DX

ストレスチェックの集団分析:仕事のストレス判定図の読み方と10人ルール・経年比較の設計

ストレスチェックの集団分析:仕事のストレス判定図の読み方と10人ルール・経年比較の設計

ストレスチェックの集団分析は、個人の結果を部署などの単位で集計し、職場ごとのストレスの傾向を事業者が受け取れる形にする仕組みです。結果の使い道をほぼ決めるのは、集計単位の決め方と「仕事のストレス判定図」の読み方です。この記事では、10人の下限を受検者数で数える理由と例外、判定図から総合健康リスクを出す計算、2025年3月の研究報告が示した2024年版判定図の新しい係数を、厚生労働省の実施マニュアルと研究報告で確認します。後半では、部署別の経年比較を組織改編で途切れさせないデータの持ち方と、システム化を見送ってよい条件まで線を引きます。

まとめ:集団分析は受検者10人の集計単位と判定図の2指標から始める

集団分析で先に決めるのは集計単位です。下限の10人は在籍者数ではなく、実際に受検した人数で数えます。10人に届かない課は同じ部門の課と合算する、と実施規程に書いておけば毎年の判断が要りません。

結果の読み方は判定図の2つの値に絞れます。「量-コントロール」と「職場の支援」の健康リスクを掛けて100で割ると総合健康リスクになり、全国平均を100として120を超える部署から手を付けるのが実施マニュアルの目安です。

職場環境の改善につなげるには、毎年同じ単位で比べられることが前提になります。部署コードを組織改編のたびに付け替える運用では、前年との比較ができません。義務の範囲や2027年4月の省令改正の経緯はストレスチェック義務化の対象と2028年4月施行の50人未満拡大で整理しているので、本記事では集計と読み方、比較の設計に絞ります。

ストレスチェックの集団分析の法令上の位置づけと事業者に渡る結果の範囲

集団分析は、ストレスチェックの実施そのものとは別の条文に置かれた努力義務です。誰が集計し、何が事業者に渡るのかを先に押さえます。

安衛則52条の14の努力義務と実施者の医師等に集計させる仕組み

労働安全衛生規則第52条の14は、検査を行った医師等に、部署に所属する労働者の集団その他の一定規模の集団ごとに結果を集計させ、分析させるよう事業者に求めています。義務ではなく努力義務です。罰則もありません。

集計するのは事業者ではなく実施者です。人事部門が個人の回答データを受け取って自分で部署別に集計する運用は、この仕組みから外れます。外部機関に委託している場合は、委託先が集計した報告書を受け取る形が基本です。何を「一定規模の集団」とするかは、職場環境を共有し業務にまとまりのある部や課を単位に、事業者が業務の実態に応じて決めます。

本人の同意なしで事業者に提供できる集団分析結果と2027年4月の明文化

個人の結果は本人の同意がなければ事業者に渡せません。一方で集団分析の結果は個人が特定できないため、労働者の同意を取らずに実施者から事業者へ提供できる、とストレスチェック制度実施マニュアルは説明しています。事業者が職場のストレス状況を数字でつかめる唯一の経路が集団分析です。

この前提は2027年4月1日に条文へ入ります。2026年7月の労働局のリーフレットによれば、令和8年厚生労働省令第112号で第52条の14に「特定の個人を識別することができない方法で」が加わり、令和9年4月1日に施行されます。従来の解釈を明文化した改正で、運用は変わりません。通達の読み方は義務化を解説した親記事の該当章に譲ります。

集団分析の集計単位の決め方と10人未満でも集計できる例外の条件

10人ルールは広く知られていますが、数え方と例外まで書いた資料は多くありません。実施マニュアル84〜85ページの記述を順に確認します。

在籍人数ではなく有効回答の受検者数で数える集計単位10人の下限

集計・分析の単位が10人を下回ると個人が特定されるおそれがあるため、原則として対象者全員の同意がない限り結果を事業者に提供してはいけません。ここで数えるのは在籍労働者数ではなく、実際の受検者数(有効なデータ数)です。

所属12人の課で受検者が9人なら、その課の結果は出せません。受検率が下がった年だけ部署の結果が欠ける事態は、この数え方から起きます。マニュアルは、こうした場合に上位の大きな集団単位で集計する工夫を求めています。受検の締切後に部署別の受検者数を確定させ、9人以下の単位を合算してから集計に回す順序が必要です。

57項目合計の平均と判定図に限られる10人未満の例外と少人数の限界

例外もあります。57項目すべての合計点について集団の平均値だけを求める方法や、仕事のストレス判定図を使う方法のように、個人の特定につながりにくい方法なら、10人未満の単位で集計して同意なしに事業者へ提供することが可能です。2026年7月のリーフレットも同じ2つの方法を例に挙げています。

ただし、この方法でも極端に少人数の集団を対象にするのは不適切だとマニュアルは付け加えています。3人の課で平均点を出せば、ほぼ個人の点数と変わりません。例外は「10人に少し届かない課を判定図だけで見る」程度にとどめ、尺度ごとの細かい平均や高ストレス者の割合は10人以上の単位でしか出さない線引きが現実的です。小規模の事業場では、10人以上の大きな集団を構成するよう工夫したうえで実施することが求められます。

10人未満の課を同じ部門の課と合算する基準を定める実施規程例の書き方

実施マニュアルの実施規程例は、第22条で「原則として課ごとの単位で行う。ただし、10人未満の課については、同じ部門に属する他の課と合算して集計・分析を行う」と定めています。続く第23条は判定図を使うこと、第24条は課ごとの結果を人事労務部門に提供することを定めた条文です。

この書き方なら、組織が毎年変わっても合算の基準は動きません。実務で詰まるのは「同じ部門」の範囲で、本部と支店の両方に同名の課がある企業では、どの階層で合算するかを規程か別表で決めておく必要があります。組織図の階層を集計単位の候補として持っておくと、合算先を機械的に選べます。

仕事のストレス判定図の部署別の読み方と総合健康リスクの計算方法

判定図は、平成7〜11年度の労働省委託研究で作られた分析手法です。57項目のうち12項目だけで描けるため、集団分析の標準的な方法として実施マニュアルに載っています。

12項目4尺度の平均点の出し方と採点方向・男女別判定図の扱い

使うのは「仕事の量的負担」「仕事のコントロール」「上司の支援」「同僚の支援」の4尺度で、各3項目、計12項目です。職業性ストレス簡易調査票の使用マニュアルでは、A1〜3とA8〜10に「そうだ=4点〜ちがう=1点」、C1・2・4・5・7・8に「非常に=4点〜全くない=1点」を与えます。個人結果を出すときと点数の向きが逆になるため、表計算で自作すると採点の向きを取り違えやすい箇所です。

用意されている判定図は、男性用と女性用の男女別です。性別で分けると1単位の人数が減って分析できない場合は、男女を区別せず男性の判定図を使います。その場合、女性のデータでは量-コントロールの健康リスクがやや過大に出る可能性がある、とマニュアルは注意しています。

健康リスク120を目安にする部署別の判定と総合健康リスクの計算例

判定図の斜めの線は、ストレス要因から予想される疾病休業などの健康問題のリスクを、標準集団の平均を100として表したものです。健康リスク120の線上にある集団は、健康問題が起きる可能性が全国平均より20%高いと読みます。実施マニュアルは、これまでの調査事例で120を超える職場では何らかの問題が生じていることが多い、と書いています。

2つの判定図の値を掛けて100で割ったものが総合健康リスクです。使用マニュアルの記入例を表にします。

尺度 経理課の平均点 読み取った健康リスク
仕事の量的負担 8.5 量-コントロール(A)108
仕事のコントロール 6.4
上司の支援 6.0 職場の支援(B)112
同僚の支援 8.8
総合健康リスク A×B÷100 121

この課は、量と裁量のバランスがやや悪く、上司の支援が特に低いと読めます。総合の121だけを見ると「全体に悪い」で終わりますが、AとBを分けて見れば、手を打つ先が業務量の調整なのか管理職の関わり方なのかが分かります。

2025年3月の研究報告が示した2024年版判定図の新しい係数

判定図の基準値は、2000年に作られたものが長く使われてきました。厚生労働科学研究の令和6年度報告書「職業性ストレス簡易調査票に関する新しい基準値の提案」(研究代表者 堤明純・2025年3月)は、2015〜2023年度のストレスチェックのデータから、42,760事業場・のべ9,774,846名を対象に判定図の平均値と係数を見直し、全産業版の「仕事のストレス判定図(2024年版)」を示しました。

全産業の係数は、仕事の量的負担が0.073、仕事のコントロールが-0.064、上司の支援が-0.075、同僚の支援が-0.082です。量的負担の全産業平均は8.42で、2000年版の男性版より0.28点低く、女性版より0.82点高い値になりました。予測する対象も、2000年版の抑うつや疾病休業から、心身のストレス反応による高ストレス者の割合に変わっています。

実務への影響は比較の一貫性です。新旧どちらの判定図で計算したかで健康リスクの値は変わるため、委託先やツールを替えた年に数値が跳ねたら、まず判定図の版を確認します。経年比較の表には、判定図の版を列として残しておくべきです。

判定図の4尺度以外を見る57項目の尺度平均と23項目版の制約

判定図が評価するのは仕事のストレスの4つの側面だけです。実施マニュアルは、判定図に含まれないストレス要因があることを考慮し、健康診断の集計結果や職場巡視、聞き取りも合わせて評価するよう求めています。57項目版なら、判定図以外の尺度も集団の平均を出して全国平均と比べられます。

23項目の簡略版でも判定図は描けますが、ストレス反応の尺度が少なく、職場の状態を詳しく見ることはできません。職場の状態を細かく測りたい場合は、80項目の新職業性ストレス簡易調査票か、ストレスチェックとは別のサーベイを併用する選択になります。法令の縛りを受けない調査との違いは組織サーベイの種類の違いと選び方で整理しています。

部署別の経年比較と共有範囲の設計で集団分析結果を職場改善へつなげる

集団分析の結果は5年間保存することが望ましい、とマニュアルは書いています。理由として挙げているのは、経年変化を見て職場のストレス状況を把握することです。比較できる形で残すには、データの持ち方を最初に決める必要があります。

組織改編で途切れる経年比較を防ぐ部署コードと有効期間の履歴管理

経年比較が崩れる最大の原因は組織改編です。営業1課と2課が統合された翌年、前年の「営業1課」と今年の「営業課」は同じ集団として比べられません。部署名で集計表を作っていると、こうした年に比較が途切れます。

防ぐ方法は、部署コードに有効期間を持たせ、統合・分割の対応関係を別表で残すことです。集計時点の部署コードと、比較用に寄せ直した集計単位を両方持てば、前年の2課分を合算した値と今年の値を並べられます。委託先に名簿を渡す場合も、部署名ではなくコードで渡し、報告書の集計単位とコードを突き合わせられる形にする運用です。名簿の渡し方の比較はストレスチェックサービスの3方式の比較で扱っています。

集団分析結果の共有範囲を衛生委員会で決めて役職別の閲覧権限に落とす

部署別の結果は、その部署の責任者にとっては自分の評価につながり得る情報です。実施マニュアルは、事業場内で制限なく共有するのは不適当とし、集計の方法や結果の共有範囲を衛生委員会で審議したうえで社内規程として定めることを求めています。

ダッシュボードを作るなら、この規程をそのまま閲覧権限にします。管理職は自部署と全社平均だけ、衛生委員会の委員と産業保健スタッフは全部署、経営層は部門単位まで、という形です。全部署の順位表を全管理職に配る設計は、規程の趣旨から外れます。集団分析の結果と勤怠・人事データを同じ権限設計の中で扱う仕組みは、人事・労務管理システム開発として既存の人事システムに足す形でも設計できます。

判定図に残業時間と休職者数を重ねて読む部署別の指標の組み合わせ

判定図の値は労働者の主観的な評価の平均です。実施マニュアルも、必ずしも実際の職場環境を反映しない場合があると書いています。そこで、部署別の健康リスクの横に、勤怠システムの月平均残業時間とメンタルヘルス不調による休職者数を並べると、読み違いを減らせます。

量-コントロールの健康リスクが高いのに残業時間が少ない部署は、時間ではなく仕事の裁量や質の問題を疑います。職場の支援の値だけが悪い部署で確認するのは、管理職の交代時期と重なっていないかという点です。人事データを組み合わせて分析する考え方はピープルアナリティクスの手法と進め方で解説しています。ただし、集計単位10人のルールは重ねる側のデータにも及ぶと考え、少人数の部署で個人を推測できる組み合わせは表示しません。

5つのステップで進める職場環境改善と尺度の変化で見る翌年度の効果評価

実施マニュアルは、職場環境改善を5つのステップで示しています。

  1. 体制づくり:衛生委員会で目的と進め方を決める
  2. 職場環境等の評価:判定図で部署別のストレス要因を把握する
  3. 改善計画の立案:管理監督者や従業員が計画を作る
  4. 対策の実施:計画を職場で実行する
  5. 効果評価と計画の見直し:一定期間後に効果を確かめて計画を直す

マニュアルは、従業員が話し合って計画を作る参加型の方法が最も効果があるとしています。目的は問題を指摘することではなく解決することだと、最初に明確にします。効果評価で見るのは総合健康リスクの増減だけでなく、計画で狙った尺度が動いたかです。上司の支援を改善目標にした部署なら、翌年の上司支援の平均点を前年と並べます。実施マニュアルの事例では、総合健康リスクが2003年の110から2009年に98まで下がった事業所が紹介されています。

集団分析をシステム化する条件と委託先の報告書で足りる場面の線引き

受託開発の立場から言い切ります。集団分析のために専用の仕組みを作る必要がある企業は多くありません。

部署数20未満で組織改編が少ないなら報告書と表計算で足りる判断

集計単位が20未満で、組織改編が年1回以下なら、システム化は見送ります。委託先の報告書か厚生労働省版ストレスチェック実施プログラムの出力を、部署コードと判定図の版を列に持つ表計算のシートに年1回転記すれば、5年分の比較は十分に回ります。年1回・20行程度の転記に開発費をかける理由はありません。

この規模で先にやるべきは、実施規程に合算のルールと共有範囲を書くことです。規程が無いまま画面だけ作ると、誰に何を見せるかの判断が担当者ごとにぶれます。

複数事業場と頻繁な組織改編を抱える企業で人事データと結合する条件

仕組みを作る価値が出るのは、次の3つが揃ったときです。事業場が複数あり集計単位が50を超える。組織改編が年に複数回あり、部署の対応表を毎年手で作っている。集団分析の結果を残業時間や休職データと並べて衛生委員会に出しており、その集計に毎回数日かかっている。

3つのうち1つしか当てはまらないなら、部署コードの履歴表だけを人事システム側に整え、集計は委託先とBIツールに任せる構成で足ります。ストレスチェックの個人データを自社に持つ設計は、閲覧制御と保存の負担が大きいため、集団分析の結果だけを受け取る範囲にとどめるのが原則です。

よくある質問

ストレスチェックの集団分析について、よく聞かれる質問をまとめました。

ストレスチェックの集団分析は義務ですか?

努力義務です。労働安全衛生規則第52条の14は、検査を行った医師等に結果を集団ごとに集計・分析させるよう事業者に求めていますが、実施しなくても罰則はありません。2027年4月1日施行の省令改正で「特定の個人を識別することができない方法で」行うことが条文に明記されますが、努力義務である点は変わりません。個人が特定できる方法で集計しても、努力義務を果たしたことにはならないと通達は述べています。

集団分析は何人から実施できますか?

原則として受検者10人以上の単位で行います。数えるのは在籍者数ではなく実際の受検者数です。所属が10人以上でも受検者が10人を下回れば、対象者全員の同意がない限り結果を事業者に提供できません。例外として、57項目の合計点の平均値だけを出す方法や仕事のストレス判定図を使う方法なら10人未満でも提供できますが、極端に少人数の集団は対象にしません。

集団分析の結果は管理職に見せてもよいですか?

見せることはできますが、範囲を決めずに共有するのは不適当とされています。部署別の結果は責任者の評価につながり得るため、集計の方法と結果の共有範囲を衛生委員会で審議し、社内規程として定めてから共有します。管理職には自部署と全社平均だけを見せ、全部署の結果は衛生委員会と産業保健スタッフに限る、といった線引きが一般的な形です。

集団分析の結果は何年保存しますか?

実施マニュアルは、事業者が5年間保存することが望ましいとしています。理由は経年変化を見て職場のストレス状況を把握するためです。保存するときは、集計単位の部署コードと、どの版の判定図で計算したかも一緒に残します。組織改編や判定図の版の違いで前年と比べられなくなるのを防ぐためです。個人の結果の保存とは扱いが別で、集団分析の結果は事業者側で保管します。

総合健康リスクはどう計算しますか?

仕事のストレス判定図の2つの値を掛けて100で割ります。量-コントロール判定図から読み取った健康リスクをA、職場の支援判定図の健康リスクをBとすると、総合健康リスクはA×B÷100です。Aが108、Bが112なら121で、全国平均より健康問題のリスクが約21%高いと読みます。実施マニュアルは、健康リスクが120を超える職場では何らかの問題が生じていることが多いとしています。

関連記事

お気に入りに入れた記事の一覧

この記事は以下の記事からリンクされています

資料請求

今日のトレンド記事 直近 24 時間で、いつもより多く読まれている記事

  1. 2026.10.15 テックブログ リゾートトラスト不正アクセス:会員2.6万件・カハラ横浜3.6万件の対象確認と窓口
  2. 2025.09.03 コラム ストループ効果とは?原典1935年の実測値と年齢別の平均・テストのやり方
  3. 2026.01.20 テックブログ PineDramaとは?TikTokのショートドラマアプリの日本配信・料金・安全性を解説
  4. 2026.10.16 テックブログ バーガーキング不正アクセスで約1,118万件の情報漏洩|対象確認・案内メールの真偽と運営側のログ点検
  5. 2025.09.03 コラム Google AIモードの履歴の消し方と残る理由|いつまで残るか・使い方・オフにする方法【2026年10月】

RELATED POSTS 関連記事

目次