パーパス経営とは何か?その概要と企業の存在意義を軸にした経営手法の重要性まで詳しく徹底解説

目次

パーパス経営とは何か?その概要と企業の存在意義を軸にした経営手法の重要性まで詳しく徹底解説

パーパス経営の定義と概要:企業の存在意義を軸に据えた新しい経営モデルとは何か、その重要性と本質に迫る

パーパス経営とは、一言で言えば「企業の社会における存在意義(パーパス)を明確に掲げ、そのパーパスを軸として経営を行う手法」です。従来のように利益最優先で動くのではなく、「自社は社会に対して何のために存在し、どのような価値を提供するのか」を企業活動の中心に据える新しい経営モデルです。欧米ではPurpose Driven Business(パーパスを原動力にしたビジネス)とも呼ばれ、近年この考え方が世界的に広がっています。

例えば、アウトドアブランドのパタゴニアは「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」というパーパス(存在意義)を掲げており、全売上の1%を環境保護団体に寄付する、製品素材を環境に優しいものに切り替えるなどの取り組みを実践しています。このようにパーパス経営では社会貢献と事業活動が深く結びついており、日本でも次世代の経営モデルとして注目され、多くの企業が導入し始めています。

企業の存在意義を問い直す経営手法とは何か?金銭的利益以上の目的を掲げる意義と社会的役割を考察

パーパス経営が注目される背景には、「企業の存在意義を問い直す必要性」があります。産業革命以降、企業は利益の最大化を追求して急成長を遂げてきましたが、その過程で環境破壊や労働搾取、経済格差など様々な社会課題も生み出してしまいました。こうした反省から、単に金銭的な利益を追求するだけでなく「自社はなぜ存在し、社会にどう貢献すべきか」という根本的な問いに立ち返る動きが強まっています。パーパス(存在意義)を軸に据えることで、企業活動による社会への負の影響を減らし、むしろ社会課題の解決に寄与しようというわけです。

また、パーパスは企業にとっての「内発的動機」にもなります。つまり外部から与えられた使命ではなく、企業内部から湧き上がる志として、社員一人ひとりの働く意義と結びつくのです。社員にとっても「なぜこの会社で働くのか」という問いへの答えになり得るため、単なる利益目標よりも強い共感とやりがいを生み出します。金銭的リターン以上の目的を掲げることは、企業が長期的な視野で社会と調和しながら存続・発展していくための土台となるのです。

従来の利益優先型経営とどう違うのか?社会への貢献を経営に組み込む革新的アプローチを解説

パーパス経営と従来の利益優先型経営との最大の違いは、ステークホルダー(利害関係者)に対する考え方です。旧来の株主資本主義的経営では、株主利益の最大化が最優先であり、「ヒト」はコスト、「環境」は外部性として切り離されがちでした。しかし近年、企業は事業を通じて社会をより良くしていく責任があるとの考え方が浸透しつつあります。その転換点となった出来事の一つが、2019年の米ビジネスラウンドテーブルによる「企業のパーパス」に関する声明です。同声明では株主至上主義の見直しと「人や社会を重視する経営」への転換が宣言され、企業の役割を見直す契機となりました。

つまり、パーパス経営では「利益を手段として社会価値を創出する」という発想に立っています。利益そのものは企業存続に不可欠ですが、それはあくまで手段であり、最終目的は社会への貢献にあります。一方、従来型では「社会貢献は利益達成後の余裕があれば行うもの」程度の位置付けでした。パーパス経営は社会貢献と事業活動を両輪に据える革新的アプローチであり、事業戦略の段階から環境・社会への配慮を組み込みます。例えば投資判断一つ取っても、財務リターンだけでなく社会・環境への影響を考慮するようになるなど、経営判断の基準が大きく変化します。このように、企業のあらゆる行動規範に「社会とのつながり」を組み込む点が、パーパス経営の革新性と言えるでしょう。

社会に対する企業の役割を再定義するパーパス経営の価値とは何か?企業文化に与える影響についても解説

パーパス経営は、企業の社会における役割を再定義するものです。企業活動が社会に与える影響力が大きくなった現代において、企業はもはや社会とは無関係な存在ではありえません。パーパス経営を通じて「自社が社会にもたらす価値は何か」を見つめ直すことは、企業にとって社会との新たな関係構築を意味します。その価値は、社会からの信頼と期待に応えることで企業ブランドを高め、ひいては事業の安定・発展につながる点にあります。

さらに、パーパス経営は企業文化にも良い影響をもたらします。明確な存在意義が共有されることで、社員は自社の一員であることに誇りを持ちやすくなり、組織として一体感が高まります。社員それぞれが「自社の事業を通じて社会に貢献している」という実感を得ることで、仕事への意欲やロイヤルティも向上します。例えば日本企業に古くから伝わる「三方よし」(売り手・買い手・世間よし)の精神は、まさにパーパス経営の先駆けとも言える考え方です。パーパス経営によって企業は改めてこの精神を現代的に実践し、社会との共生を図る企業文化へと変革していくことが期待されています。

持続可能な成長と信頼構築におけるパーパス経営の重要性とは?長期的視点で得られるメリットを考える

企業が長期的に存続・成長していくためには、社会からの信頼と支持を得続けることが不可欠です。パーパス経営は、まさにその信頼構築の要となります。社会的意義のあるパーパスを掲げ真摯に取り組む企業は、消費者や投資家から共感と支持を得やすく、結果的に長期的なブランド価値向上や持続的成長につながります。実際、環境・社会に配慮した企業ほどESG投資家から選好され、資金調達や株価面でも有利になる傾向があります。

また、パーパス経営によって培われた「社会のために役立つ事業をする」という企業理念は、社内外のステークホルダーとの強固な絆を生みます。それは有事の際のレジリエンス(危機耐性)にも寄与します。たとえば不祥事や経営危機に直面しても、日頃から社会に貢献している企業であればステークホルダーの支援を得て乗り越えやすいでしょう。さらに、パーパスに基づく経営は短期的な利益変動に一喜一憂せず長期ビジョンに沿った意思決定を促すため、不確実性の高いVUCA時代においても安定した舵取りを可能にします。このように、パーパス経営は企業の持続可能な成長を支える土台として非常に重要なのです。

パーパスとミッション・ビジョン・バリューとの違いと役割を正しく理解

パーパスとは何か:MVV(Mission/Vision/Value)と混同されやすい概念を正しく理解

ビジネスにおける「パーパス」とは、企業が「なぜ存在するのか」という根源的な意義を示すものです。直訳すれば「目的・意図」ですが、企業文脈では単なる目標ではなく「社会における存在意義」や「企業が果たす大義」を意味します。一方、企業理念体系には古くからMission(使命)・Vision(未来像)・Value(価値観)というMVVの枠組みがあります。パーパスはこれらMVVと似た領域に位置しますが、含意が異なります。

MVVは企業の方向性や価値観を示すために用いられる概念ですが、パーパスとの違いは大きく二つあります。第一に、パーパスには必ず「社会的な意義(社会への価値)」が含まれる点です。Mission・Visionには必ずしも社会貢献の要素は求められませんが、パーパスはその企業が社会で果たす役割を明確にします。第二に、パーパスは企業内部から湧き出る志(内発的なもの)であるのに対し、MissionやVisionは経営陣が設定する目標や将来像(やや外発的なもの)である点です。このように、パーパスはMVVと重なりつつも「より社会と結びついた企業の根本理念」と言えるでしょう。

Mission(ミッション、企業の使命)との違い:社会的意義を軸とするパーパスとの根本的相違点を解説

ミッション(使命)は、企業が「何を成し遂げるべきか」という具体的な使命や責務を指します。例えば「世界一の製品を開発する」「○○業界をリードする」といったように、企業として達成したい事柄を表現するのがミッションです。一方でパーパスは「なぜその使命を果たすのか」という存在理由を包含します。ミッションとパーパスは一見近い概念ですが、パーパスはミッションの背後にある社会的意義や大義を強調する点で異なります。

具体例で考えてみましょう。ある企業のミッションが「革新的な医薬品を開発する」だとします。このミッション自体は企業の目標ですが、そのパーパスを問えば「医薬品開発を通じて世界中の患者の命を救う」といった具合になります。ミッションが企業の達成目標を示すのに対し、パーパスはその目標達成が社会にもたらす価値まで含めて説明するのです。ミッション策定時には売上目標や市場シェアといった観点が強調されがちですが、パーパス策定では社会課題への貢献度や公益性が重視されます。この違いにより、ミッションは社内目線での「成すべきこと」、パーパスは社外目線も含めた「存在意義」として役割が分かれているのです。

Vision(ビジョン、企業の将来像)との違い:ビジョンが描く未来像とパーパスが示す存在意義の違いを整理する

ビジョンは、企業が将来的に「どのような姿になりたいか」「どんな未来を実現したいか」を示す理想像です。例えば「2030年までに業界トップになる」「○○によって世界を変革する」といった形で、中長期的な目標像を描くのがビジョンです。一方でパーパスは前述の通り企業の現在の存在理由を示すもので、時間軸というよりは企業の普遍的な意義を表します。

したがってビジョンは将来指向、パーパスは存在意義指向という違いがあります。ビジョンは時代や経営環境によって変更されることもありますが、パーパスは企業の根幹として基本的に不変で長期にわたって持ち続けるものです。ビジョンが実現すべき「どこに向かうのか」を示すのに対し、パーパスは「なぜそこに向かうのか」を支える土台となります。例えば、ある企業のパーパスが「持続可能なエネルギー社会を実現する」ことであれば、そのビジョンは「再生可能エネルギー普及率を〇%に高める」など具体的な未来像として表現されるでしょう。そしてパーパス(社会的使命)があるからこそ、そのビジョンにも社内外の共感が集まり、強い推進力が生まれるのです。

Value(バリュー、企業の価値観)との違い:組織の価値観を示すバリューとパーパスが果たす役割の違いを理解する

バリュー(企業の価値観)は、社員が日々の行動で大切にすべき指針や企業文化上の信条を指します。例えば「顧客第一主義」「挑戦と革新を尊ぶ」「誠実さと倫理を重んじる」といった具合に、会社として譲れない価値基準や行動規範を示すのがバリューです。これらバリューは企業の内部文化を形成し、社員の意思決定や振る舞いを方向付けます。

パーパスとバリューの違いは、パーパスが「存在理由(なぜやるか)」なのに対し、バリューは「行動指針(どのようにやるか)」という点です。パーパスが定まれば、その実現のためにどんな価値観を持って行動すべきかがバリューとして定義されます。例えば先ほどの例で企業のパーパスが「持続可能なエネルギー社会の実現」だとすれば、バリューとして「環境への責任」「科学的エビデンスに基づく意思決定」「オープンイノベーションを推進」といった具体的な価値観が設定されるかもしれません。バリュー自体は社会への直接的な貢献を含む必要はありませんが、パーパスやミッションを達成する上で社員が共有すべきマインドセットとして位置付けられます。

このように、パーパス・ミッション・ビジョン・バリューは互いに補完し合う関係です。パーパスが土台となり、ミッションが目標を示し、ビジョンが将来像を描き、バリューが日々の行動を支えることで、企業理念体系が一貫性と柔軟性を両立するのです。

パーパスが果たす役割:MVVとPurposeを統合した経営理念体系におけるパーパスの意義を考える

パーパスは経営理念体系(企業の哲学)の中で、いわば「北極星」のような役割を果たします。パーパスが明確に定まることで、Mission・Vision・Valueといった各要素に一本筋が通り、全体としてブレない理念体系が構築できます。実際、近年は従来のMVVを再定義してパーパスを最上位に据える企業も増えてきました。パーパスを明文化し周知することで、社員はミッションやビジョンの変化(時代に応じて目標が変わること)はあっても、企業の根本的な存在意義は不変であることを理解できます。

もっとも、企業によってはパーパスとミッションを厳密に区別せず、既存の経営理念にパーパス的要素を取り込んでいる場合もあります。大切なのは企業が社会に約束する目的(Purpose)を明確化し、社内外に一貫して示すことです。経営理念体系におけるパーパスの意義は、企業の意思決定から社員の日々の行動に至るまで共通の拠り所を提供し、組織のベクトルを揃えることにあります。それによって、戦略変更を余儀なくされる場面でもパーパスが不変の軸となり、企業は柔軟性と一貫性を両立できるのです。

なぜパーパス経営が企業に注目されるのか?社会的背景とその理由

SDGsやサステナビリティへの関心の高まり:社会課題解決を求める声の増加と企業への期待

2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の浸透により、企業にも持続可能な社会づくりへの貢献が強く求められるようになりました。気候変動や貧困、ジェンダー平等など17の目標からなるSDGsは、企業が主導して取り組むべき課題も多く含んでいます。この潮流を受けて、「単に利益を上げるだけでなく、環境・社会に配慮した経営を」というサステナビリティ経営の重要性が高まりました。

持続可能な社会を実現するには、企業が自社の存在意義や価値観を見直し、長期的視点で事業を行うことが不可欠です。そのため、企業は自社のパーパス(存在意義)を再定義し、自社の事業がどのように社会課題の解決に寄与できるかを明示する必要に迫られています。実際、多くのグローバル企業が自社のパーパスをSDGsの目標に絡めて設定し、持続可能性へのコミットメントを表明しています。SDGs時代の到来は、パーパス経営が注目される大きな背景と言えるでしょう。

ESG投資の拡大:企業価値評価における社会・環境配慮の重要性が高まる

近年、投資の世界でもESG(環境・社会・ガバナンス)を重視する動きが広がっています。従来は企業の財務指標が投資判断の主軸でしたが、今や「環境や社会に貢献しているか」が投資家の重要な関心事項となりました。その結果、環境・社会課題に積極的に取り組む企業ほど投資家に選ばれやすくなっています。例えば再生可能エネルギーに注力する企業やダイバーシティ経営を推進する企業は、株式市場でも高い評価を受けやすい傾向があります。

このESG投資の潮流は、企業にとってパーパス経営への転換を後押しする理由の一つです。企業が社会課題解決につながる明確なパーパスを掲げていることは、投資家に対し「長期的な視点で持続的成長を目指している企業」というメッセージになります。たとえば気候変動対策をパーパスに据える企業は、環境リスクへの対応力があると判断され、資本市場で有利に働くでしょう。逆に、社会的意義を無視した企業は将来的に投資対象から外されるリスクがあります。こうした投資家の価値観の変化も、企業がパーパス経営に舵を切る重要な背景となっています。

ミレニアル・Z世代の台頭:社会貢献する企業への共感と支持を重視する価値観の浸透

労働市場や消費市場では、ミレニアル世代(1980年代〜90年代生まれ)やZ世代(1990年代後半〜2010年代生まれ)が主要層になりつつあります。これらの世代はインターネットとともに育ったデジタルネイティブであり、多様な情報や価値観に日常的に触れていることから、企業の社会的責任に対する意識が高い傾向があります。実際、消費行動においても環境や社会に配慮した「エシカル消費」を志向する割合が大きく、ある調査では81.2%の消費者が倫理的な商品・サービスを選びたいと回答しています。

このような若い世代の台頭により、企業は経済的価値だけでなく社会的価値を提供できるかどうかが支持を得る鍵となりました。彼らは企業のパーパス(社会的意義)に共感できるかを重視し、共感できる企業の商品を選び、共感できる企業に就職したいと考えます。例えば、自社のビジネスを通じて環境問題に取り組む企業はミレニアル・Z世代から強い支持を集める傾向があります。逆に社会貢献の姿勢が感じられない企業は、これらの世代から選ばれにくくなってきています。企業にとって、若い世代からの支持は将来の市場ポジションを左右する重大事項であり、パーパス経営への注目が高まる大きな理由となっているのです。

VUCA時代における経営環境の変化:Purposeで指針を共有し不確実性に柔軟に対応する必要性

現代はVUCA(ブーカ)と呼ばれる、先行きが読みにくい経営環境にあります。VUCAとは変動性(Volatility)・不確実性(Uncertainty)・複雑性(Complexity)・曖昧性(Ambiguity)の頭文字を取ったもので、技術革新や市場変化のスピードが速く将来予測が難しい状況を指します。このVUCA時代では、従来のような長期計画の前提が次々に覆されるため、企業は環境変化に機敏かつ柔軟に対応する力が求められます。

そこで役立つのが全社で共有されたパーパス(不変の指針)です。経営環境が激変しても、「我が社は何のために存在するのか」「どのような価値観にもとづき行動すべきか」が社員全員で共有されていれば、状況に応じて戦略を機動的に変えても企業の軸がぶれません。例えば新規事業の判断や組織再編を行う際にも、パーパスに照らして「我々の存在意義に沿う選択か」を判断基準にできます。これは不確実な時代にあっても企業の意思決定の一貫性を保ち、組織をまとめる強力な力となります。パーパス経営への注目は、変化の激しい時代だからこそ企業にとって確固たる“羅針盤”が必要とされていることの表れなのです。

株主至上主義からステークホルダー資本主義へ:企業の役割に対する期待の変化が背景にある

パーパス経営台頭の背景には、資本主義のあり方そのものの変化もあります。20世紀後半から長らく企業経営は株主利益の最大化を至上命題としてきました。しかし21世紀に入り、その行き過ぎを見直す動きが活発化しています。象徴的なのが前述した2019年のビジネスラウンドテーブルによる声明で、そこでは「企業は株主だけでなく従業員・顧客・取引先・地域社会などすべてのステークホルダーに価値を提供すべきだ」と宣言されました。この宣言は「ステークホルダー資本主義」への転換点とされ、世界の企業経営者に大きな影響を与えました。

また、2018年には世界最大の資産運用会社ブラックロックのCEO、ラリー・フィンク氏が年次書簡で「企業はパーパス(存在意義)を持たねば長期的に繁栄できない」と指摘し話題となりました。こうした潮流を受け、企業は株主だけでなく社会全体への責任を果たすことが期待されています。日本でも近年「新しい資本主義」や「人的資本経営」といったキーワードが登場し、企業の社会的価値に注目が集まっています。パーパス経営は、まさにこの株主至上主義からステークホルダー重視経営へのパラダイムシフトを具体化する経営手法と言えます。企業が社会の公器としての役割を果たすことが強く求められる時代背景が、パーパス経営への注目度を高めているのです。

パーパス経営が企業に与えるメリットとプラスの効果

迅速な意思決定と戦略判断の質向上:パーパスが道標となり組織の方向性を統一する

パーパスが社内に浸透すると、企業内のあらゆる意思決定において「我が社の存在意義に照らして正しいか」が判断基準になります。社員全員が共有するパーパスは、いわば全員にとっての共通の“道標”です。そのため現場レベルでも判断がしやすくなり、意思決定のスピードが上がります。迷ったときはパーパスに立ち返れば方向性が定まるため、稟議や協議に費やす時間が減り、意思決定が迅速化するのです。

また、意思決定の質も向上します。パーパスという高次の指針に沿った判断であれば、大きく方向を誤るリスクが低減します。中長期的な視野で戦略を考える際にも、パーパスが軸にあることで判断基準が明確になり、ぶれない戦略策定が可能です。例えば新規事業の立ち上げ時、「それは当社の存在意義に資するか?」という問いをクリアしたアイデアに絞り込めるため、経営資源の最適配分につながります。パーパス経営によって組織のベクトルが統一されることは、スピーディーかつ質の高い意思決定を促す大きなメリットと言えるでしょう。

従業員エンゲージメントと士気の向上:自社で働く意義が明確になり仕事への誇りが高まる

パーパス経営は従業員のエンゲージメント(仕事に対する熱意や愛着心)向上に直結します。明確なパーパスのもとでは、社員は「自分の仕事が社会にどう役立っているのか」を実感しやすくなるためです。例えば、「自分は単に商品を売っているのではなく、人々の生活を豊かにする一助を担っているのだ」と理解できれば、日々の業務に対する誇りとモチベーションが高まります。

一方、パーパスが欠如した状態では「自分は何のために働いているのか」が見えにくくなり、社員のエンゲージメントは低下しがちです。パーパス経営により企業の存在意義と個人の働く意義が結びつけば、社員は自らの仕事に意味を見出しやすくなります。その結果、「この会社で働くことに誇りを感じる」という社員が増え、離職率の低下や社員の主体性向上といったプラス効果も期待できます。実際、多くの企業でパーパス導入後に従業員満足度やエンゲージメント指数が向上したという報告があります。社員一人ひとりの心に火を灯す――これもパーパス経営の大きなメリットなのです。

ステークホルダーからの信頼・支持の獲得:ブランド価値向上と長期的成長につながること

パーパス経営に真剣に取り組む企業は、社外のステークホルダーから高い評価と支持を得やすくなります。消費者は自分の価値観に合致する企業の商品やサービスを選ぶ傾向が強まっており、「環境に優しい製品を作る企業」「地域社会に貢献する企業」に対しては積極的にお金を使います。パーパスに共感した顧客が増えればブランドロイヤリティが向上し、結果として売上や業績の向上にもつながります。

同様に、投資家やビジネスパートナーからの信頼獲得にもパーパスは有効です。明確なパーパスを掲げる企業は「社会的責任を果たそうとしている健全な企業」と見なされ、長期的視点の投資や良質な取引関係を引き寄せます。例えばある調査では、持続可能な経営を行う企業は従来型企業に比べ企業価値(ブランド価値)が長期的に高まりやすいとの結果も報告されています。さらに社内では、パーパスに共鳴した社員が自社のアンバサダー(支持者)としてSNS等で企業の良さを発信してくれることもあり、それがまた新たなファン層や顧客層の開拓につながるという好循環も生まれます。ステークホルダーから広く支持される企業になること――これこそパーパス経営がもたらす最大の成果の一つでしょう。

イノベーション創出の促進:共通目的により新しいアイデアが生まれやすい環境を醸成する

パーパス経営は企業内のイノベーション創出にも好影響を与えます。その理由の一つは、パーパスが「社会課題を解決しよう」という視点を提供してくれることです。社員がユーザーや社会の潜在ニーズを意識しやすくなり、新たな商品・サービスの着想につながります。実際、社会性の高い目標を掲げる企業ほど、社内から革新的なアイデアが出やすいと言われます。たとえば環境問題をパーパスに掲げた企業では、廃棄物削減や省エネに関する斬新な提案が社員から次々と上がってくる、といったケースが見られます。

さらに、パーパスが組織に浸透すると社員同士の結束が強まり、心理的安全性の高い職場風土が醸成されます。皆が共通の目的に向かっているとの認識があるため、お互いに自由に意見を出し合い、建設的に議論しやすくなるのです。その結果、新規事業のブレストでも活発にアイデアが飛び交い、異なる部署間でも協力してプロジェクトを進める文化が育ちます。エンゲージメント向上 → 自発的行動の増加 → 創造的アイデアの創出という好循環が生まれ、これまで以上にイノベーションが起こりやすくなるでしょう。パーパス経営は企業に「社会を良くするための創意工夫」というモチベーションを植え付け、次世代の成長エンジンを生み出す原動力にもなるのです。

優秀な人材の採用・定着への寄与:Purposeに共感する人材が集まりやすく離職率が低下すると期待される

魅力的なパーパスを持つ企業には、それに共感する優秀な人材が集まりやすくなります。近年「仕事のやりがい」や「企業の社会的意義」を重視する求職者が増えており、自社のパーパスを明確に示すことは採用マーケットで大きなアピールポイントとなります。実際、採用活動において企業がパーパスを打ち出す「パーパス採用」という手法も注目されており、自社の存在意義やビジョンに共感する人材を引き寄せやすくなるメリットが報告されています。

さらに、入社後の定着率向上にもパーパスは寄与します。パーパスに共感して入社した社員は、働く中で多少の困難があっても「この会社で働く意味がある」と感じやすいため、離職しにくい傾向があります。また、企業文化とのミスマッチも減ると言われています。これはパーパスが企業と社員の価値観の接着剤となり、一体感を生むためです。例えば社内調査で「自社のパーパスに誇りを持っている」と回答する社員が多い企業ほど、エンゲージメントや定着率が高いというデータもあります。優秀な人材の確保と長期的な活躍を促す上でも、パーパス経営は大きな武器になるでしょう。

パーパス経営を実装する手順:自社でPurposeを導入する方法

ステップ1:ステークホルダーおよび自社の徹底分析から着手する

パーパス経営導入の第一歩は、現状の徹底分析です。まずはステークホルダー(顧客・取引先・社会・従業員・株主など)に対する理解を深めましょう。具体的には、顧客アンケートや市場調査を通じて自社への期待や評価を洗い出したり、仕入先や提携先から自社に求める役割をヒアリングしたりします。また、CSR評価機関や投資家のレポートを調べ、自社の社会・環境面での評価ポイントや課題も確認します。

同時に自社の内部分析も重要です。自社の強み・弱み、経営資源、組織文化などを多角的に見直します。SWOT分析や3C分析、ケイパビリティ(能力)分析などを用いて、自社の本質的なコア・コンピタンス(中核能力)を把握しましょう。例えば「当社の卓越した技術は何か」「創業以来大切にしてきた価値観は何か」「社会から認められている当社の長所は何か」といった観点で棚卸しをします。ステークホルダーのニーズと自社の強みが交わる領域こそ、パーパス策定のヒントになる部分です。綿密な分析から、自社が社会に提供できる独自の価値を浮き彫りにすることがステップ1のゴールとなります。

ステップ2:自社のパーパス(存在意義)を明文化し社内に浸透させる

ステークホルダーと自社の分析を経て、「自社は社会において何を成すべきか」「どのような存在でありたいか」の輪郭が見えてきたら、いよいよパーパスを言語化します。パーパスの文言はシンプルかつ明快であることが望ましく、社員や社会にすっと伝わる表現にしましょう。例えば、「○○を通じて△△な社会を実現する」といった形で、自社の事業を通じて達成したい社会貢献の内容を盛り込むと分かりやすくなります。

パーパスを策定したら、それを社内に深く浸透させることが極めて重要です。経営トップから社員全員に向けてパーパスを宣言するだけでなく、なぜそのパーパスに至ったのか背景にある想いや信念も丁寧に共有しましょう。例えば社長メッセージやイントラネット上の記事で、「このパーパスには創業者以来の理念が息づいている」「お客様や社会からこのような声を受け策定した」などストーリーを伝えると、社員の理解と共感が深まります。さらに、経営陣だけでなく現場社員も巻き込んでパーパスについて語り合う場(ワークショップや座談会)を設けると効果的です。そうした対話を通じ、パーパスを自分事として捉えられるよう社員の腹落ち感を高めていきます。

ステップ3:パーパスに沿ったビジョン・経営戦略を策定する

パーパスを言語化し社内共有が進んだら、次はそれを具体的な経営計画・戦略に落とし込んでいきます。まず、中長期の企業ビジョンをパーパスに即した形で再策定します。パーパスが示す方向性に沿って「5年後・10年後に当社はどのような価値を提供していたいか」「社会に対してどんなインパクトを与えていたいか」を描きましょう。ビジョンを数字目標として示す場合も、パーパスとの関連性を明確にすることが大切です。

続いて経営戦略や事業ポートフォリオの見直しです。パーパスに合致しない事業がないか精査し、新規事業立案や既存事業の改革にもパーパスを反映させます。例えばパーパスに資さない事業は縮小・撤退を検討し、一方でパーパス実現に重要な分野には資源を重点投入する、といった意思決定が求められます。また、人事評価や資本配分のルールなど経営管理面でも、パーパスを軸に据えた指標を導入します。これらを丁寧に行うことで、次のステップである「日々の業務への落とし込み」がスムーズになります。要するに、パーパスを絵に描いた餅にしないために、企業活動の枠組みそのものをパーパス起点で再設計するのです。

ステップ4:日々の業務や組織運営にパーパスを落とし込む

策定したパーパスとそれに基づくビジョン・戦略を、社員の日々の業務レベルまで浸透させます。理想は、社員一人ひとりが日常業務の中で常にパーパスを意識できる状態です。そのためにはいくつかの工夫が必要です。

  • 目標設定への組み込み:個々の部署や社員のKPI・目標を立てる際に、パーパスとの関連付けを行います。「自分の目標は会社のパーパスのどの部分に貢献しているか」を上司と話し合い、納得感を持ってもらいます。
  • 業務プロセスの見直し:日常業務の進め方や判断基準にパーパスの視点を取り入れます。例えば企画書のフォーマットに「この提案は当社パーパスにどう寄与するか」の欄を設ける、会議で意思決定の際にパーパスへの整合性をチェックする、といった仕組みを導入します。
  • 成功事例の共有:パーパスを体現したプロジェクトの成功事例を社内報や朝礼で共有します。「パーパスを意識したところこのような成果が出た」という実例を示すことで、他の社員も自分ごととして捉えやすくなります。

さらに、現場の社員が自発的にパーパスを考え体現できるような文化づくりも重要です。トップダウンで押し付けるのではなく、社員自身がパーパスの意味を咀嚼し行動に移せるよう働きかけます。例えばボトムアップで社会貢献アイデアを募る制度を作ったり、ボランティア活動への参加を支援したりするのも有効でしょう。こうした取り組みにより、パーパスが単なるスローガンではなく現場の意思決定や行動に息づくようになります。

ステップ5:従業員がパーパスを腹落ちできるようコミュニケーションする

パーパス導入の最後のステップは、従業員一人ひとりにパーパスを「腹落ち」させるためのコミュニケーションです。パーパス策定プロジェクトに直接関わらなかった従業員にも、積極的に働きかけましょう。社外への発信以上に、社内への浸透が重要です。具体的には、パーパスの説明会やワークショップを開催し、疑問や不安を自由に話せる場を設けます。従業員がパーパスに感じるギャップや率直な意見を吸い上げ、それに応える形で追加の説明や施策改善を行います。

また、各従業員の個人的な「働く目的(マイ・パーパス)」と企業のパーパスとを結び付ける支援も効果的です。例えば研修の中で「あなたがこの会社で成し遂げたいことは何ですか?」と問いかけ、出てきた答えを会社のパーパスと照らし合わせてみるワークを行います。会社のパーパスから従業員それぞれのパーパス(存在意義)を導き出すイメージです。そうすることで、社員が元々持っている価値観と会社のパーパスをすり合わせ、モチベーション向上につなげることができます。このように、丁寧なインターナルコミュニケーションによって社員の腹落ち感を醸成し、全社一丸となってパーパス経営を推進できる体制を整えましょう。

パーパス策定におけるポイント:共感を生むPurposeの作り方

社会課題の解決に貢献する内容を掲げる:社会に意義あるPurposeこそ共感を得る

パーパス策定でもっとも重要なポイントは、扱うテーマが現代の社会課題に根ざしていることです。気候変動、貧困、健康格差、地域活性化…様々な社会課題のうち、自社が関与できるものを見極め、それをパーパスに据えましょう。社会のニーズとかけ離れた内容では、社内外の共感は得られません。逆に、「確かにそれは重要な課題だ」「この会社にならそれが解決できそうだ」と思われるようなテーマであれば、人々の心を動かします。

現代社会において企業には課題解決への貢献が期待されています。パーパスとはまさにその期待に対する回答であり、「当社はこの社会課題の解決にコミットします」という宣言です。例えば、食品ロス問題が深刻化する中で食品メーカーが「食品ロスゼロ社会を実現する」と掲げれば、多くの消費者が共感し支持してくれるでしょう。反対に「業界No.1になる」といった自己中心的な目的では、社内の士気は高まっても社会からの共感は得られません。共感を生むパーパスには必ず社会的な価値が含まれている——この原則を肝に銘じてテーマ選定を行いましょう。

自社独自の強みと歴史を反映した内容にする:唯一無二のPurposeで信頼を獲得

パーパスは自社「ならでは」の内容にすることも重要です。他社でも言えるような抽象的で月並みな表現ではなく、自社の強みや歴史、文化を映し出すユニークなPurposeにしましょう。たとえば「イノベーションで世界を変える」だけでは漠然としていますが、「○○技術のイノベーションで世界を変える」と自社の強みを入れるだけで具体性と独自性が増します。

自社らしさを盛り込むためには、創業時の理念やこれまでの歩みを振り返ることが有効です。創業者が掲げた志や、長年培ってきた企業文化の中にこそ、他社にはない自社独自の価値観が宿っています。それらをパーパスに織り込めば、社員にとっても腹落ちしやすく、社外から見ても「この会社らしい素敵なPurposeだ」と評価されるでしょう。唯一無二のパーパスは、企業の信頼感にもつながります。曖昧で当たり障りのない表現では「本気度」が伝わりませんが、自社の強みを前面に出したPurposeには本気の重みが宿ります。共感を得るには、まず信頼を得ること。そのためにも、自社のアイデンティティを反映したパーパスを策定しましょう。

ステークホルダーとの協働で実現可能なPurposeにする:理想論で終わらない現実性が重要

いくら高尚なPurposeを掲げても、絵空事では意味がありません。実現可能性を十分に考慮することも大切なポイントです。自社の経営資源や技術力、ビジネスモデルから大きく逸脱した目標を掲げると、社内からも「それは無理ではないか」と冷めた目で見られてしまいます。また、社会的課題は一社だけで解決できるものばかりではありません。顧客やパートナー企業、行政などとの協働(相互作用)の中で実現可能な内容かどうかも検討しましょう。

現実性を担保するため、パーパス策定段階からステークホルダーの声を取り入れるのも有効です。例えば主要顧客にインタビューして「当社にどんな役割を期待しますか?」と尋ねたり、業界団体や行政の取り組み状況を調べて、自社に何ができるかを現実的に見極めます。こうすることで、理想論で終わらない説得力のあるパーパスを描けるでしょう。社内的にも、実行可能なプランに落とし込めるパーパスであれば、社員は安心して受け入れられますし、意欲的に挑戦しようという気持ちになります。夢物語ではなく、手が届くからこそやる気が出る——共感を呼ぶパーパスにはこの現実味が備わっているのです。

内外で一貫した一つのPurposeを掲げる:社内向けと社外向けを分けず真摯さを示す

パーパスは社内向けと社外向けで使い分けるものではなく、一つのメッセージを内外に発信することが大前提です。社外には綺麗事を掲げつつ社内では別の本音を語る、というような二枚舌があっては共感など得られません。例えば「社会貢献」を外向けに謳いながら、社内では「そんなことより利益だ」と言っていたら、社員も顧客も離れていくでしょう。それはいわゆる“パーパス・ウォッシュ”にもつながります。

したがって、パーパスを策定したら社内外に統一のメッセージとして宣言し、すべてのステークホルダーと共有します。ホームページやCSR報告書で発信するのはもちろん、採用ページにもパーパスを明示して応募者に伝えます。既存社員には繰り返し周知し、日常的に耳目に触れるようにします。社内外でブレない一貫性が、企業の誠実さを印象付け、パーパスへの信頼感を高めます。反対に一度でも言行不一致が生じると、一気に共感は失われてしまいます。例えば社外には環境保護を謳いながら実は社内ではリサイクルもしていない等が露呈すれば、信用は地に落ちるでしょう。共感を呼ぶパーパスの前提条件は、内外での一貫性なのです。

Purpose策定プロセスに社員の声を反映する:従業員が共感し主体的に取り組める土壌を作る

共感を生むパーパスにするためには、策定プロセスそのものにも工夫が必要です。トップダウンで決めた理念を押し付けるのではなく、可能な範囲で従業員の声を反映させることが望ましいでしょう。部署横断のプロジェクトチームに若手社員を加えたり、全社員アンケートで「当社の存在意義は何だと思うか」を自由回答してもらったりと、社員が主体的に参加できる仕組みを作ります。そうすることで、パーパスの内容にも現場のリアリティが宿りますし、社員にとっても「自分たちで作り上げたパーパス」という愛着が生まれます。

仮に社員全員を巻き込むことが難しくても、策定後のコミュニケーションで彼らの意見を聞く場を設けて修正を加えることも有効です。「自分の意見が反映された」と感じれば、人はそのメッセージに一層共感を寄せるものです。パーパスは経営陣だけのものではなく、社員一人ひとりのものでもあります。策定段階から社員の気持ちを汲み取り反映させることが、共感を生み実効性のあるパーパスを作る近道となるでしょう。

会社の「パーパス(Purpose)」を定めよう:自社の存在意義を言語化する

自社のパーパス策定プロジェクトを立ち上げよう:存在意義を見つけるための最初の一歩

自社のパーパスを明確に定めるには、まず社内でパーパス策定プロジェクトを立ち上げることから始めましょう。経営トップが旗振り役となり、各部門からキーパーソンを集めた横断チームを編成します。このチームが中心となって、自社の存在意義とは何かを徹底的に議論する場を作ります。最初にやるべきは前述のステップ1で触れた「現状分析」です。社内外の環境を洗い出し、自社の強みや社会からの期待をリストアップします。

プロジェクトを進めるにあたって大切なのは、十分な時間とリソースを確保することです。パーパス策定は経営理念の根幹を定める作業であり、性急に結論を出すものではありません。数か月単位のスケジュールを組み、社内アンケートや有識者の意見も取り入れながら、納得いくまで議論を重ねましょう。また場合によっては外部のコンサルタントやファシリテーターを招き、中立的な立場から議論を深めてもらうのも一案です。最初の一歩としてしっかり体制を整えることで、ブレのないパーパス策定への道が開けます。

創業の理念や歴史を振り返りヒントを得る:原点にある想いをPurposeに反映

パーパスを考える上で大きなヒントになるのが、創業時の理念やこれまでの歴史です。会社を創った創業者は何を志し、どんな課題を解決しようとしたのか――そこには企業の存在意義の原点があるはずです。例えば、創業者の言葉や社史に残るエピソードを紐解いてみてください。そこに現在にも通じる「熱い想い」「大切にすべき価値観」が見いだせるでしょう。

また、長年の事業展開の中で培ってきた強みや乗り越えてきた困難も重要な手がかりです。歴史を振り返ることで、「当社は○○に対する情熱だけは失わなかった」「常に□□を通じて社会に貢献してきた」といったパターンが浮かび上がるかもしれません。それこそが他社にはない自社の存在意義であり、パーパスに織り込むべき要素です。例えばあるメーカー企業が創業100年の歴史を振り返ったところ、「品質第一で安全な製品を提供し続け、人々の生活を支えてきた」という共通項に気づき、それをパーパス「安心・安全な暮らしを支える」に反映させたケースもあります。

原点を見つめ直すことは、ブレないパーパスを策定する上で欠かせません。新規性ばかりに目を向けるのではなく、社史という足元を固めることで、社員の心にも響く説得力あるPurposeが生まれるのです。

ステークホルダーから期待される役割を考慮する:社会が求める自社の存在理由を探る

自社のパーパスを考える際には、社外の視点から「我が社に期待されていることは何か」を探ることも重要です。顧客・取引先・地域社会・株主といったステークホルダーが、自社にどんな役割を望んでいるのかを考慮しましょう。前述のステークホルダー分析で得た声を活用し、「○○会社には□□を担ってほしい」「御社だからこそ△△ができるのでは」といった期待に耳を傾けます。

例えば、ある食品メーカーがお客様アンケートを実施したところ、「健康志向の商品開発にもっと力を入れてほしい」「地元農家と協力して地域活性化に貢献してはどうか」という意見が得られたとします。これらはまさにその企業に期待される役割であり、パーパス策定のヒントになります。自社単独では気付かなかった強みや使命を、外部から教えてもらうイメージです。

また、業界全体の課題や国・自治体が掲げる政策目標なども参考になります。自社の事業領域に関係する社会課題で、自社が主導的立場を取れるものはないか検討しましょう。例えばIT企業であれば「教育ICT化」や「DXによる地方創生」といったテーマが考えられます。社会が自社に求める役割を見定めることで、独りよがりでない公益性の高いパーパスを策定できるのです。

シンプルで心に響くPurposeステートメントを作成する:短くわかりやすい言葉で表現する

パーパスの文章は、できる限りシンプルで覚えやすくすることが大切です。社員や顧客に口ずさんでもらえるような短いフレーズに落とし込みましょう。長々と説明しないと伝わらないようでは、残念ながらインパクトに欠けます。理想は一文、多少長くても二文程度に収めることです。

例えば、ソニーグループのパーパスは「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」です。わずか一文ですが、自社の強み(創造性と技術力)と提供価値(感動を世界中に)が明確に伝わり、非常に心に残ります。トヨタ自動車であれば「幸せを量産する」というミッションの表現があります(※パーパスは「未来のモビリティ社会をリードする」)。短い言葉の中にビジョンが凝縮されており、社員も覚えやすく共感しやすい典型例です。

表現のコツとしては、専門用語やカタカナ語を避け、日常的な言葉で書くことがあります。「顧客のライフクオリティをエンハンスする」よりも「お客様の生活の質を高める」の方が伝わりやすいのは明らかです。誰が読んでもスッと理解できる言葉選びを意識しましょう。さらに、前向きでポジティブな表現にすることもポイントです。否定形や消極的な表現は避け、「〜する」「〜を創る」といった能動的で力強い動詞を用いてください。シンプルでありながら読む人の心を動かすパーパス・ステートメントを目指しましょう。

経営層と従業員が一体となってPurposeを決定する:全社的な合意形成と浸透を図る

パーパスの文言がある程度固まったら、経営層と従業員代表が一堂に会して最終確認するプロセスを設けましょう。経営トップのコミットメント(本気度)を示しつつ、従業員の声も反映された形で合意形成することが肝心です。例えば策定プロジェクトチームからの提案を経営会議で正式決定する際、若手社員数名をオブザーバー参加させ意見を募る、といった工夫も考えられます。

経営層と従業員が一体となって決めたという事実は、パーパス浸透の強力な後押しになります。「自分たちで決めたPurposeだ」という実感が社員に芽生えれば、腹落ち度が格段に違います。逆にトップダウンで決められただけだと、「また経営陣が掲げたお題目か」と冷めた受け止めになりかねません。

合意形成後は、全社発表会などセレモニー的な場を設けるのも有効です。経営トップ自らが全社員に向けてパーパスを力強く宣言し、その場で社員代表が決意表明をするといった演出によって、「これが我が社の新たな軸だ」という意識を共有します。その後の浸透施策については前述のとおりですが、まずは全社員のベクトルを合わせるための合意形成に十分時間を割きましょう。それがパーパス経営成功の土台となります。

パーパス経営の注意点:取り組む際に気を付けるべきこと

パーパス・ウォッシュに要注意:掲げるだけで実践が伴わないと信頼を失うリスク

パーパス経営で最も避けるべきは「パーパス・ウォッシュ」と呼ばれる状態です。これは簡単に言えば、立派なパーパスを掲げながら実態が伴っていないケースを指します。例えば「環境保護」をパーパスに掲げているのに工場では違法排水を垂れ流していた、などと判明すれば、それは単なる偽善でありパーパス・ウォッシュの典型例でしょう。

パーパス・ウォッシュが起きると、社員やステークホルダーからの信用は一瞬で失われます。口先だけで実行が伴わない会社だと見なされ、ブランドイメージの失墜は免れません。これはグリーンウォッシュ(環境配慮のフリをすること)やSDGsウォッシュと同様に、昨今非常に厳しい目が向けられている点です。そうならないためにも、掲げたパーパスに対して具体的な目標設定とアクションプランを用意し、着実に実行する必要があります。定期的な進捗報告や第三者評価を受けるなど、社外から見ても「有言実行」であることを示す姿勢が大切です。パーパス経営は一種の公約ですから、実践無きパーパス発信は百害あって一利なしと心得ましょう。

Purposeと実際の行動との整合性を保つ:日々の意思決定がパーパスに反していないかチェックする仕組みを整える

パーパス経営に取り組む際は、企業のあらゆる行動がパーパスと矛盾しないかを常に確認する姿勢が求められます。前述のパーパス・ウォッシュの話とも関連しますが、例えばパーパスに反するような事業や施策を続けていないか定期的に点検しましょう。

具体的には、経営会議や商品企画会議などで「それは当社のパーパスに合致しているか?」と問いかける習慣をつけます。場合によってはパーパスとの整合性をチェックする担当者や委員会を設けても良いでしょう。例えば、ある外食チェーンではパーパスが「持続可能な社会への貢献」だったため、新メニュー開発時にフードロスや環境負荷の観点からチェックを行うルールを導入しました。このように、日常業務の細部にまでパーパスを組み込むことで、行動との一貫性を確保します。

また、もしパーパスと相反するジレンマに直面した場合は、正直に向き合い改善策を検討すべきです。例えば利益を優先すると環境負荷が増えてしまうような局面では、短期的な利益を犠牲にしてでも環境配慮を選ぶとか、両立策を模索するといった判断が迫られます。その判断に迷いが生じる時こそ、パーパスが指針となるはずです。「我々は何のために存在するのか」を自問し、パーパスに恥じない行動を選択する——この姿勢を組織全体で維持することが、パーパス経営成功の鍵です。

短期的利益とのバランス:Purpose追求と経営の両立を図る視点を忘れないことが重要

パーパス経営に傾注するあまり、短期的な経営パフォーマンスをおろそかにしてしまっては本末転倒です。パーパス(社会的使命)とプロフィット(利益)を両立させる視点を常に持ち、バランス感覚を保つことも重要な注意点です。営利企業である以上、ボランティアではなく持続的に収益を上げながら社会に貢献していく必要があります。

例えば、環境負荷低減のために大胆な投資を行う場合でも、将来的なリターンやブランド価値向上による利益増を見据えて計画することが大切です。「パーパスのためなら利益が減っても構わない」という考え方は、長期的に見ればパーパス達成自体を危うくします。なぜなら、企業が存続できなければ社会貢献も続けられないからです。「パーパスの追求が最終的に自社の成長・利益につながるか」を常に検証し、戦略を調整しましょう。

短期的にはジレンマを感じる場面もあるかもしれません。その際は社内外に対し、パーパスに基づく決断であることを丁寧に説明し理解を求めることも必要です。たとえ一時的に利益が減少しても、パーパス実現に向けた投資であれば株主も納得しやすく、社員も将来への投資として受け止めるでしょう。一方で、利益悪化が見込まれる場合には代替案を考える柔軟さも求められます。要は、理想と現実を天秤にかけながら、両者をいかに高い次元で両立させるかという経営手腕が問われるのです。

継続的なコミットメントと見直しが必要:一度策定して終わりではなく定期的に評価・改善していくことが大切

パーパスを策定して終わりではありません。それを本当に実現し続けるには、継続的なコミットメントと定期的な見直しが欠かせません。社会環境や企業状況は時間とともに変化します。5年前に掲げたパーパスが、現在の社会課題に対して的外れになっていないか、定期的に点検しましょう。必要であればパーパス自体のブラッシュアップ(磨き直し)も検討します。

また、パーパスに沿った取り組み状況を定期的に評価・測定する仕組みも導入します。例えば年次のサステナビリティ報告などで、パーパスに関連するKPI(社会貢献度合いの指標)の進捗をチェックします。社内で言えば、従業員アンケートで「自社のパーパスに共感している社員の割合」をモニタリングするのも有効です。評価の結果、浸透が不十分であれば追加施策を講じ、外部環境の変化で重点課題が変わったならパーパス達成手段の軌道修正を行います。

さらに、経営トップ自らのコミットメントを持続的に示すこともポイントです。パーパス策定直後は声高に叫んでいたのに、その後経営層が言及しなくなってしまった…という事態は避けねばなりません。折に触れてCEOや役員がパーパスについて発信し、意思決定の際も常にパーパスを引き合いに出すことで、組織全体に一貫したメッセージを送り続けます。パーパス経営はマラソンのようなもの。一度決めたら、走り続けて成果を積み上げていく覚悟が求められるのです。

社員への共有不足による形骸化に注意:現場まで浸透させ全員が理解している状態を作ること

せっかく良いパーパスを定めても、それが社員一人ひとりにまで行き渡らなければ絵に描いた餅です。社内への共有不足によりパーパスが形骸化してしまうケースにも注意しましょう。ありがちなのは、経営陣だけがパーパスを唱えて満足し、現場では「そんなものがあったね」と他人事になっている状況です。

これを防ぐには、前述のとおり徹底したインターナルコミュニケーションが重要です。トップダウンとボトムアップの両面から働きかけ、現場の隅々にまでパーパスを浸透させます。例えば、新入社員研修や管理職研修の場でパーパスをテーマに議論するカリキュラムを組み込む、社内報や社内SNSでパーパスに関連するコンテンツを定期発信する、部署ごとにパーパスを具体化したスローガンを作ってもらう、といった手法があります。Sompoホールディングスのように社員一人ひとりが「MYパーパス(自分自身の人生の目的)」を考える取り組みを行っている企業もあります。

いずれの手法にせよ、肝心なのは「全員が自社のパーパスを言える状態」を作ることです。社長だけが語れるパーパスではなく、新入社員からベテランまで全員が自分の言葉でその意味を説明できる——そんな理想的な状態を目指しましょう。それが実現できれば、パーパス経営はもはや形骸化することなく、企業文化として根付いたと言えます。

パーパス経営を取り入れている企業の事例:成功企業に学ぶ

パタゴニア:「地球を救うためにビジネスを営む」という明確な存在意義で環境保護にコミットした事例

パーパス経営の代表的成功例として頻繁に挙げられるのが、米国アウトドアブランドのパタゴニアです。同社は創業者イヴォン・シュイナードの信念に基づき、「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む。」というパーパスを掲げています。この一文には、アウトドア用品を製造販売する企業として地球環境を守ることにコミットする決意が込められています。

実際パタゴニアは1970年代から環境保護活動に積極的で、売上の1%相当額を自然環境団体に寄付する「アース税」を長年実施しています。製品面でも環境に配慮し、リサイクル素材やオーガニックコットンをいち早く採用しました。近年では自社の株式を環境保護団体に信託し、企業利益を全額地球環境保護に充てるという大胆な経営判断も行っています。これら一連の行動はすべてパーパスに沿ったものであり、企業活動と社会貢献が見事に一致しています。

パタゴニアの事例から学べるのは、パーパスを徹底して実践に移すことの重要性です。環境保護という言葉だけでなく、実際に事業の隅々まで環境への配慮を行き渡らせる姿勢が、世界中の顧客の共感と支持を得ています。売上や利益よりも地球を優先するという一貫した姿勢はブランドロイヤリティを極めて高め、結果としてビジネス的にも成功する好循環を生んでいます。パーパス経営の力を示す象徴的な事例と言えるでしょう。

ソニー:「クリエイティビティとテクノロジーの力で世界を感動で満たす」Purposeがもたらした企業変革

日本を代表するグローバル企業ソニーグループも、近年パーパス経営への転換を図った企業の一つです。ソニーは2019年に企業のパーパスとして「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」を制定し、公表しました。エレクトロニクスからエンターテインメントまで幅広い事業を手がけるソニーですが、それらを貫く軸として「人々に感動を提供する」という存在意義を明確にしたのです。

このパーパス策定後、ソニーはいくつか象徴的な取り組みを行っています。その一つが世界的人気となったアニメ映画『鬼滅の刃 無限列車編』への出資・グローバル展開です。同作品は全世界で4000万人以上が視聴し、人々に大きな感動を与えましたが、その裏にはソニーのエンタメ事業の積極展開と「感動で世界を満たす」というパーパスの体現がありました。また、新型コロナウイルス感染拡大時にはソニー・グループとして約1億ドル規模のグローバル支援基金を立ち上げ、医療従事者や教育機関、クリエイター支援を行いました。これも「困難な状況下でも人々に希望や感動を届ける」というパーパスに沿った社会貢献活動と言えます。

ソニーの取り組みの成果は数字にも表れています。パーパス策定から1年余り経った2020年度には、売上高・営業利益ともに過去最高を記録しました。もちろん外部環境や事業戦略の要因もありますが、社員の意識改革やブランド価値向上というパーパス効果が寄与したと分析されています。ソニーの事例は、伝統ある大企業がパーパスによって企業文化を再活性化させ、業績向上につなげた好例と言えるでしょう。

トヨタ自動車:「未来のモビリティ社会をリードする」パーパスを軸に事業と社会貢献を両立させた事例

トヨタ自動車は日本最大の製造業として、パーパス経営への取り組みにも注目が集まっています。トヨタの掲げるパーパスは「未来のモビリティ社会をリードする」です。自動車を超えたモビリティ全般でより良い社会を実現する、という壮大な存在意義を示しています。このパーパスのもと、トヨタは従来の自動車メーカーの枠を超えた挑戦を加速させています。

具体的な施策としてまず挙げられるのが、安全技術の普及です。トヨタは衝突回避支援システム「Toyota Safety Sense」を数百万台規模で車両に搭載し、交通事故の削減に貢献しています。また、移動に関する社会課題の解決を目的に「トヨタ・モビリティ基金」を設立し、世界各地のモビリティ向上プロジェクトを支援しています。さらに静岡県に建設中の実証都市「Woven City」では、自動運転やスマートシティ技術を検証し、将来のモビリティ社会創造に取り組んでいます。

トヨタの事例からは、巨大企業がそのリソースと技術力を駆使してパーパスを具体化していく様子が見て取れます。単に車を売るのではなく、人々に安全・安心・快適な移動を提供し、社会全体を豊かにするというビジョンが明確です。その甲斐あって、トヨタは株主や投資家からも「持続可能なモビリティ社会へのリーダー」と評価され、ESG投資の文脈でも高い評価を受けています。ビジネスの成功と社会貢献を高度に両立させている点で、トヨタのパーパス経営は非常に参考になるでしょう。

味の素:「食と健康の課題解決」を掲げ事業戦略と組織運営を再構築した事例

日本の食品メーカーである味の素も、2020年にパーパス経営に本格着手した企業です。同社はパーパスとして「食と健康の課題解決」を掲げ、それを具現化したグループビジョンとして「アミノ酸のチカラで、食習慣や高齢化に伴う食と健康の課題を解決し、人々のウェルネスを共創する」と定めました。調味料をはじめとする食品事業を通じて、人々の健康寿命延伸や栄養課題解決に貢献するという方向性です。

このパーパス実現のため、味の素は社内体制や評価制度も見直しています。具体的には、全社横断でパーパス・ビジョンを共有するために、各組織・個人の目標設定にパーパス視点を取り入れました。例えば従業員一人ひとりが自分の業務目標とパーパスとの関係を言語化し、上司と共有する取り組みを行っています。また、社員に対するエンゲージメントサーベイ(意識調査)を定期的に実施し、パーパス浸透度や共感度を測定して改善サイクルを回しています。さらに社内ポータルで各部署の「パーパス体現事例」を共有し、ベストプラクティスの水平展開も図っています。

味の素のケースから学べるのは、パーパスを掲げるだけでなく組織運営に組み込む徹底ぶりです。食品という身近なテーマだけに社員の共感も得やすく、エンゲージメント調査ではパーパスへの納得度が年々向上しているとのことです。業績面でも、高付加価値・高栄養商品の売上拡大などパーパスに沿った戦略が奏功しつつあります。自社の存在意義を明確化し、それを社内外に浸透させることで事業成果につなげた好例と言えるでしょう。

富士通:「イノベーションで社会に信頼をもたらし世界をより持続可能に」Purposeで企業文化を刷新した事例

大手ICT企業の富士通は、2020年に経営理念体系「Fujitsu Way」を12年ぶりに刷新し、新たなパーパスを掲げました。それが「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていく」です。このパーパスのもと、富士通は自社の価値観(バリュー)や行動規範も見直し、グループ全社員の行動原則を再定義しました。

富士通はパーパス浸透のため、人事制度面でも大胆な改革を行っています。2021年から導入した新評価制度「Connect」では、従業員が自分自身のパーパスと会社のパーパスを紐付け、その実現に向けた行動目標を設定する仕組みを取り入れました。これは「パーパス・カービング」と呼ばれる手法で、社員が自らのキャリアビジョンと会社の存在意義を重ね合わせることで、モチベーション高く働けるようにする狙いがあります。

また、富士通はパーパスを対外的にも明確に打ち出し、SDGsや社会課題解決に資するプロジェクトを次々と公開しています。例えばAI技術を用いた医療診断の高度化や、デジタル技術で行政サービスを効率化する取り組みなど、同社のイノベーションが社会の信頼基盤を支えていることを示す事例を多数発信しています。

富士通の事例は、老舗の大企業がパーパスをテコに企業文化を変革しようとしている好例です。ITバブル崩壊後伸び悩んでいた同社ですが、パーパス導入後は社員の意識改革が進み、新規事業提案件数が増加するなど変化の兆しが見られるといいます。経営トップも「パーパスは当社の拠り所」と繰り返し発信しており、まさに全社でパーパスを合言葉に変革に取り組んでいる真っ最中です。結果が出るには時間も必要ですが、パーパス経営による企業再生のモデルケースとして注目されています。

パーパスの条件(社会課題との関係 他):強いPurposeが備えるべき要件

社会課題の解決に資するものである:社会に貢献するPurposeのみが真に意義を持つ

強いパーパスの第一条件は、現代の社会課題に対する解決意志を明確に含んでいることです。企業の存在意義を語る以上、それが社会にとって意義ある方向を向いていなければなりません。環境問題・人権問題・地域活性化など、何らかの社会的課題に取り組む内容を掲げているパーパスは、ステークホルダーからの共感を得やすくなります。逆に社会との接点が薄いパーパスは、独りよがりに映ってしまい、存在意義としての説得力を持ちません。

多くの成功企業のパーパスを見ると、「持続可能な社会の実現」「世界の情報アクセスを公平にする」「人々の生活の質を向上させる」など、社会全体への貢献を意識した表現が並びます。それは偶然ではなく、パーパスが社会との契約であることを示しています。優れたパーパスは自社の利益だけでなく社会全体の利益を考慮しており、その点において企業内外の多くの人々にとって意義深いものとなるのです。

最終的に自社の利益にもつながるものである:企業の成長に寄与し持続可能性を確保できるPurpose

二つ目の条件は、パーパスが最終的に自社の利益や成長にも資するものであることです。企業がパーパスを追求した結果、業績が悪化してしまっては長続きしません。営利企業である以上、パーパスとビジネスモデルが両立する設計にする必要があります。言い換えれば、「社会に良いことをしながら儲ける」道筋を描けるパーパスが理想です。

例えば、食品ロス削減をパーパスに掲げる企業が、その取り組みから新たなビジネスチャンス(規格外品の活用や再販売サービスなど)を創出できれば、社会にも会社にもWin-Winです。また健康増進をパーパスに掲げる食品メーカーが、高付加価値の健康食品市場を開拓できれば、利益拡大と社会貢献を両立できます。こうした形で、パーパス追求が長期的に企業価値向上につながることが望ましいのです。

もちろん、パーパス実現の途中過程では投資やコストが先行する場合もあるでしょう。しかし重要なのは、将来的に見てパーパスが企業の競争優位やブランド価値となり、収益につながるビジョンが描けているかです。強いパーパスを持つ企業ほど、投資家にも「長期的な成長ストーリー」を提示でき、資金調達力も高まります。パーパスと利益を両輪にする設計こそが、パーパス経営を持続可能にするための条件と言えます。

自社の事業ドメインと直結したものである:本業からかけ離れない領域でPurposeを設定

三つ目の条件は、パーパスが自社の事業ドメイン(領域)に直接結びついていることです。自社の本業とかけ離れたテーマを掲げても、実現するのは困難ですし、周囲からも「どうやってそれを?」と疑問視されてしまいます。自社のノウハウ・経験・技術が活かせる領域でパーパスを設定することが重要です。

例えば、IT企業が「教育格差の解消」をパーパスに掲げるのは、自社のデジタル技術で教育アクセスを改善できる可能性があるため現実的です。しかし同じIT企業が「癌の治療法発見」をパーパスにしたとしたら、本業との関連が薄く無理があるように映るでしょう。強いパーパスは自社の強みと社会課題を交差させた地点に存在します。自社が持つリソースを最大限活用しつつ社会に貢献できるテーマを選ぶことで、説得力と実効性のあるパーパスとなるのです。

この条件は、前述の「利益につながること」とも関係します。自社の得意分野であればビジネスとして成果を出しやすく、結果的に利益にもつながります。またその領域で実績があるほど、ステークホルダーも「この会社ならやれるだろう」と信頼してくれます。強いパーパスほど、本業との親和性が高く、自然体で取り組めるテーマである点を押さえておきましょう。

自社のリソースで実現可能なものである:身の丈に合った取り組みで現実的に遂行できるPurpose

四つ目の条件は、自社の人材・資金・技術などリソースで実現可能な範囲内のパーパスであることです。いくら志が高くとも、自社の実力を大きく超える取り組みは絵空事に終わってしまいます。企業規模や持てる資源に見合った身の丈のパーパス設定が肝心です。

特に中堅・中小企業の場合、大企業のように幅広い社会課題すべてに手を出すのは難しいでしょう。自社だからこそ影響を与えられるニッチな領域にフォーカスするのも一案です。例えば地域密着の中小企業であれば「○○市を日本一住みやすい街にする」といった地域課題に絞ったパーパスも考えられます。これはその企業のリソースでも十分取り組め、かつ地域社会に貢献できる現実的なテーマと言えます。

また、大企業であっても無限のリソースがあるわけではありません。自社の労働力や資金を投入しすぎて他がおろそかにならないよう、バランスを取る必要があります。強いパーパスとは、理想と現実のバランス感覚を備えたものとも言えます。実行段階で「やはり無理だった」とならないよう、社内の実行部隊からヒアリングを行い、現場感覚に照らして妥当な範囲かどうか検証することも大切です。実現可能性を見極め、着実に遂行できるパーパスこそが、企業の力を結集し得る強いパーパスなのです。

従業員全員の共感とやる気を引き出せるものである:社員が誇りを持てるPurposeで組織の力を最大化

最後に、従業員のモチベーション向上につながるパーパスであることも強いパーパスの重要な条件です。社員が「このパーパスになら命懸けで取り組みたい」「自分も誇りを持てる」と思えるような内容であれば、組織全体の力が最大限に引き出されます。逆に社員がしらけてしまうようなパーパスでは、絵に描いた餅になりかねません。

従業員全員の共感を得るためには、前述したように策定段階から社員の声を反映したり、丁寧な説明を行ったりするプロセスも重要です。しかし何より、パーパスの内容自体が社員にとって腑に落ちるものである必要があります。例えば自社の強みや日頃の業務と関係が深いテーマであれば、「いつも自分たちが大事にしてきたことだ」と共感しやすいでしょう。また、社会的に意義あるテーマであれば、「うちの会社はこんな貢献をしているんだ」と誇らしく感じられます。

社員の共感度合いを測る一つの指標は、社内でパーパスについて話すときの反応です。ポジティブな意見が多く出たり、自発的な関連プロジェクトが立ち上がるようなら、そのパーパスは社員の心を捉えている証拠です。強いパーパスを持つ企業ほど、従業員エンゲージメントが高く、離職率も低い傾向があります。社員の力が結集すればパーパス実現も加速します。従業員の心に火を付けるパーパスこそ、組織を動かす真の原動力になるのです。

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