キャッシュレス決済の障害は、決済端末・店舗の回線・通信キャリア・決済センター・決済事業者のどこで起きたかによって、止まる手段も店舗が打てる手も変わります。2023年11月にはカード決済の中継センターの障害で約80万件の取引がエラーになり、コンビニや駅の券売機でカードが使えない状態が数時間続きました。この記事では、障害の起きる場所と止まり方の違い、売上や会計に残る影響、障害の種類ごとの代替決済と現場の手順、オフライン決済の期限と加盟店の責任を整理します。そのうえで、決済の仕組みを自社で組む場合の二重決済の防ぎ方と障害の検知、備えにどこまで費用をかけるかの判断基準まで、店舗と事業者の側から解説します。
まとめ:キャッシュレス決済の障害で売上を止めないための店舗側の結論
決済障害への備えは、障害がどこで起きるかを分けて考えると、やるべきことが絞れます。店舗の回線や端末の故障なら予備回線と2台目の端末で切り抜けられますが、決済センターや決済事業者側の障害は店舗の設備をいくら増やしても直りません。後者に効くのは、別の事業者・別の系統につながる決済手段を1つ残しておくことと、現金で受けられる状態を保つことです。
オフライン決済は便利な逃げ道に見えますが、後から承認されなかった売上は加盟店の損失になります。使うなら上限金額を決め、高額商品を扱う店では使いません。決済の仕組みを自社で組む事業者は、タイムアウトした取引を失敗と決めつけて再送しない設計と、復旧後に売上と入金を自動で突き合わせる仕組みを先に作ってください。単店舗で決済代行を2社つなぐ冗長化までは、多くの場合で過剰です。
キャッシュレス決済の障害が起きる5つの場所と店舗から見た止まり方の違い
「カードが使えない」という症状は同じでも、原因の場所によって影響の範囲が大きく違います。店舗で最初にやるべきなのは、どこで止まっているかの見当をつけることです。
端末・店舗回線・通信キャリア・決済センター・決済事業者で分かれる影響範囲
キャッシュレス決済の取引は、店舗の端末から回線を通り、決済センターを経由して決済事業者やカード会社へ届きます。どこか1か所が止まると、その先にある手段がすべて使えなくなります。
| 障害の場所 | 店舗で見える症状 | 止まる範囲 | 店舗で打てる手 |
|---|---|---|---|
| 決済端末 | 電源・読み取り不良 | その1台のみ | 予備端末へ切替 |
| 店舗の回線 | 全端末が通信エラー | 店舗内の全手段 | モバイル回線へ切替 |
| 通信キャリア | 回線切替後も不通 | 地域・全国規模 | 別キャリア回線・現金 |
| 決済センター | 特定ブランドだけ失敗 | 接続する全加盟店 | 別系統の手段・現金 |
| 決済事業者 | 特定サービスだけ失敗 | そのサービス全体 | 他の手段へ誘導 |
見分け方の目安は、全手段が止まっているか、一部の手段だけかです。全手段なら店舗側の端末か回線を疑い、クレジットカードは通らないのにQRコード決済は通るといった偏りがあれば、店舗の外で起きている障害と判断できます。端末の種類やPOSとの接続方式による違いは決済端末とは?種類・読み取り方式とPOS連携で整理しています。
2023年11月のCARDNET障害と2022年7月のKDDI通信障害が示した規模
決済センターの障害で記憶に新しいのが、2023年11月11日のCARDNETセンターの障害です。日本カードネットワークの発表として報じられた内容によると、13時23分から20時52分までの間に取引エラーは約80万件にのぼり、原因はシステム更改の準備作業として行ったデータ同期処理でした。この件数には、1回目のエラーのあとに繰り返し試した取引も含まれています。
通信キャリアの障害では、2022年7月2日に発生したKDDIの事故が最大規模です。総務省の報道資料では影響は音声で約2,316万人、データ通信で775万人以上とされ、同省は大臣名で指導を行いました。決済端末がこのキャリアのモバイル回線だけでつながっていた店舗では、店内の設備に問題がなくても決済ができなくなります。どちらの事例も、店舗に原因がない障害は店舗の努力では直せないことを示しています。
決済障害が店舗の売上・会計・顧客対応に及ぼす影響と復旧後の後始末
障害の影響は、決済が止まっている数時間だけでは終わりません。復旧したあとにも、会計と顧客対応の作業が残ります。障害を含めたキャッシュレス決済の店舗側の負担全体は、キャッシュレス決済のデメリットとメリット|店舗の手数料・入金・障害と導入判断で重さの順に整理しています。
キャッシュレス比率58.0%の店舗では決済停止がそのまま売上停止になる
経済産業省の集計では、2025年の国内のキャッシュレス決済比率は58.0%で、金額の8割超をクレジットカードが占めます。現金を持ち歩かない客が増えるほど、決済が止まった時間は客が買えない時間になります。飲食店のように食べたあとで支払う業態では、払えない客への対応がそのまま未収金のリスクになるため、影響は物販より重くなりがちです。
損失は、その時間帯の売上だけで見積もると小さく見えます。レジ前の行列で離れた客、後日の再来店を避ける客まで含めると実際の損失は膨らむため、ピーク時間の1時間あたり売上を基準に考えるのが現実的です。比率の内訳と手段ごとの契約先の違いはキャッシュレス決済とは?仕組みと決済フローで詳しく扱っています。
二重決済・売上未確定・返金漏れなど障害後に残る会計処理の3つの確認
障害の最中は、端末の画面ではエラーでも、決済事業者の側では取引が成立している場合があります。客が「通らなかった」と思って別のカードで払い直すと、同じ買い物に2回分の請求が立つことになるのです。逆に、承認は取れたのに売上確定の前で処理が止まり、入金されないまま終わる取引も出ます。
復旧後に店舗が確認すべきなのは、障害時間帯の取引について、POSの売上記録・決済事業者の管理画面・後日の入金明細の3つが一致しているかです。ずれた取引は返金か再請求で処理しますが、客の連絡先が分からない対面取引では返金の連絡がつかないこともあります。障害時間帯の取引をレシート番号ごとに控えておくだけでも、照合の手間は大きく減ります。
障害の種類別に店舗が用意する代替決済とスタッフの現場対応手順
代替手段は、障害の場所ごとに効くものが違います。全部をそろえる必要はなく、自店で起きやすい障害から順に手を打てば足ります。
通信障害には別キャリアの予備回線、端末故障には別系統の2台目を用意
店舗の固定回線が止まる障害には、モバイル回線への切り替えが効きます。ただし、予備のモバイル回線が主回線と同じキャリアだと、2022年のような大規模障害では両方が同時に止まります。予備回線を持つなら、主回線とは別のキャリアを選ぶのが原則です。
端末の故障に備えて2台目を置く場合も、考え方は同じです。同じ決済事業者の同じ機種を2台並べると、端末の故障には効いても、その事業者の障害では2台とも止まります。予備機を別の事業者のものにしておくと、端末故障と事業者障害の両方に効く備えになります。
決済センター障害に備えて別ブランド・別事業者の手段を残す系統分散
決済センターや決済事業者の障害は、店舗の設備では回避できません。打てる手は、障害の起きた系統とは別の経路でお金が動く手段を残しておくことです。クレジットカードがセンター障害で止まっても、コード決済や交通系電子マネーは別の事業者の仕組みで動いているため、使える場合があります。種類ごとの処理経路の違いはキャッシュレス決済の種類一覧|5種類の違いと店舗が用意する端末・契約・システム要件で確認できます。
実務ではまず、現金を受けられる状態を保つことを最優先にしてください。そのうえで、主に使う決済代行とは別の事業者が提供するコード決済を1つ契約しておけば、ほとんどの事業者障害で何らかの手段が残ります。手段を増やしすぎると契約と入金の管理が煩雑になるので、別系統は1つで十分です。
障害発生時に店舗スタッフが判断に迷わないための5ステップの現場手順
障害時に現場が混乱する原因は、判断を誰がするか決まっていないことです。次の順番を紙に書いてレジ横に置いておくと、新人スタッフでも同じ対応ができます。
- 同じ手段で2回失敗したら、それ以上は試さない(二重決済を防ぐため)。
- 他の手段(別のカードブランドやコード決済)で1回だけ試し、全手段が止まっているかを確かめる。
- 全手段が止まっていれば回線と端末を再起動し、予備回線へ切り替える。
- 店頭とレジに「現在◯◯決済がご利用いただけません」の案内を掲示し、現金や使える手段を伝える。
- 障害の開始時刻と、その時間帯の取引のレシート番号を記録し、責任者へ報告する。
手順1の「2回で止める」は、障害時に最も守られにくい項目です。客の前で何度も試したくなりますが、繰り返すほど二重決済と照合の手間が増えます。CARDNET障害のエラー件数に再試行分が含まれていたことも、繰り返しが起きやすいことを裏付けています。
オフライン決済の仕組みと加盟店が負う未承認リスクの金額上限による管理
回線が切れても決済を受け付けるオフライン決済は、通信障害への備えとして有力です。ただし、承認が後回しになる仕組みのため、リスクを誰が負うかを理解してから使う必要があります。
Squareのオフライン決済に見る72時間の期限と加盟店責任の範囲
オフライン決済は、端末が通信できない間の取引を端末内に保存し、回線が戻ってから決済事業者へ送る仕組みです。Squareのオフライン決済のヘルプでは、24時間以内、遅くとも72時間以内に端末をインターネットへ再接続すれば自動でオンライン決済され、期限を過ぎた取引は回収も再手続きもできないと案内しています。
見落とせないのは責任の所在です。同じヘルプは、期限切れ・未承認・チャージバックのいずれの場合も加盟店が責任を負うとしています。オフラインで受け付けた時点ではカードの残高も有効性も確認できていないため、限度額を超えたカードや停止中のカードでも商品を渡してしまう仕組みなのです。Squareの手数料や入金の仕組み全体はSquare決済とは?手数料・入金サイクルとPOS・EC連携の判断軸で解説しています。
オフライン決済の1回あたり上限金額と、使うべきでない業態の条件
Squareを含め、オフライン決済には取引1回あたりの上限金額を設定できるのが一般的です。上限の決め方は、1件が未承認になったときに店が吸収できる損失額から逆算します。客単価が1,000円前後のカフェなら上限を数千円に置けば損失は限定的ですが、客単価が数万円の業態では1件の未承認がその日の利益を消します。
結論として、家電・ブランド品・貴金属など高額な商品を扱う店や、転売目的の不正利用が多い商材を扱う店では、オフライン決済を有効にしないでください。この条件の店では、承認の取れない取引を受けるより、現金か別系統の手段へ誘導するほうが損失は小さく収まります。
決済システムを自社で組む場合の可用性設計と成功率監視による障害検知
ECサイトや予約システム、自社アプリに決済を組み込んでいる事業者は、障害時の挙動を自分たちで設計する立場にあります。店舗の備えとは別に、システム側で決めておく項目があります。
決済代行のタイムアウトを失敗と決めつけず状態照会してから再送する設計
決済代行へ送った要求が時間切れになったとき、最も危ないのは「失敗した」とみなしてすぐに同じ要求を送り直す実装です。時間切れは「結果が分からない」状態であり、決済代行の側では処理が完了していることがあります。その状態で再送すると、店舗の端末で起きる二重決済と同じことがシステム上で起きます。
対策は2つです。1つは、時間切れになったら再送の前に取引の状態を照会し、成立していれば再送しないこと。もう1つは、決済代行の多くが用意している冪等キー(同じ要求を何度送っても1回分しか処理しないための識別子)を注文ごとに付けて送ることです。接続方式ごとに使える機能は違うため、親記事の決済システムとは?仕組み・種類と決済代行との接続方式で方式を確認してから設計してください。
決済代行の障害を利用者より先に知るための監視と照合バッチの作り方
障害に気づくのが利用者からの問い合わせ経由だと、対応はいつも後手に回ります。決済の成功率を5分単位などで集計し、平常時より大きく下がったら担当者へ通知する監視を置くと、決済代行の障害告知より早く異常をつかめることがあります。決済代行が公開している障害情報のページも、切り分けを速めるために監視対象に加えておきたい情報です。
復旧後の差異は、自社の注文データと決済代行の取引データ、入金明細を突き合わせる照合バッチで洗い出します。障害時間帯だけでなく毎日回しておくのは、障害のときだけ手作業になる事態を避けるためです。サーバーやシステムが止まったときの損害を事業の観点から見積もる方法は、サーバー停止が事業に与える損害とBCP対策で防げるリスクが参考になります。
カード情報の非保持化を守ったまま決済代行を2社構成にする判断
決済代行を2社つなぎ、片方が止まったらもう片方へ切り替える構成は、可用性の面では強力です。ただし、カード情報を自社で持たずに2社を切り替えるには、それぞれの決済代行が提供する入力画面やトークン化の仕組みを両方組み込む必要があり、開発と保守の費用は単純に倍近くになります。
ここで守るべき前提が、カード情報の非保持化です。日本クレジット協会の加盟店向け案内のとおり、改正割賦販売法は加盟店にカード番号等の適切な管理を求めており、自社でカード情報を保持するならPCI DSSへの準拠が必要になります。切り替えを簡単にするために自社でカード番号を預かる設計は、冗長化の利点を準拠の負担が上回るため採りません。
決済障害への備えにどこまで投資するかの判断基準と過剰投資の境界
備えは多いほど安心ですが、費用は毎月かかります。ここでは、どこまでやれば十分かを条件付きで言い切ります。
ピーク1時間の売上が予備回線と予備端末の年額を超えるかで決める
予備回線と別系統の予備端末にかかる費用は、月額の回線料と端末代を合わせても、多くの店舗で年に数万円の規模です。判断の物差しは、ピーク時間帯の1時間あたりのキャッシュレス売上が、この年額を上回るかどうかです。上回るなら、年に1回の障害を1時間しのげるだけで元が取れるため、迷わず用意してください。
反対に、客数が少なく現金比率も高い店舗なら、予備端末までは要りません。現金を受け付ける運用と、障害時の案内文を用意しておくだけで十分です。予備回線は端末よりも安く済むことが多いため、どちらか1つだけ用意するなら回線を先にします。
単店舗で決済代行2社の冗長化まで組むのは過剰投資と判断できる条件
決済代行2社構成の冗長化は、単店舗や数店舗の実店舗には過剰です。対面の店舗には現金と別系統のコード決済という安価な逃げ道があり、数年に1回の事業者障害のために開発費と2社分の固定費を払い続ける理由はありません。
2社構成を検討してよいのは、ECやアプリの売上が大半を占め、決済が止まると現金という逃げ道がない事業者です。とくに、セールや予約開始の時刻に注文が集中する事業では、その時間帯の障害だけで年間の冗長化費用を上回る損失が出ます。どこまでを冗長化し、どこからを照合や運用で吸収するかを、取扱高と障害時の損失から設計したい場合は、決済・サブスクリプションシステム開発で要件整理から実装まで受けています。
よくある質問
キャッシュレス決済の障害について、店舗や事業者から寄せられやすい質問をまとめました。
キャッシュレス決済が障害で使えないとき、店舗はまず何をすべきですか?
同じ手段で2回失敗したら試すのをやめ、別の手段で1回だけ試して、全部止まっているのか一部だけなのかを確かめます。全部止まっていれば店舗の回線や端末を疑い、再起動や予備回線への切り替えを行ってください。一部だけなら店舗の外の障害なので、現金や使える手段を案内し、障害の開始時刻とその時間帯の取引を記録しておきます。
決済障害の最中に払い直した客に二重請求が起きたらどうなりますか?
端末ではエラーと表示されていても、決済事業者の側で取引が成立している場合があり、払い直すと同じ買い物に2回分の請求が立ちます。復旧後にPOSの売上記録と決済事業者の管理画面を照合し、重複している取引は店舗側で取消や返金の処理を行います。客から問い合わせが来る前に照合を済ませておくと、対応がスムーズです。
オフライン決済で受けた売上が承認されなかった場合は誰の負担ですか?
多くの場合、加盟店の負担です。Squareのヘルプでは、オフライン決済で受け付けた支払いの期限切れ・未承認・チャージバックはいずれも加盟店が責任を負うと案内しています。オフラインの時点ではカードの残高や有効性を確認できないため、取引1回あたりの上限金額を設定し、高額商品を扱う店では有効にしないのが安全です。
決済障害で売上が減った分は決済事業者に補償してもらえますか?
補償の有無と範囲は、契約先ごとの加盟店規約で決まります。障害で売れなかった分の逸失利益まで補償される前提で考えるのは危険なので、契約時に障害時の責任と免責の条項を読んでおいてください。補償を当てにするより、現金や別系統の決済手段といった店舗側の備えで損失を抑えるほうが確実です。
決済障害の情報はどこで確認できますか?
契約している決済代行や決済事業者の障害情報ページ、加盟店向け管理画面のお知らせ欄が一次的な確認先です。通信キャリアの障害は各キャリアの障害情報ページで公表されます。店舗の端末だけでは原因の場所が分からないため、契約先の障害情報ページのURLを、障害時の手順書と一緒にレジ横へ控えておくと切り分けが速くなります。
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