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画家・芸術家の確定申告|令和8年分の申告ラインと作品の棚卸し・挿絵の源泉10.21%

画家・芸術家の確定申告|令和8年分の申告ラインと作品の棚卸し・挿絵の源泉10.21%

画家の収入は、受け取り方によって税務上の扱いが変わります。アトリエで直接売る作品、ギャラリーに預けて売れた作品、出版社から受ける挿絵の依頼、絵画教室の月謝、画像の使用料。どれも同じ「絵の収入」に見えますが、収入に入れる日、源泉徴収の有無、所得の区分がそれぞれ違います。この記事では令和8年分(2027年2月〜3月に申告)の数値と現行の法令・通達をもとに、画家と芸術家が申告前に押さえるべき論点を順に整理します。

まとめ:画家の確定申告で押さえる要点

  • 専業の画家は、経費と青色申告特別控除を引いた所得が所得控除の合計を超えたら申告が必要です。基礎控除だけの単身者なら目安は所得104万円です。
  • 1か所から給与を受けて年末調整を済ませた会社員(給与収入2,000万円以下)は、絵の所得を含む給与以外の所得の合計が20万円以下なら所得税の申告は不要です。住民税の申告は別に必要です。
  • ギャラリーの委託販売は、預けた日でも入金日でもなく、ギャラリーが作品を売った日の収入になります。
  • 書籍や雑誌の挿絵料・デザイン料は10.21%が源泉徴収されます。完成した絵画の売買代金は源泉徴収の対象に挙がっていません。
  • 年末に売れ残った作品は棚卸資産です。画材費をその年の経費に全額入れたままにはできません。
  • 令和8年分の申告・納付期間は2027年2月16日から3月15日までです。還付申告は5年間出せますが、青色申告特別控除の65万円は期限内申告が条件です。
  • 開業届の期限は令和8年1月1日から「その年分の確定申告期限まで」に延びました。青色申告の承認申請は原則3月15日までで変わっていません。
  • 令和9年分から、青色申告特別控除の65万円はe-Taxでの提出が必須になり、優良な電子帳簿を備えた人向けに75万円が設けられます。

画家に確定申告が必要になる所得ラインと所得区分

専業画家と副業画家の申告ライン:所得104万円と20万円

所得税がかかるかどうかは、収入ではなく所得で決まります。作品の売上や報酬から画材費・アトリエ代などの経費を引き、青色申告なら特別控除も引いた金額が所得です。令和8・9年分の基礎控除は、合計所得金額489万円以下で104万円です。ほかに所得控除のない単身の画家なら、所得が104万円を超えたところで所得税が生じ、申告が必要になります。

所得が104万円以下でも申告したほうがよい場合があります。挿絵料などから源泉徴収された所得税は、申告しなければ戻ってきません。国民健康保険料の軽減判定や住民税の計算にも所得の申告が使われるので、所得ゼロの年も申告しておくのが無難です。

会社員として給与を受けながら絵を売っている人は、給与収入が2,000万円以下で、1か所から給与を受けて年末調整を済ませていれば、絵の所得を含む給与以外の所得の合計が20万円以下のとき所得税の申告が不要です(所得税法121条)。医療費控除や還付のために確定申告をする場合は、20万円以下の絵の所得も申告に含めます。この20万円の免除は所得税だけのもので、住民税には同じ免除がありません。20万円以下の年も、住民税の申告は市区町村へ出します。副業収入の区分と20万円ルールの細部は副業の雑所得はいくらから確定申告?20万円ルールと控除・事業所得の区分【令和8年分】で扱っています。

事業所得と雑所得の判定基準:活動実態と帳簿書類の保存

画家の所得が事業所得になるか雑所得になるかは、令和4年10月に改正された所得税基本通達35-2で判断します。基準は「社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうか」です。継続して作品を発表・販売しているか、営利目的で活動しているかを実態で見ます。

よく誤解されるのが「売上300万円以下なら雑所得」という読み方です。通達35-2の注は、帳簿書類の保存がない場合は業務に係る雑所得になるとし、その例外として「収入金額が300万円を超え、かつ、事業所得と認められる事実がある場合」を括弧で除いています。300万円は帳簿書類を保存していない人に対する例外条件で、所得区分の上限ではありません。売上が100万円台でも、帳簿書類を保存し、継続して制作・販売している実態があれば事業所得になり得ます。反対に、帳簿があっても、年に数点を趣味の延長で売る程度なら雑所得と判断されることがあります。

事業所得になれば、青色申告特別控除を使え、赤字を給与所得など他の所得と損益通算できます。雑所得の赤字は他の所得と通算できません。個展の準備で画材や会場費がかさみ、売上が立つ前に赤字になりやすい画家にとって、この差は大きいです。

美術教員・絵画講師・会社員の副業画家の所得区分

画業のほかに勤め先がある人は、収入を「雇われて受け取る分」と「自分の作品や教室で稼ぐ分」に分けて考えます。同じ絵の指導でも、雇用契約による給与は給与所得です。自分で開いた教室の月謝は、活動の規模や継続性などから事業所得か雑所得かを判定します。

働き方 所得区分 申告が必要になる目安
専業の画家 事業所得(実態次第で雑所得) 所得が所得控除の合計を超えたとき
自分で絵画教室を開き作品も売る 事業所得か雑所得(活動実態で判定) 専業の画家と同じ
美術教員・雇われ講師で作品も売る 給与所得+事業所得か雑所得 給与以外の所得が20万円超
会社員が副業で絵を売る 給与所得+雑所得が中心 給与以外の所得が20万円超

「20万円超」は、給与が1か所で年末調整を済ませ、給与収入が2,000万円以下の人の基準です。勤務先を2か所以上掛け持つ非常勤講師は、原則として、年末調整を受けない給与の収入金額と給与・退職所得以外の所得金額の合計が20万円を超えると申告が必要です。ただし、給与収入の合計から一定の所得控除(雑損・医療費・寄附金・基礎控除を除く)を差し引いた金額が150万円以下で、給与・退職所得以外の所得が20万円以下なら申告不要です(所得税法121条1項2号)。業務委託で講座を受け持つ場合は給与ではなく報酬なので、支払者が企業や学校なら10.21%が源泉徴収され、申告すれば精算されます。

収入の種類で変わる計上日と源泉徴収の有無

画家の収入は、所得税基本通達36-8で「いつの年分の収入にするか」が決まり、所得税法204条で源泉徴収の有無が決まります。主な収入を表にまとめます。

収入の種類 収入に計上する日 源泉徴収
アトリエ・展示会での直接販売 作品を引き渡した日 なし
ギャラリー・百貨店の委託販売 受託者が販売した日 なし
壁画・肖像画などの受注制作 完成して引き渡した日 原則なし
書籍・雑誌の挿絵、デザイン 納品(役務完了)の日 10.21%
画像の使用料・グッズ化の使用料 支払を受ける権利が確定した日 10.21%
絵画教室の月謝・指導料 指導を行った月 支払者による
自作のNFT販売 譲渡した日 支払者と許諾内容による

源泉徴収の欄は、支払者が法人や給与を支払っている個人の場合です。給与を支払っていない個人から受け取る挿絵料や使用料は、所得税法204条2項2号により源泉徴収されません。絵画教室の月謝は、一般の個人の生徒から受け取る限り源泉徴収されませんが、企業や学校など源泉徴収義務者から受ける絵画の教授・指導料は「技芸の教授・指導料」として10.21%の対象です。

ギャラリー委託販売の計上日:販売日の原則と売上計算書の到達日

所得税基本通達36-8の(3)は、委託販売の収入を「受託者がその委託品を販売した日」の年分に入れると定めています。12月の個展で売れ、ギャラリーからの精算が翌年2月になった作品は、売れた年の収入です。入金日で計上すると年をまたいでずれます。

ただし、売上計算書が毎日または1か月を超えない期間ごとに届き、毎年継続して「売上計算書が届いた日」で計上している場合は、到達日の年分にすることも認められています。この特例を使うなら、ギャラリーに月ごとの売上計算書を出してもらい、記載日ではなく実際に届いた日を記録して、毎年同じ方法で計上します。12月末に売れた分の計算書が1月に届けば翌年分になるので、年末年始は特に到達日の記録が欠かせません。売上計算書には販売価格とギャラリー手数料を分けて記載してもらい、販売価格を売上、手数料を支払手数料として記帳すると、売上規模が正しく帳簿に残ります。

挿絵料・デザイン料と作品の売買代金の源泉徴収の違い

国税庁の「令和8年版 源泉徴収のしかた」は、所得税法204条1項1号の対象として原稿料・挿絵料・デザイン料・著作権の使用料などを挙げています。税率は1回の支払額100万円以下の部分が10.21%、100万円を超える部分が20.42%です。150万円の挿絵料なら、源泉徴収税額は(150万円−100万円)×20.42%+102,100円=204,200円になります。20.42%は年間合計ではなく1回の支払ごとの判定です。

一方、完成した絵画を売る代金は、同号が列挙する「報酬・料金」に当たりません。コレクターや企業に作品を売っても源泉徴収はなく、所得税は全額を確定申告で納めます。挿絵の仕事が多い年は源泉徴収で前払いが進むので還付になりやすく、作品販売が中心の年は申告時の納税額が大きくなります。この違いを知らずに入金額をそのまま使い切ると、3月に納税資金が足りなくなります。

NFT・コンペ賞金・助成金・芸術院賞の区分

国税庁の「NFTに関する税務上の取扱いについて(FAQ)」問1は、自分で制作したデジタルアートを紐づけたNFTの譲渡による所得を「雑所得(又は事業所得)」に区分しています。同じ問の注2は、NFTの売上原価を「そのNFTを組成するために要した費用の額」とし、「デジタルアートの制作費は含まれません」と明記しています。知人にNFTを無償で贈与しても所得税の課税関係は生じない(問2)とされています。購入代価に著作物の利用許諾の対価が含まれる場合、その部分は原則として著作権の使用料として源泉徴収の対象です(問10)。ただし、給与を支払っていない個人が買う場合や、利用許諾の対価を区分できず極めて少額と認められる場合は源泉徴収されません。課税事業者の画家が日本の消費者にNFTを販売した場合は、電気通信利用役務の提供として消費税の課税対象になります(問11)。

公募展やコンペの賞金は、通達34-1(1)で懸賞の賞金として一時所得に分類されます。ただし同号は「業務に関して受けるもの」を除いているので、画業として応募したコンペの賞金は事業所得の収入に含める扱いになります。制作や展示の費用に充てる助成金も、非課税とする規定がない限り事業の収入です。例外は所得税法9条1項13号で、文化功労者年金と、日本芸術院から恩賜賞・日本芸術院賞として交付される金品は非課税です。

画家の経費:画材・額縁・アトリエ・取材費の判断基準

画材と額縁の勘定科目、10万円・20万円・40万円の境目

絵具・キャンバス・筆・紙などの画材は、仕入または材料費として計上します。消耗品費でも誤りではありませんが、後述の棚卸しで作品ごとの原価を出すことを考えると、作品に使う材料は材料費、筆洗器やマスキングテープのように作品に残らない物は消耗品費と分けておくと整理しやすくなります。

額縁は使い方で科目が分かれます。作品と一緒に売る額縁は、その作品の原価の一部(材料費)です。展示用に繰り返し使う額縁は備品で、1点10万円未満なら消耗品費として業務で使い始めた年に経費にできます。10万円以上20万円未満なら3年で均等に経費化する一括償却資産を選べます。青色申告の個人事業主は、少額減価償却資産の特例(措置法28条の2)で、令和8年4月1日以後に取得した40万円未満の資産を年間合計300万円まで一括で経費にできます。同年3月31日以前の取得分は30万円未満が上限です。イーゼルや大型プリンター、制作用のタブレットも同じ判定です。改正の時期と使い分けは少額減価償却資産とは?40万円特例はいつからか、10万円・20万円との使い分けとパソコンの判定を解説で詳しく説明しています。

自宅アトリエの家賃・光熱費の按分と面積・時間の記録

自宅の一室をアトリエにしている場合、家賃・電気代・インターネット代は業務に使う割合だけ経費にできます。根拠は所得税法施行令96条の家事関連費の規定です。所得税基本通達45-2は、業務に必要な部分が50%を超えるかで判定し、50%以下でも業務に必要な部分を明らかに区分できればその部分を経費にしてよいとしています。

「明らかに区分できる」を支えるのは記録です。家賃は間取り図でアトリエの床面積の割合を示します。電気代は、制作用の照明や乾燥機の稼働時間、制作日数を記録しておくと割合の根拠になります。家族と共用のリビングで描いている場合、面積で按分するのは難しいため、制作時間で按分するほうが説明しやすくなります。

他の画家の作品や美術館の入館料を経費にするときの線引き

美術館の入館料、展覧会の図録、画集は、制作の研究や取材のためであれば新聞図書費や取材費として経費にできます。家族旅行の途中で立ち寄った美術館は家事関連費になるので、作品のテーマや取材メモと結び付けて記録しておきます。

他の画家の作品を購入した場合は、所得税基本通達2-14により、1点100万円未満の美術品は減価償却資産として扱われます(時の経過で価値が減らないことが明らかなものを除く)。アトリエや教室に展示する目的なら、器具備品として耐用年数に応じて経費化できます。1点100万円以上の美術品は、原則として時の経過で価値が減らない資産として減価償却できません。平成27年1月1日より前に取得した美術品は原則として旧基準で判定します。旧基準では、美術関係の年鑑等に登載された作者の作品か、取得価額が1点20万円(絵画は号当たり2万円)以上の作品が減価償却できない資産とされていました。ただし、平成27年1月1日に持っていた美術品のうち新基準で減価償却資産に当たるものは、同日から減価償却資産として扱うことも認められています(改正通達の経過的取扱い)。古い解説は旧基準のまま書かれていることがあります。

売れ残った作品の棚卸しと制作途中の仕掛品

棚卸しで実務上詰まるのは「いくらで評価するか」です。画家の手元に残る作品は、所得税法47条の棚卸資産です。12月31日に残っている作品の評価額を売上原価から差し引くため、その年に買った画材を全額経費にしたままでは、売れ残りが多い年ほど所得が小さく計算されます。

自分で制作した作品の取得価額は、所得税法施行令103条1項2号の「原材料費、労務費及び経費」です。画家本人の制作時間は自分への給与にならないので、労務費には入りません。積み上げるのは、その作品に使った画材費、作品と一緒に売る額縁代、外注した額装や撮影の費用です。制作途中の作品は仕掛品として、年末までにその作品について生じた画材費や外注費などの製造原価で評価します。

評価方法は届け出て選びます。所得税法施行令100条2項により、事業を始めた年分の確定申告期限までに税務署へ届け出ます。届出がないと、所得税法施行令102条で最終仕入原価法が適用されます。最終仕入原価法は、棚卸資産を種類・品質・型などで区分し、同じ区分ごとに年末に最も近い取得単価で評価する方法です。一点ごとに原価が違う作品には合わないので、作品番号ごとに原価を積む個別法(同令99条1項1号イ)を届け出ておくのが実態に合います。なお、低価法(時価が下がった作品を時価で評価する方法)を選べるのは青色申告の承認を受けている人だけです。

作品を贈与したり、他の作家の作品と交換したりした場合も注意が必要です。所得税法40条により、棚卸資産を贈与したときは、そのときの価額が収入になります。通達39-2は、取得価額以上の金額で記帳し、それが通常の販売価額のおおむね70%未満でなければ認めるとしています。通常50万円で売っている作品(取得価額5万円)を知人に贈ったなら、取得価額以上で、かつ35万円以上の金額を帳簿に記載して収入に計上すれば、この取扱いの範囲に収まります。交換は譲渡なので、相手の作品の時価で売ったものとして扱います。

画家の確定申告の手順:必要書類・提出方法・令和8年分の期限

申告書に添える決算書と、棚卸高を書く欄

事業所得の画家が作る書類は、確定申告書(第一表・第二表)と、青色申告なら青色申告決算書(一般用)、白色申告なら収支内訳書(一般用)です。前の章で計算した作品の棚卸高は、決算書の損益計算書にある「期末商品(製品)棚卸高」に書き、前年末の棚卸高を「期首商品(製品)棚卸高」に書きます。この2つの欄が空欄のままだと、画材費の全額がその年の原価になり、売れ残り作品の分だけ所得が小さく出ます。

雑所得で申告する画家にも書類の規定があります。国税庁のタックスアンサーNo.1500「雑所得」によると、令和4年分以後、業務に係る雑所得の前々年の収入金額が300万円以下なら、入金と支払の時点で計上する現金主義を選べます(確定申告書への記載が必要)。300万円を超えると請求書や領収書などの現金預金取引等関係書類の保存が必要になり、1,000万円を超えると収支内訳書などの添付が必要です。

源泉徴収された挿絵料や使用料は、出版社などから届く支払調書や支払明細で年間の源泉徴収税額を集計し、申告書の「源泉徴収税額」欄に書きます。ここを書き漏らすと、前払いした税金が精算されず還付を受け損ねます。源泉徴収の計算方法と対象になる報酬は個人事業主の源泉徴収|10.21%の計算と対象の報酬、支払う側になる条件【令和8年】で詳しく扱っています。

提出方法と令和8年分の申告期限、還付申告・予定納税

提出はe-Tax(確定申告書等作成コーナーやマイナンバーカード対応の会計ソフト)、郵送、税務署の窓口のいずれかです。郵送は通信日付印(消印)の日が提出日になります。令和9年分から青色申告特別控除の65万円にe-Taxが必須になることを考えると、令和8年分からe-Taxに慣れておく意味があります。

申告と納付の期間は原則として翌年2月16日から3月15日までで、令和8年分は2027年2月16日(火)から3月15日(月)です。挿絵料の源泉徴収が多く税金が戻る年は、還付申告として翌年1月1日から5年間提出できます。ただし青色申告特別控除の65万円などは期限内の申告が条件なので、還付になる年も3月15日までに出します。

源泉徴収されない作品販売が中心の画家は、売れた年の翌年に注意が要ります。予定納税基準額(原則は前年分の申告納税額)が15万円以上になると、その年は予定納税として、原則として予定納税基準額の3分の1ずつを7月と11月に前払いします。個展で大きく売れた翌年に売上が落ちる見込みなら、7月15日までに税務署へ予定納税額の減額申請を出せます。

開業届・青色申告の期限と令和9年分からの控除改正

開業届と青色申告承認申請の提出期限の違い

開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)の期限は、所得税法229条の改正で、令和8年1月1日以後は「その事実があつた日の属する年分の所得税に係る確定申告期限まで」になりました。令和7年12月31日までに開業した場合は、改正前の「開業の日から1か月以内」が期限です。

期限が延びたのは開業届だけです。青色申告承認申請書は所得税法144条により、青色申告をしたい年の3月15日まで(その年の1月16日以後に開業した場合は開業日から2か月以内)に出します。開業届と同時に出すつもりで年末まで待つと、その年は白色申告になります。棚卸資産の評価方法の届出は確定申告期限までですが、開業届や青色申告承認申請と同時に出すと漏れません。

開業届の職業欄は「画家」で通じます。事業の概要欄には「絵画の制作・販売、書籍挿絵の制作、絵画教室の運営」のように収入源を具体的に書いておくと、後で所得区分や個人事業税の業種を説明するときの材料になります。開業届と確定申告の全体の流れは個人事業主の確定申告のやり方|令和8年分の期限と基礎控除104万円にまとめています。

青色申告特別控除の令和8年分と令和9年分の要件比較

青色申告特別控除は措置法25条の2の改正で、令和9年分から金額と要件が組み替わります。

控除額 令和8年分の要件 令和9年分以後の要件
75万円 なし 65万円の要件+優良な電子帳簿かデジタルシームレス保存
65万円 複式簿記・期限内申告+e-Taxか優良な電子帳簿 複式簿記・期限内申告+e-Tax
55万円 複式簿記・期限内申告(書面提出可) 廃止
10万円 簡易簿記 簡易簿記(前々年収入1,000万円超は不可)

75万円控除には、選択する保存方式の要件を満たし、適用年分の確定申告期限までに所定の届出書を提出する必要があります。優良な電子帳簿による場合は、その年の初めから仕訳帳と総勘定元帳を要件に従って備え付け、保存します。既に優良な電子帳簿の保存で65万円を受けている人は、改めて届け出る必要はありません(国税庁「青色申告特別控除の75万円控除」)。

影響が大きいのは、書面で申告し、優良な電子帳簿で65万円を受けていた人です。令和9年分からはe-Taxで提出しないと65万円を受けられません。会計ソフトで複式簿記を付けている画家は、令和8年分の申告からe-Taxに切り替えておくと翌年に慌てずに済みます。

青色申告には、事業の赤字(純損失)を翌年以後3年間繰り越せる利点もあります(所得税法70条)。大作の制作や個展の準備に1年かけ、翌年にまとめて売れる画家にとっては、控除額と同じくらい効きます。

minne・Creema・BASEの売上データの電子取引としての保存要件

電子帳簿保存法の電子取引の保存義務は、事業規模にかかわらず画家にも及びます。minne・Creema・BASEなどの販売管理画面から出る売上明細、ネット通販で画材を買ったときの電子領収書、メールで届いたギャラリーの売上計算書のPDFは、紙に印刷して保存するのではなく、データのまま保存します。

前々年の売上高が5,000万円以下で、税務調査でデータのダウンロードの求めに応じられる場合は、検索機能の確保が不要になります。検索機能が不要になっても、改ざん防止の措置(訂正削除の防止に関する事務処理規程を定めて守るなど)と、画面や書面に整然と出力できる状態の確保は必要です。そのうえで「2027-03-10_ギャラリーA_売上計算書_385000.pdf」のように日付・取引先・金額をファイル名に入れ、年ごとのフォルダに保存しておくと、調査時に探しやすくなります。保存期間と令和9年分の改正点は個人事業主の帳簿の保存期間は7年と5年に分かれる|国税庁の一覧表と電子帳簿保存法・令和9年分の改正で確認できます。

インボイス登録の判断材料:取引先の種類と2割特例・3割特例の納税額

前々年(基準期間)の課税売上高が1,000万円以下の画家は、原則として消費税の免税事業者です。ただし、前年1月から6月まで(特定期間)の課税売上高と給与等の支払額がともに1,000万円を超える場合や、課税事業者を選択した場合は納税義務があります。インボイス(適格請求書発行事業者)に登録すると、売上規模にかかわらず消費税の申告と納税が必要になります。登録するかどうかは、売上を誰から受けているかで判断します。

作品の買い手が個人コレクター中心なら、相手は仕入税額控除を使わないので、未登録でも取引への影響はほとんどありません。挿絵を発注する出版社、作品を仕入れて販売する画廊、壁画を発注する企業との取引が多い場合は事情が違います。相手は未登録の画家への支払について仕入税額控除を経過措置の範囲でしか受けられないため、登録を求められたり、値引きを打診されたりすることがあります。

登録する場合の負担は特例で軽くできます。インボイス登録を機に課税事業者になった個人は、令和8年分までは納付税額を売上税額の2割にできる2割特例を使えます。令和9年分と令和10年分は個人事業者に限り3割特例に移ります。税抜売上500万円(消費税50万円)の画家なら、納付税額は令和8年分が10万円、令和9年分が15万円です。

画家の税負担を上下させる個人事業税と平均課税

個人事業税の業種判定:作品販売・絵画教室・デザイン

個人事業税は、地方税法が定める70業種(東京都主税局の区分で第1種37・第2種3・第3種30)に当たる事業にだけかかります。「画家」「芸術家」はこの一覧に無いので、作品の制作・販売だけなら原則として課税されません。

ただし、収入の一部が別の業種に当たると、その部分は課税対象になり得ます。絵画教室は第3種の「諸芸師匠業」(税率5%)、商業デザインの受注は第3種の「デザイン業」(5%)、仕入れた商品の販売は第1種の「物品販売業」(5%)に該当する可能性があります。個人事業税の所得は、所得税の事業所得に青色申告特別控除額を足し戻して計算し、そこから事業主控除290万円(年の中途で開業・廃業した場合は月割り)を差し引いた残りに課税されます。業種の判定は都道府県が実態を見て行うので、教室やデザインの比重が大きい人は都道府県税事務所に確認しておくと安心です。業種一覧と税額の計算は個人事業税がかからない業種は?法定70業種の一覧と税率3〜5%・290万円控除の計算にまとめています。

著作権使用料が多い年の変動所得の平均課税と20%要件

所得税は累進課税なので、ある年だけ所得が跳ねると税率が上がります。これを緩和するのが平均課税(所得税法90条)です。対象になる変動所得は、所得税法施行令7条の2で「原稿若しくは作曲の報酬に係る所得又は著作権の使用料に係る所得」などに限られています。作品そのものの販売代金は含まれません。

画家で平均課税が効くのは、作品の画像使用料やグッズ化のロイヤリティが一時的に大きく入った年です。要件は、その年の変動所得と臨時所得の合計が総所得金額の20%以上であることです。その年の変動所得が前年・前々年の変動所得の合計の2分の1以下のときは、臨時所得だけで20%以上かを判定します。使用料収入が毎年ある画家は、前2年の実績と比べてから申告書の「変動所得・臨時所得の平均課税の計算書」を作るかを決めます。

よくある質問

画家の開業届の職業欄には何と書けばよいですか?

「画家」と書いて問題ありません。事業の概要欄に、作品の制作・販売、挿絵制作、絵画教室など実際の収入源を具体的に書いておくと、所得区分や個人事業税の業種を説明するときの根拠になります。令和8年1月1日以後の開業なら、提出期限はその年分の確定申告期限までです。

額縁は何の勘定科目で計上しますか?

作品と一緒に売る額縁は、その作品の原価(材料費)として計上し、売れ残った作品は額縁代も含めて棚卸しします。展示用に繰り返し使う額縁は備品で、1点10万円未満なら消耗品費、10万円以上なら一括償却資産や青色申告者の少額減価償却資産の特例を検討します。

会社員が副業で絵を売った場合も確定申告が必要ですか?

給与収入が2,000万円以下で、1か所から給与を受けて年末調整を済ませており、絵の所得とほかの副業などの所得を合計した給与以外の所得が20万円以下なら、所得税の確定申告は不要です。ただし住民税にはこの免除がないため、市区町村への住民税の申告は必要です。所得が20万円を超えたら所得税の確定申告をします。

芸術家も電子帳簿保存法の対象になりますか?

対象になります。電子取引のデータ保存は、規模や青色・白色を問わず、所得税の申告をする事業者すべてに適用されます。ネットショップの売上明細や電子領収書は、印刷ではなくデータで保存します。前々年の売上高が5,000万円以下で、税務調査でダウンロードの求めに応じられれば、検索機能の確保は不要です。改ざん防止の措置は別に必要です。

絵が売れず赤字の年も確定申告したほうがよいですか?

青色申告をしているなら申告すべきです。事業の赤字(純損失)を翌年以後3年間繰り越して、売れた年の所得から差し引けます。事業所得として認められていれば、給与など他の所得との損益通算もできます。源泉徴収された挿絵料がある場合は、申告すれば還付も受けられます。

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