KJ法は、バラバラの事実やアイデアを1枚ずつラベルに書き、似ているもの同士を寄せて見出しを付け、図と文章にまとめていく発想法です。「KJ」は考案者である川喜田二郎(Kawakita Jiro)氏の頭文字で、何かの英語の略ではありません。この記事では、名前が付いた経緯、4ステップのやり方と付箋を使った例、メリットとデメリット、親和図法やブレインストーミングとの違いを順に説明します。
まとめ:KJ法の要点
- 「KJ」は川喜田二郎氏(1920-2009)のイニシャルです。読み方は「ケイジェイほう」で、「ケージェー法」も同じものを指します。
- 川喜田氏は1964年の『パーティー学』で「紙キレ法」の名で紹介し、梅棹忠夫氏の助言などを経て1965年ごろに「KJ法」の名に落ち着きました。体系化したのは1967年の『発想法』(中公新書136)です。
- 狭義の手順は、ラベル作り、グループ編成(ラベル集めと表札づくり)、図解化(A型)、叙述化(B型)の4段階です。文章化まで終えて1周になります。
- KJ法は案を大量に出す技法ではなく、集めた断片を束ねる過程から新しい仮説を発想する技法です。案を量産する段階はブレインストーミングが担います。
- 品質管理の「親和図法」は、1977年にKJ法のA型を修正して新QC七つ道具に入れたもので、B型の文章化は含みません。
- よくある失敗は、グループ編成が既存カテゴリへの仕分けになることと、図解で止めて文章化を省くことです。
KJ法とは何の略か|川喜田二郎氏の頭文字と名前が付いた経緯
「KJ」は考案者のイニシャル、読み方は「ケイジェイほう」
KJ法の「KJ」は、考案者の川喜田二郎氏をローマ字で書いたKawakita Jiroの頭文字です。英語の熟語や手法名の略ではありません。読みは「ケイジェイほう」で、検索では「ケージェー法」「kjほう」といった表記も見られますが、指しているものは同じです。
川喜田氏は1920年に生まれ2009年に亡くなった地理学・文化人類学者で、東京工業大学名誉教授を務めました。ネパールなどでの野外調査で集まった大量の観察メモを、どう整理して考えを組み立てるかという必要から生まれたのがこの手法です。権利と研修を引き継ぐ株式会社川喜田研究所の解説では、KJ法を「民族地理学者・川喜田 二郎(かわきた じろう)の創案した問題解決・発想のための技法」と紹介しています。
最初の名前は「紙キレ法」|本人の論文に残る命名の経緯
「なぜKJなのか」には、川喜田氏本人が答えています。『人文地理』25巻5号(1973年)に載った論文「KJ法と啓発的地誌への夢」によると、川喜田氏は1964年の『パーティー学』でこの方法を初めて「紙キレ法」の名で紹介しました。ところが友人の梅棹忠夫氏に「紙キレ法」はまずいと叱られます。その後、京都大学の有志の集まりで説明したとき、用意したガリ版のテキストの隅に小さく「KJ法」と書いていたのを梅棹氏が見つけ、「この名にしておけ。」と言ったのが決め手の1つでした。
テキストに「KJ」と書いてあった理由も同じ論文にあります。共同研究の仲間の間では、カードを採集者別に探すときに、姓を先にした日本式のイニシャルを書く慣行があったためで、本人は「口調がよく簡単な名なら何でもよかった」と振り返っています。日本独創性協会の会誌が1965年に「KJ法特集号」を出したことも重なり、名前が定着しました。手法の着想そのものはさらに古く、2003年の『質的心理学研究』のインタビューで川喜田氏は、奈良県天理の裏山でのフィールドワークのころ、1951年にひらめいたと語っています。
| 年 | 出来事 | 確認した資料 |
|---|---|---|
| 1951年 | 天理でのフィールドワークのころに着想 | 本人インタビュー(2003年) |
| 1964年11月 | 『パーティー学』(社会思想社)で「紙キレ法」として紹介 | 本人論文・NDLサーチ |
| 1965年 | 日本独創性協会の会誌が「KJ法特集号」を発行 | 本人論文 |
| 1967年 | 『発想法』(中公新書136)で体系化 | NDLサーチ書誌 |
| 1970年 | 『続・発想法』でKJ法の展開と応用を解説 | NDLサーチ書誌 |
| 1977年 | A型を修正し親和図法として新QC七つ道具へ | U-Site(黒須正明氏) |
| 1986年11月 | 『KJ法 : 渾沌をして語らしめる』刊行 | NDLサーチ書誌 |
| 2017年 | 『発想法』改版(中央公論新社) | NDLサーチ書誌 |
『発想法』は刊行後すぐに広く読まれた本で、国立国会図書館の書誌には1971年11月の29版、1973年6月の34版が残っています。2017年には中公新書の改版が出ており、半世紀以上たった今も新刊で手に入ります。原典で手順を確かめたいなら、この改版を読むのが近道です。
KJ法のやり方・手順|4ステップと各工程のコツ
川喜田研究所は、狭い意味でのKJ法を「現場で取材されたデータをラベルに記入することに始まり、それらのラベルを『グループ編成』を通じて統合・図解化し、叙述化(つまり文章化または口頭発表)へと至る、一連のプロセス」と定義しています。この定義に沿って、手順を4つに分けて説明します。用意するのは、付箋かラベル用紙、模造紙かホワイトボード、太めのペンです。
ステップ1 ラベル作り|1枚1項目の具体的な短文
観察した事実、聞き取った発言、思いついた案を、1枚に1つずつ書きます。川喜田氏は1973年の論文で、ラベルづくりを「素材から意味のある1区切りを切りとり、そのいわんとするエッセンスを、意味のコンテキストを殺さないように1枚のラベルに圧縮表現する作業」と説明しています。複数の内容を1枚に入れると、そのラベルをどの束に置くか決められなくなります。抽象語でまとめず、後から読んだ人にも場面が浮かぶ具体性を残すのがコツです。
| 悪いラベル | 理由 | 良いラベル |
|---|---|---|
| 情報共有が不足している | 抽象的で場面が浮かばない | 共有メールを2人が同時に開き同じ返信を書いた |
| マニュアルが古く新人が困り先輩も忙しい | 1枚に3つの事柄が入っている | マニュアルの手順が今の管理画面と違う |
| 業務効率化 | 文になっておらず主張が無い | 請求書の金額を3人が別々に目視で照合している |
立命館大学の教員が公開しているブレーンストーミングとKJ法の講義ページでも、ラベルにあたる「1行見出し」は20〜30字以内で、本質を捉えた表現にするよう指導しています。悪い例の1行目のような抽象語は、後の工程でどう束ねても同じ抽象語しか生みません。
ステップ2 グループ編成|ラベル集めと表札づくりの反復
全ラベルを机や模造紙に広げて読み(ラベル拡げ)、内容が「親しい」と感じるもの同士を寄せます(ラベル集め)。2〜3枚の小さな束ができたら、その束が言おうとしていることを1文で書いた「表札」を付けます(表札づくり)。川喜田研究所は、この「ラベル集め」と「表札づくり」をKJ法の最重要の核心と位置づけ、研修案内でもグループ編成を「ラベル拡げ・ラベル集め・表札づくり」の3つに分けて示しています。
守るべきルールは3つあります。1つ目は、部署別や機能別といった既存の分類軸に当てはめないことです。分類は既に知っていることの確認にとどまりがちです。2つ目は、どの束にも入らないラベルを無理に入れないことで、こうしたラベルは「一匹狼」「離れ猿」と呼ばれ、単独で1つの束として扱います。3つ目は、小さな束から始めて、表札を付けた束同士をさらに寄せ、中、大と数段階くり返すことです。最初から大きなまとまりを作り、それを細かく割っていくやり方は避けます。
表札が名詞1語(例:「情報共有」)しか書けない束は、まだ分類しただけの状態です。1文で書けるまで中身を読み直すか、束を崩してやり直してください。川喜田氏の論文では、束の数が数束以内、多くても10束以内に減ったところで次の図解化に移るとしています。
ステップ3 図解化(KJ法A型)|空間配置と記号による関係の表示
まず最上位の束を模造紙の上に広げ、意味のつながりから最も座りのよい配置を探します。意味の近い束は近くに、対立する束は向かい合わせに置き、位置そのものに情報を持たせます。次に、上位の束から順に輪ゴムを外して1段下の束やラベルを配置し、これを多段階に繰り返して、すべての元ラベルと表札を置き終えたら紙に貼り付けます。最後に、同じ束だったものを輪で囲み(島どり)、島と島の関係を記号で書き入れます。元ラベルまで図に残すことで、どの事実から結論を出したかを後からたどれます。
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| 線(──) | 関係がある |
| 片矢印(→) | 原因と結果 |
| 両矢印(←→) | 互いに影響し合う |
| >──< | 対立・反対 |
記号の種類は解説によって多少異なりますが、関係・因果・相互・対立の4つを区別できれば実務では足ります。矢印が集まる束があれば、その束のラベルを読み返し、本当に複数の事実を結び付けているかを確かめてください。
ステップ4 叙述化(KJ法B型)|図解の文章化と仮説の明示
完成した図解を、文章または口頭で説明します。川喜田氏が大切だとしたのは、内容を並列に書くのではなく「ストーリーとしてつなぐこと」と、「叙述と解釈の区別」が自他ともに明確な書き方をすることです。図の左上から順に読むのではなく、因果・対立・相互関係を含めて島どうしのつながりをたどり、ラベルに書かれた事実と、そこから読み取った解釈や仮説を分けて書きます。@IT情報マネジメント用語辞典は、ビジネスの現場ではA型図解で止める簡略型が多いと書いていますが、この省略はKJ法が空回りする典型的な原因です。付箋を貼ったボードを写真に撮って解散すると、参加していない人には何も伝わらず、参加した人の解釈も日がたつほど食い違っていきます。
狭義と広義のKJ法|W型問題解決モデルと累積KJ法
ここまでの4ステップは「狭義のKJ法」です。川喜田研究所は、その前段の取材の技法や、KJ法をくり返し使う技法まで含めた全体を「広義のKJ法」と呼んでいます。川喜田氏は前述の1973年の論文で、問題解決の流れ全体を「W型問題解決モデル」として示しました。Wを挟む上下2本の線のうち上を思考レベル、下を経験レベルとし、思考レベルでの問題提起から始めて、現場での情報収集、KJ法による発想、判断・決断・執行へと、2つのレベルを往復しながら進む図です。KJ法を何ラウンドも重ねる「累積KJ法」では、問題提起から実施直前までを6ラウンドに区切る方法が示されています。KJ法はW型の一部を担う道具で、叙述化で出た結論は計画づくりなど次の工程に渡して初めて成果になります。
付箋を使ったグループワークでのKJ法の例
手順の動きをつかむため、「問い合わせ対応の残業が減らない」というテーマで、5名が付箋と模造紙を使って進める架空の例を、4ステップを通してたどります。
直近1か月に見聞きした事実を書き出し、60枚ほどのラベルが集まったとします。グループ編成では、「共有メールを2人が同時に開き同じ返信を書いた」と「誰が対応中か分からず放置された」を寄せ、表札を「対応中かどうかが他の人から見えない」とします。「マニュアルが現行画面と違う」と「新人が毎回先輩に確認」の束には「手順書が現物に追いついておらず、口伝で補われている」と付けます。部署別や工程別に仕分けて終えると、「見えない」「口伝に頼る」という部署をまたぐ状態は表札になりにくくなります。
束をさらに寄せると「見えないから重複する」「手順が更新されないから人に依存する」の2つに収束し、A型図解では「口伝で補われている」から「対応中かが見えない」へ矢印を引きます。口頭のやり取りが多いほど記録が残らないためです。
B型叙述化では、「重複返信や先輩への確認というラベルからは、対応状況が記録に残らないまま口伝で流れていることが読み取れる(叙述)。手順書の更新が止まったことが口伝を増やし、記録の欠如が重複対応を生んでいるのではないか(解釈・仮説)」と書きます。この文はまだ仮説なので、問い合わせ件数や対応時間の記録で業務量の影響を確かめてから打ち手に進みます。会議の記録には、この文章と、根拠になった図解・元ラベルを一緒に残してください。
インタビューやアンケートをKJ法にかける場合、集め方は定性調査の手法と進め方、発話記録の分析は半構造化インタビューの分析方法を参考にしてください。
KJ法のメリット|少数意見の保持と、分類によらない関係の発見
少数意見の保持|1枚だけのラベルも図に残る仕組み
口頭の会議では、声の大きい人や役職者の意見に引きずられ、1人しか気づいていない事実は発言されないまま終わりがちです。KJ法は全員が書いた1枚を同じ紙面に並べるところから始まるため、1枚しかないラベルも図のどこかに位置を持ちます。一匹狼として残ったラベルは捨てずに単独の島として図に置き、叙述化のときに、ほかの島とどうつながるかを必ず検討してください。
部署横断の関係の発見|既存の分類軸に縛られない束ね方
組織図や業務フローの区分だけで情報を仕分けると、区分をまたぐ問題や、どの区分にも属さない隙間を見落としやすくなります。表札づくりは「この束は何を言っているか」を問うため、部署をまたいだ関係や、誰も担当していない隙間に気づくきっかけになります。先ほどの例で「手順書の更新停止」と「重複返信」が1本の矢印でつながったのがその例です。
既存記録の活用|問い合わせ履歴・発話記録・観察メモのラベル化
KJ法の入力は、会議で出した案に限りません。問い合わせ履歴、インタビューの発話記録、現場の観察メモなど、既にある事実の集まりをラベルにできます。野外調査のデータ整理から生まれた手法なので、全員の頭からアイデアを出し直さなくて済みます。
KJ法のデメリット|時間と、分類作業に変わってしまう失敗
所要時間の読みにくさ|ラベル数と習熟度による変動
ラベルの枚数と参加者の慣れによって所要時間が大きく変わるため、事前に「2時間で終わる」と見積もりにくい手法です。表札づくりで意見が割れればそこで止まります。会議枠を固定して押し込むと、図解化の途中で時間切れになり、叙述化に届かないことがあります。初回は工程を2回の会合に分け、1回目をグループ編成まで、2回目を図解化と叙述化にすると破綻しにくくなります。
グループ編成の失敗|既知のカテゴリへの当てはめ
参加者が知っているカテゴリに付箋を仕分け始めると、作業は速く進みますが、結論は最初から全員が知っていた内容になりがちです。終わったあとに、各束の表札が1文で書けているか、名詞1語の見出しが並んでいないかを振り返ると、この失敗に気づけます。U-Siteの黒須正明氏は、川喜田氏の「理性で考えるのではなく情念で考える」「自然に集まってきた、という感じが大切」という言葉を引き、ここで理性的・論理的にまとめると分類作業になってしまうと指摘しています。
入力データの偏り|参加者の構成と取材範囲の影響
同じ部署の同質なメンバーだけで行うと、ラベルの中身が偏り、丁寧に束ねても偏った構造になりやすくなります。テーマに関わる複数の立場から参加者を集めるか、顧客の声や現場の記録など、参加者の外から来たデータを混ぜてください。
KJ法を使うかどうかは、状況で次のように切り分けると迷いません。
| 状況 | KJ法 | 代わりの選択肢 |
|---|---|---|
| 事実が大量にあり論点が未整理 | 向く | - |
| 部署をまたぐ因果を見たい | 向く | - |
| 選択肢が出そろい順位だけ決めたい | 向かない | 採点・投票 |
| 論点の抜け漏れを潰したい | 向かない | MECE・ロジックツリー |
| 専門家の見解を匿名で集めたい | 向かない | デルファイ法 |
| 図解と文章化まで通す時間が取れない | 向かない | 論点を絞った議論 |
抜け漏れの確認が目的ならMECEの考え方が、専門家の見解を匿名で集めたいならデルファイ法が向いています。
KJ法とブレインストーミングの違い|発散と収束の分担
2つは対立する手法ではなく、担当する局面が違います。ブレインストーミングは判断を保留して案の量を出す発散の技法、KJ法は出そろった断片を束ねて構造を作る収束の技法です。どちらも付箋を使う場面が多いため混同されますが、U-Siteによれば川喜田氏自身も、まずブレインストーミングで情報やアイデアを集め、それをKJ法で構造化する流れを勧めていました。
| 観点 | ブレインストーミング | KJ法 |
|---|---|---|
| 局面 | 発散 | 収束 |
| 目的 | 案の量を出す | 構造と結論を出す |
| 判断 | その場では保留 | 関係を判断するのが作業 |
| 成果物 | 案のリスト | A型図解とB型の文章 |
| 入力 | 参加者の発想 | 事実・発言・案の断片 |
| 進行役の役割 | 批判を止める | 表札の粒度を見張る |
使い分けの基準は作業の目的です。出た案の中から優先順位を決めるだけなら、採点や投票で足り、KJ法の4ステップを回す手間に見合いません。案や事実の関係から新しい仮説を出したいときにKJ法を使います。手元に記録があるならブレストを飛ばしてKJ法から始められるのは、メリットの章で書いたとおりです。4原則や進め方はブレインストーミングの4原則とやり方で詳しく扱っています。
KJ法と親和図法の違い|新QC七つ道具に入ったのはA型だけ
品質管理の教科書には、KJ法とよく似た「親和図法」が出てきます。U-Siteに掲載された黒須正明氏の解説は、その経緯を「1977年に日科技連のQC手法開発部会(部会長、納谷嘉信)が、KJ法のうちA型を多少修正し、親和図法(Affinity Diagram Method)としてTQC(1996年からTQMと呼ばれている)のための新QC七つ道具のなかに組み込んだ」と説明し、続けて「カードに書かれた断片的情報を文章の形に整理するB型の方ではない」と書いています。別の名前にした理由として、黒須氏は「KJ法」が川喜田研究所の商標であることと、TQCが品質の問題点の発見と整理に焦点を置いていたことを挙げています。日科技連自身もFAQで、親和図法はKJ法を起源とする手法だと説明しています。
| 観点 | KJ法 | 親和図法 |
|---|---|---|
| 範囲 | A型図解とB型叙述化 | A型を修正した図解のみ |
| 主な分野 | 発想・研究・問題解決 | 品質管理(新QC七つ道具) |
| 主なねらい(黒須氏の整理) | 仮説の発想(アブダクション) | 情報の集約(Holtzblatt氏らは帰納と説明) |
| 図の形 | 束を輪で囲み空間に配置 | 見出しの下に並べる木構造が多い |
| 海外での呼び名 | KJ method | Affinity Diagram |
ねらいと図の形の違いは、黒須氏の続編の解説によります。KJ法はもともと仮説そのものを発想するための手法で、グループ編成を「自然に集まってきた」感覚で進めます。一方、親和図法を欧米のUX分野に広めたHoltzblatt氏らは、親和図を帰納法で構築されるものと説明し、グループの見出しの下にカードを並べる整然とした木構造にすることが多いとされます。英語圏で「Affinity Diagram」の名が定着したのは、日科技連などを通じて新QC七つ道具として紹介されたためです。
どちらも、何が問題かはっきりしない状況で言語データを整理する点は共通です。日科技連のFAQも、親和図法を未知・未経験の分野や将来の問題で使う方法と説明しています。違いが出るのは出口で、新QC七つ道具の流れに沿って連関図法や系統図法へ渡すなら親和図法、図解に加えて叙述と解釈を分けた文章まで仕上げたいならKJ法を選びます。新QC七つ道具を含む品質管理の全体像はTQMとTQCの違い、職場での小集団活動はQCサークル活動の進め方にまとめています。
「KJ法は古い」と言われる理由と、オンライン・生成AIでの使い方
原典の改版と研修の現状|1967年以降も続く手法
1967年に体系化された手法なので、年数だけを見れば古い手法です。ただ、「付箋を貼って分類して終わり」という運用を見てKJ法を評価しているなら、それは叙述化を省いた別物で、この記事の4ステップとは違います。原典の『発想法』は2017年に改版され、川喜田研究所は2026年10月時点でも、個人向けの「個人KJ法体験コース」「取材力養成コース」と、グループ向けの研修・KJ法入門セミナーを案内しています。
Miro・FigJamのAI自動グループ化|表札づくりとの役割分担
デジタルホワイトボードは、付箋の自動グループ化機能を標準で備えるようになりました。MiroのAI機能は、付箋を選んで「Cluster」を選ぶとキーワード別(By keywords)か感情別(By sentiment)に束ねます(Free・Starter・Business・Enterprise・Educationの各プランで利用可能)。FigJam AIは有料プランで、付箋を「Topic」「Color」「Author」などで並べ替えます。
結論として、この自動グループ化をKJ法のグループ編成と表札づくりの代わりに使うのは避けるべきです。キーワードや感情の近さで束ねた結果を受け取るだけでは、「この2枚はなぜ親しいと感じたのか」を参加者が言葉にする工程が抜けます。この言語化の過程で、本人も自覚していなかった現場の文脈が出てきます。川喜田研究所も、ラベル集めは「既成のカテゴリーによって〈分類〉することなく」行うよう求めています。FigJamのヘルプ自身も、この機能は整理と要約という大きな作業の一段階として使うべきで、仕上げには人の手が要ると注意しています。AIの束は、人が組んだ束と見比べて見落としを探す材料にとどめるのが妥当です。
一方で、AIに手伝わせやすい工程もあります。インタビューの文字起こしや自由記述回答から、1枚1項目のラベル候補を切り出す作業です。ただしラベル化も意味の区切りを選ぶ作業なので、候補は必ず元の発言と照らし、文脈が落ちていないかを人が確かめてから使ってください。Miroには付箋の写真を編集できる付箋に変える「Sticky Capture」もあり、対面で作った盤面の記録に使えます。オンラインで行う場合は、表札を付けた段階で全員の画面を全体表示にそろえ、束の数と表札を読み上げてください。各自が別の領域を見たまま進むと、全体像の認識がずれます。
よくある質問
KA法とKJ法の違いは何ですか?
どちらも考案者のイニシャルを冠した手法ですが、カードに書く内容が違います。KA法は、紀文食品のチーフ・マーケティング・アドバイザーだった浅田和実氏が2006年に開発・公開した手法です。日本デザイン学会の研究発表によれば、定性調査のデータから特徴的な出来事を取り出し、出来事ごとに含まれる利用者の価値を「KAカード」で解釈して導き出します。2016年の発表時点では、千葉工業大学の安藤昌也教授がUXデザイン向けにアレンジした形が一般的とされていました。KJ法のラベルも要点を短く書く段階で判断は入りますが、価値の導出をカードに組み込むことはせず、束ねる過程と表札づくりで意味を引き出します。利用者の価値観を掘り下げたいならKA法、雑多な事実から全体の構造を出したいならKJ法が向いています。
KJ法は一人でもできますか?
できます。レポートやゼミの文献整理、個人の企画づくりでも4ステップはそのまま成り立ちます。ただし一人だと、ラベルの中身が自分の視野に限られ、結果も自分が持っている枠組みに収まりがちです。文献の記述、インタビューの記録、他人の発言メモなど、自分の外から来たデータを混ぜてください。川喜田研究所も「個人KJ法」と「グループKJ法」を分けて講座を設けています。
看護の実習や看護研究では、KJ法をどう使いますか?
主に2つの場面で使われます。1つは実習後のカンファレンスで、学生それぞれの気づきをラベルにして個別の体験を全体の学びへ束ねる使い方、もう1つは看護研究で、自由記述アンケートや面接記録を構造化する使い方です。論文によってはグループ編成と図解化までを援用している例もあるので、参考にする論文がどの工程までをKJ法と呼んでいるかを確認してください。
「KJ法」は商標ですが、社内で使ってよいのですか?
「KJ法」は株式会社川喜田研究所の登録商標(商標登録第4867036号)です。商標権の効力は、登録した指定商品・指定役務と、それに類似する範囲に及ぶもので、社内でこの手法を実践し、資料で手順を説明すること自体が直ちに問題になるわけではありません。判断が分かれるのは、研修やコンサルティングを「KJ法」の名称を掲げて外部に提供する場合です。その予定があるなら、川喜田研究所への事前確認か、弁理士への相談をおすすめします。
KJ法とMECEやロジックツリーは、どう使い分けますか?
出発点が逆です。MECEやロジックツリーは全体を上位概念から分解するトップダウンの整理、KJ法は手元の断片から枠組みを立ち上げるボトムアップの手法です。何が論点かまだ分からない段階ではKJ法、論点が決まっていて漏れなく詰めたい段階ではロジックツリーを使います。KJ法の叙述化で出た結論を、ロジックツリーの作り方で打ち手に分解する流れは相性のよい組み合わせです。