取締役会議事録は、紙で作れば出席役員の署名か記名押印、電子データで作れば電子署名で締めくくるというのが会社法の定めです。この記事では、会社法369条4項と会社法施行規則225条が求める電子署名の要件を条文から確認し、立会人型のクラウド署名で足りるのか、登記に添付するときはどの電子証明書が必要かを整理します。代表取締役を選んだ議事録だけに残る当事者型署名の条件、10年の備置き期間中に署名を検証できなくなる失敗、議事録の電子署名を自社のシステムに組み込むかどうかの判断基準まで扱います。
まとめ:取締役会議事録は出席役員全員の電子署名で作成でき登記添付も可能
電子データで作った取締役会議事録には、出席した取締役と監査役の全員が電子署名を付けます。施行規則が求めるのは「誰が作ったかを示せること」と「改変の有無を確かめられること」の2点で、クラウド型の電子契約サービスによる立会人型の署名もこの要件に入ります。
登記に添付する場合は、署名に使う電子証明書の種類が問われます。法務省が指定した電子契約サービスの証明書なら多くの議事録に使えますが、代表取締役を選定した議事録では、変更前の代表取締役だけは商業登記電子証明書やマイナンバーカードの署名用電子証明書などで署名する必要があります。
電子化そのものは電子契約サービスの契約だけで始められます。自社のシステムに組み込む価値が出るのは、子会社を含めて議事録が毎月多数発生し、決議内容を契約や稟議の記録とつなぎたい会社です。
取締役会議事録に電子署名が必要になる根拠を会社法369条と施行規則225条で確認する
電子署名の義務は、会社法本体と法務省令の2段構えで定められています。条文の分かれ方を押さえると、何に署名が要り、何に要らないかが判断しやすくなります。
書面なら署名か記名押印で電磁的記録なら電子署名という会社法369条の分岐
会社法(平成17年法律第86号)369条3項は、取締役会の議事録が書面で作られているときは、出席した取締役と監査役が署名するか記名押印するよう定めています。同条4項は、議事録が電磁的記録で作られている場合には、法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置をとるよう求めています。
つまり、議事録を紙で作るか電子で作るかは会社が選べます。施行規則101条2項も、議事録は書面又は電磁的記録で作成すると定めています。Wordで作った議事録を印刷して押印するなら紙の議事録であり、PDFのまま回付して署名するなら電子の議事録です。
署名の有無は手続上の形式にとどまりません。369条5項は、決議に参加した取締役が議事録に異議をとどめなければ、その決議に賛成したものと推定します。後で取締役の責任が問われたとき、誰がどの内容の議事録を確認したかが争点になるため、署名者を特定できる方式を選ぶ意味があります。
会社法施行規則225条2項が求める作成者の表示と改変の検知の2要件
会社法施行規則(平成18年法務省令第12号)225条1項6号は、369条4項の「署名又は記名押印に代わる措置」を電子署名と定めています。同条2項はその電子署名を、電磁的記録に記録できる情報について行われる措置で、次の2要件をいずれも満たすものと定義しています。
- 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること
- 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること
この2要件は、電子署名法2条1項の定義と同じ文言です。PDFに印影の画像を貼るだけの電子印鑑は、誰が貼ったかも、貼った後に本文が変わっていないかも示せないため、要件を満たしません。2要件を満たす仕組みとしてハッシュ値と電子証明書を使う流れは電子署名の意味・仕組み・種類の解説で整理しています。
署名するのは議長だけでなく出席した取締役と監査役の全員という範囲
369条3項が署名を求めているのは「出席した取締役及び監査役」です。議長と代表取締役だけが署名する運用は、条文上の要件を満たしません。欠席した取締役は署名の対象外で、会計参与や執行役も同項の署名者には含まれていません。
Web会議で出席した役員も出席者です。施行規則101条3項1号は、開催場所にいない取締役や監査役が出席した場合の出席の方法を議事録に記載するよう定めています。オンライン出席者が多い会社ほど、署名依頼を送る相手の名簿は議事録の出席者欄から機械的に作る仕組みにしておくと漏れを防げます。
立会人型・当事者型・タイムスタンプのどれで取締役会議事録の要件を満たすか
電子契約サービスには、サービス事業者の鍵で署名する立会人型と、署名者本人の電子証明書で署名する当事者型があります。議事録で問題になるのは、主に立会人型で足りるかどうかです。
第2条Q&Aの考え方で立会人型のクラウド署名も施行規則の電子署名に入る理由
立会人型では、暗号化の処理をしているのはサービス事業者の鍵です。そのため「措置を行った者」が取締役本人と言えるかが論点でした。総務省・法務省・経済産業省が令和2年7月17日に公表した電子署名法第2条関係のQ&Aは、サービス事業者の意思が介在する余地がなく、利用者の意思のみに基づいて機械的に暗号化されることが技術的・機能的に担保されていれば、措置を行った者は利用者と評価し得るとしています。
施行規則225条2項の要件は電子署名法2条1項と同じ文言のため、この整理は議事録にもそのまま適用できる考え方です。商業登記の実務でも、法務省は立会人型サービスの電子証明書を登記の添付書面に使えるものとして指定しています。立会人型と当事者型の一般的な選び分けは契約書の電子署名で当事者型・立会人型を選び分ける基準で扱っています。
ただし、立会人型でもメール認証だけで署名できる設定では、なりすましへの備えが弱くなります。議事録は取締役の責任追及の証拠になる文書なので、二要素認証を必須にする設定で送るのが妥当です。
電子署名法3条の推定効と議事録の有効性を分けて考える実務上の場面
混同しやすいのが、議事録が会社法上有効かという問題と、裁判で本人が作成したと推定されるかという問題です。前者は施行規則225条の2要件を満たせば足ります。後者は電子署名法3条の推定効の話で、本人だけが行える電子署名であることなど、さらに重い要件が加わります。
実務上、推定効まで意識すべきなのは、決議への反対や責任の有無が後で争われやすい議案です。多額の借入れ、関連当事者との取引、代表取締役の解職などを扱う回は、二要素認証を必須にしたうえで署名ログを議事録と一緒に保存しておくと、署名者の特定で困りません。
タイムスタンプは法律上の必須要件ではなく10年保存の検証性を補う手段
会社法と施行規則には、取締役会議事録にタイムスタンプを付けるよう求める規定はありません。要件はあくまで225条2項の2つです。一方で、議事録は371条により取締役会の日から10年間、本店に備え置く必要があります。
電子署名に使う電子証明書には有効期限があり、期限が切れた後は署名の検証結果が不確かになります。タイムスタンプは、その時点で文書が存在し以後改変されていないことを示す仕組みで、長期の検証に使われます。署名との役割分担はタイムスタンプの仕組みと電子署名との違いを参照してください。
登記申請に電子署名済みの取締役会議事録を添付するときの電子証明書の条件
役員変更や本店移転などの登記では、取締役会議事録を添付書面として提出します。オンライン申請で電子の議事録を添付する場合、会社法とは別に商業登記規則の要件がかかります。
商業登記規則102条が添付書面情報に求める作成者の電子署名と証明書の区分
商業登記規則102条2項は、添付書面に代わる情報に作成者が電子署名を行ったものを送信するよう定め、同条5項はその署名に使える電子証明書を限定しています。法務省の商業・法人登記のオンライン申請については、使える電子証明書を次の区分で示しています。
| 法務省ページの区分 | 代表的な取得者・用途 | 議事録での主な使い道 |
|---|---|---|
| (1)商業登記電子証明書 | 登記所に印鑑を出している会社代表者 | 代表取締役の署名 |
| (2)公的個人認証サービス電子証明書 | マイナンバーカードの署名用電子証明書を持つ個人 | 取締役・監査役個人の当事者型署名 |
| (3)特定認証業務電子証明書 | 民間認証局が発行する個人向け証明書 | 当事者型署名 |
| (4)官職証明書・(5)指定公証人電子証明書 | 官庁・指定公証人 | 通常の議事録では使わない |
| (6)その他 | 法務大臣が指定した電子契約サービスの証明書 | 立会人型による出席役員の署名 |
(6)の一覧には、サービス名と発行者、掲載日が並んでいます。2026年10月19日時点の掲載では、クラウドサインが令和2年9月3日、マネーフォワード クラウド契約が令和3年9月6日、サイバートラストのiTrust 電子署名用証明書が令和8年1月27日の掲載です。同ページの注6は、取締役会議事録であれば署名すべき出席取締役などが作成者にあたると説明しています。証明書の種類と取得方法の違いは電子証明書の種類・有効期限と取得方法にまとめています。
代表取締役を選定した議事録で変更前の代表者だけ当事者型の署名が要る条件
紙の議事録では、取締役会で代表取締役を選定した登記に、出席した取締役と監査役が議事録に押した印鑑の証明書を付けるのが原則です(商業登記規則61条6項3号)。ただし、変更前の代表取締役が登記所に届け出た印鑑を押していれば、印鑑証明書は不要になります。
電子の議事録にも同じ構造があります。法務省ページの注9は、代表取締役の選任(重任を含む)を証する取締役会議事録について、変更前の代表取締役が(1)商業登記電子証明書、(2)公的個人認証サービス電子証明書、(3)特定認証業務電子証明書のいずれかで署名すれば、他の取締役は(6)その他の電子証明書で足りるとしています。
実務では、代表取締役の選定を含む回だけ、変更前の代表取締役の署名を当事者型に切り替える運用になります。立会人型のサービスに当事者型の署名を重ねる場合の手順は、同ページで案内されている申請用総合ソフトの電子署名付与ガイドに従います。変更前の代表取締役が署名できない事情がある場合の扱いは、申請前に管轄の法務局へ確認してください。
法務省の指定一覧に載っていない電子契約サービスで署名した議事録の扱い
一覧にないサービスの立会人型署名でも、施行規則225条の2要件を満たせば、会社法上の議事録としては有効になり得ます。しかし商業登記規則102条5項が求める電子証明書には該当しないため、その署名だけではオンライン申請の添付書面情報として使えません。
議事録を登記に使う可能性がある会社は、サービスを契約する前に(6)の一覧で発行者まで照合してください。同じ製品名でも、一覧に載っている証明書の発行者と、実際に署名に使われる証明書の発行者が一致しているかを確認する必要があります。
取締役会議事録の電子署名を社内で回す手順と10年保存の運用設計
要件を満たす方式を選んだ後は、署名の回付と保存を毎回同じ手順で回せるかが問われます。議事録は開催のたびに作られ、10年分が積み上がる文書です。
取締役会議事録案の確定から全員の署名と本店備置きまでの5ステップ
開催後の流れは、次の順に固定しておくと担当者が替わっても崩れません。
- 事務局が議事録案を作成し、施行規則101条3項の記載事項(日時・場所・出席方法、議事の経過の要領と結果、特別利害関係取締役の氏名、議長の氏名など)を確認する
- 出席取締役と監査役に内容確認を依頼し、修正を反映した確定版をPDFにする
- 出席者全員に署名を依頼する。代表取締役の選定を含む回は、変更前の代表取締役を当事者型にする
- 全員の署名完了後、署名済みPDFと署名ログを取得し、改変できない保存先へ格納する
- 議事録の一覧に開催日・議案・署名完了日・保存場所を登録し、10年後の廃棄予定日を記録する
3の時点で署名者が1人でも欠けると、議事録は完成しません。署名期限を開催日から2週間程度に置き、未署名者への督促を自動で送る設定にしておくと、登記の申請期限(変更から2週間以内)にも間に合わせやすくなります。
電子証明書の有効期限切れで10年後に署名を検証できなくなる失敗パターン
見落とされやすいのは、署名に使った電子証明書の有効期限と、371条の10年の備置き期間がずれる点です。署名用の電子証明書の有効期間は10年より短いのが一般的で、期限後にPDFを開くと署名の検証が不確かな状態で表示されることがあります。
この状態は、署名した時点で有効だった証明書による署名であることを後から示せれば問題になりません。法務省ページの注8も、添付書面情報を作成して電子署名を行った時点で有効な電子証明書であれば送信できると説明しています。そこで、署名完了時に長期署名やタイムスタンプを付ける機能があるサービスを選ぶか、署名済みPDFと検証結果を同じ時点で保存しておきます。サービスを解約した後に署名ログを取り出せない契約になっていないかも、導入時に確認する項目です。
株主や債権者の閲覧請求に施行規則226条の表示方法で応じる準備
371条2項2号は、電子の議事録について、法務省令で定める方法で表示したものの閲覧又は謄写を株主が請求できると定めています。施行規則226条はその方法を、紙面又は映像面に表示する方法としています。
監査役設置会社などでは、株主の閲覧に裁判所の許可が要ります(371条3項)。それでも請求があれば、特定の回の議事録を署名付きのまま画面に出し、印刷もできる状態にしておく必要があります。保存先のフォルダ構成と検索キーを開催日と議案名で揃えておけば、10年前の議事録でも数分で出せます。
取締役会議事録の電子署名を自社システムに組み込む会社と見送る会社の判断基準
電子署名の導入は、電子契約サービスを契約するだけでも完結します。システム連携まで踏み込むかどうかは、議事録の件数と、議事録を他の業務記録とつなぐ必要があるかで決まります。
電子契約サービス単体で足りる定例取締役会が年12回程度の会社
取締役会が月1回の定例会と臨時会数回にとどまり、出席者が10人前後の会社は、システム連携を見送ってかまいません。1回の議事録を電子契約サービスで回付し、署名済みPDFを共有フォルダの年度別フォルダに置くだけで、会社法と登記の要件は満たせます。
この規模で連携開発に費用をかけても、削減できるのは回付と保存の操作だけです。まずは(6)の一覧に載ったサービスを選び、代表取締役選定の回だけ当事者型に切り替える運用を固めるほうが先です。
文書管理やワークフローと連携させる価値が出る子会社の多いグループ会社
判断が変わるのは、子会社を含めて年に数百件の議事録が発生する会社や、取締役会の決議を受けて契約締結や稟議の起票が続く会社です。決議の番号と契約書・稟議書を手作業で突き合わせていると、監査や登記の準備のたびに同じ照合作業が発生します。
この場合は、議事録の出席者欄から署名依頼を自動で作り、署名完了の通知を受けて文書管理システムへ確定版として登録する構成が向いています。承認済みの版を確定させて保管する設計については、文書管理とワークフローの連携設計が考え方を確認できる参照先です。議事録・契約・稟議をどこまで一つの記録としてつなぐかは、既存の規程とシステム構成から決める必要があるため、業務の棚卸しから進めたい場合はDXコンサルティングで相談を受けています。
逆に、議事録だけを独自の署名機能で作り込むのは見送るべきです。自前の鍵で署名しても法務省の指定一覧には載らず、登記に使えない議事録が増えるだけになります。署名は指定済みのサービスに任せ、自社で作るのは前後の連携部分に限るのが妥当な線引きです。
取締役会議事録の電子署名について導入前後の実務でよく寄せられる質問
取締役会議事録の電子署名について、導入の前後でよく出る疑問に短く答えます。
一部の取締役だけ紙に押印し、残りを電子署名にできますか?
1通の議事録で紙の押印と電子署名を混在させる方法は、条文上想定されていません。369条は、書面で作れば3項の署名又は記名押印、電磁的記録で作れば4項の電子署名という分け方をしているためです。紙に押印したものをスキャンしてPDFにしても、電子署名の要件は満たしません。電子で作ると決めた回は、出席者全員に電子署名を依頼してください。
書面決議(みなし決議)の議事録にも電子署名が必要ですか?
会社法370条の書面決議では取締役会が開かれず、出席者がいないため、369条3項の出席者による署名義務の対象になりません。施行規則101条4項1号は、この場合の議事録に決議があったものとみなされた事項、提案した取締役の氏名、みなされた日、議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名を記載するよう定めています。全員の同意を示す書面又は電磁的記録も、議事録と同じく10年間本店に備え置きます。
取締役会をWeb会議で開いた場合、議事録に何を書けばよいですか?
施行規則101条3項1号により、開催の日時と場所に加えて、場所にいない取締役や監査役がどの方法で出席したかを記載します。たとえば「取締役○○はWeb会議システムにより出席した」と書き、音声と映像が双方向で通じていたことも添えるのが一般的です。オンラインで出席した役員も署名の対象になるため、電子署名の依頼先から外さないよう注意してください。
電子署名した議事録を紙に印刷して保管してもよいですか?
閲覧用に印刷するのはかまいませんが、印刷物は電子署名の検証ができないため原本の代わりにはなりません。電子で作成した議事録の原本は署名付きのPDFそのものです。紙の保管に切り替えるのではなく、署名済みPDFを改変できない保存先に10年間置き、印刷物は写しとして扱ってください。
株主総会議事録にも電子署名が必要ですか?
会社法318条と施行規則72条は、株主総会議事録への署名や記名押印を求めていません。この点が取締役会議事録との違いです。ただし、株主総会で代表取締役を選定した場合の登記では、議長と出席した取締役が押した印鑑の証明書が必要になります(商業登記規則61条6項1号)。電子の議事録で登記する場合は、取締役会議事録と同じように電子証明書の区分を確認してください。
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