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デルファイ法とは?名前の由来と手順、合意の判定基準・ワイドバンドデルファイまで解説

デルファイ法とは?名前の由来と手順、合意の判定基準・ワイドバンドデルファイまで解説

デルファイ法は、複数の専門家に匿名でアンケートを繰り返し、前回の集計結果を全員に返しながら意見を収束させる予測・合意形成の手法です。実施する際には、匿名で繰り返し尋ねるだけでなく、質問紙と合意の判定基準を設計する必要があります。質問紙をどう作るか、何ラウンドで止めるか、どの数値をもって合意とみなすか。この記事では定義と名前の由来を押さえたうえで、メリットとデメリット、合意の判定基準を一次資料の数値で示し、ソフトウェア開発のワイドバンドデルファイと修正デルファイ法、ITパスポート・応用情報技術者試験の出題までをまとめます。

まとめ:デルファイ法の要点と判断の分かれ目

  • 古典的なデルファイ法の特徴は、匿名性・回答の反復・前回結果のフィードバック・集団回答の統計的な集約の四つです。集計結果を返して再評定させる工程が無ければ、匿名でも単発のアンケートにとどまります。
  • 名前は古代ギリシャで未来を告げる神託が下されたデルフォイに由来します。1950年代のランド研究所で、専門家の予測を扱う一連の実験が社内で「Project Delphi」と呼ばれていました。
  • デルファイ群の判断は、意見を単純平均しただけの集団に比べて、比較した16件の研究のうち12件で精度が上でした(Rowe & Wright 1999)。一方、数か月の期間と脱落への備えが要ります。
  • 合意の判定基準に世界共通の定義はありません。デルファイ研究100件を調べたDiamondらの2014年のレビューでは、最も多い定義が一致率で、割合に基づく定義で明記された閾値の中央値は75%でした。閾値と打ち切り条件は着手前に決めておきます。
  • ソフトウェアの工数見積りでは、参加者どうしの議論を増やしたワイドバンドデルファイが使われます。アジャイル開発のプランニングポーカーはその変種です。
  • 修正デルファイ法には、第1ラウンドの自由回答を既存文献から作った項目リストの評定に置き換える方式や、評定の間に討議を加える方式があります。

デルファイ法の定義とデルフォイの神託に由来する名称

匿名性・反復・統計的フィードバックという三条件

デルファイ法の定義は「専門家パネルに同一テーマの質問紙を複数回配り、各回の集計結果を匿名のまま参加者に戻して回答を修正させ、意見の分布を収束させる手法」です。大規模なデルファイ調査を続ける科学技術・学術政策研究所(NISTEP)は、第12回科学技術予測調査の公表ページで「集計結果を提示した上で同一回答者に同一質問を繰り返して再考を求めることにより、集団の意見収れんを促す手法」と注記しています。

ランド研究所のデルファイ・パネルの実施と評価に関する手引きは、本来の設計の特徴として匿名性・反復・参加者へのフィードバック・統計的な集約の四つを挙げ、研究の種類によって守る度合いが変わるとしています。ここでは中核の三つを見ます。一つ目の匿名性は、誰がどの回答をしたかを参加者どうしに知らせないことです。対面の会議では役職や声の大きさが結論を引っ張りますが、匿名にすることで、誰の意見かに左右される影響を抑えられます。二つ目の反復は、同じ質問を複数ラウンドにわたって繰り返すことです。三つ目の統計的フィードバックは、前ラウンドの回答分布(中央値や四分位範囲、少数意見の理由)を次の質問紙に添えて返すことを指し、分布を中央値などの統計量にまとめる集約と一体で働きます。「もう一度答えてください」と依頼するだけではフィードバックになりません。

匿名の単発アンケートや、集計結果を返して再評定する仕組みのない連続会議は、古典的なデルファイ法とは区別します。ただし、対面討議を組み込む修正デルファイ法や、合意を求めず意見の幅を引き出すこと自体が目的の変種(ポリシーデルファイなど)もあります。

名前の由来とランド研究所での開発経緯

「デルファイ」は、古代ギリシャでアポロンの神託が下された聖地デルフォイ(Delphi)の英語読みです。神託は将来を告げるものとして知られていました。手法が生まれたのは1950年代の米国ランド研究所(RAND Corporation)で、専門家の判断を見積りや意思決定に使う一連の実験が、社内で「Project Delphi」と呼ばれていました。このことはランド研究所の研究覚書RM-727/1の書誌に記されています。

つまり「専門家に繰り返し聞く」という手順から付いた名前ではありません。「将来を言い当てる」という目的を神託になぞらえた名前です。ITパスポートの学習で「なぜこの名前なのか」が腑に落ちないのは、手順と名前の間に直接の意味のつながりがないためです。日本語表記が「デルファイ」「デルフォイ」で揺れるのも、地名の読み方の違いによります。

方法論を公表した原典は、Norman DalkeyとOlaf Helmerの「An Experimental Application of the Delphi Method to the Use of Experts」(Management Science 第9巻3号 458-467ページ、1963年)です。統制された意見のフィードバックを挟みながら質問紙を繰り返す実験を報告しており、上記のRM-727/1(1962年)は、それ以前の実験報告を短縮・改訂して公開した研究覚書です。Diamondらのレビューは、この技法が当初、冷戦期の敵の攻撃を予測するために開発されたと記しています。1964年にはGordonとHelmerが、科学上の飛躍・人口増加・自動化・宇宙開発・戦争の確率と防止・将来の兵器システムの6分野について長期予測を行いました(RAND P-2982)。軍事から科学技術全般の予測へ用途が広がった初期の代表例です。

デルファイ法のメリット・デメリットと採用すべきでない場面

匿名の反復が生むメリットと精度の実証

メリットは、対面の議論で起きる偏りを避けながら、離れた場所にいる多数の専門家の判断を同じ重みで集められることです。役職の高い人や発言の多い人に結論が引っ張られる、周囲に合わせて意見を変える、といった集団の力学が匿名性で抑えられます。会議を開かないので、所属や居住地が分散したパネルでも組めます。各ラウンドで他者の分布と理由を見たうえで自分の判断を直せるため、最初の思い込みを修正する機会も設計に入っています。

精度については実証研究があります。RoweとWrightは1999年、デルファイ法を他の方法と比べた研究をレビューしました(International Journal of Forecasting 第15巻4号、DOI: 10.1016/S0169-2070(99)00018-7)。個人の回答を単純に集計しただけの集団(statistical groups)との比較では、デルファイ群が上回った研究が12件、下回った研究が2件、同等が2件でした。通常の対面討議を行う集団との比較では、上回った研究が5件、下回った研究が1件、同等が2件です。「専門家を集めて会議をするより、匿名で反復したほうが判断の精度は上がりやすい」というのが、この時点での実証の到達点です。

時間・脱落・専門家選定にかかるデメリット

デメリットの第一は時間です。3ラウンドの調査では、質問紙の作成、回答期間、集約、フィードバック作成を各ラウンドで回します。所要期間は運用方法で大きく変わります。ランド研究所のオンライン方式ExpertLensは、データ収集と分析を通常4週間以内に終えられるとしています。一方、メールや手作業の集計で回すと、ラウンドごとに回答期間と集計期間が積み上がり、数か月かかることもあります。

第二はラウンドごとの脱落です。回答者が減れば、最終ラウンドの合意は「最後まで残った人だけの合意」になります。第三は、結果がパネルの顔ぶれで決まることです。誰を専門家として選ぶかの基準が曖昧だと、結論も同じだけ曖昧になります。第四は、収束そのものが同調の圧力になりうることです。分布の中央値を見せられると、根拠のない少数派が中央に寄るだけでも「合意」が作れてしまいます。少数意見の理由を必ず添えて返すのは、この圧力を和らげるためです。

デルファイ法の採用を避ける条件

適用を外すべき条件のほうが、実務では役に立ちます。第一に、答えが実測やデータで確定できるテーマです。販売実績が十分にあり、将来にも当てはまる関係を検証できるなら、まず時系列モデルや回帰分析の予測誤差を評価します(データを使う予測の進め方は需要予測とは?AI・機械学習による手法とシステム導入の進め方を解説で扱っています)。

第二に、質問紙の準備、回答、フィードバック、再評定に必要な時間を確保できない意思決定です。締切に合わせてラウンドを1回に削れば、それは匿名アンケートであってデルファイ法ではありません。手法名だけを借りて結論に権威を持たせるのは避けるべきです。第三に、意見を変えることが立場の放棄を意味するほど参加者の利害が対立している場合です。分布を見せても回答は動きません。必要なのは合意形成の手法ではなく、対立点を明示したうえでの交渉の枠組みです。

反対に、データが不足する領域、既存の証拠だけでは判断が定まらない問題、専門家間の一致・不一致そのものを調べたい場面で、反復調査の期間を確保でき、参加者が判断を再検討できるなら、デルファイ法が選択肢になります。長期の技術予測や、エビデンスの乏しい領域の診療手順の標準化が典型です。ただし、他の構造化された集団手法より常に優れるとは言えません。

デルファイ法の実施手順とラウンド設計の判断基準

第1ラウンドから最終ラウンドまでの工程例

以下は自由回答から始める場合の工程例です。後述するACCORDのように、項目リストの評定から始め、2ラウンド続けて閾値を満たしたかで合意の安定性を確かめる設計もあります。

  1. 目的と問いの確定。何について合意すればゴールなのかを一文で書けるまで絞る
  2. 専門家パネルの選定と参加依頼。専門分野・所属・立場が偏らないよう構成する
  3. 第1ラウンド。自由回答形式で論点そのものを出してもらう
  4. 集約。回答を項目に整理し、重複を統合して評定できる形にする
  5. 第2ラウンド。自由回答から整理した項目を尺度で評定してもらう。その評定分布を集計し、第3ラウンドの再評定時に返す
  6. 第3ラウンド以降。前回の評定分布と理由を返して再評定する。合意済み項目を除くか、合意の安定性を確かめるため再評定するかは事前に決める
  7. 結果の分析と報告。合意した項目、合意しなかった項目、その理由を分けて記述する

手間がかかりやすいのは4番の集約です。第1ラウンドの自由記述は表現も粒度もばらばらで、評定できる項目リストに整理するため、類似回答の統合と項目の意味の確認が必要になります。ここを短縮するのが後述の修正デルファイ法です。

質問紙の設計:評定尺度・理由欄・事前テスト

第2ラウンド以降の質問紙は、順位づけより評定(各項目に点数をつける形式)で作るのが基本です。評定の結果からは順位を作れますが、順位の結果から各項目の評価の高さは復元できないためです。医療分野では、ランド研究所とカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)が整備したRAND/UCLA適切性評価法の1〜9点尺度がよく使われます。同法のユーザーマニュアル(MR-1269、2001年)では、9は便益が害を大きく上回る、1は害が便益を大きく上回ることを表します。5段階・7段階を含む尺度の段階数の選び方はリッカート尺度とは?アンケート5段階評価の選択肢例と4・7段階の選び方、集計方法で比較しています。

各項目には、点数と並べて「その点数をつけた理由」を書く欄を設けます。この欄を設けると、次ラウンドで返す少数意見の理由を評定と併せて収集できます。1つの設問に2つの論点を入れると、評定の意味が読めなくなります(典型例と直し方はダブルバーレル質問(二重質問)とは?例文と直し方、多重質問・誘導質問との違いを参照)。前の設問が後の回答を誘導しないよう並び順にも注意します。この誘導の仕組みはキャリーオーバー効果とは?アンケートの質問順序が回答を歪める仕組みと具体例・対策で解説しています。本番の前にパネル外の数名で回答してもらい、所要時間と意味の取りにくい設問を洗い出しておくと、第1ラウンドでの脱落を減らせます。

パネル人数の決め方と回答率低下への備え

パネルの人数に定説はありません。10名台の小規模な研究から数千名規模の国家調査まで幅があり、決め手は何について合意したいかです。特定の診療領域の手順を決めるなら専門性の高い十数名から数十名、社会全体の予測なら分野横断で数百名以上と、問いの広さが必要人数を決めます。

人数以上に効くのが、ラウンドを重ねるたびに参加者が抜ける脱落です。後述するACCORDの開発では、参加に同意した72名に対して各ラウンドの回答者が58名、54名、51名と減っていました。この程度の減少は珍しくないため、必要人数は最終ラウンドの残存数から逆算します。回答率の考え方と上げ方は回収率とは?アンケート調査での計算方法・目安・上げ方を解説にまとめています。各ラウンドの配信・督促・集計を手作業で回すと負荷が大きいため、回答の追跡を仕組みに寄せる場合はアンケートシステムとは?機能・料金相場と選び方、Excel集計から切り替える判断基準を解説が参考になります。

合意をどの数値で判定するかの基準

一致率・四分位範囲・ケンドールのW・中央値の使い分け

デルファイ法の最大の弱点は、「合意した」と言える条件が手法の定義に含まれていない点です。実務では次の指標のいずれかを事前に選び、閾値を決めておきます。

指標 測るもの 閾値の例 向く場面
一致率 賛成回答の割合 75%以上 項目の採否
四分位範囲(IQR) 回答分布のばらつき 9点尺度で3未満 重要度の評定
ケンドールの一致係数W 順位づけの一致度 0.7以上 優先順位づけ
中央値+不一致の有無 9点評定の位置と割れ 中央値7〜9・不一致なし 適切性の判定

一致率は「7段階尺度の6以上を選んだ人が全体の何%か」のように定義します。75%は後述するDiamondらのレビューで、割合に基づく定義の閾値の中央値でした(範囲は50〜97%)。四分位範囲は回答の第1四分位と第3四分位の差で、値が小さいほど意見がまとまっています。同じレビューには「9点尺度でIQRが3未満」を基準にした研究が含まれています。IQRの閾値は尺度の段階数で意味が変わるため、段階数とあわせて決めます。ケンドールの一致係数Wは、複数の回答者がつけた順位の揃い具合を0から1で表す統計量です。Schmidtが1997年に示した目安では、0.1で非常に弱い一致、0.3で弱い一致、0.5で中程度、0.7で高い一致、0.9で極めて高い一致とされます。

表の最下段はRAND/UCLA適切性評価法の基準です。パネルの評点の中央値が7〜9で不一致がなければ「適切」、1〜3で不一致がなければ「不適切」、中央値が4〜6か、中央値にかかわらず不一致があれば「不確実」と分類します。9名のパネルでは、1〜3点をつけた人と7〜9点をつけた人がそれぞれ3名以上いる状態を不一致とします。中央値だけを見ると両極に割れた分布も「中程度」に見えてしまうため、割れを別に判定する設計になっています。いずれの数値も慣行であって規格ではないので、その指標と閾値を選んだ理由を報告書に書けることが条件です。

閾値と打ち切り条件を事前に決める必要性

ここが実務上の分かれ目です。Diamondらは2014年、Web of ScienceとScopusから無作為抽出した英語のデルファイ研究100件(2000年から2009年の発表分)をレビューし、合意がどう運用されているかを調べました(Journal of Clinical Epidemiology 第67巻4号 401-409ページ、DOI: 10.1016/j.jclinepi.2013.12.002)。結果は次のとおりです。

  • 98件が合意を評価すると称していたが、合意の定義を示していたのは72件(うち事前定義が64件)
  • 最も多い定義は一致率で25件。割合に基づく定義のうち、閾値が明記されたものの中央値は75%
  • 86件が「合意に達した」と結論づけたが、そのうち事前に閾値を決めていたのは42件
  • 合意の達成が調査終了の判断に結び付いていたのは23件だけで、70件は既定のラウンド数に達したところで終了していた

合意に達したと結論づけた86件の半数以上で、閾値が事前に示されていません。この状態では、読み手は合意の判定が結果を見る前に決まっていたかを確かめられません。採用するなら、着手前に「どの指標で、いくつを閾値とし、閾値に達しない項目が残ったら何ラウンドで打ち切るか」を書面にしておきます。事前に決めた閾値に届かなかった項目を「合意に至らなかった項目」として報告するほうが、後付けの閾値で全項目を合意扱いにするより結果の価値は高くなります。

ワイドバンドデルファイによるソフトウェア開発の工数見積り

Boehmらが広帯域と名付けた理由と六つの工程

ソフトウェア開発でデルファイ法が使われるのは、将来予測ではなく工数見積りの場面です。この用途向けの変種がワイドバンドデルファイ(Wideband Delphi、広帯域デルファイ法・広域デルファイ法とも訳されます)で、Barry BoehmとJohn A. Farquharが1970年代に考案し、Boehmの著書『Software Engineering Economics』(1981年)で広まりました。

「wideband(広帯域)」の名前は、元のデルファイ法に比べて参加者どうしのやり取りの量が大きく増えることに由来します。元のデルファイ法が匿名性を守るために対面の議論を排除するのに対し、ワイドバンドデルファイは匿名の見積り提出と、全員が顔を合わせる議論を交互に挟みます。ソフトウェアの見積りでは、見積り値そのものより「なぜその値になったか」の前提のずれを潰すことが精度に効くため、議論を戻した設計です。ソフトウェアテストの国際資格団体ISTQBの用語集も、ワイドバンドデルファイを「チームメンバーの集合知を用いて正確な見積りを目指す、専門家ベースのテスト見積り技法」と定義しています(定義文は英語で提供されています)。

Boehmが示した工程は次の6段階です。

  1. まとめ役が見積り担当者に仕様書と見積りフォームを配布する
  2. まとめ役が会議を開き、見積り上の論点を全員で議論する
  3. 各担当者が匿名でフォームに記入する
  4. まとめ役が見積りの要約を作成し配布する
  5. まとめ役が会議を開き、見積り値のばらつきが大きい箇所に絞って議論する
  6. 各担当者が匿名で再提出する。必要に応じて4から6を繰り返す

重要なのは5番です。全項目を均等に議論せず、担当者間で値が大きく割れた項目だけを議論します。値が割れているのは、仕様の解釈か作業範囲の前提が食い違っているからで、そこを潰すのが見積り会議の目的です。

プランニングポーカーとの関係と使い分けの基準

アジャイル開発で使われるプランニングポーカーは、ワイドバンドデルファイの変種です(ISTQBの用語集も「It is a variation of the Wideband Delphi method」と明記しています)。James Grenningが2002年に定義・命名し、Mike Cohnの『Agile Estimating and Planning』を通じて普及しました。全員が同時にカードを出し、値が割れたら理由を議論する構造は、ワイドバンドデルファイの3番から5番を短縮した形に相当します。ただしGrenning本人は考案の経緯を記した文章で、2002年の時点ではデルファイ法を忘れていた(知っていたとしても)と書いています。変種という位置づけは構造の比較によるもので、デルファイ法を下敷きに作られたわけではありません。カードには0, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, 89というフィボナッチ数列が使われるのが一般的で、値が大きいほど刻みを粗くして見積りの不確実性を表します。市販のデッキには0, 1/2, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 20, 40, 100と、上限側をさらに粗く刻むものもあります。

使い分けの基準ははっきりしています。1回のスプリントに収まる粒度のタスクを同じチームが繰り返し見積るなら、プランニングポーカーが速く済みます。契約前の概算見積りのように対象が大きく、参加者の所属も分かれ、見積り根拠を記録に残す必要がある場合は、ワイドバンドデルファイの手順を踏むべきです。フォームと要約が文書として残るため、後から前提のずれを追跡できます。発注前の見積り根拠を第三者の立場で整えたい場合は、要件定義・RFP作成・PMO支援のような外部の支援を入れる方法もあります。見積り手法全体の選び方と根拠の作り方は工数見積もりの指針|手法の選び方と根拠の作り方・妥当性の精査手順、プロジェクト運営の手法選択はプロジェクト管理の手法とは?主要7手法の比較と選び方【2026年版】で比較しています。

修正デルファイ法と他の合意形成手法との違い

修正デルファイ法における第1ラウンドの置き換え

修正デルファイ法(modified Delphi)は、古典的な手順を目的に応じて変更した方式を指します。代表例は、自由回答から始めず既存文献やインタビューから作った項目を評定する方式や、評定の間に討議を加える方式です。項目リスト方式では、参加者は論点を一から挙げるのではなく、用意されたリストを最初から評定します。

効果は二つあります。第1ラウンドで論点を一から記述する負担を減らせること、そして出発点を既存研究に置けるので項目リストの根拠を文献で示せることです。自由記述を項目に整理する工程が省けるぶん、ラウンド数を1回減らせる場合もあります。反面、リストに載っていない論点は参加者から出にくくなり、リストの作り方が結果を左右します。文献レビューの範囲と選定基準を報告書に書けないなら、修正型は採るべきではありません。後述のACCORDも、この修正デルファイで開発されています。

ブレインストーミング・多数決・単発アンケートとの差

手法 目的 匿名性 反復 結論の出し方
デルファイ法 意見の収束 あり 複数ラウンド 事前に決めた合意閾値
ブレインストーミング 案の発散 なし 1回 収束させない
対面会議での討論 意思決定 なし 会議設計による 合意・採決・議長判断など
多数決・投票 選択 記名・無記名を選択 1回 過半数など機械的な規則
単発アンケート 実態・意見の把握 記名・無記名を選択 1回 集計値をそのまま提示

本質的な違いは「反復」の列に出ます。ブレインストーミングも多数決も単発アンケートも、他者の意見を見たうえで自分の回答を直す機会を持ちません。デルファイ法は、他者の回答分布を返したうえで再評定する工程を、調査の設計に組み込んでいる点が特徴です。

国内外の実施例:科学技術予測調査と診療ガイドライン

第12回科学技術予測調査の規模と設計

国内で継続的に行われている大規模なデルファイ調査が、NISTEPの科学技術予測調査です。1971年度から約5年ごとに実施され、第12回のデルファイ調査結果は2025年5月21日に[調査資料-346]として公表されました。今後30年(2055年まで)に実現が期待されるトピック(研究開発課題)836件について、日本にとっての重要度、国際優位性、実現時期、実現に向けて対処すべき点を専門家に尋ねています。回答者は4,761名、対象は健康・医療・生命科学、AI・ICT・アナリティクス・サービスなど8分野です。

この調査は、デルファイ法が数千人規模でも運用できることを示しています。ただし、回を重ねて質問設計とフィードバック方法が標準化されているから成立する規模であり、初回から同じ規模を狙うべきではありません。

診療ガイドライン策定とACCORD 2024の報告基準

医療分野でデルファイ法が多用されるのは、臨床試験のエビデンスが十分でない領域で、専門家の合意によって推奨を定める必要があるためです。2024年1月にPLOS Medicineで公表されたACCORD(ACcurate COnsensus Reporting Document)は、合意形成研究の報告方法を統一するガイドラインで、それ自体が修正デルファイで開発されました。133名を招待して72名が参加に同意し、暫定の56項目を最終的に35項目まで絞り込んでいます。内訳はタイトル1、緒言3、方法21、結果5、考察2、その他3で、方法の項目が突出しています。デルファイ研究の報告で最も欠けやすいのが実施方法の記述だという問題意識の表れです。

ACCORDはデルファイ法やノミナルグループ技法を含む合意形成研究全般に使えますが、社会科学・経済学・マーケティングなど健康分野の外での使用は想定されていません。それでも35項目は、これから合意形成調査を設計する側にとって、決めておくべき項目の一覧として使えます。医療で運用する際は、医師・看護師・薬剤師など職種によって同じ用語の指す範囲が違う点に注意が要ります。第1ラウンドの質問紙で用語を定義しておかないと、ラウンドを重ねても分布が収束しません。

ITパスポート・応用情報技術者試験に出るデルファイ法の定番問題

デルファイ法は情報処理技術者試験の頻出用語で、ITパスポート試験、基本情報技術者試験、応用情報技術者試験で繰り返し出題されています。出題は、正しい説明を選ばせる形と、予測手法の選択肢の一つとして並べる形の二通りです。

応用情報技術者試験 平成29年秋期 午前 問74は「予測手法の一つであるデルファイ法の説明はどれか。」と問い、正解はエ「複数の専門家へのアンケートの繰返しによる回答の収束によって将来を予測する。」でした(IPAの解答表)。判別の手がかりは「複数の専門家」「アンケートの繰返し」「収束」の三語です。

逆の形で出たのが、ITパスポート試験 令和6年度 公開問題の問14です。「ある商品の販売量と気温の関係が一次式で近似できるとき、予測した気温から商品の販売量を推定する手法」を問い、選択肢は回帰分析・線形計画法・デルファイ法・パレート分析で、正解はアの回帰分析でした。回帰分析がデータの関係式から値を推定するのに対し、デルファイ法は専門家の判断に集計結果を返して再検討させ、意見を収束させる手法です。データの関係式から推定する問題では、デルファイ法は誤答の側に置かれます。この一点を押さえれば、どちらの形の問題も選択肢を絞れます。

よくある質問

デルファイ法は何ラウンド実施するのが標準ですか?

定められた回数はなく、実務では2〜3ラウンドが多く使われます。回数を先に決めてもかまいませんが、その場合は「規定回数を終えた時点で閾値に達しなかった項目は合意なしとして報告する」ところまで事前に決めておく必要があります。回数と合意閾値の両方を決めずに始めると、結果を見てから合意の基準を後付けすることになります。

デルファイ法とデルファイ調査、デルファイ分析は違うものですか?

指しているものは同じです。手法そのものを指すときは「デルファイ法」、その手法を用いた個別の調査は「デルファイ調査」(NISTEPの科学技術予測調査など)、集まった回答を統計的に処理する作業に焦点を当てるときは「デルファイ分析」と呼ばれる傾向があります。英語ではDelphi method、Delphi technique、Delphi studyがほぼ同義で使われます。

ワイドバンドデルファイと通常のデルファイ法はどこが違いますか?

用途が違います。通常のデルファイ法は将来予測や政策・医療の合意形成に使われ、ワイドバンドデルファイはソフトウェア開発の工数見積りに特化した変種です。手順の違いは本文のワイドバンドデルファイの章で説明しています。

デルファイ法で合意に至らなかった場合はどうすればよいですか?

意見が割れた理由を回答の理由欄から拾い、「合意なし」の項目として理由ごと報告してください。前提条件の違いなのか、立場の違いなのか、根拠データの不足なのかが分かれば、合意しなかったという結果自体が次の調査設計や意思決定の材料になります。閾値を下げて合意扱いにする対処だけは避けます。

プログラミング言語のDelphiとデルファイ法は関係がありますか?

関係はありません。Delphiは、Embarcadero Technologiesが提供するObject Pascalベースの統合開発環境(IDE)の製品名です。名前が同じ地名に由来するだけで、予測手法のデルファイ法とは別物です。検索するときは「デルファイ法」「Delphi method」と手法名で調べると、開発環境の情報と混ざりません。

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