アルパマヨ(Alpamayo)は、NVIDIAが2026年1月5日のCES 2026で発表した、自動運転開発向けのオープンなAIモデル・シミュレーター・走行データセットの総称です。中核のモデルは、カメラ映像から走行軌跡を出すと同時に「なぜその操作を選んだか」を文章で出力します。
発表後も中身は変わり続けています。2026年3月にAlpamayo 1.5、5月末のGTC Taipeiで34B(340億パラメータ)のAlpamayo 2 Superが加わり、8月にはファミリー全体が商用利用できるライセンスへ切り替わりました。本記事では2026年9月時点の公式資料をもとに、版ごとの違いとライセンス条件を整理します。
まとめ:Alpamayoの要点
- 読み方は「アルパマヨ」。車に直接載せる製品ではなく、クラウドで動かす大型の「教師モデル」と開発ツール一式です。
- 構成要素はモデル、閉ループシミュレーターAlpaSim、1,700時間・25か国分の走行データセット。2026年5月に強化学習フレームワークAlpaGymと生成ワールドモデルCosmos-Dreamsが加わりました。
- モデルの系譜はAlpamayo-R1(のちにAlpamayo 1へ改称、10B)→Alpamayo 1.5(10B・強化学習で後学習)→Alpamayo 2 Super(34B)。
- ライセンスは2026年8月4日以降、モデルの重みがOpenMDW-1.1、コードがApache-2.0。データセットだけは別規約で、NVIDIA技術を使う自社内の開発に用途が限られます。
- Mercedes-Benz CLAに載るのは強化型レベル2の運転支援です。レベル4のロボタクシーはAlpamayoが目標として掲げる用途で、2026年9月時点で市販車の話ではありません。
Alpamayoの読み方と名前の由来
Alpamayoは「アルパマヨ」と読みます。検索では「alphamayo」「alpa mayo」といった綴りの揺れも見られますが、正式な表記はAlpamayoの1語です。
ペルーのアンデス山脈(ブランカ山群)にある山と同じ綴りですが、NVIDIAの発表資料に命名理由の説明はありません。周辺ツールの名前も「AlpaSim」「AlpaGym」と、Alpaを頭に付ける形でそろえられています。
Alpamayoを構成する要素:モデル・シミュレーション・データ
CESのプレスリリースでは、Alpamayoを「オープンモデル、シミュレーションフレームワーク、データセット」の3要素で説明しています。モデルで判断を生成し、シミュレーターで試し、データセットで学習と評価を回すという分担です。
AlpamayoのVLAモデル:映像・自車運動の入力と軌跡・判断理由の出力
モデルはVLA(Vision-Language-Action:視覚・言語・行動)と呼ばれる種類で、複数カメラの映像と自車の過去の動きを入力に、将来の走行軌跡と判断理由の文章を出力します。版ごとの違いは後の章の表にまとめています。
AlpaSim:閉ループのシミュレーター
AlpaSimは、運転ポリシーを閉ループで試すオープンソースのシミュレーターです(GitHubのNVlabs/alpasim、Apache-2.0)。閉ループとは、モデルが出した操作が次の場面に反映されること。録画データに答え合わせをするだけの評価では見えない「小さなズレが積み重なって事故に近づく」挙動を確かめられます。
構成はgRPCでつながるマイクロサービスで、描画は既定でNVIDIA Omniverse NuRec(実走行データから3Dシーンを再構成する技術)を使います。対応ポリシーにはAlpamayo-R1とAlpamayo 1.5のほか、ValeoのVaVAMなど他社モデルも入っているため、Alpamayo専用の道具ではありません。ローカルではDocker Composeを使い、1台のマシンで動かせます。
Physical AI AVデータセット:1,700時間・25か国
Hugging Faceの「nvidia/PhysicalAI-Autonomous-Vehicles」は、25か国・2,500以上の都市で計画的に走らせて集めた1,700時間分の走行データです。20秒のクリップが306,152本あり、全クリップに7台のカメラ映像が付きます。LiDARは298,326本、レーダー(最大10台)は160,761本に付いています。総容量は133TBです。
2026年3月には人手で確認した推論ラベル(判断理由の注釈)が一部のクリップに追加されました。5月には、この種のラベルを自動で付けるパイプラインも公開されています。
AlpaGymとCosmos-Dreams:2026年5月の追加分
GTC Taipei(2026年5月31日)では、2つのツールが追加されました。AlpaGymは、AlpaSimの中でモデルに運転させ、その結果から学ばせる強化学習フレームワークです(NVlabs/alpagym、Apache-2.0)。Cosmos-Dreamsは、珍しい危険場面を写真のようにリアルな映像で生成するワールドモデルです。発表時は「OmniDreams」という名前で、のちに改称されました。AlpaSimのREADMEには旧名のOmniDreamsが残っています。
Alpamayoモデルの系譜:R1から2 Superまでの違い
Alpamayoのモデルは1年足らずで3世代出ており、名前も途中で変わりました。公式資料とモデルカードの記載を並べると次のとおりです。
| モデル | Hugging Face公開 | パラメータ | ベースVLM | 主な追加点 |
|---|---|---|---|---|
| Alpamayo-R1(現 Alpamayo 1) | 2025-12-03 | 10B(8.2B+2.3B) | Cosmos-Reason | 判断理由の文章と軌跡を同時に出力 |
| Alpamayo 1.5 | 2026-03-19 | 10B(8.2B+2.3B) | Cosmos-Reason2 | 強化学習の後学習・ナビ指示・カメラ台数可変・質問応答 |
| Alpamayo 2 Super | 2026-08-04 | 34B(32B+2.3B) | Cosmos 3 Super Reasoner | 自動ラベル付け・2Dグラウンディング・全周カメラ |
パラメータ欄の内訳は「視覚言語モデル(VLM)のバックボーン+軌跡を生成する拡散モデル部分(Action Expert)」です。Alpamayo 2 Superは2026年5月31日に発表され、Hugging Faceで重みが公開されたのは8月4日です。
名前の変遷:Alpamayo-R1からAlpamayo 1 Nanoへ
最初のモデルは2025年11月の論文(arXiv 2511.00088)の時点では「Alpamayo-R1」という名前でした。CESのあとAlpamayo 1に改称され、モデルカードにもその旨が注記されています。さらに2 Superの発表後、NVIDIAは10Bの2モデルを「Alpamayo 1 Nano」「Alpamayo 1.5 Nano」とも呼んでいます(GitHubリポジトリの説明文もこの表記)。
Hugging FaceのリポジトリIDは今も「nvidia/Alpamayo-R1-10B」のままです。検索で見つかる「Alpamayo-R1」「Alpamayo 1」「Alpamayo 1 Nano」はすべて同じ10Bモデルを指します。論文の中身(因果の連鎖による推論の設計や評価結果)はAlpamayo-R1の解説記事で扱っています。
Alpamayo 2 Superが対応する5種類の出力
2026年8月4日のNVIDIAブログによると、2 Superは1つの走行場面に対して次の5つを出力します。
- 走行軌跡(0.1秒刻みで6.4秒先までの64点)
- Chain-of-Causation(因果の連鎖)形式の判断理由
- メタアクション(譲る・車線変更・停止などの意図)
- 学習・検証データ用の推論ラベル
- 画像の特定領域を指し示す質問応答(2Dグラウンディング)
運転の判断よりも、自社の走行データに注釈を付ける「自動ラベラー」として使う用途が前面に出ています。NVIDIAは注釈作業が「数か月から数日に」縮むとしています。ベンチマークでは運転推論のLingoQAでLingo-Judgeスコア79.2を出し、同社の評価ではGPT-4oを23.2ポイント上回ったと発表しています。(出典:Alpamayo 2 Superの公式モデルカード)なお、ベースのCosmos 3は推論と世界生成を1つのモデルにまとめた基盤モデルです。
判断理由を出力する仕組み:VLAとChain-of-Causation
従来の自動運転は、認識・予測・計画を別々のモジュールに分けて処理してきました。この方式は想定外の場面に弱いとされます。そこで映像から操作までを1つのネットワークで学習する「エンドツーエンド」方式が広がりましたが、今度はなぜその操作を選んだのかが外から見えにくいという弱点があります。
Alpamayoのモデルは、軌跡を出す前に「前方の車両が減速している→左車線が空いている→車線変更する」といった因果の連鎖を文章で生成し、その内部状態を条件にして拡散モデルが軌跡を描きます。文章と軌跡が同じ判断から出てくるため、開発者はモデルが何を見てどう判断したかを後から点検できます。NVIDIAは、この判断理由がNVIDIA Halosの安全検証ワークフローとつながり、AI安全規格ISO/PAS 8800の要求にも沿うとしています。
車に載るのは蒸留モデル:教師モデルとしての使い方
CESの発表時点から、NVIDIAはAlpamayoを「車両内で直接実行されるのではなく、大規模な教師モデルとして機能する」と説明しています。10Bや34Bのモデルは、車載コンピューターでリアルタイムに動かす前提ではありません。
想定されている流れは、クラウドで大型モデルに判断理由と軌跡を大量に生成させ、それを手本に小型モデルを学習させる(蒸留する)というものです。小型モデルは車載コンピューターNVIDIA DRIVE AGX Thorで動かし、自動運転車向けの基準設計NVIDIA Hyperion(2026年9月にDRIVE Hyperionから改称)に組み込みます。車内で推論を完結させる考え方はエッジAIと同じで、Alpamayoはその手前の「手本づくり」を担います。
ライセンスと商用利用:モデル・コード・データセットで条件が違う
「オープン」と一括りにされがちですが、対象ごとに条件が違います。いちばん大きな変化は2026年8月4日で、NVIDIAはOpenMDW-1.1(Linux Foundationが策定したAIモデル向けの寛容なライセンス)をAlpamayoモデルファミリー全体に適用すると発表しました。それ以前の版は研究開発向けとして公開されていました。ライセンス本文はOpenMDW-1.1の公式ページ、データセットの規約はHugging Faceのデータセットページで確認できます。
| 対象 | ライセンス | 商用利用 |
|---|---|---|
| モデルの重み(1・1.5・2 Super) | OpenMDW-1.1 | 可(2026-08-04以降) |
| 推論・学習コード | Apache-2.0 | 可 |
| AlpaSim・AlpaGym | Apache-2.0 | 可 |
| Physical AI AVデータセット | NVIDIA独自規約 | 用途限定で可 |
注意点が2つあります。1つ目に、Alpamayo 1と1.5のモデルカードには、ライセンス欄がOpenMDW-1.1になった後も「非商用利用向け。商用ライセンスは要問い合わせ」という旧来の一文が残っています(2026年9月時点)。製品に組み込む前には、ライセンス本文とNVIDIAの告知を法務で確認してください。
2つ目に、データセットの規約は「NVIDIA技術を用いた自動運転・運転支援システムの自社内開発」に目的を限っています。派生物の作成や再配布を禁じ、ナンバープレートによる車両追跡や顔による個人識別も禁止しています。契約は初回の提供またはダウンロードから12か月で失効し、終了時にはデータセットの使用停止と全コピーの破棄が求められます。モデルは自由に改変・再配布できても、データセットを加工して社外に出すことはできません。
動かすのに必要な環境:GPUメモリの目安
いずれもLinuxとNVIDIA GPU(CUDA Toolkit 12.x)、Python 3.12が前提です。Alpamayo 1.5のREADMEは、H100 80GBで測った必要VRAMを次のように示しています。
| モデルと設定 | VRAMの目安 |
|---|---|
| 1.5:軌跡1本の推論 | 約24GB |
| 1.5:軌跡16本の推論 | 約40GB |
| 1.5:軌跡16本+CFG | 約60GB |
| 2 Super(34B) | H100 80GBで検証済み |
24GBはRTX 4090やRTX 3090のクラスで、10Bの版なら個人のワークステーションでも1本ずつの推論は試せます。2 Superのモデルカードは「H100 80GB以外のGPUは未検証」としており、ナビ指示付きの高度なデモはH100 2枚での配置が前提です。
Alpamayo 1.5の最小手順はREADMEに沿うと次のとおりです。GitとPython環境管理ツールuvは事前にインストールしておきます。あわせてHugging Faceでデータセットの利用規約に同意しておく必要があります。推論スクリプトがデータセットから例をストリーミングするためです。重みのダウンロードは約22GBです。
git clone https://github.com/NVlabs/alpamayo1.5.git
cd alpamayo1.5
uv venv a1_5_venv
source a1_5_venv/bin/activate
uv sync --active
hf auth login
python src/alpamayo1_5/test_inference.py
flash-attnのビルドでは、CUDA Toolkitのnvccが必要です。ビルドに失敗した場合は uv sync --active --no-install-package flash-attn でflash-attnをインストール対象から外し、モデルを読み込むfrom_pretrainedの呼び出しに attn_implementation="sdpa" を指定する代替手順が公式READMEに用意されています(PyTorch標準のSDPAで動かす方法)。
採用状況の実際:Mercedes-Benz CLAはレベル2
「アルパマヨがベンツに載った」という報道は多いものの、中身は分けて読む必要があります。CES基調講演のNVIDIAブログは、Alpamayoを搭載した最初の乗用車を新型Mercedes-Benz CLAとしています。一方、同日のCLAの発表ブログが説明する機能はNVIDIA DRIVE AVによる「強化型レベル2のポイント・ツー・ポイント運転支援」で、ドライバーの監視が前提です。米国への投入は2026年末までの見込みとされています。
JLR・Lucid・Uber・Berkeley DeepDriveについて、CESのリリースの記載はレベル4開発に向けてAlpamayoに「高い関心を寄せている」までです。その後、2026年3月16日のGTCで、NVIDIAとUberはNVIDIA DRIVE AVで動く自動運転フリートを2028年までに28都市・4大陸へ展開する計画を発表しました。開始は2027年上半期のロサンゼルスとサンフランシスコ・ベイエリアで、このフリートがAlpamayoのオープンモデルを使うと明記されています。まだ計画段階で、運行実績ではありません。同じ発表では日産・いすゞもレベル4対応車の基盤としてHyperionを採用すると表明しましたが、Alpamayoの利用が明記されたのはUberのフリートでした。
利用の広がりはダウンロード数で追えます。2026年3月時点で10万人超の開発者がAlpamayo 1をダウンロードし、5月末には約40万回、8月にはファミリー合計で50万回を超えました(いずれもNVIDIA発表)。同じ自動運転の基盤モデルでも、WayveのワールドモデルGAIA-3は外部に提供されていません。重みを配布している点がAlpamayoとの大きな違いです。
Alpamayoを採用すべきでない場面
次の条件に当てはまるなら、Alpamayoを軸にするのは避けるか、用途を絞るべきです。
- 車載でそのまま動くモデルが欲しい:どの版も教師モデルです。車載用には蒸留と、DRIVE AGX Thor向けの最適化を自社で行う工程が要ります。
- NVIDIA以外の計算基盤で開発する:2 Superの検証環境はH100だけです。データセットの規約もNVIDIA技術を用いた開発に目的を限っています。
- 加工したデータを取引先と共有したい:データセットは派生物の作成と再配布が禁止されています。例外は自社と関係会社の従業員・委託先(規約上のAuthorized Users)で、自社の安全なネットワークから自社のために使う場合に限られます。
- 公開日の古い解説を根拠に判断している:2026年1月時点の「モデルの重みは非商用」「モデルは10Bのみ」という説明は、8月のライセンス変更と2 Superの公開で変わりました。周辺製品の名前も、5月発表のOmniDreamsがCosmos-Dreamsに、DRIVE HyperionがHyperionに改称されています。
逆に、自社の走行ログに判断理由の注釈を付けたい、閉ループ評価の環境をゼロから作りたくない、という目的なら、重み・シミュレーター・学習スクリプトが商用可能なライセンスでそろうAlpamayoは第一候補になります。ロボット全般を含む流れはフィジカルAIの解説で整理しています。
よくある質問
Alpamayoの読み方と意味は?
「アルパマヨ」と読みます。ペルーのアンデス山脈にある山と同じ綴りですが、NVIDIAは命名の理由を説明していません。NVIDIAの自動運転向けオープンモデル・シミュレーター・データセットの総称として使われています。
Alpamayo-R1とAlpamayo 1は違うモデルですか?
同じ10Bのモデルです。Alpamayo-R1がCES 2026のあとAlpamayo 1に改称され、2 Superの発表後は「Alpamayo 1 Nano」とも呼ばれています。Hugging FaceのIDは今もnvidia/Alpamayo-R1-10Bです。
Alpamayoは商用利用できますか?
2026年8月4日以降、モデルの重みはOpenMDW-1.1で商用利用・改変・再配布が可能になりました。コードはApache-2.0です。ただし、データセットはNVIDIA技術を用いた自社内開発に用途が限られ、再配布はできません。1と1.5のモデルカードには旧来の非商用の一文が残っているため、組み込み前にライセンス本文を確認してください。
AlpaSimとは何ですか?
NVIDIAが公開している自動運転ポリシー用の閉ループシミュレーターです(Apache-2.0)。モデルの操作結果が次の場面に反映されるため、録画データでは見えない誤差の積み重なりを評価できます。Alpamayo以外のポリシーにも対応しています。
Mercedes-Benz CLAはAlpamayoで完全自動運転になりますか?
なりません。CLAに載るのはNVIDIA DRIVE AVによる強化型レベル2の運転支援で、ドライバーの監視が前提です。レベル4はAlpamayoがロボタクシー開発向けに掲げる目標で、市販車の機能ではありません。