ダンサーの収入は、同じ「踊りの仕事」でも受け取り方で税務上の扱いが変わります。スタジオに雇われて受けるレッスン給、業務委託のインストラクター報酬、舞台やミュージックビデオの出演料、振付料、個人の生徒から受け取る月謝。所得の区分、源泉徴収の有無、請求書の書き方がそれぞれ違います。この記事では令和8年分(2027年2月16日から3月15日に申告)の数値と現行の法令をもとに、フリーランスと副業のダンサーが申告前に押さえる論点を整理します。
まとめ:ダンサーの確定申告で押さえる要点
- 専業ダンサーは、経費と青色申告特別控除を引いた所得が所得控除の合計を超えたら申告が必要です。基礎控除だけの単身者なら目安は所得104万円です。
- 会社員ダンサーは、給与収入が2,000万円以下で1か所から給与を受けて年末調整を済ませ、給与・退職所得以外の所得の合計が20万円以下なら、原則として所得税の申告は不要です。住民税の申告は別に必要です。
- 法人などから受ける出演料・振付料・レッスン指導料は10.21%が源泉徴収されます。1回の支払が100万円を超える部分は20.42%です。
- 出演・指導料180万円と月謝60万円、経費70万円で、社会保険料控除30万円を受ける単身者なら、青色申告の65万円控除で所得税はゼロになり、源泉徴収された183,780円が全額還付されます。
- 月謝やイベント出演料は、支払者が給与を払っていない個人であれば源泉徴収されません(常時2人以下の家事使用人だけに給与を払う個人も同様です)。
- 請求書で報酬額と消費税額を明確に区分すれば、税抜の報酬額だけを源泉徴収の対象にできます。
- 開業届の期限は令和8年1月1日から「その年分の確定申告期限まで」に変わりました。青色申告の承認申請は原則3月15日までで変わっていません。
- レッスン中心のダンサーは、個人事業税の「諸芸師匠業」に当たる場合があります。ケガに備える労災保険には、令和3年4月から特別加入できます。
ダンサーに確定申告が必要になる所得ライン(令和8年分)
専業ダンサーは所得104万円、会社員ダンサーは20万円が目安
所得税がかかるかどうかは、収入ではなく所得で決まります。出演料やレッスン料の合計からスタジオ代・衣装代などの経費を引き、青色申告なら特別控除も引いた金額が所得です。国税庁のタックスアンサーNo.1199 基礎控除のとおり、令和8・9年分の基礎控除は、合計所得金額489万円以下で104万円です。ほかに所得控除のない単身のダンサーなら、所得が104万円を超えたところで所得税が生じ、申告が必要になります。
所得が104万円以下でも、源泉徴収された税金がある人は申告すると還付されます。出演料や指導料から10.21%を引かれている場合、経費や所得控除を反映して計算した所得税額より源泉徴収税額が多ければ、申告により差額の還付を受けられます。国民健康保険料の軽減判定にも申告した所得が使われます。
会社員として給与を受けながら週末にレッスンや出演をしている人は、所得税法121条1項1号により、給与収入が2,000万円以下で1か所から給与を受けて年末調整を済ませていれば、給与以外の所得の合計が20万円以下のとき所得税の申告が不要です。判定するのは収入ではなく、経費を引いた所得です。この免除は所得税だけで、住民税には同じ免除がありません。また、医療費控除や源泉徴収税額の還付などのために所得税の確定申告をする場合は、20万円以下の副業所得も含めて申告します。副業収入の区分と20万円ルールの細部は副業の雑所得はいくらから確定申告?20万円ルールと控除・事業所得の区分【令和8年分】で扱っています。
出演・指導料180万円と月謝60万円の年の計算例
単身の専業ダンサーが令和8年に、プロダクションやスタジオから出演料・振付料・業務委託の指導料を合計180万円、個人の生徒から月謝を合計60万円受け取った場合で計算します。免税事業者で消費税は請求せず、経費は70万円、国民年金と国民健康保険の保険料は合わせて30万円と仮定します。180万円には10.21%の源泉徴収がかかり、1回の支払はどれも100万円以下とします。
| 項目 | 青色申告(65万円控除) | 白色申告 |
|---|---|---|
| 売上(出演・指導+月謝) | 2,400,000円 | 2,400,000円 |
| 経費 | 700,000円 | 700,000円 |
| 青色申告特別控除 | 650,000円 | なし |
| 事業所得 | 1,050,000円 | 1,700,000円 |
| 所得控除(基礎+社会保険料) | 1,340,000円 | 1,340,000円 |
| 課税される所得金額 | 0円 | 360,000円 |
| 所得税+復興特別所得税 | 0円 | 18,378円 |
| 源泉徴収税額 | 183,780円 | 183,780円 |
| 還付される額 | 183,780円 | 165,402円 |
青色申告なら所得税はかからず、源泉徴収された183,780円が全額戻ります。白色申告では課税される所得金額36万円に税率5%と復興特別所得税2.1%がかかって18,378円になり、還付は165,402円です。この差が65万円控除の効果です。65万円控除は、還付を受けるだけの申告でも3月15日の期限内に出すことが条件で、期限後に出すと10万円控除になります。どちらの場合も申告しなければ還付は受けられません。令和9年分以後は防衛特別所得税が創設されて復興特別所得税の税率が下がりますが、No.2260 所得税の税率は合計の税率に変更はないとしています。
住民税は所得税と基礎控除の額が違い、43万円のまま据え置かれています。上の青色申告の例でも、住民税では所得105万円から基礎控除43万円と社会保険料30万円を引いた32万円に所得割がかかります。所得税がゼロでも住民税と国民健康保険料の通知は届くので、その分の資金は残しておきます。
家族の扶養に入っている学生・主婦ダンサーの所得62万円
親や配偶者の扶養に入ったまま活動している場合、扶養控除・配偶者控除の対象になるのは合計所得金額62万円以下です(令和8年分)。給与だけなら収入136万円に当たりますが、出演料などの報酬は給与所得控除が使えないので、報酬から経費を引いた所得で62万円を判定します。62万円を超えても、配偶者は合計所得133万円以下なら配偶者特別控除、19歳以上23歳未満の配偶者以外の親族は123万円以下なら特定親族特別控除の対象になり得ます。いずれも生計関係など別の要件があります。健康保険の被扶養者の年間収入要件は原則130万円未満です。認定日が属する年の12月31日時点で19歳以上23歳未満の人は150万円未満ですが、被保険者の配偶者はこの引上げの対象外です。報酬の「収入」に経費をどこまで含めるかは健康保険の保険者ごとに扱いが違うので、扶養している家族の勤務先を通じて確認してください。各ラインの一覧は年収の壁2026早見表|178万円・136万円・130万円の一覧と手取りの分岐点にまとめています。
レッスン料・出演料・振付料の所得区分と源泉徴収
ダンサーの収入は、雇用か業務委託かで所得区分が分かれ、報酬の種類と支払者で源泉徴収の有無が決まります。主な収入を表にまとめます。
| 収入の種類 | 所得区分 | 源泉徴収 |
|---|---|---|
| スタジオに雇用されて受けるレッスン給 | 給与所得 | 給与として源泉徴収 |
| スタジオ・カルチャー教室からの業務委託の指導料 | 事業所得または雑所得 | 10.21% |
| 舞台・ライブ・MV・CMの出演料 | 事業所得または雑所得 | 10.21% |
| 振付料 | 事業所得または雑所得 | 10.21% |
| 給与を払っていない個人の生徒から受ける月謝 | 事業所得または雑所得 | なし |
| 給与を払っていない個人主催のイベント出演料 | 事業所得または雑所得 | なし |
| 視聴者から直接受け取る投げ銭 | 事業所得または雑所得 | なし |
| 配信サービスからの換金・報酬 | 事業所得または雑所得 | サービスによる |
出演料と振付料は所得税法204条1項5号の「芸能」の報酬
所得税法204条1項5号は、映画・演劇その他政令で定める芸能の出演・演出の報酬を源泉徴収の対象にしています。所得税法施行令320条4項は、政令で定める芸能に「舞踊」を挙げ、演出に含まれるものとして「振付け」を明記しています。同条5項の芸能人には「舞踊家」が入っています。舞台の出演料も振付料も、法人やプロダクションから受け取れば源泉徴収の対象です。
税率は所得税法205条1号により10%で、復興特別所得税を加えて10.21%です。同一人に1回に支払う金額が100万円を超える部分は20.42%になります。判定は年間合計ではなく1回の支払ごとです。ツアー1本の振付料150万円を一括で受け取る場合、源泉徴収税額は(150万円-100万円)×20.42%+102,100円=204,200円です。
レッスン指導料は1号の「技芸の教授」、個人の生徒の月謝は対象外
スタジオやカルチャーセンター、企業から業務委託で受け取るレッスンの指導料は、所得税法204条1項1号と施行令320条1項の「技芸、スポーツその他これらに類するものの教授若しくは指導」の報酬に当たります。国税庁の「源泉徴収のあらまし」令和8年版の報酬・料金等の章は、この報酬の例に「ダンス」の教授・指導料を挙げています。
一方、所得税法204条2項2号により(No.2793 報酬・料金等の源泉徴収義務者)、給与を支払っていない個人(常時2人以下の家事使用人だけに給与を払う人を含む)からの報酬は源泉徴収されません。個人の生徒から受け取る月謝やプライベートレッスン料、個人の発表会の出演料は満額入金されます。5号の括弧書きは「不特定多数の者から受けるもの」を除いているので、視聴者から直接受け取る投げ銭は対象外です。ただし、配信事業者や所属事務所から報酬として受け取る分は別で、配信サービスによってはポイントの換金時に10.21%を源泉徴収します。投げ銭という名称だけで判断せず、支払明細で支払者と源泉徴収額を確認してください。源泉徴収のない収入が多い年は、申告時の納税額が大きくなります。入金額をそのまま使い切らず、所得税と住民税の分を残しておきます。
給与か業務委託か、事業所得か雑所得かの見分け方
スタジオのレッスンが給与か業務委託の報酬かは、契約書の名目だけでは決まりません。レッスンの時間・場所・内容をスタジオが指示し、代わりの講師を自分で手配できず、時間単位で報酬が決まるなら給与に近い働き方です。年明けに「給与所得の源泉徴収票」が届けば給与として処理されています。給与なら給与所得控除(令和8年分は最低74万円)が使え、衣装やレッスン受講料を事業所得のように必要経費として差し引くことは原則できません。ただし、勤務に必要な衣服費や研修費は、給与支払者の証明や金額基準などを満たせば、特定支出控除の対象になり得ます。芸能分野の労働者性の判断基準は芸能人はなぜ個人事業主なのか|事務所との契約形態と労働者になる条件、税金・国保・年金で詳しく扱っています。
業務委託の報酬が事業所得か雑所得かは、所得税基本通達35-2で判断します。事業所得に当たるかは、その活動が社会通念上の事業といえる程度に行われているかで判断され、帳簿書類を保存しているだけで決まるものではありません。継続して出演・指導を受け、帳簿書類を保存している実態があれば事業所得になり得ます。帳簿書類を保存していなければ、原則として業務に係る雑所得です。事業所得なら青色申告特別控除を使え、赤字を給与所得と損益通算できます。雑所得の赤字は他の所得と通算できません。
ダンサーの会計:経費の勘定科目と源泉徴収の仕訳
スタジオ代・衣装・レッスン受講料の勘定科目
勘定科目の名前に法令上の決まりはありません。大事なのは、同じ支出を毎年同じ科目で記帳することです。ダンサーに多い支出は次のように分けると整理しやすくなります。
| 支出 | 勘定科目の例 | 記録しておくこと |
|---|---|---|
| レンタルスタジオ代(練習・撮影・振付作り) | 地代家賃または賃借料 | 利用日と目的(案件名) |
| 衣装・シューズ・本番用ウィッグ | 消耗品費 | 使った公演・撮影 |
| 他の講師のレッスン・ワークショップ受講料 | 研修費 | 指導や出演との関係 |
| 音源の購入・編集ソフト | 新聞図書費・消耗品費 | 使った振付・レッスン |
| MV撮影・動画編集の外注 | 外注費 | 請求書と納品物 |
| 出演・指導の交通費、遠征の宿泊費 | 旅費交通費 | 日付と行き先 |
| 出演料の振込手数料 | 支払手数料 | 振込明細 |
スピーカーやカメラ、照明などの機材は金額で扱いが変わります。1点10万円未満なら消耗品費として使い始めた年に全額経費にでき、10万円以上20万円未満なら3年で均等に経費化する一括償却資産を選べます。青色申告の個人事業主は、少額減価償却資産の特例(租税特別措置法28条の2)で、一定の要件を満たす場合、令和8年4月1日から令和11年3月31日までに取得した40万円未満の資産を、年間合計300万円まで、業務に使い始めた年の経費にできます。3月31日以前の取得分は30万円未満が上限です。
衣装・ボディケア・自宅練習スペースの線引き
経費で否認されやすいのは、私生活と区別しにくい支出です。所得税法施行令96条は、家事と業務の両方に使う支出(家事関連費)のうち、業務に必要な部分を明らかに区分できる場合に限って経費にできるとしています。舞台衣装やトウシューズのように普段使いできない物は経費にできますが、練習着として買ったスニーカーやジャージを普段も着ているなら、業務部分を区分できず経費にしにくくなります。
整体・マッサージ・ジムの会費は、疲労回復や体調維持のための支出として家事費と見られやすく、経費にするには業務との直接の関係を説明できる記録が要ります。施術日と前後の公演・リハーサルの日程を対応させ、領収書にどの仕事のためのケアかを書き添えておくのが最低限の備えです。ケガの治療は別の扱いで、国税庁のタックスアンサーNo.1122 医療費控除の対象となる医療費は、柔道整復師やはり師などによる施術の対価を医療費控除の対象に挙げています。ただし「疲れを癒す、体調を整えるといった治療に直接関係のないもの」は含まれません。捻挫や肉離れの治療で整骨院に通った費用は、経費ではなく医療費控除で扱います。
自宅の一室を練習や動画撮影に使っている場合、家賃は使用面積や使用時間、電気代は機器の消費電力や使用時間など、実際の業務利用を説明できる基準で按分します。家族と共用のリビングで練習するなら、練習時間の記録が按分の根拠になります。
源泉徴収された出演料の仕訳例
源泉徴収された報酬は、入金額ではなく源泉徴収前の金額を売上に計上します。免税事業者のダンサーが出演料50,000円を請求し、源泉徴収5,105円を引かれて44,895円が振り込まれた場合の仕訳は次のとおりです。
| 時点 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 出演・請求したとき | 売掛金 50,000円 | 売上高 50,000円 |
| 入金されたとき | 普通預金 44,895円/事業主貸 5,105円 | 売掛金 50,000円 |
源泉徴収された5,105円は所得税の前払いなので、個人事業主は事業主貸で処理します。年間の源泉徴収税額の合計は、確定申告書の「源泉徴収税額」欄に書いて納める税額から差し引きます。支払者から支払調書や支払明細が届かない取引もあるので、入金のたびに源泉徴収額を記録しておきます。
ダンサーの請求書の書き方:源泉徴収とインボイス
源泉徴収がある報酬の請求書の記載例
源泉徴収は支払者が行うものですが、請求書に源泉徴収税額と差引請求額まで書いておくと、入金額の確認と記帳が楽になります。国税庁のタックスアンサーNo.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とはは、報酬に消費税が含まれている場合は原則として消費税込みの金額に源泉徴収するとしつつ、請求書等で報酬額と消費税額が明確に区分されていれば、報酬額だけを対象にしてよいとしています。この取扱いはインボイス制度の開始後も変わっていません。
| 項目 | 金額 | 計算 |
|---|---|---|
| 出演料(税抜) | 50,000円 | - |
| 消費税(10%) | 5,000円 | 50,000円×10% |
| 源泉所得税 | -5,105円 | 50,000円×10.21% |
| 差引請求額 | 49,895円 | 50,000+5,000-5,105 |
交通費を請求書に上乗せすると、No.2792により交通費も原則として源泉徴収の対象になります。支払者が交通機関やホテルへ直接支払う場合は報酬に含めなくてよいとされているので、遠征の多い案件は手配の方法を事前に決めておきます。上の計算は、インボイス登録の有無にかかわらず、報酬額と消費税額が明確に区分された請求書でも使えます。免税事業者が発行する請求書でも、明確に区分されていれば報酬額だけを源泉徴収の対象として差し支えありません。
インボイス登録をしているなら、請求書を適格請求書の形式にします。消費税法57条の4第1項が求める記載事項は、登録番号を含む発行者の氏名または名称、取引年月日、取引内容、税率ごとに区分した対価の額と適用税率、税率ごとの消費税額等、交付を受ける者の氏名または名称の6つです。
インボイス登録の判断と令和8年度改正の3割特例
登録するかどうかは、取引先の構成で決まります。個人の生徒からの月謝が中心なら、生徒は仕入税額控除をしないので登録の必要は薄くなります。プロダクションやイベント会社が一般課税で仕入税額控除を計算する場合、免税事業者への支払は原則として消費税相当額の一部を控除できません。取引先が簡易課税などを適用している場合は、インボイスの有無によるこの差額は生じません。以下は一般課税で経過措置を適用する場合の説明です。国税庁の令和8年度税制改正特集のとおり、免税事業者からの仕入れに認められる控除割合は令和8年10月から2年間70%、令和10年10月から2年間50%、令和12年10月から1年間30%と段階的に下がります。税込55,000円の出演料なら、取引先が控除できない額は55,000円×10/110×30%=1,500円です。値下げの交渉材料にされるのはこの差額です。
インボイス登録を機に免税事業者から課税事業者になり、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であるなどの適用要件を満たす場合は、令和8年分まで2割特例(売上税額の2割)を選べます。令和9年分と令和10年分は、インボイス登録を機に課税事業者になった個人事業者が、基準期間の課税売上高1,000万円以下などの要件を満たす場合に、3割特例(売上税額の3割)を選べます。税抜売上400万円なら、令和8年分の納税額は8万円、令和9年分は12万円です。簡易課税を選ぶと出演・指導は第5種事業(みなし仕入率50%)で20万円になるため、3割特例のほうが有利です。売上1,000万円を超えた場合の扱いは個人事業主が売上1000万円を超えたら消費税はいくら?納税開始は2年後・2割特例は令和8年分までで解説しています。
フリーランス法で発注者に求められる条件明示と60日の支払期日
従業員を使わずに活動するダンサーは、フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律、令和6年11月1日施行)の特定受託事業者に当たります。発注者は業務委託の時点で、報酬額・支払期日・業務内容などを書面またはメール等で明示しなければなりません(3条)。従業員を使用する個人、または役員が2人以上いるか従業員を使用する法人が発注する場合は、原則として出演や納品を受けた日から60日以内のできるだけ短い期間内に支払期日を定め、その期日までに支払う義務があります(4条)。ただし、再委託である旨・元委託者の名称・元委託業務の支払期日を明示するなどの条件を満たす再委託では、元委託支払期日から30日以内とする例外があります。口約束で出演料が決まり、公演の3か月後にようやく振り込まれるといった取引は、この法律で是正を求められます。請求書の発行日と出演日を記録しておくと、支払遅延を指摘するときの根拠になります。
開業届と青色申告:令和8年からの期限と令和9年分の控除改正
開業届と青色申告承認申請の提出期限の違い
所得税法229条の改正により、令和8年1月1日以後の開業は、開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)をその年分の確定申告期限までに出せばよくなりました。従来の「開業から1か月以内」ではありません。一方、青色申告承認申請書は所得税法144条で、青色申告をしたい年の3月15日まで(1月16日以後に開業した場合は開業日から2か月以内)に出す必要があり、こちらの期限は変わっていません。開業届を後回しにできても、青色申告を使いたい年は承認申請だけ先に出します。手順の全体は個人事業主の確定申告のやり方|令和8年分の期限と基礎控除104万円で扱っています。
青色申告特別控除は令和9年分から65万円にe-Taxが必須
令和8年分の青色申告特別控除は、複式簿記で記帳し期限内に申告すれば55万円、さらにe-Taxで申告するか優良な電子帳簿を備えれば65万円です。簡易な記帳なら10万円です。租税特別措置法25条の2の改正で、令和9年分以後は55万円の区分がなくなり、65万円はe-Taxでの提出が必須要件になります。65万円控除の要件に加え、優良な電子帳簿の保存またはデジタルシームレス保存の要件を満たし、必要な届出を行うと、最高75万円の控除を受けられます。紙で申告している人は、令和9年分から控除額が大きく下がる可能性があります。会計ソフトから申告データを送信できるか、今のうちに確かめておきます。
個人事業税と労災保険の特別加入:レッスン中心かどうかで変わる負担
出演中心は法定業種外、レッスン中心は「諸芸師匠業」で5%
個人事業税は、地方税法72条の2が列挙する70の法定業種に当たる事業にだけかかります。一覧に「舞踊家」や出演業はないため、出演が中心のダンサーは原則として課税されません。ただし、事業の実態から請負業など他の業種に当たるかは都道府県が判断します。
レッスンが中心の場合は事情が変わります。第3種事業の「諸芸師匠業」(同条10項17号)について、総務省の取扱通知は「茶、生花、舞踊、音楽、和洋裁、角力、柔道、語学、囲碁、将棋等を対価を得て教授する事業」と定めています。東京都主税局の個人事業税の案内では、税率は5%で、青色申告特別控除前の所得から事業主控除290万円を引いた額にかかります。年間を通じて事業を営み、ほかに控除がない場合、青色申告特別控除前のレッスンの所得が400万円なら、(400万円-290万円)×5%=55,000円です。年の途中で開廃業した場合、事業主控除290万円は営業月数に応じた月割りになります。同じ通知は「事業所等と認められるものを有しない程度の小規模なもの」は課税しないことが適当としています。自分のスタジオを構えて教室を運営しているか、他のスタジオに出向いて教えるだけかで判断が分かれるので、所轄の都道府県税事務所で確認します。業種の一覧は個人事業税がかからない業種は?法定70業種の一覧と税率3〜5%・290万円控除の計算にまとめています。
ケガに備える労災保険の特別加入(芸能関係作業従事者)
業務委託契約でも、指揮命令など働き方の実態から労働者と認められるダンサーには、通常の労災保険が適用されます。実態として労働者に当たらない場合は、特別加入をしていなければ、リハーサル中の業務上のケガも原則として労災保険の対象になりません。ただし、労働者災害補償保険法施行規則46条の18第6号により、令和3年4月1日から「芸能関係作業従事者」として特別加入できるようになりました。厚生労働省のリーフレットは対象の例に「舞踊家(日本舞踊、ダンサー、バレリーナ等)」を挙げています。加入すると、仕事中や通勤中のケガの治療費、休業中の給付、障害が残った場合の給付が受けられます。
加入は個人で直接申し込むのではなく、芸能関係作業の特別加入団体として承認された団体を通じて、所轄の労働基準監督署経由で都道府県労働局へ申請します。保険料は自分で選ぶ給付基礎日額×365日×保険料率で、芸能関係作業従事者の料率は1,000分の3です(令和6年4月改定の料率表)。給付基礎日額1万円なら年10,950円です。料率は年度で見直されることがあるので、加入時に団体で確認してください。
ダンサーの確定申告の手順と期限
令和8年分の確定申告は、2027年2月16日(火)から3月15日(月)までです。還付を受けるだけの申告は1月から出せます。準備から提出までの流れは次のとおりです。
- 給与の源泉徴収票、出演料・指導料の支払明細や支払調書、入金記録を集め、源泉徴収税額を取引先ごとに合計する
- 帳簿から売上と経費を集計し、青色申告なら青色申告決算書、白色申告なら収支内訳書を作る
- 国税庁の確定申告書等作成コーナーか会計ソフトで申告書を作り、源泉徴収税額を入力する
- マイナンバーカードでe-Tax送信する(青色申告で65万円控除を受けるなら、令和9年分からe-Taxが必須)
- 納税額があれば3月15日までに納付する(振替納税を選ぶと引落しは4月以降になる)
確定申告書の職業欄は「ダンサー」「舞踊家」「ダンス講師」のように、実際の仕事がわかる書き方で構いません。申告後に誤りに気づいた場合、申告期限内なら正しい申告書を期限までに再提出します。期限後は、税額が増えるなら修正申告、税額が減るなら原則として法定申告期限から5年以内に更正の請求をします。申告義務がなく還付を受けるだけの人は、No.2030 還付申告のとおり、翌年1月1日から5年間、還付申告書を出せます。
よくある質問
ダンサーが確定申告をしないとどうなりますか?
申告義務があるのに期限までに申告しない場合、納付税額や納付状況などに応じて、無申告加算税や延滞税がかかることがあります。税務署の調査通知を受ける前に自主的に申告すれば無申告加算税は5%に軽くなるので、気づいた時点で早めに出すのが得策です。所得の証明が取れず、賃貸契約やローンの審査で不利になることもあります。源泉徴収が払いすぎになっている人は、申告しないと還付も受けられません。
ダンサーの年収がいくらから確定申告が必要ですか?
専業なら、出演料などの収入から経費を引き、青色申告特別控除も引いた所得が104万円(基礎控除のみの単身者の場合)を超えると必要です。会社員の副業では、給与収入2,000万円以下・給与1か所・年末調整済みの場合、給与・退職所得以外の所得が20万円を超えると、原則として所得税の確定申告が必要です。ただし、所得控除などにより申告義務が生じない場合もあります。どちらも収入ではなく所得で判定します。
スタジオのレンタル代は何の勘定科目にしますか?
勘定科目は地代家賃または賃借料などで統一します。国税庁のタックスアンサーNo.2210 必要経費の知識が示す必要経費の考え方に沿って、業務用の練習・撮影・振付作りとの関係を説明できるよう、利用日と案件名を記録しておきます。科目名は自由ですが、毎年同じ科目で記帳します。
個人の生徒への請求書にも源泉徴収税額を書くべきですか?
生徒が給与を支払っていない個人なら書きません。そうした個人は源泉徴収義務者ではないので、月謝やプライベートレッスン料は満額を請求します。源泉徴収税額を記載するのは、法人や従業員を雇っている個人事業主へ請求する場合です。
ダンス用の衣装やシューズは全額経費にできますか?
舞台衣装やトウシューズなど業務でしか使えない物は全額経費にできます。普段も着られる服や靴は、業務に使う部分を明らかに区分できる場合だけ、その部分を経費にできます(所得税法施行令96条)。購入時に使う公演や撮影をメモしておくと説明しやすくなります。