地方創生とは、人口減少と東京圏への人口集中に歯止めをかけ、地方で暮らし働ける環境をつくるために、2014年から国が進めている政策の総称です。根拠法は同年に公布された「まち・ひと・しごと創生法」で、2025年6月には10年間の反省を踏まえた「地方創生2.0基本構想」が閣議決定されました。
この記事では、法律上の定義と目的、2014年から2026年までの政策の流れ、地方創生2.0の数値目標を一次資料で確認します。そのうえで、第1期に掲げた「東京圏の転出入均衡」がどうなったかを統計で検証し、紫波町・神山町の事例と、企業や個人の関わり方まで整理します。
まとめ:地方創生の要点
- 地方創生は、まち・ひと・しごと創生法(平成26年法律第136号)に基づく国の政策です。「まち(暮らしやすい地域社会)」「ひと(地域を担う人材)」「しごと(地域の就業機会)」を一体で進めます。
- 第1期総合戦略(2014年)は「2020年時点で東京圏の転出・転入を均衡」を目標にしましたが、2025年も日本人だけで11万2,738人の転入超過が続いています(30年連続)。
- 政府は2025年6月の地方創生2.0基本構想で、人口減少を前提にした対応の不足など4つの反省を明記し、10年後の姿を14の定量目標で示しました。
- 2026年9月時点の司令塔は2025年11月に設置された「地域未来戦略本部」で、令和8年度の交付金は「地域未来交付金」1,600億円です。
- 企業は企業版ふるさと納税(2024年度631億4,000万円)、個人は地域おこし協力隊や関係人口として関われます。
以下、定義、背景、政策の歩み、2.0の目標、10年の検証、事例、関わり方の順に解説します。
地方創生の定義と目的:まち・ひと・しごと創生法第1条
地方創生の法的な出発点は、2014年11月28日に公布されたまち・ひと・しごと創生法です。第1条は、急速な少子高齢化に対応し「人口の減少に歯止めをかけるとともに、東京圏への人口の過度の集中を是正」することを掲げ、次の3つを一体的に推進することを「まち・ひと・しごと創生」と定義しています(出典:e-Gov法令検索 まち・ひと・しごと創生法)。
| 要素 | 第1条の内容(要約) |
|---|---|
| まち | 豊かな生活を安心して営める地域社会の形成 |
| ひと | 地域社会を担う個性豊かで多様な人材の確保 |
| しごと | 地域における魅力ある多様な就業の機会の創出 |
同法第2条の基本理念には、結婚や出産は個人の決定に基づくことを基本とする点や、地方公共団体どうしの連携協力による効率的な行政運営も含まれます。同法は国による総合戦略の策定を定め、都道府県と市町村による地方版総合戦略の策定は努力義務としています。
地域活性化・まちづくり・地域創生との違い
「地域活性化」「まちづくり」は、特定の法律や期間に縛られない一般的な言葉です。これに対して地方創生は、2014年に始まった国の政策パッケージを指す固有の呼び名で、法律・総合戦略・交付金がそろっています。地域の活力を取り戻すための法律としては、2005年制定の地域再生法が地方創生より前から存在します。「地域創生」は法令上の用語ではなく、地方創生とほぼ同じ意味で使われる言い換えです。
地方創生が必要とされる背景:人口減少と東京圏への転入超過
10年で約340万人減った総人口
地方創生2.0基本構想によると、日本の人口は2008年をピークに減少に転じ、2024年10月1日時点で約1億2,400万人です。2014年の約1億2,700万人から、10年間で約340万人減りました。人口の減少がどの年にどれだけ進むかという推計は、2030年問題の記事で国立社会保障・人口問題研究所の数値をもとに整理しています。
若者と女性の東京圏への流出
総務省「住民基本台帳人口移動報告 2025年結果」(2026年2月3日公表)では、日本人移動者で見た東京圏の転入超過は11万2,738人で、30年連続の転入超過でした(出典:総務省統計局 住民基本台帳人口移動報告 2025年結果)。基本構想は2024年の内訳として、10代と20代で13万人を超える転入超過があり、男性約5万5,000人に対して女性は約6万4,000人と女性の方が多い点を示しています。進学と就職を機に若者が東京圏へ移り、特に女性が地方に戻らない傾向がある、というのが政府の現状認識です。
過疎地域と消滅可能性自治体
「過疎」は法律で定義された言葉です。過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法(2021年4月1日施行)の第2条は、1975年から2015年までの40年間の人口減少率が0.28以上であることなどの人口要件と、2017〜2019年度の財政力指数の平均が0.51以下という財政要件を組み合わせて「過疎地域」を定めています。つまり過疎化とは、人口が大きく減り、生産機能や生活環境の維持が難しくなっていく状態を指します。
地方創生が始まるきっかけの一つは、民間の日本創成会議が2014年に出した推計でした。人口移動が収まらない場合、2040年に若年女性人口が5割以上減る市町村は896(全体の49.8%)に達するとしたものです。その10年後、人口戦略会議は2024年4月24日、2020年から2050年に若年女性人口が50%以上減る「消滅可能性自治体」を744と発表しました。
地方創生の歩み:2014年の開始から地域未来戦略まで
地方創生では、5年間を対象とする総合戦略が策定されてきましたが、期間途中の改訂や政策名称の変更も行われています。制度を調べる際は、資料の公表日と対象年度を確認し、その時点の戦略名・交付金名を区別してください。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2014年11月28日 | まち・ひと・しごと創生法 公布 |
| 2014年12月27日 | 第1期まち・ひと・しごと創生総合戦略 閣議決定 |
| 2019年12月20日 | 第2期総合戦略 閣議決定 |
| 2022年12月23日 | デジタル田園都市国家構想総合戦略 閣議決定 |
| 2024年10月11日 | 新しい地方経済・生活環境創生本部 設置 |
| 2025年6月13日 | 地方創生2.0基本構想 閣議決定 |
| 2025年11月11日 | 地域未来戦略本部 設置 |
2022年からの期間は「デジタル田園都市国家構想」の名前で進み、行政手続のオンライン化など自治体のデジタル化が柱になりました。構想の定義と4本柱、交付金の類型、地方創生2.0への再編後の位置づけはデジタル田園都市国家構想とは?地方創生2.0再編後の位置づけと交付金の類型で整理しています。自治体側の実務は自治体DXの推進計画やスマートシティの政府定義と重なります。
交付金の名称と予算額の変遷
自治体が地方創生の事業に使う国の交付金も、名称が変わってきました。地方創生推進交付金は、2022年度第2次補正予算で創設されたデジタル田園都市国家構想交付金へ移行しました。2024年度補正予算では自由度の高い「新しい地方経済・生活環境創生交付金」が創設され、2025年度当初予算は2,000億円でした。後継の地域未来交付金は2025年度補正予算で創設され、2026年度当初予算額は1,600億円です(出典:内閣府 地域未来交付金について)。400億円減った一方で、地場産業の付加価値向上や小規模自治体への申請支援が前面に出ています。
地方創生2.0の「10年後に目指す姿」と数値目標
地方創生2.0基本構想は、2014年からの取り組みを「地方創生1.0」と呼び、「これを全く新しいものにする」という意味を込めて2.0と名付けたと説明しています。人口減少がしばらく続くことを正面から受け止め、人口が減っても経済成長し、社会が機能する適応策に軸足を移した点が1.0との違いです。10年後に目指す姿は14の定量目標で示され、主なものは次のとおりです(出典:内閣官房 地方創生2.0基本構想)。
| 分野 | 10年後の数値目標 |
|---|---|
| 若者・女性 | 東京圏から地方への若者の流れを倍増 |
| 経済 | 東京圏以外の1人当たり労働生産性を東京圏と同水準に |
| 経済 | 農林水産物・食品の輸出額とインバウンド食関連消費額の合計を3倍(2030年) |
| 生活 | 買物環境を維持する取組がある市町村を10割に |
| 生活 | 生活がよくなると思う人の割合を3倍に |
| 交流 | 関係人口を実人数1,000万人・延べ1億人 |
| デジタル | AI・デジタルで地域課題に取り組む市町村を10割に |
1.0にも地方での雇用創出などの目標がありました。2.0では、人口減少が続くことを前提に、生活サービスの維持や地方経済の高付加価値化をより明確に打ち出しています。人口を増やせたかだけでなく、人口が減っても暮らしと稼ぐ力を保てたかで評価される、という転換です。
地方創生1.0の10年で何が足りなかったか:未達の目標と4つの反省
第1期総合戦略は、地方から東京圏への転入を年6万人減らし、東京圏から地方への転出を年4万人増やすことで、2020年時点で東京圏の転出・転入を均衡させると数値で約束していました(出典:まち・ひと・しごと創生総合戦略(2014年))。目標年の2020年には、日本人移動者で9万8,005人の転入超過となり、均衡は実現しませんでした。その後も2024年に11万9,337人、2025年に11万2,738人の転入超過が続いています。
政府自身も、基本構想の「これまでの地方創生10年の成果と反省」で、企業の地方移転による雇用創出や地方移住への関心の高まりを成果に挙げる一方、次の4点を反省すべき点として明記しました。
| 反省 | 基本構想が挙げた具体的な指摘 |
|---|---|
| ①人口減少を前提にした対応の不足 | 移住促進などが自治体間の人口の奪い合いに |
| ②若者・女性の流出要因への対応不足 | 魅力的な職場の不足やアンコンシャス・バイアス |
| ③国と地方の役割の検討と連携の不足 | 省庁間・自治体部局間でデータや政策がつながらない |
| ④関係者が一体となった取組の不足 | 戦略立案の外部委託、交付金の小粒化 |
④では、地方公共団体が戦略や企画の立案の大部分を外部に委託し、主体的に取り組まなかった事例があること、交付金が「縦割り・単独事業が大半であり、小粒で補助金化していた」ことまで書かれています。これから地方創生の事業を企画する自治体や企業は、この4点を避ける設計になっているかを最初に点検すべきです。特に、他の自治体から住民を呼び込むだけの移住補助は、①が指摘する「奪い合い」に当たるため、単独の施策としては勧めません。
地方創生の取り組み事例:紫波町と神山町の数字
地方創生の成功例として繰り返し紹介される2つの町を、自治体と国の資料にある数字で確認します。
岩手県紫波町:公民連携で町有地を再生したオガールプロジェクト
紫波町が国土交通省のサイトで公開したオガールプロジェクトの説明資料によると、町は紫波中央駅前の未利用町有地10.7ha、老朽化した役場庁舎、図書館の新設要望という3つの課題を抱え、2007年度の実質公債費比率は23.3%でした。町は2009年2月に公民連携基本計画を策定し、2012年6月に官民複合施設「オガールプラザ」を開業します。民間が建てて町が中央棟を買い取る方式で、公共部分の事業費は音響設備を除いて8億1千万円でした。情報交流館の利用者は2014年度に33.3万人に達しています。
この事例の要点は、テナントを先に決めてから建物の規模を逆算した点にあります。資料はこれを「稼ぐインフラ」「逆算方式」と表現しており、町が中央棟を買い取る際には国庫補助(4割)も使っています。
徳島県神山町:サテライトオフィスによる社会増
総務省のICT地域活性化ポータルの事例ページ(2017年度掲載)によると、神山町(2015年国勢調査の人口5,300人)ではNPO法人グリーンバレーが中心となってサテライトオフィスの誘致を進めました。2011年(平成23年)には1970年以降で初めて転入が転出を上回る「社会増」となりました。同ページは移住の実績を「4年間で64世帯102名」と記載しています。掲載時点で、徳島県はFTTH(光回線)のカバー率98.8%の通信環境を整えており、県内5市町に31社が26拠点を開いていました。
紫波町・神山町の事例に見る官民の役割分担
紫波町は財政難の中で民間の資金と経営を取り込み、神山町は県の通信基盤の上で民間のNPOが企業誘致を担いました。共通するのは民間主体の参画です。紫波町では、町とオガール紫波株式会社が事業計画を共同で立案し、行政と民間が建設・所有・運営などの役割を分担しています。基本構想の反省④(関係者が一体となった取組の不足)の裏返しであり、事例を参考にする際は、地域で運営を担う主体と、行政が負担する費用・責任を先に決めるべきです。
企業・個人の地方創生への関わり方
企業版ふるさと納税(地方創生応援税制)
企業が自治体の地方創生事業に寄附すると、法人関係税が軽減される制度です。内閣府の集計では、2024年度の寄附は18,457件、631億4,000万円でした。税制上の特例は2025年度の税制改正で3年延長され、適用期限は2027年度末です。会計処理はふるさと納税の勘定科目と仕訳で扱っています。
地域おこし協力隊と地方就職
地域おこし協力隊は、都市部から地方に移り住み、自治体の委嘱を受けて地域の活動に従事する制度です。総務省の公表(2026年4月24日)によると、2025年度の隊員数は8,196人、受け入れ自治体は1,187団体で、政府は2026年度までに1万人とする目標を掲げています。協力隊以外の地方就職は、厚生労働省のLO活(ローカツ)の窓口でも相談できます。
関係人口による地域との継続的な関わり
関係人口は、移住まではしないものの、特定の地域に継続的に関わる人を指します。地方創生2.0は、関係人口を実人数1,000万人、延べ1億人創出することを10年後の目標にしています。副業・兼業での地域企業への参加、ふるさと納税、定期的な訪問などが入口になります。
よくある質問
地方創生とは簡単に言うと何ですか?
人口減少と東京圏への人口集中を和らげ、地方で暮らし働ける環境をつくる国の政策です。2014年のまち・ひと・しごと創生法に基づき、「まち」「ひと」「しごと」を一体で進めます。
地方創生はなぜ必要なのですか?
人口が2008年をピークに減り続け、2014年から10年で約340万人減ったうえ、若者と女性が進学や就職を機に東京圏へ移り続けているためです。2025年も日本人だけで11万2,738人が東京圏へ転入超過になっています。
地方創生2.0とは何ですか?
2025年6月13日に閣議決定された、今後10年の地方創生の基本構想です。人口減少を前提にした適応策に軸足を移し、若者の地方への流れの倍増や関係人口1,000万人など、14の定量目標を掲げています。
地方創生の課題は何ですか?
政府は基本構想で、人口減少を前提にした対応の不足、若者・女性の流出要因への対応不足、国と地方の連携不足、関係者が一体となった取組の不足の4点を反省として挙げています。第1期の東京圏転出入均衡の目標も達成されていません。
過疎地域とはどのような地域ですか?
過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法第2条の要件を満たす市町村の区域です。第2条には複数の指定要件があり、人口減少率だけでなく、一定期間の人口増加率や財政力指数の3年度平均などを組み合わせて判定します。