、その中に企業の本質的な目的や社会への約束が凝縮されています。
ミッションは通常、創業者の想いに由来したり、事業の根底にある理念から導かれたりします。そして一度定めたミッションは滅多に変えるものではなく、経営環境が変化しても不変の指針として存在し続けるケースが多いです。それだけ重みのある「存在理由」だからこそ、ミッションはWhyの問いに答えるものとしてMVVの中核をなしています。
ビジョン:将来の目標像を描く「What」
ビジョンは、ミッションを土台にして「将来どうなっていたいか」を示す目標像です。企業が中長期的に目指すゴールや理想の姿を、できるだけ具体的に描いたものがビジョンとなります。ビジョンは将来形の宣言であり、「〇〇な企業になる」「〇〇を実現する」といった形で表現されることが一般的です。
例えば、楽天グループのビジョンは「グローバル イノベーション カンパニーであり続ける」です。これは楽天が将来的にも世界的なイノベーション企業として活躍し続けるという目標を掲げたものです。このようにビジョンは、ミッションによって定まった存在意義を踏まえ、「具体的にどんな姿を実現したいか」を描き出します。
ビジョンは社内外への宣言であると同時に、社内向けには長期戦略の指針として機能します。ビジョンが明確であれば、社員は日々の業務がどんな未来につながっているのかをイメージしやすくなり、モチベーション向上につながります。また、ビジョンは経営戦略立案の際のゴール設定ともなるため、何年後にどうなっていたいかという指標としても活用されます。
バリュー:社員の行動指針となる価値観「How」
バリューは、企業や社員が「どのように行動するか」の指針となる価値観・行動基準です。ミッションとビジョンが掲げられても、それを実現する日々の行動が伴わなければ絵に描いた餅になってしまいます。そこで、ビジョン達成・ミッション実現のために社員全員が共有すべき価値観や判断基準を定めたものがバリューです。
多くの企業では、バリューを箇条書きのキーワードや短いフレーズの集合として定義します。例えば、トヨタ自動車は「トヨタウェイ」と呼ばれるバリュー体系を持ち、「現地現物」「継続的改善(カイゼン)」「尊重」といった複数の価値観を示しています。ソフトバンクグループでは「No.1、挑戦、逆算、スピード、執念」という5つのキーワードをバリュー(行動指針)として掲げています。これらは社員の日々の意思決定や行動の拠り所となるものです。
バリューは企業文化そのものと言っても過言ではなく、採用や評価の基準にも影響します。社員がバリューを理解し体現することで、ミッション・ビジョンとの一貫性が保たれ、企業全体で統一した行動様式が築かれます。
3要素の階層構造と位置づけ(ミッションを頂点とする体系)
ミッション・ビジョン・バリューの3つは互いに独立した要素ではなく、階層的な構造を成しています。一般的にミッションが最上位概念として位置づけられ、その下にビジョン、さらにバリューが位置する体系で捉えられます。ピラミッド型のイメージで言えば、頂点にミッション、中段にビジョン、底辺にバリューがある形です。
この階層構造の意味するところは、まずミッションが企業の根本目的として揺るぎない土台を提供し、ビジョンはその目的に向かう具体的な方向性を示し、バリューが日々の行動レベルでそれを支えるという関係性です。ミッションが変わらなければ、ビジョンやバリューも基本的にはミッションに従って策定・修正されます。逆に言えば、ビジョンやバリューを見直す際にもミッションに立ち返って考える必要があります。
例えば、ある企業が新しい長期目標を設定(ビジョンの更新)する際には、「我々のミッションに照らして妥当な目標か?」を検討しますし、新たな社内行動指針を定める際(バリューの更新)には「それはミッション・ビジョンを達成するために必要な価値観か?」を吟味します。このように、3要素はピラミッド構造で一貫性を保つことが重要なのです。
3要素の有機的な結びつき:整合性と一貫性の重要性
ミッション・ビジョン・バリューはそれぞれ役割が異なりますが、有機的に結びついて統一感を持つことが大切です。ミッションが壮大でもビジョンが曖昧では道筋が見えませんし、立派なバリューを掲げてもミッションと関係なければ形骸化してしまいます。3要素すべてに整合性と一貫性が確保されてこそ、MVVは真に機能します。
例えば、ミッションで「世界中の人々を幸せにする」と掲げている企業が、ビジョンで「国内市場シェア〇〇%獲得」を目標にしていたらスケール感にギャップがあります。またバリューで「保守的な安定志向」を打ち出しながらミッションでは「革新的な挑戦で社会を変える」と謳っていたら、社員は混乱するでしょう。こうした不整合はMVVの説得力を損ね、社員の共感も得られなくなってしまいます。
したがって、MVVを策定する際も運用する際も3つの要素の整合性チェックが欠かせません。ミッションがあってこそのビジョン、ビジョンを実現するためのバリュー、というつながりを意識し、メッセージに一貫性を持たせることが重要です。その結果、社内外に対してもブレのない企業イメージを発信でき、MVV策定の効果が最大化されるのです。
MVV策定の重要性と意義:企業がミッション・ビジョン・バリューを持つべき理由とメリットを徹底解説
なぜ今、企業においてMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を策定することが重要視されるのでしょうか。このセクションでは、企業がMVVを持つことの意義とメリットについて解説します。明確なMVVを掲げることで得られる効果は多岐にわたり、人材面・組織面・対外面など様々な観点で企業の成長を後押しします。以下に主な理由とメリットを5つ挙げ、それぞれ見ていきましょう。
従業員のエンゲージメント向上・離職率低下につながる
第一のメリットは、社員の会社に対するエンゲージメント(愛着心・没頭度)が高まることです。明確なミッションやビジョンが示され、それに沿ったバリューが浸透している会社では、社員は「自分たちの仕事は大きな目的につながっている」と感じやすくなります。その結果、日々の業務に意味を見出し、会社への愛着が深まります。
エンゲージメントが向上すると、離職率の低下にもつながります。社員が自社のMVVに共感し誇りを持てれば、「この会社で働き続けたい」という気持ちが強くなり、安易に転職しようとしなくなる傾向があります。特に若手世代は企業の存在意義や社会的意義を重視する傾向があり、自社のMVVに共感できるか否かが働き続ける動機に直結する場合もあります。
さらに、エンゲージメントが高い組織では社員同士の協力関係も強まりやすく、組織全体の生産性向上にも寄与します。MVVを共有することで社員同士が「同じ志を持つ仲間」だという意識が生まれ、一体感が醸成されるためです。これらの理由から、MVVをしっかり策定し共有することは社員エンゲージメントの向上と定着率アップにつながる重要な施策となります。
採用ミスマッチの防止と企業の魅力発信に寄与する
明確なMVVは、採用活動においても大きな武器となります。企業が何のために存在し何を目指しているのかがはっきりしていれば、応募者はその理念に共感できるかどうか判断しやすくなります。その結果、自社のMVVに賛同・共感する人材が集まりやすくなり、採用のミスマッチを防ぐ効果が期待できます。
例えば、「社会課題の解決をミッションに掲げる企業」に共感して入社した人であれば、入社後に「こんなはずではなかった」とギャップを感じる可能性は低いでしょう。一方で、MVVが曖昧なまま入社すると、働き始めてから企業の価値観と自分の価値観が合わないことに気づき、早期離職につながるケースもあります。
また、MVVは企業の魅力そのものを発信するメッセージでもあります。近年は求職者も「どんな理念のもとで働くか」を重視するため、MVVを明示している企業は理念に共感した優秀な人材を引き寄せることができます。さらに、MVVに共感する人材が集まれば、採用後の社内育成もスムーズで、組織として一体感を持ちやすいというメリットもあります。
このように、MVVの策定と発信は採用ブランディングの一環として大いに役立ちます。自社のビジョンや価値観にフィットする人材を獲得できれば、企業にとっても人材にとっても幸福なマッチングとなるでしょう。
企業ブランドの一貫性向上と社内外での信用強化
MVVを明確にし社内外に共有することは、企業ブランドの一貫性を高める上でも重要です。企業ブランドとは企業が提供する価値やイメージの総体ですが、MVVがしっかり定まっている企業は、あらゆる活動に一貫したメッセージ性が生まれます。
例えば、広告・広報活動で発信するメッセージや、製品・サービスのコンセプト、顧客対応の姿勢など、あらゆる接点においてMVVに沿った一貫性が感じられれば、ステークホルダー(顧客・取引先・投資家など)はその企業に対する信頼感を抱きやすくなります。逆にMVVがはっきりしていないと、発信内容が場当たり的になったり、企業の印象が定まらずブレて見えることがあります。
社内においても、MVVに基づいたブランディングは有効です。社員が自社のMVVを理解し誇りに思えば、日々の行動にも自然と現れます。顧客対応一つとっても、「自社のミッションを体現する対応をしよう」という意識が働けば、統一された高品質のサービス提供につながるでしょう。その結果、顧客満足度が上がり、ひいては企業の評価・信用力が高まります。
また、ブランディングにおける一貫性は企業危機時の対応にも影響します。不祥事やトラブルが起きた際でも、企業がMVVに基づいて誠実・迅速に対応すれば、「この会社は自らの価値観に忠実だ」と評価され信頼回復も早まります。日頃からMVVにもとづく行動を積み重ねブランドを築いておくことは、長期的な信用力の礎となるのです。
経営判断の迅速化:意思決定の指針が明確になる
明確なMVVを持つ企業は、経営判断に迷いが生じにくく、意思決定が迅速になります。これはMVVが「意思決定の物差し」として機能するためです。重要な経営判断や戦略の選択肢に直面したとき、「それは我が社のミッションに合致するか?ビジョン達成に寄与するか?」と問いかければ、自ずと取るべき道筋が見えてくることがあります。
例えば、新規事業の立ち上げを検討する際、その事業が自社のミッション(存在意義)とかけ離れていれば思い切って撤退する判断ができるでしょうし、逆にビジョン実現に不可欠であればリスクを取ってでも挑戦する価値があると判断できます。MVVが羅針盤となることで、判断軸がブレずに済むのです。
また、社員レベルでも判断がスピードアップします。いちいち上司の指示を仰がなくても、「自分の判断は自社のバリューに照らして正しいか?」と考えれば取るべき行動が見えてくる場面もあります。これは権限移譲や現場の自律的な判断を促す効果にもつながります。組織全体でMVVが共有されていれば、トップダウンの細かな指示がなくとも各人が自律的に動けるため、結果として組織のスピード経営が実現できるのです。
総じて、MVVは経営から現場まであらゆるレベルの意思決定においてコンパスの役割を果たします。外部環境が変化し予期せぬ状況に直面した場合でも、「我々のミッション・ビジョンに沿う選択はどれか」と立ち返ることで、迅速かつ筋の通った決断が可能になるのです。
企業文化の醸成:社員が価値観を共有し一体感が生まれる
MVVを定め、社内に浸透させることは望ましい企業文化の醸成にも直結します。企業文化とは社員が共有する価値観や振る舞いのパターンですが、MVVという明文化された指針があることで、社員が共有すべき価値観が明瞭になります。
例えば、バリューに「チャレンジ精神」「顧客第一」などを掲げている企業では、自然と挑戦を称賛し顧客志向を重んじる文化が育まれます。またミッションに社会貢献が含まれていれば、社員は仕事を通じた社会的意義を考える傾向が強まり、誇りを持って働くようになるでしょう。
さらに、MVVが社内の共通言語になると、一体感やチームワークも高まります。たとえば会議の場面で「それは当社のミッションに沿っているか?」といった会話が交わされるようになれば、皆が共通の物差しで議論していることになり、一体感があります。新人社員もMVVを通じて会社の価値観に早くなじむことができ、組織への帰属意識が芽生えやすくなります。
もちろん、単にMVVを定めただけで文化が変わるわけではなく、経営陣が率先して体現する、評価制度に組み込む、繰り返し浸透施策を行う等の努力は必要です。しかし明確なMVVという土台があればこそ、そうした文化醸成施策も軸がブレず効果を発揮します。社員全員が同じ価値観・目的意識を共有する組織は強く、環境変化にも適応しやすいものです。MVV策定の意義の一つには、このように強固で一貫性のある企業文化を築けることが挙げられます。
MVVが注目される背景と理由:なぜ現代ビジネスでミッション・ビジョン・バリューが重視されるのかを探る
ここでは、近年MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)が改めて注目を集めている背景とその理由について考察します。ビジネス環境や社会の変化に伴い、企業がMVVを明確にする重要性が高まってきました。その背景には、テクノロジーの進化による変化の激しさや人々の価値観の多様化、社会的責任への関心の高まりなど様々な要因があります。以下に、MVV重視の流れを生み出している主な要因を5つ挙げて解説します。
変化の激しい時代における企業の存在意義の再確認
現代はテクノロジーの進歩や市場構造の変化によって、企業を取り巻く環境がめまぐるしく変わる時代です。製品ライフサイクルの短期化、新規参入による競争激化、顧客ニーズの多様化など、変化のスピードはこれまで以上に速くなっています。そのような変化の激しい時代において企業が生き残り成長していくには、日々の戦術的対応だけでなく自社の存在意義を常に見つめ直すことが欠かせません。
環境が変わる度に戦略をコロコロ変えていては、社員も戸惑い、企業としての軸がブレてしまいます。そこで重要になるのが、不変の指針となるMVVです。どんなに周囲が変わっても「我々は何のために存在し、何を目指すのか」という根本が明確であれば、戦略変更にも一貫性が保てます。変化に振り回されるのではなく、変化に合わせて手段を柔軟に変えつつも使命感は失わない企業こそが強いのです。
実際、デジタルトランスフォーメーション(DX)が叫ばれる現在、多くの企業が新規事業開拓やビジネスモデル変革に取り組んでいますが、その際の羅針盤としてMVVを再定義・再確認するケースが増えています。「我が社のミッションに照らしてこのDXはどんな意味を持つのか?」と問い直すことで、変革の方向性が見えてくるからです。このように、変化の激しい現代においてこそ、MVVが改めて重視されているのです。
ミレニアル・Z世代の価値観変化とMVVの重要性
近年のもう一つの大きな背景は、働き手の世代交代による価値観の変化です。ミレニアル世代(1980〜90年代生まれ)やZ世代(1990年代後半〜2000年代生まれ)の若い層が労働市場の中心になりつつありますが、彼らは従来世代に比べて仕事における目的意識を非常に重視する傾向があります。
具体的には、「自分の仕事が社会にとって意味のあるものか」「企業の理念に共感できるか」といった点を重視し、単に給与や安定だけで会社を選ばない人が増えています。このため、企業側も明確なMVVを示し、共感を得られないと優秀な若手人材を獲得・定着させることが難しくなっています。
たとえば、ある調査ではミレニアル世代の多くが「企業のパーパス(存在意義)が自分の価値観に合うか」を就職先選びの重要な基準として挙げたとの報告もあります。Z世代に至っては社会課題への関心が高く、「SDGsへの取り組み」や「倫理的なビジネス」を重視する傾向も指摘されています。こうした背景から、企業は単に利益を追求するだけでなく社会的な意義を掲げて発信する必要が出てきました。
このように、若い世代の価値観変化がMVV重視の大きな要因となっています。企業が自社のミッション・ビジョンを明確にし、それを魅力的に伝えることで、共感する人材を引き付け組織の活力を維持することが求められているのです。
SDGs・社会的責任重視の潮流:パーパス経営への注目
2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)以降、企業の社会的責任(CSR)やサステナビリティ経営への関心が世界的に高まっています。投資の世界でもESG(環境・社会・ガバナンス)投資が主流化するなど、企業は利益追求だけでなく社会課題の解決や持続可能性への貢献が強く求められるようになりました。
この潮流の中で注目されているのが「パーパス経営」という考え方です。パーパスとは存在意義・大義のことで、要するに企業のミッションとほぼ同義です。利益より先に社会的な存在意義(パーパス)を据え、それに基づいて経営判断を行う企業姿勢が評価されつつあります。日本でも多くの企業が自社のパーパスを宣言し、発信し始めています。
こうした動きは、MVV重視と根っこで繋がっています。ミッション(存在意義)を中心に据えた経営は、言い換えればパーパス経営そのものだからです。社会課題解決やステークホルダー価値の向上を謳う企業は、その思いをミッションという形で社内外に示し、ビジョンやバリューに落とし込んで具体化しています。
つまり、SDGs時代の経営では「我が社は社会にとってどんな意味があるのか」を明確に語れなければなりません。それを語るためのフレームワークがMVVであり、ミッションであり、パーパスなのです。社会的責任重視の時代背景が、MVV策定・見直しを後押ししていると言えるでしょう。
人材獲得競争におけるMVVの役割:共感を呼ぶ企業となるために
前述した若手の価値観とも関連しますが、人材獲得競争が激化する中でMVVが果たす役割も無視できません。少子高齢化が進む日本では特に、優秀な人材をいかに惹きつけるかが企業の死活問題となりつつあります。その際、給与や福利厚生だけでなく企業の理念やビジョンに共感できるかが決め手になるケースが増えています。
求職者が企業研究をする際、最近では必ずと言っていいほど企業のホームページ等でMVV(企業理念・ビジョン・バリュー)のページをチェックします。もしそこに共感できる強いメッセージがあれば「この会社で力を発揮したい」と思うでしょうし、逆にどこにでもあるような紋切り型の理念しか書かれていなければ心に響きません。
企業側もこの状況を踏まえ、採用サイトや説明会で積極的に自社のMVVを発信しています。「当社は〇〇というミッションのもと△△なビジョンを掲げています。社員には□□というバリューを大切にして働いてもらっています」という具合に伝えれば、その場で「あ、自分に合いそうだ」と感じる候補者もいるはずです。こうして、MVVがフィルターの役割を果たし、価値観の合う人材と出会える確率が高まります。
加えて、SNS時代には社員自らが自社のMVVを発信するケースもあります。たとえば社員が「自分の会社のミッションが好きだ」とSNSで語れば、間接的な採用PRにもなります。このように、人材獲得競争の中で他社と差別化し共感を集めるためにも、独自性のあるMVVを持つことが重要になっているのです。
グローバル競争と企業価値向上:MVVによるブランド強化
最後に、グローバルな競争環境でのMVVの役割についてです。海外市場に打って出る企業や、多国籍に事業展開する企業にとって、社内外に統一したメッセージを発信することは非常に大切です。国や文化が違っても、一貫したMVVを掲げることで企業としての軸が伝わりやすくなります。
例えば、ある日本企業が海外進出する際、現地採用の社員にも自社のミッション・ビジョンを共有し、共感を得る必要があります。言語や文化が異なっても、普遍的な使命や価値観を伝えることで組織としてまとまりが生まれ、現地でも企業文化を根付かせることができます。逆にMVVが明確でないと、拠点ごとにバラバラな価値観で動いてしまい、企業全体としてのブランドイメージも統一できません。
また、海外の投資家やパートナー企業にとっても、相手のMVVは関心事項です。「この企業は何を目指しているのか」「我々の価値観と調和するか」を見ています。グローバル市場で信頼を勝ち取るには、誰が見ても理解できる明快なMVVを示すことが求められます。
結果的に、MVVを通じてブランド価値が強化される効果も期待できます。グローバルに通用するミッションやビジョンを掲げ、それを体現する活動を続けることで、企業の評価は高まり、株式市場での企業価値向上にもつながるでしょう。以上のような観点から、国境を越えたビジネスを展開する上でもMVVが重要視されているのが昨今の潮流です。
MVVを策定する方法とポイント:効果的な理念(ミッション・ビジョン・バリュー)作成ステップを具体的に解説
MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を策定する際には、単に思いつきで言葉を決めれば良いわけではありません。自社らしさを反映し、社員や社会から共感を得られるようなMVVにするためには、体系立てた手順と工夫が必要です。ここでは、MVV策定の具体的な方法とポイントを5つのステップに沿って解説します。自社の理念づくりの参考にしてみてください。
ステップ1:自社の存在意義や根本理念を整理する
まず最初のステップは、自社の事業内容や存在意義、経営者の想いといった根本的な部分を整理することです。具体的には、「我が社は何のために存在するのか」「社会にどんな価値を提供してきたか」「創業の原点にある理念は何か」といった問いを関係者で議論します。
創業者や経営陣へのヒアリング、また企業の歴史を振り返る作業も有効です。創業当初の志やこれまで大切にしてきた価値観を洗い出すことで、企業の本質が見えてきます。社員へのアンケートを行い、「自社の存在意義は何だと思うか」を聞いてみるのも良いでしょう。こうした情報を総合し、自社のパーパス(存在意義)を言語化する下地を作ります。
この段階ではまだ具体的な言葉をひねり出す必要はありません。むしろ抽象度高く、「社会に〇〇を提供する会社」「□□を通じて世界に貢献する集団」といった形で構いませんので、自社を端的に表すキーワードやフレーズを洗い出してください。ここで抽出した言葉やフレーズが、後のミッション・ビジョン策定の素材になります。
ステップ2:シンプルで明確な言葉にまとめる
次に、ステップ1で整理した理念の種を基に、シンプルで分かりやすい表現にまとめていきます。ミッションやビジョンは社内外の誰が見ても理解できるよう端的な言葉であることが望ましいため、難解な言い回しや専門用語は避け、できるだけ平易な日本語(あるいは英語)で表現しましょう。
例えば、「我が社の存在意義は、お客様に驚きと感動を提供することだ」という理念が見えてきたなら、ミッションとして「驚きと感動を届け、人々の生活を豊かにする」といった具合にまとめられるかもしれません。ビジョンについても、「将来的にこうなりたい」という姿を具体的な言葉に落とし込みます。たとえば「2030年までに業界No.1の〇〇企業となる」など、定量目標を盛り込む場合もあります。
このフェーズでは、表現のブラッシュアップが重要です。候補となるフレーズを複数挙げてみて、語感や覚えやすさ、メッセージの強さを比較しましょう。社員全員が暗唱できるくらいシンプルでインパクトのある表現がベストです。スローガン的なリズムを持たせたり、社名や事業の特徴を織り込んだりするのも有効です。
ステップ3:社内の意見を反映し合意形成を図る
ある程度ミッション・ビジョン・バリューの案が固まったら、社内での合意形成に移ります。いくら経営陣が立派な理念を考えても、社員が「自分事」として受け入れられなければ絵に描いた餅です。そのため、策定プロセスには可能な限り社員の声を反映させ、みんなで作り上げる姿勢が大切です。
具体的には、主要メンバーによるワークショップや有志プロジェクトチームを作って議論する方法があります。様々な部署・年代の社員を交え、「このミッション案に違和感はないか?もっと良い言葉はないか?」とディスカッションするのです。現場の率直な意見を取り入れることで、より自社の実態に即したリアリティのあるMVVになります。
また、ドラフト版を社員全体に公開してフィードバックを募るのも良いでしょう。アンケートで「自社のMVV案に共感できるか」「改善点は?」などを尋ね、社員の納得感を高めることが重要です。最終的にミッション・ビジョンを正式決定するのは経営トップの役割ですが、その背後には社員の思いも反映されている形が望ましいです。
ステップ4:対外的な視点も考慮し内容をブラッシュアップ
次に、自社内の合意が取れたMVV案を、対外的な視点からも点検します。つまり、お客様や取引先、社会全体から見て違和感がないか、より伝わりやすい表現になっているかを確認する段階です。
例えば、業界特有の専門用語が入っていないか、翻訳しづらい造語になっていないか、といった点も考慮します。グローバル展開している企業であれば、英語に訳した際に意味が通じるか、各国の文化的背景で誤解を生まないかもチェックしましょう。また、同業他社のMVVと比べて独自性が出ているかも重要です。似たような言葉遣いになっていれば、より自社らしい表現に磨き上げる必要があります。
さらに、広報担当やブランディング担当からの視点も有益です。社外に発信する言葉としてインパクトがあるか、ニュースリリースやホームページで打ち出して効果的か、といった観点で見直します。必要に応じてコピーライター的なプロの意見を取り入れる企業もあります。
こうしたブラッシュアップを経て、社内外から見て筋の通った、そして魅力的なMVV表現に仕上げていきます。
ステップ5:策定したMVVを制度や経営に組み込み発信する
最後のステップは、策定したMVVを実際の経営や組織運営に組み込んでいくことです。せっかく作ったMVVも、壁に掲げただけで日常に活かされなければ意味がありません。ここでは、MVVを社内外に浸透させ定着させる初期段階の取り組みについて説明します。
まず、経営トップからの公式発信が欠かせません。経営者自ら全社員に向けてMVVを発表し、その背景や込めた思いを語りましょう。社内イベントや動画メッセージなど、直接トップの言葉で伝える機会を作ると効果的です。トップの熱意はMVV浸透の原動力になります。
次に、社内制度への組み込みです。人事評価制度にMVVの要素を反映させることを検討します。例えば「当社のバリューを体現した行動を評価に加点する」などの仕組みを作れば、社員もMVVを意識せざるを得ません。表彰制度や昇進要件に組み込む企業もあります。
さらに、企業ウェブサイトや採用ツールでの対外発信も行います。コーポレートサイトの理念ページに新しいMVVを掲載するのはもちろん、プレスリリースで発表したり、会社案内やリクルートパンフレットを刷新したりして、社外にも周知しましょう。これにより、既存の取引先や顧客にも自社の新たな指針を伝えることができます。
以上のステップを経て、MVV策定のプロセスは完了となります。ただし本当の勝負はここからで、実際の運用・浸透によってMVVを“生きたもの”にしていくことが重要です。その運用方法については後段「MVVを浸透させる工夫・運用方法」で詳述します。
MVVの企業事例から学ぶ:有名日本企業に見るミッション・ビジョン・バリューの実践例を具体的に紹介
ここでは、日本を代表する企業がどのようなMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を掲げているか、具体的な事例を紹介します。有名企業のMVVを知ることで、その企業の戦略や文化への理解が深まるだけでなく、皆さんの自社のMVV策定や見直しのヒントにもなるでしょう。各社それぞれ独自性のあるミッション・ビジョン・バリューを持っていますので、ポイントを絞って見ていきます。
トヨタ自動車:『幸せを量産する』ミッションと未来のモビリティビジョン
日本を代表する製造業であるトヨタ自動車は、自社の根幹を成す理念として「トヨタフィロソフィー」を掲げ、その中でMVVを明示しています。トヨタのミッションは「幸せを量産する」というシンプルながら力強い表現です。自動車という製品を通じて人々に幸せを届けることが自社の使命だと宣言しており、ものづくり企業らしい使命感が滲み出ています。
一方、トヨタのビジョンは「可動体(モビリティ)を社会の可能性に変える」というものです。これは単なる自動車メーカーに留まらず、モビリティ(移動体験)そのものを通じて社会に新しい可能性をもたらす企業になる、という未来像を描いたものです。電気自動車や自動運転、モビリティサービスなど次世代領域への挑戦を続けるトヨタらしいビジョンと言えるでしょう。
トヨタのバリューとしては、トヨタグループで長年受け継がれてきた「トヨタウェイ」が有名です。「現地現物」(現場主義)、「カイゼン」(改善)、「尊重」(Respect)などの価値観がそれにあたります。これらは明文化されたキーワードとして社内教育でも繰り返し説かれ、全世界のトヨタ社員が共有する行動指針となっています。
トヨタの事例から学べるのは、自社の強みと社会的役割を踏まえたMVV設定です。製造業として「良いものを作り人々を幸せに」という根本精神をミッションに据え、将来へのコミットメントをビジョンで語り、日常の仕事の進め方をバリューで支えるという三位一体の構成は、多くの企業の模範となるでしょう。
ソフトバンクグループ:『情報革命で人々を幸せに』世界に必要とされる企業を目指すMVV
ソフトバンクグループは通信・IT企業として日本を代表する存在ですが、そのMVVは創業者孫正義氏の志を色濃く反映しています。ソフトバンクのミッションは「情報革命で人々を幸せに」です。インターネットや通信技術による情報革命を通じて世の中をより良くし、人々に幸福をもたらすことが自社の使命だと明言しています。これはソフトバンクの創業時から変わらない大義であり、事業領域が広がった現在でも普遍のミッションとなっています。
続いてビジョンですが、ソフトバンクグループは「『世界に最も必要とされる会社』を目指して」というビジョンステートメントを掲げています。つまり情報革命を通じて社会に貢献し、世界中から必要とされる存在になるという壮大な目標です。このビジョンは、単に市場シェアや売上高といった尺度ではなく、社会的意義の大きさでNo.1になることを意味しており、同社のチャレンジ精神が表れています。
ソフトバンクのバリュー(行動指針)は、前述の通り「No.1、挑戦、逆算、スピード、執念」の5つが挙げられます。これらは孫氏自身が口癖のように語ってきたキーワードでもあり、社内に深く浸透しています。常にNo.1を目指し、困難にも挑戦し、ゴールから逆算して考え、スピードを重視し、最後まで諦めない——まさに同社の企業文化そのものと言えるでしょう。
ソフトバンクの事例からは、トップの信念をそのままMVVに体現することの強さが分かります。創業者の強い言葉で紡がれたMVVは社員の胸にも突き刺さり、行動の原動力となります。また、社会性の高いミッション・ビジョンを掲げることで世間からの共感も呼び、ブランドイメージ向上にもつながっています。
キリンホールディングス:『食と健康の喜びを広げる』社会貢献型MVVの実践
キリンホールディングス(飲料・食品大手)は、自社の企業理念を体現する形でMVVを設定しています。同社のミッションは一言で言えば「食と健康の新たなよろこびを広げ、こころ豊かな社会を実現する」ことです。自然と人を見つめたものづくりを通じて、食と健康の分野で人々に喜びを提供し、豊かな社会づくりに貢献するというメッセージが込められています。
キリンのビジョンは、「食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV先進企業となる」という内容です。CSVとはCreating Shared Value(共有価値の創造)の略で、経済価値と社会価値の両立を目指す経営理念です。つまり、食品から医薬まで幅広い領域で新たな価値を生み出し、社会と共に成長する先進企業になるというビジョンを掲げています。
そしてキリンのバリューは、「熱意、誠意、多様性」(Passion, Integrity, Diversity)という3つのキーワードで表現されています。社員一人ひとりが情熱(熱意)を持ち、誠実(誠意)に仕事に向き合い、多様性を尊重し合う——これがキリンが大切にする価値観です。シンプルながら普遍的で、食品・飲料企業として人々と向き合う姿勢が表れています。
キリンの事例は、自社の事業ドメインに根差した社会貢献志向のMVVと言えます。「食と健康」というキーワードを中心に据え、社会への貢献と企業成長を両立させる姿勢が明確です。ミッション・ビジョン・バリューが一貫してこのテーマにつながっており、社員にも社会にも分かりやすいMVVになっています。
楽天グループ:『エンパワーメント』を軸にグローバルイノベーションを追求
楽天グループ(ITサービス大手)のMVVも見てみましょう。楽天のミッションは「イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメントする」ことです。「エンパワーメント」とは力を与えるという意味で、楽天はインターネットサービスを通じて人々や社会を元気づけ、可能性を広げることを使命に掲げています。
楽天のビジョンは「グローバル イノベーション カンパニーであり続ける」というものです。常に革新的なサービスを生み出し続け、世界的なイノベーション企業として成長を続けるという決意が表れています。創業以来、ECからフィンテック、通信、プロスポーツまで事業を広げてきた楽天らしいダイナミックなビジョンです。
楽天のバリューは社是とも言える「楽天主義」に集約されています。楽天主義とは、全従業員が共有すべき価値観・行動指針のことで、「積極的なチャレンジ精神」「現状打破のイノベーション」「プロフェッショナリズムの発揮」などから構成されています。楽天ではこの楽天主義を共通言語として社内文化を育んでおり、新入社員もまず楽天主義を叩き込まれると言います。
楽天の例からは、IT企業ならではのスピード感と挑戦精神をMVVに反映することの大切さが感じられます。ミッションで「エンパワーメント」と掲げることでユーザーフォーカスの姿勢を示し、ビジョンでグローバル志向とイノベーション志向を明確に打ち出しています。バリューに至っては社名を冠した「楽天主義」として独自色を出しており、社員の強い誇りと結束につながっています。
サントリーホールディングス:『やってみなはれ』精神で世界市場に挑むMVV
最後に、サントリーホールディングス(飲料・酒類大手)のMVV事例です。サントリーの創業者・鳥井信治郎氏の口癖であり社訓として有名な言葉に「やってみなはれ」があります。これは「何事もまずやってみよう」というチャレンジ精神を表す関西弁ですが、この精神が現在のサントリーの企業文化・MVVにも受け継がれています。
サントリーのミッションは、「人と自然と響きあい、豊かな生活文化を創造し、『人間の生命(いのち)の輝き』をめざす」という非常に詩的な表現です。自然との共生や生活文化の向上といったスケールの大きな理念を掲げ、究極的には人間の生命の輝きを追求するという壮大な使命感が示されています。
ビジョンは明文化された単一のフレーズこそありませんが、事業戦略として「グローバルな成長」を明確に打ち出しています。実際にサントリーは積極的な海外M&A(例:米国ビーム社の買収)や海外市場開拓を行っており、世界的な酒類・飲料メーカーとして躍進しています。ビジョンとしては「世界中の人々に感動を提供し続ける」といった内容が語られることがあります。
サントリーのバリューの象徴が、冒頭の「やってみなはれ」の精神です。これに加えて「利益三分主義」(会社・取引先・社会の利益を三等分する考え方)など独自の価値観を打ち出してきました。社員は失敗を恐れず挑戦することを奨励されており、このチャレンジ精神が新商品の開発や海外進出といった成果に結びついています。
サントリーのケースから学べるのは、創業者の精神を時代に合わせて発展させたMVVです。「やってみなはれ」に象徴される挑戦のDNAを守りつつ、グローバル企業としての使命(自然と人の共生など)を加味することで、新旧融合した理念体系となっています。伝統を重んじながらも進取の気性を失わない企業の姿勢が、MVVにも見て取れます。
ミッション(Mission)とは何か:企業理念としての使命の定義とその重要性をわかりやすく解説
ここからは、MVVの各要素を一つずつ掘り下げて解説します。まずはミッション(Mission)についてです。ミッションとは企業の「使命」や「存在意義」を意味し、企業理念の核となる要素です。企業の数だけミッションの内容も様々ですが、その本質や重要性、策定のポイントなどについて詳しく見ていきましょう。
ミッションの意味:企業の存在意義・使命を示すもの
ミッションは一言で言えば、「企業がなぜ存在するのか」を示す言葉です。創業者が抱いた志や、企業が果たすべき社会的役割を凝縮したものとも言えます。ミッションが明確であれば、社員もステークホルダーも「この企業は○○のために活動しているのだな」と理解することができます。
例えば、ある病院グループのミッションが「すべての人に最高の医療を届ける」であれば、その病院の存在意義は最高水準の医療提供にあることがわかります。また、食品メーカーのミッションが「食の喜びを通じて人々の健康と幸せに貢献する」であれば、単なる食品販売ではなく人々の健康と幸せが目的なのだと理解できます。
このようにミッションは、企業活動の根底に流れる思想を端的に表現したものです。ミッションがしっかり定義されている企業は芯が通っており、多少の環境変化があっても「我々の使命はこれだ」という軸がブレません。逆にミッションが定まっていない企業は、短期的な利益や流行に流されがちで、長期的な信用を築くのが難しくなります。
優れたミッションの条件:簡潔で理念を体現し共感を呼ぶ
ミッションは内容も大事ですが、表現の仕方も非常に重要です。優れたミッションにはいくつかの共通する条件があります。第一に、簡潔で覚えやすいこと。社員全員が暗記できるぐらいシンプルに表現されているのが理想です。長文化すると伝わりにくくなるため、ワンフレーズからせいぜい1〜2文程度に収める企業がほとんどです。
第二に、自社の理念や特色を体現していること。どこにでもあるような抽象的な言葉ではなく、その企業ならではの個性や強みがにじむ内容が望ましいです。たとえば「世界一を目指す」では平凡ですが、「紙飛行機で世界一を目指す」となれば紙飛行機メーカーだとわかるように、具体性やユニークさも大切です。
第三に、読む人の共感を呼ぶこと。社員や顧客が聞いて「いいね、それは大事だね」と感じられるかどうかです。たとえ内容が高尚でも、押し付けがましかったり独善的だったりすると共感は得られません。社会的に価値あること、人々の心に響くことを使命に掲げる企業のミッションは、多くの支持を集めやすいでしょう。
また、表現テクニックとして、ポジティブで力強い言葉遣いもポイントです。「○○しない」ではなく「○○する」と肯定形で書く、「努力する」ではなく「実現する」と断言するといった工夫で、メッセージ性が高まります。優れたミッションは読むだけでその企業の情熱が伝わってくるものなのです。
ミッション策定のポイント:Why(なぜ事業を行うのか)から考える
ミッションを策定・見直しする際には、Why(なぜ)の問いかけが出発点になります。「我々はなぜこの事業をやっているのか?」「この会社はなぜ存在しているのか?」と掘り下げていくのです。売上や利益といったWhat(何を)ではなく、その先にある意義や目的を突き詰めて考えることが重要です。
例えば鉄道会社であれば、「鉄道サービスを提供している」がWhatですが、「地域の人々の生活を支え、社会を発展させる」がWhyかもしれません。製薬会社であれば、「薬を売る」がWhat、「病気で苦しむ人を救う」がWhyでしょう。このように、事業の本質的な価値を問い直すことでミッションの核が見えてきます。
策定時には、経営者の理念や創業時のストーリーを振り返ることも有益です。創業者は何を志して会社を作ったのか、そこに企業の原点があるはずです。また、社員や顧客から自社の存在意義について意見を募るのも良いでしょう。多角的な視点から「Why」を考えることで、より説得力のあるミッションを導き出せます。
ポイントは、ミッションの策定に近道はないということです。時間をかけてなぜ?を繰り返し、本当に腹落ちする答えを探し抜くプロセスが欠かせません。その過程で社内の理解も深まり、出来上がったミッションへの愛着も生まれるでしょう。
ミッションの企業事例:印象的なミッションステートメント紹介
世の中には多くの企業がユニークで印象的なミッションステートメントを掲げています。その一部を紹介しましょう。
- パタゴニア(米アウトドア用品):「最高の製品を作り、不必要な環境悪化を防ぎ、ビジネスによって環境危機に対する解決策を実行する」 – 環境保護への強いコミットがにじむミッションです。
- ウォルト・ディズニー社:「世界中の人々に幸福と楽しさを提供する」 – ディズニーらしく夢と魔法を感じさせる表現で、一読して共感を呼びます。
- トヨタ自動車:「幸せを量産する」 – 前述した通り、シンプルながら奥深い一言で、自動車を通じた人々の幸せ創造を示しています。
- Microsoft:「地球上のすべての人と組織に、より多くを成し遂げる力を与える」 – 自社の技術で人々をエンパワーメントするという壮大な理念を簡潔に表現しています。
このように優れたミッションは業種を問わず、覚えやすく心に残るものが多いです。自社のミッションを考える際も、ぜひ様々な企業事例を参考にしつつ、自社ならではの一文を練り上げてみてください。
ミッションが果たす役割:経営判断の指針と社内浸透への影響
最後に、ミッションが実際の企業経営や組織運営で果たす役割について整理します。まず経営レベルでは、ミッションはあらゆる判断の根本基準となります。新規事業に参入するか撤退するか、あるいは企業買収するか否かといった重要な意思決定の際、「それは我々のミッションに沿っているか?」が最終的な判断軸になります。ミッションに反するような事業には手を出さないという一貫性が、長期的な成功につながります。
社内的には、ミッションは社員のモチベーションや行動を左右する合言葉です。ミッションを腹落ちして理解している社員は、日々の仕事にも誇りと目的意識を持って取り組みます。逆にミッションが浸透していないと、「自分は何のためにこの仕事をしているのだろう」と迷いやすくなり、モチベーション低下の一因となりかねません。
さらに、ミッションは社内コミュニケーションの共通基盤にもなります。経営トップのメッセージから新入社員研修まで、ミッションを折に触れて語ることで、組織内に共通の価値観と言語が形成されます。これによりベクトルを合わせやすくなり、組織の一体感が生まれます。
加えて、社外へのメッセージとしてもミッションは重要です。顧客やパートナーに対し、「当社は○○という使命のもとに事業をしています」と伝えることは、企業理解を深め信頼を得ることにつながります。昨今は採用市場でもミッションが注目されており、前述のように自社のミッションに共感する人材が集まりやすくなるという効果も見逃せません。
このように、ミッションは企業にとって内部にも外部にも効く基本中の基本となる要素です。ゆえにミッション無き経営は危ういと言われる所以であり、どんな企業でも時間をかけてでもミッションを確立し、大切に育んでいく必要があるのです。
ビジョン(Vision)とは何か:企業が描く将来像の意義と重要性を詳しく解説
次に、MVVの中のビジョン(Vision)について深掘りします。ビジョンとは、企業が中長期的に目指す将来像や理想の姿を指す言葉です。ミッションと対になる概念であり、企業の将来の方向性を明確にする役割を果たします。ここでは、ビジョンの定義や重要性、良いビジョンの条件、策定のポイント、さらには企業事例まで幅広く解説します。
ビジョンの定義:企業が目指す将来像や理想像を示すもの
ビジョンは簡潔に言えば、「企業が将来どうなっていたいか」を示すものです。ミッションが現在の存在意義を表すのに対し、ビジョンは未来の到達点や理想とする状態を描き出します。企業が5年後、10年後、あるいはもっと先の将来において、どのような地位や役割を果たしていたいかを明文化したものがビジョンです。
例えば、ある再生可能エネルギー企業が「世界の持続可能なエネルギー未来をリードする企業になる」というビジョンを掲げていたとします。これから読み取れるのは、その企業が将来的に業界のリーダーとなり、サステナブルなエネルギー分野で世界を牽引したいという野心です。現時点でそうでなくても、ビジョンとは将来への約束なのです。
ビジョンの定義を語る際に重要なのは、ビジョンが具体的なゴールでありつつも必ずしも数値目標に限らないという点です。数値(例えば「売上高〇〇億円」など)を盛り込む企業もありますが、多くの場合それ以上に「業界No.1」「〜な社会を実現する」といった定性的表現が用いられます。これはビジョンが単なるKPIではなく、企業の理想像を示すものであるからです。
優れたビジョンの特徴:具体的で挑戦的、社員を鼓舞する内容
では、どのようなビジョンが良いビジョンと言えるでしょうか。いくつか特徴を挙げます。
第一に、具体性です。あまりに抽象的なビジョンはインパクトに欠け、実際の戦略に落とし込みにくくなります。例えば「世界一素晴らしい会社になる」ではぼんやりしすぎています。どの分野で何をもって素晴らしいのかを具体的に描くことが重要です。「2030年までに環境技術で世界をリードする」など、ある程度焦点を絞った表現が望ましいでしょう。
第二に、挑戦的で野心が感じられること。ビジョンは将来像なので、多少背伸びした目標でも構いません。むしろ容易に達成できそうな無難な目標では社員の心は動きません。頑張れば手が届くかもしれない高みを目指すことで、社員のやる気を引き出す効果があります。「おお、それを本気で目指すのか!」とワクワクさせるくらいが丁度良いのです。
第三に、社員を鼓舞する内容であること。これは上記二点とも関連しますが、ビジョンは社長の自己満足ではなく、社員が「この未来を一緒に実現したい」と思えるものでなければ意味がありません。たとえ厳しい道のりでも、掲げたビジョンに魅力があれば社員は付いてきます。反対に魅力のないビジョンでは、かえってシラケてしまうかもしれません。
例えば、先進的なIT企業のビジョンが「AIで人類の可能性を拡張する」だった場合、社員は未来への夢を感じ、自分たちの仕事が偉大な挑戦につながっていることを実感できるでしょう。そういう胸躍る要素があると理想的です。
ビジョン策定のポイント:将来の「あるべき姿」を明確に描く
ビジョンを策定する際のポイントは、将来の「あるべき姿」を遠慮なく思い描くことです。ミッション策定では現状の存在意義を掘り下げましたが、ビジョンでは視野を未来に飛ばし、会社の夢を描きます。
まずは経営陣をはじめ、キーパーソンが集まってブレインストーミングするのが良いでしょう。「我が社は将来どうなっていたいのか?」「業界でどんなポジションにいたいのか?」「社会にどんなインパクトを与えていたいか?」——こうした問いを自由に出し合い、未来像の輪郭を探っていきます。
過去の延長線だけではない、思い切った発想も歓迎すべきです。現在の事業領域に縛られず、「10年後にはこんな新分野にも進出していたい」等の野望があれば盛り込みます。もちろん実現可能性は考慮すべきですが、ここではまず理想を語ることが重要です。ビジョンはあくまで目指す姿であって、現時点での達成計画が練られていなくても構いません。
次に、その理想像を表現する際は前述の通り、できるだけ具体化します。業界名、地域名、達成したい状態など、可能な範囲で盛り込みましょう。また、タイムフレーム(いつまでに)を設定するのも効果的です。「2030年までに〜になる」という形にすれば、社員も期限意識を持って取り組めます。
最後に社員からの意見収集やフィードバックも取り入れます。現場感覚から見てリアリティがあるか、共感できるかなどを確認し、表現を調整します。策定プロセスに社員を巻き込むことで、発表後の浸透もスムーズになるでしょう。
ビジョンの企業事例:著名企業が掲げるビジョンの紹介
参考までに、いくつか著名企業のビジョンを紹介します。
- ソニー: 「世界中の人々に感動を提供し続ける」 – エレクトロニクスとエンターテインメントで世界に驚きと感動を届け続けるというビジョンです。
- パナソニック: 「A Better Life, A Better World(より良い暮らし、より良い世界の実現)」 – 家電から社会システムまで手掛ける総合メーカーとしての理想像を簡潔に表現しています。
- トヨタ自動車: 「モビリティを社会の可能性に変える」 – 先述の通り、移動という概念を進化させ社会の可能性を広げるという未来像を描いています。
- LINE株式会社: 「Closing the Distance(人と人、人と情報、人とサービスの距離を縮める)」 – コミュニケーションアプリ企業として、人とあらゆるものの距離を縮めるというビジョンを英語で掲げています。
いずれも、その企業ならではの強みや方向性が明確に伝わってくるビジョンばかりです。自社のビジョン策定の際にも、こうした事例を参考にしつつ、オリジナリティ溢れる将来像を打ち立ててください。
ビジョンの役割:長期戦略の指針となり組織の方向性を示す
ビジョンが企業経営にもたらす役割についても整理しておきます。第一に、ビジョンは長期戦略の指針となります。企業は常に環境変化に対応して戦略を見直す必要がありますが、その際に「我が社は最終的にどこに向かっているのか」を示すビジョンがあれば、戦略立案に筋が通ります。ビジョンが無ければ場当たり的な戦術の寄せ集めになりかねません。
例えば、ビジョンで「海外売上比率50%を達成しグローバル企業になる」と掲げていれば、それに沿って海外展開の投資計画や組織づくりが検討されます。ビジョンが羅針盤となって、各部門の長期計画も統一的な方向を持つことができるのです。
第二に、ビジョンは組織の方向性を示す光でもあります。社員にとってビジョンは遠い未来の話かもしれませんが、そこに向かって組織が動いていることを理解すれば、自分の役割も把握しやすくなります。「自分たちは今この辺りを歩いていて、あの山頂(ビジョン)を目指しているんだな」というイメージです。
特に大企業になると部門ごとに目先の目標が優先され、全社の方向感覚が希薄になる恐れがあります。そんな時、ビジョンという共通のゴールがしっかり共有されていれば、全社最適の視点で連携しやすくなります。
第三に、ビジョンは社外への宣言でもあります。「当社は将来こうなります」という宣言は、株主や顧客にとっては期待を抱かせる材料になりますし、ときに企業価値向上にもつながります。もちろん、有言実行が求められるので公言したからには努力が必要ですが、ビジョンを語ることで外部から応援を得られる効果もあります。
総じてビジョンは、長い旅路の行き先を示す旗印です。経営のブレを防ぎ、組織を一つにまとめ、周囲の協力も得ながら目標に向かうために、明快なビジョンが果たす役割は大きいと言えるでしょう。
バリュー(Value)とは何か:企業の価値観・行動指針の意味と役割を徹底解説
最後に、MVVの3要素の中のバリュー(Value)について詳しく解説します。バリューとは企業が大切にする価値観や行動指針のことで、社員一人ひとりの意思決定や振る舞いの基準となるものです。ミッション・ビジョンを日々の業務で実践していくために、具体的にどう行動すべきかを示す役割を担います。このセクションでは、バリューの定義や役割、良いバリューの条件、策定のポイント、そして事例までを紹介します。
バリューの定義:企業が大切にする価値観・行動基準
バリューとは、企業や組織が共有している価値観や行動の基準のことです。平たく言えば「会社として大事にしたい考え方」「社員が判断に迷ったときに立ち返る原則」といった意味合いです。ミッションが理念、ビジョンが目標なら、バリューは日々のオペレーションや意思決定における指針と言えます。
バリューは通常、複数のキーワードや短文の形で定義されます。例えば、「誠実」「チャレンジ」「チームワーク」のように単語を羅列する場合もあれば、「ユーザーファースト:常にユーザーの利益を最優先に考える」といった短い文章で表現する場合もあります。いずれにせよ、社員が理解しやすい具体的な言葉で示すことが多いです。
バリューの定義は、企業文化そのものと密接に関わります。創業以来受け継がれてきた気風や、経営トップが重んじる信条などが反映されていることも多いです。そのため古参社員にとっては「当たり前のこと」が明文化されているケースもありますが、新しい社員にとってはそれを知ることが文化を学ぶ近道になります。
バリューの役割:社員の意思決定や行動の基準となる
バリューが実際の企業活動で果たす役割は、社員の判断や行動を正しい方向へ導くコンパスとして機能することです。例えば、営業現場で難しい判断に迫られたとき、「当社のバリュー(行動指針)では『顧客志向』が掲げられている。ならばお客様にとってベストな対応を選ぼう」といった具合に、バリューが判断の拠り所になります。
また、バリューは企業文化の一貫性を保つ役割もあります。たとえ社員数が増え組織が大きくなっても、共通のバリューを全員が意識していれば、行動パターンに統一感が生まれます。特に新興企業が急成長するとき、社内の価値観がバラバラになりがちですが、早い段階でバリューを定めて共有しておけば文化の軸がブレにくくなります。
さらに、バリューは採用・評価の基準ともなり得ます。採用面接で応募者が自社のバリューに共感しているかを見る企業もありますし、人事評価で「バリューを体現した行動を取っているか」をチェック項目に入れる会社もあります。こうすることで、バリューを単なるお題目ではなく現実の行動に落とし込むことができます。
つまり、バリューは組織を見えない糸で束ねる存在です。社員一人ひとりが異なる役割を担っていても、判断基準となる価値観が共通していれば、最終的には同じ方向を向いて仕事ができます。この調整弁としてバリューが機能しているのです。
良いバリューの条件:具体的で日々の業務に結びつく内容
バリューは抽象的すぎると形骸化しやすいため、具体性が重要です。例えば「信頼」は大切な価値観ですが、一言「信頼」とだけ書かれても、社員は具体的に何をすれば良いのかわかりません。そこで、「信頼:約束を守り、正直であることで信頼を築く」といった説明文を付け加えると、日常行動に落とし込みやすくなります。
また、数が多すぎないことも条件です。10も20もキーワードを並べても覚えきれません。一般的には3〜7個程度に絞り込む企業が多いようです。絞り込む際は、自社が特に重視したい価値観に優先順位をつけ、似たものは統合するなどして洗練させます。
さらに、ポジティブな言い回しも大切です。「○○しない」という否定形より「○○する」と肯定形で書く方が行動に移しやすいです。また社内のスローガンとして口に出しやすいリズムや語呂の良さがあると、浸透しやすくなります。
良いバリューの例として、米Netflix社の「Freedom & Responsibility(自由と責任)」が有名です。二つの言葉で社員の行動指針を表し、自由な行動を許容するがその結果には責任を持つという文化を示しています。このようにシンプルでも明確なメッセージがあると強いです。
結局のところ、良いバリューとは社員が日々意識でき、行動に移せるものであると言えます。机上の理想ではなく、現場のシーンを想定して作られたバリューは生きた指針となるでしょう。
バリュー策定のポイント:企業文化や理念を反映したキーワードを設定
バリューを策定する際は、まず自社の企業文化を棚卸しすることから始めます。創業以来の社風や、社員が暗黙知的に大事にしてきた価値観は何かを探ります。例えば「うちは昔から現場主義だな」とか「競争より協調を重んじる文化だ」といった特徴が見えてくるでしょう。
また、ミッション・ビジョンとの一貫性も重要です。ミッションやビジョンを実現するために不可欠な行動原則は何か、という観点で考えると、ブレが少なくなります。例えばビジョンで革新的であることを謳うなら、バリューにも「チャレンジ精神」や「創造性」などが入るはずです。
バリュー策定では、多くの企業で社員参加型のワークショップが行われます。社員に「仕事で大事にしている価値観は?」「自社らしさって何?」と問いかけ、出てきたキーワードをグルーピングしていくのです。その上で経営陣が方向付けを行い最終決定する、という流れが一般的です。
ポイントは、社内の共感を得られるかです。きれいごとを並べても、社員が「現実とかけ離れている」と感じるものでは浸透しません。ですから、策定プロセスで多様な社員の声を拾い、経営層とすり合わせることが欠かせません。
また、バリューは一度決めたら終わりではなく、組織の成長や変化に応じて見直すこともあります。ベンチャー企業が急拡大するタイミングでバリューを追加・修正したり、合併後に新たなバリューを作ったりといった例もあります。大事なのは、その時々の企業文化と戦略にフィットしているかどうかです。
バリューの企業事例:有名企業のコアバリュー・行動指針
最後に、いくつか有名企業のバリュー(コアバリューや行動指針)を紹介します。
- Google: 「10 things we know to be true(私たちが真実だと知っている10の事柄)」という10項目の価値観を示しています。例えば「ユーザーに焦点を絞れば他のものは後からついてくる」「邪悪になるな」など、Googleらしいユニークな原則があります。
- Amazon: 「Leadership Principles(リーダーシッププリンシプル)」として14項目の行動指針を公開しています。「カスタマーオブセッション(顧客への執着)」「オーナーシップ」「フリugality(倹約)」など、徹底した顧客志向や起業家精神を求めるAmazon文化が反映されています。
- 星野リゾート: 「リゾート運営の9つの心得」という形で行動指針を掲げています。「お客様の期待を超える」「現地主義を徹底する」など、サービス業としての価値観が具体的に示されています。
- Zappos: (米オンライン靴販売)「10 Core Values(10のコアバリュー)」として、「サービスを通じてWOWを届ける」「ポジティブなチームと家族精神を育む」など独特で楽しい価値観を明文化しています。
これらの例からも分かるように、バリューは企業ごとに色彩豊かで、読むだけでその会社の雰囲気が伝わってきます。自社のバリューを策定する際も、他社の事例を参考にしながら、自社らしい言葉を選び抜いてください。大切なのは、そこで働く人々の行動を支える芯の通った価値観を打ち立てることです。
MVVを浸透させる工夫と運用方法:社内に理念を根付かせるための施策と重要なポイントを解説
最後に、せっかく策定したMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を社内に浸透させ、日々の経営に活かす方法について解説します。MVVは作って終わりではなく、社員一人ひとりの行動に落とし込んでこそ初めて価値を持ちます。しかし現実には「策定したものの社内に浸透していない」「飾りになっている」という企業も少なくありません。ここでは、MVVを組織に根付かせるための工夫や具体的な運用方法を紹介します。
経営層からの積極的な発信:トップがMVVを社内外に共有する
MVV浸透の第一歩は、経営層(特にCEOなどトップ)の強力なコミットメントです。トップ自らがMVVの意義や背景を繰り返し語り、メッセージを発信し続けることで、社員の心にも徐々に刻まれていきます。具体策としては以下のようなものがあります。
- 全社向けメッセージ: MVV策定時に社長が全社員にメールや動画でメッセージを送り、「なぜこのMVVを定めたのか」「どんな会社にしていきたいのか」を直接語ります。経営トップの肉声で伝えることで、理念への重みと真剣さが伝わります。
- 朝礼・集会でのスピーチ: 定期的な朝礼や全社会議の場で、トップがMVVに触れた話をするようにします。業績報告だけでなく、会社の存在意義や価値観を説くことで、折に触れて意識づけできます。
- 対外発信: 社長自ら対外的な場(記者会見や講演)でMVVを語り、その記事や映像を社内にも共有します。自社のトップが公の場で理念を語っている姿を見ると、社員も自分事として誇りに感じます。
経営層が本気で言い続けることで、社員は「うちの会社はこのMVVを本当に大事にしているんだな」と理解します。反対にトップが全く触れなくなったら、たちまち誰も気にしなくなるでしょう。継続的なトップ発信は何よりも重要な浸透策です。
社員への浸透施策:研修・ワークショップで理解を深める
MVVを周知するためには、一方通行の発信だけでなく社員参加型の施策も効果的です。そこで有用なのが研修やワークショップといった学習・対話の場を設けることです。
例えば、新入社員研修では必ず会社のMVVを説明し、グループディスカッションで「このミッションを実現するにはどんな行動が必要か」など話し合わせます。そうすることで、新人でも入社早々に理念に触れ、自分の言葉で考える機会が得られます。
中堅社員向けにも理念浸透研修を実施する会社があります。各部署のリーダー層を集め、MVVに関するケーススタディやディベートを行うのです。「我が社のビジョンを達成するには自部門で何ができるか?」など議論させると、具体的な行動につながります。
ワークショップ形式で、社員が主体的に参加できるプログラムも有効です。例えば、MVVに関するキーワードを使って自部署の目標を再定義してみる、社員各自が自分の仕事とMVVとのつながりを発表し合う、といったアクティビティがあります。こうした能動的な参加を通じて、社員の理解度が深まります。
大切なのは、理念浸透の場を一度きりで終わらせないことです。定期的に(例えば年に一度など)フォロー研修や勉強会を開催し、常にMVVを思い出してアップデートする機会を提供します。研修の機会を断続的に設けることで、社員にとってMVVが徐々に日常の言語となっていきます。
日常での浸透工夫:社内報・掲示や名刺への記載など
MVVを日常の中で意識させるための小さな工夫も数多く考えられます。例えば社内報や社内SNSでの発信です。毎号の社内報に経営トップの理念コラムを載せたり、MVVを体現した社員のエピソードを紹介したりします。社内SNSや掲示板で「我が部署のミッション」について意見交換する場を作るのもいいでしょう。
オフィスの掲示物も浸透に役立ちます。会議室やエントランスにMVVをデザインしたポスターを貼る、デジタルサイネージに日替わりでバリューを表示するなど、視覚的に訴えることで潜在意識に刷り込む効果があります。
社員の名刺や社員証にMVVを印刷してしまうのも一つの手です。名刺の裏にミッションやバリューを載せておけば、外部の人にも目に留まりますし、何より社員本人が名刺交換の度に目にして意識づけされます。社員証に小さく印字しておけば毎日身につけるため、これも自然と目に入ります。
他にも、会議や朝礼での唱和も昔ながらですが効果があります。全員でミッションを唱える企業もあり、最初は気恥ずかしくても慣れると団結力を感じるとの声もあります。あるいは、メールの署名欄にミッションを入れてしまうのも簡単ですが確実な方法です。
このように、あらゆる接点にMVVを散りばめることで、社員が嫌でも目にし耳にする状況を作ります。人間は繰り返し触れる情報に馴染んでいくものなので、日常の中での露出を高めるのは王道の手法と言えるでしょう。
人事制度への組み込み:評価・報酬にMVV遵守を反映
MVV浸透の強力なテコ入れとして、人事制度への組み込みが挙げられます。評価や報酬と結びつけば、社員は否が応でもMVVを意識します。
具体例としては、人事評価項目に「MVV体現度」を加える方法があります。評価シートに「当社のバリューに沿った行動を率先して実行しているか」といったチェック項目を設け、上司が部下を評価します。これを賞与査定や昇進昇格の判断材料にすれば、社員は日頃から「バリューに沿った行動をしなくては」と考えるようになります。
また、表彰制度を活用するのも良いでしょう。半年や年間で、最もミッション・バリューを体現したと評価される社員やチームを表彰するのです。例えば「バリュー賞」「ミッション実践賞」などを設けて表彰し、賞金や記念品を授与します。表彰されれば本人はもちろん周囲にも刺激となり、「次は自分も」となります。
さらに、報酬体系に組み込む高度な例では、役員報酬の一部を「MVVスコア」に連動させている会社もあります。社員アンケート等で経営陣がどれだけMVVを体現しているかを評価し、それを役員賞与に反映するのです。ここまでやると本気度が伝わり、社員側も「上層部も真剣なんだ」と認識します。
要は、人事評価や報酬という企業活動の根幹にMVVを埋め込んでしまうのです。こうすることで、理念とマネジメントが一体化し、単なるお題目から真に運用される指針へと昇華されます。
継続的な取り組み:定期的な振り返りと改善でMVVを定着
最後に強調したいのは、MVV浸透は一度やれば終わりではなく、継続的な取り組みが必要だということです。一度社員に浸透したように見えても、時間が経てば人も入れ替わり風化していきます。常に手入れをし、新鮮さを保つ工夫をしてこそ定着します。
有効なのは、定期的な振り返りの機会を設けることです。例えば年に1回、全社アンケートで「当社のMVVを日々実感できているか」「もっと浸透させるには何が必要か」等を調査します。結果を分析し、弱い部分があれば新たな施策を講じます。
また、毎年のキックオフや経営方針発表会などで、必ずMVVに触れるようにします。その年の戦略とMVVを紐付けて説明すれば、社員もより実感を持てます。複数年にわたる継続的な研修プログラムを実施し、毎年理念を再確認する場を設けている企業もあります。
そして、組織変化に応じて施策を柔軟に変える視点も大事です。新規事業部門には別途ワークショップを設ける、リモートワーク中心ならオンラインで情報発信を強化するなど、その時の状況に合わせ最適な手段を講じます。
さらに言えば、浸透の度合いによってはMVV自体の見直しも検討すべきでしょう。例えば社員から「現状に合っていない」と指摘が多いなら、アップデートする勇気も必要です。常に社員とMVVとの距離をモニタリングし、必要なら軌道修正するのです。
以上のように、MVVを組織に根付かせるには息の長い努力が求められます。しかしその先には、全社員が共通の使命感と価値観を持ち、高い一体感で動く強い組織が実現していることでしょう。MVV浸透への投資は、必ずや企業の長期的な成長と競争力につながるはずです。