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オープンブックマネジメント(OBM)とは? ─ 財務情報を公開して全員参加の経営を行う手法の定義を解説

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オープンブックマネジメント(OBM)とは? ─ 財務情報を公開して全員参加の経営を行う手法の定義を解説

オープンブックマネジメント(Open Book Management, OBM)とは、企業の財務情報や業績指標を経営陣だけでなく全従業員に公開し共有する経営手法のことです。言葉のとおり“帳簿を開く”ように情報をオープンにし、従業員全員で会社の数字を把握して経営に参加します。単に数字を見せるだけでなく、その情報を基に従業員がビジネスの仕組みを理解し経営者意識を持って自律的に行動できるようにすることがOBMの本質です。そのため、情報公開とセットで財務リテラシー教育を行うことが不可欠となります。

この経営手法は、20世紀末の1980年代にアメリカで誕生しました。倒産しかけた工場を従業員買収によって手に入れたジャック・スタック氏が、従業員に財務状況をすべて公開して「みんなで会社を立て直そう」と呼びかけたのが始まりです。彼は社員に会計の仕組みを徹底的に教え、利益(スコア)の上げ方を全員で考えさせ、この取り組みを「ザ・グレートゲーム・オブ・ビジネス(GGOB)」と名付けました。財務諸表をスコアボード、従業員をプレイヤーに見立ててゲーム感覚で経営に参加させた結果、社員たちは自社の危機的な数字を自分ごととして理解し、次々と改善策を実行。会社は奇跡的なV字回復を遂げ、現在では従業員2,000人以上・年商約10億ドル規模の優良企業へと成長しました。

OBMという言葉自体を広めたのは、米インク誌の記者であったジョン・ケース氏で、1993年に提唱されたのをきっかけに注目が集まりました。日本では2001年に訳書『オープンブック・マネジメント~経営数字の共有がプロフェッショナルを育てる』が出版され、経営手法の一つとして知られるようになります。

要するにOBMは、経営の透明性を極限まで高めることで従業員の信頼と当事者意識を醸成し、全員参加型の経営を実現しようとする哲学です。情報をオープンにすることで経営陣と社員の壁を取り払い、不透明さからくる疑心暗鬼をなくして信頼関係を築きます。さらに財務教育を通じて社員が経営者の視点を身につけ、自分の仕事が会社の数字とどう結びついているかを理解できるようにします。その結果、社員一人ひとりが自分ごととして利益向上策を考え実行する自律的な組織文化が育まれるのです。

オープンブックマネジメントが注目される理由 ─ トップダウン型経営が限界を迎える背景を解説

現代のビジネス環境では、これまでのトップダウン型経営の限界が指摘されています。トップ主導の経営では一般社員は会社の状況を把握できず、自分の仕事がどう業績に影響するか実感しにくいため、従業員の当事者意識が低下しがちです。その結果、指示待ちになって思うような成果が出にくくなるケースが増えています。また、上層部だけがコスト意識を持つ従来のやり方では全社的な生産性向上に限界があり、全員が経営者の視点を持つOBMへの関心が高まっています。

さらに、情報を共有しない不透明な経営は社員の不信感を招く恐れがあります。たとえば業績悪化の理由を知らされないままノルマだけ課せられると、社員は「経営陣は何か隠しているのでは」と疑念を抱き、不信感から士気低下や離職につながりかねません。実際、「全員が財務指標を意識すると業績アップにつながる」との報告もあり、社員への情報開示と納得感のある説明が重要になっています。

加えて、ビジネスの外部環境がめまぐるしく変化する中では、現場を含め全員の知恵と迅速な対応が欠かせません。市場のグローバル化や技術革新に機敏に適応するにはトップだけでは限界があり、従業員一人ひとりが自発的に考え行動する組織へと変革する必要性が高まっています。そのための手段として、OBMが改めて注目されているのです。

また、従業員エンゲージメントの重要性も背景にあります。ミレニアル世代以降の新しい働き手は、会社に対してより透明性や公平性を求め、仕事に意義や参加実感を重視する傾向があります。OBMはそうしたニーズにも合致し、社員のエンゲージメント(愛社精神・協力意欲)向上策としても関心を集めています。

オープンブックマネジメントの目的と基本理念 ─ 経営の透明性と従業員の当事者意識の醸成を目的とする手法

OBMが目指す第一の目的は、経営の透明性を高めて社員との信頼関係を築くことです。経営指標や財務状況をオープンに共有することで、社員は「会社は隠し事をしない」という安心感を持ち、経営陣への信頼が生まれます。信頼関係が醸成されれば社員のエンゲージメントも高まり、組織の団結力が増します。

第二の目的は、従業員一人ひとりに経営の当事者意識を持たせることです。情報が共有され自分の仕事が会社の数字に与える影響を理解すると、社員は「自分ごと」として課題解決や業績向上に主体的に取り組むようになります。例えば「どうすればあと5%利益を増やせるか」を社員自ら考えて提案する—そんな全員参加の文化を根付かせるのがOBMの基本理念です。

また、OBMには「社員をパートナーとして扱う」という思想があります。社員を単なる労働力ではなく共に会社を創る仲間と位置づけ、情報や知識・成果を公平に分かち合うことで一体感ある組織を築くという考え方です。このように透明性と教育によって武装した社員たちが経営に参画し、自分たちの会社を自分たちで良くしていく——それがOBMの根底にある理念と言えるでしょう。

オープンブックマネジメントのメリット ─ 信頼関係の強化・財務リテラシー向上・モチベーション向上など

OBMを導入すると、企業と社員双方に多くのメリットがもたらされます。まず、経営の透明化によって企業と社員の信頼関係が強化されます。今まで見えなかった部分を共有することで「会社は自分たちに隠し事をしない」という安心感が生まれ、社員は経営陣への信頼を深めます。その結果、社員も会社に貢献しようという気持ちが強まり、双方向の信頼関係が築かれます。

次に、各社員が経営の実態や課題を認識できるようになります。トップだけが状況を把握していた従来とは異なり、社員も数字を通じて会社の現状を正しく理解できます。これにより経営陣との間のギャップが埋まり、危機感や目標を共有して一体となって課題解決に取り組む体制が整います。組織全体での問題解決が期待でき、結果として経営の促進につながるでしょう。

さらに、社員の財務リテラシーが向上します。会社のお金の流れを知ることで、「利益はどのように生まれ、給与にどう反映されるのか」といった基本を社員が学べます。財務知識が身につけば、どうすればより利益を上げられるか、どこを改善すれば良いかを自分事として考えるようになります。その結果、社員からコスト削減案や売上拡大策が積極的に提案されるなど、業績向上に向けた前向きな動きが生まれます。

また、社員の積極性や生産性が向上する点もメリットです。自分たちの行動が業績(数字)に直結すると理解すれば、「どう動けば利益が伸びるか」「何を変えれば課題を解決できるか」を社員が主体的に考えるようになります。指示を待つのではなく、自ら考えて行動する社員が増えれば生産性も高まります。実際に、OBM導入企業では社員の主体性が高まり生産性が向上した例も報告されています。

最後に、OBMは人材育成にもつながります。経営の透明化と教育を通じて社員一人ひとりが経営を学ぶため、社員の視野が広がりビジネスパーソンとして成長します。さらに、社員が主体的に経営に関わる文化が根付けば、会社の中から次世代のリーダーが育ちやすくなります。実際、OBMを継続している企業では自発的に経営を考え行動できる人材が増え、人材育成にも良い効果を上げています。

オープンブックマネジメントのデメリット・リスク ─ 情報漏えい・士気低下・従業員からの要望増加など

もちろん、OBMには注意すべきデメリットやリスクもあります。まずは情報漏えいのリスクです。社内で広く財務データを共有すると、万一社外に漏れた場合に競合他社に財務状況を知られてしまう恐れがあります。特に非上場企業の場合は法的な開示義務がないため情報管理の意識が低く、うっかり社外に数字を話してしまうリスクも考えられます。この対策として、社員に機密保持契約を結ばせる、公開資料に閲覧制限をかけるなど情報管理ルールを徹底することが必要です。

次に、業績悪化時に社員の士気が低下するリスクです。公開された数字が悪いと「こんなに頑張っているのに利益が出ていない…」と社員が落胆し、モチベーションを下げてしまう可能性があります。しかし、ジョン・ケース氏は「悪い数字も隠さずオープンにした方が不信感を減らせる」と述べています。実際に業績が悪化した際、あえて開示して社員と危機感を共有し、全員で改善に取り組んだ方が建設的です。悪い情報ほど敢えて共有し、「一緒に乗り越えよう」と呼びかける姿勢が重要だと言えます。

反対に、業績好調時には社員から待遇改善要求が増えるリスクもあります。利益が出ていると分かれば「給与を上げてほしい」「ボーナスをもっと出してほしい」などの要望が噴出し、対応しきれなくなる恐れがあります。これに対しては、利益の配分方針を事前に決めて周知しておくことが有効です。例えば「利益の◯%は社員に賞与で還元し、残りは設備投資に回す」といったルールを透明性高く示せば、たとえ全要望に応えられなくても社員は納得しやすくなります。実際、星野リゾートでは会社の利益目標を達成した場合に全社員に公平に賞与を支給する仕組みを取り入れ、社員の理解を得ています。

その他の課題としては、OBM導入に手間とコストがかかることも挙げられます。社員教育の実施、情報共有のシステム整備、定期的なミーティングなどに時間や費用を要するため、短期的には負担となるでしょう。しかし、これは将来への投資と考えるべきです。社員の経営力が高まれば無駄なコスト削減や業務効率化の提案が増え、長期的には投入したコスト以上のリターンが期待できます。

また、数字の誤解による混乱も注意点です。財務知識がないまま数字だけ見せられると、社員が数字を誤解して動揺したり、不安を感じたりする恐れがあります。例えば「会社にこんな利益があるのに自分の給料は増えない」といった誤った不満が生じるかもしれません。これを避けるには、先述したように段階的な情報開示と平行した教育が必要です。社員が数字の見方を理解できるよう研修を行い、開示する情報も部署ごとに取捨選択するなど工夫すれば、誤解や混乱は防げます。

導入のポイントと成功させる条件 ─ 情報公開の一貫性、教育、報酬制度などを整える

OBMを社内に根付かせ成功させるには、いくつかのポイントがあります。第一に、情報公開は徹底して一貫性を保つことです。公開すると決めた財務情報は常に開示し続け、一時的に隠したりしないようにします。途中で非公開に戻すと「何か隠し事があるのでは」と不信感を招きかねません。ジョン・ケース氏も「OBM成功のポイントは徹底した情報公開だ」と述べています。最初から最後まで隠し事のない姿勢を貫くことが重要です。

第二に、社員のビジネスリテラシーを向上させることが不可欠です。社員が財務データを理解できなければ情報公開の意味がありません。財務諸表の読み方や利益の仕組みなど、財務・ビジネスの基礎知識を教育して社員の理解力を高めます。例えば研修や勉強会で自社の決算書を教材に学習し、数字のどこに注目すべきか共有します。社員全体のリテラシーを底上げすることで、情報公開の効果が最大化されます。

第三に、現場への権限委譲(エンパワーメント)を進めます。情報が共有されても、社員に決定権がなければ主体的な行動にはつながりません。そこで可能な範囲で現場に権限を移譲し、社員が自分の判断で動けるようにします。例えば予算配分の一部を現場の裁量に委ねたり、小さな投資判断を部門で完結できるようにするなどです。社員が自分の行動で業績を変えられると実感できれば、情報へのコミットメントも一層高まります。

第四に、公平な成功報酬体系を整えることも成功の条件です。情報を共有すると、業績が上がった際には「その利益を自分たちにも還元してほしい」と社員が考えるのは自然な流れです。そこで、利益に応じて報酬や賞与を分配する仕組みをあらかじめ用意します。報酬の算定方法もすべて公開すれば、社員は自分の働きが会社の利益にどう貢献し、自分の給与にどう反映されるかを理解できます。これは教育にもなり、努力が報われることで社員のモチベーションも向上します。

最後に、経営トップのコミットメントと社員への信頼が欠かせません。経営者自身がOBMの意義を信じ、粘り強く推進する姿勢を示すことが成功への前提です。トップが率先して情報公開と教育に取り組めば、社員もそれに応えます。また社員をパートナーとして扱い信頼する文化を醸成することも重要です。経営トップが「社員を信じて任せる」というメッセージを発信し続けることで、組織全体に相互信頼の風土が生まれ、OBMの取組みがスムーズに定着します。

財務リテラシー教育の重要性 ─ 開示情報を理解できるよう教育や勉強会を実施

OBM導入において、社員への財務リテラシー教育は極めて重要です。財務知識が不足した状態で数字だけ公開しても、社員は内容を正しく理解できず効果が半減してしまいます。例えば損益計算書を見ても読み解けなければ、経営が数字を共有する意図が伝わらず、社員の行動につながりません。こうした弊害を防ぐには、計画的に社員の財務教育を行う必要があります。

まず、基礎的な財務教育を徹底します。財務諸表(P/LやB/S)の読み方や利益の仕組みなど、基本知識を社員に習得させます。例えば新人研修や全社員向けの勉強会で、自社の決算書を教材に数字の見方を教えます。社員が公開された情報を正しく理解できるようになることが第一目です。

次に、教育の方法にも工夫します。講義形式だけでなく、実践的・参加型の学習を取り入れて楽しく学べる場を作ります。例えばゲーム形式の研修やグループワークショップを開催し、チーム対抗で利益改善策を競い合うといった取り組みです。実際、ジャック・スタック氏はOBM推進にあたりゲーム感覚の研修(GGOB)で社員に財務を教えました。楽しみながら学ぶことで定着率が上がり、社員同士の結束も強まります。

また、社内勉強会を定期的に実施することも有効です。月次決算のタイミングで財務状況を共有し、社員と一緒に数字を振り返るミーティングを開く企業もあります。そうした場で社員から質問や意見を募り、双方向の学習を続けることでリテラシーは向上します。重要なのは一過性で終わらせず継続支援することです。定期的な研修やeラーニングで知識をアップデートし、理解度テストなどで習熟度を確認してフォローします。

財務リテラシーが向上すると、社員の意思決定力も強化されます。数字に基づいて論理的に考え、自律的に判断できるようになるからです。また社員が経営の背景を理解すれば、経営陣の判断にも納得感を持って従えるため組織の一体感が増します。つまり財務リテラシー教育は、OBMによって社員が経営に参画し成果を上げるための土台づくりと言えるでしょう。

オープンブックマネジメントの導入ステップ ─ 準備・情報公開範囲・教育・権限委譲の流れを解説

最後に、OBM導入の大まかな流れを5つのステップに沿って解説します。ただし各社の状況によって柔軟に調整が必要です。

ステップ1:導入準備 ─ まず経営陣で目的を共有し、OBM導入の計画と体制を整えることから開始するのが望ましい

最初に、経営トップおよび経営陣でOBM導入の目的と方針を共有します。「何のためにOBMを導入するのか」「どのような効果を期待するのか」を明確に定め、トップダウンで社内に宣言します。そのうえで、推進プロジェクトチームを発足させ、ロードマップ(スケジュール)を策定します。また、公開する情報・しない情報の整理も重要です。株主との契約上公開できない情報や個人情報などは事前に洗い出し、開示ポリシーを決めておきます。

ステップ2:公開範囲の決定 ─ 開示する財務情報の範囲と対象者を決め、段階的に情報公開を進める段取りをする

次に、どの情報をどこまで公開するかを決定します。まずは損益計算書や売上・利益といった主要な数字から始め、徐々に公開範囲を広げていくのが一般的です。例えば部署別の売上・利益を共有した後、慣れてきたら貸借対照表やキャッシュフローも共有するといった具合です。また、公開対象も決めます。最初は管理職以上に限定し、準備が整った段階で全社員に広げるケースもあります。大切なのは社員の理解度を見ながら段階的に公開を拡大することです。

ステップ3:社員教育の実施 ─ 従業員に財務リテラシー研修を行い数字を理解する力を身につけさせること

情報公開と並行して、社員への財務教育を行います。前述のとおり、財務知識がなければ数字を見せても意味がないので、研修や勉強会で財務リテラシー研修を実施します。損益計算書の読み方、自社の収益構造、重要な経営指標の意味などを丁寧に教え、社員が数字の背景を理解できるようにします。教育の際には一方的な講義だけでなく、クイズ形式やグループ討議などを交え、社員が主体的に参加できる工夫をすると効果的です。

ステップ4:権限委譲とインセンティブ ─ 各部署に権限を委譲し成果に応じたインセンティブ制度を導入する

社員が数字を理解し始めたら、現場への権限委譲を進めます。社員が自分の裁量で動ける範囲を広げ、経営改善のアイデアを実行に移せるようにするのです。例えば、現場がコスト削減策を提案したら一定金額までは現場判断で実行できるよう権限を与える、といった具合です。同時に、インセンティブ制度も導入しましょう。業績が上がったら全員に公平に賞与を配分するなど、成果に報いる仕組みを作ります。星野リゾートでは利益目標を達成すれば全社員に一律賞与が支給される制度を導入し、社員のやる気向上に成功しました。

ステップ5:フォローアップと改善 ─ 導入後も経営指標を継続的にモニタリングし、必要に応じて制度を改善する

OBM導入後も、定期的なフォローアップが不可欠です。毎月の業績数字を経営陣と社員で一緒に振り返るミーティングを行い、「目標未達の原因は何か」「来月に向けてどう改善するか」を議論します。こうした対話を継続することで、社員の当事者意識を維持できます。また、運用しながら制度の見直し・改善も行いましょう。社員から「この指標も共有してほしい」「このルールを変えてほしい」といった声が上がれば真摯に検討し、必要に応じて制度をアップデートします。常にPDCAサイクルを回し続けることで、OBMは組織に定着し、時代に合わせて進化していくのです。

成功事例(国内外) ─ SRCホールディングス(アメリカ)や星野リゾート(日本)の導入事例紹介

最後に、OBMを実践して成功を収めた企業の事例を米国と日本から見てみましょう。異なる業種・文化の企業ですが、OBMによって大きな成果を上げた点は共通しています。

米国事例:SRCホールディングス社(旧スプリングフィールド社)

アメリカでOBMの成功例として有名なのがSRCホールディングス社です。同社は1983年にジャック・スタック氏ら従業員12人が買収した工場からスタートしました。当初は老朽設備と巨額の負債を抱え倒産寸前でしたが、スタック氏は財務情報を全社員に公開し、「全員で会社を立て直すゲームをしよう!」と呼びかけました。彼は社員に会計のルールを徹底的に教え、どうすれば利益(スコア)が上がるかを全員で考えさせる「ザ・グレートゲーム・オブ・ビジネス」(GGOB)を展開しました。その結果、社員たちは自社の危機を自分ごとと捉え、コスト削減や生産性向上のアイデアを次々と実行。会社は見事にV字回復を遂げ、その後従業員2,000人・年商10億ドル規模の企業へと成長しました。SRC社の成功は、OBMが社員の起業家精神と創意工夫を引き出し、企業を再生・成長させた好例と言えます。実際、同社の株価はEBO当初より大きく上昇し、社員たちは株主として経済的果実も得ました。まさにOBMは会社を救っただけでなく社員に豊かさをもたらしたのです。

国内事例:星野リゾート(日本のリゾート運営企業)

日本における代表的なOBM成功企業が星野リゾートです。同社では2002年から全社員に売上や利益などの経営状況を詳細に公開しています。最大の特徴は、業績連動型の賞与制度と組み合わせている点です。会社が設定した利益目標を達成すれば全社員に公平に賞与を支給するため、社員は自分の仕事が報酬に直結していることを強く実感できます。これにより「どうすれば顧客満足度を高め、利益目標を達成できるか」を全社員が真剣に考える文化が根付いています。また同社は数字だけでなく「コンピテンシー評価」(考える力・接客力・リーダーシップなど目に見えにくい能力を評価する制度)も導入しており、短期的な業績向上と長期的な人材育成の両立を図っています。星野リゾートの事例は、OBMが社員のモチベーション向上と人材力強化に寄与し、持続的成長につながることを示しています。

事例に見る共通の成功要因

SRCホールディングス社と星野リゾート、一見まったく異なる企業ですが、その成功には共通点があります。第一に、経営トップの揺るぎないコミットメントです。経営者自らがOBMの価値を信じ、粘り強く推進しました。第二に、社員の教育への徹底投資です。数字を共有するだけでなく、社員がそれを理解し活用できるよう研修に力を入れました。第三に、成果と報酬の明確な連動です。努力が報われる公平で透明な仕組みが社員のモチベーションを支えました。そして第四に、従業員を「パートナー」として扱う文化です。社員を信頼し尊重し、共に会社の未来を創るという哲学が組織の根幹にありました。これらの要因こそ、OBMを成功に導く普遍的な鍵と言えるでしょう。

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