デプスインタビューは、調査対象者1人とインタビュアーが1対1で60〜90分ほど話し、購買や利用に至った経緯と、その背後にある理由を掘り下げる定性調査です。日本マーケティング・リサーチ協会(JMRA)の第51回経営業務実態調査では、回答会員社のアドホック調査における質的調査売上のうち、デプスインタビューは46.7%を占め、掲載された手法別区分で最大の売上構成比でした。
この記事では、グループインタビューとの使い分け、企画から分析までのやり方、質問項目の並べ方と60分の進行例、公開されている費用の目安を、出典を示して整理します。
まとめ:デプスインタビューの要点
- 1対1で、1人の意思決定の経緯を時系列で聞く手法です。所要時間の目安は60〜90分で、オンラインでは対象者の疲労を考慮し、できるだけ90分以内に収める設計が推奨されます。
- JMRA第51回調査では、回答会員社のアドホック調査における質的調査売上の46.7%(2025年度)がデプスインタビューで、その売上の67.1%がオンライン実施分です。
- やり方は、調査課題と仮説、対象者条件、インタビューフロー、リクルートと同意、実査、逐語録の分析の6ステップです。
- 質問は「現在の行動」から始め、「経緯」「理由」「価値観」へと順に深めます。最初から理由だけを求めると、具体的な出来事よりも、その場で整理した説明に回答が偏るおそれがあります。
- 人数の参考として、Guestらの研究では主要テーマの基本要素が6本で現れ、飽和は12本以内で確認されました。系統的レビューの9〜17本は、主に均質な集団と限定的な目的での結果であり、人数だけで飽和を保証するものではありません。比べたい層が複数あるなら、層ごとに新しい話が出尽くしたかを確かめます。
- 費用はマクロミルの基本料金が6名で24万円から、クロス・マーケティングの参考価格が1人あたり約25万円(税抜)からです。包含範囲が違うため、見積もりは条件をそろえて比べます。
以下、定義と使い分けから順に説明します。
デプスインタビューの定義とグループインタビュー・アンケートとの違い
1対1・60〜90分で1人の意思決定を追う調査
デプスインタビューは英語でIn-Depth Interviewといい、IDIとも略されます。クロス・マーケティングは、インタビュアーと対象者が1対1で対話する定性調査で、通常は60〜90分ほどかけると説明しています。
1人に長く話を聞けるため、商品を知ったきっかけから比較、購入、使用後の評価までを1本の流れとして追えます。他の参加者の目がないので、収入、健康、家族関係のような人前では話しにくいテーマも扱えます。
検索でよく並ぶ「インタビュー調査」は、デプスインタビューやグループインタビューを含む総称です。また、質問の決め方で分ける構造化・半構造化・非構造化という軸は、デプスインタビューとは別の分類です。実務のデプスインタビューは、質問の骨格を決めて深掘りを自由にする半構造化インタビューの形で行うのが一般的です。
グループインタビュー・アンケートとの使い分け
手法を選ぶ基準は、知りたいのが「1人の判断の筋道」なのか、「人同士の反応」なのか、「どれくらいの割合か」なのかです。
| 観点 | デプスインタビュー | グループインタビュー/FGI | アンケート |
|---|---|---|---|
| 1回に聞く人数 | 1人 | 複数人 | 調査全体の人数は設計による |
| 分析の材料 | 個人の発言の流れ | 参加者同士のやり取り | 回答の集計値 |
| 向いている問い | なぜその選択に至ったか | 反応がどう広がるか | 何割がそう考えるか |
| 話しにくい話題 | 扱いやすい | 扱いにくい | 選択肢の範囲で聞ける |
| 質的調査売上に占める割合 | 46.7% | 29.9% | 対象外 |
割合は後述するJMRA第51回調査の値です。参加者同士の反応を材料にするならフォーカスグループインタビュー、仮説の規模を確かめるなら定量調査を選びます。デプスインタビューで見つけた仮説を、アンケートで何割に当てはまるか確かめる順序がよく使われます。
質的調査の売上の46.7%はデプスインタビュー:JMRA第51回調査の内訳
JMRAは毎年、会員社を対象に経営業務実態調査を行っています。第51回(2025年度実績)の表6-3-1では、アドホック調査の売上のうち質的調査が22.2%でした。その質的調査を100%としたときの手法別の内訳が、表6-3-1-2です。
| 手法 | 2025年度 構成比 | うちオンライン | 2024年度 構成比 | うちオンライン |
|---|---|---|---|---|
| デプスインタビュー | 46.7% | 67.1% | 47.4% | 68.9% |
| グループインタビュー/FGI | 29.9% | 23.9% | 29.2% | 29.9% |
| MROC | 1.6% | – | 2.1% | – |
| エスノグラフィ | 1.3% | 21.5% | 1.4% | 14.0% |
| AI活用のインタビュー | 0.3% | – | 項目なし | – |
| その他 | 20.2% | – | 19.9% | – |
出典:JMRA 第51回経営業務実態調査(回答70社)、第50回(回答71社)の表6-3-1-2。オンライン列は、各手法の売上に占めるオンライン実施分の割合です。
この表から読み取れることは2つあります。1つ目は、入門記事で先に紹介されがちなグループインタビューよりも、デプスインタビューの売上が1.5倍以上大きいことです。2つ目はオンライン化の差で、デプスインタビューは売上の3分の2がオンラインなのに対し、グループインタビューは4分の1以下にとどまります。1対1なら通信トラブルの影響が1人で済み、発言の順番待ちも起きないため、オンラインへ移しやすい手法だといえます。
第51回から「AI活用のインタビュー」の行が新設されましたが、構成比は0.3%です。ただし、この表だけでは他の手法区分でのAI併用状況や、聞き手が人かAIかの内訳までは分かりません。なお、この数値はJMRA会員社の売上構成比であり、実施件数の比率ではありません。定性調査の手法全体の比較は定性調査の解説記事にまとめています。
デプスインタビューのやり方6ステップ
企画から報告までは、次の6ステップで進めます。
- 調査課題と仮説を書き出す。「若年層の解約理由を知りたい」ではなく、「無料期間終了の直前に解約する人は、料金ではなく使う場面が見つからないことを理由にしているのではないか」の粒度まで落とす。
- 対象者条件を決め、スクリーニング調査の設問を作る。利用頻度、直近の購入時期、競合品の利用有無など、仮説の検証に必要な条件で絞る。
- インタビューフロー(質問項目と時間配分)を作る。次の章で詳しく扱う。
- 対象者をリクルートし、録音・録画の有無、依頼主が立ち会うかどうか、途中でやめられることを事前に伝えて同意を得る。
- 実査を行う。
- 逐語録(発言録)を作り、コード化して示唆にまとめる。
4の同意について、JMRAの綱領解説(2026年4月1日改訂版)は、関係者だけが視聴・閲覧する場合であっても、クライアント関係者の立会い、録音、録画は事前に調査対象者へ提示して同意を得る必要があるとしています。社内の担当者が別室やオンラインで見学するだけでも、この告知は省けません。
1で調査課題が曖昧なまま進めると、2で絞るべき条件が決まらず、3の質問も「どう思いますか」の繰り返しになります。
対象者条件と人数の決め方
人数は、何人に聞けば新しい話が出なくなるか(飽和)で考えます。西アフリカ2か国で行った60本のインタビューを分析したGuest、Bunce、Johnsonの研究(Field Methods、2006年)では、飽和は最初の12本以内で訪れ、主要テーマの基本要素は6本の時点で現れていました。その後、実データで飽和を検証した研究をまとめたHennink と Kaiserの系統的レビュー(Social Science & Medicine、2022年)では、飽和に達したインタビュー数は9〜17本の範囲に収まっていました。
ただし、どちらの結果も、条件が比較的そろった集団と、狭く定めた調査目的での値です。「継続利用者」と「解約者」のように比べたい層が2つあるなら、各層の多様性と知りたい内容に応じて人数を仮置きし、分析の途中で追加の必要性を判断します。条件の違う人を合計10人集めた場合、層ごとの人数が少なくなるため、比較したい論点を十分に捉えられたかを各層で確認する必要があります。飽和の考え方と、複数の層を横断する場合の人数は半構造化インタビューの人数の目安で詳しく扱っています。
オンラインで実施するときの準備
JMRAの「オンライン定性調査ファーストステップガイド」(2021年5月)は、オンラインでは画面を見続けるため対面より疲れやすいとして、1回のインタビュー時間をできるだけ90分以内に収めるよう勧めています。120分にする場合は、内容を詰め込み過ぎないよう求めています。
同ガイドが挙げる準備のうち、デプスインタビューで抜けやすいのは次の4点です。
- 3日前までに、当日と同じ場所・同じ端末で接続テストを行う。
- 開始時刻の10分程度前までにログインしてもらい、通信状況を確かめる。
- リクルートの段階で、URLを第三者に共有しないことと、対象者側での録画・録音・画面キャプチャの禁止について承諾を得る。
- 本人確認を行うときは録画しない。
対象者の自宅から参加してもらう場合、家族に聞かれると話しにくいテーマなら、聞かれる心配のない場所を事前に確保してもらいます。
質問項目の作り方と60分のインタビューフロー例
質問項目の順序:現在の行動・経緯・理由・価値観
いきなり「なぜその商品を選んだのですか」と聞くと、対象者が具体的な出来事を振り返る前に、その場で整理した理由を答えることがあります。本人も気づいていない判断基準は、こうした後付けの説明の下に隠れてしまいます。
そこで質問は、答えやすく記憶に残っている事実から始め、抽象度を一段ずつ上げます。
- 現在の行動:いつ、どこで、どのくらいの頻度で使っているか。
- 経緯:最初に知ったきっかけ、比べた候補、決めた日の状況。
- 理由:候補の中からそれを選んだ決め手と、迷った点。
- 価値観:その決め手が本人にとってなぜ大事なのか。
3から4へ上がる部分では、「それが満たされると、どんな良いことがありますか」と問いを重ねるラダリングが使えます。質問の具体例はラダリングの解説記事にまとめています。
60分フローの時間配分例
以下は、動画配信サービスの解約者を対象にした場合を想定して、本記事で作成した配分例です。
| 時間 | パート | 質問例 |
|---|---|---|
| 0〜5分 | 導入 | 録音の了承、正解はないことの説明 |
| 5〜15分 | 生活と現在の行動 | 平日の夜はどう過ごしていますか |
| 15〜30分 | 契約から解約までの経緯 | 解約を考え始めたのはいつ頃ですか |
| 30〜45分 | 決め手と迷い | 解約ボタンを押す前に迷ったことは |
| 45〜55分 | 価値観の深掘り | それが大事なのはなぜですか |
| 55〜60分 | 確認と締め | 言い残したことはありますか |
各パートに書くのは1〜2個の大きな質問だけにし、残りの時間は対象者の答えに応じた深掘りに使います。質問を詰め込み、すべてに回答を求めると、個々の答えを深掘りする時間が不足します。対面と同じ量をオンラインに持ち込まないことは、先のJMRAガイドも注意しています。
深掘りの聞き方と避けるべき質問
英国政府のサービス設計マニュアル(GOV.UK Service Manual)のデプスインタビューの指針は、「どのように…していますか」のような開かれた中立的な質問で話を始め、「…とおっしゃいましたが、それはいつ・なぜですか」のような短い追質問で詳しく聞くよう勧めています。深掘りでは、このように対象者が使った言葉をそのまま使って聞き返します。「使いにくかった」と言われたら、「使いにくかったというのは、どの画面のときですか」と具体的な場面へ降ろします。
避けるべき質問は、答えを誘導するものと、1つの問いに2つの論点を入れるものです。
- 誘導質問:「料金が高いと感じましたか」は、料金を理由として提示してしまいます。「解約を考えたきっかけを教えてください」と聞き直します。
- 二重質問:「画面の見やすさと操作性はどうでしたか」は、どちらへの回答か分からなくなります。論点ごとに分けます。
- 「なぜ」の連発:責められていると感じさせます。「どんなときに」「どうして気になったのか」など、言い方を変えて聞きます。
デプスインタビューの費用の公開値と見積もりで比べる項目
調査会社が公開している価格は、次のとおりです。
| 公開元 | 条件 | 金額 |
|---|---|---|
| マクロミル 料金表 | 基本料金・6名実施 | 24万円〜 |
| マクロミル 料金表 | 見積例・12名・各1時間・レポート込み | 340万円 |
| クロス・マーケティング | 参考価格・1人あたり・レポート込み | 約25万円〜(税抜) |
| マクロミル コラム | 費用相場 | 30万〜150万円 |
同じマクロミルでも、基本料金の下限(6名で24万円)を人数で割ると1人あたり4万円、見積例(12名で340万円)は1人あたり約28.3万円で、単純計算では約7.1倍の差があります。見積例はスクリーニング調査、インタビューフロー設計、割付、発言録、分析レポートまで含んだ条件で、基本料金とは包含範囲が異なるため、同条件の単価比較ではありません。なお、見積例の1人あたり約28.3万円は、レポート込みで1人あたり約25万円(税抜)からとするクロス・マーケティングの参考価格と近い水準です。
これらは各社が公開する参考価格と個別条件の見積例であり、分析・レポート込みの一般的な単価や、実査だけにした場合の値下がり幅までは判断できません。見積もりを比べるときは、次の項目をそろえてください。
- 対象者条件の出現率(条件が厳しいほどリクルート費が上がる)
- 人数と1人あたりの実施時間
- 対面かオンラインか(会場費の有無)
- インタビューフロー設計、モデレーター、発言録、分析レポートのどこまでが含まれるか
- 対象者への謝礼が見積もりに含まれるか
逐語録から示唆をまとめる分析の進め方
分析は、録音から逐語録を起こし、発言を意味のまとまりに切ってコード(短い見出し)を付けるところから始まります。次に、縦に対象者、横に論点を並べた表へコードを配置すると、「6人中4人が同じ場面で迷っている」「この1人だけ決め手が違う」といった共通点と例外が見えます。
報告では、まず調査課題への答えを数枚で先に示し、根拠となる発言を後ろに付けます。この先出しの形式はトップライン・レポートと呼ばれます。発言のカード化とグループ化で整理するならKJ法、手続きを第三者に説明できる形にしたいならSCATやM-GTAが使われます。
注意したいのは、少人数の結果を比率で語らないことです。「6人中4人」は調査参加者の中での共通性を示す記述であり、市場の67%がそうだという意味にはなりません。仮説を評価するときは、発言の文脈や反例も確認します。
デプスインタビューを選ぶべきでない場面
次の条件に当てはまるなら、デプスインタビューは使いません。
- 知りたいのが割合や順位のとき。「どの機能が何割に使われているか」は、定量調査で聞くべき問いです。
- 本人が言葉にできない行動を知りたいとき。画面操作の手順や売り場での動線は、記憶に基づく発言より、観察やエスノグラフィーのほうが正確に捉えられます。
- 参加者同士の反応を見たいとき。広告案に対する反応の広がりや意見の対立は、1対1では生まれません。
- 調査目的がなく、何を明らかにするかも決まっていないとき。まず知りたい論点を定めます。目的が明確なら、仮説を作るための探索的なインタビューも選択肢です。
たとえば、「顧客の本音を知りたい」という目的だけで聞き始めると、比較する論点がそろわず、判断に使える結論をまとめにくくなります。対象者条件と仮説を1つに絞ってから人数を決めてください。
よくある質問
デプスインタビューとは簡単にいうと何ですか?
調査対象者1人とインタビュアーが1対1で、60〜90分ほどかけて話を聞く定性調査です。商品を選んだ経緯や理由、その背後にある価値観を掘り下げます。英語ではIn-Depth Interview(IDI)といいます。JMRA第51回調査では、回答会員社の2025年度のアドホック調査における質的調査売上の46.7%を占め、掲載された手法別区分で最大の売上構成比でした。
インタビュー調査とデプスインタビューは違うものですか?
インタビュー調査は、対象者に質問して言葉で答えてもらう調査の総称です。デプスインタビューはその中の1つで、1対1で行う形式を指します。複数人を集めて話し合ってもらう形式はグループインタビュー(FGI)と呼ばれます。どちらも質問の骨格を決めつつ深掘りは自由にする、半構造化の形で行うことが一般的です。
デプスインタビューとグループインタビューの違いは何ですか?
1回に話を聞く人数と、分析の材料が違います。デプスインタビューは1人の意思決定の経緯を追い、グループインタビューは参加者同士のやり取りを材料にします。収入や健康など人前で話しにくいテーマはデプスインタビュー、意見がどう広がるかを見たいときはグループインタビューが向いています。
デプスインタビューは何人に実施すればよいですか?
研究で示された値が参考になります。Guestらの研究(2006年)では、60本のインタビューのうち最初の12本以内で飽和に達し、主要テーマの基本要素は6本の時点で現れていました。2022年の系統的レビューでは、均質な集団で目的を限定した研究を中心に、主にコードの飽和が9〜17本で確認されました。いずれも条件が比較的そろった集団での値なので、比べたい層が複数ある場合や、発言の意味まで深く理解したい場合は、途中の分析を見ながら人数を追加します。
デプスインタビューの費用はいくらですか?
公開されている価格では、マクロミルの基本料金が6名実施で24万円から、クロス・マーケティングの参考価格がレポート込みで1人あたり約25万円(税抜)からです。マクロミルの見積例では、12名・各1時間・発言録とレポート込みで340万円でした。フロー設計や分析レポートを含むかどうかで金額が大きく変わるため、包含範囲をそろえて比べてください。