標準型電子カルテは、厚生労働省とデジタル庁が共同で開発している、医科の無床診療所向けのクラウド型電子カルテです。2026年9月9日に厚生労働省が決定した「電子カルテ普及計画」で、その役割は大きく絞り込まれました。紙カルテを使い続けたい診療所が、電子処方箋と電子カルテ情報共有サービスにだけ参加するための「導入版」という位置づけです。この記事では、導入版でできることと提供時期、民間製品向けの標準仕様1.0版や2026年11月に申請が始まる認証制度との違い、そして標準仕様でまだ決まっていない連携・移行の範囲を、2026年10月時点の公表資料をもとに整理します。電子カルテそのものの種類や機能の比較は電子カルテとは?種類・機能一覧と比較軸・標準仕様対応の判断を解説で扱っています。
まとめ:標準型電子カルテは導入版に絞られ診療所は4つの道から選ぶ
- 標準型電子カルテは国が作るアプリで、対象は医科の無床診療所です。2026年9月の普及計画では、紙カルテを残したまま国の医療DXサービスに参加する「導入版」として普及させる方針が示されました。
- 民間ベンダーの製品には別に「標準仕様1.0版」(2026年3月31日公開)があり、適合した製品を国が認証します。申請受付は2026年11月1日から。標準型電子カルテと認証製品は別物です。
- 導入版は2026年度中の完成が目標で、普及支援は2027年度からです。機器購入・設置経費の補助が令和9年度概算要求に入っていますが、予算は確定していません。
- 標準仕様1.0版では、部門システムとのAPI、業務効率化サービスとのAPI、データ移行の必須要件が「次版以降」とされ、空欄のままです。周辺システムとの連携は、当面は個別に設計する前提で計画を立ててください。
- 紙カルテを続けたい無床診療所は導入版、電子カルテへ全面移行したい診療所は認証製品、更新が当面先のオンプレ型利用者は現行カルテの接続改修、という切り分けが国の想定です。
標準型電子カルテとは:デジタル庁が開発する医科無床診療所向けクラウド型の国のアプリ
「標準型」という言葉は、民間製品が守る「標準仕様」と混同されがちです。標準型電子カルテは国自身が発注して作るソフトウェアの名前で、ベンダーの製品群を指す言葉ではありません。
厚生労働省とデジタル庁の共同プロジェクトで対象を医科無床診療所に絞った理由
厚生労働省が2026年3月12日のワーキンググループに出した資料「電子カルテの普及について」では、標準型電子カルテを「デジタル庁で開発中」の医科無床診療所向けクラウドネイティブ型システムと説明しています。病院や歯科は対象外。
無床診療所に絞った背景には、未導入施設の多さがあります。同資料によれば、令和5年の電子カルテ普及率は一般診療所で55.0%にとどまり、約4.7万施設が未導入です。日本医師会が紙カルテの診療所に行った調査(有効回答5,466件)では、54.2%が導入は「不可能」と答え、理由にはITへの不慣れ、導入費用の高さ、数年しか使う見込みがないことが並びました。院長が高齢で閉院が視野に入っている診療所に、フル機能の電子カルテを勧めても動きません。国はこの層を別の手段で拾う必要があったわけです。
国の医療DX機能に限った導入版で紙カルテのまま共有サービスに参加する仕組み
開発中の標準型電子カルテのうち、国の医療DXに対応する機能だけを切り出したものが「導入版」です。診療録は紙カルテに書き続け、他院とのやり取りと処方だけをアプリで行うという割り切った設計になっています。
2026年9月9日決定の電子カルテ普及計画では、導入版の対象を「引き続き紙カルテを利用したい。ただ、政府の医療DXサービスは利用希望」という医科診療所と明記しました。クラウドネイティブ型で紙カルテと併用し、電子カルテ情報共有サービスと電子処方箋管理サービスに対応する、という整理です。フル機能の電子カルテとして普及させる計画ではない点を押さえておくと、民間の解説記事との食い違いに迷わずに済みます。
導入版でできる診療情報提供書の送受信・電子処方箋・外注検査データ登録の範囲
前述の3月の資料に載ったコンセプトでは、導入版でできることは次の4つです。
- 電子カルテ情報共有サービスを使う病院・診療所から届いた診療情報提供書と検査データの閲覧
- アプリへの入力による、他院への診療情報提供書の送付
- 電子処方箋の発行
- 外注の検査機関との連携による、自院の検査データの共有サービスへの登録(手入力は不要)
逆にいえば、予約・会計・レセプト・オーダといった院内業務は導入版の範囲外です。レセコンは今のものを使い続け、受付から会計までの流れも変わりません。院内の業務効率を上げたいという目的には応えない製品と理解してください。
標準型電子カルテと標準仕様準拠の認証製品・パッケージ版を分ける4つの製品類型
国の電子カルテ施策には、標準型電子カルテのほかに「標準仕様」「認証製品」「パッケージ版」という言葉が並びます。それぞれ対象と担い手が違います。
2026年3月31日公開の標準仕様1.0版は民間製品に課す基本要件の束
厚生労働省は2026年3月31日、電子カルテ及びレセプトコンピュータ標準仕様(基本要件)として、医科診療所向けと中小病院向けの仕様書1.0版を公開しました。国が作るアプリではなく、民間ベンダーの製品が満たすべき要件の一覧です。
中身は、オンライン資格確認・電子処方箋・電子カルテ情報共有サービスへの接続、稼働率99.9%以上、ISMAPまたはISMSクラウドセキュリティ認証、データの国内保管、マルチテナント方式、個別カスタマイズに対応しない設計、価格の公開といった項目です。どの要件が製品比較の物差しになるかは電子カルテとは(機能一覧と標準仕様の読み方)で詳しく扱っています。
2026年11月に申請受付が始まる認証制度と診療所向け200施設の稼働実績要件
標準仕様に適合した製品を国が認める認証制度は、2026年10月16日に要綱とQ&Aが公開されました。申請期間は2026年11月1日から2027年10月31日まで、受付は電子メールです。認証制度要綱では、医科診療所向けの認証に「200施設以上で稼働し、その状態が直近1年継続していること」を求めています。中小病院向けは30施設以上です(初回審査に限り直近3か月に読み替える経過措置あり)。
導入実績のない新製品は原則として認証を取れず、ガバメントクラウド上の製品だけが例外とされました。厚生労働省のQ&Aは、オンプレミス型は認証を取得できないこと、認証は品質や安全性を保証するものではないことも明記しています。認証の要件が市場の顔ぶれにどう効くかは電子カルテのシェアと認証制度がベンダー構図に与える影響にまとめました。
2026年9月決定の電子カルテ普及計画が示す類型ごとの想定医療機関の比較
普及計画は、医療機関の状態ごとに用意する手段を4つに分けています。標準型電子カルテ(導入版)はその1つにすぎません。
| 類型 | 作り手 | 想定する医療機関 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| 標準型・導入版 | 国 | 紙カルテを続けたい診療所 | 紙カルテ併用・診療所限定 |
| 認証製品 | 民間 | 電子カルテへ移行したい施設 | 標準仕様準拠・クラウド |
| パッケージ版 | 民間 | クラウドでは機能不足の施設 | オンプレ型・ノンカスタマイズ |
| 接続支援 | 民間 | 更新が当面先の施設 | 現行カルテを個別改修 |
表のとおり、国が自ら作るのは導入版だけで、電子カルテとしての本格導入は民間の認証製品が担います。「標準型電子カルテが完成したら乗り換える」という発想は、紙カルテ併用の診療所以外には当てはまりません。
標準型電子カルテの提供時期:2026年度の完成目標と2027年度からの普及支援
「いつから使えるのか」は、完成の時期と普及支援の時期を分けて読む必要があります。
モデル事業と改善を経て2026年度中の完成を目指すという政府の時間軸
2025年7月の「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チームは、標準型電子カルテについて2026年度中を目途に完成させる方針を示しました。3月の資料のスケジュール表でも、モデル事業と改善事項の取り込みを経て完成に至る工程が2026年度に置かれています。
導入版の普及は、普及計画の概要で2027年度からの施策に位置づけられました。2026年10月時点で、一般の診療所が申し込める提供開始日は公表されていません。完成と全国提供の日付が出るまでは、2027年度以降を前提に計画を組むのが安全です。
令和9年度概算要求に計上された導入版の機器購入・設置経費の補助
普及計画には、厚生労働省の令和9年度概算要求の事業として「標準型電子カルテ・導入版の開発・普及」が載っています。要求額は93億円で、うち43億円をデジタル庁に計上する形です。この事業には病院向けの医療情報共有ツールの開発も含まれるため、93億円がすべて導入版の費用というわけではありません。
中身は、導入版アプリの提供・保守・運用(ヘルプデスクを含む委託)と、医科診療所が導入版を入れる際の機器購入・設置経費の補助です。補助率や上限、アプリ利用料の扱いは公表資料では示されていません。普及計画の概要にも、施策は概算要求に盛り込んだもので予算編成や国会審議で変わりうると注記されています。
2030年12月の普及率約100%目標と導入版が受け持つ紙カルテ診療所の層
普及計画の目標は2段構えです。2028年度までに、電子カルテ未導入の200床以上の病院(療養病床等が中心の病院を除く)で普及率100%。2030年までに、電子カルテ普及率約100%、地域の拠点病院のサイバーセキュリティ対策100%、大病院向けクラウドネイティブ型製品の提供を目指すとしています。
導入版は、この「約100%」に紙カルテの診療所を数えるための受け皿でもあります。2030年目標の法的な位置づけや罰則の有無は電子カルテ義務化はいつから?2030年普及率100%目標と対応判断で解説しているので、時期の判断はそちらと合わせて読んでください。
標準仕様1.0版で空欄のまま残る部門システム連携とデータ移行の範囲
標準型電子カルテを選んでも認証製品を選んでも、周辺システムとの連携は自院の課題として残ります。医科診療所向け標準仕様書1.0版を読むと、連携の多くはまだ書かれていません。
部門システム間APIと業務効率化サービスAPIは次版以降に規定される予定
仕様書2.2章のうち、必須(遵守)とされたのは国の医療DXサービス群との接続だけです。電子カルテと外部システムの連携共通仕様(2.2.2)、部門システムとのAPI個別仕様(2.2.3)、予約や生成AIなど業務効率化サービスとのAPI個別仕様(2.2.4)は、遵守・推奨とも「次版以降において設定予定」とされています。
参考資料として「電子カルテ-部門システム間API個別仕様例」や「業務効率化サービスAPI実装ガイド(令和8年暫定版)」は示されましたが、拘束力はありません。普及計画では、部門ごとの標準インターフェイスを2027年度末までに策定し、2028年度以降に各製品へ実装する工程が描かれています。それまでの数年間、検査機器や予約システムとの接続は製品ごとの個別仕様で組む形です。現行の接続方式の違いは医療のデータ連携|院内4方式と地域連携の構成で比較しています。
共有サービスのFHIR連携は技術解説書2.1.0版の段階で実装を控える指示
電子カルテ情報共有サービスは、診療情報提供書・退院時サマリー・健康診断結果報告書の3文書をHL7 FHIRに基づく形式でやり取りします。開発者が参照するシステムベンダ向け技術解説書の最新は令和8年6月の2.1.0版ですが、冒頭に「現時点で最終的に確定したものではありません」と書かれています。
次版は令和8年度冬頃に公表予定で、それまではモデル事業以外での実装・導入を控えるよう求めています。2.1.0版でも、傷病名の登録基準や検査単位の扱いが見直されたばかりです。共有サービス向けのFHIR出力を今の版で作り込むと、次版で手戻りが出る可能性が高いと見ておくべきでしょう。
クラウド間連携の公表から6か月という経過措置が接続対応の期限を決める
標準仕様1.0版は、電子処方箋と電子カルテ情報共有サービスへの接続を遵守項目にしつつ、経過措置を置いています。それぞれ、電子カルテとの間でクラウド間の連携が実現した旨の公表日から6か月が経過するまでは、推奨項目として扱うという規定です。
読み替えると、認証製品であっても共有サービスとの接続機能が今すぐ揃っているとは限りません。契約前には、共有サービスと電子処方箋に「接続済みか」「経過措置期間中か」をベンダーに文書で確認してください。
個別カスタマイズ不可の製品で院内固有の機能を本体の外に作る構成
認証製品は全医療機関に同じソースコードで提供され、特定の医療機関向けの改修はできません。Q&Aは、設定変更や全利用者が使えるオプション機能の有効化はカスタマイズに当たらない一方、医療機関ごとに異なるソースコードで運用することは認めないと答えています。
独自の問診票、健診センターとの連携、在宅医療の訪問記録のように製品の標準機能で賄えない業務は、電子カルテの外側にアプリを作り、ベンダーが開示するインターフェイスでつなぐ形になります。標準仕様は、部門システムのベンダーから要請があればインターフェイスの仕様を開示するよう求めているので、接続の条件は交渉を通じて引き出すことが可能です。本体はパッケージに任せ、院内固有の機能と連携部分だけを外部に任せる場合は、医療機関向けシステム開発(電子カルテ連携・FHIR対応)で範囲の切り分けから相談できます。
導入版・認証製品・現行カルテの改修を診療所の状態別に選び分ける判断基準
普及計画の類型を、診療所の判断に置き換えます。決め手は「紙カルテをいつまで使うか」と「今の電子カルテをいつ更新するか」の2つです。
導入版が合うのは紙カルテを続けたい無床診療所で外注検査が多い場合
導入版を待つ価値があるのは、紙カルテで日々の診療が回っていて、今後も電子カルテに切り替える予定がない無床診療所です。中でも、検査を外注に出す件数が多く、紹介状のやり取りが頻繁な診療所ほど効果が見込めます。外注検査の結果を手入力せずに共有サービスへ登録でき、紹介先の病院から届く診療情報提供書も画面で読めるからです。
2026年度の診療報酬改定で再編された加算の施設基準も、共有サービスや電子処方箋への対応と結びついています。加算の要件と照らして導入版で足りるかどうかは、電子的診療情報連携体制整備加算の施設基準と電子カルテ側の準備で確認してください。
導入版を選ばないのは3年以内に電子カルテへ全面移行する予定がある場合
開業や承継、建て替えなどで3年以内に電子カルテを入れる予定があるなら、導入版は見送るべきです。導入版は紙カルテ併用を前提にした機能限定版で、診療録の電子化には使えません。導入版の操作を覚えたあとで認証製品に移ると、職員の教育と端末の手配を二度やることになります。
この場合は、2026年11月から始まる認証の結果を待ち、認証製品の中から候補を選ぶ方が手戻りがありません。認証製品は価格を自社サイトで公開することが要件なので、見積もりを取る前に費用の目安を比べられます。
オンプレ型を使う診療所は保守期限と接続改修の見積額で更新時期を決める
すでにオンプレミス型の電子カルテを使っている診療所は、導入版の対象外です。国の想定は、次の更新時に認証製品へ移り、それまでは今のカルテを改修して共有サービスと電子処方箋につなぐ流れです。
判断の材料は2つあります。現行製品の保守期限と、共有サービス・電子処方箋への接続改修の見積額です。保守期限が2年以内に来るなら、改修費をかけずに認証製品への更新を前倒しした方が総額は下がりやすくなります。期限がまだ先で改修費が小さい場合は、改修して使い続け、標準仕様の次版で部門連携とデータ移行の要件が固まってから更新先を選ぶ方が、移行の手戻りを避けられます。
よくある質問
標準型電子カルテについて診療所の院長や事務長から寄せられやすい質問に、2026年10月時点の公表資料の範囲で答えます。
標準型電子カルテはいつから使えますか?
国は2026年度中の完成を目指しており、医科診療所への普及支援は2027年度からの施策に位置づけられています。2026年10月時点では、一般の診療所が申し込める提供開始日は公表されていません。普及支援の予算は令和9年度概算要求の段階で、予算編成や国会審議で内容が変わる可能性があります。具体的な受付開始は、厚生労働省とデジタル庁の今後の発表を待つ必要があります。
標準型電子カルテの導入費用は無料ですか?
2026年10月時点の公表資料では、アプリの利用料が無料かどうかは示されていません。普及計画の概算要求には、導入版を入れる医科診療所に向けた機器購入・設置経費の補助と、アプリの提供・保守・運用の委託費が含まれています。補助率や上限も未公表です。端末やネットワークの費用が補助の対象になる見込みはあるものの、金額の前提を置いた資金計画は予算成立後に組むのが確実です。
標準型電子カルテの導入は義務ですか?
義務ではありません。厚生労働省のQ&Aは、医療機関はこれまでどおり標準仕様に関係なくすべての電子カルテ製品を使えると答えています。標準型電子カルテ(導入版)も、紙カルテを続けたい診療所のために国が用意する選択肢の1つです。政府は2030年までに電子カルテ普及率約100%を目標に掲げていますが、個々の医療機関に導入を強制する規定ではありません。
標準型電子カルテと標準仕様準拠の電子カルテは何が違いますか?
作り手と対象が違います。標準型電子カルテは国(厚生労働省・デジタル庁)が開発するアプリで、医科の無床診療所向けに国の医療DX機能へ絞った導入版として普及させる計画です。標準仕様準拠の電子カルテは、民間ベンダーが標準仕様1.0版に合わせて作る製品で、国の認証を受ければ認証製品になります。電子カルテとして本格的に使うなら、選ぶ対象は後者です。
オンプレミス型の電子カルテは認証を取れますか?
取れません。厚生労働省のQ&Aは、標準仕様がパブリッククラウドでの構築・提供を要件としているため、オンプレミス型は認証の対象外と答えています。ただし認証を受けていない製品の販売や利用が禁じられるわけではありません。普及計画でも、オンプレ型を使う医療機関には、更新までのあいだ共有サービスや電子処方箋への接続改修を支援する方針が示されています。
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