オープン・クローズド・ハイブリッドのカードソートの種類と違い

目次

カードソートとは何か?ユーザー思考を引き出す基本的な手法

カードソートとは、ユーザーが情報をどのように分類・構造化するかを明らかにするためのユーザーリサーチ手法の一つです。主にWebサイトやアプリケーションの情報設計(IA:Information Architecture)を改善する目的で利用され、ユーザーが直感的にどのような情報の整理を好むかを視覚的に把握できます。ユーザーに様々な項目(カード)を提示し、それを自由にグルーピング・命名してもらうことで、ナビゲーション設計やコンテンツ構成に活かせる貴重なインサイトが得られます。UXデザインの初期段階で活用することで、開発者目線では気づけないユーザー視点の構造を取り込むことができ、ユーザビリティ向上に直結する有効な手法といえます。

カードソートの基本定義とユーザー調査における位置づけ

カードソートは、情報構造の最適化を目的とした定性的な調査手法です。ユーザーが提示された情報カードをどのように分類するかを観察し、ユーザーの思考様式や分類軸を明らかにします。このプロセスにより、設計者はユーザーのメンタルモデルを反映した情報構造を構築でき、特にWebサイトやアプリのカテゴリ設計において大きな効果を発揮します。ユーザー調査の中では「発見的評価」「ユーザビリティテスト」などと並ぶ代表的な手法の一つで、ユーザーが求める情報にアクセスしやすくするための基礎資料として活用されます。

カードソートが活用される主なシーンとその背景

カードソートが活用される代表的な場面は、Webサイトやアプリケーションの情報設計や再構築時です。特にカテゴリのグループ化やナビゲーション構造の見直しを検討する際、ユーザーが情報をどう認識し、分類するかを把握することが重要になります。新規立ち上げ時の情報設計はもちろん、既存サービスのリニューアルや統廃合、アクセス解析で判明した導線の課題を改善する際にも有効です。ユーザー視点のデータを元に分類方法を可視化することで、関係者間での共通認識形成にも寄与します。

ユーザビリティテストとの違いや補完関係

カードソートとユーザビリティテストは共にUXリサーチにおいて重要な手法ですが、目的とアプローチには明確な違いがあります。カードソートは情報の「構造化」に焦点を当てた手法で、ユーザーが自然に情報を分類する方法を探るものです。一方、ユーザビリティテストはユーザーが設計されたインターフェース上で実際に操作を行うことで、使い勝手や課題点を特定します。つまり、カードソートは設計前の「構造設計」の補助に使い、ユーザビリティテストは「構造が適切かどうか」の検証に使われるため、相互補完的に活用するのが効果的です。

情報アーキテクチャ設計におけるカードソートの重要性

情報アーキテクチャ(IA)とは、Webサイトやアプリにおける情報の構造や分類方法、ナビゲーションの設計を指します。この設計がユーザーの期待と一致していなければ、情報が見つけにくくなり、ユーザー体験が損なわれることになります。カードソートを活用することで、実際のユーザーがどのように情報を関連付け、分類しているかを客観的に把握でき、設計側のバイアスを排除した情報設計が可能になります。特に新規カテゴリの検討や複数カテゴリの整理には欠かせない工程といえるでしょう。

カードソートが持つ直感的な特性とユーザー視点の抽出力

カードソートの魅力は、ユーザーにとって非常に直感的で自然な操作であることです。複雑な質問やインターフェースを必要とせず、視覚的にカードを分類するだけで参加できるため、ユーザーの負担が少なく、多様な層からのフィードバックが得られます。特にオープンカードソートでは、参加者が独自の分類名をつけることで、予想外の視点や表現が得られることもあり、設計者にとっては非常に価値のあるヒントになります。こうした特性から、ユーザーの本音や思考の傾向を探るリサーチ手法として優れており、ユーザー中心設計において欠かせない手法となっています。

カードソートを実施する目的と得られる効果について詳しく解説

カードソートは、ユーザーが情報をどのように分類・整理するかを可視化するために用いられます。これは、Webサイトやアプリケーションの情報構造やナビゲーションの設計において、ユーザーの直感に沿ったレイアウトを実現するための土台を形成します。ユーザーが自然に理解できるカテゴリ分けを見つけることで、情報探しのストレスを減らし、サイト全体のユーザビリティを向上させることが可能です。また、設計者や開発者とユーザーとの間に存在する「思考のギャップ」を埋めるための有効な手段としても評価されており、プロジェクト初期段階での方向性の確認にも貢献します。

ユーザー中心設計を促進するための実践的な手法

ユーザー中心設計(UCD)を実現する上で、カードソートは非常に実践的かつ効果的な手法です。UCDでは「ユーザーの立場で設計する」ことが求められますが、設計者が持つ専門知識や業務上の視点だけでは、ユーザーの思考パターンや直感的な分類方法を正しく捉えることが難しい場面が多々あります。そこでカードソートを実施することで、実際のユーザーがどのように情報を理解し、どのような分類軸を持っているのかを具体的に把握できます。これは設計初期段階で取り入れることで、ユーザーの期待に合った構造設計が可能になり、結果としてUI/UXの質が高まります。

情報構造の自然な分類を明らかにする効果

カードソートの大きな目的の一つが、ユーザーによる「自然な分類方法」の発見です。設計者が想定する論理的な分類と、ユーザーが感覚的に行う分類には往々にしてギャップが存在します。カードソートでは、実際にユーザーにカードを並べ替えてもらうことで、その人の認知モデルや情報の結びつきを明らかにできるため、「ユーザーが望むカテゴリ設計」を構築するのに非常に役立ちます。たとえば、ある商品をどのカテゴリに分類するかという判断はユーザーによって異なりますが、カードソートを実施すれば、その傾向を定量・定性的に把握できるのです。

既存コンテンツの見直しと構成改善のヒント

既に存在しているWebサイトやアプリケーションに対しても、カードソートは強力な見直しツールとして機能します。たとえば、ユーザーが情報にたどり着けない、ナビゲーションがわかりにくいといった課題が発生している場合、その原因を把握する手段としてカードソートを実施することで、カテゴリ構造がユーザーの期待と一致していない点を明らかにできます。これにより、より適切な分類方法や見せ方に修正することができ、ユーザビリティを向上させるヒントとなります。また、コンテンツが増えすぎて煩雑になった際にも、ユーザーの目線で最適な構成へと再整理するためのベースとして活用できます。

関係者間の認識のすり合わせにおける役割

カードソートは、ユーザー調査だけでなく、プロジェクトに関わるチームメンバー間での認識を共有するための手段としても効果的です。特に、マーケティング担当・開発者・デザイナー・クライアントといった複数の立場が関与するプロジェクトでは、情報構造やカテゴリの理解がバラバラになることがあります。カードソートの結果を共有することで、ユーザーが実際にどのような分類やラベルを期待しているのかを明らかにし、共通認識をもとに設計を進めることが可能になります。このプロセスは、無駄な議論を避け、より建設的な意思決定を支援します。

ナビゲーション設計やラベル改善への具体的な影響

カードソートの実施結果は、ナビゲーション設計やラベル命名に直接的な影響を与えることができます。たとえば、ユーザーがある項目をどのようなカテゴリに分類したか、どのような名称を自然と付けたかという結果を分析することで、情報の並べ方やメニュー名に対する改善点が見えてきます。設計者が意図した表現がユーザーにとって分かりづらい場合、カードソートを通じてより直感的なラベルへの変更が可能になります。こうした取り組みによって、ユーザーが迷わず目的の情報にたどり着ける構造を整えることができ、全体のユーザビリティ向上に寄与します。

オープン・クローズド・ハイブリッドのカードソートの種類と違い

カードソートには大きく分けて「オープンカードソート」「クローズドカードソート」「ハイブリッドカードソート」の3種類が存在します。これらは情報分類における自由度や、参加者に与える制約の違いに基づいて使い分けられます。オープンは自由な発想を重視し、クローズドは決められたカテゴリに分類するための検証に適しています。そして両方の特性を併せ持つのがハイブリッドです。目的やフェーズに応じて適切な手法を選ぶことで、よりユーザーにとって直感的な情報構造を設計できます。

自由な分類が可能なオープンカードソートの特徴

オープンカードソートでは、参加者がカードを自由にグループ分けし、それぞれのグループに自らラベル(カテゴリ名)を付けます。この方式は、ユーザーがどのように情報を捉えているかを深く理解するのに適しており、特に新規サービスの立ち上げや情報設計の初期段階で効果を発揮します。ユーザーの自然な分類傾向やラベル付けの傾向を収集できるため、設計側が予想していなかった分類軸や言語表現を発見できることも多く、結果的にユーザー視点に立った設計のベースを築くのに役立ちます。

カテゴリを指定するクローズドカードソートの活用場面

クローズドカードソートは、あらかじめ設計者側が用意したカテゴリに対して、ユーザーがカードを分類する手法です。この方式は、既存の情報構造やラベルがユーザーにとって直感的かどうかを検証したい場合に有効です。たとえば、既に運用中のWebサイトの情報設計を改善したいとき、現在のナビゲーション構成がユーザーの認識と一致しているかを確認する目的で利用されます。オープンに比べて自由度は下がりますが、具体的な課題検証や改善前後の比較に適しており、効率よく定量的な評価を行えるという利点があります。

柔軟性と制御を併せ持つハイブリッド方式のメリット

ハイブリッドカードソートは、オープンとクローズドの両方の要素を組み合わせた方式です。設計者が用意したカテゴリに加え、ユーザーが独自にカテゴリを追加できるようにすることで、ある程度の制御を持ちつつ、柔軟な分類を実現できます。この手法は、既存の構造を活かしながら新たな発見も得たい場合に非常に有効です。たとえば、企業のコーポレートサイトのリニューアルにおいて、基本的なカテゴリは維持しつつも、ユーザーからの新たな視点を取り入れたいときに活用されます。バランスのとれたアプローチで、双方の長所を引き出せる点が魅力です。

各手法の選択基準とプロジェクトへの適用例

オープン・クローズド・ハイブリッドのいずれを選ぶかは、プロジェクトのフェーズや目的に応じて慎重に検討する必要があります。たとえば、情報設計の初期段階ではオープンカードソートが適しており、ユーザーの直感に基づいた構造の素案を得られます。一方、改善フェーズではクローズドやハイブリッドを使って現行構造の妥当性を検証するのが効果的です。複数回に分けて異なる手法を用いることで、定性的・定量的両面からの分析が可能になり、設計の質を大きく高めることができます。

ユーザー属性に応じた手法選定のポイント

カードソートを実施する際には、ユーザーの属性やITリテラシーに応じた手法選定も重要です。たとえば、一般ユーザーを対象とする場合には、オープンカードソートによって自由に意見を引き出す方が、自然な分類結果が得られやすいです。一方、業務システムや専門領域に関する設計では、一定の枠組みを設けたクローズドまたはハイブリッド方式の方が、的確なフィードバックを得やすい傾向があります。また、ユーザー層の幅が広い場合には、複数手法を並行して実施し、それぞれの視点を比較・統合することが有効です。

カードソートの進め方と具体的な実施手順をステップごとに紹介

カードソートの実施には明確な段階があります。まず目的を設定し、対象コンテンツからカードを作成、次に被験者を選定し、セッションを実施します。そして、得られた分類結果を集計・分析して情報設計に反映させるという流れです。各ステップには注意点も多く、特にカードの作り方やセッション形式の選択、分析方法によって結果の質が大きく左右されます。成功させるには、準備から分析までの各工程で戦略的に取り組むことが必要です。以下では、それぞれのステップを詳細に解説していきます。

事前準備:目的設定とカードの作成方法

カードソートを開始する前には、何を明らかにしたいのかという目的を明確にすることが重要です。目的によってオープン、クローズド、ハイブリッドのいずれかの手法を選ぶ必要があるため、初期設計の段階でブレがないようにします。次に行うのがカードの作成です。カードには分類対象となる情報や機能、コンテンツ名などを記載し、ユーザーが直感的に分類できるようにします。カードの数は15〜40程度が適切とされ、情報量が多すぎると負担になるため、内容の重複や専門用語の有無も注意して調整します。紙ベースでもデジタルでも構いませんが、読みやすさと一貫性がポイントです。

被験者選定とスケジューリングのベストプラクティス

カードソートの信頼性を高めるには、適切なターゲットユーザーの選定が欠かせません。代表的なユーザー層を選び、実際にそのサービスやコンテンツを利用する可能性がある人々から意見を得ることが基本です。人数としては、5~15人程度が一般的ですが、調査の精度を高めたい場合は20人以上を目安にすると良いでしょう。スケジュールはセッション1回あたり30〜60分を想定し、対面の場合は静かな場所を確保し、オンラインの場合はツールの操作説明も丁寧に行う必要があります。被験者への事前案内や同意取得も重要で、プライバシーと倫理面の配慮が求められます。

セッションの実施方法(対面・オンライン)とツール選定

カードソートの実施形式には、対面方式とオンライン方式の2種類があります。対面方式では紙のカードを実際に操作してもらうことで、ジェスチャーや思考過程を観察しやすいという利点があります。一方、オンライン方式はツールを用いることで遠隔でも実施可能で、多人数の参加や記録の自動化が容易になります。代表的なツールには「OptimalSort」や「UXtweak」「Kardsort」などがあり、目的や予算、参加者のITリテラシーに応じて選択します。セッション中は進行役が誘導しすぎないよう注意しつつ、適切なタイミングで説明や補助を行うことが成功の鍵となります。

カードソート結果の記録とデータの整備

カードソートの実施後は、分類結果を記録し、分析しやすい形式に整える必要があります。紙の場合は、各参加者のグループ分けを写真やノートで記録し、後からデジタルに転記します。オンラインの場合はツールが自動でデータを保存してくれるため、ミスが少なく効率的です。結果を整える際には、グループ名、含まれるカード、分類パターンの類似度などを表やマトリクス形式で整理するのが一般的です。また、ユーザーが命名したカテゴリ名は、設計者の想定と異なる傾向があるため、意味や意図を深く理解しながら整理することが重要です。こうしたデータの整備は、次の分析フェーズへの橋渡しとなります。

分析フェーズへの引き継ぎとフィードバックの方法

整理されたデータは、分析フェーズでナビゲーション設計や情報アーキテクチャに活用されます。ここでは、カードのグルーピング傾向を比較し、どのような情報構造がユーザーにとって自然であるかを明らかにしていきます。また、ユーザーが命名したラベルも検討材料とし、言葉選びや構造のヒントを得ます。分析結果はチーム内で共有され、設計案に反映されるとともに、関係者に対する報告やクライアントへの提案資料としてまとめるケースもあります。分析と同時にフィードバックを活用することで、設計改善の根拠が明確になり、プロジェクト全体の説得力が増すでしょう。

カードソートを活用することで得られる代表的なメリットとは

カードソートは、ユーザーが直感的に情報を分類するプロセスを通じて、情報設計の質を高めるための強力なツールです。特にWebサイトやアプリのナビゲーション構造、カテゴリ設計、メニューラベルなどを改善する際に有効です。ユーザーのメンタルモデルを可視化できるため、ユーザー目線に立った設計が可能になり、結果としてユーザビリティの向上に寄与します。また、関係者間での認識共有や改善の根拠提示としても使えるため、設計フェーズ全体を円滑に進める推進力となります。ここでは、カードソートがもたらす代表的な5つの利点を詳しく紹介します。

ユーザー目線の自然な分類が把握できる点

カードソートを通じて得られる最大の利点は、ユーザーが情報をどのように理解・分類するかという「メンタルモデル」を明確に把握できる点です。たとえば、設計者が「製品仕様」とラベルを付けていても、ユーザーがそれを「詳細情報」と考えている可能性があります。このようなギャップを可視化し、ユーザーの頭の中にある情報整理のロジックを抽出できることで、構造やラベルの改善に直結する貴重なインサイトが得られます。結果として、ユーザーにとってわかりやすいサイト構造を設計でき、直帰率の低下やコンバージョンの向上にもつながるのです。

Webサイトの情報設計に活用できる有効性

情報が膨大に存在するWebサイトでは、その構造やナビゲーションがユーザー体験を大きく左右します。カードソートを活用すれば、ユーザーにとって理解しやすい情報のまとまりや、混同されやすいカテゴリの特定が可能となり、効果的な情報アーキテクチャの設計が実現します。特にeコマースサイトやポータルサイトのように、カテゴリやメニュー構成が複雑になりがちな場合には、ユーザー視点での分類をもとに設計を進めることで、UXを改善し、ユーザーが目的の情報に素早くアクセスできる環境を整えることができます。

チーム内での共通認識形成に役立つ点

カードソートの結果は、設計チーム内やクライアントとの間で共通認識を築くうえでも非常に役立ちます。情報構造の設計においては、部門ごとに異なる意見や優先順位が発生することが少なくありません。そうした中で、実際のユーザーがどのように情報を分類したかというデータを共有することで、主観的な意見を排除し、客観的な根拠をもとに話し合いを進められます。また、ユーザーが選んだラベルや分類パターンを元に議論することで、設計者同士の考え方の違いをすり合わせる材料にもなり、合意形成のスピードと精度が向上します。

費用対効果の高いユーザーリサーチ手法である点

カードソートは、比較的低コストかつ短時間で実施可能なユーザーリサーチ手法です。対面でもオンラインでも実施できる柔軟性があり、特別な設備を必要としないため、限られた予算や時間の中でも導入しやすいのが特徴です。また、少人数でも一定の傾向が見えてくるため、初期段階の仮説検証にも適しています。さらに、無料または安価なツールも充実しており、学習コストも低いため、UX初心者のチームでも手軽に実践可能です。こうした特性から、費用対効果の高い施策として、情報設計やサイト改善プロジェクトに広く取り入れられています。

結果を即時に改善施策に反映できる柔軟性

カードソートで得られた分類パターンやラベルは、すぐに設計案に反映できる即効性があります。ユーザーのグルーピング結果や命名傾向は、ナビゲーション構造の再設計やラベルの改善にそのまま適用することができ、仮説ベースではなく「ユーザーに基づく」構造を構築できます。また、ツールを使えば自動的にクラスタリング分析や頻度集計が可能なため、実施から改善案の提示までのスピードも速く、短期間でのUI改善やABテストに活用しやすい点も魅力です。このように、結果を即時活用できる点が、カードソートの大きな強みといえるでしょう。

カードソートを行う上でのデメリットや注意点を押さえておこう

カードソートは多くのメリットを持つ一方で、実施時にはいくつかのデメリットや注意点も存在します。たとえば、ユーザーの認知的負荷、データの分析難易度、カードの選定ミスによる結果の偏りなどが挙げられます。また、セッション形式や被験者の特性によっても、結果の再現性や一貫性に差が出ることがあります。そのため、カードソートを活用する際は、単なる分類作業として実施するのではなく、設計目的に沿った計画と、実施後の慎重な分析・解釈が求められます。ここでは代表的なデメリットとその回避方法を整理して解説します。

ユーザーにとって分類が難しい場合の対処法

カードソートでは、ユーザーに情報カードを分類してもらうことが前提となりますが、用意したカードの内容が抽象的すぎたり、文言が専門的で理解しづらい場合、ユーザーが分類に戸惑うことがあります。特にオープンカードソートでは、自由度が高い反面、ユーザーにとって分類そのものが負担になりやすいため、分類が不正確になったり、途中で集中力が切れるリスクもあります。対処法としては、カードの文言を明確にし、重複や曖昧な表現を避けることが重要です。また、事前にパイロットテストを実施し、ユーザーが理解しやすいカード構成かを確認しておくことで、分類の難易度を下げる工夫が可能です。

カード数・カテゴリ数による分析難易度の変化

カードソートでは、カードの数が多すぎたり、カテゴリ数が偏っていたりすると、得られたデータの分析が非常に複雑になります。たとえば、50枚以上のカードを扱った場合、ユーザーの分類作業に時間がかかるだけでなく、分析時にも多様な分類パターンが発生し、傾向を導き出すことが難しくなります。カテゴリ数も、ユーザーごとに極端に異なると比較がしづらく、結果の集約に手間がかかります。このため、一般的には15〜40枚程度のカード数にとどめ、想定されるカテゴリの幅もあらかじめ適切に調整しておくと、効率的かつ意味のある分析が可能になります。

実施形式による制約とオンライン実施時の課題

対面でのカードソートには、ユーザーの動きや発言を直接観察できるというメリットがありますが、場所や時間の確保が必要であり、スケジュール調整が困難になるケースもあります。一方、オンライン実施では時間や場所の制約を大きく緩和できますが、ツールの操作に慣れていない参加者にとってはハードルとなることもあり、分類の正確性や集中力の低下を招く可能性があります。また、ネットワーク接続の不安定さや操作ミスによるデータの消失リスクも考慮すべきです。オンラインで実施する際には、操作説明を丁寧に行い、シンプルで直感的なUIを備えたツールを選ぶことが成功の鍵となります。

主観的な分類結果の解釈とその限界

カードソートで得られる結果は、ユーザーの主観に基づくものであり、その解釈には注意が必要です。同じカードでも、ユーザーによって異なる分類がなされるため、必ずしも明確な正解が存在しないのが実情です。とくにオープンカードソートでは、カテゴリ名の表現がバラバラになることも多く、分析者がそれらを統合・解釈する際にバイアスが入りやすくなります。このような限界を踏まえ、複数のユーザーから得られたパターンをクラスタリングや頻度分析などの客観的な手法で補完することが重要です。また、他の定量的な評価手法と組み合わせて判断材料を増やすことも有効なアプローチです。

実施者のバイアスを防ぐための注意事項

カードソートはユーザー主体の調査手法であるにもかかわらず、実施者の誘導やカード作成時のバイアスが結果に影響を与えてしまうリスクがあります。たとえば、特定の用語を強調する表現を使用したり、順序に偏りがある場合、ユーザーの分類結果が誘導されてしまう恐れがあります。また、セッション中の会話や説明の仕方にも影響を及ぼす可能性があるため、中立的な立場を貫くことが求められます。バイアスを防ぐには、カード内容や進行手順を複数人でレビューしたり、ファシリテーションをマニュアル化しておくことが有効です。データの信頼性を高めるには、こうした配慮が不可欠です。

実際のプロジェクトにおけるカードソートの活用事例とその効果

カードソートは多様な業界・目的で活用されており、情報設計の改善に大きな成果をもたらしています。特にWebサイトやモバイルアプリなど、情報の分類やラベリングがユーザー体験に直結するプロジェクトで導入されるケースが多く見られます。実践事例では、ユーザーの直感的な分類傾向を基にした再設計により、導線の改善や離脱率の低下、満足度の向上など、具体的な成果が報告されています。以下では、代表的な5つの事例を通じて、カードソートの有効性と適用の幅広さを解説します。

企業Webサイトの情報構造再設計への適用事例

ある大手製造業のコーポレートサイトでは、情報が縦割り構造で整理されており、訪問者が目的の情報にたどり着けないという課題がありました。そこで、カードソートを用いて実際の利用者が情報をどのように認識・分類するかを調査したところ、部署単位ではなく「製品カテゴリー」や「用途別」で情報を探している傾向が明らかになりました。この結果をもとに情報構造を再設計したところ、検索エンジン経由の直帰率が25%改善し、問い合わせ件数も増加しました。ユーザー視点の分類構造への変更が、明確なビジネス効果につながった好例といえます。

自治体サービスサイトでの導線改善の成功例

ある自治体では、市民向けの行政サービスサイトにおいて、目的の手続き情報へ辿り着けないという声が多く寄せられていました。カードソート調査を実施したところ、「税金」「育児」「引っ越し」など、生活シーンに基づいた分類が市民にとってわかりやすいことが判明しました。従来の役所の組織構造に基づく分類から、利用者視点のカテゴリへ変更することで、1ページあたりの平均滞在時間が伸び、検索機能の利用率も低下。導線が改善された結果、ユーザー満足度も高まり、問い合わせ対応の件数も減少するなど、運用面でのコスト削減にもつながりました。

eコマースサイトのカテゴリ改善における成果

オンラインショップでは、商品のカテゴリ構成が購買行動に大きな影響を与えます。あるアパレルECサイトでは、サイト内検索の利用率が高く、ユーザーが目的の商品を見つけにくい構造であることが問題視されていました。カードソートを通じてユーザーの分類傾向を調べた結果、シーズンや利用シーン別のカテゴリ(「夏のお出かけ」「オフィスカジュアル」など)で探す傾向があることが分かりました。それに基づいてカテゴリ構造を再編成したところ、検索依存率が減少し、回遊率と購入率がともに向上。UXの改善が売上にも直結した代表的な事例です。

教育関連プラットフォームでの情報分類の実施例

オンライン学習プラットフォームでは、学習者が目的の教材や講座を迅速に見つけられるかどうかが継続率を左右します。ある教育系サービスでは、コンテンツの分類が「科目名」や「年齢層」に偏っていたため、利用者から「何を学べばよいかがわからない」との声が多く上がっていました。カードソート調査により、「スキルレベル別」や「学習目的別」(例:「就職対策」「検定合格」など)の分類が有効であることが分かり、情報構造を再設計。その結果、学習者の継続率が改善し、リテンションの向上にも貢献しました。

モバイルアプリの情報設計への適用とその評価

ある健康管理アプリでは、体重記録、食事記録、運動履歴など多数の機能が1画面に集約されていたことで、ユーザーから「使い方がわかりにくい」というフィードバックが寄せられていました。そこでカードソートを用いて、実際のユーザーがどのように機能を分類するかを調査したところ、「毎日の記録」「分析」「設定」など、利用頻度や目的に基づくグループ化が好まれることが判明。これによりアプリのタブ構成を見直し、トップ画面の簡略化を実現したことで、操作性が向上し、App Storeレビューでも高評価が増加しました。情報の整理がUX改善に直結した好事例です。

カードソートに役立つおすすめツール・アプリを用途別に紹介

カードソートを効率よく実施するためには、目的や状況に応じたツールやアプリの選定が非常に重要です。近年では、オンラインで手軽に実施できるツールが多数登場しており、対面での実施に比べて時間や場所の制約が少ない点が魅力です。また、記録や集計、クラスタリング分析などの機能が備わっているため、実施から分析までの工程を効率化できます。もちろん、紙と付箋などを使ったアナログな実施方法も根強く、シンプルな調査には依然として有効です。ここでは、無料・有料を問わず、使いやすさや機能性に優れたカードソートツールを用途別に紹介します。

無料で使える代表的なカードソートツールの紹介

費用を抑えながらカードソートを実施したい場合、無料のツールは非常に有用です。代表的な無料ツールには「Kardsort」や「UXtweak(Freeプラン)」などがあります。これらのツールはブラウザベースで動作し、参加者にURLを送るだけで簡単にセッションを始められる点が便利です。ユーザーの操作ログを自動で記録し、グループ化の結果を視覚的に表示してくれる機能も搭載されています。また、日本語にも対応しており、非エンジニアでも直感的に操作できるインターフェースが用意されています。初めてカードソートを導入する企業や小規模プロジェクトにとって、無料ツールは導入障壁が低く、非常に魅力的な選択肢です。

有料ツールにおける機能比較と選定ポイント

より高度な分析や大規模な調査を行いたい場合、有料のカードソートツールを検討する価値があります。代表的な有料ツールには「OptimalSort(Optimal Workshop)」「UserZoom」「Maze」などがあります。これらのツールは、クラスタリング分析、自動レポート生成、フィルタ機能、セグメント別比較などの高機能が搭載されており、複数プロジェクトを横断的に管理したい企業にとって有用です。選定時には、参加者数制限、データエクスポート形式、チーム共有機能なども確認すべきポイントです。年間契約が必要なものもあるため、調査の頻度や規模に合わせて最適なプランを選ぶことが重要です。

対面実施におけるアナログツールの使い方

オンラインツールが普及する一方で、対面形式でのカードソートも根強い人気があります。特に小規模なグループインタビューやワークショップでは、紙のカードや付箋、ホワイトボードを使ったアナログな方法が有効です。参加者が実際に手を動かして分類作業を行うため、思考の流れや迷いが可視化され、観察者はリアルタイムで洞察を得ることができます。必要な道具は、同じサイズの紙カード、ペン、記録用のカメラまたはメモ帳など。分類後は、各グループの写真を撮り、再現性のある形で記録を残しておくと後の分析がスムーズになります。即興的なフィードバックが欲しい場合には、アナログ方式が適しています。

ユーザー参加型オンラインツールの導入事例

リモートワークや多拠点でのユーザー調査が増える中、ユーザー参加型のオンラインカードソートツールが活用されています。たとえば、「OptimalSort」では参加者にリンクを配布するだけで調査を実施でき、非同期でも多人数のフィードバックが収集可能です。導入事例としては、グローバルECサイトが多言語対応のナビゲーション改善のため、各国のユーザーにオンラインでカードソートを実施し、国ごとの分類傾向を比較・統合したケースがあります。このように、ツールの柔軟性を活かすことで、地理的制約を超えたUXリサーチが実現し、国際的な設計戦略にも貢献しています。

データ出力と分析補助が可能なツールの機能

高度なカードソートツールには、データ出力と分析補助の機能が充実しています。たとえば、クラスタリング分析、類似性マトリクス、樹形図などを自動生成し、ユーザーの分類傾向を視覚的に把握できます。また、CSVやPDF形式でのエクスポート機能により、外部ツールと連携した詳細な分析も可能になります。さらに、参加者の操作ログや滞在時間を記録し、分類時の行動パターンを把握することも可能です。こうした分析機能により、カードソートの結果を定量的に検証し、説得力のある設計資料として関係者に提示できるため、プロジェクトの意思決定をスムーズに進められます。

カードソートの分析方法と代表的な分析手法について

カードソートの分析は、ユーザーがどのように情報を分類したかという結果を数値的・視覚的に整理し、情報構造の設計や改善に役立てるために不可欠な工程です。単なる分類結果の集計にとどまらず、クラスタリングやマトリクス分析などの手法を活用することで、ユーザー全体の傾向やパターンを把握しやすくなります。特に複数ユーザーから得られた結果は、平均的な分類傾向や多数派の考え方を見極めるうえで重要な指標となります。ここでは、カードソートで得られたデータを効果的に活用するための主要な分析手法について解説します。

類似性マトリクスによる視覚的なパターン抽出

類似性マトリクスは、カードソート分析でよく使われる視覚的な手法で、ユーザーがどのカードを同じグループに入れたかを基に、カード同士の関係性を数値化・可視化します。たとえば、100名のユーザーのうち80名が「FAQ」と「お問い合わせ」を同じグループに分類した場合、この2枚のカードの類似度は80%と表現されます。こうしたマトリクスは表形式またはヒートマップ形式で出力され、カード間のつながりを一目で把握できる点が魅力です。結果として、自然な情報構造や関連カテゴリの把握に役立ち、ナビゲーション設計の根拠としても説得力のある資料になります。

階層クラスタリングによるグループ化の可視化

階層クラスタリングは、類似性マトリクスをもとにカードを階層的に分類し、ツリー構造(デンドログラム)として可視化する分析手法です。これにより、どのカードがどのグループに近いか、また階層的にどうまとまっていくかを視覚的に把握できます。特に情報アーキテクチャの階層構造を設計する際に役立ち、第一階層、第二階層の分類案を構築する際の参考資料になります。また、複数ユーザーから得られた分類結果の共通性を抽出できるため、主観的な分析に偏らず、客観的な構造設計をサポートします。OptimalSortなどのツールではこの機能が標準装備されており、分析作業の効率化にも貢献します。

カテゴリ出現頻度の集計と傾向分析

オープンカードソートでは、ユーザーが独自に作成したカテゴリ名や分類の傾向を集計・分析することも重要です。たとえば「お知らせ」と「最新情報」というカテゴリ名が複数のユーザーから頻出した場合、それらの意味合いや使用文脈を分析することで、ユーザーにとって理解しやすいラベルが導き出されます。また、あるカードが頻繁に複数カテゴリに分類されている場合は、そのカードの意味が曖昧であるか、複数の文脈で使用される傾向にあることが示唆されます。こうした集計は、設計者が想定していなかった新たな分類視点を得るための手がかりとなり、既存の情報構造を見直す重要な材料になります。

定性的データの読み取りと解釈のポイント

カードソートでは数値データだけでなく、ユーザーが分類中に発したコメントやグループ名などの定性的データにも注目すべきです。たとえば、分類理由として「この2つは似た目的で使う」「この言葉はわかりにくい」などのフィードバックが記録されていれば、それを情報設計に反映することで、よりユーザーに寄り添った構造が実現します。特にオープンカードソートでは、自由記述されたラベルや発言がユーザーの意図を示す重要な情報源となります。分析者はこれらを読み解き、設計意図と照らし合わせながら、柔軟に構造案へと落とし込む必要があります。

分析結果をナビゲーションや構成案に反映する方法

カードソートの分析結果は、最終的に情報アーキテクチャやナビゲーション設計へと反映させることが目的です。類似性や分類傾向を参考にしながら、ユーザーが迷わず目的の情報にたどり着ける構造を設計します。その際、頻出した分類パターンをベースにし、異なる分類傾向が見られた場合は補助的なリンクや検索機能でカバーする工夫が必要です。また、ラベルはユーザーの表現に近い言葉を用い、あいまいな表現や業界用語は極力避けます。カードソートを基にした設計は、ユーザーの声を具体的に反映した構造として、説得力と実効性を兼ね備えたナビゲーションの実現に寄与します。

カードソートを成功させるためのコツと押さえておくべきポイント

カードソートは、情報設計の精度を高める有効な手法ですが、実施の仕方によって成果の質が大きく変わります。計画段階から実施・分析までの各フェーズで意識すべきポイントを押さえることで、より信頼性の高い結果が得られ、ユーザーにとって使いやすい情報構造の設計につながります。特に、ユーザー選定の適切さ、カード内容の工夫、誘導の排除、分析の客観性など、細かな点に配慮することが成功の鍵です。以下では、カードソートを最大限に活用するために必要な具体的なコツと、実践時に注意すべき失敗例を踏まえた対策を解説します。

目的を明確にした上でのカード設計の工夫

カードソートを始める前に、実施の目的を明確にしておくことは非常に重要です。「新規サービスの情報構造を設計したい」「既存サイトのラベルを見直したい」など、ゴールを具体的に設定することで、カードの作成にも一貫性が生まれます。カードには1つの情報単位だけを記載し、抽象度を揃えることがポイントです。また、ユーザーが迷わないよう簡潔な言葉を使い、長すぎる文章や専門用語の使用は避けるべきです。必要に応じて、補足説明やアイコンを加えるのも有効です。こうした工夫によって、分類作業がスムーズになり、得られる結果の質も向上します。

ターゲットユーザーの適切な選定と声の拾い方

カードソートに参加してもらうユーザーの選定は、分析結果の信頼性を左右します。理想は実際のサービス利用者に近い人物を選ぶことですが、年齢、職業、ITリテラシーなどの属性も重要な判断基準です。また、バランスの取れたサンプルを確保することで、偏った視点を避け、より普遍的な分類傾向を把握できます。さらに、セッション中には参加者の迷いやつぶやきを丁寧に拾うことがポイントです。そこには設計者が見落としがちなユーザーの直感や理解のズレが現れていることが多く、それを記録・分析することで、よりユーザー本位の設計改善が可能になります。

セッション中の説明・誘導で避けるべきNG行動

カードソートのセッションでは、ファシリテーターの振る舞いがユーザーの判断に影響を与えることがあります。たとえば「これはこういう意味です」「このカードはこのカテゴリですよね?」といった発言は、ユーザーの自由な分類を妨げ、調査結果にバイアスが生まれる原因になります。また、カードの順番や見た目によっても選択傾向が左右されるため、視覚的なバランスも重要です。説明は必要最低限にとどめ、質問には中立的な回答を心がけましょう。ユーザーの行動を観察し、自由に考えてもらう環境を整えることが、質の高いデータ収集につながります。

フィードバックの反映を前提とした分析視点

カードソートの目的は分類結果を設計に反映することであり、調査を実施すること自体が目的ではありません。そのため、分析時には「どう活用するか」という視点を持って取り組むことが重要です。類似度やグルーピング結果をただ可視化するだけでなく、「なぜこのカードがこのカテゴリに入ったのか」「なぜ混乱が生じたのか」など、背景や文脈を読み取る努力が求められます。また、結果はあくまで設計改善のヒントであり、必ずしも多数決的に従う必要はありません。ユーザーの声を基にした判断材料として扱い、全体設計との整合性を取りながら活用することが成功のポイントです。

継続的に改善へつなげるフレームワークの導入

カードソートは1回限りで終わるものではなく、継続的な改善のサイクルに組み込むことで、より効果を発揮します。たとえば、初回のカードソートで得た分類案をベースにプロトタイプを作成し、その使用感をユーザビリティテストで検証するといった流れです。また、サイト公開後もアクセス解析やユーザーフィードバックと組み合わせることで、情報構造の適正さを継続的に見直すことができます。こうしたPDCAサイクルを設計に組み込むことで、ユーザー中心の設計思想が定着し、組織としてのUX成熟度も高まります。調査結果を一過性のデータで終わらせない視点が重要です。

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